説明

詰まり検出システム

【課題】詰まり箇所の特定が容易であると共に、作業効率が良く、既存の配管経路に対しても容易に利用可能であり、簡易かつ低コストな詰まり検出システムの提供。
【解決手段】配管湾曲部分の上流側にセンサAを設置し、下流側にセンサBを設置して、基準データの伝達関数とリアルタイムの伝達関数とを比較する。基準データの伝達関数が0.4であるのに対して、リアルタイムの伝達関数は0.1となっている。よって、圧力脈動の伝搬を阻害し、圧力脈動を減衰させるような要因がセンサAとセンサBの間に存在していると推定される。結果として、オペレータは、センサAの下流側,かつセンサBの上流側で詰まりが生じていることを推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポンプ及び該ポンプに接続される配管から構成される流動媒体の経路において、配管内部の詰まりを検出するための詰まり検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
食料品,工業製品,及び薬品等の製造工程において使用される水等の流動媒体は、ポンプ及び配管から構成される経路によって供給又は排出される場合が多い。そして、経路を構成する配管内部が残留物や付着物によって詰まった場合、配管内部を洗浄する必要が生じる。しかし、通常、配管内部を外部から視認することができないため、詰まりが生じた場合には、詰まり箇所を特定するのは困難であり、その都度配管を分解して検査しなければならないという煩雑さがある。
【0003】
そして、このような詰まり箇所の特定を容易にすべく、特許文献1には、撮影装置を備えるカプセルを配管内部に挿入し、撮影画像によって配管内部の異物を検出するシステムが開示されている。また、特許文献2には、配管外部に弾性波検出センサを設置しておき、配管内部に挿入したノズルからエアコンプレッサにより圧縮されたエアを吹き付け、吹き飛んだ異物と配管の衝突によって発生する弾性波を検出し、その波形レベルによって異物の有無を判定するシステムが開示されている。さらに、特許文献3及び4には、X線による異物検出装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−10513号公報
【特許文献2】特開平9−210973号公報
【特許文献3】特開2004−317334号公報
【特許文献4】特開2006−10637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2の技術では、カプセル又はノズル等の検査用の器具を配管内部に挿入した後に、これらの器具を移動させつつ、撮影画像の確認又はエアの吹き付けを行わなければならず、作業効率が悪いという問題がある。また、配管の両端いずれにも器具を挿入する隙間が無い場合には、配管を取り外すか,又は途中に挿入口を設ける必要があり、既存の配管経路に対しては容易にシステムを利用することができない問題がある。一方、特許文献3及び4に示すようなX線による異物検出の場合、配管内部に検査用の器具を挿入する必要はないものの、内部の詰まりを把握可能なのはX線の照射領域に限定されるため、配管全体の検査を行うためには、X線の照射を全体に渡って行うための大がかりなシステムが必要となり、コストが高いという問題がある。
【0006】
本発明は,このような問題に鑑みなされたものであって,その目的は、詰まり箇所の特定が容易であると共に、作業効率が良く、既存の配管経路に対しても容易に利用可能であり、システム全体として簡易かつ低コストな詰まり検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために、次のような手段を採る。なお後述する発明を実施するための最良の形態の説明及び図面で使用した符号を参考のために括弧書きで付記するが、本発明の構成要素は該付記したものには限定されない。
【0008】
本発明に係る詰まり検出システムは、ポンプ(200)及び該ポンプに接続される配管(300)から構成される流動媒体の経路において、複数の所定箇所各々に、配管外周の形状に沿って密着して設置されるフィルム状の圧電センサ(1〜3)と、前記配管内に詰まりが無い状態における前記ポンプ運転中の前記圧電センサの出力信号に基づく基準データ(詰まり無しの場合の出力信号,パワースペクトル,伝達関数)を記憶しておく基準データ記憶手段(記憶装置53)と、該基準データ記憶手段に記憶されている基準データと、前記圧電センサの所定期間の出力信号に基づく対象データ(リアルタイムの出力信号,パワースペクトル,伝達関数)とを、対比可能に出力する出力手段(モニタ60)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
前記基準データ記憶手段(記憶装置53)は、前記配管内に詰まりが無い状態における前記ポンプ運転中の前記圧電センサの出力信号に基づいて計測される、前記ポンプで発生する圧力脈動の周波数近辺におけるパワーを記憶しておき、前記出力手段(モニタ60)は、該基準データ記憶手段に記憶されているパワーと、前記圧電センサの所定期間の出力信号に基づいて計測される、前記圧力脈動の周波数近辺における実測パワーとを、対比可能に出力することを特徴とする。
【0010】
