説明

試料ホールダ,該試料ホールダの使用法、及び荷電粒子装置

【課題】本発明の目的は、冷却しながらの荷電粒子による加工もしくは観察を効率的に行うことに関する。特に、熱ダメージの影響が懸念されるような材料を冷却した状態で加工観察することに関する。また、荷電粒子を用いた試料加工法による影響を冷却により効果的に軽減することに関する。
【解決手段】本発明は、イオンビーム照射により試料から摘出された試料片を固定できる試料台と、該試料台を所望方向に回転させる回転機構と、を備え、イオンビーム装置と透過電子線顕微鏡装置に装着可能であり、前記試料台と冷却源とを熱的に接続する可動な熱伝達物と、前記試料台と該熱伝達物質を熱的に外界から隔離する隔離物質を有する試料ホールダに関する。本発明により、効率的に冷却しながら荷電粒子線による加工や観察を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子装置、例えば集束イオンビーム加工観察装置(FIB)により透過電子顕微鏡用試料を作製することに関する。
【背景技術】
【0002】
FIBは、荷電粒子を集束し試料に照射することにより、スパッタリング効果を利用して任意の形状に物体を加工することが可能な装置である。また、FIBは、目的の箇所から任意の場所をピックアップしてくることが可能である。
【0003】
特許第2774884号公報(特許文献1)に開示されている手法は、FIBマイクロサンプリング法と呼ばれている。FIBマイクロサンプリング法は、近年のナノテクノロジーの研究対象である数nmオーダーの状態や構造解析を電子顕微鏡などにより行う際、最も適した試料作製法である。
【0004】
一方、作製された薄膜試料を電子顕微鏡により観察する場合、電子線の影響で試料温度が上昇し、試料本来の形態や状態の解析が困難な場合がある。この問題に対して、特開平11−96953号(特許文献2)においては、試料を冷却しながら観察する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2774884号公報
【特許文献2】特開平11−96953号公報
【特許文献3】特開平10−275582号公報
【特許文献4】米国特許第5,986,270号公報
【特許文献5】特表2000−513135号公報
【特許文献6】特表2004−508661号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ohnishi T., Koike H., Ishitani T., Tomimatsu S., Umemura K., and Kamino T., Proc. 25th Int. Symp. Test. And Fail. Anal. (1999) 449-453.
【非特許文献2】James F. Ziegler、“The Stopping and Range of Ions in Matter”、[online]、[2009年4月13日検索]、インターネット(http://www.srim.org)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者が、透過電子顕微鏡用試料の作製について鋭意検討した結果、次の知見を得るに至った。
【0008】
FIBのような荷電粒子を用いた加工においても、条件によっては試料温度の上昇が起こる。熱に対して弱い,樹脂,低融点金属、及び低温相変化物などに対して、試料を冷却しながら加工することが有効と考えられる。しかし、加工の条件によっては、目的の冷却温度が得られない場合がある。荷電粒子の加工では、エネルギーを持った荷電粒子が試料加工位置に衝突し、そのエネルギーの一部はスパッタリングのために一部使われるが、残りのエネルギーは試料内に取り込まれ、熱エネルギーに変換される。この熱エネルギーは、試料内を伝達し、冷却部位に拡散することにより、一定時間の後には冷却温度近傍の温度に落ち着くことになる。しかし、荷電粒子の照射が与える熱エネルギーが、冷却部に向けた熱伝達量を上回った場合、試料の温度上昇が発生する。結果、冷却しながらの荷電粒子による加工は、試料の熱伝達特性や試料形態を考慮した上での、冷却温度や荷電粒子照射条件の適正な調整を必要とする。
【0009】
また、熱的損傷を受ける試料の多くは、試料自体の熱伝導率が低い。電子線観察に関して言えば、試料のチャージアップと熱伝導特性が熱的損傷に大きく寄与している。このような熱伝導率の低い試料を効率よく冷やしながら加工や観察する方法が望まれる。
【0010】
特許文献2に開示されている技術では、試料を包みこむような冷却部をホールダに設置して冷却する方式である。このため、試料の組成分析をエネルギー分散型X線分析(EDX)により行おうとしても、試料より発せられるX線が検出器まで届かない。結果、冷却機構付ホールダを使用し、EDX分析を行うことは困難である。また、冷却機構付ホールダはかろうじて冷却することしかできず、冷却システムの大きさによって回転角度の自由度が制限される。結晶性試料の観察では、二軸傾斜が必要であるが、冷却機構しながらの二軸観察は困難である。
【0011】
冷却加工及び観察の手法は、加工と観察の装置が異なる場合や、ホールダが異なる場合、試料を乗せかえる必要があった。電子顕微鏡観察用試料は、薄片化された微細なものであるため、取り扱いには細心の注意を必要とする。従って、試料作製から観察までそのまま行えるようなホールダが望まれる。
【0012】
また、近年のナノテクノロジーの進化により、微細化した特定領域をFIB加工により試料作製する必要性が高くなった。このような場合、FIB加工を随時中断し、電子顕微鏡にてその加工状況を判断しながら、FIB加工を進める工程が取られる。この場合でも、加工ホールダと観察ホールダが共通であることが有用になる。加工と観察で毎回試料の乗せ換えを行っていては、最終的な加工時間が長くなってしまう。
【0013】
さらには、冷却しながらのFIB加工である場合、人間が手作業にて試料の乗せ換えを行うのであれば、大気中に一度試料がさらされることとなる。一般的に、冷却物質を大気に触れさせると結露を起こし、試料表面は無数の氷で覆われてしまう。従って、冷却物をそのまま大気に触れさせることはできない。この結露を回避するためには、試料温度を冷却し加工していた状態から、一度室温に戻し、それから大気に暴露する必要がある。更に、手作業で観察用ホールダに乗せ換えた後、冷却観察のためにまた冷却する必要がある。ここでも時間を要するし、また、観察後、追加加工が必要であった場合、再度、試料を室温に戻し、手作業で加工ホールダに乗せ換え、加工のために冷却する必要がある。冷却及び、室温まで戻すための時間は、ともに15〜30分程度かかる。観察部位が小さくなればなるほど、加工と観察による確認作業は増えるため、冷却FIB加工において一連の作業時間は膨大になる。冷却FIB加工において試料の乗せ換え作業は最も懸念される工程である。冷却FIB加工においては、加工ホールダと観察ホールダは同じであることが望ましい。
【0014】
しかし、一方で、試料を複数個作製し、後でまとめて観察したいような場合がある。そのためには、ホールダから取り外すことの可能な試料台が必要である。尚、従来は、電子顕微鏡用メッシュがこの役目を担っており、必要に応じてこのメッシュを作り置きしておくことが可能であった。つまり、加工ホールダと観察ホールダは同じであり、取り外し可能な試料台を装備することができ、更に、冷却機構を有する加工観察システムが求められている。
【0015】
また、この異なる荷電粒子による加工観察を行き来する場合でも、それぞれの目的に応じた適切な試料向きがある。たとえばFIBでは薄膜面に平行方向からイオンビームを照射しながら加工する必要があり、逆に、電子顕微鏡での観察は電子線が薄膜面に垂直に照射される必要がある。異なる荷電粒子による加工・観察を行き来する場合、試料の向きを180度程度回転させる機構が求められる。
【0016】
