説明

試料を固定する/安定化するための方法及び装置

本発明は、試料を固定及び/安定化するための方法及び装置に関する。生体分子及び組織は、安定化又は固定され、すなわち、保存される。安定化される生体分子は、特に、DNA、RNA及びタンパク質である。本発明の目的は、生体分子及び組織の固定及び/又は安定化を向上させることであり、簡単な方法で特定の形態において生体分子及び組織を分析することを可能とすることである。この目的を達成するため、試料は、最大の高さ10mm、好ましくは5mmを有する浸透性の入れ物の中に配置される。これを達成するため、試料の寸法は、例えば、外科用メスを用いて、まず適切に定義される。試料で満たされた浸透性の入れ物は、固定及び/又は安定化手段に浸漬する。その結果、試料は、固定及び/又は安定化される。上述の高さを有する浸透性の入れ物が、本発明のために提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を固定する及び/又は安定化するための方法及び装置に関する。生体分子が安定化され、及び/又は組織が固定されるので、それらは耐久性が付与される。安定化される生体分子は特に、DNAとRNAとタンパク質である。
【背景技術】
【0002】
文書WO03/040697及びDE4019182A1は、組織試料を固定し、固定した試料を脱水し、それをパラフィンに包埋することを開示している。パラフィンに包埋された試料は薄い薄片に切断され、顕微鏡下で詳しく調べられる。文書DE4019182A1によれば、試料の含浸は超音波を用いて支持される。文書DE19820466A1は、超音波を用いて生物試料を粉砕することを開示している。
【0003】
生物試料を安定化することを可能とするためには、安定化する溶液又は安定化する流体が、生体分子を含有する試料に十分迅速に浸透することが特に重要である。特に、生物試料が組織である場合、組織にとって、上手く固定されるべき組織にとって、固定液又は固定流体が十分に迅速に浸透することが有利である。
【0004】
従来技術では、安定化溶液の製造者が、安定化の間に観察されるべき境界状態を明記する。従って、安定化溶液の製造者が、たとえば、試料のあらゆる時点で均一に安定化されるべき特定の生体分子、たとえば、RNAについて試料がどの寸法を超えてはならないかを提示する。そのような提示が、たとえば、試料が超えてはならない特定の厚さを明記して所望の安定化を達成してもよい。場合によっては、他の幾何学的な規格も加えられる。たとえば、安定化溶液に試料を入れる前に、研究室助手が、たとえば、外科用メスを用いて所望のサイズに試料を調整しなければならない。さらに、多くの場合、製造者は、所望の安定化を達成するために安定化溶液と試料との間でどの比率が維持されなければならないかを提示する。
【0005】
組織が固定されることになっているのなら、特に組織学的調査のために組織が固定されることになっている場合、製造者は固定について観察されるべき境界状態を明記しないことが多い。組織学的調査のためには、固定液としては、原則としてホルマリンが使用される。そして、所望の組織はホルマリンに入れられ、こうして固定される。
【0006】
ホルムアルデヒドを含有する固定液、たとえばホルマリンによる固定について原則として必要条件が提示されなくても、それでもなお、試料の過大なサイズは組織の安定化の場合不利であることが分かっている。従って、ホルムアルデヒドを含有する固定液による場合でさえ、組織を上手く固定するためには特定のサイズ又は寸法を超えないことが望ましい。
【0007】
文書US7,147,826B2は、安定化溶液を含有する別の容器に入れられる、閉じることができる浸透性のカゴの提供を開示している。液体はあらゆる方向から浸透性のカゴの中に浸透することができる。カゴが安定化されるべき生物試料を有している場合、安定化溶液があらゆる方向から試料に到達できることを保証する必要がある。
【0008】
文書US2003/0087423A1も、生物試料のための浸透性のカゴの提供を開示している。しかしながら、この場合、取り扱いを円滑にするために、カゴは容器の蓋に固定されている。この場合もまた、溶液はあらゆる方向から確実に且つ完全にカゴに含有される試料に到達することが可能であるべきである。
【0009】
文書EP1262758A1は、組織の調整のためのさらなる浸透性の入れ物を開示している。
【0010】
蝶番付きの蓋があるプラスチック製のカセットが、商標名「ヒストセット(Histosette)」のもとで従来技術から知られており、それは、組織の処理又は脱水のために組織試料を保持することを意図している。ヒストセットの底面又は蓋の面積は少なくとも3cm×2.5cmである。前記カセットは少なくとも0.5cmの高さ又は厚さを有する。底面及び蓋はふるいの形態であるか、又は多数の細長い孔が提供されているので、たとえば、組織の脱水の間、液体がカセットに入り込むことができる。
【0011】
たとえば、その次に組織学的調査を行うことができるように、ヒストセットを組織の脱水に使用するのであれば、たとえば、あらかじめホルマリンに入れることによってすでに固定された組織を先ず、ヒストセットに合うように所望の大きさに切断する。次いで組織をヒストセットに入れ、ヒストセットを閉じる。有する組織と一緒にヒストセットを次いで自動装置に入れ、そこで自動的に脱水を行う。
【0012】
前記自動装置で特定される脱水工程には、固定液によるすでに固定された組織の繰り返し処理が含まれてもよい。しかしながら、このことは、組織はすでに以前固定されたので、本発明の意味では組織が固定されることを意味しない。次いで、ヒストセットを、それが有する組織と共に、だんだんアルコール濃度が高くなる種々のアルコール槽に連続的に浸漬する。アルコールは組織から水を抽出する。組織の穏やかな脱水を保証するには、1つの槽から次の槽へアルコール濃度を非常にゆっくり高める。
【0013】
次いで、ヒストセットを、その中の組織と共に中間媒体、たとえば、キシレンに浸漬する。中間媒体は、組織中に存在するアルコールを置き換える。アルコールとは対照的に、中間媒体はパラフィンと混和性であり、その後のパラフィン処理をいつでも行える状態にする。
【0014】
次に、ヒストセットを、その中の組織と共に、熱いので液状のパラフィンに浸漬する。そのときパラフィンは組織に浸透する。所望の状態でパラフィンが組織に浸透したのであれば、ヒストセットを自動装置から取り出す。次いで、幾分硬くなったパラフィンを、その中の組織の小片と共に、上端が開放された小型の入れ物又は「金型」に移し、熱い流動パラフィンで覆うので、パラフィンが冷却した後、我々は組織を含有するパラフィンブロックを得る。このパラフィンが冷却した際、我々は、パラフィンに包埋された脱水された試料を獲得する。組織学的調査を行うために、マイクロメータの厚さの組織切片を作成する。組織切片をスライドに載せ、脱パラフィンを行い、染色し、顕微鏡下で評価する。ホルムアルデヒドを含有する固定液で固定することの欠点の1つとして、生体分子が不可逆的に架橋するので破壊されることがある。その結果、分析的調査のための生体分子の単離が困難又は不可能になる。