また、前記基準データ記憶手段(記憶装置53)は、前記配管内に詰まりが無い状態における前記ポンプ運転中の前記圧電センサの出力信号に基づいて計測される、前記ポンプで発生する圧力脈動の周波数近辺におけるパワーに関する隣り合う圧電センサ間での伝達係数を記憶しておき、前記出力手段(モニタ60)は、該基準データ記憶手段に記憶されている伝達関数と、前記圧電センサの所定期間の出力信号に基づいて計測される、前記圧力脈動の周波数近辺における実測パワーに関する隣り合う圧電センサ間での伝達関数とを、対比可能に出力することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記圧電センサ(1〜3)は、前記配管(300)の湾曲している部分の上流部及び下流部に各々設置され(センサA,センサB)、前記基準データ値記憶手段(記憶装置53)は、前記配管内に詰まりが無い状態における前記ポンプ運転中の前記圧電センサの出力信号に基づいて計測される、前記圧力脈動の周波数近辺におけるパワーに関する前記上流部及び下流部の圧電センサ間での伝達係数を記憶しておき、前記出力手段(モニタ60)は、該基準データ記憶手段に記憶されている伝達関数と、前記圧電センサの所定期間の出力信号に基づいて計測される、前記圧力脈動の周波数近辺における実測パワーに関する前記上流部及び下流部の圧電センサ間での伝達関数とを、対比可能に出力することを特徴とする。
【0012】
さらに本発明に係る詰まり検出システムは、前記圧電センサの出力信号に関する周波数解析結果に基づいて、0Hz近辺のパワーを除いた最も低い周波数帯域でのピークを検出し、当該ピークに係る周波数を前記圧力脈動の周波数として特定する周波数特定手段(制御部52)をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の詰まり検出システムによれば、配管外周にフィルム状の圧電センサを設置する構成としているため、システム全体として簡易かつ低コストにすることが可能であり、既存の配管経路に対しても容易に利用できる。また、圧電センサの出力信号に基づいて詰まり箇所の特定を容易に行うことが可能であり、作業効率も良い。
【0014】
本発明の詰まり検出システムによれば、圧力脈動の周波数近辺において、詰まりが無い状態におけるパワーと、対象データとしての実測パワーとを対比可能なので、詰まりによるパワーの減衰を把握することができる。その結果、単に圧電センサの出力信号を比較する場合と比べて、詰まり箇所の特定を正確に行うことができる。
【0015】
本発明の詰まり検出システムによれば、圧力脈動の周波数近辺において、詰まりが無い状態における伝達関数と、対象データとしての伝達関数とを対比可能なので、詰まりによる伝達関数の低下を把握することができる。その結果、単に圧電センサの出力信号を比較する場合と比べて、詰まり箇所の特定を正確に行うことができる。
【0016】
本発明の詰まり検出システムによれば、詰まりが生じやすい配管湾曲部における伝達関数を対比可能なので、詰まりの発生を把握しやすい。
【0017】
本発明の詰まり検出システムによれば、圧力脈動の周波数を自動的に特定することができる。即ち、システムのオペレーターが、圧力脈動の周波数を計算したり周波数解析結果から特定する作業が不要であり、人為的なミスによる誤判定を防止することができる。また、ポンプの回転数を変更した場合に、システム側でも圧力脈動の周波数が自動的に変更されるため、圧力脈動の周波数の違いによる誤判定を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[1.詰まり検出システムの構成]
以下、本発明の詰まり検出システムの実施の形態を図面に従って説明する。図1は本発明の詰まり検出システム100の構成を示すブロック図である。この図1に示すように、詰まり検出システム100は、ポンプ200及び該ポンプに接続される配管300から構成される流動媒体の経路に対して使用されるものである。詰まり検出システム100は、経路内の複数の箇所に各々設置される圧電センサ1,各圧電センサ1の出力側に接続されるチャージアンプ40,各チャージアンプ40からの出力信号が入力され、信号処理が行われるPC50,及び表示装置であるモニタ60から構成されている。
【0019】
本例において、ポンプ200は、容積式回転ポンプであり、ネジ状のローターが回転することにより容積変化を生じさせ、これによって流動媒体を吐出する、いわゆるネジ型と呼ばれるポンプである。ポンプ200は、ローターの回転数に応じた一定量の流動媒体を吐出する。本例のポンプ200における定格吐出量は、100rpmを基準として、8.8[l/min]である。そして、一般的に容積式回転ポンプにおいては、ローターの回転数に応じた周波数の圧力脈動が発生するものであり、一例として、ネジ型のポンプであれば[回転数/60]Hz,ギヤー型のポンプであれば[回転数×歯数/60]Hzというように、ポンプの回転数から圧力脈動の周波数を計算することができる。本例のポンプ200はネジ型であり、回転数を26.4rpmと設定しているため、ポンプ200で生じる圧力脈動の周波数は26.4/60=0.44Hzである。
【0020】
図1に示すように、ポンプ200の本体ケーシング上部にはホッパー201が接続されている。流動媒体がホッパー201の上部から供給されると、ホッパー201の下部から流動媒体が吐出され、ポンプ200の本体ケーシング内に充填される。そしてポンプ200内のローターの回転によって配管300に吐出される。そして、吐出された流動媒体は、配管300による経路を通過した後、再度ホッパー201に供給される仕組みになっている。本例においては、流動媒体は水である。
【0021】
配管300は、ステンレス製配管(JIS規格G3447)であり、材質はSUS304である。図2に示すように、この配管300は円筒形であり、外経は38.1mm,厚みは1.2mmである。
【0022】
