説明

誘導加熱溶解装置

【課題】温度計を使用しなくても被溶解材の溶解を検知しうる誘導加熱溶解装置を実現
【解決手段】複数の坩堝17は何れも被溶解材8の融点より高い温度で磁気変態を起こし、複数の誘導子15は何れも坩堝17を一つずつ可動状態で収容し、高周波電源10はオープン制御で誘導子15に通電し、検出回路21は誘導子15の通電状態に基づいて坩堝17の磁気変態による誘導子15のインピーダンス変化を検出し、制御装置20は検出回路21の検出結果に基づいて坩堝17それぞれにおける被溶解材8の溶解状態を判定して注湯制御に用いるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、坩堝を誘導加熱して坩堝内の被溶解材を伝熱にて溶解させる間接加熱式の誘導加熱溶解装置に関し、詳しくは、溶解を検知しうる誘導加熱溶解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波誘導加熱を行うに際し、磁気変態を示す金属を加熱対象に含めることが行われている(例えば特許文献1〜5参照)。
また、加熱対象物が予め溶解している押湯であって、その溶融状態を維持するのに高周波誘導加熱を行うのであれば、伝熱利用の間接誘導加熱と磁気変態点利用のオープン制御とを組み合わせることで、押湯温度制御をきめ細かく而も安価に行うこともできるようになっている(例えば特許文献2参照)。この場合、温度測定が不要で行われないので、熱電対といった接触式の温度計も、放射温度計といった非接触式の温度計も、設置されない。さらに、押湯収容部を複数に分割して、それぞれに誘導子を付設し、これらを直列接続した場合でも、オープン制御が可能であり、温度計は不要である。
【0003】
もっとも、このような溶融維持にとどまらず、未溶解の被溶解材を昇温させて溶解させる場合に、被溶解材の溶解を検知するときには、温度計が設置されていた。
また、誘導加熱利用の溶解では、被溶解材が軽金属などの場合、伝熱利用の間接誘導加熱が使い易く、この間接誘導加熱では、被溶解材が坩堝に入れられ、坩堝が誘導加熱される。そうすると、坩堝からの伝熱にて被溶解材が昇温し、その温度が融点を超えると被溶解材が溶解する。そこで、被溶解材か坩堝の温度を温度計で計測し監視することにより、被溶解材の溶解が検知されるが、坩堝が注湯などのため可動式になっている場合、接触式の温度計では接触不良や断線といった不具合が発生しがちなので、溶解判定用の温度検出には放射温度計が用いられている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−119886号公報
【特許文献2】特開2005−329450号公報
【特許文献3】特開2005−015906号公報
【特許文献4】特開2004−127854号公報
【特許文献5】特開2003−243144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、被溶解材がマグネシウム合金やアルミニウム合金などの場合、高温の溶融状態で長時間に亘り大気に曝しておくと、酸化などが不所望な程度まで進んでしまうので、真空や無酸素雰囲気を確保する設備を持たない環境下で溶解処理を行うには、小さめの坩堝を複数・多数準備しておき、個々の坩堝については投入材料(被溶解材)を溶解したらそれを一度の注湯で使い切ってしまうことが望ましい。
【0006】
しかしながら、小さな坩堝を幾つか並べてそれぞれの温度を計測するには、放射温度計も坩堝と同数だけ設置しなければならないうえ、各々の放射温度計に担当する坩堝の温度を的確に計測させるには、担当していない他の坩堝の影響が排除されるよう、例えば各放射温度計を担当坩堝の直上に配置するといった付帯条件もクリアしなければならない。そのため、設備費用が嵩むばかりか、溶解対象物の投入や注湯を担う機構の配置や設置に不所望な制約が生じてしまう。
そこで、温度計を使用しなくても被溶解材の溶解を検知しうる誘導加熱溶解装置を実現することが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘導加熱溶解装置は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、坩堝を一つずつ可動状態で且つ誘導加熱可能な状態で収容する誘導子を複数保持している加熱溶解機構と、前記誘導子にオープン制御で通電する高周波電源と、前記坩堝に対する被溶解材投入および注湯に係る制御を行う制御装置とを備えた誘導加熱溶解装置であって、前記坩堝が何れも被溶解材の融点より高い温度で磁気変態を起こすものであり、前記誘導子が前記坩堝の誘導加熱時にキュリー点未満の坩堝温度では溶解潜熱以上の電力を流すインピーダンスになりキュリー点以上の坩堝温度では保温に必要な電力を流すインピーダンスになるものであり、前記誘導子の通電状態に基づいて前記坩堝の磁気変態による前記誘導子のインピーダンス変化を検出する検出回路が前記誘導子それぞれに付設されており、前記制御装置が前記検出回路の検出結果に基づいて前記坩堝それぞれにおける被溶解材の溶解状態を判定して注湯制御に用いるようになっていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の誘導加熱溶解装置は(解決手段2)、上記解決手段1の誘導加熱溶解装置であって、前記誘導子が縦置き筒状に形成されていて前記坩堝を上端開口から抜き差しできるものになっていることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の誘導加熱溶解装置は(解決手段3)、上記解決手段1,2の誘導加熱溶解装置であって、前記誘導子が直列接続されており、前記高周波電源が出力電流一定制御で発振することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このような本発明の誘導加熱溶解装置にあっては(解決手段1)、坩堝と誘導子とが複数組設けられているので、坩堝を一つずつ又は少数ずつ溶解に使用することにより、被溶解材を速やかに溶解することができるうえ、溶解した被溶解材を坩堝からの一度の注湯で使い切ってしまうことができるので、高温の溶融状態で長時間に亘り大気に曝しておくと不都合なマグネシウム合金やアルミニウム合金などを溶解する場合であっても不都合なく、大気中で溶解することができる。
【0011】
また、坩堝が何れも被溶解材の融点より高い温度で磁気変態を起こすものであり、誘導子が坩堝の誘導加熱時にキュリー点未満の坩堝温度では溶解潜熱以上の電力を流すインピーダンスになることから、坩堝に被溶解材が投入されていて坩堝の温度が低いときには誘導加熱が強く行われ、これによって坩堝が昇温し、その伝熱によって被溶解材が昇温して、被溶解材が溶解する。そして、坩堝温度がキュリー点に達して坩堝が磁気変態を起こすと、誘導子がキュリー点以上の坩堝温度では保温に必要な電力を流すインピーダンスになるので、必要最小限の電力で被溶解材の溶融状態が維持される。そのため、通電制御が簡便なオープン制御であっても、坩堝温度ひいては被溶解材の温度が溶解温度に維持されるうえ、エネルギーの無駄が少ない。
【0012】
しかも、誘導子それぞれに付設された検出回路により誘導子の通電状態に基づいて坩堝の磁気変態による誘導子のインピーダンス変化が検出され、その検出結果に基づいて坩堝それぞれにおける被溶解材の溶解状態が判定されるようにもしたことにより、被溶解材が融点を超えて昇温しこれによって坩堝が磁気変態しこれによって誘導子のインピーダンスが変化したときに初めて被溶解材が溶解したと判定されるので、誘導子の通電状態に基づいて被溶解材の溶解状態を判別しても、的確な判定結果が得られる。そのため、温度計を使用しなくても、被溶解材の溶解を的確に検知することができる。
【0013】
そして、被溶解材の溶解の検知が的確になされれば、注湯を迅速かつ的確に行うことができる。しかも、温度計の設置が不要なので、坩堝が可動式であっても坩堝と温度計との接触不良といった不具合は発生せず、複数の坩堝が並んでいても他の坩堝の影響を受けることなく的確に個々の坩堝における被溶解材の溶解を検知することができる。
したがって、この発明によれば、温度計を使用しなくても被溶解材の溶解を検知しうる誘導加熱溶解装置を実現することができる。
【0014】
また、本発明の誘導加熱溶解装置にあっては(解決手段2)、坩堝の上方に放射温度計を配設する必要がないので、誘導子を縦置き筒状に形成してその上端開口から坩堝を抜き差しうる構成にすることが容易である。そして、そのような構成を採用することにより、坩堝に対する被溶解材投入や注湯を加熱溶解機構から離れた所で行うことが可能になるので、投入注湯機構に対する制約が大幅に緩和される。
したがって、この発明によれば、温度計を使用しなくても被溶解材の溶解を検知しうる誘導加熱溶解装置であって投入注湯の容易なものを実現することができる。
【0015】
さらに、本発明の誘導加熱溶解装置にあっては(解決手段3)、通電に磁気変態利用のオープン制御を採用しているので、複数の誘導子を直列接続して、それに高周波電源から一定電流を流すようにしても、それぞれの誘導子で坩堝の誘導加熱が的確に行われる。そして、そのような構成を採用することにより、誘導子の個数が多くても、高周波電源は一つ又は少数で足りることになるので、高周波電源に要する設備費が削減される。
したがって、この発明によれば、温度計を使用しなくても被溶解材の溶解を検知しうる誘導加熱溶解装置を安価に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
