説明

試料処理方法

【課題】細胞を含む試料から核酸を抽出するといった試料の処理を、実施環境を制限したり溶媒や試薬を使用したりせずに、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で、効率的且つ迅速に行うことができ、特に、血液などの臨床検体を対象とする場合に好適に用いることができる試料処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明にかかる試料処理方法は、細胞を吸着する物質である細胞吸着物質で表面処理された領域を含む細胞吸着領域をその表面に設けた基板を用いて、細胞を含む試料を細胞吸着領域に据え、細胞吸着物質に吸着している細胞が残るように細胞吸着領域から試料を取り除き、細胞が破壊することで当該細胞に含まれる核酸が露出するまで細胞吸着領域を乾燥することで、細胞に含まれる核酸を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を含む試料から当該細胞に含まれる核酸を抽出する等といった試料の処理を行う試料処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子欠失や薬剤感受性SNP(Single Nucleotide Polymorphism)などの遺伝子診断が広がりつつあり、血液などの臨床検体から遺伝子である核酸を効率的で簡便な操作で抽出する方法や、さらには微量な核酸を簡便に増幅する方法等のような核酸を簡便に分析する方法が求められている。
【0003】
核酸を含有する試料から核酸を分離したり抽出したりする方法としては、例えば、フェノール・クロロホルム抽出法、核酸含有溶液をエタノール溶液で沈殿して核酸を分離する方法(以下、エタノール分離法と記す場合がある)、特許文献1に開示されている方法、酵素を用いて細胞を溶解して核酸を分離する方法(以下、酵素分離法と記す場合がある)、遠心法を用いた血球分離方法、磁気ビーズを用いた核酸抽出方法、フィルターを用いた核酸抽出方法、特許文献2に開示されている方法などがある。
【0004】
フェノール・クロロホルム抽出法では、フェノール・クロロホルムを用いて水に難溶性の検体成分(タンパク質や脂質など)を変性することで、当該検体成分を溶解又は沈殿させる。特許文献1に開示されている方法(通称Boom法)では、カオトロピック溶液を利用してタンパク質や脂質などの夾雑物を水に可溶化し、核酸を固相担体としてシリカビーズに吸着させて回収し、回収した核酸を洗浄し、洗浄した核酸を再び水相に溶解する。特許文献2では、マイクロな流路を用いて血液成分を分離する。
【0005】
【特許文献1】特許第2680462号
【特許文献2】特開2005−224787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フェノール・クロロホルム抽出法およびエタノール分離法によれば、人手を要し、簡便に行うことができないという問題点があった。さらに、フェノール・クロロホルム抽出法によれば、フェノール・クロロホルムを用いるので、作業環境などが制限されるという問題点があった。
【0007】
また、特許文献1に開示されている方法によれば、核酸を抽出するまでの過程において固相担体の回収や容器の移し替え等の操作が必要になるので、作業が煩雑になってしまうという問題点があった。
【0008】
また、酵素分離法によれば、核酸を分離するために、上述した方法と類似の方法を用いるので、上述と同様の問題点があった。
【0009】
また、遠心法を用いた血球分離方法によれば遠心分離機構が必要になり、フィルターを用いた核酸抽出方法によれば減圧吸引のための装置が必要になり、磁気ビーズを用いた核酸抽出方法によれば磁気によりビーズを集磁するための機構が必要になるので、装置全体として小型化することが困難であるという問題点があった。また、磁気ビーズを用いた核酸抽出方法によれば、核酸を抽出するまでの過程において、磁気ビーズを集磁することにより磁気ビーズをペレット化した状態で上清液を排出するので、排出されるべき液がビーズ間の隙間に残留し、結果として洗浄効率が低くなる可能性がある。ゆえに、磁気ビーズを用いた核酸抽出方法によれば、ビーズの洗浄を十分に行いたい場合には、洗浄を繰り返し行わなければならないので、作業が煩雑になってしまうという問題点があった。また、磁気ビーズを用いた核酸抽出方法によれば、核酸を抽出するまでの過程において磁気ビーズからなる固相担体の回収や容器の移し替え等の操作が必要になるので、作業が煩雑になってしまうという問題点があった。
【0010】
また、特許文献2に開示されている方法によれば、血液成分を分離するための分離素子自体を小型化することはできるが、試料を注入したり排出したりするための接続部材やポンプやバルブが必要になるので、装置全体として小型化することが困難であるという問題点があった。
【0011】
すなわち、上述した方法によれば、試料から核酸を分離・抽出するにあたり、簡便性・迅速性・自動化の程度・小型化適性が必ずしも十分でなく、特に、血液などの臨床検体を対象とする場合には必ずしも実用的でないという問題点があった。
【0012】
さらに、上述した方法によれば、試料から核酸を抽出した後に引き続いて、核酸の増幅や核酸とプローブとのハイブリダイゼーションやハイブリダイゼーション反応の検出といった核酸の分析を行う場合に、容器の移し替えなどの操作が必要であったり核酸を増幅して検出するための素子が別途必要であったりするので、核酸の抽出から核酸の分析までの工程を、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で、煩雑さを伴わずに一連の流れで行うことが困難であるという問題点があった。