説明

試料調製装置

【課題】磁気力により回転する回転子が正常に回転しているか否かを把握することが可能な試料調製装置を提供する。
【解決手段】試料調製装置は、複数種の細胞を含む液体試料から所定の細胞を分離するフィルタ60と、磁性体を備えており、回転することによりフィルタ60に付着した細胞を剥離する回転子72と、回転子72を、磁気力を用いて回転させる駆動部70と、駆動部70が回転子72を回転させる際に回転子72の回転情報を取得する回転情報取得部100とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体から採取された生体試料に含まれる細胞を分析する細胞分析装置として、被験者の子宮頸部から採取された試料に含まれる子宮頸部の上皮細胞をフローサイトメータで測定して、癌・異型細胞のスクリーニングを行う細胞分析装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
被験者の子宮頸部から採取された試料には、分析対象である上皮細胞の他に、赤血球や白血球といった夾雑物も含まれている。このような試料をそのまま測定すると夾雑物の存在が測定結果に影響を及ぼし正確なスクリーニングを行うことができないので、分析対象物である上皮細胞と夾雑物とを弁別する必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1記載の装置では、分析対象である上皮細胞が夾雑物に比べてサイズが大きいことを利用して、分析対象である上皮細胞をフィルタで捕捉し、当該フィルタを通過した夾雑物を吸引排出することにより、上皮細胞と夾雑物とを弁別している。
【0005】
前記上皮細胞を含む測定用試料を調製するためにはフィルタに捕捉された上皮細胞を当該フィルタから剥離して回収する必要がある。この剥離は、フィルタのろ過面に近接して配設された回転子が回転することにより生じるせん断力をフィルタの表面に付与することにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/123000号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の細胞分析装置において、フィルタに付着した上皮細胞を回転子によって剥離する際、上皮細胞が回転子やその周囲の壁面に固着するなどの理由により当該回転子が回転しなくなるか又は回転が不足する場合がある。この回転子の回転が不足すると、測定対象である上皮細胞を十分に取得できない恐れがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、磁気力により回転する回転子が正常に回転しているか否かを把握することが可能な試料調製装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の試料調製装置は、複数種の細胞を含む液体試料から所定の細胞を分離するフィルタと、
磁性体を備えており、回転することによりフィルタに付着した粒子を剥離する回転子と、
回転子を、磁気力を用いて回転させる駆動部と、
駆動部が回転子を回転させる際に回転子の回転情報を取得する回転情報取得部と
を備えたことを特徴としている。
【0010】
本発明の試料調製装置は、回転子の回転情報を取得する回転情報取得部を備えているので、フィルタに付着した細胞を剥離させる際に回転子が正常に回転しているか否かを把握することができる。
【0011】
前記回転情報取得部は、回転子に向けて光を照射する発光部と、この発光部から照射された光を検出する受光部とを備えており、当該受光部により検出された光情報に基づいて前記回転情報を取得するものとすることができる。
【0012】
また、前記回転子は光を反射する光反射部を備えており、前記受光部は、前記回転子の回転中に当該光反射部によって反射された前記発光部からの光を検出するものとすることができる。
【0013】
前記回転子は円柱体であり、この回転子の周面に形成された凹部に光反射部が埋め込まれているのが好ましい。
【0014】
前記回転情報取得部は、前記回転情報として、前記回転子の所定時間当たりの回転数を取得することができる。
前記転情報取得部で取得された回転子の回転情報に基づいて、前記駆動部を制御することができる。
【0015】
前記取得された回転子の回転情報は、前記回転子の所定時間当たりの回転数であり、
前記回転子の回転数が所定の範囲内の回転数となるように前記駆動部を制御するものとすることができる。
【0016】
前記回転子の回転数が所定の閾値より小さいとき、前記駆動部の駆動力を上昇させるものとすることができる。
前記回転子の回転数が所定の閾値より大きいとき、前記駆動部の駆動力を下降させるものとすることができる。
【0017】
試料調製装置は、前記回転子により剥離された細胞を取得する細胞取得部と、前記細胞取得部により取得された細胞と所定の試薬とから測定試料を調製する試料調製部とをさらに備えているのが好ましい。
【0018】
試料調製装置は、前記回転子を洗浄する洗浄部をさらに備えているのが好ましい。
【0019】
前記取得された回転子の回転情報は、前記回転子の所定時間当たりの回転数であり、前記洗浄部は、前記回転子の回転数が所定の閾値より少ないときに回転子の洗浄を開始するものとすることができる。
【0020】
前記回転情報取得部は、装置起動時に前記回転子を回転させて当該回転子の回転情報を取得するものとすることができる。また、前記回転情報取得部は、回転子による細胞剥離時に当該回転子の回転情報を取得するものとすることができる。さらに、前記回転情報取得部は、調製された測定試料を用いた測定終了時に前記回転子を回転させて当該回転子の回転情報を取得するものとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の試料調製装置によれば、磁気力により回転する回転子の回転情報を取得することができ、フィルタに付着した粒子を剥離させる際に回転子が正常に回転しているか否かを把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係る試料調製装置を備えた細胞分析装置の斜視図である。
【図2】測定装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】試料調製装置の内部構成を示すブロック図である。
【図4】データ処理装置の内部構成を示すブロック図である。
【図5】検出部を構成するフローサイトメータの機能ブロック図である。
【図6】フローサイトメータの光学系を示す側面図である。
【図7】調製デバイス部の流体回路図である。
【図8】調製デバイス部の流体回路図である。
【図9】置換容器の断面説明図である。
【図10】回転子の斜視説明図である。
【図11】(a)は図10に示される回転子の平面図、(b)は同側面図である。
【図12】発光部と受光部の斜視説明図である。
【図13】濃縮試料収容室の一例の説明図である。
【図14】弁別・置換部における分析物の濃縮過程を示す模式図である。
【図15】細胞分析装置の各制御部が行う処理を示すフローチャートである。
【図16】細胞分析装置の各制御部が行う処理を示すフローチャートである。
【図17】弁別・置換処理を示すフローチャートである。
【図18】弁別・置換処理を示すフローチャートである。
【図19】測定終了後の回転チェックのフローチャートである。
【図20】装置起動時の回転チェックのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の試料調製装置の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の試料調製装置は、患者から採取した細胞を分析する細胞分析装置に用いることができる。まず、かかる細胞分析装置について説明する。
【0024】
[細胞分析装置の全体構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る試料調製装置を備えた細胞分析装置1の斜視図である。
この細胞分析装置1は、患者から採取した細胞を含む測定試料をフローセルに流し、このフローセルを流れる測定試料にレーザ光を照射し、測定試料からの光(前方散乱光、側方蛍光など)を検出してその光信号を分析することで、細胞に癌細胞が含まれているか否かを判断するのに用いられる。
【0025】
より具体的には、本実施の形態の細胞分析装置1は、子宮頸部の上皮細胞を分析対象としており、子宮頸癌をスクリーニングするのに用いられるものである。
図1に示されるように、細胞分析装置1は、測定試料に対してレーザ光による光学的な測定を行う測定装置2と、被検者から採取された生体試料に洗浄や染色等の前処理を行って、測定装置2に供給する測定試料を作製する試料調製装置3と、測定装置2での測定結果の分析等を行うデータ処理装置4とを備えている。
【0026】
以下、細胞分析装置1の主要な構成要素について順次説明をする。
〔測定装置の内部構成〕
図2は、測定装置2の内部構成を示すブロック図である。
