説明

試料冷却装置

【課題】試料冷却装置において、ラック51に装架された試料容器2の上下間の温度ムラの発生を抑制する。【解決手段】伝熱性部材からなるラック51に設けられた穴2、穴の底に敷設された断熱性部材(円板35)とで構成される。そのラック51に装架される試料容器2の側壁の上部が伝熱性部材に熱的に接すると共に、その試料容器2の底は断熱性部材に当接するように構成した。さらに、容器底部に近接する穴径が、上部の穴径より大きく構成される。試料容器2は主として側面の上部からの伝熱によって冷却され、底面から急激に冷却されることがない。したがって、試料容器2内の溶液が対流し、上下間の温度ムラの発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液体試料を自動的に分析する分析装置、特に液体クロマトグラフにおいて、分析前の試料を冷却する試料冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフにおける自動分析は、予め少量の試料を封入した試料容器をラックに装架し、このラックを自動試料注入装置にセットし、自動試料注入装置がこのラック上の試料容器から所定プログラムに従って逐次に試料を吸い上げ、液体クロマトグラフに注入することにより実行される。分析待ち状態にあるラック上の試料は多くの場合は室温下に置かれるが、試料によっては、変質を防ぐために低温に保つことが必要な場合がある。このような場合に、試料を冷却する目的に使われる装置が試料冷却装置である。
【0003】
従来の試料冷却装置には直冷式と空冷式の2方式がある。直冷式は、ラックを熱伝導性の良好な金属で作り、ラックの底部等に冷却器(ペルチエ素子など)を取り付けて、主として固体を通しての熱伝導により試料の温度を調節するものである。空冷式は、ラックを含む自動試料注入装置の要部を断熱性のケースで囲い込み、その内部の空気を冷却して、空気を介して試料の温度を調節するものである。次に、本発明に係わる直冷式について図を用いてさらに詳しく説明する。
【0004】
図2は従来の直冷式試料冷却装置の一例を示したものである。分析者は、まず液体試料4を試料容器(通常はガラス製の小瓶)2に入れ、その口をセプタム3で封じ、これを、自動試料注入装置7から外して取り出したラック1に装架する。ラック1はアルミ製で、試料容器2を挿入する100個程の穴5が穿設されている。この穴5の底、および周囲の壁を通して試料容器2に熱(以下、単に熱と記す場合は冷熱を含むものとする)が伝えられる。
【0005】
試料を装填し終わったラック1は装置内の金属ブロック23の上にセットされる。金属ブロック23は、下面に取り付けた冷却器(ペルチエ素子21)によって冷却され、その表面がラック1の底に密着して良好な熱伝導を保つように構成された伝熱部材である。この場合、ラック1もまた金属ブロック23から受けた熱を試料容器2に伝える伝熱部材として機能する。ペルチエ素子21は、図示しない温度調節装置によってコントロールされてその吸熱面で金属ブロック23を所定温度に冷却し、その裏面(放熱面)には、通風ダクト27の内側に面して放熱フィン22が取り付けられ、金属ブロック23から吸収した熱をこの放熱フィン22を通してファン28による送風で放熱する構造となっている。
【0006】
このような構成で、ラック1とこれに装架された試料容器2、さらにはその中の試料液体4が所定の低温に保たれる。ラック1は保冷のため断熱性のカバー6で覆われるが、試料容器2の頭部(セプタム3とその周辺)は、サンプリングニードル13による試料の取り出しを可能にするため、このカバー6から露出し、室温の空気に曝されている。
【0007】
サンプリングニードル13は図示しないメカニズムにより、前後左右、及び上下に移動可能で、プログラムに従って、セプタム3を刺通して試料容器2から液体試料4を吸い上げ、液体クロマトグラフの試料注入口12まで移動してこれに試料を注入することによって自動分析が行われる。液体クロマトグラフの分析は1回数十分を要するので、ラック1上の試料は長いもので数十時間も分析待ち状態となるが、この間、低温に保たれることで試料の変質が避けられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来の直冷式試料冷却装置は熱伝達の効率が高く、短時間で所定温度まで冷却できるのであるが、前述のように、試料容器2の頭部は室温の空気中に露出していること、及び、構造上ラックは主として下から冷却されることから、試料容器は底が冷たく上部は温かいという状態、つまり温度ムラが生じ勝ちである。しかも、下方が低温であるために対流が起こらないので、温度ムラは時間が経過しても解消せず、持続する傾向にある。
【0009】