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、細胞を含む試料から核酸を抽出するといった試料の処理を、実施環境を制限したり溶媒や試薬を使用したりせずに、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で、効率的且つ迅速に行うことができ、特に、血液などの臨床検体を対象とする場合に好適に用いることができる試料処理方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、試料から核酸を抽出した後に引き続いて、核酸の増幅や核酸とプローブとのハイブリダイゼーションやハイブリダイゼーション反応の検出といった核酸の分析を、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で、煩雑さを伴わずに一連の流れで行うことができる試料処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる請求項1に記載の試料処理方法は、細胞を含む試料を処理する試料処理方法において、前記細胞を吸着する物質である細胞吸着物質で表面処理された領域を含む細胞吸着領域をその表面に設けた基板を用いて、前記試料を前記細胞吸着領域に据える試料据置工程と、前記試料据置工程を実行した後、前記細胞吸着物質に吸着している前記細胞が残るように、前記細胞吸着領域から前記試料を取り除く試料除去工程と、前記試料除去工程を実行した後、前記細胞が破壊することで当該細胞に含まれる前記核酸が露出するまで、前記細胞吸着領域を乾燥する核酸露出乾燥工程と、を実行することで、前記細胞に含まれる前記核酸を抽出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる請求項2に記載の試料処理方法は、請求項1に記載の試料処理方法において、前記試料除去工程を実行した後、所定の前記細胞を選択的に破壊するための前記物質である破壊物質を、前記細胞吸着領域に据える破壊物質据置工程と、前記破壊物質据置工程を実行した後、前記細胞吸着領域から、前記破壊物質および当該破壊物質により破壊された前記細胞を取り除く破壊物質等除去工程とをさらに実行し、前記核酸露出乾燥工程は、前記破壊物質等除去工程を実行した後、前記細胞吸着領域を乾燥することを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる請求項3に記載の試料処理方法は、請求項1または2に記載の試料処理方法において、前記核酸露出乾燥工程を実行した後、前記核酸を増幅するための前記物質である増幅物質を、前記細胞吸着領域に据える増幅物質据置工程と、前記増幅物質据置工程を実行した後、前記抽出した前記核酸および前記増幅物質を覆うように、前記増幅物質の蒸散を防ぐための前記物質である防蒸散物質を、前記細胞吸着領域に据える防蒸散物質据置工程と、前記防蒸散物質据置工程を実行した後、前記細胞吸着領域を所定の温度条件に曝す温度曝露工程と、をさらに実行することで、前記核酸を増幅することを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる請求項4に記載の試料処理方法は、請求項3に記載の試料処理方法において、前記細胞吸着領域は、標的とする核酸配列に相補的な配列を含む1種類または複数種類のプローブを、区画を分けて設けており、前記温度曝露工程を実行した後、前記細胞吸着領域から前記防蒸散物質を取り除く防蒸散物質除去工程と、前記防蒸散物質除去工程を実行した後、前記細胞吸着領域を乾燥する吸着領域乾燥工程と、前記吸着領域乾燥工程を実行した後、前記核酸と前記プローブとのハイブリダイゼーション反応を行うための前記物質である反応物質を、前記細胞吸着領域に据える反応物質据置工程と、前記反応物質据置工程を実行した後、前記細胞吸着領域を所定の温度に保つ温度保持工程と、を実行することで、前記増幅した前記核酸と前記プローブとの前記ハイブリダイゼーション反応を行うことを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる請求項5に記載の試料処理方法は、請求項4に記載の試料処理方法において、前記温度保持工程を実行した後、前記細胞吸着領域から前記反応物質を取り除く反応物質除去工程と、前記反応物質除去工程を実行した後、前記増幅した前記核酸について前記ハイブリダイゼーション反応の有無を検出する反応検出工程とを実行することを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる請求項6に記載の試料処理方法は、請求項1から5のいずれか1つに記載の試料処理方法において、前記基板は、疎水性の前記領域である疎水性領域をさらに設けており、前記細胞吸着領域は、親水性であり前記疎水性領域に囲まれていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる請求項7に記載の試料処理方法は、請求項1から6のいずれか1つに記載の試料処理方法において、前記基板は、その表面に前記細胞吸着領域を複数設けていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかる請求項8に記載の試料処理方法は、請求項7に記載の試料処理方法において、各々の前記細胞吸着領域において、前記細胞吸着物質で表面処理された前記領域の面積は同じであることを特徴とする。
【0022】
また、本発明にかかる請求項9に記載の試料処理方法は、請求項1から8のいずれか1つに記載の試料処理方法において、前記細胞吸着領域の形状は円形であり、その直径は20μm以上且つ10,000μm以下であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明にかかる請求項10に記載の試料処理方法は、請求項1から9のいずれか1つに記載の試料処理方法において、前記細胞は白血球であり、前記試料は血液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、細胞を吸着する物質である細胞吸着物質で表面処理された領域を含む細胞吸着領域をその表面に設けた基板を用いて、試料を細胞吸着領域に据え、細胞吸着物質に吸着している細胞が残るように細胞吸着領域から試料を取り除き、細胞が破壊することで当該細胞に含まれる核酸が露出するまで細胞吸着領域を乾燥することで、細胞に含まれる核酸を抽出するので、細胞を含む試料から核酸を抽出するといった試料の処理を、実施環境を制限したり溶媒や試薬を使用したりせずに、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で、効率的且つ迅速に行うことができ、特に、血液などの臨床検体を対象とする場合に好適に用いることができるという効果を奏する。また、本発明によれば、試料から核酸を抽出した後に引き続いて、核酸の増幅や核酸とプローブとのハイブリダイゼーションやハイブリダイゼーション反応の検出といった核酸の分析を、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で、煩雑さを伴わずに一連の流れで行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明にかかる試料処理方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0026】
