説明

試験片の観察用メッシュ及び試験片の観察方法

【課題】延伸過程にある試験片、さらに延伸過程から収縮過程にある試験片の精密で再現性よい観察を可能にするメッシュ及び該メッシュを用いた試験片の観察方法を提供する。
【解決手段】試験片をメッシュに載置固定する工程と、前記メッシュを観察用ホルダーに固定する工程と、引き続き、前記観察用ホルダーを延伸方向に移動させることにより前記メッシュの載置領域に固定された前記試験片を延伸させる工程と、該延伸過程における前記試験片を観察する工程とを含む試験片の観察方法において、前記観察用ホルダーに前記試験片を固定後、前記延伸過程で前記メッシュを分断することを特徴とする試験片の観察方法及び該観察方法に適したメッシュ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験片の観察用メッシュ及び試験片の観察方法に関し、特に、延伸過程にある試験片、さらに延伸過程から収縮過程にある試験片の精密で再現性よい観察を可能にするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透過型電子顕微鏡(TEM)等の顕微鏡で試料を観察する場合には、予め試料を切断装置等で薄片化した後、メッシュと呼ばれる試料支持材に前記薄片化した試料である試験片を固定し、このメッシュを専用の観察用ホルダーに固定してから前記試験片の観察を行っている。
図5(a)に示すように、従来から通常用いられている市販メッシュ1は、直径3mm程度の円盤形状を有しており、電子線を透過できるように、網目状開口1d等を備えている。図5(b)に示すように、開口1dを有する市販メッシュ1の中央部上面に薄片化した試験片3が固定される。ここで、試験片は電子線を透過しうる薄さに薄片化する必要がある。従来の試験片の薄片化方法として、ミクロトーム装置を用いた加工法、収束イオンビーム加工装置を用いた加工法(FIB加工)等が知られている。
【0003】
また、特開2008−96161号公報には、特殊形状のスリット加工を施したメッシュ及び該メッシュを用いた観察方法が提案されている。図6に示すように、メッシュ1の外縁よりスリット4が所要長さで切り込まれた特殊形状のメッシュ1やメッシュ1の外縁よりメッシュ1を分断するスリット4a、4bが入れられた特殊形状のメッシュ1が開示されている。
【0004】
試料が延伸性の大きなゴムや樹脂、プラスチックなどの場合、延伸過程の試験片や、延伸過程から収縮過程(戻り過程)の試験片を観察することは、試料の破断発生解析や、試料の損傷、劣化、摩耗解析、ヒステリシスロス発生のメカニズムの解析などさまざまな解析、配合等の設計に有用である。
しかし、試験片を固定した従来の市販メッシュを延伸させることはほとんど不可能であるため、延伸状態の試験片を観察することができないという問題がある。また、たとえ従来の市販メッシュを無理やり延伸させたとしても延伸量はわずかであると共に、市販メッシュは延伸によって変形して歪が残ってしまうため、市販メッシュ上で延伸された試験片を元の状態に戻すことができず、収縮過程(戻り過程)の試験片を観察することができないという問題がある。
【0005】
また、特開2008−96161号公報に開示の技術は、市販のメッシュでは不可能だった試験片の延伸過程及び収縮過程を観察できる優れた技術であるが、試験片のハンドリング性、正確な観察や簡易で確実な再現性のある観察に関しては依然として改善の余地が残されている。
例えば、観察用ホルダーに固定する前に該メッシュを分断するスリット加工を施す場合、上記公報[0022]欄等に記載のとおり、該メッシュが分断等されているため扱いにくく、そのハンドリング性の低さから、観察用ホルダーに固定する時に試験片を破損する等の可能性が高くなる。さらに、分断されたスリットを介して左右に固定した試験片に対して肉眼では気づきにくいガタツキ等による不均等な引っ張り力や圧縮力が局所的にかかる等のおそれがあり、薄片化した試験片が延伸過程の観察前にひずんでしまうという問題がある。このため、正確な原点(延伸ゼロ)の観察が確実に確認できないという問題がある。逆に、観察用ホルダーに固定してから該メッシュを分断するスリット加工を施す場合、該メッシュの扱いは良くなるが、該メッシュの切断に失敗することが多いという加工の困難さ及び熟練を要するという問題、並びに貴重な試験片を失うという問題がある。メッシュの硬さにもよるが、切断刃を押す加工による場合でも、切断刃を引く加工による場合でも、熟練者でさえ、予想しえない切り裂きムラ等による局所的に不均等な力がかかる等のおそれがあり、薄片化した試験片が延伸過程の観察前にひずんでしまうため再現性のよい観察が困難になるという問題がある。この切断加工をFIB加工法やイオンミリング加工法などの力のかかりにくい高度な加工法で行うことも考えられるが、加工に長時間を要し、高価な装置を長時間にわたり占有するという新たな問題が生ずる。