フィルム状の圧電センサ1は15mm×30mmの長方形シートであり、図2に示すように、配管外周部の形状に沿って密着して設置される。圧電センサ1と配管300は、例えば、エポキシ樹脂を用いた接着剤等によって接着される。以下、図3(a)を用いて圧電センサ1の構造について詳細に説明する。なお、圧電センサ1に代えて、図3(b)又は図3(c)に示す圧電センサ2又は圧電センサ3を使用することもできる。
【0023】
図3(a)は、フィルム状の圧電センサ1の積層構造を示す断面図である。基板10は可撓性を有する高分子材料からなるフィルムであり、この基板10の上面側に圧電層11が形成されている。基板10は、例えばポリイミドのフィルムが使用できる。圧電層11は窒化アルミニウム(AlN)の薄膜である。圧電体としての窒化アルミニウムは、ポリイミドのフィルム上でもc軸配向を示し、十分な圧電性を持つことが確認されている。また、ポリイミドのフィルムは耐熱性の点でも優れている。
【0024】
なお、圧電層11は窒化アルミニウムの薄膜が好ましいが、その他の圧電性を有する金属化合物を使用することもできる。圧電性金属化合物としては、窒化アルミニウム以外には、酸化亜鉛,窒化ガリウム,窒化インジウム,ニオブ酸リチウムが使用できる。すなわち、圧電層11としては、窒化アルミニウム,酸化亜鉛,窒化ガリウム,窒化インジウム,ニオブ酸リチウム等が使用できるが、耐熱性,検出出力の温度特性などからは、窒化アルミニウム,酸化亜鉛が望ましく、特に窒化アルミニウムが最も適している。
【0025】
圧電層11は、スパッタリング法によって形成できるが、その他のイオンプレーティング、CVDなどの薄膜形成方法を使用してもよい。特に、スパッタリング法を用いて圧電層11の薄膜形成を行った場合は、圧電層11の結晶配向度を高めることができ、圧電特性を向上させることができるので望ましい。スパッタリング法は、例えば高周波マグネトロンスパッタリング法が使用できる。圧電層11の膜厚は、0.5μm〜10μmが望ましいが、あまり薄すぎると膜質が一定にならなかったり、厚すぎると製膜に時間を要したりするので、1μm程度が望ましい。
【0026】
圧電層11には、スパッタリング法を用いて成膜した窒化アルミニウムを使用した場合、窒化アルミニウムはキュリー点が存在しないために600度以上の高温環境でも圧電性を失わず、耐熱性に優れたセンサとすることができる。また、感度特性の温度依存性が極めて小さく、余分な補償回路を必要としない。よって、流動媒体の温度が高温である場合にも、計測エラーや故障を防止することができる。薄膜状圧電体を積層させる基板10としては、ポリイミド(PI)の他にもポリエチレンナフタレート(PEN),ポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子フィルムを用いることが可能である。
【0027】
基板10には、柔軟で十分な機械的強度および100度以上の耐熱性があることが望ましく、機械的な強度および耐熱性に優れるポリイミドがもっとも望ましい。基板10の厚みは薄すぎると機械的強度が不十分となり、厚すぎると電気的な損失が大きくなるため、1μm〜10μmの範囲であることが望ましい。
【0028】
さらに、基板10の下面側と圧電層11の上面側には、それぞれ第1電極層12および第2電極層13が形成されている。第1電極層12および第2電極層13としては、膜厚0.1μm(100nm)程度の白金(Pt)薄膜を利用できる。これらの電極層については、白金,金,銀,銅など各種金属や導電性を有する物質を使用することができる。電極層の腐食を防止するためには白金を用いることが好ましい。電極層の形成はスパッタリング法や蒸着法,さらにスクリーン印刷など一般的に用いられている方法で形成することができる。基板10や圧電層11との密着性を高めるためにはスパッタリング法で形成するのが好ましい。
【0029】
図3(b)は、他の形態の圧電センサ2の構成を示す断面図である。図3(a)に示す圧電センサ1を2層積層して構成したものである。この圧電センサ2は、以下のようにして作成する。まず、図3(a)で説明したように、基板10に圧電層11,第1電極層12,第2電極層13を積層形成して圧電センサ1を作成する。もう1枚の圧電センサに、電極層に検出端子やリード線等を接続するための接続穴14を形成して圧電センサ1aとする。
【0030】
そして、圧電センサ1の第2電極層13側と、圧電センサ1aの第2電極層13a側が接触するように重ね合わせて接着する。第2電極層13と第2電極層13aとは電気的に接続される。接続穴14を通して検出端子やリード線等を第2電極層13aに接続する。第1電極層12と第1電極層12aも電気的に接続される。これらの第1電極層12,第1電極層12aに、もう一方の検出端子やリード線等が接続される。
【0031】
圧電センサ2は、このように圧電センサ1に対応するものを2層重ね合わせて構成したので、圧力を受ける圧電層の面積が2倍になり、高感度の圧力センサとすることができる。また、圧電センサ2の内部が第1電極層12と第1電極層12aによってシールドされる構造となるので、外部からの電磁誘導ノイズ等を排除してS/N比を向上させることができる。なお、第2電極層13と第2電極層13aが外側になるように積層することもできるが、図示のように第2電極層13を内側にした方が圧電層11,11aが保護されるので好ましい。
【0032】
また、図3(b)では2枚の圧電センサ1と圧電センサ1aとを重ね合わせて積層するようにしたが、1枚の圧電センサ1を第2電極層13が内側になるように折りたたんで接着してもよい。この場合も、圧電センサ1の適宜位置に予め接続穴14を形成しておく。なお、圧電センサの接着方法はシリコンゴムやエポキシなどの接着剤を用いるが、センサの柔軟性を保持するためにはシリコンゴムが好ましい。
【0033】
