説明

試料摩砕容器並びにそれを用いる用具及び方法

【課題】 比較的硬い試料であっても、簡易かつ高い効率で試料を摩砕できる試料摩砕容器を提供する。
【解決手段】 一端に開口部21を有し、かつ他端に底部23を有する筒体22を備えてなり、筒体22の内側に、摩砕棒40に形成される凹凸部44へ臨み得るように、凹凸部25を設けた。試料摩砕容器自体が試料にせん断効果を及ぼすことができる。筒体22は、可撓性材料より形成され、筒体22の外部から外力が加えられると、筒体22が変形し筒体22内の試料を潰しうるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物又は植物に由来する生体試料等を、容器内で効率よく摩砕するための試料摩砕容器及びその関連技術に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、比較的硬い試料(例えば、緩衝液に浸される植物葉等)を摩砕するのに適し、好適な例では、例えばミカン農家が、ミカン畑あるいはその付近でミカンが特定の病気に罹患していないかを検査するため、試料(例えば、ミカンの葉)を摩砕するような場合に適する。
【背景技術】
【0002】
液体試料、特に生体成分中の検出物質を定性或いは定量的に分析する技術として、操作の簡便性及び迅速性の面から、イムノクロマトグラフィー法が多用されている。より具体的には、試験片の所定の領域に、標識試薬、検出物質に対して特異性を持つ物質が、流動可能あるいは流動不能に装備され、試験片の所定の箇所に設定される試料滴下部に試料を滴下すれば、試験片の検出領域に検査結果を示すサインが現れるようになっている。
【0003】
本発明者らは、イムノクロマトグラフィー法による検査装置の分野において、技術的蓄積を有し、そのような検査の入り口部分である、試料の摩砕についても、鋭意研究を重ねている。
【0004】
さて、主として医学、生物学等に関連する技術分野において、さまざまな摩砕法が実施され或いは提案されている。これらの摩砕法は、およそ次のように分類することができる。
【0005】
(比較例1)
乳鉢に緩衝液に浸した試料を入れ、乳棒をすりこぎ棒のように使用するものである。上記技術分野で、広く実施されているが、次のような問題点がある。
【0006】
乳鉢の直径は、通常約90mm程度である。そのため、検体数が多いと、摩砕作業に広いスペースが必要になる。
【0007】
乳鉢や乳棒の外面に試料が付着しやすく、試料のロスが多い。殊に、試料が非常に少量であるときは、検出精度の低下を招くおそれがある。
【0008】
乳鉢と乳棒のセットは、高価(約500円位)である。
【0009】
(比較例2)
ペッスル(棒体と、その棒体の先端部に取り付けられた円錐状の頭部とからなる)と、遠心分離に使用される容器とを、用いるものである。比較例1よりも小さいから、少量の試料の摩砕に関しては、比較例1よりも試料のロスが少なく優れている。しかしながら、これでは、ペッスルの頭部及び容器の内面は、いずれも鏡面であり、比較的硬い試料(例えば、植物の葉等)について、摩砕効率が低い。
【0010】
(比較例3)
文献1(特開昭63−112974号公報)が開示するものである。即ち、ペッスルの頭部に溝を形成し、比較的硬い試料についても、摩砕効率を向上させるように意図したものである。しかしながら、後に詳述するように、本発明者らの実験によれば、これによっても、比較的硬い試料に関する摩砕効率は十分とは言えないという結果が出ている。
【0011】
(比較例4)
文献2(特開平5−187977号公報)あるいは文献3(特開平9−15123号公報)が開示するように、合成樹脂製の薄い袋を用意し、その内面に網目を設けたものである。しかしながら、本発明者らの検証によれば、摩砕作業中に、力の入れ具合により、袋が破損することがあった。
【特許文献1】特開昭63−112974号公報
【特許文献2】特開平5−187977号公報