本発明の目的は、冷却しながらの荷電粒子による加工もしくは観察を効率的に行うことに関する。特に、熱ダメージの影響が懸念されるような材料を冷却した状態で加工観察することに関する。また、荷電粒子を用いた試料加工法による影響を冷却により効果的に軽減することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、イオンビーム照射により試料から摘出された試料片を固定できる試料台と、該試料台を所望方向に回転させる回転機構と、を備え、イオンビーム装置と透過電子線顕微鏡装置に装着可能であり、前記試料台と冷却源とを熱的に接続する可動な熱伝達物と、前記試料台と該熱伝達物質を熱的に外界から隔離する隔離物質を有する試料ホールダに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、効率的に冷却しながら荷電粒子線による加工や観察を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】マイクロサンプル冷却用試料台の概略図、(a)加工用荷電粒子装置での試料と荷電粒子の位置関係、(b)観察用荷電粒子装置での試料と荷電粒子の位置関係。
【図2】荷電粒子による冷却加工条件決定のフローチャート。
【図3】荷電粒子による冷却加工のフローチャート。
【図4】冷却ホールダと、荷電粒子装置の試料ステージの一部、(a)冷却ホールダの全体像、(b)冷却ホールダ先端部の詳細構造、(c)冷却ホールダ先端部の詳細構造(シャッター使用時)、(d)冷却ホールダ終端部(取っ手を兼ねる)に存在する試料駆動機械構造周辺の詳細図。
【図5】装置と試料の位置関係、(a)FIB装置内での試料位置、(b)電子顕微鏡内での試料位置、(c)FIB−電子顕微鏡複合化装置内での加工に適した試料位置A、(d)FIB−電子顕微鏡複合化装置内での加工に適した試料位置B、(e)FIB−電子顕微鏡複合化装置内での観察に適した試料位置。
【図6】メッシュ対応二軸傾斜冷却ホールダ。
【図7】メッシュ対応一軸傾斜冷却ホールダ、(a)代表的一軸傾斜冷却ホールダ、(b)先端押さえのない、特殊な一軸冷却ホールダ。
【図8】加工条件登録ウィンドウ。
【図9】試料条件登録ウィンドウ。
【図10】適正加工条件算出結果表示ウィンドウ。
【図11】加工エリアおよび試料形状と名称の説明図、(a)FIB装置にて薄膜加工中の走査イオン顕微鏡像とエリア表示枠、(b)マイクロサンプルの概観図と各部名称の説明図、(c)薄膜部を紙面横方向から見た、断面概観図と、名称の説明図。
【図12】ドリフト補正ウィンドウ。
【図13】結露防止型冷却ホールダ。
【図14】冷却ホールダ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施例は、集束イオンビームによりマイクロサンプリング加工を施す際に、そのサンプルを効率よく冷却しながら加工し、作製された試料を電子顕微鏡にてそのまま冷却しながら観察することが可能な冷却ホールダや、該冷却ホールダを使用できるFIB加工観察装置や透過電子顕微鏡装置に関する。
【0021】
本実施例では、マイクロサンプルを直接冷却部に接着させ効率よく冷却しながら荷電粒子により加工や観察をしている。冷却部は取り外し可能な試料台である。試料台を保持するホールダは、冷却したままの状態で、試料の向きを、異なる荷電粒子により加工もしくは観察することに最適な向きとすることが可能な構造を有している。さらに、冷却したままで異なる荷電粒子加工と観察装置間を行き来することが可能な構造を有している。試料周辺に大きな空間を設け、イオンビームや試料から発せられるシグナル(例えば特性X線など)の経路を妨害しない構造を有している。
【0022】
冷却ホールダを使用する場合、装置内の環境によっては結露に代表されるような、凝固物質やコンタミが試料表面に付着する現象が生じる。液体窒素温度程度に冷却されたコールドフィンガーが試料近傍に存在する場合は、コールドフィンガーにこれらの凝固物質およびコンタミが吸着され試料に付着する問題は解決される。しかし、現存する荷電粒子加工装置において、コールドフィンガーに類似する機構は装備されていない。この問題を解決するため、試料の冷却源側とは異なる方向に微小熱伝達物を設けている。この構造によって、装置内において、試料よりも冷却された部分が試料近傍に存在する配置が実現されている。この配置は、実質的に、コールドフィンガーとしての役割を果たし、試料に凝固物質やコンタミが付着する問題を解決する。
【0023】
荷電粒子による加工では、試料の熱伝達特性,試料形態、及び目的冷却温度を考慮し、荷電粒子電流量と、照射時間と次の照射までの待ち時間を決定し、冷却効果を妨げない加工を行う。待ち時間を設ける加工では加工時間が長くなるため、試料のドリフトが加工に影響を及ぼす。この問題を解決するため、ドリフト補正を行いながらの加工を行う。
【0024】
実施例では、イオンビーム照射により試料から摘出された試料片を固定できる試料台と、該試料台を所望方向に回転させる回転機構と、を備え、イオンビーム装置と透過電子線顕微鏡装置に装着可能であり、試料台と冷却源とを熱的に接続する可動な熱伝達物と、前記試料台と該熱伝達物質を熱的に外界から隔離する隔離物質を有する試料ホールダを開示する。
【0025】
また、実施例では、可動な熱伝達物が、塑性変形のような原子のすべり現象を利用するか、又は物質同士のすべりを利用して熱を伝える物質もしくは構造物である試料ホールダを開示する。
【0026】
また、実施例では、可動な熱伝達物が、ホールダ長手方向の軸上で回転する自由度を持つ試料ホールダを開示する。
【0027】
また、実施例では、可動な熱伝達物が、ホールダ長手方向に伸縮する自由度を持つ試料ホールダを開示する。
【0028】
また、実施例では、試料片の向きをホールダ長手方向の軸上に180回転可能である試料ホールダを開示する。
【0029】
また、実施例では、試料片の向きを異なる二方向に回転可能である試料ホールダを開示する。
【0030】
また、実施例では、試料片を冷却する冷却源側とは異なる方向に熱を伝える物質又は機構を備え、前記試料片の近傍に温度分布を発生させ、前記試料片の近傍に該試料片より温度の低い物質を存在させる試料ホールダを開示する。
【0031】
また、実施例では、冷却源側とは異なる方向に熱を伝える物質又は機構が、タングステン,モリブデン、又はタンタルのいずれかを用いたヒータを有し、温度勾配を電気的にコントロールする試料ホールダを開示する。
【0032】
また、実施例では、荷電粒子装置間を移動する際に試料片を保護するための、装置外部から可動させることが可能なカバーを有する試料ホールダを開示する。
【0033】
また、実施例では、試料ホールダの使用法であって、荷電粒子による前記試料片の加工又は観察において、荷電粒子を試料に照射する単位時間と、その次に同じ場所を照射するまでの待ち時間を設け、それらを調整することにより試料の温度上昇を防ぐ方法を開示する。
【0034】
また、実施例では、試料ホールダを装着できる荷電粒子装置であって、試料片の熱伝導率,比熱,放射率,比重,試料片が熱的に安定な許容温度,荷電粒子との相互作用特性,試料片の形状,荷電粒子装置の加速電圧,プローブ電流,観察領域,加工領域,加工倍率,観察倍率、及び/又は試料冷却温度に基づいて、荷電粒子線を照射する単位時間と、その次に同じ場所に荷電粒子線を照射するまでの待ち時間を設定できる荷電粒子装置を開示する。
【0035】
また、実施例では、単位時間、及び待ち時間を、試料片の熱伝導率,比熱,放射率,比重,試料片が熱的に安定な許容温度,荷電粒子との相互作用特性,試料片の形状,荷電粒子装置の加速電圧,プローブ電流,観察領域,加工領域,加工倍率,観察倍率、及び/又は試料冷却温度に基づいて自動的に算出する荷電粒子装置を開示する。
【0036】
また、実施例では、荷電粒子装置の加速電圧,プローブ電流,観察領域,加工領域,加工倍率,観察倍率、及び/又は試料冷却温度の情報を取り込み、加工条件や観察条件の算出を行い、該条件で加工や観察を行う荷電粒子装置を開示する。
【0037】
また、実施例では、試料片の熱伝導率,比熱,放射率,比重,試料片が熱的に安定な許容温度、及び/又は荷電粒子との相互作用特性を試料片の物性データとして保存し、必要に応じて読み込む荷電粒子装置を開示する。
【0038】
