説明

誘導加熱装置

【課題】被加熱材幅方向における温度制御を達成する誘導加熱装置。
【解決手段】製鋼ラインのための誘導加熱装置で、加熱コイル3及び加熱コイル3に近接する近接部6aと加熱コイル3から遠ざかる遠隔部6bとを有するシールド銅管6と、加熱コイルの上下面に配置された位置・個数可変のコの字型鉄心5とを有することで、加熱に寄与する被加熱材の鎖交磁束量を幅方向で調節することにより被加熱材幅方向の温度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄鋼用熱間圧延ラインのような製鋼ラインに設置され、搬送される被加熱材を連続的に加熱する誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱装置は、交流電源に接続された加熱コイルを被加熱材の周辺に配置し、鎖交磁束により誘起される渦電流のジュール熱で被加熱材を加熱する。この誘導加熱装置として銅管を巻回した加熱コイル内に被加熱材を通して加熱するソレノイド型誘導加熱装置が広く知られている。
【0003】
図6、図7において、従来のソレノイド型誘導加熱装置を示す。図6は例えば特許文献1などに示された従来のソレノイド型誘導加熱装置の構成を示す側断面図である。図7は図6における誘導加熱装置を示す正面図である。加熱コイル3は、被加熱材1の幅方向を周回するように楕円形状に銅管を巻回して形成される。耐熱部材4は、加熱コイル3の内側に配置され、被加熱材1の通路を形成する。コの字型鉄心5は、加熱コイル3の外側の磁路に沿って、被加熱材1の幅方向に複数個並設されている。
【0004】
一般に、粗圧延された板状の被加熱材1は、テーブルローラ2によって搬送され次工程に送られる間に放熱して温度が低下する。そこで、誘導加熱装置を配置し、誘導加熱装置は、被加熱材1を加熱コイル3の内側に形成される通路内を通過させ、被加熱材1を誘導加熱することにより、搬送中の温度低下を補償している。
【0005】
このように、従来のソレノイド型誘導加熱装置は、被加熱材1の搬送中の温度低下補償を目的としていた。しかしながら、磁束量は、加熱コイル3を形成する銅管近傍であるほど多いため、被加熱材1と加熱コイル3を形成する銅管との物理的な距離の遠近により、被加熱材幅方向で温度差が生じていた。
【0006】
特に、パイプやビレットなどの鉄鋼製品を、ソレノイド型誘導加熱装置を用いて複数本同時加熱する場合においては、被加熱材幅方向中央部に位置するものよりも幅方向端部に位置するものが、加熱コイル3とパイプやビレットとが物理的に近距離にあった。このため、幅方向端部の鎖交磁束が多くなり加熱されやすい。これによって、幅方向の中央部と端部が均一に加熱されなかった。
【0007】
加熱コイルを被加熱材周囲に巻回する形式の誘導加熱装置は多分野に亘り利用されており、上記のように複数の長尺形状の被加熱材を取り扱う際の幅方向均熱化を図った誘導加熱装置が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0008】
特許文献2では、光学レンズ等の製造工程において、母型の周囲を巻回する加熱コイルを有するモールドプレス成型装置を用いている。均熱性確保のために、従来発熱量の小さい位置(幅方向中央部)では加熱コイルを被加熱材に接近させ、従来発熱量の大きい位置(幅方向端部)では加熱コイルを被加熱材から遠ざける形状としている。
【0009】
また、特許文献2は、被加熱材の発熱量に応じて加熱コイルの接近量を調整可能とし、これにより、被加熱材の温度制御をきめ細かく行えることを特長としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−134949号公報
【特許文献2】特開2004―269339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2の目的は、あくまでも複数の長尺形状の被加熱材の均熱達成であり、幅方向の温度分布を制御すること、例えば端部や中央部などの特定部位の温度を上げるような特長までは持ち合わせていない。
【0012】
また、従来のソレノイド型誘導加熱装置では、被加熱材幅方向中央部に位置する部分よりも幅方向端部に位置する部分が、加熱コイルを形成する銅管と近くなり、幅方向端部の鎖交磁束が多くなるため、被加熱材幅方向における端部と中央部で加熱温度に温度差が生じていた。
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、被加熱材の幅方向の均熱を図るとともに、幅方向中央部・端部の昇温、変熱を含めた幅方向温度制御を達成する誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明における誘導加熱装置は、以下のような手段を有している。
