誘導加熱装置及び画像形成装置
【課題】誘導加熱用のコイルに印加される入力電圧に波形ひずみが生じていても、精度の高い電力制御を行うことができる誘導加熱装置等を提供する。
【解決手段】電力制御手段107は、スイッチング素子105のオン・オフのデューティ比を制御することにより、定着装置30の発熱体への供給電力を制御するとともに、発熱体の必要電力値と、実効電圧検出手段107により検出された入力電圧の実効値と、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と、入力電圧の実際の波高率とに基づいて、スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する。
【解決手段】電力制御手段107は、スイッチング素子105のオン・オフのデューティ比を制御することにより、定着装置30の発熱体への供給電力を制御するとともに、発熱体の必要電力値と、実効電圧検出手段107により検出された入力電圧の実効値と、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と、入力電圧の実際の波高率とに基づいて、スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、画像形成装置に備えられている定着装置の発熱体を加熱するのに用いられる誘導加熱装置、及び該誘導加熱装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コピー機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置、さらにはこれらの装置の機能を集約したMFP(Multi Function Peripherals)と称される多機能デジタル画像形成装置等には、定着装置の発熱体を加熱する加熱源として誘導加熱装置を備えたものがある。
【0003】
このような誘導加熱装置として、誘導加熱用のコイルへ例えば商用の交流電圧を全波整流し直流に変換して印加するとともに、誘導加熱用のコイルと直列に接続された例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)等からなるスイッチング素子のオン・オフを制御することにより、定着装置の発熱体へ供給する電力を制御する方式のものが従来より用いられている。
【0004】
この場合、前記定着装置の発熱体への供給電力量はスイッチング素子のオン・オフのデューティ比により変化するが、従来では、前記入力電圧のピーク値と、発熱体を所定温度に発熱させるのに必要な電力値とから、前記デューティ比が決定されていた(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−098860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、誘導加熱装置の動作中において、商用の入力交流(50/60Hz)に電圧変動が生じることがあるが、変動した入力電圧のピーク値が大きいと、誘導加熱用のコイルをスイッチングする前記スイッチング素子に過大な電圧が印加され、スイッチング素子が破壊されることがある。
【0007】
また、入力電圧波形のひずみも供給電力に大きな影響を及ぼす。入力電圧波形のひずみは、発電機の劣化等により発生する現象で第3地域に多く見られる。波形ひずみが発生すると実際の実効電圧Vrmsと入力電圧におけるピーク電圧Vpとの関係が、通常の正弦波のようにVrms=Vp/√2という関係から逸脱してしまう。
【0008】
しかるに、入力電圧のピーク値を基にスイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する従来の誘導加熱装置では、波形ひずみが生じた入力電圧に対しては精度の良い電力制御を行うことができないという欠点があった。
【0009】
この発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであって、誘導加熱用のコイルに印加される入力電圧に波形ひずみが生じていても、精度の高い電力制御を行うことができる誘導加熱装置、及び該誘導加熱装置を備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段によって解決される。
(1)定着装置の発熱体を加熱するための誘導加熱用のコイルであって、正弦波状の交流電圧の整流後の入力電圧が印加されるコイルと、前記コイルに直列に接続されたスイッチング素子と、前記入力電圧のピーク値を検出するピーク電圧検出手段と、前記入力電圧の実効値を検出する実効電圧検出手段と、前記ピーク電圧検出手段により検出された入力電圧のピーク値と、前記実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値とから、前記入力電圧の波高率を算出する波高率算出手段と、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を制御することにより、前記定着装置側への供給電力を制御する電力制御手段と、を備え、前記電力制御手段は、前記定着装置側への必要電力値と、前記実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値と、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と、前記波高率算出手段により算出された入力電圧の実際の波高率とに基づいて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定することを特徴とする誘導加熱装置。
(2)前記電力制御手段は、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する前項1に記載の誘導加熱装置。
(3)前記電力制御手段は、前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも大きい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比を小さくし、入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも小さい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比を大きくする前項2に記載の誘導加熱装置。
(4)前記電力制御手段は、入力電圧波形のうち、正弦波状の交流電圧の整流後の少なくとも半波分については、前記決定されたデューティ比に固定して前記スイッチング素子を制御する前項1〜3のいずれかに記載の誘導加熱装置。
(5)前記電力制御手段は、入力電圧波形のうち、正弦波状の交流電圧の整流後の半波分において、前記入力電圧の波形と入力電圧が正弦波形である場合の波形とが交差する2つのタイミングをT1及びT2(ただしT1<T2)としたときに、T1<t<T2である時刻tにおいては、前記決定されたデューティ比で前記スイッチング素子を制御し、t<T1及びT2<tである時刻tにおいては、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と入力電圧の実際の波高率との逆比を用いて決定されたデューティ比で前記スイッチング素子を制御する前項2または3に記載の誘導加熱装置。
(6)t=T1、t=T2である時刻tを含むtの前後の時間領域においては、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合のデューティ比で前記スイッチング素子を制御する前項5に記載の誘導加熱装置。
(7)入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する場合、デューティ比におけるパルス幅は、以下の式によって算出される前項2〜6のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【0011】
パルス幅=A×必要電力値+B
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
ただし、α、α’、β及びβ’は定数。
(8)入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する場合、デューティ比におけるパルス幅は、以下の式によって算出される前項2〜6のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【0012】
パルス幅=A×必要電力値の2乗+B×必要電力値+C
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+γ’
ただし、α、α’、β、β’、γ及びγ’は定数。
(9)発熱体を有する定着装置と、前記発熱体を加熱するための前項1〜8のいずれかに記載の誘導加熱装置とを備えたことを特徴とする画像形成装置。
(10)交流電圧を整流して画像形成装置本体の各部へ供給する直流電源装置を備え、前記誘導加熱装置の実効電圧検出手段は前記直流電源装置に備えられている前項9に記載の画像形成装置。
【発明の効果】
【0013】
