説明

試料作製用基板と液状試料盛付方法及び試料の製造方法

【課題】多数の液状試料を一枚の基板に各々を独立させて基板面より高く試料形成部に堆
積させることのできる基板の提供。
【解決手段】液状試料を乾燥又は焼結して得られる試料の溶媒に対する割合が、0.1体
積%以上10体積%以下である液状試料を所定の位置に盛り付け、その液状試料を乾燥又
は焼結するための複数の試料形成部が規則的に配列された試料作製用基板であって、前記
試料形成部の平面形状が円形又は多角形となされており、互いに隣接する前記試料形成部
の中心間の距離が、前記試料形成部に外接する円の直径の1.2倍以上6倍以下となされ
ており、盛り付けられた液状試料が形成する液滴を前記試料作製用基板面に投影した円の
直径が前記試料形成部に外接する円の直径以上となるように盛り付けることができるよう
になされたことを特徴とする試料作製用基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンビナトリアル手法を用いて、液状試料を一枚の基板上に多数分注して盛
り付け、それらの試料を乾燥した乾燥試料や、さらに焼結した焼結試料を製造するのに適
した試料作製用基板と液状試料盛付方法及び試料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の分析用の試料の調製にサンプルプレートやマイクロタイタープレートが用
いられている。このようなプレートとして、親水性の微小領域の周囲を疎水性化合物又は
疎水性平板で覆った表面を持つプレートを用いて、液状試料を分注して微小領域に試料を
集束させる手段(例えば、特許文献1〜4)や微小領域の周囲を溝で取り囲んだもの(特
許文献5)が知られている。
【0003】
また、微量の不純物を含有する液滴を濃縮できる試料作製用基板として、例えば、金属
シリコン部分と、金属シリコン部分より親水性が高い親水性部分が試料形成部として設け
られている蛍光X線分析用基板(特許文献6)や、磁性をもつ微小領域が非磁性の領域に
よって囲まれているサンプルプレートを用いて強磁性化合物と試料を混合した溶液を分注
して単位面積当りの試料濃度を高める手段(特許文献7)などが知られている。また、他
の基板として、一枚の基板上に多数の液状試料を盛り付けるに際し、クロスコンタミネー
ションを防止することのできるマイクロアレイ用基板が知られている(特許文献8)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−64213号公報
【特許文献2】特表2000−516705号公報
【特許文献3】米国特許第6287872号明細書
【特許文献4】欧州特許公開第1053784号明細書
【特許文献5】特開2004−163142号公報
【特許文献6】特開2002−22684号公報
【特許文献7】特開2004−69344号公報
【特許文献8】特開2003−254969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サンプルプレート上に分注した試料を分析する場合、試料厚さが薄いと分析困難である
。特に、試料形成部を微小面積として、媒体に試料を溶解又は分散させて濃度の薄い液状
で分注した場合、乾燥後の試料の厚みは薄くなる。例えば、乾燥後の試料のX線解析には
最低でも、50μm、通常200〜300μm程度の試料厚さが必要とされる。濃度の薄い液状
試料を用いてこのような厚みの試料をサンプルプレートに形成することは非常に困難であ
る。また、多種類の試料を一度に分析する、いわゆるコンビナトリアル手法による分析で
は、サンプルプレート上に微小な試料形成部を多数形成する必要があるが、その数を多く
すればするほど液状試料のクロスコンタミネーションの回避が困難になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであって、多数の液状試料を一
枚の基板の多数の試料形成部に盛り付ける際に、試料形成部の面積より水平投影面積の大
きい液滴状の液状試料を特定の間隔をあけて多数隣接させて分注により盛り付けた後、溶
媒を揮発させることにより濃縮・乾燥して、試料形成部の単位面積当りの堆積量を増大さ
せて分析に適する試料厚みを形成できる試料作製用基板と液状試料盛付方法及び試料の製
造方法に関するものである。
【0007】
