説明

記録装置

【課題】記録ヘッドに振動が生じたときに、速やかに記録ヘッドの動作を停止させることが可能な記録装置を提供すること。
【解決手段】インクジェットプリンタは、圧電アクチュエータ13を駆動する駆動IC31を有するインクジェットヘッド2と、駆動IC31を制御する制御装置5と、インクジェットヘッド2に設けられ、このインクジェットヘッド2に生じる振動を検出する振動検出センサ11を備えている。さらに、インクジェットヘッド2には、振動検出センサ11によってインクジェットヘッド2の振動が検出されたときに、電源から駆動IC31への電力供給を遮断するスイッチ回路77が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に記録を行う記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な記録装置は、被記録媒体に画像等の記録を行う、記録素子を備えた記録ヘッドを有する。この記録装置において、例えば、電車等の移動体内で使用している場合や地震が発生した場合など、様々な要因によって外部から振動や衝撃が作用したときには、記録ヘッドもその影響を受けて振動する。そして、このような振動が発生している状態で、記録ヘッドの記録動作が行われると、画質が大きく低下してしまう。
【0003】
これに関して、特許文献1には、用紙の幅方向に往復移動(走査)可能な記録ヘッド(プリントヘッド)と、記録ヘッドの記録動作を制御するプリント制御部と、記録ヘッドの振動を検出する振動検出センサを備えたインクジェットプリンタが開示されている。そして、このプリンタは、振動検出センサにより一定以上の大きさの振動が検出されたときには、その検出信号がプリント制御部に出力され、それを受けて、プリント制御部は記録ヘッドの記録動作(画像形成動作)を停止させるように構成されている。このように、記録ヘッドの振動が検出されたときに記録ヘッドの動作を停止させることで、インクや用紙の無駄な消費が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−30221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1のプリンタにおいては、振動検出センサにより記録ヘッドの振動が検出されたときに、このセンサの検出信号が一旦プリント制御部へ出力された後、改めて、プリント制御部から記録ヘッドの動作停止の指令が出力される。そのため、振動が検出されてから記録ヘッドの記録動作が実際に停止するまでにタイムラグが存在する。
【0006】
特に、記録ヘッドが記録動作を行う直前の状態にあるときに振動が生じた場合には、上記タイムラグによって記録停止の指令が間に合わず被記録媒体への記録(インクの吐出)がわずかに行われてしまい、1枚の被記録媒体を無駄に消費することもある。
【0007】
また、記録途中に振動が発生した場合においては、前記タイムラグの間に振動が発生している状態で記録動作が進行してしまうため、停止直前の画質が非常に悪くなる。従って、振動が収まったときに、停止したときの状態から同じ被記録媒体に対して画像の記録を再開し、その被記録媒体への記録を途中でやめることなく最後まで完了した場合に、その記録された画像には一部画質がかなり低い部分が発生することになる。即ち、同じ被記録媒体への記録を中断後に再開しても、画質低下が顕著だと被記録媒体を廃棄せざるを得なくなる可能性は高く、結局は被記録媒体を無駄に使用することになってしまう。
【0008】
本発明の目的は、記録ヘッドに振動が生じたときに、速やかに記録ヘッドの動作を停止させることが可能な記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の記録装置は、被記録媒体に記録を行う記録素子とこの記録素子を駆動する駆動ICを有する記録ヘッドと、前記駆動ICを制御する制御装置と、前記記録ヘッドに設けられ、この記録ヘッドに生じる振動を検出する振動検出手段を備え、前記記録ヘッドに、前記振動検出手段によって前記記録ヘッドの振動が検出されたときに、電源から前記駆動ICへの電力供給を遮断するスイッチが設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