また、実施例では、試料片の所望箇所を正確に加工する際に、該試料片のドリフトによる移動を検出し、加工位置を補正する荷電粒子装置を開示する。
【0039】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果について、図面を参酌して説明する。尚、図面は専ら発明の理解のために用いるものであり権利範囲を限定するものではない。また、各実施例は適宜組合せることが可能であり、これら組合せ形態についても本明細書では開示している。
【実施例1】
【0040】
図1に、本実施例におけるマイクロサンプル冷却用試料台の概略図を示す。マイクロサンプル1は、例えばFIBマイクロサンプリング法などで作製されたマイクロ試料である。加工観察領域2は、通常の加工観察では10μm平方以下である。この微小領域に、荷電粒子A5(例えばイオンビーム)を照射するための空間4を設けており、マイクロサンプルは、冷却源に連結され冷却されている冷却試料台3に直接接着されている。
【0041】
観察では、マイクロサンプル1に垂直な方向から荷電粒子B6(例えば電子線など)を照射し、冷却しながらの観察が可能である。加工においても、観察においても荷電粒子照射領域は微小領域であるが、冷却効果を高めるためには、そこで発生した熱を効率よく排出する必要がある。本実施例では、加工観察領域2が冷却試料台3に数μm以下の距離で近接した構造をとるため、冷却効果が高い。試料から発せられるシグナル7は、空間4を通過し、効率よく検出器により検出される。
【0042】
冷却試料台3を紙面縦方向、及び横方向に回転可能な機構が設けられており、目的に応じた加工や観察が可能である。また、冷却試料台3は、冷却ホールダ8から取り外せる機構を有する。冷却試料台3を保持する冷却ホールダ8は、冷却したままの状態で、異なる荷電粒子装置間を行き来することが可能な構造を有する。
【0043】
冷却によって凝固する物質を選択的に吸着するコールドフィンガーのような機構を持たない装置で冷却ホールダ8を使用する場合には、試料の冷却源側とは異なる方向に故意に熱を伝える微小熱伝達物を設け、試料近傍に温度勾配をつくる。この温度勾配によって、試料近傍に試料より低い温度の部分が設けられる。
【0044】
荷電粒子による加工では、図2に示すフローチャートに従う。加工条件の初期設定9により、加工領域10,加工電流11、及び加工加速電圧12などを設定する。次に、試料条件の設定13により、試料の熱伝導率14,試料破壊温度15,熱放射率16、及び外部冷却温度17などを設定する。そして、適正な加工条件の算出18を行うことにより、荷電粒子の単位ビーム照射時間19と、ビーム照射待ち時間20を決定する。上記手段により試料の熱伝達特性,試料形態、及び/又は目的冷却温度を考慮し、荷電粒子電流量と、照射時間と次の照射までの待ち時間を決定し、冷却効果を妨げない加工を行う。
【0045】
この待ち時間を設ける加工においては、試料ドリフトを考慮し、以下の方法を講じる。図3に示すフローチャートに従い、加工領域の設定21,加工時間の設定22により、加工条件の決定23を行う。この決定作業のフローチャートは図2に示すものであり、荷電粒子の単位ビーム照射時間19と、ビーム照射待ち時間20を決定するものである。この際、既に登録した試料データ34が装置から参照可能な情報システム上に存在すれば、毎回試料情報を入力することなしに、その試料データ34を参照し加工条件の決定23を行うことができる。ドリフト補正時間の設定24,ドリフト補正基準位置の設定25を行い、加工開始26を行う。加工が開始されると、加工のためのビーム照射27が、加工条件の決定23で導かれた単位ビーム照射時間19に相当する時間行われる。次に、次の加工までの待ち時間28が設けられる。この待ち時間は、加工条件の決定23で導かれたビーム照射待ち時間20である。加工時間に達したか確認29をすることにより、トータルの加工時間が加工時間の設定22を越えると、加工終了33により終了する。それまでの間は、ドリフトを補正しながら加工を続ける。ドリフト補正は、最終ドリフト補正からのトータル経過時間がドリフト補正時間に達したか確認30し、達してなければ加工のためのビーム照射27にもどる。達していれば、基準位置が動いていないか確認31し、動いていなければ加工のためのビーム照射27にもどる。動いていれば、基準位置の移動に相当する量、加工領域を移動32する。その後、加工のためのビーム照射27にもどり一連の加工を続ける。
【0046】
図4に、本実施例における冷却ホールダと、荷電粒子装置の試料ステージの一部を詳細に示す。
【0047】
マイクロサンプル1を搭載する冷却試料台3は、冷却歯車A35にセットされている。冷却歯車A35は、冷却パイプ36上に軸を設けている。ここで、マイクロサンプル1を冷却試料台3に固定するまでのプロセスは既存であるため(Ohnishi T., Koike H., Ishitani T., Tomimatsu S., Umemura K., and Kamino T., Proc. 25th Int. Symp. Test. And Fail. Anal. (1999) 449-453.(非特許文献1)参照)、ここでは記述を省略する。尚、非特許文献1の開示内容は、本明細書における開示内容の一部を構成する。冷却歯車A35は、冷却シャフト37の先端に設けられた冷却歯車B38によって回転をコントロールされる。冷却歯車A35の回転により、マイクロサンプル1は紙面縦軸での回転を与えられる。ここで、冷却シャフト37は、冷却パイプ36内に設けられた熱シールド軸受け56,57によって支持される。冷却試料台3は、加工観察の終了後、任意に冷却歯車A35から取り外し可能であり、任意の機会に再度セットし、加工観察することも可能である。
【0048】
マイクロサンプル1は、冷却試料台3,冷却歯車A35,冷却歯車B38,冷却シャフト37,冷却歯車C39,フレキシブルヒートコンダクタ40,冷却ロッド41、及びフレキシブルヒートコンダクタ42を介して冷却源に接続されている。また、マイクロサンプル1は、冷却試料台3,冷却歯車A35,冷却パイプ36,冷却ロッド41、及びフレキシブルヒートコンダクタ42を介しても冷却源に接続されている。マイクロサンプル1は、冷却源の温度近傍に冷却される。上記構造によって、マイクロサンプル1の周辺部が全て冷却された構造となり、試料冷却効率が高い。ここで、フレキシブルヒートコンダクタ40は、原子レベルのすべりにより生じる塑性変形を利用したものであっても良いし、物理的なすべりを利用した機械的なフレキシブルヒートコンダクタであっても良い。
【0049】
冷却源は冷却源容器内側44内に保持され、熱シールド45で熱的に隔離された冷却源容器外側46により外界から隔離されている。冷却源容器内側44と冷却源容器外側46の間は真空であり、これもまた熱的な外界との隔離を保持する役目を果たす。
【0050】
冷却シャフト37終端部には冷却歯車C39があり、熱シールド歯車A47,歯車48,シャフト49、及びギアボックス50を介しモータ51に連結されている。モータ回転読み出しケーブル53により、図には表記されていないモータコントローラにより試料回転角度を算出し、目的の試料回転角になるよう、モータコントローラからモータ電源ケーブルを介し適正なモータ51の操作を与える機構を備える。
【0051】
ホールダ回転パーツ外壁54は、冷却シャフト37,冷却パイプ36,ギアボックス50、及びモータ51などを内包しており、熱シールド58,熱シールド60,熱シールド61、及び熱シールド62により冷却パイプ36と熱的に隔離されている。ホールダ固定パーツ55は、さらにホールダ回転パーツ外壁54を同心円状に内包しており、これらの間には可動熱シールド59及びO−リング65が設けられている。ホールダ固定パーツ55にはガイドピン72が設けられており、O−リング66を介して装置ホールダ受け67、及び装置ホールダ受け68に接する。冷却ホールダ8全体の装置に対する位置関係は、ガイドピン72によって基準付けられる。
【0052】