すなわち、本発明は、(1)液状試料を乾燥または焼結して得られる試料の溶媒に対す
る割合が、0.1体積%以上10体積%以下含まれる液状試料を所定の位置に盛り付け、
溶媒を揮発させるための複数の試料形成部が規則的に配列された試料作製用基板であって
、前記試料形成部の平面形状が円形又は多角形となされており、互いに隣接する前記試料
形成部の中心間の距離が、前記試料形成部に外接する円の直径の1.2倍以上6倍以下と
なされており、盛り付けられた液状試料が形成する液滴を前記試料作製用基板面に投影し
た円の直径が前記試料形成部に外接する円の直径以上となるように盛り付けることができ
るようになされたことを特徴とする試料作製用基板、である。
【0008】
試料形成部の平面形状が円形又は多角形であるとは、平面形状が必ずしも真円であった
り、正多角形であることを意味するのではなく、液状試料を盛り付けた際に、液状試料が
液滴を形成できる程度の偏りや変形があってもよい。
【0009】
本発明の試料作製用基板は、互いに隣接する試料形成部の中心間の距離が、試料形成部
に外接する円の直径より大きいので、試料形成部の面積より水平投影面積の大きい液滴と
して、液状試料を互いに接触しないよう盛り付けることができる。
【0010】
本発明において、互いに隣接する試料形成部に盛り付けられた液状試料が接触してクロ
スコンタミネーションをおこさないようにするためには、試料形成部を取り囲むむように
液状試料と非親和性の試料隔離部を設けると効果的である。液状試料と非親和性であると
は、特に限定はされないが、液状試料との接触角が90°以上であることが好ましく、1
05°以上であればさらに好ましい。また、接触角が140°といったいわゆる超撥液性
であるとさらに好ましい。
【0011】
本発明の試料作製用基板は、試料形成部において液状試料を乾燥又は焼結するために使
用されるので、耐熱性を有することが好ましい。また、一枚の試料作製用基板上の多数の
試料の特性を正確に測定するために、熱による変形がないことが好ましい。具体的には、
液状試料を乾燥する場合、60℃以上、好ましくは100℃以上の乾燥条件でも熱による
物性の変化や変形がないことが好ましく、素材としては、金属やガラス、耐熱性のある合
成樹脂等を選択することができる。また、液状試料が液状の無機物質原料であり、無機物
質を焼結する場合、500℃以上、好ましくは800℃以上の焼結条件でも熱による物性
の変化や変形がないことが好ましく、素材としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミッ
クスや白金等を選択することができる。
【0012】
また、本発明は、(2)上記(1)の試料作製用基板において、前記試料形成部の周囲
に、その試料形成部に比べて液状試料と非親和性となされた試料隔離部が設けられている
ことを特徴とする試料形成用基板である。
【0013】
また、本発明は、(3)上記(1)又は(2)の試料作製用基板において、前記試料形
成部が凸状となされていることを特徴とする試料作製用基板、である。試料隔離部が凸状
となされているので、試料形成部の面積より水平投影面積の大きい液状試料を液滴として
凸状部に表面張力で保持することができる。
【0014】
凸状の試料形成部を成形する方法としては、基板素材を成形型で成形する方法や、凸状
部を機械的に削りだす等の方法がある。また、セラミックを成形型で成形した場合には、
成形後の焼結工程が必要なため、寸法精度を確保するのが困難な場合がある。このような
試料作製用基板であっても、精密な測定のため、試料形成部の高さを厳密に揃える必要が
あるときは、試料形成部表面だけを研磨等により機械加工することにより試料形成部の高
さを厳密に揃えることができる。
【0015】
液状試料と非親和性とは撥水性や撥油性のことを意味している。液状試料と非親和性に
する方法としては、基板表面に細かな凹凸をつけたり、液状試料と非親和性のある材料の
めっきを施したり、液状試料と非親和性である薬剤を塗布する等の公知の方法を採用する
ことができる。又は、基板として表面が液状試料と非親和性の材質を選択し、試料形成部
を液状試料と親和性になるように処理する方法もある。液状試料と親和性にする方法とし
ては、試料形成部にプラズマを照射したり、液状試料と親和性のある材料のめっきを施し
たり、液状試料と親和性のある薬剤を塗布する等の公知の方法を採用することができる。