試料容器に温度ムラがあると、容器内の試料液体に濃度ムラが生じる場合があり、そのような状態でサンプリングすると分析結果にバラツキが生じることがある。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、上記のような温度ムラの生じにくい試料冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、少なくともラックと冷却器とを備え、前記冷却器によって前記ラックに装架された試料容器内の液体試料を室温以下に冷却する試料冷却装置において、前記ラックには前記試料容器が装架されるように複数の穴が穿設され、前記穴は前記試料容器が装架されたとき前記試料容器の底に近接する部分の内径が上方の内径より大きくなるように穿設され、前記穴の底部には断熱部材を敷設されたことを特徴とする。
【0011】
このように構成したことにより、試料容器は主として側面の上部からの伝熱によって冷却され、底面から急激に冷却されることがなくなり、試料容器内の上下間の温度ムラの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る試料冷却装置のラックは、試料容器が装架されたとき試料容器の底に近接する部分の内径が上方の内径より大きくなるように構成されているために、試料容器は主に側壁の上部を通しての伝熱によって冷却され、底部から強く冷却されることがない。したがって、対流が起きやすくなるので試料容器内の液体に温度ムラが発生し難く、その結果、温度差にもとづく濃度ムラも抑制されるので、分析の再現性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一つの実施の形態を図1に示す。図1においては、ラックや試料容器など要部のみを拡大して示し、その他は図2と同様であるから省略してある。ラック51はアルミ製で、試料容器2を挿入する100個程の穴55が穿設されている。穴55の底には、円板35が敷設されている。この円板35が存在することによって、試料容器2の底からの急激な冷却が抑制されるので、従来装置に見られたような試料容器内の上下間の温度ムラの発生を抑えることができる。円板35の材質としては、断熱性が高く、また万一試料が漏れた場合に備えて対薬品性にすぐれた材質が適当である。具体例としては発泡ポリエチレン等が挙げられる。
【0014】
さらに穴55は、底に近い部分の内径が上方の内径よりも大きくなっている。このため、試料容器2は主に上部の側壁からの伝熱で冷却されるようになる。円板35の作用による試料容器の底面からの伝熱が抑制されるばかりでなく、側壁の底に近い部分からの伝熱も抑制され、対流が起きやすくなるので温度ムラの抑制効果はさらに向上する。
【0015】
なお、本発明は上記説明中で例示した数値や材質名に限定されるものではなく、また、その実施形態は上記の実施例に限定されるものでもない。例えば、伝熱部材である金属ブロック23を省いて、冷却器をラック1の伝熱部材の下部または側部に直接取り付けるように構成することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】従来の試料冷却装置の要部を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
1,51・・ラック
2・・・・・試料容器
3・・・・・セプタム
4・・・・・液体試料
5,55・・穴
6・・・・・カバー
7・・・・・自動試料注入装置
12・・・・・試料注入口
13・・・・・サンプリングニードル
21・・・・・ペルチェ素子
22・・・・・放熱フィン
23・・・・・金属ブロック
27・・・・・通風ダクト
28・・・・・ファン
31・・・・・金属板
35・・・・・円板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともラックと冷却器とを備え、前記冷却器によって前記ラックに装架された試料容器内の液体試料を室温以下に冷却する試料冷却装置において、前記ラックには前記試料容器が装架されるように複数の穴が穿設され、前記穴は前記試料容器が装架されたとき前記試料容器の底に近接する部分の内径が上方の内径より大きくなるように穿設され、前記穴の底部には断熱部材を敷設されたことを特徴とする試料冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−71883(P2007−71883A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308573(P2006−308573)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【分割の表示】特願平10−309733の分割
【原出願日】平成10年10月30日(1998.10.30)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】