【特許文献3】特開平9−15123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上をふまえて、本発明は、比較的硬い試料であっても、簡易かつ高い効率で試料を摩砕できる試料摩砕容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明に係る試料摩砕容器は、ホモジナイズ用の試料摩砕容器であって、一端に開口部を有し、かつ他端に底部を有する筒体を備えてなり、筒体の内側に凹凸部を設けた。
【0014】
第2の発明に係る試料摩砕容器は、第1の発明に加え、凹凸部は、摩砕棒に形成される凹凸部へ臨み得るように設けられる。
【0015】
これらの構成により、試料摩砕容器自体が試料にせん断効果を及ぼすことができ、比較的硬い試料であっても、試料を効率よく摩砕できる。
【0016】
第3の発明に係る試料摩砕容器では、第1の発明に加え、筒体は、可撓性材料より形成され、筒体の外部から外力が加えられると、筒体が変形し筒体内の試料を潰しうるようになっている。
【0017】
この構成により、試料摩砕容器の筒体に試料を入れ、外から筒体を手でもめば、筒体内の試料を潰すことができ、比較的硬い試料であっても、試料を効率よく摩砕できる。
【0018】
第4の発明に係る試料摩砕容器では、第1の発明に加え、凹凸部は、複数の突起から形成される。
【0019】
この構成により、複数の突起を試料に接触させ、比較的硬い試料であっても、試料を効率よく摩砕できる。
【0020】
第5の発明に係る試料摩砕容器では、第1の発明に加え、凹凸部は、階段状をなし粗面を構成する。
【0021】
この構成により、粗面を試料に接触させ、比較的硬い試料であっても、試料を効率よく摩砕できる。
【0022】
第6の発明に係る試料摩砕容器では、第1の発明に加え、凹凸部は、底部の内側に形成される。
【0023】
この構成により、試料を底部側へ加圧しながら、凹凸部を試料に接触させ、比較的硬い試料であっても、試料を効率よく摩砕できる。
【0024】
第7の発明に係る試料摩砕容器では、第1の発明に加え、筒体の底部付近には、円錐状をなす先細部が設けられる。
【0025】
円錐状をなす先細部を設けることにより、試料が沈降すると、底部中央付近に集中し、比較的硬い試料であっても、試料を効率よく摩砕できる。
【0026】
第8の発明に係る試料摩砕容器では、第7の発明に加え、凹凸部は、先細部の内側に形成される。
【0027】
この構成により、すり鉢状の先細部から試料へせん断効果を作用させることができ、比較的硬い試料であっても、試料を効率よく摩砕できる。
【0028】
第9の発明に係る試料摩砕容器では、第1の発明に加え、筒体は、透明又は半透明の材料からなる。
【0029】
この構成により、作業者は、筒体の外から筒体の内部の試料の状態を観察しながら、試料を効率よく摩砕できる。
【0030】
第10の発明に係る試料摩砕容器では、第1の発明に係る試料摩砕容器と、試料摩砕容器に挿入され、試料摩砕容器内の試料を摩砕する摩砕棒とを備える試料摩砕用具であって、摩砕棒は、棒体と、棒体の先端部に設けられる頭部とを備え、頭部には、試料摩砕容器の凹凸部へ臨む凹凸部が設けられている。
【0031】
この構成により、試料摩砕容器の凹凸部と摩砕棒の凹凸部とにより、両方から試料を挟み込み、せん断効果を及ぼすことができる。これにより、比較的硬い試料であっても、試料を効率よく摩砕できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、試料摩砕容器の凹凸部により、試料にせん断効果を及ぼすことができ、比較的硬い試料であっても、試料を効率よく摩砕できる。
【0033】