荷電粒子による加工装置や観察装置は、様式の異なる装置が多種存在する。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)の場合、生体試料観察向けの加速電圧100KV、半導体デバイスや材料向けの加速電圧200KV、高分解能観察向けの加速電圧300KVなどがある。これらの電子顕微鏡の統一を困難にしている本質的な一つの問題は、鏡体の直径の違いである。そして、鏡体の直径の違いによって、上記三種の装置は、試料位置とホールダをコントロールするための装置に付属したステージの距離が異なる。ガイドピン72は、ホールダとステージの位置関係を決定するためのものであり、一つのホールダを用い全ての装置で観察を行おうとした場合、ガイドピン72は先端からの距離を装置に合わせて変更できる必要がある。本実施例ではこのことを考慮し、ガイドピン72は、加速電圧100,200、及び300KV用に三つの位置を取りえる構造となっている。
【0053】
ホールダ固定パーツ55は、装置にセットされたままの状態をとる。一方、ホールダ回転パーツ外壁54は、内包するもの全てを、ホールダ固定パーツ55とは関係無く、紙面横軸上の回転で任意の向きに回転させることができる。ホールダ回転パーツ外壁54は、図示されないモータ駆動によって、電気的に回転させる機構を備えることも可能である。異なる装置間の移動では、目的の装置に最適な試料向きとなるように、ホールダ回転パーツ外壁54を回転させる。フレキシブルヒートコンダクタ42は、この回転による影響を受けることはなく、常に冷却源43と冷却ロッド41を熱的に接続する。
【0054】
また、装置間の移動において、搬送中の試料破損や汚れを回避するために、シャッター70を設けている。シャッター70は、装置内では70aの位置、搬送中は70bの位置にて使用され得る。また、シャッター70は、加工や観察中であっても、外側に引き出されたシャッター操作部71によって、任意に作動させることが可能である。また、シャッター操作部71は、図示されていない、既知の機械的操作部にさらに連結され、モータ駆動に変更することが可能である。
【0055】
装置と試料の代表的な位置関係を、図5を用いて示す。図5において、紙面垂直方向が、冷却ホールダ8の長手方向である。薄膜試料を作製するFIB装置内では、図5(a)に示すように、FIB対物レンズ73から放出される荷電粒子A5と平行に薄膜試料が配置され、加工観察面A77および加工観察面B78を交互に加工することによって、冷却したまま薄膜試料が作製される。
【0056】
作製された薄膜試料を観察する電子顕微鏡内では、図5(b)に示すように、薄膜試料は荷電粒子B6(ここでは電子線)に対してほぼ直角に配置され、透過波75などを用い、冷却した状態で試料観察が行われる。また、試料から発せられるシグナル7(例えば特性X線)は、図示されない空間4を通過して効率良く検出され、試料評価に利用され得る。この観察において、結晶構造をとる試料では、試料傾斜を紙面縦方向や面内方向への回転が必要となる。上記、試料回転機構の存在によってこの目的は容易に達成される。
【0057】
FIB装置と電子顕微鏡が複合化した装置においては、試料を加工しながらその加工面に現れている構造を観察することができる。特に、特定の形状をした試料を、薄膜厚さ方向の正確な位置にて薄膜内にとどめて薄膜試料作製したいような場合、上記複合化装置は有効性を発揮する。例えば、半導体デバイス内の微細プラグの真断面を薄膜化するような場合に、この複合化装置は使用されている。この複合化装置では、加工観察面A77を荷電粒子A5(ここでは集束イオンビーム)によって加工しながら荷電粒子B6(ここでは電子線)によって観察する。プラグの真断面を薄膜化する場合、まず、図5(c)に示すように、加工観察面A77を加工しながら観察し、目的のプラグが見えてくるまで加工を続ける。プラグが見えてきたら、図5(d)に示すように加工観察面B78を加工しながら観察し、目的のプラグが見えてくるまで加工を続ける。この工程を繰り返し、加工観察面A77と加工観察面B78に観察されるプラグ径が等しくなるように、薄膜試料を作製する。結果、この複合化装置を使用すると、容易に目的のプラグを薄膜内に収めた状態で真断面を薄膜化することができる。上記加工プロセスで加工観察面A77と加工観察面B78を装置内で冷却したまま変更するためには、紙面縦方向を軸とした180度横回転が必要であるが、本実施例はそれを可能としている。
【0058】
上記複合化装置で、さらに、作製された薄膜試料を冷却した状態でそのまま詳細に観察したい場合、薄膜試料は荷電粒子B6(ここでは電子線)に対して図5(e)に示すように直角に配置することが望ましい。図5(e)では、FIB対物レンズ73,荷電粒子A5の図示を省略している。さらに、結晶構造の評価のためには二軸での試料回転が求められるが、本実施例はこの目的も満たすことができる。
【0059】
本実施例では、マイクロサンプル1を取り外し可能な冷却試料台3に直接固定し、効果的に冷却しながら加工や観察を一つの冷却ホールダで行うことができる。
【実施例2】
【0060】
図6に、本実施例におけるメッシュ対応二軸傾斜冷却ホールダを詳細に示す。冷却ホールダ先端部以外は、実施例1に記載の構造と同じであるため、記述を省略する。加工観察装置間の移動に伴う大きな試料向き調整は、実施例1と同様の機構や方法で行うためこれも記述を省略する。以下、実施例1との主な相違点を中心に説明する。
【0061】
マイクロサンプル1は、メッシュ型の冷却試料台3に付着されており、さらに、冷却試料台3は、冷却回転台79に固定プレート80と固定ネジ81を用いて固定される。固定ネジ81を緩めたり、締めたりすることにより、容易にメッシュ型の冷却試料台3を冷却ホールダから取り外し及び装着することが可能である。
【0062】
冷却回転台79は、冷却シャフト37とフレキシブルヒートコンダクタ82により熱的に連結されている。マイクロサンプル1は、冷却試料台3,冷却回転台79,フレキシブルヒートコンダクタ82、及び冷却シャフト37などを介して、実施例1同様に冷却源43と熱的に連結され、効率よく冷却される。装置側の温度は、先端熱シールド63,熱シールド84,熱シールド60、及び可動熱シールド59などによって遮断され、マイクロサンプル1に伝わることはない。
【0063】
冷却回転台79は、回転軸83によって、冷却パイプ36に固定されている。ばね85は、冷却回転台79を下に押さえつけており、冷却回転台79を紙面縦方向の軸上で回転させる力を加える。一方、冷却シャフト37に固定された冷却回転台押さえ棒87は、ばね85が冷却回転台79に与える回転力をとめる力を与える。実施例1で示したモータ51によって冷却シャフト37を回転させることにより、冷却回転台押さえ棒87の回転軸83に対する位置を変更できる。この冷却回転台押させ棒87のコントロールによって、マイクロサンプル1の紙面縦方向の軸上での回転量をコントロールすることができる。モータ回転量と試料傾斜量は、回転機構の構造によって決定されるため、モータ回転量を読み出すことにより、適切なモータコントロールによる試料傾斜量の調整を行うことができる。紙面横軸方向の軸上での回転は、冷却ホールダ全体を荷電粒子装置側のホールダ受けステージで行うことも可能であり、また、ホールダ回転パーツ外壁54をモータ駆動によって回転させることも可能である。
【0064】
本実施例でも、マイクロサンプル1を取り外し可能な冷却試料台3に直接固定し、効果的に冷却しながら加工や観察を一つの冷却ホールダで行うことができる。
【実施例3】
【0065】
図7に、本実施例におけるメッシュ対応一軸傾斜冷却ホールダを示す。冷却ホールダ先端部以外は、実施例1に記載の構造と同じであるため、記述を省略する。加工装置と観察装置間の移動に伴う大きな試料向き調整は、実施例1と同様の機構や方法で行うため、これも記述を省略する。以下、実施例1及び2との主な相違点を中心に説明する。
【0066】
マイクロサンプル1は、メッシュ型の冷却試料台3に付着されており、さらに、冷却試料台3は、冷却回転台79に固定プレート80と固定ネジ81を用いて固定される。固定ネジ81を緩めたり、締めたりすることにより、容易にメッシュ型の冷却試料台3を冷却ホールダから取り外し及び装着することが可能である。