記録ヘッドに大きな振動が生じている状態で被記録媒体への記録を行うと、画質が非常に悪くなり、このような記録を行っても被記録媒体を無駄に使用してしまうだけになる。本発明では、振動検出手段により記録ヘッドの大きな振動が検出されたときには、駆動ICの電力供給が遮断されて記録ヘッドの記録動作が行われなくなるため、被記録媒体が無駄に消費されてしまうことが抑制される。これに加えて、駆動ICへの電力供給を遮断するスイッチが、記録ヘッドに設けられているため、記録ヘッド内で振動検出とこれに応じた記録動作の停止が完結して行われる。従って、振動検出手段の検出信号が、記録ヘッド外に位置する制御装置に出力された後に、改めて制御装置から入力された停止信号によって記録ヘッドの記録動作を停止させる場合と違って、制御装置と記録ヘッドの間での信号の送受信がない分、記録ヘッドを速やかに停止させることができる。また、振動検出手段から制御装置への検出信号の出力、及び、制御装置から記録ヘッドへの停止信号の出力のための信号線が不要であり、コスト面で有利である。
【0011】
第2の発明の記録装置は、前記第1の発明において、前記駆動ICは、この駆動ICの動作温度を検出する温度検出回路を有し、前記温度検出回路は、前記駆動ICの動作温度に対応した、所定の基準電圧よりも高い電圧レベルの温度検出信号を出力し、さらに、前記温度検出信号は、信号線を介して前記駆動ICから前記制御装置へ送信され、前記スイッチにより前記駆動ICへの電力供給が遮断されたときに、前記温度検出信号の電圧レベルがグランドとなることを特徴とするものである。
【0012】
駆動IC内の温度検出回路は、駆動ICが作動している(ONである)限り、駆動ICの温度に対応した、ある電圧レベルの温度検出信号を出力する。しかし、記録ヘッドに振動が生じて、スイッチによって駆動ICへの電力供給が遮断されたときには、駆動ICがOFFになり、温度検出回路の出力信号は実際の動作温度に関係なくグランドレベルとなる。従って、制御装置は、駆動ICから信号線を介して入力される温度検出信号の電圧レベルによって、記録ヘッドの振動の有無、及び、駆動ICの作動状態(ON/OFF)を把握することができる。この構成では、既存の信号線で送信されてくる温度検出信号を利用して、制御装置が記録ヘッドの振動の有無を把握できることから、振動検出手段から制御装置へ検出信号を送信するための専用の信号線を追加する必要がない。
【0013】
第3の発明の記録装置は、前記第1又は第2の発明において、前記記録ヘッドは、前記被記録媒体にインクを噴射する、前記記録素子としての、ノズルを備えたインクジェットヘッドであり、前記インクジェットヘッドに前記ノズルを覆うように装着されるキャップを有し、前記インクジェットヘッドに前記キャップが装着されたときの、前記インクジェットヘッドに生じる振動が前記振動検出手段により検出されたときに、前記スイッチは前記駆動ICへの電力供給を遮断することを特徴とするものである。
【0014】
本発明は記録ヘッドがインクジェットヘッドであり、記録装置がインクジェットヘッドに装着されるキャップを有することを前提とする。インクジェットヘッドにキャップが装着される状態ではノズルからインクを噴射させることはないから、駆動ICをONにしておく必要はない。そこで、振動検出手段によりキャップ装着時のヘッドの振動が検出されたときに、駆動ICへの電力供給がスイッチで遮断されることで、駆動ICの消費電力(待機電力)が抑えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、振動検出手段により記録ヘッドの大きな振動が検出されたときには、駆動ICの電力供給が遮断されて記録ヘッドの記録動作が行われなくなるため、被記録媒体が無駄に消費されてしまうことが抑制される。これに加えて、駆動ICへの電力供給を遮断するスイッチが、記録ヘッドに設けられているため、制御装置を経由して記録ヘッドを停止させる場合と比較して、制御装置と記録ヘッドの間での信号の送受信がない分、記録ヘッドを速やかに停止させることができる。また、振動検出手段から制御装置への検出信号の出力、及び、制御装置から記録ヘッドへの停止信号の出力のための信号線が不要であり、コスト面で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態のインクジェットプリンタ1の概略側面図である。
【図2】図1のインクジェットプリンタの平面図である。
【図3】インクジェットプリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図4】ヘッド本体の平面図である。