【0015】
組織試料を収容するための持ち上げ可能な蓋の付いた浸透性のカセットが、文書US2007/0140920A1で知られている。試料をカセットに入れ、カセットを閉じる。カセットの中で試料を脱水し、洗浄し、ワックスを浸透させる。カセットに存在している間の脱水の前に試料を固定する又は安定化することは、米国特許公開公報2007/0140920A1からは推察することはできない。
【0016】
生物試料を収容するための浸透性のカセットは、文書US2005/0147538A1及びWO2005/037182A2によっても開示されている。双方の文書は、試料を最初に固定すべきであることを開示している。固定の後のみに、試料物質がカセットに入れられ、所望の方法でさらに処理される。
【0017】
文書US2006/0178598A1は、ホックが設けられた突き出た針状部品を伴うツールを開示している。試料の残りから、突き出た針状部品によって捕捉された試料物質をむしり取るために、突き出た針状部品は試料に挿入されるはずである。該ツールは、ふるい、細長い孔又は格子の形態をした何らの壁を有しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、生体分子及び組織のさらに良好な安定化又は固定を提供し、実施態様の1つでは調査を簡略化することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、請求項1で提示される特徴を持つ方法によって達成される。当該方法を実行する目的は、二次的クレームの特徴を含む。有利な実施態様は下位クレームから理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】試料を固定するために使用される、浸透性の入れ物の典型的な基本形態を示す。
【図2】正面壁1を持つ浸透性の入れ物の側面図を示す。
【図3】プランジャー7を伴う実施態様を示す。
【図4】中に安定化された試料を伴った浸透性の入れ物の構造を示す。
【図5】実施例1で説明される、Agilentバイオアナライザによるラットの肝臓に由来するRNA調製物の分析を示す。
【図6】実施例1で説明される、Agilentバイオアナライザによるラットの腎臓に由来するRNA調製物の分析を示す。
【図7】実施例1で説明される、Agilentバイオアナライザによるラットの脾臓に由来するRNA調製物の分析を示す。
【図8】アガロースゲル上で分析されたDNAを示す。
【図9】ラットの肝臓の(a)全体像、及び(b)100倍拡大及び(c)630倍拡大のヘマトキシリン/エオシン染色を示す。
【図10】ラットの腎臓の(a)全体像、及び(b)100倍拡大及び(c)630倍拡大のヘマトキシリン/エオシン染色を示す。
【図11】ラットの脾臓の(a)全体像、及び(b)100倍拡大及び(c)630倍拡大のヘマトキシリン/エオシン染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
10mm、好ましくは5mmの最大の全体的高さを持つ浸透性の入れ物に試料を入れる。これは、まず適切な寸法を有する試料に基づいて、例えば、外科用メスを用いて達成される。試料で満たされた入れ物を固定及び/又は安定化剤の中に浸漬する。その結果、試料は固定及び/又は安定化される。
【0022】
組織試料の固定における切迫した問題の1つは、安定化を欠くことにある。少なすぎる固定剤が、自己融解の結果として試料内部の組織構造の損傷の原因になることが分かっているにもかかわらず、組織の単位体積当たり、どのぐらいの体積の固定剤、たとえば、ホルマリンを使用しなければならないのかについて一般的に受け入れられ、実施されている方法はない。さらに、固定されていない領域における細胞の発現パターンは、遺伝子誘導又はmRNAの分解の結果として、変わる可能性がある。
【0023】
主要な請求項の意味での入れ物は、入れ物の2つの内側の壁又は相当する底面と蓋とが10mmを超えて又は5mmを超えて離れていない場合、最大で10mm又は5mmの全体の高さを有する。試料が入れ物内にあるとき、このことによって、液状の固定剤及び/又は安定化剤が迅速に入れ物内の試料に浸透することができ、特に全体の高さが5mmを超えない場合、良好に浸透することができることが確保される。入れ物を通る流れが可能なので、1以上の溶液の形態であることができる液状の固定剤及び/又は安定化剤は入れ物の内部に達し、試料に浸透することができる。浸透性の入れ物に含まれる試料は、浸漬の際、又はその結果として単に固定又は安定化される。このことは、試料があらかじめ固定又は安定化されていなかったことを意味する。
【0024】
好ましくは、10mmを超えて離れていない、好ましくは5mmを超えて離れていない、浸透性の入れ物の2つの壁又は底面と蓋とはふるいの形態であるか、又は細長い孔などが設けられる。この配置は、浸透性の入れ物における試料が適切に固定される及び/又は安定化されることを確保するのに一層さらに良好である。
【0025】
本発明の有利な実施態様では、浸透性の入れ物に存在する試料の固定及び/又は安定化は、正確に定義された寸法を持ち、正確に定義された体積の固定液及び/又は安定化溶液で満たされた容器において達成される。浸透性の入れ物のサイズは組織試料の最大サイズを規定し、容器は固定試薬及び/又は安定化試薬の体積を規定する。このことは、選択された配置が、組織試料に対する固定試薬及び/又は安定化試薬の正確に定義された比を達成するという重要な利点を有する。正確に定義されたサイズの容器と組み合わせた正確に定義されたサイズの浸透性の入れ物は、組織固定の標準化をもたらす。組織試料に対する固定試薬及び/又は安定化試薬の最適に選択された比は、固定不足を防ぎ、固定の標準化を保証するので、異なった試料間でのさらに良好な比較可能性を保証する。本発明のこの実施態様を実施するには、浸透性の入れ物に加えて特定された寸法を持つ少なくとも1つの容器を含むセットが提供又は特定される。該セットは好ましくは、こうして標準化された方法で試料を固定又は安定化することを可能とするために、特定された固定液をさらに含む。
【0026】
浸透性の入れ物を伴った容器は、固定することに加えて、保存容器として、又は試料の輸送のために役立ってもよい。さらなる実施態様では、浸透性の入れ物は容器の構成要素である。たとえば、浸透性の入れ物は、固定液及び/又は安定化溶液が存在する収容容器の蓋に、接続要素によって接続されてもよい。このように、浸透性の入れ物は容器の不可欠の構成要素を形成する。蓋に接続されている浸透性の入れ物のために、充填する及び排出するために入れ物を容器から容易に取り外すことができる。ピンセットなどの助けを借りて浸透性の入れ物をつかむことは不要である。このように、毒性の可能性がある固定試薬による汚染又はそれとの接触のリスクは最小限に抑えられる。組織試料を幾つかの溶液に通さなければならないのであれば、簡略化した方法でこれを行うことができる。必要とされる溶液はすべて、同一設計で同一寸法の容器に充填される。これらの容器に合う蓋は、接続要素を介して浸透性の入れ物を含む。組織試料を充填した後、移動のために浸透性の入れ物から試料を取り出す必要もなく、異なった容器に連続して蓋を置く。