図3(c)は、さらに他の形態の圧電センサ3の構成を示す断面図である。図3(b)に示す圧電センサ2に対応するものの上下両面に、保護フィルム31,32を接着してセンサ全体を覆うようにしたものである。圧電センサ本体が保護フィルム31,32によって保護されるため、耐熱性,耐久性がさらに向上する。そして、それぞれの保護フィルム31,32に金属のシールド層33,34を形成しておけば、電磁誘導ノイズ等に対するシールド性が向上してさらにS/N比を向上させることができる。
【0034】
上記の圧電センサ1〜3は、極めて薄いフィルム状で柔軟性に富んでいるため、配管300の外周形状に沿って密着して取り付けることができる。そして、ポンプ200によって発生する圧力脈動は、配管内部の流動媒体等によって配管300に伝搬し、その結果、配管壁に微小な歪が生じる。従って、図5及び図6に示すように、配管外周に密着している圧電センサ1〜3が、配管壁の微小な歪を検出し、その結果として圧力脈動の検出が可能となる。
【0035】
一方で、従来型の振動センサや加速度センサでは、配管300の平行運動による出力が混入するため正確な圧力脈動の検出が困難である。また、歪ゲージやレーザー変位計では、測定範囲が非常に狭く、ほとんどポイントでの計測になるため、内部の圧力脈動による配管の歪を検出するには感度が不足する。これに対し、圧電センサ1〜3は、フィルム基板全体に圧電層が形成されており、シート全体が配管壁に密着して設置されるので、配管内部の僅かな圧力脈動による配管壁の微小な歪を、シート面積全体で積分して検出することができる。即ち、配管壁の歪を検出する感度は、圧電センサ1〜3と配管壁との接触面積に比例するのであるから、シート状の圧電センサ1〜3全体を配管壁に密着させ、配管壁を広範囲にカバーすることで、配管壁の微小な歪みをシート面積全体で積分して検出することができ、これにより圧力脈動を検出するのに十分な感度を得ることができる。
【0036】
ここで、上記従来型の振動センサ等によって検出感度を向上させる方法としては、出力信号を電気的に増幅する増幅器の増幅率を上げる等、間接的な対処方法が主である。そのため、増幅器のノイズ等によりS/N比が低下するという欠点がある。これに対し、圧電センサ1〜3の場合は、センサを図3(b)(c)に示したような多層構造とする,又はセンサを配管300に対して重ね巻きする若しくは螺旋状に巻き付ける等、S/N比を低下させることなく直接的な方法で検出感度を向上させることができる。
【0037】
また、上記従来型の振動センサ等は、配管300の径や形状によっては取付けが制限されることがあるが、本発明の圧電センサ1〜3は、配管外周に接着させれば良いため、このような取付け上の制約が無く、システム全体として簡易かつ低コストにすることが可能であり、かつ既存の配管経路に対しても容易に使用することができる。
【0038】
なお、図3(a)に示す圧電センサ1の厚さは全体で30μm以下とすることができ、図3(b)及び図3(c)に示す圧電センサ2,3の厚さは全体で60μm以下とすることができる。このため、極めて薄いフィルム状の圧電センサとなり、質量も極めて小さくなるため、圧力脈動の伝搬に対する影響を大幅に低減することができる。さらに、圧電センサ1〜3は、圧力脈動の検出に電力供給を必要とせず、低消費電力の詰まり検出システムを実現できる。
【0039】
図1に戻り、各圧電センサ1は、ポンプ200及び配管300から構成される流動媒体の経路において、複数の所定箇所各々に設置される。この図の例では4カ所に設置されている。このとき、隣り合う圧電センサ1が同一の配管上に設置されていても良く、その間に継ぎ手があっても良い。ここで図1及び図4に示すように、圧電センサ1は、経路を構成する配管300の湾曲している部分の上流部,下流部に各々設置される。以下では、湾曲部の上流側(ポンプ側)の圧電センサ1をセンサA,湾曲部の下流側の圧電センサ1をセンサBと呼ぶ。
【0040】
各圧電センサ1から出力された電気信号は、それぞれチャージアンプ40によって増幅され、PC50が備えるA/D変換器51に入力される。このA/D変換器51では、アナログ信号が所定の周波数でサンプリングされ、ディジタル信号に変換される。制御部52は、CPU及びRAM等を備え、プログラムを実行してPC50に関する各種の処理を行うユニットである。ディジタル信号に変換された出力信号は、当該圧電センサ1を識別可能なセンサIDに関連づけて記憶装置53に記憶され、制御部52が実行する周波数解析プログラムによって高速フーリエ変換(FFT)され、その結果パワースペクトルが得られる。即ち各圧電センサ1の出力信号に対応したパワースペクトルが得られる。そして、各圧電センサ1のパワースペクトルは、当該圧電センサ1のセンサIDに関連づけて記憶装置53に記憶される。
【0041】
また、制御部52は、各圧電センサ1のパワースペクトルに基づいて、隣り合う圧電センサ間における伝達関数を計算する。配管内部の流動媒体の流れ方向で、上流側を入力信号Si(f),下流側を出力信号So(f)とし、So=H(f)Si(f)の関係式から、伝達関数H(f)を計算する。ここでfは周波数を表す。伝達関数H(f)は、パワースペクトルに係る各周波数について算出され、上流側又は下流側の圧電センサ1のセンサIDに関連づけて記憶装置53に記憶される。
【0042】