【0067】
冷却回転台79は、冷却シャフト37と連結されている。マイクロサンプル1は、冷却試料台3,冷却回転台79、及び冷却シャフト37などを介して、実施例1同様に冷却源43と熱的に連結され、効率よく冷却される。冷却回転台79の先端側は、ばね89によって熱シールド88が押さえつけられており、冷却回転台79の観察中の振動を抑える。装置側の温度は、先端熱シールド63,熱シールド84,熱シールド60、及び可動熱シールド59などによって遮断され、マイクロサンプル1に伝わることはない。
【0068】
冷却回転台79は、モータ駆動による冷却シャフト37の回転によって、紙面横方向の軸上での回転を自在に与えられる。また、ホールダ回転パーツ外壁54全体を回転させることでも回転を加えられるし、装置側のホールダ受けステージの傾斜機構によって冷却ホールダ全体を紙面横方向の軸上で回転させることができる。
【0069】
本実施例でも、マイクロサンプル1を取り外し可能な冷却試料台3に直接固定し、効果的に冷却しながら加工や観察を一つの冷却ホールダで行うことができる。また、本実施例は、上記二つの実施例に比べ構造が簡素であるが、熱伝導特性が最も優れ冷却効率が高い。傾斜の自由度が許される試料に適した冷却ホールダである。
【0070】
図7(b)は、さらに冷却効率を高めた構造である。冷却回転台79の熱シールド88を無くし、ホールダ先端からの熱伝導を完全に遮断した構造である。この構造は、加工に重点を置く場合に有効であり、効率よく試料を冷却しながら加工することが可能である。電子顕微鏡などでの観察は、一軸傾斜の範囲内で観察及び分析をおこなう。
【実施例4】
【0071】
本実施例における冷却加工法、及び加工条件算出を説明する。
【0072】
荷電粒子による冷却加工では、図2に示すフローチャートに従って、加工条件の初期設定9により、加工領域10,加工電流11、及び加工加速電圧12などを設定する。次に、試料条件の設定13により、試料の熱伝導率14,試料破壊温度15,熱放射率16、及び外部冷却温度17などを設定する。そして、適正な加工条件の算出18を行うことにより、荷電粒子の単位ビーム照射時間19と、ビーム照射待ち時間20を決定する。上記手段により、試料の熱伝達特性,試料形態、及び/又は目的冷却温度を考慮し、荷電粒子電流量と、照射時間と次の照射までの待ち時間を決定し、冷却効果を妨げない加工を行う。
【0073】
図8に、加工条件初期入力ウィンドウ90を示す。加速電圧入力91,プローブ電流入力92,加工幅入力93、及び加工倍率入力94を行い、登録ボタン95を押すと、条件が入力される。加工装置内において各条件はデジタル情報として読めるため、本実施例では、装置リンク有効チェック96,97,98、及び99を備え、自動的に情報が表示される機能を有する。オペレータは使用中の条件と表示データに相違がないか確認する程度でよい。
【0074】
図9に、試料情報入力ウィンドウ100を表示する。このウィンドウでは、主に試料に関する情報を入力する。本実施例では、試料情報セーブボタン101、及び試料情報ロードボタン102を備え、試料情報を毎回入力する手間を省くことができる。以下、入力情報を説明する。試料名入力103,熱伝導率入力104,比熱容量入力105,放射率入力106,比重入力107,加工時に生じるダメージ層の厚さ入力108,許容温度入力109、及びイオンビーム衝撃係数入力110までが、試料本来の物性に関するものであり、試料が同じであれば毎回試料データをロードして使用することができる情報である。ここで、一般的物理定数に関しては記述を省略する。加工時に生じるダメージ層の厚さとは、FIB加工によって加工表面に生成する試料本来の状態と異なる層の厚さであり、Siであれば非晶質の領域のことを指す。許容温度とは、試料が試料本来の状態から変化し得る温度のことであり、仮に、氷結晶を薄膜化したいのである場合には0℃以下が許容温度になる。イオンビーム衝撃係数とは、入射したエネルギーの内、試料をスパッタリングして削るためのエネルギーに使用されず、例えばイオン打ち込みなどによって、試料の温度上昇に寄与するエネルギーの割合を指す。実験データが得られている試料であればその値を入力するが、現状では実測値が少ないため、モンテカルロシミュレーションを用いた算出法が当面の算出法となる。イオンビームが試料に照射された際の、イオン挙動を計算するモンテカルロシミュレーション法は代表的なものとしてJames F. Zieglerによる“The Stopping and Range of Ions in Matter(非特許文献2)”が既存する。モンテカルロシミュレーションについての詳細は、本実施例に直接かかわるものではないため、記述を省略する。尚、非特許文献2の開示内容は、本明細書における開示内容の一部を構成する。
【0075】
試料情報入力ウィンドウ100では、さらに、試料形状の入力として、試料厚さ入力111,試料の加工奥行き方向のサイズ入力112、及び加工面の加工装置での観察幅入力113がある。試料厚さとは、薄膜の厚さのことであり、図11(b)に示す薄膜加工領域の薄膜厚さ138を指す。試料の加工奥行き方向のサイズとは、図11(b)に示すマイクロサンプル1の高さのことであり、マイクロサンプル1を冷却試料台3に取り付けたときに測っておく必要がある。しかし、加工によって変化しない値であるため一度入力すればよい。薄膜加工において図11(b)に示す薄膜断面を横から見ると、通常図11(c)に示すような形状となっており、加工面の加工装置での観察幅とは、この加工面のスロープを真上(FIB装置で加工中観察している方向)から見るときの幅139を指す。薄膜厚さ138、及び薄膜試料加工面の観察幅139は、加工中常に変化し、毎回の入力及び条件の再計算を必要とするが、これに関しても、装置リンク有効チェック114、及び115を備え、装置側の加工画像表示画面から情報を転送する機能を有する。加工画面とは、図11(a)を指し、薄膜試料加工面の観察幅測定枠135、及び薄膜厚さ測定枠136を観察される走査イオン顕微鏡(SIM)像の画面上でそれぞれ、加工面、及び薄膜部に合わせることにより自動的に側長され、結果が試料厚さ入力111、及び加工面の加工装置での観察幅入力113に転送される。また、薄膜厚さに関する装置リンクとしては、例えばFIB装置とSEMやSTEM装置を複合化させたような場合においては、SEMやSTEM装置側で試料から得られるシグナルを解析することにより得られる薄膜厚さ測定情報を転送することも可能である。ここで、SEMやSTEM装置による薄膜厚さ測定とは、反射電子を利用する方法、透過側の高角散乱波を利用する方法、及び電子エネルギー損失分光法(EELS)を利用する方法を指す。これらは既存技術であるため、詳細の記述は省く。
【0076】
試料情報入力ウィンドウ100では、さらに、冷却温度入力116にて冷却ホールダによる試料冷却温度を入力する。これもまた、装置リンク有効チェック117によって熱伝対(図4には示されない)にて測定されたホールダ冷却温度が転送される。
【0077】
試料情報入力ウィンドウ100は、さらに、複雑な試料形態である場合を考慮し、経験に基づいた加工条件補正を行える機能を有する。具体的には、特殊条件有効チェック118を備え、算出される単位イオンビーム照射時間128、及びビーム照射待ち時間129を単位イオンビーム照射時間調整量119、及びビーム照射待ち時間調整量120にて補正することができる。入力は各単位で設定することもできるし、算出された結果に対して割合で設定することもできる。
【0078】
以上、必要情報を入力し、決定ボタン125を押すと、条件の算出が行われる。本実施例における条件算出は、単位イオンビーム照射の試料加工表面に与える温度上昇が試料に影響を与えないような単位イオンビーム照射時間128、及び単位イオン照射によって与えた熱量が、次の単位照射までに冷却部に十分伝達されるまでの時間を考慮したビーム照射待ち時間129について行う。
【0079】
算出法を以下に示す。試料許容温度をMT、試料冷却温度をTg、及び単位イオンビーム照射によって試料表面の温度が上昇する量をdTとする。本実施例ではdTとして