図2に示されるように、この測定装置2は、検出部6と、信号処理部7と、測定制御部8と、I/Oインタフェース9とを備えている。
【0027】
このうち、検出部6は、測定試料から測定対象細胞やその核の数及びサイズ等を検出するものであり、本実施の形態では、図5及び図6に示されるフローサイトメータ10が採用されている。
【0028】
信号処理部7は、検出部6からの出力信号に必要な信号処理を行う信号処理回路よりなる。また、測定制御部8は、マイクロプロセッサ11と記憶部12とを含んでおり、記憶部12は、ROM及びRAM等よりなる。
【0029】
記憶部12のROMには、検出部6や信号処理部7の動作制御を行う制御プログラムと、この制御プログラムの実行に必要なデータとが格納されており、マイクロプロセッサ11は、その制御プログラムをRAMにロードして、又は、ROMから直接実行することが可能である。
【0030】
測定制御部8のマイクロプロセッサ11は、I/Oインタフェース9を介して、データ処理装置4と後述する調製制御部16のマイクロプロセッサ19に繋がっており、これにより、自身が処理したデータや自身の処理に必要なデータを、データ処理装置4及び調製制御部16のマイクロプロセッサ19との間で送受信できるようになっている。
【0031】
〔試料調製装置の内部構成〕
図3は、試料調製装置3の内部構成を示すブロック図である。
図3に示されるように、この試料調製装置3は、調製制御部16と、I/Oインタフェース17と、生体試料に対する成分調整を自動的に行うための調製デバイス部18とを備えている。
【0032】
調製制御部16は、マイクロプロセッサ19と、記憶部20と、センサドライバ21と、駆動部ドライバ22とを含んでおり、記憶部20は、ROM及びRAM等よりなる。
本実施の形態の調製デバイス部18は、検体セット部24と、細胞分散部25と、検体ピペット部26と、検体定量部27と、試薬定量部28と、弁別・置換部29とから構成されている。
【0033】
このうち、検体セット部24は、患者から採取された生体試料とメタノール主成分の保存液とを収容する複数の生体容器53や測定試料容器54(図7参照)をセットするためのものであり、細胞分散部25は、生体容器53内の生体試料と保存液との混合液を攪拌して試料に含まれる細胞を強制的に分散させるものである。
【0034】
また、検体ピペット部26は、細胞が分散された生体試料と保存液との混合液を生体容器53から取り出して調製デバイス部18の流体回路に導入したり、調製された液体試料を測定試料容器54に戻したり当該測定試料容器54から取り出したりするものである。検体定量部27は、流体回路に供給される生体試料と保存液との混合液を定量するものである。また、試薬定量部28は、生体試料に加える染色液等の試薬を定量するものである。
【0035】
弁別・置換部29は、保存液と希釈液とを置換するとともに、測定対象細胞とそれ以外の細胞(赤血球、白血球等)や細菌等とを弁別するためのものである。また、弁別・置換部29は、前記弁別・置換された測定対象細胞を含む液体試料から、測定対象細胞の濃度を高めた液体試料を得るためのものである。なお、前記各部24〜29を有する調製デバイス部18の流体回路の構成(図7〜8)については、後述する。
【0036】
記憶部20のROMには、センサドライバ21及び駆動部ドライバ22の動作制御を行う制御プログラムと、この制御プログラムの実行に必要なデータとが格納され、マイクロプロセッサ19は、その制御プログラムをRAMにロードして、又は、ROMから直接実行することが可能である。
【0037】
調製制御部16のマイクロプロセッサ19は、I/Oインタフェース17を介して前記測定制御部8のマイクロプロセッサ11に繋がっており、これにより、自身が処理したデータや自身の処理に必要なデータを、測定処理部8のマイクロプロセッサ11との間で送受信できるようになっている。
【0038】
また、調製制御部16のマイクロプロセッサ19は、センサドライバ21と駆動部ドライバ22を介して、調製デバイス部18の各部24〜29のセンサ類や駆動部を構成する駆動モータと繋がっており、センサからの検知信号に基づいて制御プログラムを実行し、駆動部の動作を制御する。
【0039】
〔データ処理部の内部構成〕
図4は、データ処理装置4の内部構成を示すブロック図である。
図4に示されるように、本実施の形態のデータ処理装置4は、例えばノートPC(デスクトップ型でもよい。)等のパーソナルコンピュータよりなり、処理本体31と、表示部32と、入力部33とから主に構成されている。
【0040】
処理本体31は、CPU34と、ROM35と、RAM36と、ハードディスク37と、読出装置38と、I/Oインタフェース39と、画像出力インタフェース40とを備えており、これらの各部は内部バスによって通信可能に接続されている。
CPU34は、ROM35に記憶されているコンピュータプログラムやRAM36にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。
【0041】
ROM35は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM等によって構成され、CPU34に実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータ等が格納されている。
【0042】
RAM36は、SRAM又はDRAM等で構成され、ROM35及びハードディスク37に記録されている各種のコンピュータプログラムの読み出しや、それらのコンピュータプログラムを実行するときのCPU34の作業領域として利用される。
【0043】
前記ハードディスク37には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU34に実行させるための種々のコンピュータプログラム及びそのプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。
【0044】
また、ハードディスク37には、例えば、米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のグラフィカルユーザインタフェース環境を提供する、オペレーティングシステムがインストールされている。
【0045】
更に、ハードディスク37には、測定制御部8及び調製制御部16への動作命令の送信、測定装置2で行った測定結果の受信及び分析処理、並びに、処理した分析結果の表示等を行う操作プログラム41がインストールされている。この操作プログラム41は、当該オペレーティングシステム上で動作する。
【0046】
読出装置38は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブ等で構成され、可搬型記録媒体に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。
【0047】
入出力インタフェース39は、例えば、USB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。
【0048】
入出力インタフェース39には、キーボード及びマウスからなる入力部33が接続され、これをユーザが操作することでコンピュータへのデータ入力が可能となっている。
また、入出力インタフェース39は、測定装置2のI/Oインタフェース9とも接続されており、これにより、測定装置2とデータ処理装置4との間でデータの送受信を行うことができる。
【0049】
画像出力インタフェース40は、LCD又はCRT等よりなる前記表示部32に接続されており、CPU34からの画像データに応じた映像信号を当該表示部32に出力させるものである。
【0050】
〔検出部(フローサイトメータ)の構成〕
図5は、前記検出部6を構成するフローサイトメータ10の機能ブロック図であり、図6は、そのフローサイトメータ10の光学系を示す側面図である。
図5に示されるように、フローサイトメータ10のレンズ系43は、光源である半導体レーザ44からのレーザ光を、フローセル45を流れる測定試料に集光するものであり、集光レンズ46は、測定試料中の細胞の前方散乱光をフォトダイオード47よりなる散乱光検出器に集光するものである。
【0051】
図5では、レンズ系43を単一レンズで図示してあるが、具体的には、例えば図6に示されるような構成になっている。
すなわち、本実施の形態のレンズ系43は、半導体レーザ44側(図6の左側)から順に、コリメータレンズ43a、シリンダレンズ系(平凸シリンダレンズ43b+両凹シリンダレンズ43c)及びコンデンサレンズ系(コンデンサレンズ43d+コンデンサレンズ43e)から構成されている。
【0052】
図5に戻り、側方用の集光レンズ48は、測定対象細胞又はこの細胞中の核の側方散乱光と側方蛍光をダイクロイックミラー49に集光する。このダイクロイックミラー49は、側方散乱光を散乱光検出器であるフォトマルチプライヤ50へ反射させ、側方蛍光を蛍光検出器であるフォトマルチプライヤ51の方へ透過させる。これらの光は、測定試料中の細胞や核の特徴を反映したものとなっている。
