説明

試料加熱又は冷却装置

【課題】 加熱又は冷却部材や試料の熱膨張・熱収縮による試料表面の位置の変動を除去するための機構を持つ試料加熱又は冷却装置を得ること。
【解決手段】 凹部を有する試料支持機構と、凹部に収容されるとともに試料加熱部材又は試料冷却部材を有し、試料を保持する試料保持機構と、試料保持機構を取り囲む断熱機構と、試料支持機構に固定され、試料を上部より押さえる試料固定機構とを備えた試料加熱又は冷却装置において、上記断熱機構の底部と試料支持機構の凹部との間に弾性緩衝機構を介在させた試料加熱又は冷却装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡や分析機器等において、試料を加熱又は冷却し、温度変化をさせながら測定を行う試料加熱又は冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡測定等に利用される既存の試料加熱又は冷却装置は、固定した通電式ヒーター等の上で、試料を直接加熱又は冷却するものである。
従来の試料加熱又は冷却装置では、加熱又は冷却に伴う温度変化により、試料及び加熱又は冷却部材の熱膨張・熱収縮により試料表面の位置が大きく変化してしまい、計測・観察の障害となっている。すなわち、試料表面からの反射や発光強度を測定する顕微鏡システムや分析装置等においては、試料を加熱又は冷却した場合の加熱又は冷却部材や試料の熱膨張・熱収縮による試料表面の位置の僅かな変化が測定信号の大きな劣化に直結してしまう欠点があった。
【0003】
例えば、非特許文献1において、半導体試料の光学物性計測のための試料加熱装置が記載されている。当該文献には、凹部を有する試料支持機構、試料加熱部材、放射シールドによる断熱機構からなる試料加熱装置の構成が示されているが、このような装置では、加熱による温度変化に伴う試料の熱膨張により、試料表面と測定機器との間の距離が変動し、測定・観察の精度劣化の要因となってしまう欠点があった。
【非特許文献1】Takasuka et al.,Applied Physics Letters vol.67(5) pp.2590-2594 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、上記の欠点を除去し、加熱又は冷却部材や試料の熱膨張・熱収縮による試料表面の位置の変動を除去するための機構を持つ試料加熱又は冷却装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、凹部を有する試料支持機構と、上記凹部に収容されるとともに試料加熱部材又は試料冷却部材を有し、試料を保持する試料保持機構と、上記試料保持機構を取り囲む断熱機構と、上記試料支持機構に固定され、試料を上部より押さえる試料固定機構とを備えた試料加熱又は冷却装置において、上記断熱機構の底部と試料支持機構の凹部との間に弾性緩衝機構を介在させた試料加熱又は冷却装置を提供するものである。
【0006】
また本発明は、上記試料支持機構の凹部の周囲の試料支持機構には、冷却又は加熱手段が設置されている試料加熱又は冷却装置を提供するものである。
【0007】
また本発明は、上記試料支持機構の凹部の周囲の試料支持機構中には、冷却又は加熱手段が埋設されている試料加熱又は冷却装置を提供するものである。
【0008】
また本発明は、上記試料保持機構には温度計測手段が埋設されている試料加熱又は冷却装置を提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記弾性緩衝機構は、上記試料支持機構中に設置するか、試料支持機構中に一部埋め込むように設置されたスプリングである試料加熱又は冷却装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、弾性緩衝機構の導入により、試料の加熱・冷却に伴う熱膨張・熱収縮が試料表面の位置の変化とならない機構が実現される。さらに試料支持機構に冷却又は加熱手段を設けて、試料の加熱又は冷却に伴う試料支持機構の伸縮を抑制することにより、弾性緩衝機構との相乗効果による測定試料の光学的測定の精度、信頼性の大幅な向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の試料加熱又は冷却装置を試料加熱装置を例示して説明する。
図1は試料加熱装置の原理図を示すものである。
図1において、1は、試料である。2は、試料保持機構であり、試料台、ヒーター及びこれらを収容する容器で構成されている。試料1は、試料保持機構2の試料台上に載置されていてヒーターにより所望の温度に加熱される。3は、断熱機構であり、図1のように試料保持機構2を取り囲むように配置されている。断熱機構3は、試料保持機構2の保温及び試料保持機構2の昇温に伴う試料支持機構の伸びを抑制するものである。