結果として、記憶装置53には、各圧電センサ1のセンサIDに関連づけて、出力信号,パワースペクトル,及び伝達関数が記憶されることになる。そして、これらはPC50に接続されているモニタ60に表示することができる。なお、各圧電センサ1からの出力信号は常時変化しているため、これに伴い、記憶装置53に記憶されている出力信号は所定期間毎(例えば60秒毎)に最新のデータに更新され、出力信号の更新に伴い、パワースペクトル及び伝達関数も所定期間毎に更新される。即ち、随時、記憶装置53の出力信号,パワースペクトル,及び伝達関数がリアルタイムに更新され、これに伴いモニタ60の表示も更新されることになる。オペレータは、リアルタイムの出力信号,パワースペクトル,及び伝達関数を観察することが可能となる。なお、本実施例においては、これらリアルタイムの出力信号,パワースペクトル,及び伝達関数が、後述する基準データと対比される対象データとなる。
【0043】
[2.詰まり検出システムの作用]
次に詰まり検出システム100の作用について説明する。本発明の詰まり検出システム100では、まず、配管内に詰まりが無い状態において、ポンプ運転中の圧電センサ1の出力信号に基づく基準データを取得し、これを記憶装置53に記憶しておくことを要する。本例において基準データとして記憶されるのは、出力信号,パワースペクトル,及び伝達関数である。
【0044】
具体的には、配管内に残留物や付着物等の詰まりが一切無い状態において、オペレーターが、PC50で所定の操作(例えばモニタ60に表示される「基準データ取得」ボタンの選択)を行うことによって、基準データ取得プログラムを実行させる。これにより、各圧電センサ1について、所定期間(例えば60秒間)の出力信号,当該出力信号に対応するパワースペクトル,及び当該パワースペクトルに係る各周波数についての隣り合う圧電センサ間における伝達関数が、基準データとして、当該圧電センサ1のセンサIDに関連づけて記憶装置53に記憶される。これらの基準データは、前述したリアルタイムの出力信号,パワースペクトル,及び伝達関数とは異なる記憶領域に記憶されており、更新されない。
【0045】
次に、詰まり検出システム100において、基準データと対比される対象データとなるリアルタイムの出力信号,パワースペクトル,及び伝達関数を取得する。詰まりが生じている状態での対象データを取得すべく、図4に示すように、配管の湾曲部分の内壁に粘土を付着させた。この付着箇所はセンサAとセンサBの中間に相当し、粘土の量は、配管内径の1/2が詰まる程度の量である。この詰まりは圧力脈動の伝搬に影響を与え、結果としてリアルタイムの出力信号,パワースペクトル,及び伝達関数に影響を及ぼすことになる。
【0046】
この状態で、オペレータが、PC50で第1の操作(例えばモニタ60に表示される「リアルタイムモード(1)」ボタンの選択)を行うことによって、図5に示すように、センサAについて、基準データとしての出力信号(図5(a))と、対象データとなるリアルタイムの出力信号(図5(b))がモニタ60に対比可能に出力される。また、図6に示すように、センサBについて、基準データとしての出力信号(図6(a))と、対象データとなるリアルタイムの出力信号(図6(b))がモニタ60に対比可能に出力される。
【0047】
この図5(a)に示す基準データとしての出力信号において、オペレータは2秒程度の周期の信号成分が含まれることを把握することができる。そして、ポンプの1秒あたりの回転数が0.44であることから、その周期の信号成分が圧力脈動であることを推測することができる。また、図5(b)に示すリアルタイムの出力信号においても、図5(a)と同様に2秒程度の周期の信号成分が含まれることを把握することができ、その周期の信号成分が圧力脈動であることを推測することができる。また、両出力信号に係る圧力脈動の振幅が同程度であると推定することができる。即ち、基準データとリアルタイムの出力信号とを比較して、圧力脈動の周期,振幅が同程度であるため、圧力脈動の伝搬を阻害し、圧力脈動を減衰させるような要因がセンサAの上流側には無いと推定される。結果として、オペレータは、図5の比較から、センサAの上流側では詰まりが生じていないと推定することができる。
【0048】
図6(a)に示す基準データとしての出力信号においては、オペレータは、微弱ながらも2秒程度の周期の信号成分が含まれることを把握することができる。そして、ポンプの1秒あたりの回転数が0.44であることから、その周期の信号成分が圧力脈動であることを推測することができる。一方、図6(b)に示すリアルタイムの出力信号においては、一見したところ2秒程度の周期の信号成分を視認することができない。即ち、基準データと比較してリアルタイムの出力信号における圧力脈動が減衰しているので、圧力脈動の伝搬を阻害し、圧力脈動を減衰させるような要因がセンサBの上流側に存在していると推定される。結果として、オペレータは、図5及び図6の比較から、センサAの下流側,かつセンサBの上流側で詰まりが生じていることを推定することができる。
【0049】
このように、圧電センサ1の出力信号に基づいて、詰まり箇所の特定を容易に行うことが可能であり、詰まり箇所の特定を行うにあたって検査用の器具を挿入して手動操作する必要もないため作業効率も良い。また、基準データと比較したリアルタイムの圧力脈動の減衰具合によって、詰まり具合の判断を行うことも可能である。
【0050】
次に、オペレータが、PC50で第2の操作(例えばモニタ60に表示される「リアルタイムモード(2)」ボタンの選択)を行うことによって、図7に示すように、センサAについて、基準データとしてのパワースペクトルと、対象データとなるリアルタイムのパワースペクトルがモニタ60に対比可能に出力される。また、図8に示すように、センサBについて、基準データとしてのパワースペクトルと、対象データとなるリアルタイムのパワースペクトルがモニタ60に対比可能に出力される。
【0051】