まず、本実施の形態にかかる試料処理方法を実施するための装置である試料処理装置100の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施の形態にかかる試料処理装置100の構成の一例を示す図である。図1に示すように、試料処理装置100は、基板102と、マイクロタイタープレート104と、分注装置106と、サーマルサイクラー108と、吐出装置110と、吐出ヘッド洗浄装置112と、蛍光スキャナー114と、制御装置116と、で構成されている。
【0027】
基板102は、特異的または非特異的に細胞を吸着する物質である細胞吸着物質で表面処理された領域を含む細胞吸着領域をその表面に設けており、具体的にはスライドガラスである。ここで、本実施の形態にかかる基板102の一例について、図2および図3ならびに図4および図5を参照して説明する。図2から図5は、本実施の形態にかかる基板102の一例を示す斜視図である。
【0028】
図2に示す基板102は、疎水性領域102bに囲まれた直径1.6mmの円形の親水性キャプチャー領域102aを、その表面に等間隔に合計48個(4行12列)配列している。親水性キャプチャー領域102aは、本発明にかかる細胞吸着領域に相当するものであり、本発明にかかる細胞吸着物質に相当するレクチン(レクチンは、非特異的に細胞を吸着する物質である。)で部分的に表面処理された親水性の領域である。疎水性領域102bは、図2に示すように環状(リング状)に設けられた、親水性キャプチャー領域102aを囲む疎水性の領域である。親水性キャプチャー領域102aは、基板102としてのスライドガラスの表面を例えばシランカップリング剤などで処理することで形成される。また、疎水性領域102bは、例えばフッ素樹脂などを印刷する方法などで、親水性キャプチャー領域102aを避けて当該親水性キャプチャー領域を囲むようにスライドガラスの表面に形成される。
【0029】
ここで、図3を参照して、親水性キャプチャー領域102aの詳細について説明する。親水性キャプチャー領域102aは、レクチンで表面処理された非特異的細胞吸着コート層102dを、図3に示すように部分的に設けている。非特異的細胞吸着コート層102dは、例えばスクリーン印刷などの方法によって、各々の親水性キャプチャー領域102a間で同じ面積(例えば300μm2から78mm2)で形成される。また、親水性キャプチャー領域102aは、標的とする核酸配列に相補的な配列を含む1種類または複数種類の検出プローブを適当なリンカーを介して配置する検出プローブスポット102cを、図3に示すように非特異的細胞吸着コート層102dの領域内に区画を分けてスポット状に等間隔に配列している。なお、複数の検出プローブを配置することにより複数の標的核酸を同時に検出して分析することができ、多項目の分析性に優れる。
【0030】
図4に示す基板102は、疎水性領域102bに囲まれた直径1.6mmの円形の親水性キャプチャー領域102aを、その表面に等間隔に合計48個(4行12列)配列している。親水性キャプチャー領域102aは、白血球に特異的に結合するビーズ等に用いられる抗体であり本発明にかかる細胞吸着物質に相当する白血球特異的抗体で部分的に表面処理された親水性の領域である。白血球特異的抗体としては、例えば、インビトロジェン社製の「Dynabeads HLA Class I 2ml」(型番:DB21001)や、ワンラムダ社製のリンフォクイックシリーズの「リンフォ T/B クイック 50tests」(型番:LK−50−TB)などのビーズに用いられる抗体がある。疎水性領域102bは、図4に示すように基板102の表面に全体的に設けられた、親水性キャプチャー領域102aを囲む疎水性の領域である。親水性キャプチャー領域102aは、基板102としてのスライドガラスの表面を例えばシランカップリング剤などで処理することで形成される。また、疎水性領域102bは、例えばフッ素樹脂などを印刷する方法などで、親水性キャプチャー領域102aを避けて当該親水性キャプチャー領域を囲むようにスライドガラスの表面に形成される。
【0031】
ここで、図5を参照して、親水性キャプチャー領域102aの詳細について説明する。親水性キャプチャー領域102aは、白血球特異的抗体で表面処理された白血球特異的細胞吸着コート層102eを、図5に示すように部分的に設けている。白血球特異的細胞吸着コート層102eは、例えばスクリーン印刷などの方法によって、各々の親水性キャプチャー領域102a間で同じ面積(例えば300μm2から78mm2)で形成される。また、親水性キャプチャー領域102aは、標的とする核酸配列に相補的な配列を含む1種類または複数種類の検出プローブを適当なリンカーを介して配置する検出プローブスポット102cを、図5に示すように白血球特異的細胞吸着コート層102eの領域内に区画を分けてスポット状に等間隔に配列している。
【0032】
なお、本発明にかかる基板は、本実施の形態にかかる上述した図2から図5に示す基板102に限定されない。例えば、基板102はスライドガラスに限定されない。また、親水性キャプチャー領域102aの配列状態およびその数は図2および図4に限定されない。
【0033】