前項(1)に記載の発明によれば、定着装置側の必要電力値と、実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値と、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と、波高率算出手段により算出された入力電圧の実際の波高率とに基づいて、スイッチング素子のオン・オフのデューティ比が決定されるから、正弦波形に対する入力電圧のひずみの要素をデューティ比の決定プロセスに入れることとができ、誘導加熱用のコイルに印加される入力電圧に波形ひずみが生じていても、精度の高い電力制御を行うことができる。
【0014】
前項(2)に記載の発明によれば、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、スイッチング素子のオン・オフのデューティ比が決定されるから、より精度の良い電力制御を行うことができる。
【0015】
前項(3)に記載の発明によれば、入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも大きい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比は小さくされ、入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも小さい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比は大きくされるから、入力電圧のひずみ波形に対応した精度の良い電力制御を確実に実行することができる。
【0016】
前項(4)に記載の発明によれば、入力電圧波形のうち、正弦波状の交流電圧の整流後の少なくとも半波分については、決定されたデューティ比に固定してスイッチング素子が制御されるから、制御が比較的容易となる。
【0017】
前項(5)に記載の発明によれば、正弦波状の交流電圧の整流後の半波分において、時間によってデューティ比を変化させてスイッチング素子を制御するから、入力電圧のひずみに応じた的確な電力制御を行うことができる。
【0018】
前項(6)に記載の発明によれば、正弦波状の交流電圧の整流後の半波分において、時間によってデューティ比を変化させる場合に、よりスムーズにデューティ比を変化させることができ、ひいてはよりスムーズに供給電力値を変化させることができる。
【0019】
前項(7)に記載の発明によれば、スイッチング素子のオン・オフのデューティ比におけるパルス幅を、的確に求めることができる。
【0020】
前項(8)に記載の発明によれば、スイッチング素子のオン・オフのデューティ比におけるパルス幅を、的確に求めることができる。
【0021】
前項(9)に記載の発明によれば、定着装置側へ安定的な電力を供給して発熱体の温度を所期する温度に精度良く維持することができ、定着装置の安定した定着性能を発揮させることができる画像形成装置となしうる。
【0022】
前項(10)に記載の発明によれば、誘導加熱装置の実効電圧検出手段として、交流電圧を整流して画像形成装置本体の各部へ供給する直流電源装置に備えられているものを用いることにより、誘導加熱装置の構成を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(A)はピーク電圧検出回路の一例を示す回路図、(B)は入力電圧の波形図である。
【図3】実効電圧検出回路の一例を示す回路図である。
【図4】実効電圧検出回路により検出された実効電圧の波形図である。
【図5】定着装置への電力とスイッチング素子の駆動信号のパルス幅との関係を示す図である。
【図6】整流後の入力電圧が正弦波形である場合のスイッチング素子の駆動による電圧と電流の状態を説明するための図である。
【図7】整流後の入力電圧がひずんでいる場合のスイッチング素子の駆動による電圧と電流の状態を説明するための図である。
【図8】定着装置への電力制御の一例を説明するための図である。
【図9】整流後の入力電圧のひずみ状態を推定する方法を説明するための波形図である。
【図10】整流後の入力電圧が正弦波形及びひずみ波形の場合の分岐点の間隔を示す図である。
【図11】定着装置への電力制御の他の例を説明するための図である。
【図12】定着装置への電力制御のさらに他の例を説明するための図である。
【図13】電力制御部によるスイッチング素子の駆動信号を決定するための動作を示すフローチャートである。
【図14】実効電圧検出回路が直流電源装置に備えられている画像形成装置のブロック図である。
【図15】画像形成装置の直流電源装置の実効電圧検出回路を利用する場合に、装置内の直流負荷によって実効電圧が変化することを説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1は、この発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【0026】
画像形成装置1は、誘導加熱装置10と、本体制御部20と、定着装置30とを備えている。
【0027】
前記誘導加熱装置10は、全波整流回路102と、誘導加熱用のコイル(インダクタ)103と、コンデンサ104と、スイッチング素子105と、IGBT駆動回路106と、ピーク電圧検出回路107と、実効電圧検出回路108と、電力制御部109を備えている。
【0028】
全波整流回路102は、50/60Hzの100Vの交流電源である商用電源101の100Vの交流電圧を全波整流して直流に変換するものである。
【0029】
コイル103は、前記全波整流回路102の出力を入力電圧として受領し、磁気的に結合された定着装置30の発熱体(図示せず)を誘導加熱する。
【0030】
コンデンサ104はコイル103と並列に接続され、コイル103とで共振回路112を形成する。
【0031】
スイッチング素子105はコイル103と直列に接続され、商用電源101から全波整流回路102、共振回路112、スイッチング素子105及び全波整流回路102を巡って商用電源101へと至る閉ループを形成している。スイッチング素子105の種類は限定されないが、この実施形態では、前述した絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。
【0032】
IGBT駆動回路106は、電力制御部109からの指示に基づいてスイッチング素子105をオン・オフすることにより、スイッチング素子105を高周波スイッチング駆動するものである。
【0033】
ピーク電圧検出回路107は、全波整流回路102からコイル103へ入力される入力電圧V0のピーク値Vpを検出するものである。このピーク電圧検出回路107は、例えば図2(A)に示すように、入力電圧V0によって充電されるコンデンサ107aを備えており、このコンデンサ107aは入力電圧V0によって、図2(B)に示すように、最大で入力電圧のピーク値(ピーク電圧ともいう)Vpまで充電されることから、充電電圧の最大値を検出することによりピーク電圧Vpを検出するものとなされている。なお、ピーク電圧Vpは大きな値であることから、実際にはピーク電圧検出回路107はピーク電圧Vpを変圧または分圧する回路を備えており、扱う電圧値を小さくしている。
【0034】
実効電圧検出回路108は、前記入力電圧V0の実効値(実効電圧ともいう)Vrmsを検出するものである。この実効電圧検出回路108は、例えば図3に示すように、整流回路102に直列に接続されたチョークコイル108aと、チョークコイル108aの出力を充電するコンデンサ108bを備えたチョークインプット型の整流器からなる、このような実効電圧検出回路108では、入力電圧V0が図4(A)に一点鎖線で示すような正弦波の場合であっても、図4(B)に破線で示すようなひずみ波であっても、コンデンサ108bの出力により実効値Vrmsを検出できる。ただし、コンデンサ108bの出力にはリップルがあるため、検出電圧として使用するためにはCPUのADポートを使用する場合等では、平均化処理を行うのが良い。
【0035】
電力制御部109は、IGBT駆動回路106を介してスイッチング素子105のオン・オフを制御することにより、定着装置30の発熱体への供給電力を制御するものであり、図示しないCPU、ROM、RAM等により構成されている。
【0036】
ところで、入力電圧V0がひずみ波である場合、ピーク電圧検出回路107により検出したピーク値Vpを用い、Vrms1=Vp/√2で求めた実効値Vrms1と、実際の実効値Vrms2とは大きな差があり、Vrms1=Vp/√2で求めた実効値Vrms1を基にスイッチング素子105の駆動信号のデューティ比を決定すると、精度の良い電力制御を行うことができない。
【0037】
そこで、この実施形態では、電力制御部109には機能的に、波高率算出部109aとデューティ決定部109bが設けられている。
【0038】
波高率算出部109aは、ピーク電圧検出回路107により検出された入力電圧V0のピーク値Vpと、実効電圧検出回路108により検出された入力電圧V0の実効値Vrmsとから、
波高率=Vp/Vrms
の式により波高率を算出するものである。
【0039】