さらに、これらの方法を組み合わせることも効果的である。
【0016】
また、本発明は、(4)上記(1),(2)又は(3)のいずれかの試料作製用基板の
互いに隣接する前記試料形成部に、盛り付けられた液状試料が形成する液滴を前記試料作
製用基板面に投影した円の直径が前記試料形成部に外接する円の直径以上となり、かつ、
前記液状試料が互いに接触しないように分注により盛り付けることを特徴とする液状試料
盛付方法、である。
【0017】
また、本発明は、(5)上記(4)の試料盛付方法により盛り付けられた前記液状試料
の溶媒を揮発させることを特徴とする試料の製造方法、である。液状試料を試料形成部の
面積以上の水平投影面積の液滴として、かつ、互いに接触しないように盛り付ければ、溶
媒を揮発させて乾燥した試料の堆積厚さを大きいものとすることができる。その結果、例
えば、X線や紫外線や赤外線等を照射して精度の高い測定ができるので、乾燥試料の正確
な結晶相の解析や物性評価が可能となる。
【0018】
また、本発明は、(6)上記(5)の試料盛付方法により盛り付けられた前記液状試料
の溶媒を揮発させた後に焼結することを特徴とする試料の製造方法、である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の試料作製用基板と液状試料盛付方法及び試料の製造方法によれば、液状試料を
乾燥又は焼結して得られる試料の溶媒に対する割合が、0.1体積%以上10体積%以下
であるような濃度の薄い液状試料を用いることによって、1枚の基板上の複数の試料形成
部にそれぞれの試料形成部より水平投影面積が大きい液状試料の液滴を分注により盛り付
けて単位面積あたりの堆積量を大きくすることが可能となる。また、液状試料の溶媒を揮
発させて乾燥した試料やその試料を焼結した試料を隣接する試料との間隔を狭くして、か
つそれらの試料を基板面より高く試料形成部に形成することができる。つまり、試料作製
用基板の所定の位置に多数の乾燥試料を厚く堆積させ、各種測定に必要な堆積厚さに乾燥
又は焼成した試料を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は、本発明の試料作製用
基板の実施の形態を示す平面図である。図2は、本発明の試料作製用基板の第1の実施形
態を示すものである。
【0021】
本発明における液状試料とは、特に限定はされないが、無機物質の水溶液やスラリーや
それらに沸点や粘度を調節するために有機溶媒を加えたもの、有機溶媒中で合成された有
機物質、有機溶媒又は水に溶解又は分散した有機物質等を示す。
【0022】
図1において、試料作製用基板10の表面1には、液状試料を所定の位置に盛り付ける
ための平面視円形の試料形成部3が36個設けられている。試料形成部3は、試料形成部
3に比べて液状試料と非親和性となされた36個の平面視円形の試料隔離部2に取り囲ま
れるように設けられている。
【0023】
互いに隣接する試料形成部3の中心間の距離は、試料形成部3に外接する円の直径の1
.2倍以上6倍以下となされている。ここで、試料形成部3が平面視円形とは必ずしも真
円である必要は無く、多少の凹凸や扁平度は許容されるものである。ここで、試料形成部
3の平面形状が円形であれば盛り付けられた液状試料が表面張力のため平面視円形の液滴
を形成することから、液状試料を乾燥したときの乾燥試料に偏りが少なく、特に好ましい

【0024】
また、試料隔離部2は、必ずしも形状にこだわる必要は無く、試料隔離部3を取り囲ん
でいればよい。つまり、試料形成部3以外の試料作製用基板10の表面1全てが試料隔離
部となされていてもよい。また、多角形を採用することも可能である。試料形成部3の数
は、試料作製用基板10の表面積と試料形成部3の大きさと隣接する試料形成部3間の距
離によって決められるが、多くの試料を同時に形成するために9個以上であることが好ま
しく、36個以上であればさらに好ましい。また、必ずしも乗数にする必要はなく、研究
や分析対象によって、任意に決めることが可能である。
【0025】
試料形成部3の大きさは、特に限定されるものではないが、試料形成部3に外接する円
の直径が0.1mm〜10mmであれば、分注による盛り付けが容易であり、一枚の、試
料作製用基板10に複数の試料形成部3を形成できるので好ましい。特に、コンビナトリ