また、親水性キャプチャー領域102aの形状は、上述した直径1.6mmの円形に限定されることなく、例えば直径20μmから10,000μmの略円形(例えば楕円なども含む)やこれら以外のものでもよい。なお、親水性キャプチャー領域102aの形状が直径20μmから10,000μmの略円形である場合、親水性キャプチャー領域102aは、その形状に因り、本発明にかかる試料や破壊物質や増幅物質や防蒸散物質や反応物質などとしての液体を安定して確実に保持することができ、また、その直径に因り、2pl(ピコリットル)から260μl(マイクロリットル)程度の微量の液滴を概ね半球状に保持することができる。その結果、試料や各種物質に用いる試薬を効果的に減らすことができる。
【0034】
また、非特異的細胞吸着コート層102dおよび白血球特異的細胞吸着コート層102eは、親水性キャプチャー領域102aに部分的に設けることに限られず、親水性キャプチャー領域102aの全体に設けてもよく、検出プローブスポット102cを除いた親水性キャプチャー領域102aの全体に設けてもよい。
【0035】
また、疎水性領域102bは、親水性キャプチャー領域102aを囲むように設ければよく、図2および図3に示すように環状に設けたり、図4および図5に示すように基板102の表面の全体に設けたりする以外にも、例えば親水性キャプチャー領域102aを除いた基板102の表面に部分的に設けてもよい。また、検出プローブスポット102cの配列状態およびその数は、図3および図5に限定されない。
【0036】
図1に戻り、マイクロタイタープレート104は、親水性キャプチャー領域102aに据える本発明にかかる試料や本発明にかかる各種物質(例えば、本発明にかかる破壊物質や増幅物質や防蒸散物質や反応物質、さらにはバッファー液など)を、区画を分けて保持する。
【0037】
ここで、試料は、有核細胞を少なくとも含むものであり、例えば、ヘパリンなどで抗凝固処理した全血からなる血液や、全血から血液成分を分離した主に白血球からなるバフィーコートなどである。破壊物質は、所定の細胞を選択的に破壊するための物質であり、例えば赤血球を選択的に溶解するように塩濃度を調整した、界面活性剤などによる溶解液である。増幅物質は、核酸を増幅するための物質であり、例えばPCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)試薬を含む増幅反応液である。防蒸散物質は、増幅物質や反応物質などの蒸散を防ぐための物質であり、例えばミネラルオイルやシリコンオイルなどのシーリングオイルである。なお、ミネラルオイルとしてはシグマ−アルドリッチ社製のミネラルオイル「M8662」などがあり、シリコンオイルとしてはインビトロジェン社製のPCR用シリコンオイル「10890−010」などがある。反応物質は、核酸と検出プローブとのハイブリダイゼーション反応を行うための物質であり、例えばハイブリダイゼーション反応液である。
【0038】
分注装置106は、マルチピペッター106aを備え、マルチピペッター106aで、試料や各種物質(例えば、破壊物質や増幅物質や防蒸散物質や反応物質、さらにはバッファー液など)をマイクロタイタープレート104から吸引したり、吸引した試料や各種物質を親水性キャプチャー領域102aに分注したりする。サーマルサイクラー108は、PCR反応に必要な温度条件に関するサーマルサイクルを基板102または各々の親水性キャプチャー領域102aに印可したり、基板102または各々の親水性キャプチャー領域102aを室温または所定の温度に保持したりする。
【0039】
吐出装置110は、吐出ヘッド110aを備え、吐出ヘッド110aで、各々の親水性キャプチャー領域102aに据えられている試料や各種物質を吸引して、吸引した試料や各種物質を他の親水性キャプチャー領域102aに吐出する。吐出ヘッド洗浄装置112は吐出ヘッド110aを洗浄する。
【0040】
蛍光スキャナー114は、基板挿入部114aを備え、基板挿入部114aに挿入された基板102をスキャンして蛍光画像データを作成する。制御装置116は、具体的には市販のパーソナルコンピュータであり、分注装置106やサーマルサイクラー108や吐出装置110や吐出ヘッド洗浄装置112や蛍光スキャナー114と通信可能に接続されており、分注装置106やサーマルサイクラー108や吐出装置110や吐出ヘッド洗浄装置112や蛍光スキャナー114を制御する。制御装置116は、蛍光スキャナー114から転送された蛍光画像データを受け取り、当該蛍光画像データに基づいてハイブリダイゼーション反応の有無を検出する機能を備える。
【0041】
つぎに、以上で説明した試料処理装置100で実行する試料処理方法について、図6および図7を参照して説明する。図6および図7は、試料処理装置100で実行する試料処理方法の一例を示す図である。
【0042】
作業者が、白血球Wおよび赤血球Rを含みヘパリンで抗凝固処理された全血からなる血液Bと、赤血球を選択的に溶解するように塩濃度を調整した、界面活性剤による溶解液Soと、蛍光標識したプライマーを含むPCR試薬を含む増幅反応液Pと、シーリングオイルSと、ハイブリダイゼーション反応液Hと、バッファー液とをマイクロタイタープレート104の所定の区画に置き、図4および図5に示す基板102を所定の位置に設置し、制御装置116のモニタに表示されているスタートメニュー画面に対しキーボードやマウスなどの入力装置を介して各種条件を設定し、スタートメニュー画面のスタートボタンを押すと、試料処理装置100は、制御装置116を中心として図6に示す試料処理方法を実行する。
【0043】
まず、制御装置116は分注装置106に指令を出し、分注装置106は、当該指令を受けると、マルチピペッター106aで、マイクロタイタープレート104から血液Bを吸引し、吸引した血液Bを各々の親水性キャプチャー領域102aに約1μl(マイクロリットル)滴下する(工程1:試料据置工程)。これにより、血液Bは半球状の液滴として親水性キャプチャー領域102aに保持され、滴下から所定時間経過すると血液Bに含まれる血球の一部は沈降などにより白血球特異的細胞吸着コート層102eに単層状に接触し、単層状に接触している血球のうち白血球Wのみが白血球特異的細胞吸着コート層102eに吸着する。
【0044】