【図5】(a)は図3のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図6】インクジェットヘッドの電気的構成、及び、制御装置との電気的な接続構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態のインクジェットプリンタ1の概略側面図、図2は、図1のインクジェットプリンタ1の平面図である。また、図3はインクジェットプリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。尚、図2においては、図1に示されているローラ40,41,42等の図示は省略されている。
【0018】
図1〜図3に示すように、本実施形態のインクジェットプリンタ1(記録装置)は、4つの固定ライン型のインクジェットヘッド2a〜2d(記録ヘッド)と、インクジェットヘッド2の下側に位置する用紙搬送経路8(図1、図2に二点鎖線で示す)に沿って記録用紙Pを搬送する用紙搬送機構3と、インクジェットヘッド2の液滴噴射性能の回復及び維持を行うメンテナンスユニット4と、プリンタ1の全体制御を司る制御装置5を備えている。
【0019】
まず、インクジェットヘッド2について説明する。固定ライン型のインクジェットヘッド2は、用紙搬送経路8と対向するヘッド本体10を備えている。このヘッド本体10の下面(用紙搬送経路8との対向する面)には、記録用紙Pの搬送方向と直交する用紙幅方向(主走査方向:図1の紙面垂直方向、図2の左右方向)に沿って多数のノズルが配列されている。また、4つのインクジェットヘッド2a〜2dは、それぞれ、イエロー、マゼンタ、シアン、及び、ブラックの4色のインクをノズル14から噴射するように構成されており、図1、図2のように、4つのインクジェットヘッド2a〜2dは、搬送方向(副走査方向)に並べて配置されている。また、インクジェットヘッド2には、このヘッド2に生じた振動を検出する振動検出センサ11(振動検出手段)が設けられている。振動検出センサ11としては、加速度センサや角度センサといった公知のセンサを使用できる。尚、振動検出センサ11が設けられている理由については後ほど説明する。
【0020】
図4はヘッド本体10の平面図、図5(a)は図3のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。図4、図5に示すように、各インクジェットヘッド2のヘッド本体10は、ノズル14を含むインク流路が形成された流路ユニット12と、流路ユニット12の上面に配置された圧電アクチュエータ13とを備えている。
【0021】
流路ユニット12は、4枚のプレートが積層された構造を有し、搬送方向に沿って千鳥状に2列に配列された複数のノズル14と、複数のノズル14にそれぞれ連通する複数の圧力室15と、複数の圧力室15に共通に連通したマニホールド16を含む、インク流路が形成されている。複数のノズル14は流路ユニット12の下面において開口する一方で、これら複数のノズル14に連通する複数の圧力室15は流路ユニット12の上面において開口し、複数の圧力室15が圧電アクチュエータ13によって塞がれた構成となっている。マニホールド16は、流路ユニット12の上面に開口したインク供給口17に接続され、図示しないインクタンクからインク供給口17に供給されたインクがマニホールド16に流入するようになっている。そして、図5(b)に示すように、流路ユニット12には、マニホールド16から圧力室15を経てノズル14に至る個別インク流路18が複数形成されている。
【0022】
圧電アクチュエータ13は、複数の圧力室15を覆うように流路ユニット12の上面に配置された振動板20と、振動板20の上面に積層された圧電層21と、圧電層21の上面に配置された複数の個別電極22とを備えている。
【0023】
振動板20は金属材料で形成され、流路ユニット12の上面に複数の圧力室15を覆うように配設された状態で、流路ユニット12に接合されている。また、導電性を有する振動板20の上面は、圧電層21の下面側に配置されることによって、上面の複数の個別電極22との間で圧電層21に厚み方向の電界を生じさせる、共通電極を兼ねている。この共通電極としての振動板20は、後述する駆動IC31のグランド配線に接続されて、常にグランド電位に保持される。
【0024】