このような本発明の誘導加熱溶解装置について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜2により説明する。
図1に示した実施例1は、上述した解決手段1〜3(出願当初の請求項1〜3)を具現化したものであり、図2に示した実施例2は、加熱溶解機構の変形例である。
【実施例1】
【0017】
本発明の誘導加熱溶解装置の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、(a)が誘導加熱溶解装置の外観図、(b)が固定型の加熱溶解機構の縦断面図、(c)が電気回路のブロック図である。
【0018】
この誘導加熱溶解装置は(図1(a)参照)、マグネシウム合金やアルミニウム合金その他の軽金属の何れか又は混合物からなる被溶解材8を使い切りサイズの坩堝17で小分けして誘導加熱にてタイムリーに溶解させるために、複数の坩堝17と(図では6個)、複数の加熱部14を保持部13上に並べて保持している加熱溶解機構12と、誘導加熱用の電力を供給する高周波電源10と、坩堝17を加熱溶解機構12の所と被溶解材8の投入位置と注湯位置とに移送する例えば多軸ロボットやマテリアルハンドリング機構からなる投入注湯機構30と、この投入注湯機構30に動作指令を送出することにより坩堝17に対する被溶解材投入および注湯に係る制御を行う制御装置20とを具えている。
【0019】
坩堝17は(図1(a),(b)参照)、何れも、被溶解材8の融点より例えば50℃ほど高い温度で磁気変態を起こす鋼材から作られ、縦置き円筒の中空に挿抜し易いよう、上面解放で底面閉塞の円筒体に形成され、内面にはセラミックス等のコーティングにて耐食性が付与されている。坩堝17のキュリー点は、鉄とニッケルの割合を変えるといったことで、およそ360℃〜790℃の間で自在に調整できるので、多くの軽金属に坩堝17を適合させることが可能である。
加熱溶解機構12の保持部13は、耐熱性や断熱性さらには電気絶縁性や堅牢性を具備したものが望ましいが、複数の加熱部14を並べて安定保持できれば、上面の平坦な固定テーブルで足りる。
【0020】
加熱溶解機構12の加熱部14は(図1(b)参照)、それぞれ、縦置きの円筒状になっており、電気絶縁性を兼備した円筒状の断熱材16がコイル状の誘導子15に嵌挿されたものである。図示は割愛したが、無駄な放熱を防止するため、誘導子15の外周面にも、断熱材が適宜嵌装されている。断熱材16は、内径が坩堝17の外径より少し大きく、上面が解放されている。このような断熱材16に外嵌された誘導子15は、縦置き筒状に形成されていて坩堝17を上端開口から抜き差しできるものであって、坩堝17を一つずつ可動状態で且つ誘導加熱可能な状態で収容するものとなっている。
【0021】
誘導子15は、それぞれ、例えば通水冷却可能で導電性に優れた銅管を捲回加工してコイル状・円筒状に形成したものであるが、その際、誘導子15のインピーダンスが坩堝17の誘導加熱時にキュリー点未満の坩堝温度では溶解潜熱以上の電力を流すインピーダンスになりキュリー点以上の坩堝温度では保温に必要な電力を流すインピーダンスになるよう、形成条件が設定される。具体的な数値例を挙げると、インピーダンスの抵抗成分Rがキュリー点未満では0.5〜1Ω程度になりキュリー点以上では0.1〜0.2Ω程度になるよう、各誘導子15が形成される。
【0022】
これらの誘導子15は直列接続され(図1(c)参照)、それに整合回路11を介して高周波電源10から高周波が通電されるようになっている。
高周波電源10や整合回路11は公知のもので良く(特許文献1〜5参照)、誘導子15の直列接続回路に所定周波数の一定電流を流すようになっている。その通電制御はオープン制御で行われる。ここで、オープン制御は、誘導加熱のための温度フィードバックが無いという意味であり、電流を一定に維持するための電流フィードバックまで排除するものではない。高周波電源10の出力する高周波の電流値や周波数の選定は、使用する坩堝の肉厚,電気特性,及びコイル巻き数により決められる。
【0023】
検出回路21は、誘導子15一つに一つずつ付設されて、それぞれ、該当する誘導子15の通電状態に基づいてその誘導加熱対象の坩堝17の磁気変態による誘導子15のインピーダンス変化を検出するために、随時、該当誘導子15の両端の電圧を入力して例えば電位差または位相差といったインピーダンス変化反映物理量を演算等にて求め、その値を誘導子15のインピーダンス変化検出結果として制御装置20に送出するようになっている。誘導子15のインピーダンスが加熱対象の坩堝17の温度がキュリー点を下回っているか上回っているかで大きく変化するので、検出回路21の出力値も、坩堝17の温度がキュリー点を下回っているか上回っているかで大小が明確に異なるものとなる。
【0024】