つぎに、制御装置116は、工程1を完了してから所定時間経過すると分注装置106に指令を出し、分注装置106は、当該指令を受けると、白血球特異的細胞吸着コート層102eに吸着している白血球Wが残るように、各々の親水性キャプチャー領域102aからマルチピペッター106aで血液Bを取り除く(工程2:試料除去工程)。白血球は白血球特異的細胞吸着コート層102eに吸着しているため、血液Bは、分注装置106のマルチピペッター106aで吸い取ることで親水性キャプチャー領域102aから取り除くことができる。なお、マルチピペッター106aで血液Bを吸い取る際、マルチピペッター106aのノズル先端で白血球特異的細胞吸着コート層102eに吸着している白血球Wを破壊しないために、当該ノズル先端と白血球特異的細胞吸着コート層102eとの間に白血球の厚さ程度(約数十μm程度)の間隙を設けることが望ましい。
【0045】
ここで、図2および図3に示す基板102を用いた場合には工程2が完了したときに白血球W以外にも赤血球Rなどが非特異的細胞吸着コート層102dに単層状に吸着している可能性があるので(図7に示す工程2を参照)、当該基板102を用いた場合には、制御装置116は、図7に示すように工程2を完了してから分注装置106に指令を出し、分注装置106は、当該指令を受けると、マルチピペッター106aで、マイクロタイタープレート104から溶解液Soを吸引し、吸引した溶解液Soを各々の親水性キャプチャー領域102aに約1μl(マイクロリットル)滴下し(工程2’:破壊物質据置工程)、所定時間経過してから、マルチピペッター106aで、各々の親水性キャプチャー領域102aから、赤血球Rなどが溶解している溶解液Soを取り除いてもよい(工程2’:破壊物質等除去工程)。これにより、溶解液Soは半球状の液滴として親水性キャプチャー領域102aに保持され、非特異的細胞吸着コート層102dに吸着した赤血球Rは溶解液Soにより溶解してヘモグロビンなど核酸の増幅を阻害する成分などが溶解液So中に溶出し、白血球Wのみが非特異的細胞吸着コート層102dに吸着した状態にすることができる。すなわち、赤血球Rを溶解することで核酸の増幅を阻害するヘモグロビンを溶解液Soと共に効率的且つ効果的に除去することができる。これにより、核酸の増幅に関する工程4を効率よく実行することができ、結果として、核酸と検出プローブとのハイブリダイゼーション反応に関する工程5やハイブリダイゼーション反応の検出に関する工程6での精度も向上することができる。
【0046】
図6に戻り、制御装置116はサーマルサイクラー108に指令を出し、サーマルサイクラー108は、当該指令を受けると、白血球Wが破壊することで白血球Wに含まれる核酸が露出するまで基板102または各々の親水性キャプチャー領域102aを室温または適度な温度に保持することで、各々の親水性キャプチャー領域102aの表面の水分を蒸発させて、各々の親水性キャプチャー領域102aを乾燥する(工程3:核酸露出乾燥工程)。
【0047】
以上、工程1から工程3により、血液Bから核酸Nを抽出するといった試料の処理を、実施環境を制限したり溶媒や試薬を使用したりせずに、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で、効率的且つ迅速に行うことができた。また、微量な量の血液Bから、白血球Wに含まれる核酸Nを簡便且つ容易に抽出することができた。これにより、被験者の身体的・精神的負担を軽減することができる。
【0048】
つぎに、制御装置116は分注装置106に指令を出し、分注装置106は、当該指令を受けると、マルチピペッター106aで、マイクロタイタープレート104から増幅反応液Pを吸引し、吸引した増幅反応液Pを各々の親水性キャプチャー領域102aに約1μl(マイクロリットル)滴下する(工程4:増幅物質据置工程)。これにより、増幅反応液Pは半球状の液滴として親水性キャプチャー領域102aに保持される。
そして、制御装置116は引き続き分注装置106に指令を出し、分注装置106は、当該指令を受けると、マルチピペッター106aで、マイクロタイタープレート104からシーリングオイルSを吸引し、吸引したシーリングオイルSを、核酸Nおよび増幅反応液Pを覆うように(図6に示すように核酸Nおよび増幅反応液Pの上層に)各々の親水性キャプチャー領域102aに約5μl(マイクロリットル)滴下する(工程4:防蒸散物質据置工程)。これにより、増幅反応液Pを封止して、サーマルサイクルにおける増幅反応液Pの蒸散を防止する。
そして、制御装置116はサーマルサイクラー108に指令を出し、サーマルサイクラー108は、当該指令を受けると、基板102または各々の親水性キャプチャー領域102aに、PCR反応に必要なサーマルサイクルを印可する(工程4:温度曝露工程)。
【0049】
以上、工程4により、工程3で抽出した核酸Nを、同じ基板102さらには同じ親水性キャプチャー領域102aにて簡便且つ容易に増幅することができた。換言すると、工程1から工程4の間において、従来技術のように容器の移し替えの操作や新たな容器を必要とせず、1つの基板102のみで核酸Nの抽出から核酸Nの増幅までの工程を簡便且つ容易に行うことができた。また、工程4により、増幅された核酸Nに蛍光標識を導入することができた。これにより、増幅用の試薬など高価な試薬の使用量を減らすことができる。なお、核酸の増幅方法は、工程4で示したPCR法に限定されるものではなく、例えば等温増幅法やその他公知の様々な増幅方法でもよい。
【0050】
つぎに、制御装置116は分注装置106に指令を出し、分注装置106は、当該指令を受けると、マルチピペッター106aで、各々の親水性キャプチャー領域102aからシーリングオイルSを取り除く(工程5:防蒸散物質除去工程)。
そして、制御装置116はサーマルサイクラー108に指令を出し、サーマルサイクラー108は、当該指令を受けると、基板102または各々の親水性キャプチャー領域102aを室温または適度な温度に保持することで、各々の親水性キャプチャー領域102aを乾燥する(工程5:吸着領域乾燥工程)。
そして、制御装置116は分注装置106に指令を出し、分注装置106は、当該指令を受けると、マルチピペッター106aで、マイクロタイタープレート104からハイブリダイゼーション反応液Hを吸引し、吸引したハイブリダイゼーション反応液Hを各々の親水性キャプチャー領域102aに約1μl(マイクロリットル)滴下する(工程5:反応物質据置工程)。これにより、ハイブリダイゼーション反応液Hは半球状の液滴として親水性キャプチャー領域102aに保持される。なお、増幅反応液Pがハイブリダイゼーション反応のための試薬類をさらに混合してなる場合には、当該工程を省略することができる。