また、上記公報に開示された拡開用スリット加工された特殊メッシュついては、延伸や収縮の過程で試験片に局所的に不均等な力がかかる等のおそれがある。例えば、上記公報[0043]欄等に記載のとおり、特殊な工夫なしには、延伸過程でメッシュにねじれ等が生ずる問題がある。また、上記公報[0042]欄等に記載のとおり、高度な熟練を要する適切な収縮率の設計なしには、収縮過程での試験片に対するゆがみ等が生ずるという問題がある。
また、上記公報[0009]欄等に記載のとおり、拡開用スリットの設定に高度な熟練を要するという問題がある。メッシュを延伸方向に伸長させメッシュ上の試験片を延伸させていくことができるかを見極めるには、試験片ごとの試行錯誤や高度の熟練を要するからである。メッシュの開口形状や、メッシュ上に固定される試験片の形状、試験片の固定位置などに応じて、所要長さをその都度調整する高度な技能が要求される。
さらに、メッシュに固定できる試験片が1枚だけであると、観察によるダメージが入る場合があり、この場合には、延伸過程のみもしくは、収縮過程のみしか信頼性ある観察結果が得られないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−96161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、延伸過程の試験片、さらには延伸過程から収縮過程の試験片の精密で再現性よい観察を可能にする試験片の観察方法及び該試験片の観察方法に適したメッシュを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、特定の試験片の延伸工程、すなわち観察用ホルダーに試験片を固定後、該延伸過程でメッシュを分断することを特徴とする試験片の観察方法及び該観察方法に適したメッシュを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の試験片の観察方法は、試験片をメッシュに載置固定する工程と、前記メッシュを観察用ホルダーに固定する工程と、引き続き、前記観察用ホルダーを延伸方向に移動させることにより前記メッシュの載置領域に固定された前記試験片を延伸させる工程と、該延伸過程における前記試験片を観察する工程とを含む試験片の観察方法において、前記観察用ホルダーに前記試験片を固定後、前記延伸過程で前記メッシュを分断することを特徴とする試験片の観察方法である。
【0010】
また、前記延伸過程における前記試験片を観察する工程に引き続き、更に、前記観察用ホルダーを収縮方向に移動させることにより前記メッシュの載置領域に固定された前記試験片を収縮させる工程と、該収縮過程における試験片を観察する工程とを含むことが望ましく、さらに、前記試験片の観察方法が、前記メッシュを完全に分断することなく、前記観察用ホルダーに前記試験片を固定することが更に望ましく、顕微鏡により観察することが一層望ましく、前記顕微鏡内で前記メッシュの分断をすることがより一層望ましく、前記メッシュに複数の前記試験片を載置固定することが、特に望ましい。
【0011】
さらに、前記メッシュが、骨状柱を交差させてなるクロスメッシュから構成されていることが望ましく、前記左右の接続領域の間の外縁が、切断されていることが一層望ましく、前記伸展方向において前記試験片を保持する骨状柱の一部が切断されて少なくとも1本残存していることがより一層望ましい。
【0012】
本発明の試験片の観察用メッシュは、延伸過程の試験片、さらに延伸過程から収縮過程の試験片を観察可能に保持するメッシュにおいて、前記伸展方向において前記試験片を保持する該メッシュの骨状柱の一部が少なくとも切断されていることを特徴とするメッシュである。