圧電層21は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料からなり、平板状に形成されている。図4、図5(b)に示すように、この圧電層21は、振動板20の上面において、複数の圧力室15に跨って連続的に形成されている。
【0025】
圧電層21の上面の、複数の圧力室15と対向する領域には、複数の個別電極22がそれぞれ配置されている。また、複数の個別電極22の端部からは複数の接点部23がそれぞれ引き出されている。尚、複数の個別電極22と共通電極としての振動板20とに挟まれた、複数の圧電層部分(活性部26:図5(b)参照))は、予め、その厚み方向に分極されている。
【0026】
図4、図5(b)に示すように、圧電アクチュエータ13の複数の接点部23が配置された上面を覆うように、圧電アクチュエータ13を駆動する駆動IC31が実装されたCOF(Chip On Film)30が配置されており、複数の接点部23はCOF30の裏面に設けられた接点部32と接続される。そして、COF30に形成された図示しない配線を介して、駆動IC31と複数の個別電極22、及び、共通電極としての振動板20が電気的に接続される。また、COF30は、さらに、プリンタ1の制御装置5と接続される。そして、駆動IC31は、制御装置5からの指令を受けて、複数の個別電極22のそれぞれに対して駆動パルス信号を供給し、活性部26に所定の駆動電圧を印加する。
【0027】
次に、駆動パルス信号が供給されたときの、圧電アクチュエータ13の動作について説明する。ある個別電極22に対して、駆動IC31から駆動パルス信号が供給されると、個別電極22とグランド電位に保持されている共通電極としての振動板20との間に挟まれた、活性部26に所定の駆動電圧が印加され、これによって活性部26に厚み方向の電界が作用する。この電界の方向は活性部26の分極方向と平行であるから、活性部26が厚み方向と直交する面方向に収縮する。ここで、圧電層21の下側の振動板20は流路ユニット12の上面に固定されているため、この振動板20の上面に位置する圧電層21が面方向に収縮するのに伴って、振動板20の圧力室15を覆う部分が圧力室15側に凸となるように変形する(ユニモルフ変形)。このとき、圧力室15内の容積が減少するために圧力室15内のインク圧力が上昇し、この圧力室15に連通するノズル14からインクが噴射される。
【0028】
尚、本実施形態においては、ノズル14と、このノズル14からインクの液滴を噴射させる圧電アクチュエータ13の1つの活性部26が、本願発明における記録素子に相当する。
【0029】
図1に戻って、用紙搬送機構3は、ピックアップローラ40と、給紙ローラ41と、排紙ローラ42と、これらのローラ40,41,42をそれぞれ駆動する駆動モータ46,47,48(図3参照)を備えており、給紙トレイ43から取り出した記録用紙Pを用紙搬送経路8に沿って搬送する。即ち、ピックアップローラ40によって、給紙トレイ43内に積み重ねられた記録用紙Pの中から1枚を取り出し、取り出された記録用紙Pを給紙ローラ41と従動ローラ44との協働によってインクジェットヘッド2へ搬送し、さらに、インクジェットヘッド2により画像等が記録された後の記録用紙Pを排紙ローラ42と拍車ローラ45によって排出するように構成されている。
【0030】
図1、図2に示すように、メンテナンスユニット4は、4つのインクジェットヘッド2の下面(インク噴射面)に装着されるキャップ50と、このキャップ50に接続された吸引ポンプ51を備えている。キャップ50はインクジェットヘッド2の下面と対向するキャッピング位置(図2のインクジェットヘッド2に対して紙面向こう側の位置)と、インクジェットヘッド2から主走査方向に退避した退避位置(図2に示されている位置)にわたって移動可能に構成されている。また、キャップ50は、キャップ駆動モータ53(図3参照)により、キャッピング位置にあるときに上下方向に駆動されてインク噴射面に対して離接するように構成されている。さらに、キャップ50は、4つのインクジェットヘッド2に密着したときにそれらのノズル14をそれぞれ覆う4つのキャップ部50aを備えている。吸引ポンプ51は切り換えユニット52を介してキャップ50と接続されており、切り換えユニット52によって、4つのキャップ部50aの間で吸引ポンプ51との連通先を切り換えるようになっている。
【0031】