【0053】
そして、フォトダイオード47及び各フォトマルチプライヤ50、51は、受光した光信号を電気信号に変換して、それぞれ、前方散乱光信号(FSC)、側方散乱光信号(SSC)及び側方蛍光信号(SFL)を出力する。これらの出力信号は図示しないプリアンプにより増幅され、測定装置2の信号処理部7(図2参照)に送られる。
【0054】
測定装置2の信号処理部7で処理された各信号FSC、SSC、SFLは、それぞれ、マイクロプロセッサ11によってI/Oインタフェース9からデータ処理装置4に送信される。
【0055】
データ処理装置4のCPU34(図4参照)は、前記操作プログラム41を実行することにより、各信号FSC、SSC、SFLから細胞や核を分析するためのスキャッタグラムを作成し、このスキャッタグラムに基づいて、測定試料中の細胞が異常であるか否か、具体的には癌化した細胞であるか否かを判定する。
【0056】
ところで、子宮頸部の上皮細胞の大きさは平均で約60μmであり、また核の大きさは5〜7μmである。この細胞が癌化すると細胞分裂の頻度が異常に多くなり、核は10〜15μmの大きさとなる。これにより、N/C比(核の大きさ/細胞の大きさ)が正常な細胞に比べて大きくなる。
【0057】
従って、細胞と核の大きさを検出することによって、細胞が癌化したか否かの判断指標とすることができる。
そこで、本実施の形態では、フローセル45を流れる測定試料からの散乱光をフォトダイオード47で検出するとともに、フローセル45を流れる測定試料からの蛍光をフォトマルチプライヤ51で検出する。
【0058】
測定装置2の信号処理部7は、フォトダイオード47から出力された散乱光信号から、測定対象細胞の大きさを反映した値である散乱光信号のパルス幅を取得するとともに、フォトマルチプライヤ51から出力された蛍光信号から、測定対象細胞の核の大きさを反映した値である蛍光信号のパルス幅を取得する。
【0059】
そして、前記信号処理部7で得た測定対象細胞の大きさを反映した値と、測定対象細胞の核の大きさを反映した値に基づいて、当該測定対象細胞が異常であるか否かを、分析部を構成するデータ処理装置4のCPU34が判定するようになっている。
具体的には、データ処理装置4のCPU34は、測定対象細胞のピーク、核径、面積の値が所定の閾値より大きい場合に、測定対象細胞が異常であると判定する。
【0060】
〔調製デバイス部の流体回路〕
図7は、調製デバイス部18の検体セット部24、細胞分散部25、検体ピペット部26、検体定量部27、試薬定量部28の流体回路図であり、図8は、調製デバイス部18の弁別・置換部29の流体回路図である。
【0061】
図7に示すように、検体セット部24は、円形の回転テーブル24Aと、これを回転駆動する駆動部24Bとを備えている。駆動部24Bはステッピングモーターからなる。回転テーブル24Aの外周縁部には、生体試料と保存液との混合液を収容する生体容器53と、弁別・置換部29で調製された、測定対象細胞の濃度を高めた液体試料を収容する測定試料容器54とをセット可能な保持部が設けられている。
【0062】
細胞分散部25は、生体容器53内の生体試料と保存液との混合液を攪拌する攪拌棒25Aと、これを回転駆動する駆動部25Bとを備えており、駆動部25BはDCモータからなり、攪拌棒25Aを生体容器53内に挿入して回転させる。これにより、生体容器53内の混合液が攪拌され、生体試料に含まれる細胞を分散させることができる。
【0063】
検体ピペット部26は、第1ピペット26Aと第2ピペット26Bとを備えている。第1ピペット26Aは、生体容器53内の生体試料と保存液との混合液を吸引し、図8に示す、弁別・置換部29の置換容器57まで移動し、混合液を置換容器57内に排出する。置換容器57に排出された混合液は弁別・置換され、弁別・置換された測定対象細胞を含む液体試料から測定対象細胞の濃度を高めた液体試料が調製される。その後、第1ピペット26Aは、置換容器57から測定対象細胞の濃度を高めた液体試料を吸引し、図7の検体セット部24に配置された測定試料容器54まで移動し、測定試料容器54内に液体試料を排出する。第2ピペット26Bは、試薬定量部28から供給される染色液等の試薬を測定試料容器54に排出する。
【0064】
検体定量部27は、定量シリンダ27Aと、このシリンダ27Aに挿通された定量ピストンを上下動させる、ステッピングモーターからなる駆動部27Bとを備えている。定量シリンダ27Aは、方向切替バルブV1を介して第1ピペット26Aと管路で繋がっている。
【0065】
図8に示すように、弁別・置換部29は、上方開口状の置換容器57と、この置換容器57内で上下方向に移動可能なピストン58と、このピストン58を置換容器57内で上下動させる、ステッピングモーターからなる駆動部59とを備えている。
【0066】
置換容器57は、切替バルブV4、V5を介して洗浄液ユニット90と管路で繋がっており、洗浄液ユニット90から切替バルブV4、V5を介して置換容器57に洗浄液が供給される。また、切替バルブV6を介して希釈液ユニット55と管路で繋がっており、希釈液ユニット55から切替バルブV6を介して置換容器57に希釈液が供給される。
【0067】
ピストン58は、測定対象細胞(上皮細胞)は通過させず、且つ、それより小径の細胞(赤血球、白血球等)は通過させるフィルタ60を下部に備えた中空筒体よりなっている。このピストン58は、切替バルブV8を介して陽圧源71に管路で繋がっている。このため、切替バルブV8を開放することでピストン58の内部に陽圧を供給することができる。また、ピストン58は、切替バルブV9を介してピストン58の内部空間と外部とが接続されており、切替バルブV9を開放することで、ピストン58の内部空間を大気開放することができる。
【0068】
さらに、ピストン58は、切替バルブV10、V12を介して濾液の廃棄部61に管路で繋がっている。このため、ピストン58の内部から吸引された濾液は、切替バルブV10、V12を通じて外部に廃棄される。
【0069】
また、ピストン58は、切替バルブV7を介して洗浄液ユニット90と管路で繋がっており、洗浄液ユニット90から供給された洗浄液は、ピストン58及び置換容器57を洗浄するのに用いられる。そして、ピストン58及び置換容器57内を洗浄した洗浄液は、切替バルブV11、V13を介して廃棄部61に排出される。
【0070】
図7に戻り、試薬定量部28は、一対の定量シリンダ28A、28Bと、この各シリンダ28A、28Bにそれぞれ挿通された定量ピストンを上下動させる、ステッピングモーターからなる駆動部28Cを備えている。各定量シリンダ28A、28Bは、それぞれ供給切替バルブV2、V3を介して第2ピペット26Bと管路で繋がっており、各定量シリンダ28A、28Bで定量された試薬は、供給切替バルブV2、V3を介して第2ピペット26Bに供給され、測定試料容器54内に排出される。
【0071】
これにより、検体セット部24の測定試料容器54に収容されている測定対象細胞の濃度を高めた液体試料に対して、試薬定量部28が定量した複数種類の所定分量の試薬を混合できるようになっている。
【0072】
本実施の形態では、試薬定量部28の各定量シリンダ28A、28Bで定量される試薬は2種類ある。このうち、一方の定量シリンダ28Aで計量して生体試料に加える試薬は、PI染色を行うための染料液であり、他方の定量シリンダ28Bで計量して生体試料に加える試薬は、細胞にRNA処理を行うためのRNaseである。PI染色は、色素を含んでいる蛍光染色液であるヨウ化プロピジウム(PI)により行われる。PI染色では核に選択的に染色が施されるため、核からの蛍光が検出可能となる。また、RNA処理とは、細胞中のRNAを溶かすための処理である。染料液は、上皮細胞のRNAとDNAの両方を染色してしまうので、前記のRNA処理を行うことでRNAが溶け染料液によって染まらなくなるので、細胞核のDNAを正確に測定することが可能となる。
【0073】
なお、図7及び図8で示される各部の駆動部や切替弁(電磁弁)V1〜V13に対する動作制御は、前記調製制御部16(マイクロプロセッサ19)からの制御指令に基づいて行われる。
【0074】
〔弁別・置換部の構成〕
本実施の形態における弁別・置換部29の構成について、図9を用いて説明する。図9は、本実施の形態における図8の弁別・置換部29における置換容器57の断面説明図である。
【0075】