この図7に示す基準データとしてのパワースペクトル,リアルタイムのパワースペクトルの両者において、オペレータは0Hz近辺の直流成分を除いて、複数のピークを視認することができる。このうち最も低い周波数に係るピークは、圧力脈動のパワー密度を示しており、当該周波数は圧力脈動の基本周波数である。即ち、最初のピークは基本波のパワー密度を示す。また、2番目,3番目のピークは、それぞれ圧力脈動の2倍波,3倍波のパワー密度を示す。よって、オペレータは、前述したようにポンプの回転数からも圧力脈動の基本周波数を計算することができるし、図7のようなパワースペクトルのピークからも圧力脈動の基本周波数を把握することができる。
【0052】
ここで後述するように、詰まりが発生している状態で、基準データとリアルタイムのパワースペクトルとを比較した場合、基本波のパワー密度に明確な差が生じる。具体的には、リアルタイムのパワー密度は、基準データのパワー密度と比較して低くなるという特徴がある。一方、2倍波,3倍波等の高調波のパワー密度には明確な差は生じないという特徴がある。
【0053】
この特徴を踏まえ、図7において基本波のパワー密度を比較すると、基準データ,リアルタイムのパター密度のいずれも−40db程度であり、両者に明確な差があるとはいえない。よって、圧力脈動の伝搬を阻害し、圧力脈動を減衰させるような要因がセンサAの上流側には無いと推定される。結果として、オペレータは、図7の比較から、センサAの上流側では詰まりが生じていないと推定することができる。
【0054】
一方で、図8において基本波のパワー密度を比較すると、基準データが−50dB程度であるのに対し、リアルタイムのパワー密度は−60dB程度であるから、リアルタイムのパワー密度は基準データから約10dB低下しているということがいえる。よって、圧力脈動の伝搬を阻害し、圧力脈動を減衰させるような要因がセンサBの上流側に存在していると推定される。結果として、オペレータは、図7及び図8の比較から、センサAの下流側,かつセンサBの上流側で詰まりが生じていることを推定することができる。なお、図8に示すように、詰まりが発生している状態であっても、2倍波,3倍波等の高調波のパワー密度は減衰しない。
【0055】
このように、圧力脈動の基本周波数において、詰まりが無い状態におけるパワー密度と、リアルタイムのパワー密度とを対比可能なので、詰まりによるパワー密度の低下を把握して、詰まり箇所の特定を容易に行うことが可能となる。また、パワー密度の低下の程度によって詰まり具合の判断を容易に行うことが可能である。さらに、圧力脈動の基本周波数に係るパワー密度のみを比較可能なので、単に圧電センサ1の出力信号を比較する場合と比べて、詰まり箇所の特定及び詰まり具合の判断をより正確に行うことができる。
【0056】
ここで、前述したように、基準データとしての伝達関数及び対象データとなるリアルタイムの伝達関数は、パワースペクトルに係る各周波数について算出され、記憶装置53に記憶されている。そして、オペレータは、前述した計算式又はパワースペクトルのピークから圧力脈動の基本周波数を把握することができるので、記憶装置53に記憶されている基準データ及びリアルタイムの伝達関数各々から、当該基本周波数に合致する伝達関数を選択し、両伝達関数をモニタ60に表示して対比することができる。図9の例では、基本波の他に、2倍波,3倍波の伝達関数も選択され、これらがグラフ形式で表示されている。
【0057】
図9に示すように、詰まりが発生している状態で、基準データとリアルタイムの伝達関数とを比較した場合、基本波の伝達関数に明確な差が生じる。具体的には、リアルタイムの伝達関数は、基準データの伝達関数と比較して低くなるという特徴がある。一方、2倍波,3倍波等の高調波の伝達関数には明確な差は生じないという特徴がある。
【0058】
図9において基本波の伝達関数を比較すると、リアルタイムの伝達関数は基準データと比較してゲインが低くなる。この例では、基準データの0.4に対して、リアルタイムの伝達関数は0.1となっており、明確な差があるといえる。よって、圧力脈動の伝搬を阻害し、圧力脈動を減衰させるような要因がセンサAとセンサBの間に存在していると推定される。結果として、オペレータは、図9から、センサAの下流側,かつセンサBの上流側で詰まりが生じていることを推定することができる。
【0059】
このように、圧力脈動の基本周波数において、詰まりが無い状態における伝達関数と、リアルタイムの伝達関数とを対比可能なので、詰まりによる伝達関数の低下を把握して、詰まり箇所の特定を容易に行うことが可能である。また、伝達関数の低下の程度によって詰まり具合の判断を容易に行うことが可能である。さらに、基本周波数に係る伝達関数のみを比較可能なので、単に圧電センサ1の出力信号を比較する場合と比べて、詰まり箇所の特定及び詰まり具合の判断をより正確に行うことができる。
【0060】
さらに、前述した出力信号の対比又はパワースペクトルの対比によって詰まり箇所を特定する場合には、センサAとセンサBのそれぞれの出力信号又はパワースペクトルについて、基準データとリアルタイムのデータを確認しなければ、センサAとセンサBの間に詰まりがあることを特定できなかった。つまり4つのデータ(センサAの基準データ及びリアルタイムのデータ,センサBの基準データ及びリアルタイムのデータ)を参照する必要があった。これに対して、伝達関数の対比によって詰まり箇所を特定する場合には、2つのデータ(基準データとしての伝達関数及びリアルタイムの伝達関数)を参照するのみで、より容易にセンサAとセンサBの間に詰まりがあることを特定することができる。
【0061】