アル手法を用いて多数の試料を試料作製用基板10に形成する場合には、試料形成部3に
外接する円の直径が4mm以下であれば好ましく、2mm以下であればさらに好ましい。
【0026】
試料形成部3の立体的形状は、平面状でもよいし、円筒状や多角筒状の凹状となされて
もよいし、下に行くほど縮径された凹状となされていてもよい。また、円柱状や多角柱状
の凸状となされていてもよい。試料形成部3を凹状又は凸状とする場合の深さや高さは、
特に限定されるものではないが、0.1mm以上2mm以下とされると、製造が容易であ
り、効果も大きいので好ましい。さらに、平面状の形成部3の表面や、凹状の試料形成部
3の底部や側面や、凸状の試料形成部3の頂部に凹凸をつけたり、粗面化したりして、乾
燥試料や焼結試料が安定して試料形成部3に堆積できるようにしてもよい。
【0027】
試料隔離部2の立体的形状は、平面状でもよいが、より確実にクロスコンタミネーショ
ンを防ぐために、円筒状や多角筒状の凹状となされてもよいし、円柱状や多角柱状の凸状
となされてもよい。試料隔離部2を凹状や凸状とする場合の深さや高さは、特に限定され
るものではないが、0.1mm以上2mm以下とされると、製造が容易であり、効果も大
きいので好ましい。
【0028】
試料作製用基板の材質は、液状試料と反応しないものであれば、任意に選択可能である
。例えば、合成樹脂、金属、セラミック等公知の材質を選ぶことができる。また、例えば
、アルミナ等のセラミックの表面に白金を蒸着する等、複数種の材質を組み合わせて使用
することもできる。また、液状試料を乾燥させたものを高温で焼結する場合には、耐熱性
のある材質を選択することが必要となる。例えば、1000℃を超える温度で焼結する場
合には、特に限定はされないが、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミ等のセラミック材料
や白金等の耐熱材料が好適に選択される。
【0029】
以下、本発発明の試料作製用基板と該基板を使用した試料製造方法を図2を参照して具
体的に説明する。図2において、Aは、試料作製用基板10aに液状試料を盛り付けた状
態の部分断面図であり、Bは、図2Aの液状試料を乾燥、焼結した状態の部分断面図であ
る。試料作製用基板10aには直径dの穴を試料形成部3aとして設ける。この場合、試
料形成部に外接する円の直径は穴の直径dと等しい。
【0030】
分注ピペットによりの液状試料を試料形成部3aに分注し、盛り付けると、図2Aに示
すように、盛り付けられた液状試料5は、試料形成部3aを中心に試料隔離部2aの外周
の範囲内にほぼ球状の液滴の一部が試料作製用基板によって切取られた形を形成する。盛
り付けられた液状試料5が形成する液滴の水平方向直径Dを試料作製用基板10a面に投
影した面積を水平投影面積と定義する。
【0031】
試料隔離部2aにおける液状試料5の接触角が90度より大きいか、試料形成部3aが
凸状であると、液滴の水平方向直径Dを試料形成部に外接する円の直径以上に大きくする
ことができる。また、液状試料5の接触角が170°に相当する場合で、液滴の水平方向
直径Dを試料形成部に外接する円の直径の約5.8倍とすることができる。一般的に接触
角170°以上の超撥水性を発現させるのは、実用的コストでは困難であり、かつ、液滴
の水平方向直径Dを試料形成部に外接する円の直径の約5.8倍であれば、濃度の薄い液
状試料からも、必要な乾燥試料や焼結試料が得られる。
【0032】
このような状態で、液滴の溶媒を揮発させれば、溶質を試料形成部に厚く堆積させるこ
とができる。試料作製用基板10aにおいて、隣接する試料形成部3aの中心間の距離F
は、前記試料形成部3aに外接する円の直径の1.2倍以上6倍以下とする。ここで、互
いに隣接する試料形成部の中心間の距離が、試料形成部に外接する円の直径の1.2倍よ
り小さいと、液状試料の接触角が90°であっても、隣接する液状試料からなる液滴どう
しが接触する可能性が大きくなる。6倍であれば、接触角170°の場合でも、隣接する
液状試料からなる液滴どうしが接触することなく、大量の液状試料を盛り付けることがで
きる。つまり、所定の数の試料形成部を備えるための基板の面積を最小限にすることがで
き、分析の効率を上げることができる。
【0033】
図3は、本発明の試料作製用基板の第2実施例形態を示し、試料形成部3bを含んだ試