上記メンテナンスユニット4は、4つのインクジェットヘッド2のノズル14をキャップ50で覆うことにより、インクを噴射しない待機状態におけるノズル14の乾燥を防止する。また、適当なタイミングで、吸引ポンプ51によりノズル14からインクを吸引する吸引パージを行って、インクに混入している異物や気泡、あるいは、増粘インクをインクとともにノズル14から排出することで、インクジェットヘッド2の液滴噴射性能の回復及び維持を行う。
【0032】
次に、インクジェットプリンタ1の電気的な構成について図3のブロック図を参照して説明する。図3に示すように、制御装置5は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)60を有し、このASIC60は、入出力インターフェイスを介して外部装置であるPC(パーソナルコンピュータ)66とデータ通信可能に接続されており、PC66から入力された画像データ等に基づいてプリンタ1の各部を制御する。具体的には、ASIC60には、インクジェットヘッド2の駆動IC31を制御するヘッド制御回路61と、用紙搬送機構3の駆動モータ46〜48を制御する搬送制御回路62と、メンテナンスユニット4のキャップ駆動モータ53や吸引ポンプ51を制御するメンテナンス制御回路63等が組み込まれている。
【0033】
さらに、インクジェットヘッド2の電気的構成についてより詳細に説明する。図6は、インクジェットヘッド2の電気的構成、及び、制御装置5との電気的な接続構成を示す図である。図6に示すように、インクジェットヘッド2はそのヘッド本体10(図4、図5参照)に一体的に取り付けられた中継基板70を有し、制御装置5とインクジェットヘッド2の中継基板70が配線基板71によって接続されている。一方で、先にも述べたように、インクジェットヘッド2の圧電アクチュエータ13には駆動IC31が実装されたCOF30が接続されており、このCOF30も中継基板70に接続されている。即ち、制御装置5とインクジェットヘッド2の駆動IC31は中継基板70を介して信号の送受信可能に接続されている。
【0034】
また、制御装置5には図示しない電源が接続されており、電源電圧(VDD)が、制御装置5から配線基板71上の給電配線72、及び、中継基板70を経由して駆動IC31に供給されるようになっている。さらに、中継基板70には、電源から駆動IC31への電力供給を遮断するスイッチ回路77が設けられている。
【0035】
インクジェットヘッド2が記録動作(インク噴射動作)を行う際に、制御装置5からインクジェットヘッド2の駆動IC31に入力される制御信号としては、詳細な説明は省略するが、クロック信号(CLK)、駆動パルス信号を生成するための複数種類のパルス波形信号(FIRE)、複数種類のパルス波形信号から1つを選択するための波形選択信号(SIN)等がある。上記信号は、配線基板71に形成された配線73,74,75によって制御装置5から中継基板70に入力され、さらに駆動IC31に入力される。駆動IC31は上記信号を用いて駆動パルス信号を生成し、圧電アクチュエータ13に出力する。
【0036】
また、駆動IC31内には、この駆動IC31の動作温度を検出する、トランジスタサーミスタからなる温度検出回路78が組み込まれている。そして、駆動IC31の温度検出回路78による温度検出信号(V−TEMP)が、中継基板70及び配線基板71に形成された配線(信号線)76を介して、制御装置5に入力される。尚、温度検出回路78から出力される温度検出信号は、サーミスタ固有の温度特性に従い、駆動IC31の動作温度に対応した、常にグランドレベルよりも高い電圧レベルの信号となる。これにより、制御装置5は、温度検出信号(V−TEMP)の電圧レベルから駆動IC31の動作温度を把握することができ、駆動IC31の温度が所定温度(例えば、100℃)を超えたときには、過熱による駆動IC31の破壊を防止するために、駆動IC31による圧電アクチュエータ13の駆動を停止させる等の対策を行う。
【0037】
さらに、インクジェットヘッド2には、このインクジェットヘッド2の振動を検出する振動検出センサ11が設けられている。振動検出センサ11は振動(振幅)が大きいほど電圧レベルの高い信号を出力し、その出力(振動検出信号)は比較器79に入力されて基準電圧(Vref)と比較される。そして、インクジェットヘッド2に一定以上の大きさの振動が発生した場合には、振動検出センサ11から出力される振動検出信号が基準電圧(Vref)よりも高くなり、比較器79からH信号(High)が出力される。そうでない場合には比較器79からL信号(Low)が出力される。