さらに、本発明に係る試料摩砕容器は、イムノクロマトグラフィー法による検査装置と同様に、携帯性に優れるので、現場(例えば、感染のおそれがある果樹のすぐそば等)で試料を効率よく摩砕し、同検査装置により検査結果を得ることができ、感染の発見及びその拡大防止策を、早期にかつ簡易に取ることができ、農業従事者やその関係者に有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
(実施の形態1)
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態1における試料摩砕用具の断面図である。
【0035】
図1に示すように、実施の形態1の試料摩砕用具は、摩砕棒1と、試料摩砕容器5とを備える。
【0036】
摩砕棒1は、細長い円筒状をなす棒体2と、棒体2の下端部に設けられる頭部3とを備える。また、頭部3の下端部には、凹凸部4が形成される。凹凸部4は、複数の突起群から構成される。
【0037】
試料摩砕容器5は、筒体7を備え、筒体7は、上端部に開口部6を、下端部に底部8を、それぞれ有する。筒体7には、摩砕棒1の頭部3が挿入できるようになっている。底部8の上面には、上向きに(即ち、頭部3の凹凸部4に臨むように)、凹凸部9が形成される。凹凸部9は、凹凸部4と同様に、複数の突起群から構成される。
【0038】
そして、開口部6から筒体7へ試料10を入れ、図1に示すように、摩砕棒1の頭部3を筒体7に挿入すると、凹凸部4と凹凸部9とは、試料10を挟み込む位置関係になる。この状態において、矢印N1方向に棒体2を下降させると、凹凸部4が試料10を加圧して、試料10を潰すことができる。また、矢印N2方向あるいはその逆方向に、棒体2を回転させると、凹凸部4と凹凸部9とは、試料10にせん断効果を及ぼす。その結果、試料10が植物の葉のように、比較的硬い試料である場合においても、試料10は、効率よく摩砕される。そして、十分摩砕された試料は、次の処理(例えば、イムノクロマトグラフィー法による検査装置による検査)に移行できる。
【0039】
ここで、摩砕棒1及び試料摩砕容器5は、合成樹脂を材料とする射出成型品であることが望ましい。こうすれば、安価に製造でき、使い捨ての使用態様を採用できるし、袋よりも堅牢であるため、破損のおそれは少ない。
【0040】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2における試料摩砕容器の断面図であり、図3は、同摩砕棒の正面図である。
【0041】
図3に示すように、本形態の摩砕棒40は、細長い円筒状をなす棒体41と、棒体41の下端部に設けられる頭部43とを備える。頭部43の下端部には、第1凹凸部44が形成される。第1凹凸部44は、複数の突起群から構成される。さらに、頭部43の傾斜する側面は、下向きに細くなる円錐状(つまり先細り)をなし、その側面には多数の溝が形成され、第2凹凸部45となっている。また、棒体41の上部には、縦の溝が複数条形成され、把持部42となっている。これにより、摩砕棒40を把持する作業者の手が滑りにくいようになっている。
【0042】
図2に示すように、本形態の試料摩砕容器は、試料摩砕容器20と、キャップ30と、ノズル34とを備える。
【0043】
試料摩砕容器20は、上端部に開口部21を、下端部に底部23を、それぞれ有する筒体22を備える。また、筒体22の底部23付近は、下向きに細くなる円錐状(つまり先細り)の先細部24となっている。
【0044】
開口部21から第2凹凸部26に至るまで、摩砕棒40の頭部43が挿入できるようになっており、摩砕棒40を最も下まで挿入すると、第2凹凸部26に第2凹凸部45が当接する。
【0045】
底部23の上面には、上向きに(即ち、摩砕棒40の第1凹凸部44に臨むように)、第1凹凸部25が形成される。第1凹凸部25は、第1凹凸部44と同様に、複数の突起群から構成される。
【0046】
筒体22の上部には、外径方向へ突出するフランジ27が周設され、リブ28は、フランジ27と筒体22の外側面とを連結する。なお、フランジ27、リブ28は、省略しても差し支えない。
【0047】