dT=(MT−Tg)/3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・式(1)
なる条件を設定している。この設定条件は、様々なケースが考えられるので、全てについては記述を避ける。次に、単位イオンビーム照射が試料に温度として与えるエネルギーJは上記入力情報を用いて
J=A・t・V・Ef ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・式(2)
示される。ここでプローブ電流をA、ビーム照射時間をt、加工加速電圧をV、及びイオンビーム衝撃係数をEfとする。イオン照射が試料に与えるエネルギーJとそのイオン照射によって瞬間的に上昇する加工表面温度dTとの間には
dT=J/(g・C) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・式(3)
の関係が成り立つ。ここで、gは加工表面の質量である。本実施例では、ダメージ層程度の厚さ分が、イオンビームが瞬間的に影響を与える領域とし、ダメージ層に相当する質量を加工表面の質量としている。また、Cは比熱である。上記式(1),(2),(3)より、ビーム照射時間tは以下で示される。
t=(dT・g・C)/(A・V・Ef) ・・・・・・・・・・式(4)
【0080】
FIB加工装置では、加工画面の1Pixelごとにビームを滞在させて加工していく方法により加工しており、一般的にその時間をDwell Timeと呼んでいる。上記倍率入力情報から、加工中の装置における1Pixelと実際の距離は対応が容易に取れる。条件算出では、一度Pixel単位のビームが照射する領域を求め、その部分について上記計算を行ってDwell Time、つまり本実施例で言う単位イオンビーム照射時間を求める。
【0081】
一方、ビーム照射待ち時間では、単位イオンビーム照射により加えられた熱エネルギーが定常状態まで緩和するまでの時間を求める。モデルとしては、薄膜にイオンビームがある時間間隔で照射され続ける場合を考える。ある一定時間の後には、平均的試料温度は一定となり、冷却部に向けた定常的な熱の流れが生じているはずである。この時の熱流量Qは
Q=−λgradT・S ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・式(5)
で示される。ここで、λは熱伝導率、Tは温度であり、gradTは温度勾配、Sは薄膜が十分冷却された加工されていない部分と接している断面積である。温度勾配は、平均試料温度Ts、冷却温度Tg、及び薄膜幅Wによって、簡易的には
gradT=2・(Ts−Tg)/W ・・・・・・・・・・・・・・式(6)
で示される。より詳細に算出を行いたい場合は、薄膜幅方向にx座標を設け、温度分布シミュレーションを行えばよい。一般的に薄膜の両端が冷却部に接しており、全体に一様な熱が加えられるようなモデルでは、弓なりに中心の温度が高く、両端で落ち込んだ分布となる。いずれも、上記入力情報から算出できるパラメータである。
【0082】
さらに、単位イオンビーム照射によって加えられた熱エネルギーJと流出する熱流量Qとの間には
J=Q・tw ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・式(7)
の関係が成り立つ。ここで、twは緩和時間であり、必要なビーム照射待ち時間に相当する。
【0083】
一方、寄与は少ないが試料から流出する熱は熱伝導のほかに、放射熱Rがある。放射熱Rは薄膜試料の場合、単位時間当たり
R=2・σ・ε・S表面・(Ts4−Ta4) ・・・・・・・・・式(8)
の熱を放出する。ここで、σはシュテファン=ボルツマン定数で5.67×10-8[Wm-2-4]の値を持つ。εは試料の放射率である。S表面は薄膜の表面積で、放射に寄与する面積である。薄膜の場合ほとんど、薄膜面積に近似される。Taは試料を取り囲む物質の表面温度である。放射熱Rを考慮すると式(7)は以下のようになる。
【0084】
J=(Q+R)・tw ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・式(9)
【0085】
従って、
tw=J/[λgradT・S+2・σ・ε・S表面・(Ts4−Ta4)]・・・式(10)
で示される。本実施例では平均的な試料温度から瞬間的温度上昇が許容温度を超えないように、試料温度Tsを
Ts=(MT−Tg)/6+Tg ・・・・・・・・・・・・・式(11)
として設定いるが、これはあくまでも一例としての設定であり、様々な設定法が考えられる。
【0086】
上記、入力と上記算出によって、単位イオンビーム照射時間128,ビーム照射待ち時間129は、それぞれ1.2μs,0.117msと算出される。結果は、図10に示すような条件算出結果ウィンドウ127に表示される。条件登録ボタン131は、条件を確認後、登録するためのボタンである。この登録の際、オペレータが、各値を算出値より若干修正して登録することも可能である。さらに予備計算として、算出された単位イオンビーム照射時間、及び加工幅で、同じ加工Pixelにちょうどビーム照射待ち時間経ってから戻って来るような加工エリアの高さ130も参考までに算出する。もともと設定した加工領域がこの高さより大きい場合は、各加工Pixelに次の加工ビームが照射されるまでの待ち時間が、必要な待ち時間を上回るため、そのまま加工を行ってよい。一方、はじめに設定した加工エリアの高さがこの推奨高さより小さい場合は、この高さまで加工領域を広げるか、もしくは、設定領域を加工スキャン後、必要な時間待ってから、次の加工スキャンに入る必要がある。本実施例ではそのいずれの対応も可能とし、オペレータが自在に加工領域を設定すれば、装置側が必要な条件でイオンビームの照射を行う。
【0087】
また、試料情報入力ウィンドウ100で、加工条件自動調整有効ボタン126を押しておけば、全てのリンク機能が有効となる。加工領域を画面上で設定し、加工を開始させると、条件を自動算出し、適切な単位イオンビーム照射時間128、及びビーム照射待ち時間129にて加工を始める。
【0088】
本実施例によって、冷却加工の試料条件を初めに一度登録しておけば、あとは自在に加工領域を設定することが可能であり、詳細なパラメータ及び照射手順は装置が判断してくれる冷却荷電粒子加工装置が実現される。
【0089】
仮に、薄膜厚さが50nmまで薄くなり、試料加工スロープの傾きが増え、加工面の加工装置での観察幅が150nmと増えた状態での同条件での算出結果はDT=0.4μs、Interval=0.35msとなる。推奨加工幅は15nmであり、通常の加工領域より狭いため、通常の設定領域でそのまま加工が行われる。
【実施例5】
【0090】
本実施例における冷却加工法を説明する。
【0091】
試料を冷却せずにイオンビーム加工による温度上昇を軽減した効果を得るには、実現困難な微量照射、及び照射待ち時間を要する。冷却しながらの加工は、少しでも短い照射待ち時間でその効果を実現するために有効な手段である。しかし、冷却加工は、荷電粒子の照射量、及び照射頻度が、実施例4で記述したように低くなるため、加工に要するトータル時間が、イオンビームによる試料温度上昇を考慮する必要のない通常のイオンビーム加工に比べれば長くなる。
【0092】
この長い加工時間の間、試料はドリフトを起こし、加工領域が移動してしまう。本実施例では、試料ドリフトを考慮し、以下の方法を講じる。図3に示すフローチャートに従い、加工領域の設定21,加工時間の設定22、及び加工条件の決定23を行う。この決定作業のフローチャートは図2に示すものであり、荷電粒子の単位ビーム照射時間19と、ビーム照射待ち時間20を決定するものである。この際、既に登録した試料データ34が装置から参照可能な情報システム上に存在すれば、毎回試料情報を入力することなしに、その試料データ34を参照し加工条件の決定23を行うことができる。詳細は実施例4に記述したので、ここでは記述を省略する。
【0093】