デューティ決定部109bは、波高率算出部109aにより算出された波高率と、入力電圧V0の実効値Vrmsと、画像形成装置1の本体側から通知された定着装置30の発熱体に供給すべき必要電力値とに基づいて、スイッチング素子105をオン・オフ制御する際の駆動信号のパルス幅を決定し、ひいてはデューティ比を決定するものである。この点については後述する。そして、電力制御部109は、前記決定されたデューティ比でIGBT駆動回路106を介してスイッチング素子105を駆動する。
【0040】
本体制御部20の制御回路21は、図示しないCPU、ROM、RAM等を備え、電力制御部109に対して電力供給の開始指示や定着装置30の必要電力値の指示を行う。
【0041】
次に、この実施形態におけるスイッチング素子105に対する駆動信号のパルス幅(デューティ比)の決定方法について説明する。
【0042】
図5は、定着装置30側の必要電力値と駆動信号のパルス幅との関係を実測値に基づいて示したグラフであり、横軸に必要電力値、縦軸にパルス幅をそれぞれとったものである。なお、コイル103への入力電圧V0の大きさ(実効値)によって、必要電力値とパルス幅の関係が異なることから、複数本の特性が描かれている。
【0043】
同図から明らかなように、必要電力値の大小は駆動信号のパルス幅の長短にほぼ比例している。また、入力電圧V0の実効値が大きいほど、同じパルス幅であっても供給できる電力値は大きくなる。
【0044】
図5のグラフに示された特性を直線とみなすと、
パルス幅=A×必要電力値+B (ただしA、Bは定数)
の式で表すことができる。なお、特性によっては二次式で近似して
パルス幅=A×(必要電力値)2+B×必要電力値+C (ただしA、B、Cは定数)
で表しても良い。
【0045】
また、上記特性は入力電圧V0の実効値によって変化するから、
A=α×入力電圧の実効値+α’ (ただしα、α’は定数)
B=β×入力電圧の実効値+β’ (ただしβ、β’は定数)
C=γ×入力電圧の実効値+γ’ (ただしγ、γ’は定数)
の式で表すことができる。
【0046】
しかし、従来では上記の入力電圧V0の実効値として、入力電圧のピーク値Vp/√2の式により求めた値が用いられていた。このため、前述したように、入力電圧V0がひずみ波形であるような場合は実際の実効値とは大きな差があり、精度の良い電力制御を行うことができなかった。
【0047】
しかも、入力電圧V0がひずんでピーク値Vpが大きくなると、以下に示す理由によりスイッチング素子105が破壊される恐れがあった。
【0048】
即ち、図6(A)に示すように入力電圧V0が正弦波形である場合、同図(B)に入力電圧V0のピーク時における駆動信号の1パルスを拡大して示し、同図(C)に入力電圧V0のピーク時におけるコイル103へ流れる電流IL及びコンデンサ104の充電電圧Vc(スイッチング素子105の端子電圧)を示すように、駆動信号のパルスの立ち下がりの時点から、コンデンサ104にはコイル103からの充電が開始され、スイッチング素子105の端子電圧は徐々に上昇する。
【0049】
入力電圧V0のピーク値をVpとすると、電流ILの最大値ILmax、電圧Vcの最大値Vcmaxはそれぞれ
ILmax=Vp/(R+ωL)
Vcmax=√(L/C)×[Vp/(R+ωL)]2
となる。ただし、Rはコイル103の抵抗成分、Lはコイル103のインダクタンスである。
【0050】
つまり、スイッチング素子105の端子電圧Vcの最大値Vcmaxは入力電圧V0のピーク値Vpの二乗に比例する。
【0051】
従って、図7(A)のように、入力電圧がひずんでピーク値Vpが大きくなると、同図(C)のように電圧Vcの最大値Vcmaxも大きくなり、これがスイッチング素子105の破壊の原因となっていた。
【0052】
そこで、この実施形態では、前述したパルス幅と必要電力値の関係式における定数A、B及びCを、
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+γ’
の式で算出する。
【0053】
つまり、実効値検出回路108により検出された入力電圧V0の実効値の他に、入力電圧V0が正弦波形である場合の波高率√2と前記波高率算出部109aで算出された入力電圧の実際の波高率との比である(√2/入力電圧の波高率)を用いて、定数A、B及びCを算出する。従って、入力電圧V0のピーク値Vpが大きく、波高率が正弦波の波高率である√2より大きい場合は、定数A、B、Cの値が小さくなり、正弦波の場合に較べてパルス幅が短くデューティ比は小さくなる。パルス幅が短くなることで、コイル103に流れる電流ILの最大値ILmaxが小さくなり、スイッチング素子105の端子電圧Vcの最大値Vcmaxも小さくなり、スイッチング素子105の破壊の危険性が低減される。逆に、入力電圧V0のピーク値Vpが小さく、波高率が正弦波の波高率である√2より小さい場合は、正弦波の場合に較べてパルス幅が長くデューティ比は大きくなり、供給電力値を従来よりも増大できる。
【0054】
なお、スイッチング素子105の駆動信号の周期は、20〜100kHz程度の範囲で一定値に適宜設定すればよい。また、一旦決定されたパルス幅(デューティ比)は、図8(A)に示すように、正弦波状の交流電圧の整流後の少なくとも半波分、換言すれば整流後の入力電圧V0の一山分については、決定されたパルス幅(デューティ比)に固定して前記スイッチング素子105を制御するのが、制御の容易性、確実性の観点から望ましい。
【0055】
なお、上記制御では、図8(B)のイメージ図に示すように、入力電圧が正弦波のときの供給電力よりも入力電圧にひずみか発生しているときの供給電力がやや少ない状態となる。しかし、パルス幅の決定に入力電圧V0の実際の実効値を用い、さらに入力電圧V0が正弦波形である場合の波高率と実際の波高率の比を用いてパルス幅が決定されるから、ピーク値Vpの変動に起因するスイッチング素子105の破壊の危険性を低減しながら、精度の高い電力制御を行うことができる。
【0056】
次に、この発明の他の実施形態を説明する。この実施形態では、入力電圧V0のひずみ状態に応じて、入力電圧V0の波形の一山分の中でパルス幅を変化させて、スイッチング素子105の制御を行うものである。
【0057】
まず、図9(A)に示すような、例えば発電機の劣化等による入力電圧V0の波形ひずみについて考察する。入力電圧V0が正弦波V01である場合、実効値をVrmsとするとピーク値Vpは√2Vrmsとなる。また、同じ実効値Vrmsであればピーク値Vpが√3Vrmsの波形V02、ピーク値Vpが2Vrmsの波形V03は、同図のようにひずんだ状態と推定される。
【0058】
なお、図9(B)に一点鎖線で示す三角波V04の波高率は√3、矩形波V05の波高率は1である。
【0059】
次に、ピーク値Vpが√3Vrmsのひずみ波形V02について考えると、図9(B)に示すように、正弦波V01とひずみ波形V02の実効値が同じであれは、両波形には瞬時値の値が大きさで逆転するタイミングポイントT1、T2(ただしT1<T2)が存在する。この逆転のタイミングポイントを分岐点という。
【0060】
ここで、正弦波V01を角度で表すと、半周期は0〜πで表される。正弦波V01のピーク値Vpの位置がπ/2のときとすると、前記正弦波V01とひずみ波形V02の分岐点T1、T2はピーク値Vpの位置から等間隔で存在するが、分岐点T1・T2間の幅をπ/(波高率)2と想定する。したがって、図10に示すように、ピーク値が√3Vrmsのひずみ波形V02の分岐点T1・T2間の幅はπ/3、ピーク値が2Vrmsのひずみ波形V03の分岐点T1・T2間の幅はπ/4となる。
【0061】
このように、波高率つまりピーク電圧検出回路107と実効電圧検出回路108のそれぞれで検出された入力電圧V0のピーク値Vpと実効値Vrmsとから、分岐点T1・T2の幅を算出する。
【0062】
そして、このような分岐点の考え方を取り入れて、図11(A)のように、分岐点T1・T2間即ちT1<t<T2では、前述した実施形態における
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+γ’
の式にて、パルス幅と必要電力値の関係式における定数A、B及びCを算出する。
【0063】
一方、T1>t、t>T2では、
A=(α×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+γ’
の式にて、パルス幅と必要電力値の関係式における定数A及びBを算出する。
【0064】
従って、入力電圧V0のピーク値Vpが大きく、波高率が正弦波の波高率である√2より大きい場合、T1<t<T2においては定数A、B、Cの値が小さくなり、図11(A)の駆動信号のイメージに示すように、正弦波の場合に較べてパルス幅が短くデューティ比は小さくなる。一方、T1>t、t>T2においては定数A、B、Cの値が大きくなり、正弦波の場合に較べてパルス幅が長くデューティ比は大きくなる。
【0065】
このように、分岐点T1、T2を境にデューティ比(パルス幅)を変更することにより、図11(B)の電力のイメージ図に示すように、入力電圧V0による供給電力を正弦波の場合の供給電力とほぼ同等にすることができ、精度の高い電力制御を行うことができる。
【0066】
だだ、上記の場合、分岐点T1、T2の前後で急にデューティ比が変更されることから、これを防止するため次のような制御を行うのが良い。
【0067】