【0038】
比較器79の出力は中継基板70のスイッチ回路77に入力される。尚、図6では、比較器79とスイッチ回路77の間にラッチ回路80が設けられているが、このラッチ回路80の説明はここでは省略し、後で詳しく説明することにする。インクジェットヘッド2の振動が小さく(振動検出信号の電圧レベルが低く)、比較器79からスイッチ回路77に対してL信号が入力されるときには、スイッチ回路77はONとなり、電源から駆動IC31への電力供給が継続される。一方、インクジェットヘッド2に一定以上の大きな振動が生じ、比較器79からスイッチ回路77に対してH信号が入力されたときには、スイッチ回路77はOFFとなり、電源から駆動IC31への電力供給を遮断する。スイッチ回路77により駆動IC31への電力供給が遮断されると駆動IC31はOFFになるため、駆動IC31による圧電アクチュエータ13の駆動(即ち、インクジェットヘッド2の記録動作)が速やかに停止され、振動が収まるまで圧電アクチュエータ13の駆動が禁止されることになる。
【0039】
その後、インクジェットヘッド2の振動が収まって、振動検出センサ11から出力された振動検出信号の電圧レベルが基準電圧(Vref)よりも低くなると、スイッチ回路77がONに復帰し、駆動IC31への電力供給が再開される。
【0040】
このように、インクジェットヘッド2に大きな振動が生じて振動検出センサ11で検出されたときに、スイッチ回路77が駆動IC31の電力供給が遮断されて、インクジェットヘッド2の記録動作が行われなくなる。即ち、振動発生中に画質の低い記録動作が行われてしまうことが防止され、記録用紙Pが無駄に消費されてしまうことが抑制される。また、インクを無駄に使用してしまうこともない。
【0041】
さらに、駆動IC31への電力供給を遮断するスイッチ回路77が、インクジェットヘッド2に設けられているため、振動検出センサ11により振動が検出されたときにスイッチ回路77が瞬時にOFFになって駆動IC31への電力供給が速やかに遮断される。従って、振動検出センサ11の検出信号を一旦制御装置5に送信し、改めて制御装置5から駆動IC31へ停止信号を送信することによってインクジェットヘッド2を停止させる構成と比べると、インクジェットヘッド2の記録動作を速やかに停止させる(禁止する)ことができる。また、振動検出センサ11から制御装置5への検出信号の出力、及び、制御装置5からインクジェットヘッド2への停止信号の出力のための信号線を、配線基板71に特別に設ける必要がなく、コスト面で有利である。
【0042】
また、本実施形態では、駆動IC31の温度検出回路78から出力された、駆動IC31の動作温度に対応した電圧レベルの温度検出信号(V−TEMP)が、配線基板71の信号線76を介して制御装置5に送信されている。駆動IC31がONである限り、温度検出信号の電圧レベルはグランドレベルよりも高くなる。しかし、上記のように、振動発生時に駆動IC31への電力供給が遮断されて、駆動IC31がOFFになると、温度検出信号は実際の動作温度に関係なくグランドレベルとなる。
【0043】
従って、制御装置5は、駆動IC31から1本の信号線76を介して入力される温度検出信号の電圧レベルが、グランドレベルか、それよりも高い電圧レベルであるかによって、インクジェットヘッド2の振動発生の有無、及び、駆動IC31の作動状態(ON/OFF)を把握することができる。また、既存の信号線76で送信されてくる温度検出信号を利用して、制御装置5がインクジェットヘッド2の振動の有無を把握できることから、振動検出センサ11から制御装置5へ検出信号を送信するための専用の信号線を、配線基板71に追加する必要がない。
【0044】
上述のように、制御装置5が、インクジェットヘッド2の振動の有無(駆動IC31のON/OFF)を把握できるようになっていると、その振動発生に応じて、プリンタ1の他の構成を制御することが可能となる。例えば、以下のような制御が考えられる。
【0045】