ここで、制御装置116は反応物質据置工程に引き続き分注装置106に指令を出し、分注装置106は、当該指令を受けると、マルチピペッター106aで、マイクロタイタープレート104からシーリングオイルSを吸引し、吸引したシーリングオイルSを、核酸N(蛍光標識された標的核酸N1を含む)およびハイブリダイゼーション反応液Hを覆うように(図6に示すように標的核酸N1およびハイブリダイゼーション反応液Hの上層に)各々の親水性キャプチャー領域102aに約5μl(マイクロリットル)滴下してもよい。これにより、シーリングオイルSは半球状の液滴として親水性キャプチャー領域102aに保持される。
そして、制御装置116はサーマルサイクラー108に指令を出し、サーマルサイクラー108は、当該指令を受けると、基板102または各々の親水性キャプチャー領域102aを室温に保持したり、基板102または各々の親水性キャプチャー領域102aに適度な温度(例えば60℃の温度)を印可して当該温度を保持したりする(工程5:温度保持工程)。
【0051】
以上、工程5により、工程4で蛍光標識された標的核酸N1と検出プローブとのハイブリダイゼーション反応を、同じ基板102さらには同じ親水性キャプチャー領域102aにて簡便且つ容易に行うことができた。換言すると、工程1から工程5の間において、従来技術のように容器の移し替えの操作や新たな容器を必要とせず、1つの基板102のみで核酸Nの抽出からハイブリダイゼーション反応までの工程を簡便且つ容易に行うことができた。なお、ハイブリダイゼーションの方法は、工程5で示したハイブリダイゼーション方法に限定されるものではなく、例えば、工程4では蛍光標識を導入せずに、工程5でインターカレーターを用いて標的核酸N1と検出プローブとのハイブリダイゼーション反応を行ってもよい。
【0052】
つぎに、制御装置116は分注装置106に指令を出し、分注装置106は、当該指令を受けると、マルチピペッター106aで、ハイブリダイゼーション反応液Hを取り除く(工程6:反応物質除去工程)。なお、工程5においてハイブリダイゼーション反応液Hの上層にシーリングオイルSを滴下した場合には、分注装置106は、マルチピペッター106aで、シーリングオイルSおよびハイブリダイゼーション反応液Hを取り除く。
ここで、制御装置116は反応物質除去工程に引き続き分注装置106に指令を出し、分注装置106は、当該指令を受けると、マルチピペッター106aで、マイクロタイタープレート104からバッファー液を吸引し、吸引したバッファー液を各々の親水性キャプチャー領域102aに適量滴下することで、各々の親水性キャプチャー領域102aを洗浄し、制御装置116はサーマルサイクラー108に指令を出し、サーマルサイクラー108は、当該指令を受けると、基板102または各々の親水性キャプチャー領域102aを室温または適度な温度に保持することで、各々の親水性キャプチャー領域102aを乾燥してもよい。
そして、作業者は、基板102を蛍光スキャナー114の基板挿入部114aに挿入する。
そして、制御装置116は蛍光スキャナー114に指令を出し、蛍光スキャナー114は、当該指令を受けると、基板挿入部114aに基板102が適正に挿入されているかを確認し、基板102が適正に挿入されていることを確認した場合には基板102をスキャンし、スキャンした基板102の蛍光画像データを制御装置116に転送し、制御装置116は、蛍光スキャナー114から転送された蛍光画像データを受けると、当該蛍光画像データに基づいて、蛍光標識された標的核酸N1についてハイブリダイゼーション反応の有無を検出する(工程6:反応検出工程)。
【0053】
以上、工程6により、蛍光標識された標的核酸N1のうち検出プローブとハイブリダイズした標的核酸N11を、同じ基板102さらには同じ親水性キャプチャー領域102aにて簡便且つ容易に検出することができた。換言すると、工程1から工程6の間において、従来技術のように容器の移し替えの操作や新たな容器を必要とせず、1つの基板102のみで核酸Nの抽出からハイブリダイゼーション反応の検出までの工程を簡便且つ容易に行うことができた。
【0054】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態にかかる試料処理装置100によれば、白血球特異的抗体で表面処理された白血球特異的細胞吸着コート層102eを含む親水性キャプチャー領域102aをその表面に設けた基板102を用いて、全血などの白血球Wを含む血液Bを親水性キャプチャー領域102aに据え、親水性キャプチャー領域102aに吸着している白血球Wが残るように、親水性キャプチャー領域102aから血液Bを取り除き、白血球Wが破壊することで当該白血球に含まれる核酸が露出するように、親水性キャプチャー領域102aを乾燥することで、白血球Wに含まれる核酸を抽出するので、白血球Wを含む血液Bから核酸Nを抽出するといった試料の処理を、実施環境を制限したり溶媒や試薬を使用したりせずに、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で、効率的且つ迅速に行うことができる。換言すると、核酸の分析に係わる「血液からの核酸の抽出」が簡便且つ容易に行うことができる。また、試料処理装置100によれば、図2から図5に示すような基板102を用いるので、遺伝子欠失や薬剤感受性SNPなどの遺伝子診断における臨床検査で用いる血液の量や各種試薬の量を効果的に減らすことができ、その結果、被験者の身体的負担や精神的負担を軽減することができるとともに、検査費用を削減することができる。
【0055】