即ち、図12(A)に示すよううに、分岐点T1及びT2をそれぞれ含むT1及びT2の前後の一定の期間II、IIと、T1<t<T2における前記期間IIを除く期間IIIと、T1>t、t>T2における前記期間IIを除く期間Iとに分ける。そして、期間I→期間II→期間III→期間II→期間Iと経過する過程において、期間Iでは、
A=(α×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+γ’
の式にて、パルス幅と必要電力値の関係式における定数A及びBを算出する。期間IIでは、
A=(α×入力電圧の実効値)+α’
B=(β×入力電圧の実効値)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値)+γ’
の式により、正弦波の場合と同じパルス幅とする。また、期間IIIでは、
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+γ’
の式により、パルス幅を算出する。
【0068】
これにより、図12(A)の駆動信号のイメージに示すように、期間I→期間II→期間III→期間II→期間Iと経過する過程で、デューティ比を円滑に変化させることができるとともに、図12(B)の電力イメージ図に示すように、入力電圧V0による供給電力を正弦波の場合の供給電力と同等にすることができ、さらに精度の高い電力制御を行うことができる。
【0069】
なお、CPU等によりパルス幅をステップで決定する場合、分岐点T1、T2までのパルス数とパルス幅を計算して変動するステップを決めると、スムーズなパルス幅とすることができる。
【0070】
また、波高率が√2以下の入力電圧V0の場合であっても、パルス幅の長さが逆になるだけであり、前記式に基づいてパルス幅を決定すればよい。
【0071】
図13は、電力制御部109によるスイッチング素子105の駆動信号を決定するための動作を示すフローチャートである。
【0072】
ステップS01では、定着装置30側の必要電力値を画像形成装置1の本体制御部20の制御回路21から受信し、ステップS02で、実効電圧検出回路108により入力電圧V0の実効値Vrmsを検出し、ステップS03で、ピーク電圧検出回路107により入力電圧V0のピーク値Vpを検出する。
【0073】
次に、ステップS04で波高率を算出した後、ステップS05で分岐点T1,T2を算出し、さらにステップS06で、期間I、期間II、期間IIIのそれぞれのパルス幅(デューティ比)を算出し、ステップS07でスイッチング素子105に対する駆動信号(制御PWM信号)を決定する。
【0074】
以上の実施形態では、誘導加熱装置10に実効電圧検出回路108を設けた場合を示したが、実効電圧検出回路108は画像形成装置1の直流電源装置に一般に備えられている場合が多い。
【0075】
そこで、この直流電源装置に備えられている実効電圧検出回路を誘導加熱装置10の一部として兼用しても良い。
【0076】
この場合の画像形成装置1の要部の構成を図14のブロック図に示す。この画像形成装置1は商用電源101からの交流電圧を整流して画像形成装置1内の直流負荷23に直流電力を供給するための直流電源装置22を備え、この直流電源装置22には、整流後の入力電圧V0の実効値Vrmsを検出するための実効電圧検出回路108が備えられている。
【0077】
この実効電圧検出回路108で検出された実効値Vrmsは本体制御部20の制御回路21へ入力され、制御回路21から定着装置30への必要電力値の情報と共に、誘導加熱装置10の電力制御部109へ送信される。誘導加熱装置10は、該加熱装置10内にあるピーク電圧検出回路107で検出された入力電圧V0のピーク値Vpと、前記本体制御部20の制御回路21から送信されてきた実効値Vrmsとから波高率を算出し、さらにはパルス幅(デューティ比)を算出する。
【0078】
なお、画像形成装置1の直流電源装置22に備えられている実効電圧検出回路108により実効値Vrmsを検出する場合、図15(A)に示すように装置内の直流負荷23が定格付近にあるときの整流電圧の実効値を用いることが望ましい。負荷率によっては同図(B)に示すように整流電圧がずれて精度の高い実効値Vrmsを検出できないおそれがあるからである。
【符号の説明】
【0079】
1 画像形成装置
10 誘導加熱装置
20 本体制御部
21 制御回路
22 直流電源装置
30 定着装置
101 商用電源
102 全波整流回路
103 コイル
104 コンデンサ
105 スイッチング素子
107 ピーク電圧検出回路
108 実効電圧検出回路
【技術分野】
【0001】
この発明は、画像形成装置に備えられている定着装置の発熱体を加熱するのに用いられる誘導加熱装置、及び該誘導加熱装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コピー機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置、さらにはこれらの装置の機能を集約したMFP(Multi Function Peripherals)と称される多機能デジタル画像形成装置等には、定着装置の発熱体を加熱する加熱源として誘導加熱装置を備えたものがある。
【0003】
このような誘導加熱装置として、誘導加熱用のコイルへ例えば商用の交流電圧を全波整流し直流に変換して印加するとともに、誘導加熱用のコイルと直列に接続された例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)等からなるスイッチング素子のオン・オフを制御することにより、定着装置の発熱体へ供給する電力を制御する方式のものが従来より用いられている。
【0004】
この場合、前記定着装置の発熱体への供給電力量はスイッチング素子のオン・オフのデューティ比により変化するが、従来では、前記入力電圧のピーク値と、発熱体を所定温度に発熱させるのに必要な電力値とから、前記デューティ比が決定されていた(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−098860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、誘導加熱装置の動作中において、商用の入力交流(50/60Hz)に電圧変動が生じることがあるが、変動した入力電圧のピーク値が大きいと、誘導加熱用のコイルをスイッチングする前記スイッチング素子に過大な電圧が印加され、スイッチング素子が破壊されることがある。
【0007】
また、入力電圧波形のひずみも供給電力に大きな影響を及ぼす。入力電圧波形のひずみは、発電機の劣化等により発生する現象で第3地域に多く見られる。波形ひずみが発生すると実際の実効電圧Vrmsと入力電圧におけるピーク電圧Vpとの関係が、通常の正弦波のようにVrms=Vp/√2という関係から逸脱してしまう。
【0008】
しかるに、入力電圧のピーク値を基にスイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する従来の誘導加熱装置では、波形ひずみが生じた入力電圧に対しては精度の良い電力制御を行うことができないという欠点があった。
【0009】
この発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであって、誘導加熱用のコイルに印加される入力電圧に波形ひずみが生じていても、精度の高い電力制御を行うことができる誘導加熱装置、及び該誘導加熱装置を備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段によって解決される。
(1)定着装置の発熱体を加熱するための誘導加熱用のコイルであって、正弦波状の交流電圧の整流後の入力電圧が印加されるコイルと、前記コイルに直列に接続されたスイッチング素子と、前記入力電圧のピーク値を検出するピーク電圧検出手段と、前記入力電圧の実効値を検出する実効電圧検出手段と、前記ピーク電圧検出手段により検出された入力電圧のピーク値と、前記実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値とから、前記入力電圧の波高率を算出する波高率算出手段と、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を制御することにより、前記定着装置側への供給電力を制御する電力制御手段と、を備え、前記電力制御手段は、前記定着装置側への必要電力値と、前記実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値と、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と、前記波高率算出手段により算出された入力電圧の実際の波高率とに基づいて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定することを特徴とする誘導加熱装置。
(2)前記電力制御手段は、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する前項1に記載の誘導加熱装置。