筒体22の外側面のうち、フランジ27よりも上部には、雄ねじ部29が形成され、キャップ30には、雄ねじ部29に対応する雌ねじ部31が形成されている。したがって、筒体22の上側からキャップ30を回転させると、雄ねじ部29と雌ねじ部31とが螺合し、開口部21はキャップ30によって閉鎖され、筒体22の内部空間は密閉される。
【0048】
試料摩砕容器20を使用する前には、例えば、包装袋等に試料摩砕容器20が収納されることになるが、その場合には、キャップ30による上記密閉関係を維持する。
【0049】
使用時には、キャップ30を外し、次に筒体22内に溶解液37を入れる。そうすると、筒体22内の溶解液37は、筒体22内に入ったままの状態となる。溶解液37は、予め筒体22内に入れておくこともできる。
【0050】
次に、試料を筒体22に入れ、試料を摩砕するときには、キャップ30を外してしまっても良いが、本形態では、次のようにすることができるようになっている。
【0051】
即ち、キャップ30の上端部中央にノッチ32が突設されている。また、ノッチ32の下端部には、切り込み溝33が水平に刻まれており、切り込み溝33の付近は、意図的に脆弱にされている。そこで、図2の鎖線で示すように、切り込み溝33を境として、ノッチ32を折ると、ノッチ32は、容易に切り離すことができ、その結果、開口部21はその上部において外部と連通することになる。こうなると、ノッチ32が取り除かれることにより開いた穴を介して、キャップ30を取り外すことなしに、試料あるいは摩砕棒を筒体22内に入れることができる。
【0052】
以上のように、試料の摩砕が終了したら、ノズル34をキャップ30に装着する。ノズル34の上部は、先細りの漏斗状をなす滴下口35となっており、ノズル34の中段部には、溶解液37に含まれる夾雑物等を取り除くフィルタ36が装着されている。したがって、ノズル34を装着した後に、滴下口35を下に向け、筒体22を作業者が手で絞れば、溶解液37は開口部21、ノッチ32が除かれることによりできた穴、ノズル34を介してフィルタ36へ至り、そこで夾雑物が取り除かれた後、溶解液37は滴下口35から外部へ吐出される。
【0053】
さて、第2凹凸部26等の形成形態は、種々考えられる。例えば、図4に示すように、第2凹凸部26を、階段状をなす粗面として構成してもよい。こうすれば、粗面を試料に接触させ、比較的硬い試料であっても、試料を効率よく摩砕できるだけでなく、試料摩砕容器20を合成樹脂の射出成型品とする際に、金型から容易に離型することができ、好適である。
【0054】
また、実施の形態1のように先細りにしない場合や、筒体22の少なくとも一部の内側面を、図5のように構成しても良い。このようにしても、比較的硬い試料を効率よく摩砕できるだけでなく、試料摩砕容器20を合成樹脂の射出成型品とする際に、金型から容易に離型することができ、好適である。
【0055】
ここで、筒体22は、透明又は半透明の合成樹脂(可撓性材料)より形成されている。したがって、図6に示すように、作業者が例えば親指50、人差し指51等を用いて筒体22に外力を加えると、筒体22が変形し筒体22内の試料を潰しうるようになっている。
【0056】
こうすれば、場合により、摩砕棒40なしに、溶解液37を摩砕できる。なお、筒体22の外側に、凹凸を設ければ、滑り止めの効果によって、試料摩砕がさらに容易となる。しかも、筒体22は、透明又は半透明であるから、作業者は、筒体22の外から溶解液37の状態を目視でき、力加減を調整しながら、摩砕できて非常に好適である。
【0057】
なお、図2には示していなかったが、図6に示すように、ノズル34の滴下口35には、適宜ノズル蓋38を取付け、不用意に溶解液37が外部に漏れでないように配慮することが望ましい。
【0058】