また、前記メッシュが、中央部上面が前記試験片を固定する載置領域とされると共に、該載置領域を挟む左右両側が前記延伸方向および前記収縮方向に移動される観察用ホルダーへ固定する接続領域とされ、前記観察用ホルダーの移動により前記接続領域が離反方向に移動された時、前記載置領域に左右両側が固定される前記試験片を延伸させる、と共に/又は、該延伸位置から前記観察用ホルダーの移動により前記接続領域が近接方向に移動された時、前記試験片を収縮させる構成であることが好適であり、骨状柱を交差させてなるクロスメッシュから構成されていることが一層好適であり、前記左右の接続領域の間の外縁が切断されていることがより一層好適である。
【0013】
本発明の試験片の観察用メッシュにおいて、前記骨状柱の一部が1〜10本残存していることが好適であり、1〜5本残存していることが更に好適であり、1〜2本残存していることが一層好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の試験片の観察方法によれば、観察用ホルダーに前記試験片を固定後、延伸過程で前記メッシュを分断することを特徴とするため、観察開始前の原点状態(延伸ゼロ状態)を確実に確保でき、かつ、試験片のハンドリング性も向上させることができる。
また、本発明のメッシュによれば、前記伸展方向において前記試験片を保持する該メッシュの骨状柱の一部が少なくとも切断されていることを特徴とするため、前記観察用ホルダーに前記試験片を固定後、延伸過程で前記メッシュを分断する観察方法に適したものとなる。
【0015】
このハンドリング性向上によって、本発明の試験片の観察方法においては、前記メッシュに試験片を載置固定する工程と、前記メッシュを前記観察用ホルダーに接続固定する工程との順番を自由に入れ替えることが可能となる。前記載置固定工程を先にしても試験片にゆがみ等を与えず、また、前記接続固定工程を先にしても、前記メッシュの左右は一体化しており、ばらばらに割れて困るような事態は生じない。一方、特許文献1の従来技術では、メッシュが載置固定の工程前に分断加工等された場合、メッシュが左右ばらばらになりやすい等や試験片にゆがみ等を与えるおそれがあるため、未加工ないし半加工の市販メッシュに、まず接続固定の工程を施してから、メッシュに特殊スリット加工をする工程を経て、載置固定の工程を施し、観察工程に移る複雑で手間のかかる観察手順となる。
さらに、観察開始後においては、前記メッシュの左右両側が固定された観察用ホルダーを延伸方向に移動させるだけで、前記メッシュにゆがみ等与えることなく、試験片を任意の延伸率に延伸でき、さらに、延伸過程で、前記メッシュを分断することで、前記メッシュが分断されて互いに離反し、この左右両メッシュに固定される試験片は該メッシュの分断、離間によって延伸方向に均等に延伸されることとなる。よって、前記メッシュの左右両側が固定された観察用ホルダーを延伸方向に移動させるだけで、前記メッシュ自体を変形させることなく試験片を任意の延伸率に延伸させていくことができ、任意の延伸率における試験片の状態をダイレクトに観察することができる。これにより、延伸過程の試験片の形態変化(モロフォロジー変化)の観察が可能となる。
さらに、前記延伸過程から、観察用ホルダーを左右の固定部を近接させる収縮方向へと移動させると、左右に分断されていた前記メッシュは互いに近接し、最終的には前記メッシュ自体が歪みを残すことなく分断前の一体的なメッシュに戻すことができる。したがって、試験片も延伸前の状態に戻すことができ、前記延伸過程のみならず、収縮過程(戻り過程)における試験片の状態も観察することが可能となる。
このように良好な試験片の観察が保持されつつ、観察開始前の原点状態(延伸ゼロ状態)を確実に確保でき、かつ、試験片のハンドリング性も向上させることができることから、精度と再現性においても充分な観察が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のメッシュの一態様を示す概略平面図である。
【図2】図1のメッシュに試験片を載置固定した状態を示す概略平面図である。
【図3】本発明のメッシュを観察用ホルダーに接続固定した状態を示す概略平面図である。
【図4】図3のメッシュが分断されて、引き続き延伸過程ないしその後の収縮過程にある状態を示す概略平面図である。
【図5】従来例である市販メッシュ及び市販メッシュに試験片を載置固定した状態を示す概略平面図である。
【図6】特許文献1に開示の従来例のメッシュ及び従来例メッシュに試験片を載置固定した状態を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。図1〜図4に、本発明の実施態様を、図5〜6に従来技術の態様を示す。