ドリフト補正時間の設定24、及びドリフト補正基準位置の設定25を行い、加工開始26を行う。加工が開始されると、加工のためのビーム照射27が、加工条件の決定23で導かれた単位ビーム照射時間19に相当する時間行われる。次に、次の加工までの待ち時間28が設けられる。この待ち時間は、加工条件の決定23で導かれたビーム照射待ち時間20である。加工時間に達したか確認29をすることにより、トータルの加工時間が、加工時間の設定22を越えると、加工終了33により終了する。それまでの間は、ドリフトを補正しながら加工を続ける。ドリフト補正は、最終ドリフト補正からのトータル経過時間がドリフト補正時間に達したか確認30し、達してなければ加工のためのビーム照射27にもどる。達していれば、基準位置が動いていないか確認31し、動いていなければ加工のためのビーム照射27にもどる。動いていれば、基準位置の移動に相当する量、加工領域を移動32する。その後、加工のためのビーム照射27にもどり一連の加工を続ける。
【0094】
図12に、ドリフト補正ウィンドウを示す。ドリフト補正ウィンドウ140は、ドリフト補正時間141、及びドリフト補正基準エリア設定ボタン142により、荷電粒子走査画面上で任意の箇所をドリフト補正基準エリアとして設定し、任意の時間でドリフト補正を行う設定をするためのウィンドウである。設定された基準点が有効かどうか確認のため、ドリフトテストボタン143がある。この機能は、荷電粒子の走査をある一定量x,y方向に変移させ、設定された変移と同じ値、もしくは近傍の値を検知できるかの確認を行う機能である。テスト結果として、ドリフト評価結果148にて、与えた変移と設定した基準点を用いて、ドリフトを評価した結果が表示される。装置オペレータは、その結果が妥協範囲内であるか判断し、範囲内であれば確定ボタン145を押す。通常、一つの薄膜試料作製中は、同じドリフト補正基準エリアを使用し、加工位置とその加工形状、及び加工時間を変化させる。加工位置や加工形状等を変化させる際に、毎回、ドリフト補正ウィンドウ140を開いて、各種設定を行ったり、補正位置が正常に機能するかの確認を行ったりする必要はないため、ドリフト補正基準エリアリンクボタン144を備える。このボタンを有効とすることにより、加工エリア132を変更する際、装置側のドリフト補正基準エリア158(図11参照)の位置を、適当な補正基準エリアにしたい場所に移動するだけで、そのままドリフト補正基準位置として登録され、ドリフト補正機能が有効になった状態の冷却用加工が開始されるようにできる。上記実施例4、及び実施例5の全ての装置リンク機能を有効にすると、オペレータは、加工エリア132,加工時間22,ドリフト補正基準エリア158,薄膜厚さ測定枠136、及び薄膜試料加工面の観察幅測定枠135を装置画面上で調整するだけで、冷却効果を妨げない加工条件で、且つドリフト補正を行う荷電粒子加工を簡便に行える。ドリフト補正中は、ドリフト補正ウィンドウ140に、基準画像146とドリフトを評価する最新の画像147が表示される。補正結果は、毎回、補正処理を行った時間と共にドリフト評価結果148に表示される。場所表示149は、荷電粒子画面の中でドリフト補正基準エリアがどの位置にあるのかを現在の補正基準位置150で示すものである。補正基準位置の限界表示151は、補正エリアの一部、もしくは補正後の加工エリアの一部が、荷電粒子画面から飛び出す補正基準エリアの位置を示す。補正基準位置が画面から飛び出した場合、補正画像が取得できなくなるため、ドリフト補正は行えなくなる。また、補正後の加工エリアが画面から飛び出た場合も加工ができなくなる。現在の補正基準位置150が補正基準位置の限界表示151から出たところで、加工は終了する。
【実施例6】
【0095】
図13に、本実施例における結露防止型冷却ホールダを示す。通常、FIB装置に代表されるような荷電粒子加工装置には、液体窒素温度近傍に冷却され、装置内の試料近傍のコンタミ物質や、冷却されると凝固する物質を吸着するコールドフィンガーは装備されていない。このような装置内で冷却ホールダを使用すると、装置内の真空度や、真空中に含まれる水蒸気量によってはコンタミや結露を起こし、凝固物質が試料表面に付着する。本実施例は、この問題を解決するものである。冷却ホールダの基本構造は、実施例1,実施例2、及び実施例3のいずれかのタイプの先端部分に微小熱伝達物152を設けたものであるため、ホールダ全体の説明はここでは省略する。図13は、実施例1の冷却ホールダに、結露防止機構を設けた例を示す。
【0096】
マイクロサンプル1が着いている冷却試料台3、さらにそれをセットした冷却歯車A35に、冷却効果を与える冷却歯車B38,冷却シャフト37、及び冷却パイプ36とは異なる方向に微小熱伝達物152を設ける。この構造によって、試料の周りに温度勾配が生じる。この温度勾配は、微小熱伝達物152側の温度が高く冷却源側の温度が低いような勾配となる。この構造によって、図13の冷却シャフト37は、試料より十分低い温度となり、実質的にコールドフィンガーのように、試料近傍のコンタミ物質や、水蒸気を凝固させて吸着させる役割を果たす。微小熱伝達物152は、針のようなものであってもよいし、ネジの先端のようなものであってもよい。図13に示す構造は、装置が室温程度であるとして、装置からある程度熱が先端熱シールド63を介して微小熱伝達物152に伝わる現象を利用して試料近傍の温度勾配を調整している。しかし、装置に適した温度勾配が先端熱シールド63を介した熱伝導だけで得られない場合には、図示されないヒータによって微小熱伝達物152を少し熱してもよい。
【実施例7】
【0097】
図14に、本実施例における冷却ホールダを示す。基本構造は実施例1と同じであるため、同じ部分の説明は省略する。本実施例は、実施例1において試料の紙面縦方向の軸上での回転を加えるために、冷却歯車A35と冷却歯車B38を90度の角度で噛み合わせて、冷却シャフト37の回転を試料に伝えていた部分を、異なる構造で実現するものである。
【0098】
冷却試料台3は、冷却歯車157にセットされ、任意に冷却歯車157から取り外し可能である。冷却歯車157は、その側面に接した棒状の冷却ギア156によって紙面横方向に力を加えられる構造となっており、紙面縦方向の軸上で試料は回転させられる。冷却ギア156は、冷却棒153に連結されており、冷却棒153は、さらに冷却ギア154に連結されている。冷却ギア154にかみ合わされた熱シールド歯車155の回転によって、冷却棒153及び冷却ギア156の位置は変更される。上記機構によって、電気的にコントロールされたモータによって熱シールド歯車155が動き、ホールダ先端部に位置する試料に紙面縦方向の軸上での回転を与えることができる。この構造において冷却源43の熱を試料に伝えるため、実施例1に記述のごとく、フレキシブルヒートコンダクタ42,冷却ロッド41、及びフレキシブルヒートコンダクタ40を備える。実施例1と異なる点は、フレキシブルヒートコンダクタ40が実施例1においては紙面横方向の軸上で回転する自由度を有していたのに対し、本実施例では紙面横方向に長さを変える自由度を有する点である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
マイクロサンプルを効率よく冷却することが可能となるため、材料解析分野での幅広い適用が期待できる。マイクロサンプルを自在に傾斜させることも可能となるため、微小なサンプルの加工および詳細な形態観察を熱ダメージなく実現できる。また、冷却加工から観察までの一連の作業を全て一つのホールダで実施することが可能となるため、加工から観察までの作業時間を大幅に短縮できる。材料解析および研究に急速な発展をもたらすと考えられる。
【符号の説明】
【0100】
1 マイクロサンプル(試料)
2 加工観察領域
3 冷却試料台
4 空間
5 荷電粒子A
6 荷電粒子B
7 試料から発せられるシグナル
8 冷却ホールダ
9 加工条件の初期設定
10,21 加工領域の設定
11 加工電流の設定
12 加工加速電圧の設定
13 試料条件の設定
14 熱伝導率
15 試料破壊温度
16 熱放射率
17 外部冷却温度
18 加工条件の算出
19 単位ビーム照射時間
20,129 ビーム照射待ち時間
22 加工時間の設定