(3)前記電力制御手段は、前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも大きい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比を小さくし、入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも小さい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比を大きくする前項2に記載の誘導加熱装置。
(4)前記電力制御手段は、入力電圧波形のうち、正弦波状の交流電圧の整流後の少なくとも半波分については、前記決定されたデューティ比に固定して前記スイッチング素子を制御する前項1〜3のいずれかに記載の誘導加熱装置。
(5)前記電力制御手段は、入力電圧波形のうち、正弦波状の交流電圧の整流後の半波分において、前記入力電圧の波形と入力電圧が正弦波形である場合の波形とが交差する2つのタイミングをT1及びT2(ただしT1<T2)としたときに、T1<t<T2である時刻tにおいては、前記決定されたデューティ比で前記スイッチング素子を制御し、t<T1及びT2<tである時刻tにおいては、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と入力電圧の実際の波高率との逆比を用いて決定されたデューティ比で前記スイッチング素子を制御する前項2または3に記載の誘導加熱装置。
(6)t=T1、t=T2である時刻tを含むtの前後の時間領域においては、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合のデューティ比で前記スイッチング素子を制御する前項5に記載の誘導加熱装置。
(7)入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する場合、デューティ比におけるパルス幅は、以下の式によって算出される前項2〜6のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【0011】
パルス幅=A×必要電力値+B
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
ただし、α、α’、β及びβ’は定数。
(8)入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する場合、デューティ比におけるパルス幅は、以下の式によって算出される前項2〜6のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【0012】
パルス幅=A×必要電力値の2乗+B×必要電力値+C
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+γ’
ただし、α、α’、β、β’、γ及びγ’は定数。
(9)発熱体を有する定着装置と、前記発熱体を加熱するための前項1〜8のいずれかに記載の誘導加熱装置とを備えたことを特徴とする画像形成装置。
(10)交流電圧を整流して画像形成装置本体の各部へ供給する直流電源装置を備え、前記誘導加熱装置の実効電圧検出手段は前記直流電源装置に備えられている前項9に記載の画像形成装置。
【発明の効果】
【0013】
前項(1)に記載の発明によれば、定着装置側の必要電力値と、実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値と、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と、波高率算出手段により算出された入力電圧の実際の波高率とに基づいて、スイッチング素子のオン・オフのデューティ比が決定されるから、正弦波形に対する入力電圧のひずみの要素をデューティ比の決定プロセスに入れることとができ、誘導加熱用のコイルに印加される入力電圧に波形ひずみが生じていても、精度の高い電力制御を行うことができる。
【0014】
前項(2)に記載の発明によれば、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、スイッチング素子のオン・オフのデューティ比が決定されるから、より精度の良い電力制御を行うことができる。
【0015】
前項(3)に記載の発明によれば、入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも大きい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比は小さくされ、入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも小さい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比は大きくされるから、入力電圧のひずみ波形に対応した精度の良い電力制御を確実に実行することができる。
【0016】
前項(4)に記載の発明によれば、入力電圧波形のうち、正弦波状の交流電圧の整流後の少なくとも半波分については、決定されたデューティ比に固定してスイッチング素子が制御されるから、制御が比較的容易となる。
【0017】
前項(5)に記載の発明によれば、正弦波状の交流電圧の整流後の半波分において、時間によってデューティ比を変化させてスイッチング素子を制御するから、入力電圧のひずみに応じた的確な電力制御を行うことができる。
【0018】
前項(6)に記載の発明によれば、正弦波状の交流電圧の整流後の半波分において、時間によってデューティ比を変化させる場合に、よりスムーズにデューティ比を変化させることができ、ひいてはよりスムーズに供給電力値を変化させることができる。
【0019】
前項(7)に記載の発明によれば、スイッチング素子のオン・オフのデューティ比におけるパルス幅を、的確に求めることができる。
【0020】
前項(8)に記載の発明によれば、スイッチング素子のオン・オフのデューティ比におけるパルス幅を、的確に求めることができる。
【0021】
前項(9)に記載の発明によれば、定着装置側へ安定的な電力を供給して発熱体の温度を所期する温度に精度良く維持することができ、定着装置の安定した定着性能を発揮させることができる画像形成装置となしうる。
【0022】
前項(10)に記載の発明によれば、誘導加熱装置の実効電圧検出手段として、交流電圧を整流して画像形成装置本体の各部へ供給する直流電源装置に備えられているものを用いることにより、誘導加熱装置の構成を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(A)はピーク電圧検出回路の一例を示す回路図、(B)は入力電圧の波形図である。
【図3】実効電圧検出回路の一例を示す回路図である。
【図4】実効電圧検出回路により検出された実効電圧の波形図である。
【図5】定着装置への電力とスイッチング素子の駆動信号のパルス幅との関係を示す図である。
【図6】整流後の入力電圧が正弦波形である場合のスイッチング素子の駆動による電圧と電流の状態を説明するための図である。
【図7】整流後の入力電圧がひずんでいる場合のスイッチング素子の駆動による電圧と電流の状態を説明するための図である。
【図8】定着装置への電力制御の一例を説明するための図である。
【図9】整流後の入力電圧のひずみ状態を推定する方法を説明するための波形図である。
【図10】整流後の入力電圧が正弦波形及びひずみ波形の場合の分岐点の間隔を示す図である。
【図11】定着装置への電力制御の他の例を説明するための図である。
【図12】定着装置への電力制御のさらに他の例を説明するための図である。
【図13】電力制御部によるスイッチング素子の駆動信号を決定するための動作を示すフローチャートである。
【図14】実効電圧検出回路が直流電源装置に備えられている画像形成装置のブロック図である。
【図15】画像形成装置の直流電源装置の実効電圧検出回路を利用する場合に、装置内の直流負荷によって実効電圧が変化することを説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1は、この発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【0026】
画像形成装置1は、誘導加熱装置10と、本体制御部20と、定着装置30とを備えている。
【0027】
前記誘導加熱装置10は、全波整流回路102と、誘導加熱用のコイル(インダクタ)103と、コンデンサ104と、スイッチング素子105と、IGBT駆動回路106と、ピーク電圧検出回路107と、実効電圧検出回路108と、電力制御部109を備えている。
【0028】
全波整流回路102は、50/60Hzの100Vの交流電源である商用電源101の100Vの交流電圧を全波整流して直流に変換するものである。
【0029】
コイル103は、前記全波整流回路102の出力を入力電圧として受領し、磁気的に結合された定着装置30の発熱体(図示せず)を誘導加熱する。
【0030】
コンデンサ104はコイル103と並列に接続され、コイル103とで共振回路112を形成する。
【0031】