さて、図6に示すように手もみによるか、摩砕棒40を使用する摩砕によるか、あるいは、その両方であるかは問わず、摩砕が完了したら、図7に示すように、ノズル蓋38を外し、携帯できる検出装置(操作の利便性及び迅速性の面から、イムノクロマトグラフィー法によるものが望ましい。)へフィルタ36により濾過された溶解液37を滴下する。
【0059】
図7に示す検出装置は、保持具60と、保持具60により保持される試験片61とを備え、試験片61の試料滴下部は、保持具60に装着される治具に開設された試料滴下口62を介して外部へ露呈する。したがって、作業者は、試料滴下口62を介してフィルタ36により濾過された溶解液37を滴下すればよい。
【0060】
その他の点は、実施の形態1と同様である。
【0061】
なお以下、本発明者らが使用したイムノクロマト法による果樹ウイルスSDVの検出装置の調製要領を簡単に説明する。
【0062】
<抗SDVモノクローナル抗体>
抗SDVモノクローナル抗体を、Kohler−Milstein(Nature,256,495−497,1975)の方法に準じて調製した。SDVを免疫したマウスの脾臓から抗体を産出する細胞を取り出し、別に用意したマウスの骨髄腫細胞(ミエローマ)と融合させ、抗SDVモノクローナル抗体4E6産生ハイブリドーマ細胞並びに抗SDVモノクローナル抗体2G2産生ハイブリドーマ細胞を得た。それぞれのハイブリドーマ細胞を培養し、マウス腹腔内に注射し、腹水を得た。得られた腹水から、硫酸アンモニウム分画し、プロテインGカラム精製により、抗SDVモノクローナル抗体4E6並びに抗SDVモノクローナル抗体2G2を得た。
【0063】
<標識成分>
G.Frens(Nature,241,20−22,1973)の方法に従い、金コロイドを作製した。金コロイド10mlに対し、抗SDVモノクローナル抗体2G2を40μg、室温にて混合し、抗SDVモノクローナル抗体結合金コロイド(標識成分)を調製した。
【0064】
<標識区域>
抗SDVモノクローナル抗体結合金コロイドをOD520=0.303に調製した。調製液をガラス繊維パッドに、テスト当たり36μl塗布し乾燥させ、抗SDVモノクローナル抗体結合金コロイド塗布パッドを調製した。
【0065】
<検出区域>
抗SDVモノクローナル抗体4E6を、ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社:SCHF(商標))に、テスト当たり0.48μlでライン状に塗布し検出区域を形成した。カゼイン溶液によるブロッキング処理を経て、抗SDVモノクローナル抗体固相化メンブレンを調製した。
【0066】
<検出装置>
濾紙(滴下部)、抗SDVモノクローナル抗体結合金コロイド塗布パッド、抗SDVモノクローナル抗体固相化メンブレン、濾紙とを、それぞれの端部が3mmづつ重なるように、粘着剤付きの合成樹脂に貼り付け、試験片61を作製した。この試験片61を保持具60上に固定し、検出装置を作製した。
【0067】
以上の検出装置を用いて、
(実施例1):実施の形態2による試料摩砕容器20を、摩砕棒40は使用せず、手で揉んで摩砕した場合(0.1Mクエン酸緩衝液0.6mlを試料摩砕容器20に入れ、つづいて試料葉0.06グラムを入れ摩砕した。その後、フィルタ36により濾過された液を摩砕液とした。);
(実施例2):実施の形態2による試料摩砕容器20と摩砕棒40とを使用して摩砕した場合(0.1Mクエン酸緩衝液0.6mlを試料摩砕容器20に入れ、つづいて試料葉0.06グラムを入れ摩砕した。その後、フィルタ36により濾過された液を摩砕液とした。);
(比較例1):乳鉢と乳棒とで摩砕した場合(0.1Mクエン酸緩衝液0.6mlを準備し、その一部を乳鉢に入れ、つづいて試料葉0.06グラムを入れ摩砕した。その後、残りの0.1Mクエン酸緩衝液を乳鉢に入れた。遠心分離後の上清を摩砕液とした。);
(比較例2):平坦なペッスルと遠心分離器用の容器とで摩砕した場合(0.1Mクエン酸緩衝液0.6mlを遠心分離器用の容器に入れ、つづいて試料葉0.06グラムを入れ摩砕した。遠心分離後の上清を摩砕液とした。);