図9に示されるように、本実施の形態の弁別・置換部29は、置換容器57と、この置換容器57内で上下方向に移動可能な円筒体からなるピストン58と、円筒体からなるピストン58の下端面に配設された、測定対象細胞を選別するためのフィルタ60と、測定対象細胞を含む液体の液面を検知する液面検知センサ82とを備えている。また、弁別・置換部29は、前記フィルタ60に捕捉された測定対象細胞を当該フィルタ60から剥離するものであり、前記フィルタ60と、回転子である回転子72と、回転子72を磁気力により回転させる駆動部(マグネチックスターラー)70と、回転子72の回転情報を取得する回転情報取得部100を備えている。駆動部70は、回転子72を磁気力により吸着する磁石69と、磁石69を回転させる駆動モータ70aとを備えている。また、回転情報取得部100は、発光部101と、受光部102と、信号レベル比較器105と、カウンタ部106とを備えている。なお、駆動部(マグネチックスターラー)70としては、磁気力により回転子72を回転させるものであれば特に限定されず、例えば、公知のマグネチックスターラーを用いることができる。
【0076】
置換容器57は、分析対象となる分析物(測定対象細胞)を収容可能な収容室68と、この収容室に連通して配設された濃縮試料収容室80とを備えている。収容室68には、液体試料中に含まれる測定対象細胞を、収容室68から濃縮試料収容室80へ移動させるとともに前記フィルタ60の下面に捕捉された測定対象細胞を回転によるせん断力で剥離させる回転子72が収容されている。この回転子72は磁気力で回転するように構成されており、収容室68の底部下方に、回転子72に磁気力を与えるための磁石69と、この磁石69を回転させるための駆動部である駆動モータ70aとが設けられている。
【0077】
回転子72は、円柱体形状を呈しており、三フッ化エチレン(PCTFE)等で作製される。図10は、本実施の形態における回転子72の一例を示す斜視説明図である。また、図11(a)、図11(b)は、それぞれ図10における回転子72の上面図、側面図である。
【0078】
回転子72の周面には、中心に向かう穴(凹部)73が形成されており、この穴73に丸棒状の磁石75とステンレス鋼からなる円柱状の光反射部103が収納される。前記磁石69が駆動モータ70aにより回転することで、当該磁石69から磁気力が与えられる磁石75を備えた回転子72が回転する。光反射部103は、その端面103aが外部に露出しており、発光部101から照射された光が反射されるように設けられている。この端面103aは、光反射性を高めるために研磨されている。
【0079】
なお、本実施の形態において、マグネチックスターラー70から生じた磁気力により回転子72を回転させるため、磁石75を用いたが、磁性を有する物質であれば特に限定されない。好ましくは、強磁性を有する物質(強磁性体)である。強磁性体としては、ネオジム磁石、サマリウム−コバルト磁石、フェライト磁石、鉄−白金磁石、鉄−クロム−コバルト磁石、アルニコ磁石が挙げられる。
【0080】
回転子72の上面には、互いに交差する2つのリブ74が形成されており、このリブ74は周縁まで延びている。このようなリブ74を形成することで、フィルタ60の下面と回転子72の上面との間に存在する液体試料の攪拌効率を上げることができ、その結果、フィルタ60の下面に付着している測定対象細胞を当該フィルタ60から効果的に剥がすことができる。また、後述する濃縮試料収容室への測定対象細胞の移動を効果的に行うことができる。このリブ74の突出高さは、本発明において特に限定されるものではないが、概ね0.3〜1.0mmが目安である。
【0081】
なお、フィルタ60の下面(ろ過面)と、この下面と対向する前記回転子72のリブ74上面との距離は、特に限定されるものではないが、1mm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.6mm以下である。また、回転子72を回転させる磁石69の回転数、すなわち駆動モータ70aの回転数は1000〜2000rpmの範囲とするのが好ましく、より好ましくは約1300rpmである。
【0082】
図9に戻り、ピストン58は、その底部に保持具65を介してフィルタ60が配設されている。ピストン58は、前記フィルタ60に液体を通過させることにより、測定対象細胞を主に含む第1液体と、測定対象細胞よりも小径の細胞を主に含む第2液体とに液体を分離する液体分離部として機能している。
【0083】
本実施の形態では、測定対象細胞として子宮頸部の上皮細胞を想定しており、この上皮細胞の大きさは概ね20〜80μm(平均は60μm程度)である。また、かかる測定対象細胞より小さい細胞である赤血球の大きさは、概ね7〜10μmであり、同じく測定対象細胞より小さい細胞である白血球の大きさは、概ね8〜15μmである。更に、細菌等の夾雑物の大きさは、概ね1〜数μm程度である。
【0084】
そこで、本実施の形態におけるフィルタ60は、置換容器57内の液体に圧力がかかった状態でも上皮細胞が前記フィルタ60の通孔を通過してピストン58内に移動しないように、20μmより小さい8〜20μmの径の通孔を有する金属製のCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)で作製されている。かかる金属製のCVDフィルタは、その他の樹脂製のフィルタや、金属製であってもメッシュ製のものに比べて通孔の変形が少なく、開口率を高められるという利点がある。
【0085】
また、フィルタ60の孔径を8〜20μmに設定したのは、8μm未満であれば、細胞や夾雑物が通孔に早期に詰まる現象が多く見られ、20μmを超えると、置換容器57内の液体に圧力がかかっている状態では上皮細胞が通孔を通過してしまうことが多くなるからである。なお、フィルタ60の孔径は、15μm前後がより好ましい。
【0086】
液面検知センサ82は、置換容器57の下部に、当該置換容器57内の第1液体の液面を検知するために配設されている。液面検知センサ82は、静電容量タイプのものであり、その先端部が、置換容器57の内面から2〜3mm程度内方に突出している。そして、突出した部分の先端にピン状のセンサ部82aが設けられている。液面検知センサ82は、測定対象細胞を含む第1液体の液面が前記フィルタ60のほぼ下面の位置に達したことを検知するために用いられる。
【0087】
本実施の形態では、フィルタ60の下面よりも上方約2.0mmの位置にセンサ部82aを配設し、前記表面張力の影響及び第2液体の吸引速度をも考慮して、センサ部82aからの検知信号を受信していから所定時間経過後に、ピストン58内の第2液体の吸引を停止するようにしている。また、ピン状のセンサ部82aを斜め上方に配置することにより、液切れを良くして液面検知の精度を上げることができる。このとき、配置する角度としては、水平面に対して、概ね5〜90度の範囲である。
【0088】
本実施の形態では、置換容器57の底部に、収容室68と、該収容室68の周縁部に連通して配設された濃縮試料収容室80が配設されている(図13参照)。この濃縮試料収容室80は、収容室68に収容されている回転子72の回転により移動させた測定対象細胞を収集する役割を果たしている。後述する弁別操作によって測定対象細胞の一部がフィルタ60の下面に捕捉されて付着するが、この付着した測定対象細胞は、回転子72の回転によりフィルタ60の下面から引き剥がされ、更に、回転子72の回転に伴って発生する遠心力により、収容室68の周縁部に連通して配設された濃縮試料収容室80に収集される。
【0089】
図9に戻り、回転情報取得部100は、回転子72が回転しているか否かを判断するために当該回転子72の回転情報、具体的には単位時間当たりの回転数を得るために設けられており、回転子72に向けて光を照射する発光部101と、この発光部101から照射された光を検出する受光部102と、受光部102で検出された光に基づく信号レベルを基準レベルと比較する信号レベル比較器105と、前記信号が基準レベルを越える回数をカウントし回転子72の回転数を算出するためのカウンタ部106とを備えている。
【0090】
回転子72の回転情報は、光反射部103によって反射された発光部102からの光を受光部102が検出した回数に基づいて得られる。具体的には、発光部101から回転している回転子72に向けて照射された光は、回転子72の周面に設けられた光反射部103が発光部101と対向したときのみ、光反射部103により反射され受光部102で検出される。これにより、受光部102が単位時間当たりに光を検出した回数に基づいて、回転子72の単位時間当たりの回転数を得ることができる。
【0091】
図12は、発光部101と受光部102の構成を示す斜視説明図である。発光部101と受光部102は併設されており、発光部101から回転子72に向かって照射された光は、発光部101と回転子72の光反射部103とが対向しているときのみ、光反射部103により反射され受光部102で検出される。発光部101は、LEDを発光源としており、置換容器57の底部付近に配置された回転子72の周面に設けられた前記光反射部103の外側端面にLED光を照射することができるように、前記置換容器57の下部付近に配置された支持部104に固設されている。発光源としては、LEDに代えてレーザを用いることもできる。両者は検出距離に差があり、レーザ光の場合はLED光よりも検出距離が長く、検出精度を高めることができるとともに置換容器57等の設計の自由度を高めることができる。LEDを用いると、小型で低コストである発光部101を作製することができる。
【0092】