スイッチング素子105はコイル103と直列に接続され、商用電源101から全波整流回路102、共振回路112、スイッチング素子105及び全波整流回路102を巡って商用電源101へと至る閉ループを形成している。スイッチング素子105の種類は限定されないが、この実施形態では、前述した絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。
【0032】
IGBT駆動回路106は、電力制御部109からの指示に基づいてスイッチング素子105をオン・オフすることにより、スイッチング素子105を高周波スイッチング駆動するものである。
【0033】
ピーク電圧検出回路107は、全波整流回路102からコイル103へ入力される入力電圧V0のピーク値Vpを検出するものである。このピーク電圧検出回路107は、例えば図2(A)に示すように、入力電圧V0によって充電されるコンデンサ107aを備えており、このコンデンサ107aは入力電圧V0によって、図2(B)に示すように、最大で入力電圧のピーク値(ピーク電圧ともいう)Vpまで充電されることから、充電電圧の最大値を検出することによりピーク電圧Vpを検出するものとなされている。なお、ピーク電圧Vpは大きな値であることから、実際にはピーク電圧検出回路107はピーク電圧Vpを変圧または分圧する回路を備えており、扱う電圧値を小さくしている。
【0034】
実効電圧検出回路108は、前記入力電圧V0の実効値(実効電圧ともいう)Vrmsを検出するものである。この実効電圧検出回路108は、例えば図3に示すように、整流回路102に直列に接続されたチョークコイル108aと、チョークコイル108aの出力を充電するコンデンサ108bを備えたチョークインプット型の整流器からなる、このような実効電圧検出回路108では、入力電圧V0が図4(A)に一点鎖線で示すような正弦波の場合であっても、図4(B)に破線で示すようなひずみ波であっても、コンデンサ108bの出力により実効値Vrmsを検出できる。ただし、コンデンサ108bの出力にはリップルがあるため、検出電圧として使用するためにはCPUのADポートを使用する場合等では、平均化処理を行うのが良い。
【0035】
電力制御部109は、IGBT駆動回路106を介してスイッチング素子105のオン・オフを制御することにより、定着装置30の発熱体への供給電力を制御するものであり、図示しないCPU、ROM、RAM等により構成されている。
【0036】
ところで、入力電圧V0がひずみ波である場合、ピーク電圧検出回路107により検出したピーク値Vpを用い、Vrms1=Vp/√2で求めた実効値Vrms1と、実際の実効値Vrms2とは大きな差があり、Vrms1=Vp/√2で求めた実効値Vrms1を基にスイッチング素子105の駆動信号のデューティ比を決定すると、精度の良い電力制御を行うことができない。
【0037】
そこで、この実施形態では、電力制御部109には機能的に、波高率算出部109aとデューティ決定部109bが設けられている。
【0038】
波高率算出部109aは、ピーク電圧検出回路107により検出された入力電圧V0のピーク値Vpと、実効電圧検出回路108により検出された入力電圧V0の実効値Vrmsとから、
波高率=Vp/Vrms
の式により波高率を算出するものである。
【0039】
デューティ決定部109bは、波高率算出部109aにより算出された波高率と、入力電圧V0の実効値Vrmsと、画像形成装置1の本体側から通知された定着装置30の発熱体に供給すべき必要電力値とに基づいて、スイッチング素子105をオン・オフ制御する際の駆動信号のパルス幅を決定し、ひいてはデューティ比を決定するものである。この点については後述する。そして、電力制御部109は、前記決定されたデューティ比でIGBT駆動回路106を介してスイッチング素子105を駆動する。
【0040】
本体制御部20の制御回路21は、図示しないCPU、ROM、RAM等を備え、電力制御部109に対して電力供給の開始指示や定着装置30の必要電力値の指示を行う。
【0041】
次に、この実施形態におけるスイッチング素子105に対する駆動信号のパルス幅(デューティ比)の決定方法について説明する。
【0042】
図5は、定着装置30側の必要電力値と駆動信号のパルス幅との関係を実測値に基づいて示したグラフであり、横軸に必要電力値、縦軸にパルス幅をそれぞれとったものである。なお、コイル103への入力電圧V0の大きさ(実効値)によって、必要電力値とパルス幅の関係が異なることから、複数本の特性が描かれている。
【0043】
同図から明らかなように、必要電力値の大小は駆動信号のパルス幅の長短にほぼ比例している。また、入力電圧V0の実効値が大きいほど、同じパルス幅であっても供給できる電力値は大きくなる。
【0044】
図5のグラフに示された特性を直線とみなすと、
パルス幅=A×必要電力値+B (ただしA、Bは定数)
の式で表すことができる。なお、特性によっては二次式で近似して
パルス幅=A×(必要電力値)2+B×必要電力値+C (ただしA、B、Cは定数)
で表しても良い。
【0045】
また、上記特性は入力電圧V0の実効値によって変化するから、
A=α×入力電圧の実効値+α’ (ただしα、α’は定数)
B=β×入力電圧の実効値+β’ (ただしβ、β’は定数)
C=γ×入力電圧の実効値+γ’ (ただしγ、γ’は定数)
の式で表すことができる。
【0046】
しかし、従来では上記の入力電圧V0の実効値として、入力電圧のピーク値Vp/√2の式により求めた値が用いられていた。このため、前述したように、入力電圧V0がひずみ波形であるような場合は実際の実効値とは大きな差があり、精度の良い電力制御を行うことができなかった。
【0047】
しかも、入力電圧V0がひずんでピーク値Vpが大きくなると、以下に示す理由によりスイッチング素子105が破壊される恐れがあった。
【0048】
即ち、図6(A)に示すように入力電圧V0が正弦波形である場合、同図(B)に入力電圧V0のピーク時における駆動信号の1パルスを拡大して示し、同図(C)に入力電圧V0のピーク時におけるコイル103へ流れる電流IL及びコンデンサ104の充電電圧Vc(スイッチング素子105の端子電圧)を示すように、駆動信号のパルスの立ち下がりの時点から、コンデンサ104にはコイル103からの充電が開始され、スイッチング素子105の端子電圧は徐々に上昇する。
【0049】
入力電圧V0のピーク値をVpとすると、電流ILの最大値ILmax、電圧Vcの最大値Vcmaxはそれぞれ
ILmax=Vp/(R+ωL)
Vcmax=√(L/C)×[Vp/(R+ωL)]2
となる。ただし、Rはコイル103の抵抗成分、Lはコイル103のインダクタンスである。
【0050】
つまり、スイッチング素子105の端子電圧Vcの最大値Vcmaxは入力電圧V0のピーク値Vpの二乗に比例する。
【0051】
従って、図7(A)のように、入力電圧がひずんでピーク値Vpが大きくなると、同図(C)のように電圧Vcの最大値Vcmaxも大きくなり、これがスイッチング素子105の破壊の原因となっていた。
【0052】
そこで、この実施形態では、前述したパルス幅と必要電力値の関係式における定数A、B及びCを、
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+γ’
の式で算出する。
【0053】
つまり、実効値検出回路108により検出された入力電圧V0の実効値の他に、入力電圧V0が正弦波形である場合の波高率√2と前記波高率算出部109aで算出された入力電圧の実際の波高率との比である(√2/入力電圧の波高率)を用いて、定数A、B及びCを算出する。従って、入力電圧V0のピーク値Vpが大きく、波高率が正弦波の波高率である√2より大きい場合は、定数A、B、Cの値が小さくなり、正弦波の場合に較べてパルス幅が短くデューティ比は小さくなる。パルス幅が短くなることで、コイル103に流れる電流ILの最大値ILmaxが小さくなり、スイッチング素子105の端子電圧Vcの最大値Vcmaxも小さくなり、スイッチング素子105の破壊の危険性が低減される。逆に、入力電圧V0のピーク値Vpが小さく、波高率が正弦波の波高率である√2より小さい場合は、正弦波の場合に較べてパルス幅が長くデューティ比は大きくなり、供給電力値を従来よりも増大できる。
【0054】
なお、スイッチング素子105の駆動信号の周期は、20〜100kHz程度の範囲で一定値に適宜設定すればよい。また、一旦決定されたパルス幅(デューティ比)は、図8(A)に示すように、正弦波状の交流電圧の整流後の少なくとも半波分、換言すれば整流後の入力電圧V0の一山分については、決定されたパルス幅(デューティ比)に固定して前記スイッチング素子105を制御するのが、制御の容易性、確実性の観点から望ましい。
【0055】
なお、上記制御では、図8(B)のイメージ図に示すように、入力電圧が正弦波のときの供給電力よりも入力電圧にひずみか発生しているときの供給電力がやや少ない状態となる。しかし、パルス幅の決定に入力電圧V0の実際の実効値を用い、さらに入力電圧V0が正弦波形である場合の波高率と実際の波高率の比を用いてパルス幅が決定されるから、ピーク値Vpの変動に起因するスイッチング素子105の破壊の危険性を低減しながら、精度の高い電力制御を行うことができる。
【0056】
次に、この発明の他の実施形態を説明する。この実施形態では、入力電圧V0のひずみ状態に応じて、入力電圧V0の波形の一山分の中でパルス幅を変化させて、スイッチング素子105の制御を行うものである。