(比較例3):溝付きのペッスルと遠心分離器用の容器とで摩砕した場合(0.1Mクエン酸緩衝液0.6mlを遠心分離器用の容器に入れ、つづいて試料葉0.06グラムを入れ摩砕した。遠心分離後の上清を摩砕液とした。);
(比較例4):網目付きの袋で摩砕した場合(0.1Mクエン酸緩衝液0.6mlを網目付きの袋に入れ、つづいて試料葉0.06グラムを入れ摩砕した。遠心分離後の上清を摩砕液とした。)
のそれぞれにより調製した摩砕液について、0.1Mクエン酸緩衝液により、希釈系列(×1、×2、×4、×8、×16、×32、×64)を調製した。これを100μlだけ、滴下口62へ滴下し、15分経過後、金コロイド粒子由来のライン(ここでは、赤紫色)の出現状況を目視により観察した。なお、(比較例1)〜(比較例4)は、「背景技術」の項で述べたとおりである。
【0068】
以下において、感染樹1、2は果樹ウイルスSDVに感染しているミカン、健全樹1、2は果樹ウイルスSDVに感染していないミカンであり、これらのミカンに関する感度試験結果は、次のとおりである。
果樹名 摩 砕 摩砕液希釈倍率
×1 ×2 ×4 ×8 ×16 ×32 ×64
感染樹1 実施例1 + + + −
実施例2 + + + −
比較例1 + + + −
比較例2 + − − −
比較例3 + + + −
比較例4 − − − −
感染樹2 実施例1 + + + + + − −
実施例2 + + + + − − −
比較例1 + + + + − − −
比較例2 + + − − − − −
比較例3 + + − − − − −
比較例4 + + + + − − −
健全樹1 実施例1 −
実施例2 −
比較例1 −
比較例2 −
比較例3 −
比較例4 −
健全樹2 実施例1 −
実施例2 −
比較例1 −
比較例2 −
比較例3 −
比較例4 −
この結果は、次の事実を示す。
(1)実施例1、2は、比較例1と同等以上の検出感度をもたらす。加えて、実施例1、2の使い勝手は、比較例1よりも遙かに優れている。
(2)比較例2は、実施例1,2及び比較例1に比べ、検出感度が劣る。
(3)比較例3は、実施例1,2及び比較例1に比べ、試料によっては検出感度が劣る。
(4)比較例4は、実施例1,2及び比較例1に比べ、試料によっては検出感度が劣る。
【0069】
なお、インフルエンザ検査においては、咽頭を綿棒でぬぐって体液を採取し、溶解液が入れられた容器に、この綿棒を浸し、溶解液中で容器の外から綿棒を絞り、綿棒にしみこんでいた体液を溶解液中へ抽出し、その後、溶解液を用いて検査を行っている。
【0070】
本発明の試料摩砕容器は、このような容器にも応用でき、そうすれば、凹凸部の作用により、綿棒からの被検査物質の抽出効率を改善できることが期待される。
【0071】
本発明者らは、インフルエンザ感染の検査に関し、(1)モデル実験及び(2)検体による実験を行い、結果が得られたので報告する。実験の手順は、次の通りである。先端に綿球を備える同一の綿棒を使用し、その綿球の先端部にモデル粘液又は鼻腔吸引液(検体が含まれる可能性があるもの)を付着させる。同一組成及び同量の抽出溶液を、図1の容器5から凹凸部9を除いた第1容器(以下、「比較例5」という。)又は図2の容器20である第2容器(以下、「本発明例」という。)に溜める。
【0072】
比較例5の抽出処置は、次の通りである。即ち、モデル粘液又は鼻腔吸引液を付着させた綿球を第1容器の底まで差し込み、第1容器の外側から指で圧力を加え、5回綿球をもむ。
【0073】
本発明例の抽出処置は、次の通りである。即ち、モデル粘液又は鼻腔吸引液を付着させた綿球を第2容器の底まで差し込み、第2容器の外側から指で綿球をつまみ、綿棒を左右に5回回転させる。
【0074】
(1)モデル実験