料作製用基板10bの部分断面図であり、液状試料5が盛り付けられた状態を示している
。この試料作製用基板10bの表面1には、円柱状の試料形成部3bを設けている。
【0034】
図4は、本発明の試料作製用基板の第3実施形態を示し、試料形成部3cを含んだ試料
作製用基板10cの部分断面図であり、液状試料5が盛り付けられた状態を示している。
この試料作製用基板10cの表面1には、円柱状体の中央部に円形の凹部4を有する試料
形成部3cを設けている。
【0035】
図5は、本発明の試料作製用基板の第4実施形態を示し、試料形成部3dを含んだ試料
作製用基板10dの部分断面図であり、液状試料5が盛り付けられた状態を示している。
この試料作製用基板10dの表面1には、リング状の凸状となされた試料隔離部2dを設
け、それぞれの試料隔離部2dの中央部には試料隔離部2dから凹状となされた試料形成
部を設けている。
【0036】
以下、出発原料として、酢酸クロム0.5mol/l、水酸化リチウム水和物1 mol/l、酸化チ
タンスラリー1 mol/lを各等量混合した液状無機物質試料を用いて図2Aに示す実施形態
の試料作製用基板10aに盛り付ける場合を例に、具体的に説明する。
【0037】
試料形成部3aは半径2mmの円形とする。反応生成物は、金属と等重量の酸素が含ま
れるものとし、比重は6とする。盛り付けた液滴は球状とし、接点の接線(接触角)と接
点と中心点を結ぶ線とは垂直とする(液滴が小さいときには重力の影響が小さく、この近
似が可能である)。
【0038】
出発原料を混合した原料の金属成分は2.7 wt%(Cr:2.6wt%、Li:0.7 wt%、Ti:4.8
wt%の液を各等量混合)であり、反応生成物の原料に対する割合(酸素50%が化合する
と仮定)は5.4 wt%⇒0.9vol%(約1vol%とする)である。 つまり、出発原料を混合
した原料である液状試料の体積に対して、わずか1%の体積の反応性生物しか得られない
ということになる。
【0039】
上記の条件の場合、試料形成部の液滴の相当円柱高さ(盛り付けた液滴を試料形成部の
断面の円柱に満たしたと仮定したときの高さ)と反応物の厚さは概略表1のとおりとなる
。相当円柱の高さ、つまり、反応物の厚さは試料形成部の半径に反比例する。さらに濃度
の低い液状試料を使用する場合、接触角90度から170度の範囲で考えると、0.1体
積%以上10体積%以下が対象となる。つまり、10体積%のときは接触角90度でも反
応物の厚さは130μmとなり、0.1体積%のときでも、接触角170度で510μmと
なる。
【0040】
【表1】

【実施例1】
【0041】
図2Aに示す実施形態の試料作製用基板10aを用いた。試料作製用基板10aは、一
辺の長さが50mmの正方形で厚さ5mmの白金板に直径d=4mm、深さ0.1mmの
穴を設け、面積12.6mmの試料形成部3aとした。試料形成部3aの周囲に微細な
凹凸を形成し、フッ素系コーティング剤フロロサーフFS−1000(株式会社フロロテ
クノロジー製)を塗布して、水に対して試料形成部3aより非親和性の試料隔離部2aを
形成し、試料作製用基板10aを作製した。この試料隔離部2aの水との接触角は約14
0°であった。試料形成部3aは、図1と同様、試料形成部3aの中心同士を結ぶ線が格
子状となるように、36個設けた。また、隣接する試料形成部3aの中心間の距離Fは、
8mmとした。
【0042】
液状試料としては、(1)酢酸クロム(Cr(OCOCH)の0.5mol/l
水溶液、(2)水酸化リチウム水和物(LiOH・HO)の1.0mol/l水溶液及
び(3)水を分散媒とした酸化チタン(TiO)スラリー濃度1.0mol/lの混合
比を変えた36個を異なる混合容器に配合し、撹拌混合したものを用いた。
【0043】
分注ピペットにより120μlの液状試料を混合容器から秤量し、試料形成部3aに分
注し、盛り付けた。図2Aに示すように、盛り付けられた液状試料5は、試料形成部3a
を中心に試料隔離部2aの外周の範囲内にほぼ球状の液滴を形成した。隣接する液滴同士
は、接触することはなかった。 液滴の直径Dは約6.8mmとなり、試料作製用基板1
0aへの水平投影面積は約36.3mmとなった。
【0044】
次に、液状試料が盛り付けられた試料作製用基板10aを90℃に加熱したホットプレ