【0057】
まず、図9(A)に示すような、例えば発電機の劣化等による入力電圧V0の波形ひずみについて考察する。入力電圧V0が正弦波V01である場合、実効値をVrmsとするとピーク値Vpは√2Vrmsとなる。また、同じ実効値Vrmsであればピーク値Vpが√3Vrmsの波形V02、ピーク値Vpが2Vrmsの波形V03は、同図のようにひずんだ状態と推定される。
【0058】
なお、図9(B)に一点鎖線で示す三角波V04の波高率は√3、矩形波V05の波高率は1である。
【0059】
次に、ピーク値Vpが√3Vrmsのひずみ波形V02について考えると、図9(B)に示すように、正弦波V01とひずみ波形V02の実効値が同じであれは、両波形には瞬時値の値が大きさで逆転するタイミングポイントT1、T2(ただしT1<T2)が存在する。この逆転のタイミングポイントを分岐点という。
【0060】
ここで、正弦波V01を角度で表すと、半周期は0〜πで表される。正弦波V01のピーク値Vpの位置がπ/2のときとすると、前記正弦波V01とひずみ波形V02の分岐点T1、T2はピーク値Vpの位置から等間隔で存在するが、分岐点T1・T2間の幅をπ/(波高率)2と想定する。したがって、図10に示すように、ピーク値が√3Vrmsのひずみ波形V02の分岐点T1・T2間の幅はπ/3、ピーク値が2Vrmsのひずみ波形V03の分岐点T1・T2間の幅はπ/4となる。
【0061】
このように、波高率つまりピーク電圧検出回路107と実効電圧検出回路108のそれぞれで検出された入力電圧V0のピーク値Vpと実効値Vrmsとから、分岐点T1・T2の幅を算出する。
【0062】
そして、このような分岐点の考え方を取り入れて、図11(A)のように、分岐点T1・T2間即ちT1<t<T2では、前述した実施形態における
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+γ’
の式にて、パルス幅と必要電力値の関係式における定数A、B及びCを算出する。
【0063】
一方、T1>t、t>T2では、
A=(α×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+γ’
の式にて、パルス幅と必要電力値の関係式における定数A及びBを算出する。
【0064】
従って、入力電圧V0のピーク値Vpが大きく、波高率が正弦波の波高率である√2より大きい場合、T1<t<T2においては定数A、B、Cの値が小さくなり、図11(A)の駆動信号のイメージに示すように、正弦波の場合に較べてパルス幅が短くデューティ比は小さくなる。一方、T1>t、t>T2においては定数A、B、Cの値が大きくなり、正弦波の場合に較べてパルス幅が長くデューティ比は大きくなる。
【0065】
このように、分岐点T1、T2を境にデューティ比(パルス幅)を変更することにより、図11(B)の電力のイメージ図に示すように、入力電圧V0による供給電力を正弦波の場合の供給電力とほぼ同等にすることができ、精度の高い電力制御を行うことができる。
【0066】
だだ、上記の場合、分岐点T1、T2の前後で急にデューティ比が変更されることから、これを防止するため次のような制御を行うのが良い。
【0067】
即ち、図12(A)に示すよううに、分岐点T1及びT2をそれぞれ含むT1及びT2の前後の一定の期間II、IIと、T1<t<T2における前記期間IIを除く期間IIIと、T1>t、t>T2における前記期間IIを除く期間Iとに分ける。そして、期間I→期間II→期間III→期間II→期間Iと経過する過程において、期間Iでは、
A=(α×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×入力電圧の波高率/√2)+γ’
の式にて、パルス幅と必要電力値の関係式における定数A及びBを算出する。期間IIでは、
A=(α×入力電圧の実効値)+α’
B=(β×入力電圧の実効値)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値)+γ’
の式により、正弦波の場合と同じパルス幅とする。また、期間IIIでは、
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+γ’
の式により、パルス幅を算出する。
【0068】
これにより、図12(A)の駆動信号のイメージに示すように、期間I→期間II→期間III→期間II→期間Iと経過する過程で、デューティ比を円滑に変化させることができるとともに、図12(B)の電力イメージ図に示すように、入力電圧V0による供給電力を正弦波の場合の供給電力と同等にすることができ、さらに精度の高い電力制御を行うことができる。
【0069】
なお、CPU等によりパルス幅をステップで決定する場合、分岐点T1、T2までのパルス数とパルス幅を計算して変動するステップを決めると、スムーズなパルス幅とすることができる。
【0070】
また、波高率が√2以下の入力電圧V0の場合であっても、パルス幅の長さが逆になるだけであり、前記式に基づいてパルス幅を決定すればよい。
【0071】
図13は、電力制御部109によるスイッチング素子105の駆動信号を決定するための動作を示すフローチャートである。
【0072】
ステップS01では、定着装置30側の必要電力値を画像形成装置1の本体制御部20の制御回路21から受信し、ステップS02で、実効電圧検出回路108により入力電圧V0の実効値Vrmsを検出し、ステップS03で、ピーク電圧検出回路107により入力電圧V0のピーク値Vpを検出する。
【0073】
次に、ステップS04で波高率を算出した後、ステップS05で分岐点T1,T2を算出し、さらにステップS06で、期間I、期間II、期間IIIのそれぞれのパルス幅(デューティ比)を算出し、ステップS07でスイッチング素子105に対する駆動信号(制御PWM信号)を決定する。
【0074】
以上の実施形態では、誘導加熱装置10に実効電圧検出回路108を設けた場合を示したが、実効電圧検出回路108は画像形成装置1の直流電源装置に一般に備えられている場合が多い。
【0075】
そこで、この直流電源装置に備えられている実効電圧検出回路を誘導加熱装置10の一部として兼用しても良い。
【0076】
この場合の画像形成装置1の要部の構成を図14のブロック図に示す。この画像形成装置1は商用電源101からの交流電圧を整流して画像形成装置1内の直流負荷23に直流電力を供給するための直流電源装置22を備え、この直流電源装置22には、整流後の入力電圧V0の実効値Vrmsを検出するための実効電圧検出回路108が備えられている。
【0077】
この実効電圧検出回路108で検出された実効値Vrmsは本体制御部20の制御回路21へ入力され、制御回路21から定着装置30への必要電力値の情報と共に、誘導加熱装置10の電力制御部109へ送信される。誘導加熱装置10は、該加熱装置10内にあるピーク電圧検出回路107で検出された入力電圧V0のピーク値Vpと、前記本体制御部20の制御回路21から送信されてきた実効値Vrmsとから波高率を算出し、さらにはパルス幅(デューティ比)を算出する。
【0078】
なお、画像形成装置1の直流電源装置22に備えられている実効電圧検出回路108により実効値Vrmsを検出する場合、図15(A)に示すように装置内の直流負荷23が定格付近にあるときの整流電圧の実効値を用いることが望ましい。負荷率によっては同図(B)に示すように整流電圧がずれて精度の高い実効値Vrmsを検出できないおそれがあるからである。
【符号の説明】
【0079】
1 画像形成装置
10 誘導加熱装置
20 本体制御部
21 制御回路
22 直流電源装置
30 定着装置
101 商用電源
102 全波整流回路
103 コイル
104 コンデンサ
105 スイッチング素子
107 ピーク電圧検出回路
108 実効電圧検出回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着装置の発熱体を加熱するための誘導加熱用のコイルであって、正弦波状の交流電圧の整流後の入力電圧が印加されるコイルと、
前記コイルに直列に接続されたスイッチング素子と、
前記入力電圧のピーク値を検出するピーク電圧検出手段と、
前記入力電圧の実効値を検出する実効電圧検出手段と、
前記ピーク電圧検出手段により検出された入力電圧のピーク値と、前記実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値とから、前記入力電圧の波高率を算出する波高率算出手段と、
前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を制御することにより、前記定着装置側への供給電力を制御する電力制御手段と、
を備え、