インフルエンザ感染の検査では、鼻腔又は咽頭等内の粘液が使用されるが、このような粘液はかなりの粘性を有する。したがって、モデル実験では、粘性が高いものモデルとして、青色の水性絵の具を使用した。即ち、綿球に青色絵の具を取り、重量を測定し、1mlの抽出溶液により上記抽出処置を行う。その後、610nmの吸光度を測る。1mlの抽出溶液に青色絵の具をそのまま添加し完全に溶解させたときの吸光度を理論吸光度(100%)とし、測定された吸光度を理論吸光度で除した値を、抽出率(%)とする。
【0075】
比較例5及び本発明例のそれぞれについて、20回ずつ抽出処理を行い、抽出率を求めたところ、次の結果を得た。
【0076】
回 数 比較例5の抽出率(%) 本発明例の抽出率(%)
1 11.6 65.5
2 7.7 81.7
3 15.6 82.0
4 9.9 75.3
5 9.0 81.4
6 11.5 79.9
7 6.6 73.0
8 6.2 74.6
9 7.9 92.2
10 6.9 77.3
11 13.1 72.3
12 8.7 77.0
13 5.6 68.1
14 8.3 87.1
15 6.9 59.6
16 5.9 73.2
17 4.5 83.3
18 4.4 88.3
19 4.7 92.6
20 9.2 87.1
最小値 4.4 59.6
最大値 15.6 92.6
平均値 8.2 78.6
本発明例では、抽出率が59.6〜92.6%、平均値78.6%であり、比較例5では、抽出率が4.4〜15.6%、平均値8.2%である。即ち、比較例5に比べると、本発明例では、極めて高い抽出率が得られる。言うまでもなく、高い抽出率が得られるほど、検出精度が向上する。
【0077】
また、比較例5では指で綿球をもむため、強い指の力が必要であるが、本発明例では、強い力は不要であって抽出処理が容易であるという利点がある。より詳しくは、比較例5では、容器の底部が綿球より半径が大きい円筒状であり、容器の底面に邪魔されて容器の側部が変形しにくいため、綿球を押しづらく、綿球をもみほぐそうとしても試料が十分溶出しないと考えられる。一方、本発明例では、容器の底部が先細りになっており、しかも凹凸部26が形成されているので、綿棒を回転させるだけで、試料が容易に十分な量だけ溶出し、抽出率が著しく向上したものと考えられる。
【0078】
(2)検体による実験
本発明者らは、上記モデル実験に加え、上記比較例5及び本発明例のそれぞれについて、検体そのものを用いた実験を行った。ここでは、インフルエンザの陽性患者から、3本の同じ綿棒のそれぞれを用いて鼻腔吸引液を良くホモジナイズして採取した。
【0079】
また、4つの検体(検体1から検体3は、インフルエンザA型陽性の検体であり、検体4はインフルエンザB型陽性の検体である。)を使用した。抽出溶液等は、モデル実験と同じであるが、抽出後の溶液を2倍系列希釈して試料とし、イムノクロマト法によるインフルエンザ検出キット(株式会社ミズホメディー製、商標:クイックチェイサーFlu、品番:67500)により測定を行った。
【0080】
結果は次の通りであるが、「+」は陽性、「+W」は擬陽性、「−」は陰性を示す。
【0081】
希 釈 倍
検体 例 原液 2 4 8 16 32 64 128 256 512 1024
1 比較例5 + + + + + +W − − − − −
1 本発明例 + + + + + + + + + +W −
2 比較例5 + + +W − − − − − − − −
2 本発明例 + + + + +W − − − − − −
3 比較例5 + + + +W − − − − − − −
3 本発明例 + + + + + +W − − − − −
4 比較例5 + − − − − − − − − − −
4 本発明例 + + + +W − − − − − − −