本実施の形態では、発光源としてLEDを用い、置換容器57を光が透過することができる透明な合成樹脂である塩化ビニル樹脂で作製している。図9に示す、光が透過する部分の壁厚tは、検出距離を考慮して例えば7.75mmとしている。また、置換容器57の外周面(発光部101の光照射面とほぼ同じである)から前記光反射部103の外側端面(光反射面)までの距離dは、例えば8.00mmとしている。
【0093】
光反射部103で反射した光は、受光部102で検出される。受光部102で検出された光反射部103からの反射光に基づく信号は、回転情報取得部100の信号レベル比較器105により基準レベルと比較され、前記信号レベルがこの基準レベルよりも大きいときはPLD等によるカウンタ部106によりカウントされ、その値に基づき回転子72の単位時間当たりの回転数が算出される。カウンタ部106で算出された回転数はCPUからなる制御部107で読み取ることができる。回転数が所定値より小さい場合は、D/Aコンバータ108を経由して駆動電圧制御回路109に電圧制御信号が供給され、駆動モータ70aは、この制御信号を受けた駆動電圧制御回路109により回転数を上げるように駆動電圧が上げられる。また、回転数が所定値より大きい場合は、D/Aコンバータ108を経由して駆動電圧制御回路109に電圧制御信号が供給され、駆動モータ70aは、この制御信号を受けた駆動電圧制御回路109により回転数を下げるように駆動電圧が下げられる。このように、本実施の形態では、回転子72の回転数をフィードバック制御することができる。前記D/Aコンバータ108及び駆動電圧制御回路109は試料調製装置3の調製制御部16に含まれる。
【0094】
液面検知センサ82の下方には、ピストン58及び置換容器57を洗浄するために洗浄液ユニット90からの洗浄液が供給される洗浄液供給部110が設けられている。また、前記濃縮試料収容室80の最底部から置換容器57外に通じる洗浄液排出部111が設けられている。さらに、収容室68の底面68aから置換容器57外に通じる洗浄液供給・排出部112が設けられている。洗浄液供給・排出部112からは、後述する追加洗浄(回転子72の回転が不足しているとき等に行われる洗浄)を行うための洗浄液が供給され、また、排出される。洗浄液排出部111からはピストン58及び置換容器57を洗浄する際の洗浄液及び追加洗浄を行う際の洗浄液が排出される。
【0095】
ここで、本実施形態における、生体試料と保存液との混合液を弁別し、弁別した測定対象細胞を含む液体試料から測定対象細胞の濃度を高めた液体試料が調製されるまでについて、図14の模式図を用いて詳細に説明する。
【0096】
まず図14(a)に示すように、フィルタ60が、置換容器57内の生体試料と保存液との混合液の液面上方から、その液中に向かって下方に移動するように、ピストン58を下降させる。
【0097】
すると、図14(b)に示すように、測定対象細胞(C1)を含む液体(第1液体)が、置換容器57内のフィルタ60の下方に残り、測定対象細胞より小径の細胞(C2)を含む液体(第2液体)が、フィルタ60の上方(ピストン58の内部)に残る。
【0098】
その後、図14(c)に示すように、ピストン58の内部に残っている第2液体を外部に排出させる。このとき、ピストン58の内部に陰圧をかけて第2液体を吸引するため、第1液体中に含まれる測定対象細胞(C1)の一部は、フィルタ60の下方に付着する。
【0099】
そして、図14(d)に示すように、回転子72を回転させることにより、フィルタ60の下方に付着している測定対象細胞が引き剥がされるとともに、第1液体中に含まれる測定対象細胞が濃縮試料収容室に収容される。この濃縮試料収容室に収容された測定対象細胞を含む液体を取得することにより、測定対象細胞の濃度が高い測定試料を得ることができる。
【0100】
なお、図13に示すように、濃縮試料収容室80は、その底部に、下方に向かって断面積が徐々に減少するテーパ部83が形成されている。濃縮試料収容室80に収容された液体試料は、液体取得部である前記第1ピペット26Aにより吸引されるが、その際、第1ピペット26Aの先端は前記テーパ部83の先端近傍まで下降し、この先端近傍から液体試料を吸引するように構成されている。これにより、濃縮試料収容室80内の液体試料をできるだけ多く吸引して無駄なく利用することが可能となる。
【0101】
また、前記テーパ部83を構成する傾斜面83aの水平面に対する傾斜角は、本発明において特に限定されるものではないが、第1ピペット26Aの先端口径などを考慮すると、概ね5〜45度の範囲内である。濃縮試料収容室80の水平断面の形状や収集積)は、測定に必要とされる液体試料の量に所定量の歩留まりを考慮して、選定することができる。
【0102】
〔処理動作〕
つぎに前述した細胞分析装置1の処理動作について説明する。
図15及び図16は、細胞分析装置1の各制御部8、16、31が行う処理を示すフローチャートである。
【0103】
なお、図15では、データ処理装置4の制御部(処理本体)31が行う処理フローを右列に示し、測定装置2の測定制御部8が行う処理フローを左列に示している。また、図16では、試料調製装置3の調製制御部16が行う処理フローを一列に示しているが、この処理フローは、図示のA、B及びC点において図15の処理フローと繋がっている。以下、この図15及び図16を参照しつつ、細胞分析装置1が行う処理内容を説明する。
【0104】
まず、最初に、データ処理装置4の制御部31は、前記表示部32にメニュー画面を表示させる(ステップS1)。その後、このメニュー画面に従った測定開始指示を入力部33から受け付けると(ステップS2)、データ処理装置4の制御部31は、測定開始信号を測定装置2に送信する(ステップS3)。
【0105】
測定装置2の測定制御部8は、前記測定開始信号を受信すると(ステップS4)、調製開始信号を試料調製装置3に送信する(ステップS5及びA点)。
試料調製装置3の調製制御部16は、前記調製開始信号を受信すると(ステップS6)、測定試料の調製に用いられる試薬(染色液、RNase)を装置内の流路に吸引するとともに、生体容器53内に収容された生体試料とメタノール主成分の保存液との混合液中の細胞を細胞分散部25で分散させる(ステップS7,S8)。
【0106】
その後、試料調製装置3の調製制御部16は、分散済みの混合液を生体容器53から装置内の流路に所定量だけ吸引させて(ステップS9)、弁別・置換部29の置換容器57に送り、その弁別・置換部29に、混合液に対する弁別・置換処理を行わせる(ステップS10)。
【0107】
〔弁別・置換処理の内容〕
図17〜18は、前記弁別・置換処理(ステップS10)を示すフローチャートである。この弁別・置換処理では、測定対象細胞がそれ以外の細胞と弁別されるが、その際フィルタ60に付着した測定対象細胞を剥離させる回転子72の回転が監視され、その回転数が不足しているとろ過部(置換容器57)の洗浄が行われ、測定対象細胞の再弁別(リトライ)が行われる。
【0108】
図17に示されるように、試料調製装置3の調製制御部16は、まず、ろ過部追加洗浄カウントの初期化を行う(ステップT1)。ついで、試料調製装置3の調製制御部16は、検体ピペット部26を検体セット部24に移動させ(ステップT2)、第1ピペット26Aに回転テーブル24Aにセットされている生体容器53内の生体試料と保存液との混合液を吸引させる(ステップT3)。
【0109】
ついで、調製制御部16は、検体ピペット部26を置換容器57に移動させ(ステップT4)、第1ピペット26Aに、吸引した混合液を当該置換容器57内に排出させる(ステップT5)。
ついで、置換容器57内に希釈液ユニット55からバルブV6を通して希釈液(置換液)が投入される(ステップT6)。
【0110】
ついで、ピストン58が駆動部59によって所定のろ過高さまで下方に移動され(ステップT7)、置換容器57内の混合液が当該ピストン58内に吸引されてろ過される(ステップT8)。この吸引ろ過時には、リリーフバルブが接続されているバルブV10及びV12が用いられる。このとき、リリーフバルブは−5kpaに設定されている。これにより、吸引ろ過時には、ピストン58の下端部に配設されているフィルタ60に約−3kpaの圧力がかかる。このような弱い陰圧で液体を吸引ろ過することにより、測定対象細胞がフィルタ60を通過して廃棄部61に排出されることなくろ過を行うことができる。
【0111】
ついで、ピストン58が駆動部59によってさらに下方に移動され(ステップT9)、前記ステップT8と同様にして置換容器57内の混合液が当該ピストン58内に吸引されてろ過される(ステップT10)。
【0112】
このようなピストン58の移動及びサンプルの吸引ろ過が、所定回数繰り返されて、当該ピストン58が所定の最下死点に移動すると(ステップT11)、前記ステップT8と同様にして置換容器57内の混合液が当該ピストン58内に吸引ろ過され(ステップT12)、収容容器57内に配置された静電容量タイプの液面検知センサ82のセンサ部82aが液面を検知すると(ステップT13)、所定時間経過後に吸引が停止される(ステップT14)。このとき、置換容器57の底部に配設された収容室68及び濃縮試料収容室80内に、測定対象細胞を含む液体試料が満たされた状態となっている。