本発明の試験片の観察方法は、試験片3をメッシュ1に載置固定する工程と、メッシュ1を観察用ホルダー5a、5bに固定する工程と、観察用ホルダー5a、5bを延伸方向に移動させることによりメッシュ1の載置領域1eに固定された試験片3を延伸させる工程と、該延伸過程における試験片3を観察する工程とを含む試験片の観察方法において、観察用ホルダー5a、5bに試験片3を固定後、延伸過程でメッシュ1を分断することを特徴としている。
また、本発明の試験片の観察用メッシュ1は、延伸過程の試験片3、さらに延伸過程から収縮過程の試験片3を観察可能に保持するメッシュ1において、伸展方向において試験片3を保持する該メッシュ1の骨状柱1aの一部が少なくとも切断されていることを特徴としている。
【0018】
[メッシュ]
本発明の実施形態であるメッシュ1は、例えば、市販のメッシュ1を加工して準備することができる。本発明のメッシュ1として、例えば、試料延伸方向に骨状柱1aが平行に配置されたメッシュを用いることができ、クロスメッシュが好適である。ここで、クロスメッシュとは、格子状ないし十文字形状に骨状柱1aを交差させた構成要素からなるメッシュ1である。ここで、該クロスメッシュの変形例の1つとして、試料延伸方向に骨状柱1aが平行に配置され、120度をなす角度で骨状柱1aが交差する構成の六角形状のクロスメッシュも含まれる。
従来から市販品として各種のメッシュ1が提供されている。メッシュ1の材質は、銅等が好適であり、メッシュサイズは、100、150、200メッシュ等を用いることができ、200メッシュが好適である。ここでメッシュサイズの単位:メッシュとは、1インチ(25.4mm)の間にある目数を言い、本発明では、試料延伸方向に直行する方向における1インチの間にある試料延伸方向に平行に配置された骨状柱1aの数を言う。
また、特許文献1[0015]欄に、メッシュ1の変形例として、試験片3の載置位置1eに網目状開口1dが設けられているものが開示されている。「網目状開口1dが設けられているメッシュ1の場合には、該外周枠(外縁1b)を構成する周縁部のみならず、網目穴(開口1d)を囲む網糸部分(骨状柱1a)の周縁部にも前記拡開用スリット4や分断用スリット4が切り込まれていなければ、前記拡開用スリット4を開いてメッシュ1を延伸方向に伸長させたり、メッシュ1を左右に分断させたりすることは困難な場合が多い」と記載されているように、スリット4を有することが観察にはほぼ必須、ないし、スリット4を有しないメッシュ1では観察が困難と理解されていた。ところが、驚くべきことに、本発明の試験片観察用メッシュ1は、開示された特殊なスリット加工を施すことなく、観察用ホルダー5a、5bに試験片3を固定後、延伸過程でメッシュ1を分断できることを見出し、好適には、メッシュ1に特定の切断加工を施すことで、延伸過程でメッシュ1が自動的に左右に分断することを見出し、延伸過程および収縮過程の試験片3を精密で再現性よく観察できる発明として完成されたものである。
また、メッシュ1が、試験片3をメッシュ1の中央部上面に固定する載置領域1eとされると共に、載置領域1eを挟む左右両側が延伸方向および収縮方向に移動される観察用ホルダー5a、5bへ固定する接続領域1f、1gとされ、観察用ホルダー5a、5bの移動により接続領域1f、1gが離反方向に移動された時、載置領域1eに左右両側が固定される試験片3を延伸させる、と共に/又は、該延伸位置から観察用ホルダー5a、5bの移動により接続領域1f、1gが近接方向に移動された時、試験片3を収縮させる構成であることが好ましく、さらに、メッシュ1が骨状柱1aを交差させてなるクロスメッシュから構成されていることが一層好ましい。この構成であれば、メッシュ加工、延伸過程および収縮過程でのゆがみ等に強いため、固定前のハンドリングと延伸過程での分断をバランスよく実現できるためである。
【0019】
[メッシュの加工]
メッシュ1の加工は、試験片3を載置固定する前に予め行うことが、好適である。これは、骨状柱1aが試験片3で覆われるため、上面方向からの分断加工が困難であり、一方、外縁1bの加工は、試験片載置固定後でも可能だが、試験片3に思わないひずみを与える機会を回避するほうが望ましいためである。加工は切断刃(カミソリ刃等)を用いることができる。まず、市販のメッシュ1の外縁1bを切断する。加工は、切除加工してもよく、切り込み加工してもよい。