制御装置20は、例えばプログラマブルなシーケンサやマイクロプロセッサシステムからなり、判定手段22やシーケンス制御手段23がインストールされている。判定手段22は、随時、検出回路21の検出結果を入力し、それに基づいて坩堝17それぞれにおける被溶解材8の溶解状態を判定し、その判定結果をシーケンス制御手段23に引き渡すようになっている。具体的な判定手法は、簡便な手法で足り、例えば、予め設定された閾値を参照して、検出回路21の検出値が閾値を上回っていれば検出先誘導子15の加熱対象の坩堝17の被溶解材8が溶解していると判定し、そうでなければ未だ溶解していないと判定するようになっている。
【0025】
シーケンス制御手段23は、データ入力された自動作業スケジュールに基づいて投入注湯機構30に動作指令を送出することにより、加熱溶解機構12の加熱部14から空の坩堝17を抜き取って投入位置へ移送させるとともに、被溶解材8を投入された坩堝17を投入位置から加熱溶解機構12の所に戻して加熱部14に挿着させるようになっている。また、判定手段22によって被溶解材8が溶解したと判定された坩堝17については、それを加熱溶解機構12の加熱部14から抜き取って注湯位置へ移送させるとともに、注湯にて空になった坩堝17を、残工程なしの場合は単に元の加熱部14に戻させるが、残工程ありの場合は投入位置へ移送させて投入後に加熱部14へ戻させるようになっている。
【0026】
この実施例1の誘導加熱溶解装置について、その使用態様及び動作を説明する。
【0027】
被溶解材8は、例えばなるべく坩堝17に投入しやすいペレット状のものを、予め小分けして投入に備えておくか、少量でも定量投入可能な自動投入設備に補充しておくと良い。一回当たりの投入量が例えば1000mlであれば、坩堝17には収容量が1500ml〜2000ml程度のものを用い、被溶解材8が例えば融点650℃のアルミニウム合金の場合、坩堝17はキュリー点700℃の強磁性材で作っておく。加熱部14の誘導子15は、断熱材16を挟んで坩堝17を嵌挿できる形状であって、インピーダンスが坩堝17の誘導加熱時にキュリー点未満の坩堝温度では溶解潜熱以上の電力を流すインピーダンスになりキュリー点以上の坩堝温度では保温に必要な電力を流すインピーダンスになるよう、設定しておく。誘導子15は直接接続してから高周波電源10の出力端子に接続しておく。
【0028】
そして、空の坩堝17を加熱部14に一つずつ差し込んだら高周波電源10を作動させ、被溶解材8の投入準備ができたら制御装置20を作動させる。そうすると、制御装置20の自動制御に従って投入注湯機構30が一連の投入動作と注湯動作を繰り返し、これによって、投入動作では、空の坩堝17が加熱部14から抜き取られて投入位置へ移され、投入位置で被溶解材8を投入された坩堝17が元の加熱部14の中に戻される。被溶解材8を収容して戻ってきたばかりの坩堝17は、温度がキュリー点より低く下がっているので、加熱部14の中で強く誘導加熱されて被溶解材8に伝熱しながらも速やかに昇温し、被溶解材8を溶解させると間もなくキュリー点に達する。
【0029】
坩堝17の温度がキュリー点に達すると、坩堝17が磁気変態を起こすので、誘導子15による坩堝17の誘導加熱が被溶解材8の溶融状態を保つだけに弱まって、坩堝17と被溶解材8の温度がキュリー点に維持されるとともに、その磁気変態に起因して誘導子15のインピーダンスが変化(一般にインダクタンス成分Lよりも抵抗成分Rが大きく変化)し、これが検出回路21によって検出され、その検出結果に応じて、制御装置20により、被溶解材8が溶解したと判定されるとともに、該当する坩堝17について注湯動作を促す動作指令が投入注湯機構30に送出される。注湯動作では、坩堝17が加熱部14から抜き取られて注湯位置へ移され、そこで注湯が行われる。注湯後、坩堝17は、空になっているので、投入位置へ移されて、投入動作に移行する。
【0030】
こうして、この誘導加熱溶解装置にあっては、被溶解材8を少量ずつ溶解して、速やかに注湯に供することができる。
しかも、坩堝17の材質に炭素鋼やステンレス鋼などを使用して、坩堝17の透磁率がキュリー点で急激に変化する性質を坩堝17に付与し、その性質を利用して誘導加熱しているので、温度検出を省いても、坩堝17の温度をキュリー点近傍の一定値に保持することができる。時間経過における坩堝17の変動は極めて小幅である。
また、坩堝17に含まれているニッケルがマグネシウム合金等の溶湯中に拡散すると、耐食性が劣化するが、坩堝17の内面がセラミック等でコーティングされているので、ニッケルの拡散は防止される。
【0031】