【0113】
ついで、フィルタ60の通孔に詰まっている、又は、フィルタ60の下面に付着している細胞(分析対象物)を取り除いて、置換容器57(収容室68及び濃縮試料収容室80)内に戻すために、ピストン58内に陽圧を付与する(ステップT15)。
【0114】
ついで、ステップT16において、駆動モータ70aにより磁石69を回転させることで回転子72を回転させ、フィルタ60の下面に付着している測定対象細胞を取り除くと共に、収容室68内の液体試料中に含まれる測定対象細胞を濃縮試料収容室80の方に移動させて、濃縮試料収容室80内に測定対象細胞を収容する。
【0115】
ステップT16において回転子72の回転が開始されてから所定時間(例えば、3秒)経過後に、回転情報取得部100により当該回転子72の回転の監視が開始される(ステップT17)。この回転の監視は、前述したように、発光部101から照射され、光反射部103で反射した光を受光部102が検出することで行われる。
【0116】
ついで、調製制御部16は、検出された回転子72の回転数が所定の下限閾値より小さいか否かを判断する(ステップT18)。下限閾値としては、設定回転数を1300rpmとしたときに、例えばこれより500rpm少ない800rpmとすることができる。一方、後述する上限閾値としては、設定回転数より500rpm多い1800rpmとすることができる。
【0117】
調製制御部16は、回転子72の回転数が所定の下限閾値である800rpmよりも少ないと判断すると、ステップT19へ処理を進め、回転子72の回転監視を終了する。
ついで、調製制御部16は、ステップT20において回転子72の回転を終了させる。
【0118】
ついで、調製制御部16は、ステップT21において、ろ過部の追加洗浄回数が3回未満であるか否かの判断を行なう。調製制御部16は、ろ過部の追加洗浄回数が3回未満であると判断すると、ろ過部の追加洗浄を実施する(ステップT22)。一方、調製制御部16は、ろ過部の追加洗浄回数が3回以上であると判断すると、ステップT28へ処理を進め、当該ステップT28において、データ処理装置4へエラーメッセージを送信する。
【0119】
前記ろ過部の追加洗浄が終了した後に、調製制御部16は、ステップT23において、ろ過部追加洗浄のカウントアップを行い、ステップT6に戻り、再度、置換容器57内に希釈液ユニット55からバルブV6を通して希釈液(置換液)を投入させる。以下、前述したステップT7以降の処理が繰り返される。
【0120】
前記ステップT18において、調製制御部16が回転子72の回転数が所定の下限閾値以上である(ステップT18において「NO」)と判断すると、調製制御部16は、ステップT24において、検出された回転子72の回転数が所定の上限閾値より多いか否かを判断する。
【0121】
調製制御部16は、回転子72の回転数が所定の上限閾値である1800rpmよりも多いと判断すると、ステップT25へ処理を進め、回転子72の回転監視を終了する。ついで、調製制御部16は、ステップT26において回転子72の回転を終了させる。そして、ステップT27へ処理を進め、当該ステップT27においてデータ処理装置4へエラーメッセージを送信する。一方、回転子72の回転数が所定の上限閾値である1800rpm以下であると判断すると、ステップT29へ処理を進め、回転子72の回転監視を終了する。ついで、調製制御部16は、ステップT30において回転子72の回転を終了させる。そして、ステップT31へ処理を進める。
【0122】
調製制御部16は、検体ピペット部26を置換容器57に移動させ(ステップT31)、ついで第1ピペット26Aに濃縮試料収容室80から濃縮サンプルを吸引し(ステップT32)、さらに検体ピペット部26を検体セット部へ移動させる(ステップT33)。
ついで、調製制御部16は、ろ過部の洗浄を行う(ステップT34)。このときの洗浄液は、フィルタ用洗浄液供給部110から置換容器57内に供給される。
【0123】
この弁別・置換処理により、測定対象細胞(上皮細胞)を主に含み測定対象細胞以外の細胞の数が低減された液体試料を取得することができる。また、前記弁別・置換処理により、生体容器53から置換容器57に供給された液体(生体試料と保存液との混合液)における保存液に含まれるメタノールの濃度を、当該保存液の大部分を希釈液と置換することで薄めることができる。そのため、後述のDNA染色処理において、保存液の影響を低減させ、良好に測定対象細胞のDNAを染色することができる。
【0124】
また、この弁別・置換処理においては、細胞の弁別処理を行いながら、保存液と希釈液の置換処理を行うことができるので、これら2つの処理を別々に行う場合に比べて短時間で弁別処理と置換処理とを行うことができる。
【0125】
また、この弁別・置換処理においては、回転子72を回転させることにより、フィルタ60の下面に付着している測定対象細胞(上皮細胞)を剪断力で剥離してフィルタ60の下方の第1液体に浮遊させるとともに、フィルタ60の上方からフィルタ60の通孔に圧力を付与することにより、フィルタ60の通孔に詰まっている測定対象細胞(上皮細胞)を除去してフィルタ60の下方の第1液体に浮遊させることができる。そのため、フィルタに付着した測定対象細胞(上皮細胞)をロスすることなく効率的に回収することができる。
【0126】
〔測定試料の調製〕
図16に戻り、次に、試料調製装置3の調製制御部16は、検体セット部へ移動した検体ピペット部26から前記濃縮サンプルを測定試料容器54に供給する(ステップS11)。
【0127】
ついで、試料調製装置3の調製制御部16は、装置内に貯留されていた染色液とRNaseとを、試薬定量部28から第2ピペット26Bに送り、この第2ピペット26Bは、送られてきた染色液とRNaseとを測定試料容器54に供給し(ステップS12)、この測定試料容器54内においてDNA染色とRNA処理を行わせて測定試料を作製する(ステップS13)。
【0128】
前記処理が終わると、得られた測定試料は第1ピペット26Aを介して、検体定量部27で定量され、定量後に測定装置2の検出部6に供給される(ステップS14及びB点)。
なお、試料調製装置3の調製制御部16は、測定装置2からのシャットダウン信号を受信したか否かを常時判定しており(ステップS15及びC点)、その信号を受信していない場合には、調製開始信号の受信如何を判定するステップS6に戻り、その信号を受信した場合には、シャットダウンを実行して試料調製処理を終了する(ステップS16)。
【0129】
〔測定装置による測定とそのデータ分析〕
図15に戻り、測定装置2の測定制御部8は、調製開始信号を送信したあと、試料調製装置3から測定試料の供給があるか否かを常時判定している(ステップS17)。
そこで、試料調製装置3から測定試料が送液されると(B点)、測定装置2の制御部8は、その測定試料を測定部14のフローセル45に送り、測定試料の細胞に対する前記測定を行い(ステップS18)、その測定データをデータ処理装置4に送信する(ステップS19)。
【0130】
一方、データ処理装置4の制御部31は、測定開始信号を送信したあと、測定装置2から測定データを受信したか否かを常時判定している(ステップS20)。
測定装置2から前記測定データを受信すると、データ処理装置4の制御部31は、その測定データを用いて細胞や核を分析し、測定試料中の細胞が癌化しているか否か等を判定する(ステップS21)。
【0131】
また、データ処理装置4の制御部31は、前記分析結果を表示部32に表示させ(ステップS22)、ユーザ入力によるシャットダウン指示があるか否かを判定する(ステップS23)。
前記シャットダウン指示がある場合には、データ処理装置4の制御部31は、測定装置2にシャットダウン信号を送信する(ステップS24)。
【0132】
測定装置2の制御部8は、データ処理装置4からの前記シャットダウン信号を受信したか否かを常時判定しており(ステップS25)、その信号を受信していない場合には、測定開始信号の受信如何を判定するステップS4に戻り、その信号を受信した場合には、試料調製装置3に前記シャットダウン信号を転送するとともに(ステップS26)、シャットダウンを実行して測定処理を終了する(ステップS27)。
【0133】
前記実施の形態では、弁別・置換処理を行う際に回転子72の回転を監視しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば装置を起動させるときや、測定を終了させるときに回転子72の回転の監視を行うこともできる。測定を終了させるときには、1日の測定を終了させるとき以外に、次の測定までの待ち時間が長いとき(例えば、1時間以上の待ち時間がある場合)も含まれる。以下、測定終了後(図19)及び装置起動時(図20)に回転子72の回転を監視する手順について、フローチャートに基づいて説明する。
【0134】