また、左右の接続領域1f、1gの間の外縁1bが、切断されていることが好ましく、また、伸展方向において試験片3を保持する骨状柱1aの一部が切断されて、少なくとも1本が残存していることが好ましい。固定前のハンドリングと延伸過程での分断をバランスよく両立できるからである。例えば、骨状柱1aの半数を残しても、延伸過程での分断に全く問題なく、全数を残しても、問題がない。骨状柱1aを跨がないように試験片3を載せようとする場合に、かえって残存本数が多いと試験片3を載せる場所が減ることが問題となる場合もある。
さらに、骨状柱の一部が少なくとも切断されていてもよく、骨状柱の一部が1〜10本残存していることが好適であり、さらに、1〜5本残存していることが更に好適であり、1〜2本残存していることが一層好適である。これらの構成により、固定前のハンドリングと延伸過程での分断をバランスよく両立でき、さらに、骨状柱の残存本数を管理することで、試験片3の延伸過程および収縮過程を、さらにきめ細かく、精密で再現性よく観察することが可能となる。
光や電子線の透過モードを用いる顕微鏡観察においては、中央部の載置領域1eにおいて切断加工した骨状柱1aをさらに取り外して、開口1dを構成する態様に加工するのが好適である。
【0020】
[試験片の切り出し]
まず、延伸性の大きなゴム組成物、樹脂やプラスチックなど(例えば、ウレタン樹脂やフェノール樹脂、ポリマーアロイなど)の試料から、ミクロトーム(商品名:ウルトラミクロトーム、ライカ社製)を用いて薄片化した試験片3を作製する。試験片3のサイズは、本発明のメッシュ1に載置固定できる範囲であればよい。例えば、縦200μm×横400〜600μm×厚100nmが好適である。試験片3が過大に厚いと、透過ビームでの観察に適さないばかりか、局所的に厚い部分と薄い部分が生じる場合がある。逆に、試験片3が薄すぎると、再現性のよい加工が難しくなるだけでなく、想定しない力が試験片3に及ばないことを確保するため、煩雑で高度な工夫が必要となる。
【0021】
[試験片のメッシュへの載置固定]
図2に示すように、試験片3を、本発明のメッシュ1(直径3mm)の中央部上面の載置領域1eに開口1dを跨ぐように、載せて固定する。
図2(b)に示すように、メッシュ1に複数枚の試験片3を固定することが望ましい。メッシュ1に固定できる試験片が1枚だけであると、高出力のレーザーや電子ビームに起因した観察によるダメージを受けるおそれがある試験片3においても、複数枚の試験片3があるため、ダメージを受ける前に、観察する試験片3を換えるなど次々と視野を移すことで、延伸過程でも収縮過程でも信頼性ある高度な観察結果が得られやすいという効果がある。
【0022】
[メッシュの観察用ホルダーへの固定]
図3に示すように、メッシュ1を観察用ホルダー5に載せ、メッシュ1の左右両側の接続領域1f、1gを観察用ホルダー5a、5bの押さえ板5c、5dに挟んでネジ5e、5fで締め付けて固定する。
図3に示した実施形態においては、メッシュ1に試験片3を載置して固定する前に予めメッシュ1に加工が施してあるため、観察ホルダー5への固定後に行う加工のような高度の熟練を要さず、ハンドリングが容易で、再現性よく固定することができる。さらに、試験片3にゆがみを与えることなく、原点状態を確実に保持した観察が可能となる。
また、メッシュ1が完全に分断されていないことから、伸張方向に対する角度調整を行いやすく、わずかなメッシュ1の角度ずれでも試験片3へのゆがみを気にすることなく容易に微調整でき、かつ、観察開始前の試験片3が原点状態(延伸ゼロ状態)あることが確実に確認できるため、精度が高く再現性のよい観察が可能となる。
【0023】
[観察(一例として、透過型顕微鏡観察)]
観察工程は、具体的には、メッシュ1が固定された観察用ホルダー5を透過型電子顕微鏡(例えば、フィリップス社製CM30、加速電圧200KV)にセットして、観察したい任意の延伸率や延伸後の任意の収縮率にある試験片3を観察する。
【0024】
[延伸過程の観察]
まず、図3に示すように、観察用ホルダー5の延伸率が0%の状態を観察する。メッシュ1が完全に分断されていないため、ないし、顕微鏡内で分断するため、試験片3が原点状態(延伸ゼロ状態)あることが確実に確認できる。