本実施形態では、振動発生時におけるインクジェットヘッド2の記録動作の停止が、制御装置5からの指令によってではなく、インクジェットヘッド2内で完結して行われる。そのため、制御装置5がインクジェットヘッド2の動作状態を把握できていないと、用紙搬送機構3は、インクジェットヘッド2の記録動作が正常に行われているものとして所定の送り量で記録用紙Pを搬送することになり、時間の無駄である。しかし、制御装置5が、インクジェットヘッド2の振動発生を把握できるようになっていると、インクジェットヘッド2の動作停止に合わせて、用紙搬送機構3による記録用紙Pの搬送を停止させることができる。あるいは、画像記録のためにインクジェットヘッド2に送られてきた記録用紙Pを一旦排出させてもよい。
【0046】
ところで、上の説明においては、振動発生時に画質の低い無駄な記録動作が行われることを防止する目的で、駆動IC31への電力供給を遮断することについて述べた。しかし、本実施形態のプリンタ1の構成では、インクジェットヘッド2が記録動作を行わない場合において、駆動IC31の消費電力(待機電力)を抑えることを目的として、振動検出センサ11の検出結果を用いて駆動IC31への電力供給を遮断することも可能である。
【0047】
インクジェットヘッド2を使用しないときには、ノズル14内のインクの乾燥防止のために、インクジェットヘッド2の下面(インク噴射面)にキャップ50(図2参照)が装着されてノズル14が覆われる。ここで、キャップ50の装着時には、キャップ50はキャップ駆動モータ53によってインクジェットヘッド2に押しつけられるが、このとき、インクジェットヘッド2に僅かな振動が生じる。そして、このキャップ50装着時のインクジェットヘッド2の振動が振動検出センサ11で検出されることによって、スイッチ回路77がOFFになり、駆動IC31への電力供給が遮断される。また、インクジェットヘッド2の吸引パージを行うために、インクジェットヘッド2にキャップ50が装着される場合においても、上と同様の振動が生じるから、スイッチ回路77により駆動IC31への電力供給が遮断される。
【0048】
このように、キャップ50の装着時に駆動IC31への電力供給がスイッチ回路77で遮断されることで、駆動IC31の消費電力(待機電力)が抑えられる。尚、キャップ50の装着時に、インクジェットヘッド2が微小角度揺動(傾動)できるように構成されていると、キャップ50の装着時にインクジェットヘッド2に生じる振動が大きくなって振動検出センサ11で検出しやすくなる。
【0049】
但し、上記のキャップ50が装着されている間、継続して駆動IC31への電力遮断を行うためには、振動検出センサ11でキャップ50の装着時の振動が検出されてスイッチ回路77がOFFになった後、記録を行うためにクロック信号がASIC60から出力されるまで、OFFの状態が維持される必要がある。一方で、記録用紙Pへの記録時には、振動発生によってスイッチ回路77が一旦OFFになった後、振動が収まったときにインクジェットヘッド2の記録動作をすぐに再開できるように、スイッチ回路77は速やかにONに復帰することが好ましい。このため、記録用紙Pへの記録を行う際には、振動検出センサ11の検出結果に応じてスイッチ回路77のON/OFFが切り換えられる一方で、キャップ50の装着の際には、スイッチ回路77のOFF状態が保持される回路構成を採用する。
【0050】
上記回路構成の具体例について説明する。図6に示すように、比較器79の出力とスイッチ回路77の入力の間にはラッチ回路80が設けられている。また、このラッチ回路80には、ASIC60から所定のクロック周波数で送られてくるクロック信号(CLK)も入力されるようになっている。
【0051】
振動検出センサ11でインクジェットヘッド2の振動が検出されて、比較器79からH信号が入力されたときには、ラッチ回路80はそのH信号をスイッチ回路77に出力し、スイッチ回路77をOFFにする。しかし、その後に振動が収まって、比較器79からL信号が入力された場合、クロック信号(CLK)が入力される場合に限って、ラッチ回路80はそのL信号をスイッチ回路77に出力し、クロック信号が入力されない場合にはH信号を出力し続ける。具体的には、ラッチ回路80は、ASIC60から入力されたクロック信号がHとなるタイミングで、そのときに比較器79から入力された信号(H信号又はL信号)をスイッチ回路77へ出力する。
【0052】
記録用紙Pへの記録時にはラッチ回路80にクロック信号が入力されるため、ラッチ回路80は、クロック信号がHとなるタイミングで、振動検出センサ11の振動検出結果に応じてスイッチ回路77に出力する信号を随時更新することになり、インクジェットヘッド2の振動が、スイッチ回路77のON/OFFにリアルタイムに反映される。
【0053】