測定終了後(固着防止処理)
図19は測定終了後に回転子72の回転を監視する手順を示すフローチャートである。1日の測定を終了するとき等、次に測定を行うまでの間隔が長い場合、洗浄が不十分であると回転子72が置換容器57の壁面に固着することが考えられる。測定終了後に回転子72の回転状況をチェックし、必要に応じてろ過部の追加洗浄を行うことで、次回測定時における回転子72の正常な作動を確保することができる。
【0135】
ろ過部洗浄までは、図17〜18で説明した弁別・置換処理における処理と同じである。試料調製装置3の調製制御部16は、ろ過部洗浄に際しステップT100において、ろ過部追加洗浄カウントの初期化(m=0)を行う。
【0136】
ろ過部の洗浄が終了すると、調製制御部16は、ステップT101において、駆動モータ70aにより磁石69を回転させることで回転子72を回転させる。
ステップT101において回転子72の回転が開始されてから所定時間(例えば、3秒)経過後に、回転情報取得部100により当該回転子72の回転の監視が開始される(ステップT102)。この回転の監視は、前述したように、発光部101から照射され、光反射部103で反射した光を受光部102が検出することで行われる。
【0137】
ついで、調製制御部16は、検出された回転子72の回転数が所定の下限閾値より小さいか否かを判断する(ステップT103)。下限閾値としては、設定回転数を1300rpmとしたときに、例えばこれより500rpm少ない800rpmとすることができる。一方、後述する上限閾値としては、設定回転数より500rpm多い1800rpmとすることができる。
【0138】
調製制御部16は、回転子72の回転数が所定の下限閾値である800rpmよりも少ないと判断すると、ステップT104へ処理を進め、回転子72の回転監視を終了する。
ついで、調製制御部16は、ステップT105において回転子72の回転を終了させる。
【0139】
ついで、調製制御部16は、ステップT106において、ろ過部の追加洗浄回数が3回未満であるか否かの判断を行なう。調製制御部16は、ろ過部の追加洗浄回数が3回未満であると判断すると、ろ過部の追加洗浄を実施する(ステップT107)。一方、調製制御部16は、ろ過部の追加洗浄回数が3回以上であると判断すると、ステップT111へ処理を進め、当該ステップT111において、データ処理装置4へエラーメッセージを送信する(異常終了)。
【0140】
前記ろ過部の追加洗浄が終了した後に、調製制御部16は、ステップT108において、ろ過部追加洗浄のカウントアップを行い(m=m+1)、ステップT101に戻り、再度回転子72の回転を開始させる。以下、前述したステップT102以降の処理が繰り返される。
【0141】
前記ステップT103において、調製制御部16が回転子72の回転数が所定の下限閾値以上である(ステップT103において「NO」)と判断すると、調製制御部16は、ステップT109において、検出された回転子72の回転数が所定の上限閾値より多いか否かを判断する。
【0142】
調製制御部16は、回転子72の回転数が所定の上限閾値である1800rpmよりも多いと判断すると、ステップT110へ処理を進め、回転子72の回転監視を終了する。ついで、調製制御部16は、ステップT111において回転子72の回転を終了させる。そして、ステップT112へ処理を進め、当該ステップT112においてデータ処理装置4へエラーメッセージを送信する(異常終了)。一方、ステップT109において調製制御部16が回転子72の回転数が所定の上限閾値である1800rpm以下であると判断すると、ステップT114へ処理を進め、回転子72の回転監視を終了する。ついで、調製制御部16は、ステップT115において回転子72の回転を終了させる。そして、正常終了となる。
【0143】
装置起動時
図20は、装置を起動させるときに回転子72の回転を監視する手順を示すフローチャートである。装置を起動させる前に回転子72の回転状況をチェックすることにより、測定をスムーズに実施することができる。
ユーザによりスタートスイッチが押されると、ステップT200において装置の初期化が行われ、ろ過部追加洗浄カウントの初期化も行われる(n=0)。
【0144】
初期化が終了すると、調製制御部16は、ステップT201において、所定の電圧を駆動モータ70aにかけて磁石69を回転させることで回転子72を回転させる。
ステップT201において回転子72の回転が開始されてから所定時間(例えば、3秒)経過後に、回転情報取得部100により当該回転子72の回転の監視が開始される(ステップT202)。この回転の監視は、前述したように、発光部101から照射され、光反射部103で反射した光を受光部102が検出することで行われる。
【0145】
ついで、調製制御部16は、検出された回転子72の回転数が所定の下限閾値より小さいか否かを判断する(ステップT203)。下限閾値としては、設定回転数を1300rpmとしたときに、例えばこれより500rpm少ない800rpmとすることができる。一方、後述する上限閾値としては、設定回転数より500rpm多い1800rpmとすることができる。また、下限閾値は、回転子が固着しかけているか否かの指標となる回転数を閾値として設定してもよい。本実施の形態においては、回転子の回転数が800rpm以下であるとき、回転子が固着しかけている可能性がある。このため、下限閾値は800rpmとしている。
【0146】
調製制御部16は、回転子72の回転数が所定の下限閾値である800rpmよりも少ないと判断すると、ステップT204へ処理を進め、当該ステップT204において、所定の判定値、例えば回転子72の設定回転数を当該回転子72の実際の回転数(実回転数)で除することで得られる比率に応じて駆動モータ70aの駆動電圧を上げる。この場合、設定回転数に比べて実回転数が少ないほど前記比率が大きくなることから、当該比率が大きいほど駆動モータ70aの駆動電圧の上げ幅を大きくする制御が行われる。
ついで、調製制御部16は、ステップT205において、ステップT204で上げた駆動モータ70aの駆動電圧が上限値に達しているか否かを判断する。調製制御部16は、ステップT204で上げた駆動モータ70aの駆動電圧が上限値に達していると判断するとステップT206へ処理を進め、回転子72の回転監視を終了する。ついで、調製制御部16は、ステップT207において回転子72の回転を終了させる。そして、ステップT208へ処理を進める。一方、駆動モータ70aの駆動電圧が上限値に達していないと判断すると、ステップT202へ戻り、回転子72の回転が引き続き監視され、前述したステップT203以降の処理が繰り返される。
【0147】
ついで、調製制御部16は、ステップT208において、ろ過部の追加洗浄回数が3回未満であるか否かの判断を行なう。調製制御部16は、ろ過部の追加洗浄回数が3回未満であると判断すると、ろ過部の追加洗浄を実施する(ステップT209)。一方、調製制御部16は、ろ過部の追加洗浄回数が3回以上であると判断すると、ステップT213へ処理を進め、当該ステップT213において、データ処理装置4へエラーメッセージを送信する(異常終了)。
【0148】
前記ろ過部の追加洗浄が終了した後に、調製制御部16は、ステップT210において、ろ過部追加洗浄のカウントアップ(n=n+1)を行い、ステップT201に戻り、再度回転子72の回転を開始させる。以下、前述したステップT202以降の処理が繰り返される。
【0149】
前記ステップT203において、調製制御部6が回転子72の回転数が所定の下限閾値以上である(ステップT203において「NO」)と判断すると、調製制御部16は、ステップT211において、検出された回転子72の回転数が所定の上限閾値より多いか否かを判断する。
【0150】
調製制御部16は、回転子72の回転数が所定の上限閾値である1800rpmよりも多いと判断すると、ステップT212へ処理を進め、当該ステップT212において、所定の判定値、例えば設定回転数を回転子72の実際の回転数(実回転数)で除することで得られる比率に応じて駆動モータ70aの駆動電圧を下げる。この場合、設定回転数に比べて実回転数が多いほど前記比率が小さくなるが、ステップT204とは逆に、この比率が小さくなるほど駆動モータ70aの駆動電圧の下げ幅を大きくする制御が行われる。ついで、ステップT202へ戻り、回転子72の回転が引き続き監視され、前述したステップT203以降の処理が繰り返される。
一方、調製制御部16がステップT211において回転子72の回転数が所定の上限閾値である1800rpm以下であると判断すると、ステップT214へ処理を進め、回転子72の回転監視を終了する。ついで、調製制御部16は、ステップT215において回転子72の回転を終了させる。そして、正常終了となる。
図20に示される例では、回転子72の回転情報である回転数に基づいて、駆動モータ70aへの駆動電圧を制御すること、及び、ろ過部の追加洗浄を行うことで当該回転子72の回転を正常に保つことができる。
【0151】
〔その他の変形例〕