次いで、図4に示すように、メッシュ1の左右の接続領域1f、1gが固定された観察用ホルダー5a、5bを延伸方向(図4において左右へ拡大する方向)に移動させることにより、試験片3を延伸させ、延伸過程における任意の延伸率、例えば、50%、100%、150%等の試験片3を観察する。観察用ホルダー5a、5bを延伸方向へ移動して離反すると、メッシュ1の骨状柱1aと試験片3が当初は一体で延伸されていき、試験片3の延伸過程の途中で、メッシュ1に残存している骨状柱1aが破断限界伸びに達するため、メッシュ1は試験片3にひずみ等を与えることなく分断する。
この分断の隙間が次第に拡大していき、メッシュ2a、2bに左右両側を固定した試験片3は図中左右方向に延ばされて延伸されることとなる。
【0025】
[収縮過程の観察]
さらに、延伸過程での観察終了後に、観察用ホルダー5a、5bを収縮方向(図4において左右が近接する方向)に移動させることにより分断したメッシュ2a、2bを互いに近接させて、試験片3を収縮させ、収縮過程(戻り過程)における任意の延伸率、例えば、100%、50%、0%等の試験片3を観察する。
前記延伸過程から、観察用ホルダー5a、5bを収縮方向(図4において左右が近接する方向)へと移動させると、左右に分断されていたメッシュ2a、2bは互いに近接し、最終的にはメッシュ自体2a、2bが歪みを残すことなく分断前の一体的なメッシュ1のいた位置にまで戻すことができる。したがって、試験片3も顕著なヒステリシス特性がない限りは、ひずみがゼロであった延伸前の状態に戻すことができ、延伸過程のみならず、収縮過程(戻り過程)における試験片3の状態も観察することが可能となる。
【0026】
以上に説明した本発明の試験片の観察用メッシュ1及び試験片の観察方法は、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)に特に好ましく用いることができる。さらに、走査型プローブ顕微鏡(SPM)、レーザー顕微鏡、光学顕微鏡等にも用いることが可能である。
【0027】
このように、本発明の試験片の観察用メッシュ1及び試験片の観察方法は、延伸過程の試験片3の観察だけでなく、収縮過程(戻り過程)の試験片3の観察を精度と再現性よく行うことができ、延伸性の大きなゴム、樹脂、プラスチックなど(例えば、ウレタン樹脂やフェノール樹脂、ポリマーアロイなど)の薄片化した試験片3等について、破断発生解析、損傷、劣化解析、摩耗解析、ポリマーやフィラーの補強メカニズムの解析、ヒステリシスロス発生のメカニズムの解析などのさまざまな解析や、これらの解析に基づく配合設計などに有効である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
本発明の試験片の観察用メッシュ1を用いた実施例1〜5、特許文献1に開示された従来のメッシュ1を用いた比較例1〜3、従来の市販クロスメッシュ1を用いた比較例4について、観察を行い評価した結果を表1に示す。
試験に用いた市販のクロスメッシュ1は、直径3mm程度の円盤形状を有しており、外縁1bから骨状柱1aが上下10本×左右10本で直角に交差し、略正方形を基本形とする開口1dを構成している。この市販のクロスメッシュ1に、表1に記載した条件で切断等の加工を施して試験した。試験に用いた試料はゴムであり、その配合を表2に示す。試験に用いた試料数は、表1に記載した枚数で載置して試験した。
再現性等についての観察による定量的な評価と、ハンドリング性等についての観察による定性的な評価を行い、その結果を総合的に評価した。
【0030】
[評価方法]
メッシュ1を条件ごとに10枚用意し、収縮過程までの観察ができたメッシュ1の枚数から成功率を算出した。観察ができなかった要因を工程ごとに把握した。載置固定時、分断等加工時に破損したメッシュ1の枚数から各々破損率を、延伸過程、収縮過程でのゆがみが観察されたメッシュ1の枚数から各々ゆがみ率を算出した。
【0031】
表1の結果によれば、骨状柱1aが完全に分断された比較例1および2と比較して、骨状柱1aが少なくとも1本残存している実施例1〜5では、試験片3に破損等を生ずることない、優れたハンドリング性で再現性のよい観察ができることがわかる。
また、外縁1bが完全に分断されていない比較例3および外縁1bが全く分断されていない4と比較して、実施例1〜5では、試験片3に破損等を生ずることなく、また、ゆがみ等の発生もほとんどない、優れた精度で再現性のよい観察ができることがわかる。
【0032】
[破損、ゆがみ等が生じた事例の観察]