ここで、上記の例では、オペレータが、記憶装置53の基準データ及びリアルタイムの伝達関数各々から、基本周波数に合致する伝達関数を選択しているが、この作業を自動化することも可能である。具体的には、制御部52が実行する周波数解析プログラムによって、基準データとしてのパワースペクトルから0Hz近辺のパワーを除外し、最も低い周波数帯域でのピークを検出する。そして、当該ピークに係る周波数を圧力脈動の基本周波数として特定する。さらに、記憶装置53の基準データ及びリアルタイムの伝達関数各々から、当該基本周波数に合致する伝達関数を自動抽出し、図9に示すように、両伝達関数を対比可能に自動表示する。また、図9の例のように、基本波の他に、2倍波,3倍波の伝達関数も自動抽出し、これらをまとめてグラフ形式で表示するようにしても良い。
【0062】
このように、制御部52は、パワースペクトルから圧力脈動の周波数を自動的に特定することができる。即ち、システムのオペレーターが、圧力脈動の周波数を計算したり周波数解析結果から特定する作業が不要である。また、当該周波数に合致する伝達関数が自動表示されるので、当該周波数に合致する伝達関数を選択する必要が無く、人為的なミスによる誤判定を防止することもできる。また、ポンプの回転数を変更した場合に、システム側でも圧力脈動の周波数が自動的に変更されるため、圧力脈動の周波数の違いによる誤判定を防止することができる。
【0063】
また、別途ポンプの回転数を観測するための観測機構,処理経路を設ける必要も無く、配管内の圧力脈動を観測するために当初設置した圧電センサ1のみで、より簡易的に圧力脈動の周波数を特定可能である。さらに、前述したように、ポンプの種類,構造によって、回転数から圧力脈動の周波数を算出する計算式は異なるため、例え回転数を観測できたとしても、回転数から圧力脈動の周波数を算出する際に煩雑な処理を要する。これに対し、出力信号から直接的に圧力脈動の周波数を特定する本方式は、このような煩雑な処理が不要であり、様々なポンプに柔軟に対応することが可能である。
【0064】
なお、図9では基準データとリアルタイムの伝達関数とを対比表示させる際、伝達関数自体を表示しているが、図10のように、各伝達関数の比率を表示するようにしても良い。基準データとしての伝達関数をHn(f),リアルタイムの伝達関数をHb(f)とし、Γ(f)=Hb(f)/Hn(f)の関係式から、伝達関数の比率であるΓ(f)を計算する。その結果、図10に示すように、基準データに対するリアルタイムの伝達関数の比率を把握することが容易となり、結果として詰まり箇所の特定及び詰まり具合の判断がさらに容易になる。伝達関数の比率は、原則として基本周波数についてのみ算出すれば良いが、この図10の例では、基本周波数の他に、2倍波,3倍波について伝達関数の比率が算出され、これらがまとめてグラフ形式で表示されている。
【0065】
ここで、基本周波数における伝達関数の比に対して所定の閾値を設定しておき、その閾値を下回った場合には、PC50のスピーカ等から警報を発するようにしている。これにより、配管内の詰まりが一定程度に達した場合に、オペレータがこれに気づいて、容易に詰まり箇所を特定し、対処することができる。
【0066】
以上のように、本発明の詰まり検出システム100によれば、配管外周に圧電センサ1を設置する構成としているため、システム全体として簡易かつ低コストにすることが可能であり、既存の配管経路に対しても容易に利用できる。また、配管300の外周に複数の圧電センサ1を密着させることで、出力信号,パワースペクトル,又は伝達関数に基づいて、詰まり箇所の特定を容易に行うことが可能である。そして、検査用の器具を挿入して手動操作する必要もないため作業効率も良く、配管内部への異物混入を防止して衛生状態を確保することもできる。
【0067】
また、詰まりが生じやすい配管湾曲部の上流部にセンサA,下流部にセンサBを設置して、基準データの伝達関数とリアルタイムの伝達関数を対比可能なので、詰まりの発生を把握しやすい。
【0068】
ここで、配管を透明にすることによって詰まり箇所の特定を容易にするという方法もあるが、透明な配管自体が比較的高価であること、また、既に構築されている経路については、分解して配管を透明なものに交換しなければならないことから、コスト面及び労力の面で問題がある。また、流動媒体の性質によっては透明な素材を用いることができない可能性もあることから、本発明に係る詰まり検出システム1は優位性がある。
【0069】
[3.詰まり検出システムの変形例]
最後に、本発明に係る詰まり検出システムの変形例について説明する。
【0070】
本発明は、ポンプ及び配管から構成される流動媒体の経路において、フィルム状の圧電センサを配管外周の形状に沿って密着して配置しておき、基準データと圧電センサの出力信号に基づく対象データとを対比可能に出力することにより、詰まり箇所の特定を可能とするものである。従って、圧力脈動に限らず、配管内になんらかの圧力の変動が生じる場合には、圧電センサの出力信号に基づく対象データを基準データと対比することで、詰まり箇所の特定が可能になる。
【0071】
例えば、配管経路におけるバルブの開閉に伴うステップ状の圧力変動が配管内に生じたとき、詰まりが無い場合には出力信号の振幅が大きいが、詰まりが生じている場合には、出力信号の振幅が小さいという特徴がある。従って、その振幅の差違によって詰まり箇所の推定及び詰まり具合の推定が可能となる。即ち、配管内の圧力脈動を検出することができない場合であっても、配管内に何らかの圧力変動が生じていれば、これを圧電センサで検出することにより詰まり箇所の推定及び詰まり具合の推定が可能となる。
【0072】
上記の実施形態では、基準データと対比される対象データが、リアルタイムの出力信号,パワースペクトル,及び伝達関数である例について説明したが、対象データは、これらリアルタイムのデータに限らない。例えば、出力信号を比較的長期間(例えば24時間以上)記憶装置に保存しておき、オペレーターがその期間中の任意の期間を指定し、その指定期間の出力信号,当該出力信号のパワースペクトル,及び当該パワースペクトルに係る伝達関数を対象データとするようにしても良い。即ち、記憶されているデータのうちの任意の期間のデータを対象データとすることが可能である。