ート上に置き、溶媒である水を揮発させ乾燥試料を得た。乾燥試料は全て、試料形成部3
aに堆積させることができた。さらに、乾燥試料を、絶対温度で、1173度、1273
度、1373度で3時間焼成し、図2Bに示すように、厚さ約100μmの焼成試料5b
を得た。焼結試料は全て、試料形成部3aに堆積させることができた。これらの試料をX
線で解析したところ、ラムスデライト型結晶相が観測された。
【実施例2】
【0045】
図3に示す実施形態の試料作製用基板10bを用いた。アルミナ粉末を成形型で成形し
、焼成することにより、一辺の長さが50mmの正方形で厚さ5mmの試料作製用基板1
0bを得た。この試料作製用基板10bの表面1には、直径2mmの円柱状の試料形成部
3b(面積3.14mm)を36個設けた。また、高さを揃えるため、ダイヤモンド砥
石で試料形成部3bの頂部を研磨した。その結果、全ての試料形成部3bは、試料作製用
基板10bの表面1から正確に0.7mm突出するように形成できた。試料形成部3bは
、試料形成部3bの中心同士を結ぶ線が格子状となるよう配置し、隣接する試料形成部3
b間の距離は5mmとした。
【0046】
試料形成部3bに実施例1で使用した液状試料を、分注ピペットにより20μlを混合
容器から秤量し、試料形成部3bに分注し、盛り付けたところ、液状試料5は球状の液滴
となり、円柱状体の頂部に形成された試料形成部3bに保持された。このとき、液滴の直
径は約3.8mmとなり、水平投影面積は、約11.3mmであり、試料形成部3bの
平面形状より大きかったが、隣接する液滴が接触することはなかった。さらに、実施例1
と同様に乾燥した後、焼結し、約70μm厚の焼結試料を得た。
【実施例3】
【0047】
図4に示す実施形態の試料作製用基板10cを用いた。アルミナ粉末を成形型で成形し
、焼成することにより、一辺の長さが50mmの正方形で厚さ5mmの試料作製用基板1
0cを得た。この試料作製用基板10cの表面1には、直径2mmの円柱状体の中央部に
直径1mmの円形の凹部4を有する試料形成部3cを36個設けた。
【0048】
試料形成部3cの凹部4にエチレングリコールを薄く塗布して液状試料との親和性を増
した。その後、実施例1で使用した液状試料を、分注ピペットにより20μlを混合容器
から秤量し、試料形成部3cに分注し、盛り付けたところ、液状試料は液滴状となり、試
料形成部3cに保持された。このとき、液滴の直径は約3.8mmとなり、水平投影面積
は、約11.3mmであり、試料料形成部3bの平面形状より大きかったが、隣接する
液滴が接触することはなかった。さらに、実施例1と同様に乾燥した後、焼結し、約70
μm厚の焼結試料を得た。これらの焼結試料は、確実に試料形成部3cに固定され、試料
の取り扱いが、実施例2に比べて容易になった。
【実施例4】
【0049】
図5に示す実施形態の試料作製用基板10dを用いた。アルミナ粉末を成形型で成形し
、焼成することにより、一辺の長さが50mmの正方形で厚さ5mmの試料作製用基板1
0dを得た。試料作製用基板10dの表面1には、リング状の凸状となされた試料隔離部
2dを36個設け、それぞれの試料隔離部2dの中央部には試料隔離部2dから凹状とな
された試料形成部3dを設けた。
【0050】
試料隔離部2dは、直径4mm、高さ0.3mmの円柱状体とし、直径2mmの円筒状
の凹部で試料形成部3d(面積3.14mm)を形成した。試料形成部3dは、試料隔
離部2dの表面から0.3mmの深さの凹部とした。試料隔離部2dには、フッ素系コー
ティング剤フロロサーフFS−1000(株式会社フロロテクノロジー製)を塗布し、基
板表面1より液状試料と非親和性とし、試料形成部3dにはエチレングリコールを薄く塗
布して基板表面1より液状試料と親和性とした。
【0051】
試料形成部3dに実施例1で使用した液状試料を、分注ピペットにより20μlを混合
容器から秤量し、試料形成部3dに分注し、盛り付けた。中央部の試料形成部3dに液状
試料を盛り付ける際、意図的に分注ピペットの位置をずらして液状試料を基板表面1に滴
下したが他の正常に盛り付けられた液状試料とのクロスコンタミネーションが確実に防止
できた。この際、液状試料は液滴状となり、試料形成部3dに保持された。このとき、液
滴の直径は約3.8mmとなり、水平投影面積は、約11.3mmであり、試料料形成
部3bの平面形状より大きかった。さらに、実施例1と同様に乾燥した後、焼結し、約7