23 加工条件の決定
24 ドリフト補正時間の設定
25 ドリフト補正基準位置の設定
26 加工開始
27 加工のためのビーム照射
28 待ち時間
29 加工時間に達したか確認
30 ドリフト補正時間に達したか確認
31 基準位置が動いていないか確認
32 基準位置の移動に相当する量、加工領域を移動
33 加工終了
34 試料データ
35 冷却歯車A
36 冷却パイプ
37 冷却シャフト
38 冷却歯車B
39 冷却歯車C
40,42,82 フレキシブルヒートコンダクタ
41 冷却ロッド
43 冷却源
44 冷却源容器内側
45,58,60,61,62,84,88 熱シールド
46 冷却源容器外側
47 熱シールド歯車A
48 歯車
49 シャフト
50 ギアボックス
51 モータ
52 モータ電源ケーブル
53 モータ回転読み出しケーブル
54 ホールダ回転パーツ外壁
55 ホールダ固定パーツ
56,57 熱シールド軸受け
59 可動熱シールド
63 先端熱シールド
64,65,66 O−リング
67,68 装置ホールダ受け
69 装置ホールダ受け先端側
70 シャッター
71 シャッター操作部
72 ガイドピン
73 FIB対物レンズ
74 電子顕微鏡インレンズ型対物レンズ
75 透過波
76 電子顕微鏡対物レンズ
77 加工・観察面A
78 加工・観察面B
79 冷却回転台
80 固定プレート
81 固定ネジ
83 回転軸
85,89 ばね
86 ばね固定棒
87 冷却回転台押さえ棒
90 加工条件初期入力ウィンドウ
91 加速電圧入力
92 プローブ電流入力
93 加工幅入力
94 加工倍率入力
95 登録ボタン
96,97,98,99,114,115,117 装置リンク有効チェック
100 試料情報入力ウィンドウ
101 試料情報セーブボタン
102 試料情報ロードボタン
103 試料名入力
104 熱伝導率入力
105 比熱容量入力
106 放射率入力
107 比重入力
108 加工時に生じるダメージ層の厚さ入力
109 許容温度入力
110 イオンビーム衝撃係数入力
111 試料厚さ入力
112 試料の加工奥行き方向のサイズ入力
113 加工面の加工装置での観察幅入力
116 冷却温度入力
118 特殊条件有効チェック
119 単位イオンビーム照射時間調整量
120 ビーム照射待ち時間調整量
121,122,123,124 単位選択チェック
125 決定ボタン
126 加工条件自動調整有効ボタン
127 条件算出結果ウィンドウ
128 単位イオンビーム照射時間
130 加工エリアの高さ
131 条件登録ボタン
132 加工エリア
133 加工幅
134 加工高さ
135 薄膜試料加工面の観察幅測定枠
136 薄膜厚さ測定枠
137 試料の加工奥行き方向のサイズ
138 薄膜厚さ
139 薄膜試料加工面の観察幅
140 ドリフト補正ウィンドウ
141 ドリフト補正時間
142 ドリフト補正基準エリア設定ボタン
143 ドリフトテストボタン
144 ドリフト補正基準エリア装置リンクボタン
145 確定ボタン
146 基準画像
147 ドリフトを評価する最新の画像
148 ドリフト評価結果
149 場所表示
150 現在の補正基準位置
151 補正基準位置の限界表示
152 微小熱伝達物
153 冷却棒
154,156 冷却ギア
155 熱シールド歯車
157 冷却歯車
158 ドリフト補正基準エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビーム照射により試料から摘出された試料片を固定できる試料台と、該試料台を所望方向に回転させる回転機構と、を備え、イオンビーム装置と透過電子線顕微鏡装置に装着可能な試料ホールダであって、
前記試料台と冷却源とを熱的に接続する可動な熱伝達物と、前記試料台と該熱伝達物質を熱的に外界から隔離する隔離物質を有することを特徴とする試料ホールダ。
【請求項2】
請求項1記載の試料ホールダにおいて、
前記可動な熱伝達物が、塑性変形のような原子のすべり現象を利用するか、又は物質同士のすべりを利用して熱を伝える物質もしくは構造物であることを特徴とする試料ホールダ。
【請求項3】
請求項1記載の試料ホールダにおいて、
前記可動な熱伝達物が、ホールダ長手方向の軸上で回転する自由度を持つことを特徴とする試料ホールダ。
【請求項4】
請求項1記載の試料ホールダにおいて、
前記可動な熱伝達物が、ホールダ長手方向に伸縮する自由度を持つことを特徴とする試料ホールダ。
【請求項5】
請求項1記載の試料ホールダにおいて、
前記試料片の向きをホールダ長手方向の軸上に180回転可能であることを特徴とする試料ホールダ。
【請求項6】
請求項1記載の試料ホールダにおいて、
前記試料片の向きを異なる二方向に回転可能であることを特徴とする試料ホールダ。
【請求項7】
請求項1記載の試料ホールダにおいて、
前記試料片を冷却する冷却源側とは異なる方向に熱を伝える物質又は機構を備え、前記試料片の近傍に温度分布を発生させ、前記試料片の近傍に該試料片より温度の低い物質を存在させることを特徴とする試料ホールダ。
【請求項8】
請求項7記載の試料ホールダにおいて、
前記冷却源側とは異なる方向に熱を伝える物質又は機構が、タングステン,モリブデン、又はタンタルのいずれかを用いたヒータを有し、温度勾配を電気的にコントロールすることを特徴とする試料ホールダ。
【請求項9】
請求項1記載の試料ホールダにおいて、
荷電粒子装置間を移動する際に試料片を保護するための、装置外部から可動させることが可能なカバーを有することを特徴とする試料ホールダ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の試料ホールダの使用法であって、
荷電粒子による前記試料片の加工又は観察において、荷電粒子を試料に照射する単位時間と、その次に同じ場所を照射するまでの待ち時間を設け、それらを調整することにより試料の温度上昇を防ぐ方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の試料ホールダを装着できる荷電粒子装置であって、
前記試料片の熱伝導率,比熱,放射率,比重,試料片が熱的に安定な許容温度,荷電粒子との相互作用特性,試料片の形状,荷電粒子装置の加速電圧,プローブ電流,観察領域,加工領域,加工倍率,観察倍率、及び/又は試料冷却温度に基づいて、荷電粒子線を照射する単位時間と、その次に同じ場所に荷電粒子線を照射するまでの待ち時間を設定できることを特徴とする荷電粒子装置。
【請求項12】
請求項11記載の荷電粒子装置において、
前記単位時間、及び前記待ち時間を、試料片の熱伝導率,比熱,放射率,比重,試料片が熱的に安定な許容温度,荷電粒子との相互作用特性,試料片の形状,荷電粒子装置の加速電圧,プローブ電流,観察領域,加工領域,加工倍率,観察倍率、及び/又は試料冷却温度に基づいて自動的に算出することを特徴とする荷電粒子装置。
【請求項13】
請求項11記載の荷電粒子装置において、
荷電粒子装置の加速電圧,プローブ電流,観察領域,加工領域,加工倍率,観察倍率、及び/又は試料冷却温度の情報を取り込み、加工条件や観察条件の算出を行い、該条件で加工や観察を行うことを特徴とする荷電粒子装置。
【請求項14】
請求項11記載の荷電粒子装置において、
前記試料片の熱伝導率,比熱,放射率,比重,試料片が熱的に安定な許容温度、及び/又は荷電粒子との相互作用特性を試料片の物性データとして保存し、必要に応じて読み込むことを特徴とする荷電粒子装置。
【請求項15】
請求項11記載の荷電粒子装置において、
前記試料片の所望箇所を正確に加工する際に、該試料片のドリフトによる移動を検出し、加工位置を補正することを特徴とする荷電粒子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−257617(P2010−257617A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103518(P2009−103518)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】