【0073】
上記の実施形態では、基準データとしての伝達関数及びリアルタイムの伝達関数は、パワースペクトルに係る各周波数について算出され、記憶装置53に記憶されているが、前述したように、当該パワースペクトルから圧力脈動の基本周波数を自動的に特定可能であることから、当該基本周波数についてのみ伝達関数を算出して記憶するようにしても良い。これにより、計算処理を大幅に省略可能であり、また伝達関数の記憶領域も少なくてすむ。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、本発明の詰まり検出システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】図2は、配管の断面図である。
【図3】図3は、圧電センサの積層構造を示す断面図である。
【図4】図4は、配管湾曲部の詰まりを示す図である。
【図5】図5(a)は、詰まりがない状態におけるセンサAの出力信号の一例であり、図5(b)は、詰まりがある状態にけるセンサAの出力信号の一例である。
【図6】図6(a)は、詰まりがない状態におけるセンサBの出力信号の一例であり、図6(b)は、詰まりがある状態にけるセンサBの出力信号の一例である。
【図7】図7は、詰まりがない状態,詰まりがある状態各々におけるセンサAの出力信号に対応するパワースペクトルの一例である。
【図8】図8は、詰まりがない状態,詰まりがある状態各々におけるセンサBの出力信号に対応するパワースペクトルの一例である。
【図9】図9は、詰まりがない状態,詰まりがある状態各々におけるセンサA及びセンサB間での伝達関数の一例である。
【図10】図10は、図9の伝達関数を基準データに対する比率で表した図である。
【符号の説明】
【0075】
1…圧電センサ
2…圧電センサ
3…圧電センサ
50…PC
52…制御部
53…記憶装置
60…モニタ
100…詰まり検出システム
200…ポンプ
300…配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ及び該ポンプに接続される配管から構成される流動媒体の経路において、複数の所定箇所各々に、配管外周の形状に沿って密着して設置されるフィルム状の圧電センサと、
前記配管内に詰まりが無い状態における前記ポンプ運転中の前記圧電センサの出力信号に基づく基準データを記憶しておく基準データ記憶手段と、
該基準データ記憶手段に記憶されている基準データと、前記圧電センサの所定期間の出力信号に基づく対象データとを、対比可能に出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする詰まり検出システム。
【請求項2】
請求項1に記載した詰まり検出システムであって、
前記基準データ記憶手段は、前記配管内に詰まりが無い状態における前記ポンプ運転中の前記圧電センサの出力信号に基づいて計測される、前記ポンプで発生する圧力脈動の周波数近辺におけるパワーを記憶しておき、
前記出力手段は、該基準データ記憶手段に記憶されているパワーと、前記圧電センサの所定期間の出力信号に基づいて計測される、前記圧力脈動の周波数近辺における実測パワーとを、対比可能に出力することを特徴とする詰まり検出システム。
【請求項3】
請求項1に記載した詰まり検出システムであって、
前記基準データ記憶手段は、前記配管内に詰まりが無い状態における前記ポンプ運転中の前記圧電センサの出力信号に基づいて計測される、前記ポンプで発生する圧力脈動の周波数近辺におけるパワーに関する隣り合う圧電センサ間での伝達係数を記憶しておき、
前記出力手段は、該基準データ記憶手段に記憶されている伝達関数と、前記圧電センサの所定期間の出力信号に基づいて計測される、前記圧力脈動の周波数近辺における実測パワーに関する隣り合う圧電センサ間での伝達関数とを、対比可能に出力することを特徴とする詰まり検出システム。
【請求項4】
請求項3に記載した詰まり検出システムであって、
前記圧電センサは、前記配管の湾曲している部分の上流部及び下流部に各々設置され、
前記基準データ記憶手段は、前記配管内に詰まりが無い状態における前記ポンプ運転中の前記圧電センサの出力信号に基づいて計測される、前記圧力脈動の周波数近辺におけるパワーに関する前記上流部及び下流部の圧電センサ間での伝達係数を記憶しておき、
前記出力手段は、該基準データ記憶手段に記憶されている伝達関数と、前記圧電センサの所定期間の出力信号に基づいて計測される、前記圧力脈動の周波数近辺における実測パワーに関する前記上流部及び下流部の圧電センサ間での伝達関数とを、対比可能に出力することを特徴とする詰まり検出システム。
【請求項5】
請求項2〜4から選択される1項に記載した詰まり検出システムであって、
前記圧電センサの出力信号に関する周波数解析結果に基づいて、0Hz近辺のパワーを除いた最も低い周波数帯域でのピークを検出し、当該ピークに係る周波数を前記圧力脈動の周波数として特定する周波数特定手段をさらに備えることを特徴とする詰まり検出システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−74571(P2009−74571A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241861(P2007−241861)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】