前記電力制御手段は、前記定着装置側への必要電力値と、前記実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値と、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と、前記波高率算出手段により算出された入力電圧の実際の波高率とに基づいて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定することを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記電力制御手段は、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記電力制御手段は、前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも大きい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比を小さくし、入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも小さい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比を大きくする請求項2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記電力制御手段は、入力電圧波形のうち、正弦波状の交流電圧の整流後の少なくとも半波分については、前記決定されたデューティ比に固定して前記スイッチング素子を制御する請求項1〜3のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記電力制御手段は、入力電圧波形のうち、正弦波状の交流電圧の整流後の半波分において、前記入力電圧の波形と入力電圧が正弦波形である場合の波形とが交差する2つのタイミングをT1及びT2(ただしT1<T2)としたときに、T1<t<T2である時刻tにおいては、前記決定されたデューティ比で前記スイッチング素子を制御し、t<T1及びT2<tである時刻tにおいては、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と入力電圧の実際の波高率との逆比を用いて決定されたデューティ比で前記スイッチング素子を制御する請求項2または3に記載の誘導加熱装置。
【請求項6】
t=T1、t=T2である時刻tを含むtの前後の時間領域においては、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合のデューティ比で前記スイッチング素子を制御する請求項5に記載の誘導加熱装置。
【請求項7】
入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する場合、デューティ比におけるパルス幅は、以下の式によって算出される請求項2〜6のいずれかに記載の誘導加熱装置。
パルス幅=A×必要電力値+B
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
ただし、α、α’、β及びβ’は定数。
【請求項8】
入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する場合、デューティ比におけるパルス幅は、以下の式によって算出される請求項2〜6のいずれかに記載の誘導加熱装置。
パルス幅=A×必要電力値の2乗+B×必要電力値+C
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+γ’
ただし、α、α’、β、β’、γ及びγ’は定数。
【請求項9】
発熱体を有する定着装置と、前記発熱体を加熱するための請求項1〜8のいずれかに記載の誘導加熱装置とを備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
交流電圧を整流して画像形成装置本体の各部へ供給する直流電源装置を備え、
前記誘導加熱装置の実効電圧検出手段は前記直流電源装置に備えられている請求項9に記載の画像形成装置。
【請求項1】
定着装置の発熱体を加熱するための誘導加熱用のコイルであって、正弦波状の交流電圧の整流後の入力電圧が印加されるコイルと、
前記コイルに直列に接続されたスイッチング素子と、
前記入力電圧のピーク値を検出するピーク電圧検出手段と、
前記入力電圧の実効値を検出する実効電圧検出手段と、
前記ピーク電圧検出手段により検出された入力電圧のピーク値と、前記実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値とから、前記入力電圧の波高率を算出する波高率算出手段と、
前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を制御することにより、前記定着装置側への供給電力を制御する電力制御手段と、
を備え、
前記電力制御手段は、前記定着装置側への必要電力値と、前記実効電圧検出手段により検出された入力電圧の実効値と、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と、前記波高率算出手段により算出された入力電圧の実際の波高率とに基づいて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定することを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記電力制御手段は、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記電力制御手段は、前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも大きい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比を小さくし、入力電圧の実際の波高率が、入力電圧が正弦波形である場合の波高率よりも小さい場合は、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合に較べてデューティ比を大きくする請求項2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記電力制御手段は、入力電圧波形のうち、正弦波状の交流電圧の整流後の少なくとも半波分については、前記決定されたデューティ比に固定して前記スイッチング素子を制御する請求項1〜3のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記電力制御手段は、入力電圧波形のうち、正弦波状の交流電圧の整流後の半波分において、前記入力電圧の波形と入力電圧が正弦波形である場合の波形とが交差する2つのタイミングをT1及びT2(ただしT1<T2)としたときに、T1<t<T2である時刻tにおいては、前記決定されたデューティ比で前記スイッチング素子を制御し、t<T1及びT2<tである時刻tにおいては、入力電圧が正弦波形である場合の波高率と入力電圧の実際の波高率との逆比を用いて決定されたデューティ比で前記スイッチング素子を制御する請求項2または3に記載の誘導加熱装置。
【請求項6】
t=T1、t=T2である時刻tを含むtの前後の時間領域においては、入力電圧の実際の波高率と正弦波形である場合の波高率が同じである場合のデューティ比で前記スイッチング素子を制御する請求項5に記載の誘導加熱装置。
【請求項7】
入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する場合、デューティ比におけるパルス幅は、以下の式によって算出される請求項2〜6のいずれかに記載の誘導加熱装置。
パルス幅=A×必要電力値+B
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
ただし、α、α’、β及びβ’は定数。
【請求項8】
入力電圧が正弦波形である場合の波高率と前記波高率算出手段で算出された入力電圧の実際の波高率との比を用いて、前記スイッチング素子のオン・オフのデューティ比を決定する場合、デューティ比におけるパルス幅は、以下の式によって算出される請求項2〜6のいずれかに記載の誘導加熱装置。
パルス幅=A×必要電力値の2乗+B×必要電力値+C
A=(α×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+α’
B=(β×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+β’
C=(γ×入力電圧の実効値×√2/入力電圧の波高率)+γ’
ただし、α、α’、β、β’、γ及びγ’は定数。
【請求項9】
発熱体を有する定着装置と、前記発熱体を加熱するための請求項1〜8のいずれかに記載の誘導加熱装置とを備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
交流電圧を整流して画像形成装置本体の各部へ供給する直流電源装置を備え、
前記誘導加熱装置の実効電圧検出手段は前記直流電源装置に備えられている請求項9に記載の画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−230338(P2012−230338A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100239(P2011−100239)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】
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