また、試料処理装置100によれば、図2および図3に示す基板102(非特異的細胞吸着コート層102dを持つ基板102)を用いた場合には、全血などの白血球Wを含む血液Bを親水性キャプチャー領域102aに据え、親水性キャプチャー領域102aに吸着している白血球Wが残るように、親水性キャプチャー領域102aから血液Bを取り除いた後、溶解液Soを各々の親水性キャプチャー領域102aに据え、所定時間経過してから、各々の親水性キャプチャー領域102aから溶解液Soを取り除いてもよいので、親水性キャプチャー領域102aに吸着している血球のうち、核酸の分析には不要で阻害物質となるヘモグロビンを有する赤血球Rを選択的に効果的に排除することができ、その結果、核酸の分析の精度を向上することができる。
【0056】
また、試料処理装置100によれば、増幅反応液Pを親水性キャプチャー領域102aに据え、抽出した核酸Nおよび増幅反応液Pを覆うように、シーリングオイルSを親水性キャプチャー領域102aに据え、親水性キャプチャー領域102aを所定の温度条件に曝すことで、核酸Nを増幅するので、抽出した核酸Nを、同じ基板102さらには同じ親水性キャプチャー領域102aにて簡便且つ容易に増幅することができる。
これまで、核酸の増幅に関する技術としては、例えば、親水性を持たせた領域で核酸を増幅して検出する特許第3743090号の特許公報が開示されている。具体的には、当該特許公報には、親水性の材料の周囲を囲む疎水性の材料で被覆した発熱抵抗体の上に反応溶液を滴下して当該反応溶液にヒートサイクルを印可することで、核酸の増幅を行う技術が開示されている。しかし、当該特許公報では、核酸を分析するには、さらに核酸を抽出し検出するための素子が別途必要になるので、核酸の分析を簡単・小型な装置構成および簡便な操作で効率的且つ迅速に行うことが困難である。
ところが、試料処理装置100によれば、1つの基板102のみで核酸Nの抽出から核酸Nの増幅までの工程を、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で簡便且つ容易に行うことができる。
【0057】
また、試料処理装置100によれば、親水性キャプチャー領域102aからシーリングオイルSを取り除き、親水性キャプチャー領域102aを乾燥し、ハイブリダイゼーション反応液Hを親水性キャプチャー領域102aに据え、親水性キャプチャー領域102aを所定の温度に保つことで、増幅した核酸Nとプローブとのハイブリダイゼーション反応を行うので、標的核酸N1と検出プローブとのハイブリダイゼーション反応を、同じ基板102さらには同じ親水性キャプチャー領域102aにて簡便且つ容易に行うことができる。
これまで、ハイブリダイゼーション反応に関する技術としては、特許第3386391号の特許公報や特許第3393528号の特許公報や特許第3625826号の特許公報などが開示されている。特許第3386391号の特許公報には、標的核酸と相補的な配列を含むプローブを平板な基板上に区域を分けて設ける方法が開示されている。また、特許第3393528号の特許公報には、標識などを設けた試料核酸とのハイブリダイゼーション反応により標的核酸の有無などを検出する方法が開示されている。特許第3625826号の特許公報には、表面張力によって隔離される液滴を化学反応させ、特に、プローブとのハイブリダイゼーションにより核酸の検出を行う方法が開示されている。しかし、これら特許公報では、試料からの核酸の抽出や抽出した微量な核酸の増幅に関する技術は開示されておらず、ゆえに、核酸を分析する際には、これら特許公報における核酸の検出方法とは別に、核酸を試料から抽出して微量な核酸を増幅する方法が必要になるので、核酸の分析を簡単・小型な装置構成および簡便な操作で効率的且つ迅速に行うことが困難である。
ところが、試料処理装置100によれば、1つの基板102のみで核酸Nの抽出からハイブリダイゼーション反応までの工程を、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で簡便且つ容易に行うことができる。
【0058】
また、試料処理装置100によれば、親水性キャプチャー領域102aからハイブリダイゼーション反応液Hを取り除き、増幅した核酸についてハイブリダイゼーション反応の有無を検出するので、標的核酸N1のうち検出プローブとハイブリダイズした標的核酸N11を、同じ基板102さらには同じ親水性キャプチャー領域102aにて簡便且つ容易に検出することができる。
【0059】
以上、試料処理装置100によれば、血液Bからの核酸Nの抽出から、核酸Nの増幅や核酸Nとプローブとのハイブリダイゼーションやハイブリダイゼーション反応の検出といった核酸Nの分析までを、1つの基板102により、簡単・小型な装置構成および簡便な操作で、煩雑さを伴わずに一連の流れで行うことができる。
【0060】
また、試料処理装置100で用いる基板102は親水性キャプチャー領域102aの他に疎水性領域102bをさらに設けており、親水性キャプチャー領域102aは疎水性領域102bに囲まれているので、血液Bや各種物質を親水性キャプチャー領域102a内に確実に保持することができる。また、試料処理装置100で用いる基板102は、その表面に親水性キャプチャー領域102aを複数設けているので、複数の試料を同時に分析することができ、多検体の処理性に優れている。また、試料処理装置100で用いる基板102において、非特異的細胞吸着コート層102dまたは白血球特異的細胞吸着コート層102eの面積は各々の親水性キャプチャー領域102a間で同じであるので、単層吸着する白血球の量を各々の親水性キャプチャー領域102a間で一定にすることができ、結果として抽出する核酸の量が一定になり、定量性良く核酸を抽出することができる。また、抽出した核酸の濃度測定などが不要で、且つ安定した核酸の増幅が可能となる。つまり、核酸の分析が簡便且つ容易となり、検出の精度が向上する。また、試料処理装置100で用いる基板102において、親水性キャプチャー領域102aの形状は円形であり、その直径は20μm以上且つ10,000μm以下であるので、血液Bや各種物質を安定して確実に保持することができ、しかも2pl(ピコリットル)から260μl(マイクロリットル)程度の微量の液滴を概ね半球状に保持することができる。これにより、血液Bや各種物質に用いる試薬の量を減らすことができる。
【0061】