【0027】
さらなる実施態様では、浸透性の入れ物は不可欠な構成要素、たとえば、容器の蓋ではないが、留め具によって蓋に固定されてもよい。この留め具は蓋の下に直接固定されてもよく、又は蓋に接続される接続要素に固定されてもよい。この配置の利点は、組織試料を充填する前に容器の中の毒性の可能性がある固定試薬に入れ物が接触しないので、浸透性の入れ物に乾燥した状態で充填できることである。
【0028】
さらなる構成では、接続要素を介して容器の蓋に接続される浸透性の入れ物は、簡単な機械的操作によって蓋から取り外すことができる。たとえば、接続要素は、浸透性の入れ物の近傍に所定の破断点を有してもよい。さらなる構成では、浸透性の入れ物は、収容容器の蓋に存在する放出装置によって取り外すことができる。たとえば、実施態様の1つでは、浸透性の入れ物は機械的な圧力で放出することができ、圧力は接続要素内に存在するプランジャーによって与えられる。プランジャーは、一方の端で浸透性の入れ物の上にあり、他方の端で容器の蓋の外に突き出る。プランジャーの外側の圧力が浸透性の入れ物を放出する。そのような装置の利点は、たとえば、自動脱水機又は別の溶液への移動のために浸透性の入れ物を取り扱う又はそれを操作する必要がないことである。
【0029】
本発明の実施態様の1つでは、浸透性の入れ物の寸法は、浸透性の入れ物が自動脱水機で使用され、浸透性の入れ物の中の試料が固定又は安定化に続いて脱水できるように選択される。試料が固定又は安定化に続いて脱水されることになっているならば、そのとき、試料を1つの浸透性の入れ物から別の入れ物に移すことは必要ではない。従って、方法工程の1つが回避される。しかしながら、自動脱水機において固定及び/又は安定化を行うことも可能である。試料が固定又は安定化される前に、先ず、自動脱水機によって固定液及び/又は安定化溶液又は同等の剤の中に試料が浸漬される。このことは、試料が十分に薄いので、固定又は安定化を相対的に迅速に達成することができる場合、主として経済的に価値がある。
【0030】
組織学的調査のみが行われることになっているならば、ホルマリンを固定剤として使用することができる。しかしながら、その後の調査のために生体分子を安定化すべきなので耐久性にするべきであるならば、これはホルマリンによっては可能ではないので、好適な安定化溶液又は安定化剤を選択する必要がある。試料のRNAを安定化することについては、米国の会社であるアンビオンからのRNAlater(登録商標)を安定化溶液として使用することができる。DNAとRNAとタンパク質とを同時に安定化する別の例は、安定化溶液、ドイツの会社、キアゲンGmbH社からのAllprotect(商標)組織試薬(AllprotectTM Tissue Reagent)である。組織試料におけるDNA、RNA、タンパク質の生体分子と同様に、組織学的研究のための形態の安定化の一例は、市販のPAXgene(登録商標)組織安定化及び固定剤である。従って、引用した例はすべて本教示の意味で安定化及び固定剤である。
【0031】
好ましくは、ポリオール含有組成物が試料を固定及び安定化する剤として使用される。文書EP1804045A1で見ることができるように、そのような組成物によって固定及び安定化を特に良好に且つ簡単に行うことができる。そのような剤のさらに有利な実施態様を見ることができるこれらの文書の開示を特許請求された方法の有利な実施態様として本明細書に組み入れる。
【0032】
1つの生物試料を安定化し、同時に固定するために、特に特許請求された方法にて試料を、1〜100重量%の少なくとも1つのポリオールと0〜99重量%の少なくとも1つの添加剤とを含み、2つの提示された成分の合計量が100重量%である組成物と接触させる。
【0033】
ポリオールは、ジオール、トリオール、テトラオール、ペンタオール、ヘキサオール、ヘプタオール、オクタオール又はノナオールであり、ジオール又はトリオールが特に好ましい。好ましくは、ポリオールは2〜20の炭素原子を有する。
【0034】
有利な実施態様では、ポリオールは、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、1,2,3−プロパントリオール、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、2,3,4−ペンタントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ヘキサントリオール、1,2,5−ヘキサントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、2,3,4−ヘキサントリオール、2,3,5−ヘキサントリオール、3−メチル−1,3,5−ペンタントリオール、トリメチロールプロパノール、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールを含む群から選択される。
【0035】
特に好ましくは、組成物は少なくとも2種のポリオールの混合物を含む。
【0036】
添加剤は好ましくは、界面活性剤、核酸又はタンパク質の分解を阻害する阻害剤、粘度調節剤、染料、緩衝液化合物、保存剤、錯化剤、還元剤、細胞の透過性を改善する物質、カオトロピック物質、固定剤、ポリオール以外の溶媒及びこれらの添加剤の少なくとも2つの混合物を含む群から選択される。
【0037】
好ましい実施態様では、当該方法は、前記組成物に接触させた生物試料の組織学的分析及び/又は組成物に接触させた生物試料における又はそれからの生体分子の分析を含む。
【0038】
従来技術によれば、試料が組織学的に調査される場合、たとえば、ホルマリンを用いて試料は完全に又は部分的に固定される。生体分子の補完的な安定化が必要とされるのであれば、この試料の固定されていない部分が安定化剤で処理される。それにひきかえ、本発明に係る方法は、主として、試料の組織を固定し、同時に前記試料の生体分子を安定化する、たとえば、PCT/EP2008/052371に記載されている固定及び安定化剤によって入れ物の中の試料が処理される場合、それに続く操作の簡略化を提供する。従って、好ましい実施態様では、生体分子と組織とに同時に耐久性を付与することができるように溶液又は液体が選択される。
【0039】
文書PCT/EP2008/052371によれば、生物材料における形態及び生体分子が固定され、且つ安定化され、方法は、以下の工程を含む:
i)生物材料を提供することと
ii)以下を含む第1の非水性組成物に生物材料を接触させることと
(a1)10〜90体積%のメタノール、及び
(a2)少なくとも1つの追加の添加剤、及び
(a3)任意で酸