比較例1および2では、スリット4で完全に分断され、残存する骨状柱1aは0本であり、試験片3の固定前に、骨状柱1aの10本全てに分断用スリット4bを入れてある。固定後には、骨状柱1aが試験片3で覆われるため、上面方向からの分断加工ができないからである。比較例1では、メッシュ1がスリット4により完全に分断されているため、ハンドリング性が低く、観察用ホルダー5に移動するときやネジ締め固定するとき、10個につき9個がガタツキ等でゆがんだ。特殊な専用治具などの工夫や高度の熟練を要すると評価された。また、試験片3の載置固定後に、外縁1bに分断用スリット4aを入れた比較例2では、この分断加工時に、思わない力がかかる為か、10個に5個でゆがみが生じた。さらに、延伸過程や収縮過程でもゆがみが観察された。試験片3の長手方向が延伸方向と調整できなかったためや観察ホルダー5のネジ締めで片寄ったいわゆる「片締め」になったため、メッシュ1に想定外の偏りが生じたものと思われる。
比較例3では、外縁1bのおよそ半分までスリット4を切り込む加工を行った。切り込み加減にばらつきが出るため、熟練を要すると思われる。加工時に10個に4個でゆがみが生じた。メッシュ1は延伸によって変形して歪が残ってしまった。スリット4aが不十分で外縁1bの歪が顕著だったため、メッシュ1上で延伸された試験片3を元の状態に戻すことができず、収縮過程の試験片3を観察することができなかった。
比較例4では、従来の市販クロスメッシュ1を加工せずに用いており、メッシュ1に固定した試験片3を延伸させることはほとんど不可能であったため、延伸状態の試験片3を観察することができなかった。また、従来の市販クロスメッシュ1を無理やり延伸させたが、延伸量はわずかであると共に、メッシュ1は延伸によって変形して歪が残ってしまった。特に、外縁1bの歪が顕著だったため、メッシュ1上で延伸された試験片3を元の状態に戻すことができず、収縮過程の試験片3を観察することができなかった。
【0033】
【表1】

【0034】
※1:延伸方向に残存している骨状柱の本数(0本〜10本)。
※2:外縁に関し「分断切除」、「分断切込」、「1/2切込」、「加工なし」で示した。
※3:載置固定前に加工を施した場合に「*」を付した。
※4:載置固定前に加工を施した場合に「*」を付した。
※5:ゴム、樹脂などの試料の種類を示した。
※6:載置した試験片の枚数を示した。
※7:好適「○」、観察可能「△」、観察不適「×」で総合評価を示した。
※8:「0/10〜10/10」で収縮過程までの観察成功率を示した。
※9:「0/10〜10/10」で載置固定時の破損率を示した。
※10:「0/10〜10/10」で分断等加工時の破損率を示した。
※11:「0/10〜10/10」で延伸過程でのゆがみ率を示した。
※12:「0/10〜10/10」で収縮過程でのゆがみ率を示した。
※13:良「○」、可「△」、不可「×」でハンドリング性の評価を示した。
※14:良「○」、可「△」、不可「×」で作業時間の短さの評価を示した。
※15:良「○」、可「△」、不可「×」で延伸過程での観察可能性の評価を示した。
※16:良「○」、可「△」、不可「×」で収縮過程での観察可能性の評価を示した。
【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の試験片の観察用メッシュ及び試験片の観察方法は、試験片の延伸過程および収縮過程での状態を観察する時に好適であり、試験片としては、延伸する試料、例えば、延伸性の大きなゴム、樹脂やプラスチックの試験片などの延伸過程および収縮工程の観察に適応することができる。
また、本発明の試験片の観察用メッシュ及び試験片の観察方法は、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡、レーザー顕微鏡、光学顕微鏡等での観察に適応することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 試験片の観察用メッシュ
1a 骨状柱
1b 外縁
1c 外縁切断部
1d 開口
1e 載置領域
1f、1g 左右の接続領域
2 分断された試験片の観察用メッシュ
2a、2b 左右に分断された試験片の観察用メッシュ
3 試験片
4 スリット
4a 外縁に入った分断用スリット
4b 骨状柱に入った分断用スリット
5 観察用ホルダー
5a、5b 左右の観察用ホルダー
5c、5d 左右の押さえ板