以上により、いずれの条件でも、本発明例では、比較例5に比べ、高い抽出率が得られるから(モデル実験参照)、インフルエンザ検出感度が大幅に向上することが明らかである。なお、検体1から検体4のうちでも、検体1は非常に粘性が高く、検体3はそれについで粘性がかなり高いが、検体の粘性が高いほど、本発明例の容器は、高い効果を奏すると言える。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態1における試料摩砕容器の断面図
【図2】本発明の実施の形態2における試料摩砕容器の断面図
【図3】本発明の実施の形態2における摩砕棒の正面図
【図4】本発明の実施の形態2における第2凹凸部の拡大図
【図5】(a)本発明の実施の形態2における第2凹凸部の横断面図 (b)本発明の実施の形態2における第2凹凸部の縦断面図
【図6】本発明の実施の形態2における試料摩砕容器の使用状態説明図
【図7】本発明の実施の形態2における試料摩砕容器の使用状態説明図
【符号の説明】
【0083】
1、40 摩砕棒
2、41 棒体
3、43 頭部
4 凹凸部
5、20 試料摩砕容器
6、21 開口部
7、22 筒体
8、23 底部
9 凹凸部
10 試料
25、44 第1凹凸部
26、45 第2凹凸部
27 フランジ
28 リブ
29 雄ねじ部
30 キャップ
31 雌ねじ部
32 ノッチ
33 切り込み溝
34 ノズル
35、62 滴下口
36 フィルタ
37 溶解液
38 ノズル蓋
42 把持部
50、51 指
60 保持具
61 試験片
62 試料滴下口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホモジナイズ用の試料摩砕容器であって、
一端に開口部を有し、かつ他端に底部を有する筒体を備えてなり、
前記筒体の内側に凹凸部を設けたことを特徴とする試料摩砕容器。
【請求項2】
前記凹凸部は、摩砕棒に形成される凹凸部へ臨み得るように、凹凸部を設けてられていることを特徴とする請求項1記載の試料摩砕容器。
【請求項3】
前記筒体は、可撓性材料より形成され、前記筒体の外部から外力が加えられると、前記筒体が変形し前記筒体内の試料を潰しうるようになっている請求項1記載の試料摩砕容器。
【請求項4】
前記凹凸部は、複数の突起から形成される請求項1から3のいずれかに記載の試料摩砕容器。
【請求項5】
前記凹凸部は、階段状をなし粗面を構成する請求項1から3のいずれかに記載の試料摩砕容器。
【請求項6】
前記凹凸部は、前記底部の内側に形成される請求項1から5のいずれかに記載の試料摩砕容器。
【請求項7】
前記筒体の前記底部付近には、円錐状をなす先細部が設けられる請求項1から6のいずれかに記載の試料摩砕容器。
【請求項8】
前記凹凸部は、前記先細部の内側に形成される請求項7記載の試料摩砕容器。
【請求項9】
前記筒体は、透明又は半透明の材料からなる請求項1から8のいずれかに記載の試料摩砕容器。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の試料摩砕容器と、前記試料摩砕容器に挿入され、前記試料摩砕容器内の試料を摩砕する摩砕棒とを備える試料摩砕用具であって、
前記摩砕棒は、棒体と、前記棒体の先端部に設けられる頭部とを備え、
前記頭部には、前記試料摩砕容器の凹凸部へ臨む凹凸部が設けられている試料摩砕用具。
【請求項11】
請求項10記載の試料摩砕容器に試料を入れ、前記摩砕棒と前記試料摩砕容器とにより、試料を摩砕する試料摩砕方法。
【請求項12】
請求項1記載の試料摩砕容器に試料を入れ、前記筒体を手もみすることにより、試料を摩砕する試料摩砕方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−218903(P2007−218903A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6763(P2007−6763)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(598034720)株式会社ミズホメディー (17)
【Fターム(参考)】