【0015】
請求項1記載の誘導加熱装置は、導電部材が巻回され且つ入口側から出口側に被加熱材が挿通される加熱コイルと、前記加熱コイルの入口側及び出口側に設置されたシールド銅管と、前記加熱コイルの上下面に設置されたコの字型鉄心とを備え、前記シールド銅管は、前記被加熱材の幅方向に対して、前記加熱コイルに近接する近接部と前記加熱コイルから遠ざかる遠隔部とが形成されてなることを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の前記コの字型鉄心は、前記加熱コイルの上下面で且つ前記被加熱材の温度を上昇させたい箇所に配置されることを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の前記シールド銅管は、前記被加熱材の幅方向端部に前記近接部が形成され、前記被加熱材の幅方向中央部に前記遠隔部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る誘導加熱装置によれば、シールド銅管が加熱コイルと近接する近接部は、シールド銅管に、加熱コイルに流れる電流とは逆向きの誘起電流が流れることにより被加熱材の鎖交磁束を弱める。加熱コイルから遠ざかる遠隔部は、シールド銅管に流れる逆向きの誘起電流が被加熱材の鎖交磁束量に影響を及ぼさない十分な距離を持たせることで、加熱に寄与する鎖交磁束量を幅方向で調節することにより被加熱材幅方向の温度を制御できる。
【0019】
本発明の請求項2に係る誘導加熱装置において、加熱コイル上下面にコの字型鉄心を配置することにより、その部分の磁束量を集中でき、その部分の被加熱材温度をより上昇させることができる。
【0020】
例えば、被加熱材幅方向中央部を、より昇温させたいとき、コの字型鉄心を加熱コイル上下面の中央部に配置することにより幅方向中央部の加熱に寄与する磁束量が増え、幅方向中央部の昇温が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明における第1の実施の形態に係る鉄鋼用ソレノイド型誘導加熱装置を示す斜視図である。
【図2】本発明における第1の実施の形態に係る鉄鋼用ソレノイド型誘導加熱装置の通電方向と磁束方向を説明するための上面図である。
【図3】本発明における第1の実施の形態に係る鉄鋼用ソレノイド型誘導加熱装置の幅方向中央部と幅方向端部の通電方向と磁束方向を説明するための側面図である。
【図4】本発明における第1の実施の形態に係る鉄鋼用ソレノイド型誘導加熱装置の幅方向中央部の通電方向と磁束方向を説明するための斜視図である。
【図5】本発明における第2の実施の形態に係る鉄鋼用ソレノイド型誘導加熱装置を示す斜視図である。
【図6】従来の鉄鋼用ソレノイド型誘導加熱装置を示す側断面図である。
【図7】従来の鉄鋼用ソレノイド型誘導加熱装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る第1の実施の形態のソレノイド型誘導加熱装置を図1〜図4に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明における第1の実施の形態に係る鉄鋼用ソレノイド型誘導加熱装置を示す斜視図である。図1において、加熱コイル3は、電流が流れる導電部材としての銅管が図3に示す被加熱材1を覆うように複数巻回され、コイル入口側からコイル出口側に被加熱材1が挿通されるようになっている。
【0024】
図1では、被加熱材1の幅方向端部と加熱コイル3の物理的距離の近さによる加熱特性を是正するために、被加熱材1の幅方向の鎖交磁束量を調整するためのコの字型鉄心5と、凸型シールド銅管6とが配置されている。
【0025】
コの字型鉄心5は、加熱コイル3の上下面で且つ被加熱材1の温度を上昇させたい箇所に配置されている。
【0026】
凸型シールド銅管6は、加熱コイル3の入口側及び出口側(開口部分)に配置され、被加熱材1の幅方向に対して、加熱コイル3に近接する近接部6aと加熱コイル3から遠ざかる遠隔部6bとが形成されてなる。図1に示す例では、シールド銅管6は、被加熱材1の幅方向端部に近接部6aが形成され、被加熱材1の幅方向中央部に遠隔部6bが形成されている。
【0027】
図2は、加熱コイル3の通電方向を一方向に仮定した場合の、加熱コイル3及び凸型シールド銅管6に流れる電流方向と磁束方向を示した上面図である。図3は、加熱コイル3の通電方向を一方向に仮定した場合の、加熱コイル3及び凸型シールド銅管6に流れる電流方向と磁束方向を示した側面図である。なお、図3では凸型シールド銅管6の幅方向端部の効果を明確化するため、幅方向中央部のコの字型鉄心5は図示していない。