iii)99体積%までのエタノールを含む第2の組成物(B)に生物材料を移すこと。
【0040】
工程ii)における第1の組成物として、非水性組成物(A)が以下を含む場合、生体材料を保存するための非水性組成物(A)は特に有用である。
(α1)10〜80体積%未満のメタノールと
(α2)少なくとも1つの追加の添加剤と
(α3)酸
【0041】
組成物(A)の成分(α1)はメタノールである。メタノールは、10〜80%未満の程度に組成物(A)に存在し;メタノールは好ましくは約70体積%の程度、約60体積%の程度、又は約50体積%の程度に存在する。
【0042】
上述の方法の工程ii)の組成物(A)の少なくとも1つの添加剤(α2)又は第1の組成物の(a2)は、メタノール以外の追加の溶媒であってもよく、又は界面活性剤、及び核酸若しくはタンパク質の分解を阻害する阻害剤、DEPC、アルキル化剤、アセチル化剤、ハロゲン化剤、ヌクレオチド、ヌクレオチド類縁体、アミノ酸、アミノ酸類縁体、粘度調節剤、染料、緩衝液物質、保存剤、錯化剤、還元剤、酸化剤、細胞の透過性を改善する物質、カオトロピック物質、たとえば、イソチオシアン酸グアニジニウム若しくは塩酸グアニジニウム、又はアニオンとのカオトロピック塩、並びにこれら添加剤のうち少なくとも2〜6の混合物を含む群から選択される添加剤であってもよい。
【0043】
好ましい追加の添加剤は、C2〜C12のポリオール、ポリエチレングリコール(PEG)とジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(DEGMEA)とクロロホルムである。本発明によれば、組成物Aの追加成分はクロロホルムではないことが好ましい。PEGは好ましくは常温未満の融点を有する。
【0044】
メタノール以外の溶媒は、好ましくは、一価のアルコール(モノオール)、C2〜C12のポリオール、ケトン、ジメチルスルホキシド、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、カルボン酸、カルボキサミド、ニトリル、ニトロアルカン及びエステルを含む群から選択される有機溶媒であってもよく、好適な溶媒は、たとえば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、アセトニトリル、アセトン、アニソール、ベンゾニトリル、1−メトキシ−2−プロパノール、キノリン、シクロヘキサノン、ジアセチン、ジクロロメタン、クロロホルム、キシレン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、トルエン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、アジピン酸ジメチル、炭酸ジメチル、亜硫酸ジメチル、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチルベンゼン、ホルムアミド、三酢酸グリセリル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルチオホルムアミド、N,N−ジエチルチオホルムアミド、N−メチル−N−エチルチオホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ニトロエタン、ニトロメチルトルエン及びリン酸トリエチルの群から選択可能である。好ましくは、工程ii)の組成物A及び/又は非水性組成物は、ハロゲン化炭化水素を含まず、特に塩素化炭化水素、特にクロロホルム及び/又はトリクロロエタンを含まない。
【0045】
成分(α2)及び(a2)の濃度は、文書PCT/EP2008/052371によれば、約50%〜1%(vol/vol)、好ましくは約20%である。
【0046】
文書PCT/EP2008/052371に記載された方法の工程ii)で使用される組成物(A)の成分(α3)又は第1の組成物の任意成分(a3)は、有機酸又は無機酸であり、好ましくは弱酸であり、最も好ましくは酢酸又はプロピオン酸である。
【0047】
本発明に係る方法の工程ii)における第1の組成物として組成物(A)を使用することができる。しかしながら、「移動工程」iii)がない生物材料の処理又は保存の方法においても組成物(A)を使用することができることが明白に強調される。さらに、本発明に係る方法の工程ii)における第1の組成物は、上記で定義されたような工程ii)における第1の組成物が主成分としてメタノールを含むという条件で、組成物(A)以外の組成物であってもよい。
【0048】
文書PCT/EP2008/052371によれば、生物材料の処理のための方法は、「移動工程」iii)を含み、そこで生物材料は99体積%までのエタノールを含む第2の組成物(B)の中に移される。移動工程は生物材料を保存するのに特に好適である。
【0049】
文書PCT/EP2008/052371に記載された方法を採用した場合、特許請求される方法の特定の利点が特に明瞭になる。実施態様の1つでは、浸透性の入れ物に存在する試料は容器中の組成物Aによって固定され、次いで組成物Bを含有する容器に移される。組成物Aから組成物Bへのこの移動について、試料は浸透性の入れ物からさらなる入れ物に移される必要はない。
【0050】
さらなる構成では、浸透性の入れ物は、組成物Aが存在する収容容器の蓋に接続要素によって接続される。組成物A及び組成物Bを含有する容器双方が同一寸法を持っている場合、蓋を使用することにより浸透性の入れ物に存在する試料を移すことができ、その場合、蓋は組成物Bを含有する容器を密封する。これは、浸透性の入れ物に触れること又はそれを開けることを必要としない。この実施態様では、保存容器として、あるいは、たとえば、病理学研究室への試料の輸送のために組成物Bを含有する容器を同時に使用することができる。
【0051】
異なった実施態様の利点及びさらなる詳細は、参照番号PCT/EP2008/052371を持つ国際特許出願から明らかである。
【0052】
さらなる実施態様では、当該方法は、前記組成物と接触した生物試料の組織学的分析及び/又は組成物と接触した生物試料における若しくはそれからの生体分子の分析を含む。好ましくは、組織の組織学の分析及び生体分子の分析の双方が含まれる。
【0053】
好ましくは、タンパク質の分析及び核酸の分析の双方が含まれる。
【0054】
実施態様の1つでは、試料は、生物、単離された細胞、細胞小器官、細菌、真菌又は真菌の一部、ウイルス、ウイロイド、プリオン、組織、組織断片、組織切片、体液、天然の任意で単離されたタンパク質、合成の又は修飾されたタンパク質、天然の任意で単離された核酸、合成の又は修飾された核酸、そのほかの生体分子、たとえば、脂質、炭水化物、代謝産物及び代謝体、植物又は植物の一部、糞便、塗抹標本、吸引物、食物試料、環境試料及び/又は法医学的試料を含有する。
【0055】
種々のそのほかの実施態様の利点及びさらなる詳細は、EP1804045A1、又は参照番号PCT/EP2008/052371を持つ国際特許出願にて提供されている。