0μm厚の焼結試料を得た。
【0052】
以上、本発明の実施例を図面により説明したが、本発明の具体的構成はこの実施例に限
られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に
含まれる。例えば、試料作製用基板は必ずしも正方形である必要は無く、長方形でもよい
し、場合によっては円形であってもよい。試料作製用基板の平面寸法や厚さも特に限定さ
れるものではなく、実験や測定の都合で任意に設定することができる。さらに、試料形成
部の数は任意に設定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
濃度の薄い液状試料であっても、各種測定等の実験に必要な堆積厚さに乾燥試料や焼結
試料を形成することができる。つまり、溶解度が低く高濃度にできない液状試料や、高濃
度の液状試料を混合すると再分離を起こしやすいので高濃度にできない混合液状試料等で
あっても、実験に必要な堆積厚さの乾燥試料や焼結試料を得ることができるので、研究対
象となる液状試料の種類を増やすことができ、コンビナトリアル手法を用いて、有用物質
の研究開発に多大な貢献をなすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の試料作製用基板の実施形態を示す平面図である。
【図2】Aは、本発明の試料作製用基板の第1の実施形態を示す部分断面図であり、Bは、図2Aの液状試料を乾燥、焼結した状態の部分断面図である。
【図3】本発明の試料作製用基板第2の実施形態を示す部分断面図である。
【図4】本発明の試料作製用基板第3の実施形態を示す部分断面図である。
【図5】本発明の試料作製用基板第4の実施形態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10,10a,10b,10c,10d 試料作製用基板
1 基板表面
2,2a,2b,2c,2d 試料隔離部
3,3a,3b,3c,3d 試料形成部
5 液状試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状試料を乾燥又は焼結して得られる試料の溶媒に対する割合が、0.1体積%以上10
体積%以下である液状試料を所定の位置に盛り付け、その液状試料を乾燥又は焼結するた
めの複数の試料形成部が規則的に配列された試料作製用基板であって、前記試料形成部の
平面形状が円形又は多角形となされており、互いに隣接する前記試料形成部の中心間の距
離が、前記試料形成部に外接する円の直径の1.2倍以上6倍以下となされており、盛り
付けられた液状試料が形成する液滴を前記試料作製用基板面に投影した円の直径が前記試
料形成部に外接する円の直径以上となるように盛り付けることができるようになされたこ
とを特徴とする試料作製用基板。
【請求項2】
前記試料形成部の周囲に、その試料形成部に比べて液状試料と非親和性となされた試料隔
離部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の試料形成用基板。
【請求項3】
前記試料形成部が凸状となされていることを特徴とする請求項1又は2記載の試料作製用
基板。
【請求項4】
請求項1,2又は3記載の試料作製用基板の互いに隣接する前記試料形成部に、盛り付け
られた液状試料が形成する液滴を前記試料作製用基板面に投影した円の直径が前記試料形
成部に外接する円の直径以上となり、かつ、前記液状試料が互いに接触しないように分注
により盛り付けることを特徴とする液状試料盛付方法。
【請求項5】
請求項4記載の液状試料盛付方法により盛り付けられた前記液状試料の溶媒を揮発させる
ことを特徴とする試料の製造方法。
【請求項6】
請求項4記載の液状試料盛付方法により盛り付けられた前記液状試料の溶媒を揮発させた
後に焼結することを特徴とする試料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−105705(P2006−105705A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290927(P2004−290927)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】