また、試料処理装置100で用いた試料は白血球を含む血液であるので、遺伝子欠失や薬剤感受性SNPなどの遺伝子診断などにおける臨床検査において好適に実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明にかかる試料処理方法は、バイオ・製薬・医療など様々な分野で好適に用いることができ、特に、血液などの臨床検体から核酸を抽出する場合(例えば、遺伝子欠失や薬剤感受性SNPなどの遺伝子診断など)に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施の形態にかかる試料処理装置100の構成の一例を示す図である。
【図2】本実施の形態にかかる基板102の一例を示す斜視図である。
【図3】本実施の形態にかかる基板102の一例を示す斜視図である。
【図4】本実施の形態にかかる基板102の一例を示す斜視図である。
【図5】本実施の形態にかかる基板102の一例を示す斜視図である。
【図6】試料処理装置100で実行する試料処理方法の一例を示す図である。
【図7】試料処理装置100で実行する試料処理方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
100 試料処理装置
102 基板
102a 親水性キャプチャー領域
102b 疎水性領域
102c 検出プローブスポット
102d 非特異的細胞吸着コート層
102e 白血球特異的細胞吸着コート層
104 マイクロタイタープレート
106 分注装置
106a マルチピペッター
108 サーマルサイクラー
110 吐出装置
110a 吐出ヘッド
112 吐出ヘッド洗浄装置
114 蛍光スキャナー
116 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む試料を処理する試料処理方法において、
前記細胞を吸着する物質である細胞吸着物質で表面処理された領域を含む細胞吸着領域をその表面に設けた基板を用いて、
前記試料を前記細胞吸着領域に据える試料据置工程と、
前記試料据置工程を実行した後、前記細胞吸着物質に吸着している前記細胞が残るように、前記細胞吸着領域から前記試料を取り除く試料除去工程と、
前記試料除去工程を実行した後、前記細胞が破壊することで当該細胞に含まれる前記核酸が露出するまで、前記細胞吸着領域を乾燥する核酸露出乾燥工程と、
を実行することで、
前記細胞に含まれる前記核酸を抽出すること
を特徴とする試料処理方法。
【請求項2】
前記試料除去工程を実行した後、所定の前記細胞を選択的に破壊するための前記物質である破壊物質を、前記細胞吸着領域に据える破壊物質据置工程と、
前記破壊物質据置工程を実行した後、前記細胞吸着領域から、前記破壊物質および当該破壊物質により破壊された前記細胞を取り除く破壊物質等除去工程と
をさらに実行し、
前記核酸露出乾燥工程は、前記破壊物質等除去工程を実行した後、前記細胞吸着領域を乾燥すること
を特徴とする請求項1に記載の試料処理方法。
【請求項3】
前記核酸露出乾燥工程を実行した後、前記核酸を増幅するための前記物質である増幅物質を、前記細胞吸着領域に据える増幅物質据置工程と、
前記増幅物質据置工程を実行した後、前記抽出した前記核酸および前記増幅物質を覆うように、前記増幅物質の蒸散を防ぐための前記物質である防蒸散物質を、前記細胞吸着領域に据える防蒸散物質据置工程と、
前記防蒸散物質据置工程を実行した後、前記細胞吸着領域を所定の温度条件に曝す温度曝露工程と、
をさらに実行することで、
前記核酸を増幅すること
を特徴とする請求項1または2に記載の試料処理方法。
【請求項4】
前記細胞吸着領域は、標的とする核酸配列に相補的な配列を含む1種類または複数種類のプローブを、区画を分けて設けており、
前記温度曝露工程を実行した後、前記細胞吸着領域から前記防蒸散物質を取り除く防蒸散物質除去工程と、
前記防蒸散物質除去工程を実行した後、前記細胞吸着領域を乾燥する吸着領域乾燥工程と、
前記吸着領域乾燥工程を実行した後、前記核酸と前記プローブとのハイブリダイゼーション反応を行うための前記物質である反応物質を、前記細胞吸着領域に据える反応物質据置工程と、
前記反応物質据置工程を実行した後、前記細胞吸着領域を所定の温度に保つ温度保持工程と、
を実行することで、
前記増幅した前記核酸と前記プローブとの前記ハイブリダイゼーション反応を行うこと
を特徴とする請求項3に記載の試料処理方法。
【請求項5】
前記温度保持工程を実行した後、前記細胞吸着領域から前記反応物質を取り除く反応物質除去工程と、
前記反応物質除去工程を実行した後、前記増幅した前記核酸について前記ハイブリダイゼーション反応の有無を検出する反応検出工程と
を実行すること
を特徴とする請求項4に記載の試料処理方法。
【請求項6】
前記基板は、疎水性の前記領域である疎水性領域をさらに設けており、
前記細胞吸着領域は、親水性であり前記疎水性領域に囲まれていること
を特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の試料処理方法。
【請求項7】
前記基板は、その表面に前記細胞吸着領域を複数設けていること
を特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の試料処理方法。
【請求項8】
各々の前記細胞吸着領域において、前記細胞吸着物質で表面処理された前記領域の面積は同じであること
を特徴とする請求項7に記載の試料処理方法。
【請求項9】
前記細胞吸着領域の形状は円形であり、その直径は20μm以上且つ10,000μm以下であること
を特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の試料処理方法。
【請求項10】
前記細胞は白血球であり、前記試料は血液であること
を特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の試料処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−5781(P2008−5781A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180342(P2006−180342)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】