【0056】
特に、先ず組織の組織学が調査され、次いで組織学的知見によって任意で生体分子が単離され、分析される場合、たとえば、組織の形態を固定し、且つ生体分子を安定化させる剤が選択される。
【0057】
実施態様の1つでは、水の除去に続いて、先ず固定され及び/又は安定化され、次いで脱水された試料が従来技術から既知の方法でその中に入れられた浸透性の入れ物がパラフィンブロックに完全に又は部分的に接続される。浸透性の壁を持つ「金型」に浸透性の入れ物を完全に又は部分的に搭載することによって接続を達成することができ、その中で既にパラフィンが提供された試料はパラフィン中に浸漬される。さらに、浸透性の壁を介して上からパラフィンが追加される。パラフィンはさらに、入れ物又は入れ物の一部から浸透性の壁を通って「金型」に向かい、浸透性の壁を取り囲む。パラフィンが冷却した後、入れ物又は入れ物の一部はこのパラフィンブロックと連結される。
【0058】
パラフィンブロックに連結された入れ物又はその一部は今やハンドル又はホルダーを形成し、それによってその中の試料と共にパラフィンブロックを「金型」から引き出すことができる。今やこのホルダーは、試料を中に有するパラフィンブロックを自動装置又は半自動装置において固定するために使用することができ、その自動装置又は半自動装置により試料から所望の組織切片が切断される。そのような自動装置又は半自動装置はミクロトームとして知られる。
【0059】
従って、好ましくは、実施態様の1つでは、ミクロトーム及び浸透性の入れ物は、提示された方法で入れ物をミクロトームにおいて完全に又は部分的に固定できるように互いについて設計される。
【0060】
組織学的調査がすでに行われ、今や生体分子が処理されるべきであれば、さらに処理されるべきパラフィン処理された試料の一部から、日常的には先ずパラフィンが取り除かれるべきである。たとえば、生体分子の調査のためにさらなる切片がミクロトームによって作成される。これらの切片は微量遠心容器に回収され、本質的に、脱水の逆である手順にて先ずパラフィンが取り除かれる。先ず、パラフィンを溶解するために中間溶液が添加される。次いで、組織試料を遠心し、中間溶液に溶解したパラフィンと共に上清を取り除く。次いで、中間溶液を置き換えるために組織の沈殿物を純粋なアルコールに再懸濁する。第2の遠心及び上清の除去の後、組織の沈殿物を好適な溶解緩衝液に溶解し、従来技術に従って処理する。次いで精製された生体分子を所望の調査に使用することができる。
【0061】
有利な実施態様では、組織学的な調査の範囲内で、レーザーを備えた顕微鏡が使用される。組織が顕微鏡によって組織学的に調査され、興味深い領域が見い出されるなら、この領域を非常に正確にレーザーによって切り出すことができる。本発明によって、この切り取られた領域が生体分子に関して直ちに調査されることは今や特に容易である。切り取られた領域が非常に小さければ、さらに詳細な調査のために、たとえば、DNA、RNA及び/又はタンパク質のような生体分子を単離するために、組織のこの部分を直接、溶解緩衝液に移すことができる。
【0062】
本発明の一実施態様では、固定される組織の大きさ、及び特に厚さを適切に制限する浸透性の入れ物は、一つの面上に、好ましくは狭い面上に、縁の鋭い開口部を有する。縁の鋭い開口部は、固定及び/又は安定化される試料に押し込まれるために設けられている。回転運動により、その時、浸透性の入れ物の中にある試料の一部を分離かつ除去することができる。そして、浸透性の入れ物には、好ましくは、例えば、ふるいのような穴等が水平方向に設けられている。浸透性の入れ物の中の組織は、固定及び/又は安定化のために特に適切な寸法を有する。
【0063】
縁の鋭い開口部を伴う実施態様では特に、浸透性の入れ物は蓋に固定され、それと共に、固定及び/又は安定化のためのその中の手段を伴った容器が閉じられる。そのとき、蓋は二重の機能を遂行する。一方ではそれは、原則として少なくとも数時間かかる固定又は安定化の間、固定及び/又は安定化のためのその中の剤を伴った容器を閉じるのに役立つ。他方では、蓋は、浸透性の入れ物が試料の中に単に押し込まれるのを可能にするハンドルとして役立つ。このように操作は特に簡単である。
【0064】
本発明の実施態様の1つでは、好ましくは縁の鋭い開口部を含む浸透性の入れ物にはプランジャーが設けられ、たとえば、それは、ハンドルとして役立つ蓋を通って上から浸透性の入れ物の中に挿入することができる。このように浸透性の入れ物の中の組織にとって外に押し出されるのは特に容易である。
【0065】
生体分子が直ちに、すなわち安定化に続いて調査されるべきである場合、このことは特に有利である。次いで安定化された試料は、プランジャーによって浸透性の入れ物から押し出すことができ、好ましくは、それによって生体分子の調査が開始される適当な溶液の中に押し出すことができる。一般に、それは先ず緩衝溶液であり、生体分子が調査されることになっている試料がその中に入れられる。
【0066】
このように規定され、固定された又は安定化された試料の一部のみを浸透性の入れ物から押し出すことができるのでプランジャーの提供も有利である。次いで浸透性の入れ物から突き出した試料のこの部分を切断して、たとえば、生体分子の調査に使用することができる。次いで、残りを、たとえば、組織学的調査に使用することができる。
【0067】
生体分子を調査すべき場合、基本的に、試料を粉砕するので、ホモジネートすることが必要である。従来技術では、たとえば、これは超音波によって行われる。しかしながら、従来技術によって、これが注目する分子を損傷する可能性があるというリスクがある。従って、本発明の実施態様の1つでは、その中に安定化された試料を伴った浸透性の入れ物を、液体を含有する別の容器に入れる。超音波が浸透性の入れ物に衝撃を与えるように、特に浸透性の入れ物に焦点を当てるように、超音波源を配置する。浸透性の入れ物における試料が超音波によって粉砕されるならば、浸透性の入れ物の浸透性の壁を好適に介して組織の粉砕された小片を、たとえば、安定剤であることができる液体に入れる。このように、粉砕された断片は逃れることができるので、今や不利である超音波にそれらはもはや暴露されない。このことは、試料の粉砕の間、過剰暴露を介した望ましくない方法で注目する分子が損傷されるリスクを軽減する。
【0068】
前述の実施態様では、本質的に超音波源が試料をその中に有する浸透性の入れ物をとらえるだけのような、この意味で浸透性の入れ物に焦点を当てるような方法で超音波源を特に調整し、限定させる。
【0069】
基本的に、超音波の代わりに、それによって浸透性の入れ物の中の試料が粉砕される幾つかのそのほかの手段を選択することが可能であり、その結果、試料の十分に粉砕された部分が外に逃れるので、さらなる機械的処理から有利に除外される。
【0070】
以下の図面を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【0071】