5e、5f 左右のネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片をメッシュに載置固定する工程と、
前記メッシュを観察用ホルダーに固定する工程と、
引き続き、前記観察用ホルダーを延伸方向に移動させることにより前記メッシュの載置領域に固定された前記試験片を延伸させる工程と、
該延伸過程における前記試験片を観察する工程と
を含む試験片の観察方法において、
前記観察用ホルダーに前記試験片を固定後、前記延伸過程で前記メッシュを分断することを特徴とする試験片の観察方法。
【請求項2】
前記延伸過程における前記試験片を観察する工程に引き続き、
更に、前記観察用ホルダーを収縮方向に移動させることにより前記メッシュの載置領域に固定された前記試験片を収縮させる工程と、
該収縮過程における試験片を観察する工程と
を含むことを特徴とする請求項1に記載の試験片の観察方法。
【請求項3】
前記メッシュを完全に分断することなく、前記観察用ホルダーに前記試験片を固定することを特徴とする請求項1又は2に記載の試験片の観察方法。
【請求項4】
顕微鏡により観察することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の試験片の観察方法。
【請求項5】
前記顕微鏡内で前記メッシュの分断をすることを特徴とする請求項4に記載の試験片の観察方法。
【請求項6】
前記メッシュに複数の前記試験片を載置固定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の試験片の観察方法。
【請求項7】
前記メッシュが、骨状柱を交差させてなるクロスメッシュから構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の試験片の観察方法。
【請求項8】
前記左右の接続領域の間の外縁が、切断されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の試験片の観察方法。
【請求項9】
前記伸展方向において前記試験片を保持する骨状柱の一部が切断されて少なくとも1本残存していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の試験片の観察方法。
【請求項10】
延伸過程の試験片、さらに延伸過程から収縮過程の試験片を観察可能に保持するメッシュにおいて、前記伸展方向において前記試験片を保持する該メッシュの骨状柱の一部が少なくとも切断されていることを特徴とするメッシュ。
【請求項11】
前記メッシュが、中央部上面が前記試験片を固定する載置領域とされると共に、該載置領域を挟む左右両側が前記延伸方向および前記収縮方向に移動される観察用ホルダーへ固定する接続領域とされ、
前記観察用ホルダーの移動により前記接続領域が離反方向に移動された時、前記載置領域に左右両側が固定される前記試験片を延伸させる、と共に/又は、該延伸位置から前記観察用ホルダーの移動により前記接続領域が近接方向に移動された時、前記試験片を収縮させる構成であることを特徴とする請求項10に記載のメッシュ。
【請求項12】
前記メッシュが、骨状柱を交差させてなるクロスメッシュから構成されていることを特徴とする請求項10又は11に記載のメッシュ。
【請求項13】
前記左右の接続領域の間の外縁が切断されていることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載のメッシュ。
【請求項14】
前記骨状柱の一部が1〜10本残存していることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載のメッシュ。
【請求項15】
前記骨状柱の一部が1〜5本残存していることを特徴とする請求項14に記載のメッシュ。
【請求項16】
前記骨状柱の一部が1〜2本残存していることを特徴とする請求項15に記載のメッシュ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−80869(P2011−80869A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233538(P2009−233538)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】