なお、以上開示された実施の形態は、本発明の例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、前記実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲の構成と均等なすべての変更が含まれる。
例えば、前記実施の形態では、回転子72に埋設した棒状の光反射部103の外側端面で反射した光を検出しているが、回転子72の周面に貫通孔を形成し、発光部101から照射された光を、回転中の回転子72の前記貫通孔を介して受光部102で検出することにより回転情報を取得することもできる。この場合は、発光部101と受光部102が、回転子72を間に挟んで互いに対向する位置に配設される。
【0152】
また、前記実施の形態では、光反射部として棒状の部材を用いているが、シート状又はフィルム状の金属を回転子72の周面に固着したものを光反射部とすることもできる。
また、前記実施の形態では、回転する回転子72に光を照射して、この回転子72からの反射光を検出しているが、回転子72自体に発光素子を設け、この発光素子からの光を検出することにより回転子72の回転情報を取得することもできる。
【0153】
また、前記実施の形態では、光を利用して回転子72の回転情報を取得しているが、回転子72が回転することにより生じる置換容器内の液体試料の流れを検出することにより、回転子72の回転状態に関する情報を取得することもできる。
また、超音波又はレーダーを用いて回転子72の回転に関する情報を取得することもできる。
【0154】
また、回転子72が回転することにより生じる磁界を磁気センサで検出することにより当該回転子72の回転に関する情報を取得することもできる。
また、置換容器57内の液面を検知する液面検知手段としては、静電容量タイプのもの以外に光電式のものや超音波式などを適宜採用することができる。光電式のセンサの場合、センサ部を置換容器57内に突出させることなく当該置換容器57内の液面を検出することができる。
【0155】
また、前記実施の形態では、子宮頸部の上皮細胞を測定対象細胞としているが、口腔細胞、膀胱や咽頭など他の上皮細胞、さらには臓器の上皮細胞についても、癌化判定を行うことができる。
【0156】
また、前記実施の形態では、ピストン58内に陰圧を付与し、第1液体の液面の下降に追従してピストン58を下方に移動させることにより、液体試料を第1液体と第2液体とに分離しているが、置換容器57内の上方開口部において、フィルタ60を固定したピストン58との間をシール部材にてシールし、ピストン58を駆動部59にて下方へ移動することにより、液体試料を第1液体と第2液体とに分離してもよい。ついで回転子72を回転させて収容室68に収容されている第1液体に含まれる測定対象細胞を濃縮試料収容室80に移動させ、その後に濃縮試料収容室80に存在する液体試料を取得してもよい。これによっても、測定対象細胞である上皮細胞以外の赤血球や白血球等の細胞のみがフィルタ60を通過し、測定対象細胞である上皮細胞はフィルタ60を通過せずに、収容室68に収容されるため、測定対象細胞以外の細胞の数が低減された液体を取得することができる。
【0157】
また、前記実施の形態では、試料調製装置3で調製された測定試料をフローサイトメータで測定しているが、試料調製装置3で調製された測定試料をスライドガラスに塗抹して塗抹標本を作製する塗抹標本作製装置と、作製された塗抹標本を撮像して撮像画像中の上皮細胞を分析する細胞画像処理装置とを設けてもよい。スライドガラスには、測定対象細胞である上皮細胞の濃度が高められ且つ赤血球や白血球などの細胞の数が低減された測定試料が塗抹されるため、上皮細胞の分析を精度良く行うことができる。
【0158】
また、前記実施の形態では、フィルタ60の上方からフィルタ60の通孔に圧力を付与した後に回転子72を回転させているが、回転子72を回転させた後にフィルタ60の上方からフィルタ60の通孔に圧力を付与してもよい。また、前記実施の形態では、フィルタ60の通孔に圧力を付与した状態で回転子72を回転させているが、フィルタ60の通孔への圧力付与が終わった後に回転子72を回転させてもよい。
【0159】
また、前記実施の形態では、駆動モータ70aへの駆動電圧の制御は装置起動時に行っているが、これに限らず、測定時チェック(リトライ処理)や測定終了後(固着防止処理)においても、回転監視により取得された回転数に基づいて駆動モータ70aへの駆動電圧の制御を行うように構成してもよい。
【符号の説明】
【0160】
1 細胞分析装置
2 測定装置
3 試料調製装置
4 データ処理装置
6 検出部
16 調製制御部
18 調製デバイス部
24 検体セット部
25 細胞分散部
26 検体ピペット部
27 検体定量部
28 試薬定量部
29 弁別・置換部
31 処理本体
32 表示部
53 生体容器
54 測定試料容器
57 置換容器
58 ピストン
59 駆動部
60 フィルタ
68 収容室
69 磁石(駆動用磁性体)
70 駆動部(マグネチックスターラー)
72 回転子
74 リブ
75 磁石(磁性体)
80 濃縮試料収容室
82 液面検知センサ
100 回転情報取得部
101 発光部
102 受光部
103 光反射部
110 フィルタ用洗浄液供給部
111 洗浄液排出部
112 洗浄液供給・排出部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の細胞を含む液体試料から所定の細胞を分離するフィルタと、
磁性体を備えており、回転することによりフィルタに付着した細胞を剥離する回転子と、
回転子を、磁気力を用いて回転させる駆動部と、
駆動部が回転子を回転させる際に回転子の回転情報を取得する回転情報取得部と
を備えたことを特徴とする試料調製装置。
【請求項2】
前記回転情報取得部は、回転子に向けて光を照射する発光部と、この発光部から照射された光を検出する受光部とを備えており、当該受光部により検出された光情報に基づいて前記回転情報を取得する請求項1に記載の試料調製装置。
【請求項3】
前記回転子は光を反射する光反射部を備えており、前記受光部は、前記回転子の回転中に当該光反射部によって反射された前記発光部からの光を検出する請求項2に記載の試料調製装置。
【請求項4】
前記回転子は円柱体であり、この回転子の周面に形成された凹部に光反射部が埋め込まれている請求項3に記載の試料調製装置。
【請求項5】
前記回転情報取得部は、前記回転情報として、前記回転子の所定時間当たりの回転数を取得する請求項1〜4のいずれかに記載の試料調製装置。
【請求項6】
前記回転情報取得部で取得された回転子の回転情報に基づいて、前記駆動部を制御する請求項1〜5のいずれかに記載の試料調製装置。
【請求項7】
前記取得された回転子の回転情報は、前記回転子の所定時間当たりの回転数であり、
前記回転子の回転数が所定の範囲内の回転数となるように前記駆動部を制御する請求項6に記載の試料調製装置。
【請求項8】
前記回転子の回転数が所定の閾値より小さいとき、前記駆動部の駆動力を上昇させる、請求項6又は7に記載の試料調製装置。
【請求項9】
前記回転子の回転数が所定の閾値より大きいとき、前記駆動部の駆動力を下降させる、請求項6〜8のいずれかに記載の試料調製装置。
【請求項10】
前記駆動部は、前記回転子を磁気力により吸着する駆動用磁性体と、駆動用磁性体を回転させる駆動源とを備える、請求項1〜9のいずれかに記載の試料調製装置。
【請求項11】
前記回転子により剥離された細胞を取得する細胞取得部と、
前記細胞取得部により取得された細胞と所定の試薬とから測定試料を調製する試料調製部と、
をさらに備える、請求項1〜10のいずれかに記載の試料調製装置。
【請求項12】
前記回転子を洗浄する洗浄部をさらに備える、請求項1〜11のいずれかに記載の試料調製装置。
【請求項13】
前記取得された回転子の回転情報は、前記回転子の所定時間当たりの回転数であり、
前記洗浄部は、前記回転子の回転数が所定の閾値より少ないときに当該回転子の洗浄を開始する請求項12に記載の試料調製装置。
【請求項14】
前記回転情報取得部は、装置起動時に前記回転子を回転させて当該回転子の回転情報を取得する請求項1〜13のいずれかに記載の試料調製装置。
【請求項15】
前記回転情報取得部は、前記回転子による細胞剥離時に当該回転子の回転情報を取得する請求項1〜14のいずれかに記載の試料調製装置。
【請求項16】
前記回転情報取得部は、調製された測定試料を用いた測定終了時に前記回転子を回転させて当該回転子の回転情報を取得する請求項1〜15のいずれかに記載の試料調製装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−164081(P2011−164081A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66405(P2010−66405)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】