図1は、試料を固定するために使用される、浸透性の入れ物の典型的な基本形態を示す。浸透性の入れ物は、相対的に大きな面積の正面1、と背面を含み、それらはたとえば、格子細工の形態なので、液体はそれらを通って流れることができる。正面は蝶番の付いた蓋であることができ、背面は浸透性の入れ物の底面であろう。正面と背面との間の距離は相対的に小さく、数ミリメータにすぎず、特に5ミリメータを超えない。これによって確実に、固定液により浸透性の入れ物の中の試料が十分に迅速に含浸される。浸透性の入れ物の壁2及び3も浸透性であることができる。しかしながら、安定性の理由のために、隙間のない閉じた壁2及び3が好まれるべきである。
【0072】
図2は、正面壁1を持つ浸透性の入れ物の側面図を示し、それは織布5によって蓋4に固定され、好ましくは、たとえば、ポジティブ・ロック(positive locking)、たとえば、スナップに合う連結体によって脱着可能である。一方では、そのときそれを汚染することなく、又は逆に入れ物若しくはその内容物によって汚染されずに、浸透性の入れ物を保持するために、蓋をハンドルとして使用できる。他方では、浸透性の入れ物が適当な流体に浸漬されるべき場合、固定及び/又は安定化のための手段を含有する容器を閉じるために蓋が役立つことができる。固定又は安定化のために、1つの溶液から別の溶液に試料を移すことが必要であれば、浸透性の入れ物を開けることなく、浸透性の入れ物の中の試料を蓋によって移すことができる。脱着可能な取り付けのために、たとえば、固定又は安定化された試料を中に有する浸透性の入れ物を、対応して適合させた自動脱水機に移動させるために浸透性の入れ物を使用することができる。
【0073】
図2に示される実施態様では、入れ物の裏面6は、好ましくは開いているか、又は開くことができる。そのとき縁は、鋭い縁にされるので、試料物質で入れ物を満たすために、また同時に試料物質に好適な寸法を付与するために、前記裏面は典型的な試料に押し込まれることができる。
【0074】
図3は、プランジャー7を伴う実施態様を示し、それによって試料物質を浸透性の入れ物から外へ押し出すことができる。
【0075】
コストのために、浸透性の入れ物は好ましくはプラスチック製である。そのとき特にそれは使い捨て物品である。そのとき新品の浸透性の入れ物を新しい各試料に用い、それによって取り扱いを簡略化する。
【0076】
しかしながら、主として組織に押し込むために鋭い縁を有するべき場合、浸透性の入れ物は金属製であることができる。
【0077】
図4は、中に安定化された試料を伴った浸透性の入れ物の構造を示し、それは、液体8を含有する容器にて浸漬される。浸透性の入れ物は容器の壁9の近傍に位置し、好ましくは容器の蓋に固定され、特に脱着可能であり及び/又はポジティブ・ロックされる。超音波源11がこの容器壁9の近傍に配置され、矢印で示されるように、超音波が浸透性の入れ物に到達するが、さらに容器の中へは進まないように必要な大きさにする。従って、超音波は浸透性の入れ物に含有された試料を粉砕するが、それは次いで格子細工型の壁を介して、浸透性の入れ物の外側にある液体8の中に逃れる。超音波が浸透性の入れ物に入り込めるように、それが浸透性の壁にぶつかるように超音波を合わせる。
【0078】
図5は、実施例1で説明される、Agilentバイオアナライザによるラットの肝臓に由来するRNA調製物の分析を示す。A:Agilentゲル、B:電気泳動図及びRIN値。
【0079】
図6は、実施例1で説明される、Agilentバイオアナライザによるラットの腎臓に由来するRNA調製物の分析を示す。A:Agilentゲル、B:電気泳動図及びRIN値。
【0080】
図7は、実施例1で説明される、Agilentバイオアナライザによるラットの脾臓に由来するRNA調製物の分析を示す。A:Agilentゲル、B:電気泳動図及びRIN値。
【0081】
図8は、アガロースゲル上で分析されたDNAを示し、それは、実施例2に従って、(a)ラットの肝臓、(b)ラットの腎臓、(c)ラットの脾臓及びラットの腸から作製した。
【0082】
図9は、ラットの肝臓の(a)全体像、及び(b)100倍拡大及び(c)630倍拡大のヘマトキシリン/エオシン染色を示す。組織は実施例3に従って固定し、処理した。
【0083】
図10は、ラットの腎臓の(a)全体像、及び(b)100倍拡大及び(c)630倍拡大のヘマトキシリン/エオシン染色を示す。組織は実施例3に従って固定し、処理した。
【0084】
図11は、ラットの脾臓の(a)全体像、及び(b)100倍拡大及び(c)630倍拡大のヘマトキシリン/エオシン染色を示す。組織は実施例3に従って固定し、処理した。
【0085】
後に続く実施例を参照して今や本発明をさらに詳細に記載する。実施例は、単に説明の目的で提供されるのであって、開示された実施態様に本発明を限定するように解釈されてはならない。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
<浸透性の入れ物で固定された組織におけるRNAの安定化>
ラットの肝臓、腎臓及び脾臓を、取り出した直後、厚さ約3mmの薄片に切断した。固定するために、長さ4cm、幅2.7cm及び深さ5mmの浸透性の入れ物に組織試料を配置した。PCT/EP2008/052371の組成物Aに従った固定液250mLで満たされた500mLのビンの中に、組織試料を含有する浸透性の入れ物を完全に浸漬した。固定液は、メタノール、酢酸、1,3−ブタンジオール及びPEG300を含んでいた。2時間後、エタノール(p.a.)及び1,3−ブタンジオールを含む、PCT/EP2008/052371の組成物Bに従った溶液250mLで満たされた別の500mLのビンに浸透性の入れ物中の組織試料を移すことによって固定を終了した。20時間インキュベートした後、浸透性の入れ物中の組織試料を第1の処理工程としての70%エタノールに移した。
【0087】
脱水、清澄化及びパラフィンの浸透を含む組織の処理は、LeicaTP1020プロセッサーを用いて自動的な方法で行った。だんだん濃度か高くなるエタノールを通して浸透性の入れ物を処理した。脱水と包埋媒体による浸透との間の中間工程として、キシレンによって清澄化を行った。組織における空洞及び細胞に56℃にて流動パラフィン(低融点のパラプラストXTRA、Roth社)を含浸させた(詳細は表1)。ミクロトーム法で必要とされる担体を得るために、浸透に用いたのと同じパラフィンに試料を包埋した。
【0088】
RNA抽出に用いた出発材料は、パラフィンブロックからの新鮮な薄片だった。パラフィンブロックを回転式ミクロトーム(LeciaRM2245)で切断し、各試料からそれぞれ厚さ10μmの5枚の薄片に切り、微量遠心管にそれらを回収した。1mLのキシレンを加え、ボルテックスでかき混ぜ、14000rpmで2分間遠心することによってパラフィンの除去を実施した。上清を除き、沈殿物を1mLの100%エタノールに溶解した。
【0089】