【0012】
5は、試料保持機構2及び断熱機構3を収容する凹部を有する試料支持機構である。試料支持機構5の上部には、試料固定機構7が配置されている。試料固定機構7は、試料1の表面周辺部を押さえることにより弾性緩衝機構4と共働して試料を固定している。
試料固定機構7の先端部(試料1との接触部)は、断熱性の材料をナイフエッジ状に加工して用いることにより、熱伝導による試料表面からの熱流入を防止している。
試料支持機構5には、支持機構冷却手段6が設けられており、試料加熱部材の発熱の影響が試料支持機構に及ばないように冷却している。冷却手段6による冷却は、水等の冷媒を支持機構内で循環させることにより支持機構の温度を一定に保つためのものである。
【0013】
4は、本発明に係る弾性緩衝機構であり、スプリング、電磁式バネ、ゴム、エアバック等で構成されている。弾性緩衝機構4は、加熱による試料及び試料保持機構の伸び変形を吸収することにより、試料1の測定表面と測定機器との距離を一定に保持している。上記スプリング等は、上記試料支持機構の凹部表面に載置してもよいが、試料支持機構中に設置するか、試料支持機構中に一部埋め込むように設置してもよい。
【0014】
上記試料保持機構に温度計測手段を埋設し、試料の温度をモニターするようにしてもよい。すなわち試料支持機構の下部から断熱機構3を経て試料台の表面近くまでに至る貫通孔を設け、この貫通孔内にサーミスター等の温度計測手段を埋設するものである。
【0015】
以上図1の原理図を用いて、本発明を説明したが、図1の原理図はあくまでも本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく変形、他の態様は、当然本発明に包含されるものである。
【0016】
また図1の原理図では、試料加熱装置を例示したが、本発明は試料を冷却して測定するための試料冷却装置にも当然適用可能である。この場合には、試料冷却部材として例えばペルチェ効果による電子冷却装置を用いるとともに、試料冷却部材の冷却の影響が試料支持機構に及ばないように温水等の加熱手段を試料支持機構内で循環させることにより支持機構の温度を一定に保つようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る試料加熱装置の原理説明図である。
【符号の説明】
【0018】
1 試料
2 試料保持機構
3 断熱機構
4 弾性緩衝機構
5 試料支持機構
6 冷却手段
7 試料固定機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する試料支持機構と、
上記凹部に収容されるとともに試料加熱部材又は試料冷却部材を有し、試料を保持する試料保持機構と、
上記試料保持機構を取り囲む断熱機構と、
上記試料支持機構に固定され、試料を上部より押さえる試料固定機構とを備えた試料加熱又は冷却装置において、
上記断熱機構の底部と試料支持機構の凹部との間に弾性緩衝機構を介在させたことを特徴とする試料加熱又は冷却装置。
【請求項2】
上記試料支持機構の凹部の周囲の試料支持機構には、冷却又は加熱手段が設置されていることを特徴とする請求項1記載の試料加熱又は冷却装置。
【請求項3】
上記試料支持機構の凹部の周囲の試料支持機構中には、冷却又は加熱手段が埋設されていることを特徴とする請求項1記載の試料加熱又は冷却装置。
【請求項4】
上記試料保持機構には温度計測手段が埋設されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の試料加熱又は冷却装置。
【請求項5】
上記弾性緩衝機構は、上記試料支持機構中に設置するか、試料支持機構中に一部埋め込むように設置されたスプリングであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の試料加熱又は冷却装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−127593(P2007−127593A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322244(P2005−322244)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、経済産業省委託研究「エネルギー需給構造高度化技術開発等委託費/情報通信機器の省エネルギー基盤技術研究開発」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】