【0028】
この例では、凸型シールド銅管6により加熱コイル3と近接する近接部6aが被加熱材1の幅方向端部に形成される。幅方向端部では、加熱コイル3に流れる電流Iaの変化により磁束Φ1が発生し、電流Iaにより凸型シールド銅管6に流れる逆向きの誘起電流Ibが誘起され、逆向きの誘起電流Ibにより磁束Φ2が発生する。このため、被加熱材1の鎖交磁束Φ1,Φ2が図2、図3の円枠部で相殺方向となることで弱まる。
【0029】
一方、加熱コイル3から遠ざかる遠隔部6bは、幅方向中央部に形成されることにより、凸型シールド銅管6に流れる逆向きの誘起電流Ibが被加熱材1の中央部の鎖交磁束量においては影響を及ぼさない。即ち、シールド銅管6に流れる逆向きの誘起電流Ibが被加熱材1の鎖交磁束量に影響を及ぼさない十分な距離を持たせることにより、幅方向中央部では、磁束が幅方向端部よりも効率的に被加熱材1に鎖交され、幅方向中央部の温度は上昇する。即ち、加熱に寄与する鎖交磁束量を被加熱材1の幅方向で調節することにより被加熱材1の幅方向の温度を制御できる。
【0030】
図4は幅方向中央部の通電方向と磁束方向を説明するための斜視図である。コの字型鉄心5を被加熱材1の幅方向中央部に配置したことにより、被加熱材1の幅方向中央部の磁束は幅方向端部より効率的に被加熱材1に鎖交され、幅方向中央部の温度は上昇する。
【0031】
このように、実施例1のソレノイド型誘導加熱装置によれば、加熱コイル3に近接する近接部6aと加熱コイル3から遠ざかる遠隔部6bを有するシールド銅管6と、コの字型鉄心5とを備えたので、被加熱材の幅方向の均熱を図るとともに、被加熱材1の幅方向の温度分布を柔軟に制御でき、例えば端部や中央部などの特定部位の温度を上げることもできる。
【0032】
(第2の実施の形態)
図5は、本発明における第2の実施の形態に係る鉄鋼用ソレノイド型誘導加熱装置を示す斜視図である。第2の実施の形態は、シールド銅管6Aは、被加熱材1の幅方向端部に遠隔部6dが形成され、被加熱材1の幅方向中央部に近接部6cが形成されている。また、コの字型鉄心5Aを加熱コイル3の両端部の上下面に配置している。
【0033】
このように、実施例2の誘導加熱装置によれば、幅方向中央部に形成された近接部6cを加熱コイル3と近接させ、幅方向端部に形成された遠隔部6dを加熱コイル3と遠ざかる形状となる、いわば凹型のシールド銅管6Aを加熱コイル3の入出口側双方に配置することにより、幅方向中央部の加熱を抑制することができる。
【0034】
また、コの字型鉄心5Aを加熱コイル3の両端分の上下面に配置することにより、幅方向端部の温度を上昇させることができる。
【0035】
なお、本発明は、シールド銅管6の被加熱材1の幅方向に対する凹凸形状の位置については幅方向中央部や幅方向端部の位置に限定されることなく、幅方向のその他の位置であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、鉄鋼用熱間圧延ラインで運用される誘導加熱装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 被加熱材
2 テーブルローラ
3 加熱コイル
4 耐熱部材
5 コの字型鉄心
6 凸型シールド銅管
6a,6c 近接部
6b,6d 遠隔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電部材が巻回され且つ入口側から出口側に被加熱材が挿通される加熱コイルと、
前記加熱コイルの入口側及び出口側に設置されたシールド銅管と、
前記加熱コイルの上下面に設置されたコの字型鉄心とを備え、
前記シールド銅管は、前記被加熱材の幅方向に対して、前記加熱コイルに近接する近接部と前記加熱コイルから遠ざかる遠隔部とが形成されてなることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記コの字型鉄心は、前記加熱コイルの上下面で且つ前記被加熱材の温度を上昇させたい箇所に配置されることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記シールド銅管は、前記被加熱材の幅方向端部に前記近接部が形成され、前記被加熱材の幅方向中央部に前記遠隔部が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記シールド銅管は、前記被加熱材の幅方向端部に前記遠隔部が形成され、前記被加熱材の幅方向中央部に前記近接部が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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