14000rpmで2分間遠心し、エタノールを除いた後、沈殿物を150μLのRLT緩衝液(ドイツのキアゲン社から市販)(GTCを含有する、pH=7、0.143Mのβ−メルカプトエタノールを含む)に溶解した。295μLの水と5μLのプロテイナーゼK(>600mAU/mL)を加えた後、55℃、1400rpmで持続時間10分にて振盪/インキュベータで消化を行った。均質化については、QIAシュレッダースピンカラム(ドイツのキアゲン社から市販)に溶解物を投入し、14000rpmで2分間遠心した。浸透化物質を1225μLのエタノール(100%)と混合し、RNeasy MinEluteスピンカラム(ドイツのキアゲン社から市販)に投入した。RNAが膜に吸着するように遠心によって膜を介して溶解物を処理した。pH=7.5にてGTC及びエタノールを含むRW1洗浄緩衝液(ドイツのキアゲン社から市販)によって膜を2回洗浄することによって混入物を除いた。2回の洗浄操作の間に、pH7.5のRDD緩衝液(ドイツのキアゲン社から市販)70μLと混合した10μLのDNA分解酵素(約30クニッツ単位)を膜上でピペッティングし、常温にて15分間インキュベートすることによって残っているDNAを除いた。500μLのRPE緩衝液(ドイツのキアゲン社から市販)(pH=7.5および80%エタノール)によるさらに2回の洗浄操作の後、最大速度14000rpmにて1分間遠心することによって膜を乾燥させた。最終的に、膜上に30μLのBR5緩衝液(ドイツのキアゲン社から市販)(pH=7)をピペッティングし、次いで常温にて1分間インキュベートし、14000rpmにて1分間遠心することによってRNAを溶出した。抽出はすべて3組(triplicate)で行った。
【0090】
製造業者の指示書に従って、RNA6000ナノアッセイを用いたAgilent2100バイオアナライザにてRNA全体の未変化性及びサイズ分布を解析した。
【0091】
図5〜7は、肝臓、腎臓及び脾臓の3組の分析について、Agilentゲル、相当する電気泳動図及びRIN値[「RNA完全性番号」(RNA integrity numbers)]を示す。
【0092】
AgilentバイオアナライザによるRNAの解析は、分解していない高分子量のRNAの全ての主だった特徴を示した。ゲル上では(図5〜7のA)、18S−rRNAと28S−rRNAの2つのリボソームのバンドが、歪みなく実質的に鋭いバンドとして見られる。電気泳動図(図5〜7のB)では、2つのバンドは2つのリボソームの最大値に相当する。RNAのRIN値は、1〜10の尺度にて7〜9の間で変化する。
【0093】
結論:PCT/EP2008/052371に記載された固定用化学物質と組み合わせた浸透性の入れ物における固定は、処理し、パラフィン包埋した後でさえ、組織試料におけるRNAを維持できる結果となる。
【0094】
【表1】

【0095】
(実施例2)
<浸透性の入れ物にて固定された組織におけるDNAの安定化>
浸透性の入れ物において、PCT/EP2008/052371に係る組成物A及び組成物Bの試薬にて、実施例1に記載されたように、ラットの肝臓、腎臓、脾臓及び腸の組織試料を安定化し、処理し、パラフィンに包埋した(少々の変更を伴って:組成物Aの試薬300mL及び6時間後の固定の終了)。
【0096】
DNA抽出に用いた出発材料は、パラフィンブロックからの新鮮な薄片だった。パラフィンブロックを回転ミクロトーム(LeciaRM2245)で切断し、各試料からそれぞれ厚さ10μmの5枚の薄片に切り、微量遠心管にそれらを回収した。1mLのキシレンを加え、ボルテックスでかき混ぜ、14000rpmで2分間遠心することによってパラフィンの除去を実施した。上清を除き、沈殿物を1mLの100%エタノールに溶解した。14000rpmで2分間遠心し、エタノールを除いた後、残ったエタノールを蒸発させるために沈殿物を37℃で10分間インキュベートした。
【0097】
こうして得られた沈殿物を180μLのATL緩衝液(ドイツのキアゲン社から市販)(pH8.3〜8.5)に溶解し、20μLのプロテイナーゼK(活性600mAU/mL)を加えることによって消化した。プロテイナーゼ消化は、56℃にて1時間、試料の一定の穏やかな混合(1400rpm)により進行した。4μLのRNA分解酵素A(RNase A)(100mg/mL)を加え、常温にて2分間インキュベートすることによってRNAを除去した。AL溶解緩衝液(ドイツのキアゲン社から市販)(GuHClを含む、pH6.0)200μLを加え、70℃にてさらに10分間インキュベートし、200μLのエタノール(100%)を加えた後、DNeasy(登録商標)ミニスピンカラム(ドイツのキアゲン社から市販)のシリカ膜上に溶解物をピペットで移した。膜からDNAを吸着することが可能であるように遠心(8000rpm、1分間)することによって、膜を介して溶解物を処理した。500μLのAW1緩衝液(ドイツのキアゲン社から市販)(57%EtOHを含有するGuHCl)で膜を洗浄すること及びAW2緩衝液(ドイツのキアゲン社から市販)(pH7.5、70%EtOHを含有する)による第2の洗浄操作によって不純物を除いた。各場合、8000rpmで1分間遠心することによって膜を介して洗浄試薬を処理した。最後の洗浄操作の後、最大速度14000rpmで3分間遠心することによって膜を乾燥させた。最終的に、直接膜上で、50μLのAE溶出緩衝液(ドイツのキアゲン社から市販)(pH9.0、0.5mMEDTAの10mMトリス−Cl)をピペッティングし、次いで常温にて1分間インキュベートし、14000rpmで1分間遠心することによってDNAを溶出した。抽出はすべて3組(triplicate)で行った。
【0098】
アガロースゲル電気泳動によってDNA全体の未変化性及びサイズを解析した。これには、5μLの溶出緩衝液(50%グリセロール及びブロモフェノールブルーを含む)に適切な溶出物10μLを混合した。1×TBE緩衝液における0.8%のアガロースゲルに試料を適用した。電気泳動槽の長さのcm当たり約3.3ボルトで120分間にわたって電気泳動を行った。臭化エチジウムによる染色によってDNAを視覚化した。
【0099】
アガロースゲル電気泳動は、DNAが高い分子量を有することを示した。アガロースゲル上(図8)では、(a)肝臓、(b)腎臓、(c)脾臓及び(d)腸からのDNAが、分子量約21kDの明瞭な個々のバンドとして見ることができる。DNAの分解を示す明らかな歪みは実質的にない。
【0100】
結論:PCT/EP2008/052371に記載された固定用化学物質と組み合わせた浸透性の入れ物における固定は、処理し、パラフィン包埋した後でさえ、組織試料における高い分子量を持つDNAを維持できる結果となる。
【0101】
(実施例3)
<浸透性の入れ物にて固定された組織の組織像の維持>