マグネシウム合金の大気溶解では酸化にとどまらず発火の可能性にも留意しなければならないが、発火点を例えば800℃以上に引き上げられる難燃性マグネシウム合金の溶解に本発明の誘導加熱溶解装置を用いることにより、いわば溶解即注湯が実現されるので、発火の心配なく大気中でマグネシウム合金を溶解することができる。また、本発明の誘導加熱溶解装置を用いた溶解即注湯では、従来の大量溶解・長期保温に比べ、酸化物等の夾雑物の発生を著しく抑制できて鋳造品等の品質向上に有効であるばかりか、エネルギー使用量も大幅に削減でき、場合によっては30%〜40%のエネルギー削減が期待できる。さらに、鋳造の一枠毎の重量やサイクルタイムの異なる様々な製品についても、坩堝17と誘導子15のサイズや個数さらには高周波電源10の出力設定を適宜変更することで、溶解即注湯を実現することができる。
【実施例2】
【0032】
本発明の誘導加熱溶解装置の加熱溶解機構について、可動型の変形例を、図面を引用して説明する。
図2(a)に外観を示した回転移動型の加熱溶解機構は、高周波電源10を内蔵した保持部13を鉛直軸周りに回転駆動機構18で回転させることにより、加熱部14ひいては坩堝17を水平面内で円運動させるようになっている。
【0033】
図2(b)に外観を示した水平移動型の加熱溶解機構は、加熱部14に水平面内で直進と方向転換とを行わせることにより、坩堝17を水平面内で循環移動させるようになっている。
図2(c)に外観を示した鉛直面内循環型の加熱溶解機構は、加熱部14に水平移動と上下移動とを行わせることにより、坩堝17を鉛直面内で循環移動させるようになっている。
【0034】
この場合、多数の坩堝17が連なって移動するとともに移動中に昇温するので、その移動経路の途中に投入位置と注湯位置とを設定しておけば、投入位置では次々に被溶解材8を坩堝17に投入することができ、次々に坩堝17から溶湯を流出させて鋳型等に注ぎ込むことができる。
そのため、作業能率を損なうことなく、投入位置と注湯位置とを固定的に定めて、投入注湯機構を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例1について、誘導加熱溶解装置の構造を示し、(a)が外観図、(b)が固定型の加熱溶解機構の縦断面図、(c)が電気回路ブロック図である。
【図2】本発明の実施例2について、誘導加熱溶解装置の加熱溶解機構の変形例を示し、(a)が回転移動型、(b)が水平移動型、(c)が鉛直面内循環型である。
【符号の説明】
【0036】
8…被溶解材、10…高周波電源、
11…整合回路、12…加熱溶解機構、
13…保持部、14…加熱部、15…誘導子、
16…断熱材、17…坩堝、18…回転駆動機構、
20…制御装置、21…検出回路、22…判定手段、
23…シーケンス制御手段、30…投入注湯機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝を一つずつ可動状態で且つ誘導加熱可能な状態で収容する誘導子を複数保持している加熱溶解機構と、前記誘導子にオープン制御で通電する高周波電源と、前記坩堝に対する被溶解材投入および注湯に係る制御を行う制御装置とを備えた誘導加熱溶解装置であって、前記坩堝が何れも被溶解材の融点より高い温度で磁気変態を起こすものであり、前記誘導子が前記坩堝の誘導加熱時にキュリー点未満の坩堝温度では溶解潜熱以上の電力を流すインピーダンスになりキュリー点以上の坩堝温度では保温に必要な電力を流すインピーダンスになるものであり、前記誘導子の通電状態に基づいて前記坩堝の磁気変態による前記誘導子のインピーダンス変化を検出する検出回路が前記誘導子それぞれに付設されており、前記制御装置が前記検出回路の検出結果に基づいて前記坩堝それぞれにおける被溶解材の溶解状態を判定して注湯制御に用いるようになっていることを特徴とする誘導加熱溶解装置。
【請求項2】
前記誘導子が縦置き筒状に形成されていて前記坩堝を上端開口から抜き差しできるものになっていることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱溶解装置。
【請求項3】
前記誘導子が直列接続されており、前記高周波電源が出力電流一定制御で発振することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された誘導加熱溶解装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−80073(P2010−80073A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243673(P2008−243673)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000208695)第一高周波工業株式会社 (90)
【出願人】(508088281)株式会社ダイハツメタル (2)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】