一方、キャップ50の装着時にはクロック信号はラッチ回路80に入力されない。従って、キャップ50の装着時の振動が振動検出センサ11で検出されて、ラッチ回路80がスイッチ回路77にH信号を出力した後(スイッチ回路77がOFF)、振動が収まって比較器79からL信号が入力されても、ラッチ回路80はスイッチ回路77にH信号を出力し続ける。つまり、記録を行うためにクロック信号がASIC60から出力されるまで、スイッチ回路77はOFFの状態を保持することになる。
【0054】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0055】
1]前記実施形態では、インクジェットヘッド2の振動発生の有無を、温度検出信号の電圧レベルから制御装置5が把握するようになっていたが、振動検出センサ11の検出信号が、スイッチ回路77に加えて、制御装置5に直接送信されるように構成されてもよい。
【0056】
また、制御装置5がインクジェットヘッド2の振動発生の有無を把握しない場合でも、用紙搬送機構3が記録用紙Pを送り続けるだけであり、それほど大きな問題ではないことから、インクジェットヘッド2側から振動に関する信号が制御装置5に送られない構成を採用してもよい。
【0057】
2]前記実施形態のインクジェットヘッド2は、記録動作中に移動しない固定ライン型のヘッドであったが、記録用紙Pの幅方向に往復移動しながらインクを噴射する、いわゆる、シリアル型のインクジェットヘッドにも本発明を適用することができる。
【0058】
3]インクジェットヘッドは、圧電アクチュエータによってインクを噴射させるものには限られず、他の方式のアクチュエータ、例えば、加熱体によってインクを加熱したときの蒸発を利用して噴射させる方式のものを使用することもできる。
【0059】
また、本発明はインクジェットプリンタに限られるものでもなく、ドットインパクト方式のプリンタなど、他の記録方式を採用した記録装置においても適用することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 インクジェットプリンタ
2 インクジェットヘッド
5 制御装置
11 振動検出センサ
13 圧電アクチュエータ
14 ノズル
31 駆動IC
50 キャップ
77 スイッチ回路
78 温度検出回路
P 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体に記録を行う記録素子とこの記録素子を駆動する駆動ICを有する記録ヘッドと、
前記駆動ICを制御する制御装置と、
前記記録ヘッドに設けられ、この記録ヘッドに生じる振動を検出する振動検出手段を備え、
前記記録ヘッドに、前記振動検出手段によって前記記録ヘッドの振動が検出されたときに、電源から前記駆動ICへの電力供給を遮断するスイッチが設けられていることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記駆動ICは、この駆動ICの動作温度を検出する温度検出回路を有し、
前記温度検出回路は、前記駆動ICの動作温度に対応した、所定の基準電圧よりも高い電圧レベルの温度検出信号を出力し、さらに、前記温度検出信号は、信号線を介して前記駆動ICから前記制御装置へ送信され、
前記スイッチにより前記駆動ICへの電力供給が遮断されたときに、前記温度検出信号の電圧レベルがグランドとなることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記記録ヘッドは、前記被記録媒体にインクを噴射する、前記記録素子としての、ノズルを備えたインクジェットヘッドであり、
前記インクジェットヘッドに前記ノズルを覆うように装着されるキャップを有し、
前記インクジェットヘッドに前記キャップが装着されたときの、前記インクジェットヘッドに生じる振動が前記振動検出手段により検出されたときに、前記スイッチは前記駆動ICへの電力供給を遮断することを特徴とする請求項1又は2に記載の記録装置。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−66517(P2012−66517A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214128(P2010−214128)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】