実施例1で記載したように、浸透性の入れ物において、PCT/EP2008/052371に係る組成物A及び組成物Bの試薬にてラットの肝臓、腎臓、脾臓及び腸の組織試料を固定し、安定化した。その後、試料を処理し、パラフィンに包埋した。実施例1とは対照的に、固定は6時間持続し、PCT/EP2008/052371に係る組成物Bの試薬への移動後30時間で処理を開始した。工程8〜10においてキシレンの代わりにNeoclearを用い、パラフィンによる浸透(表1の工程11と12)において60℃の温度により、表1に記載されたプロトコールに従って、LeciaTP1020機器における処理を行った。
【0102】
組織学的分析については、回転式ミクロトーム(LeicaRM2245)によって厚さ4μmの組織切片を作成し、ガラスプレートに固定した。標準のプロトコール(表2)をよく見てシグマ社の色素によって、手作業で、ヘマトキシリンとエオシンとによる染色を行った。
【0103】
図9〜11は、肝臓(図9)、腎臓(図10)及び脾臓(図11)の形態を示す。左から右に、先ず切片全体の概観、次いで100倍拡大及び630倍拡大を示す。
【0104】
概観は、全体的な形態及び個々の組織の細胞構造が損なわれていないことを示している。高拡大(100倍)は、肝小葉(図9)、腎臓糸球体(図11)、脾臓における胚中心を有する小胞(図11)等の典型的な形態構造を示す。その上さらに高い拡大(630倍)では、個々の細胞を区別することができる。細胞質に対して細胞核を見ることができ、種々の細胞種を同定することができる。
【0105】
結論:PCT/EP2008/052371に記載された固定用化学物質と組み合わせた浸透性の入れ物における固定は、組織試料の組織像を特に有利に維持できる結果となる。
【0106】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
10mm、好ましくは5mmの最大の全体的高さを有する浸透性の入れ物(1、2、3)に試料を挿入し、
試料で満たされた入れ物を固定及び/又は安定化剤の中に浸漬し、
試料を固定及び/又は安定化する、試料を固定及び/又は安定化するための方法。
【請求項2】
10mmを超えて離れていない、好ましくは5mmを超えて離れていない、前記入れ物の壁(1)は、ふるい又は格子の形態であるか、あるいは細長い孔が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固定又は安定化に続いて、浸透性の入れ物(1、2、3)の中の固定及び/又は安定化された試料を、自動脱水機において脱水することを特徴とする前記先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が、ポリオール含有組成物を用いて固定及び安定化されることを特徴とする前記先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料を、試料の組織の形態を固定し且つ同時に試料の生体分子を安定化する剤を用いて処理することを特徴とする前記先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
(a1)10〜90体積%のメタノール、及び
(a2)少なくとも1つの追加の添加剤、及び
(a3)任意の酸、
を含有する第1の非水性組成物と、
99体積%までのエタノールを含む第2の組成物(B)とを用いて、試料を固定及び安定化することを特徴とする前記先行する請求項に記載の方法。
【請求項6】
脱水に続いて、試料をパラフィンに包埋し、浸透性の入れ物(1、2、3)をこのパラフィンに完全又は部分的に接続することを特徴とする前記先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
パラフィンに接続された入れ物又は入れ物の一部を、ミクロトームに固定することを特徴とする前記先行する請求項に記載の方法。
【請求項8】
脱水に続いて、試料をパラフィンに包埋し、パラフィンに包埋された試料の一部を、顕微鏡を用いて調査することを特徴とする前記先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
脱水に続いて、試料をパラフィンに包埋し、パラフィンを除去した後に必要であるならば、当該試料の生体分子を処理することを特徴とする前記先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
脱水に続いて、試料をパラフィンに包埋し、パラフィンに包埋された試料の一部を、顕微鏡を用いて調査し、この試験試料のほかの部分を、レーザーを用いて切除し、レーザーを用いて切除した試料の一部の生体分子を処理することを特徴とする前記先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
浸透性の入れ物の中の安定化された試料が、好ましくは超音波を用いることにより、粉砕され、試料は、好ましくは、粉砕の間、液体中に存在することを特徴とする前記先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
実質的に超音波が浸透性の入れ物のみに作用するように、超音波を整列しかつ焦点を合わせることを特徴とする前記先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
10mmを超えない、好ましくは5mmを超えない全体的高さを有する、前記先行する請求項のいずれか1項に記載の方法を実施するための浸透性の入れ物。
【請求項14】
入れ物の狭い面に好ましくは位置する縁の鋭い開口部を有する、前記先行する請求項に記載の浸透性の入れ物。
【請求項15】
脱着可能に、当該浸透性の入れ物に好ましくは連結した蓋(4)を有する、前記二つの先行する請求項のいずれか1項に記載の浸透性の入れ物。
【請求項16】
当該浸透性の入れ物の外に試料を押し出すためのプランジャー(7)を有する、前記三つの先行する請求項のいずれか1項に記載の浸透性の入れ物。
【請求項17】
当該浸透性の入れ物の中に、非固定及び非安定化試料を有する、前記四つの先行する請求項のいずれか1項に記載の浸透性の入れ物。
【請求項18】
前記五つの先行する請求項のいずれか1項に記載の浸透性の入れ物と、所定の寸法及び/又は体積を有する容器とを含むセット。
【請求項19】
前記浸透性の入れ物が、前記容器に、ポジティブ・ロック及び/又は摩擦の様式で連結されていることを特徴とする前記先行する請求項に記載のセット。
【請求項20】
試料の固定又は安定化のための所定の手段を含む、前記二つの先行する請求項のいずれか1項に記載のセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−535332(P2010−535332A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518690(P2010−518690)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060128
【国際公開番号】WO2009/016254
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】