説明

誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)を阻害するクマリン化合物

【課題】より活性の強い新規クマリン化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で示される誘導型一酸化窒素合成酵素を阻害するクマリン化合物。


(ここでXは水素原子、置換基を有してよい炭化水素基又は置換基を有してよいアリール基であり、R及びRは、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Y及びZは、水素原子又は置換基を有してもよい炭化水素基である。R、R、Y及びZは、それぞれ同じであっても良いし異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クマリン化合物に関するものであり、さらに詳しくは、アレルギー性気道炎、肺炎、関節炎、血管炎、膵β細胞の自己破壊、臓器移植時の同種移植片急性拒絶反応など数々の炎症疾患を抑制することを可能とするiNOS阻害活性を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(NO)は、各種生体維持機構に関わる必須な内因性物質である一方、炎症等の原因物質にもなるというマイナス面を併せもつ。このマイナス面に働くNOの産生には誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)が関わっていると考えられており、iNOSを阻害する化合物を見出すことは、新規抗炎症薬の創製につながると考えられている。
【0003】
iNOS阻害活性を示す天然化合物としてはショウガ科ウコンから単離されたクルクミンや大豆のイソフラボンが有名であるが、クマリン化合物においてもその報告例が数例見られる(下記非特許文献公知文献 1乃至5参照)。
【0004】
【非特許文献1】J.Agric.Food Chem.、1999年、47巻、333〜339頁
【非特許文献2】Bioorg.Med.Chem.、2000年、8巻、2701〜2707頁
【非特許文献3】Chem.Pharm.Bull.、2004年、52巻、1215〜1218頁
【非特許文献4】J.Nat.Chem.、2004年、67巻、432〜436頁
【非特許文献5】Bioorg.Med.Chem.、2005年、13巻、2723〜2739頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記各文献に記載のiNOS阻害活性を示す物質は、その作用の強さに関し解決すべき問題点を残しており、さらに活性が強い新規クマリン化合物の出現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、熱帯産植物についてiNOS阻害活性を指標にしたスクリーング試験を行ったところ、ミカン科 Clausena植物に強い阻害活性を認め、その活性本体がクマリン化合物であることを解明し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の一形態に係る誘導型一酸化窒素合成酵素を阻害するクマリン化合物は、下記式(1)で示される。

【化1】

(ここでXは水素原子、置換基を有してよい炭化水素基又は置換基を有してよいアリール基であり、R及びRは、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Y及びZは、水素原子又は置換基を有してもよい炭化水素基である。R、R、Y及びZは、それぞれ同じであっても良いし異なっていてもよい。)
【0008】
また本発明の他の一形態に係る誘導型一酸化窒素合成酵素を阻害するクマリン化合物は、下記式(2)又は(3)で示される。
【化2】

【化3】

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、よりiNOS阻害活性の強い新規クマリン化合物を提供することができ、更に、それを用いたiNOS阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面及び表を用いて説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様による実施が可能であって、以下に示す実施形態、実施例に狭く限定されるものではない。
【0011】
実施形態に係るクマリン化合物は、下記式(1)で表わされる5,7−ジオキシクマリン化合物となっている。
【化4】

【0012】
なお、上記式(1)中、Xは水素原子、置換基を有してよい炭化水素基又は置換基を有してよいアリール基である。炭化水素基の場合、炭素の数は限定されるわけではないが1〜4の範囲にあることが好ましい。なおここで置換基としては限定されるわけではないが、例えばアルデヒド基、ケトン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、ハロゲン原子をあげることができる。
【0013】
また、上記式(1)中、R及びRは、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、炭素の数は限定されるわけではないが1〜4の範囲が好ましい。なおここで炭化水素基の例としては限定されるわけではないが例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチルをあげることができる。なおここで置換基としては限定されるわけではないが、例えばアルデヒド基、ケトン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、ハロゲン原子をあげることができる。
【0014】
また、上記式(1)中、Y及びZは、水素原子又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、YとZは同じであっても異なっていてもよい。Y及びZが炭化水素である場合、炭化水素基の炭素の数は限定されるわけではないが2〜5の範囲が好ましく、炭化水素基中に二重結合を含んでいてもよい。なお、ここで置換基としては限定されるわけではないが、例えばアルデヒド基、ケトン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、ハロゲン原子をあげることができる。
【0015】
また、上記式(1)で示される5,7−ジオキシクマリン化合物を入手する方法としては、限定されることなく種々の方法で入手可能であり、例えば天然の植物、より望ましくはミカン科Toddalia属植物から抽出することができるし、“Chem.Pharm.Bull.、198年、31巻、3330〜3333頁”、“薬学雑誌、1991年、111巻、365〜375頁”や“J.Org.Chem.、2004年、69巻、2760〜2767頁”等に記載の方法を適用することによっても製造することができる。
【0016】
以上、本実施形態により新規なiNOS阻害活性を有するクマリン化合物を提供することができる。
【0017】
また、本実施形態のクマリン化合物はiNOS阻害剤に用いることができる。iNOS阻害剤は、上記クマリン化合物の他、薬学的に許容しうる通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤等の各種調剤用配合成分を添加することができる。またこのiNOS阻害剤を用いる予防若しくは治療方法としては、患者の性別・体重・症状に見合った適切な投与量を経口的又は非経口的に投与することができる。即ち通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができ、又は例えば溶液、乳剤、懸濁液等の剤型にしたものを注射の型で非経口投与することができる他、スプレー剤の型で鼻腔内投与することもできる。
【実施例】
【0018】
ここで、上記実施形態に係るクマリン化合物について効果について説明する。もちろん、以下の例によって発明が限定されることがないのはいうまでもない。
【0019】
(被験サンプルの調製)
本発明者らは、熱帯産植物についてエタノールエキスをジメチルスルホキシドに溶解して濃厚溶液(1mg/ml)を調製し、5μg/mlに希釈してiNOS阻害活性を指標にしたスクリーング試験を行ったところ、ミカン科 Clausena植物に強い阻害活性を認め、その活性本体がクマリン化合物であることを解明した。そこで、複数のクマリン化合物を用意し、そのそれぞれをジメチルスルホキシドに溶解して濃厚溶液(1μM)として調製し、適宜希釈(1〜100nM)し被験サンプルとした。
【0020】
(1)Immunoblot Analysis
マウスマクロファージRAW264.7細胞を24well plateに播種し、セミコンフルエントになるまで培養後、無血清培地に変え、LPS(50ng/ml)及び上記被験サンプルの添加を行った。16時間のインキュベート後、細胞をホモジナイズしタンパク定量の後ウエスタンブロットを行い、iNOSおよびTNF−αタンパクの発現量を測定した。
(2)NO measurement
LPS刺激によるNO発生(iNOS酵素活性)に対する影響についてはグリース−ロメン法(Griess−Romijn’s method)を用いて測定した。すなわち、16時間培養後の各wellの培養液を100μlずつ96well plateに移し、公定法に従いグリースロミイン亜硝酸試薬(40mg/ml)を100μlずつ添加し、よく撹拌して室温下で15分間静置した。その後、マイクロプレートリーダーを用いて550nmにおける吸光度を測定した。なお、標準液として亜硝酸ナトリウム溶液を用い、培地で希釈して検量線を作成し、サンプルのNO濃度を算出した。
(結果、考察)
LPS刺激により過剰発現したiNOSは、Clausena glauillauminiiの由来のxanthoxyletin(下記式(A)に示される化合物参照)により、濃度依存的に有意に抑制されることを確認した。またこのxathoxyletinは他の炎症関連因子であるTNF−α発現、NO産生も濃度依存的に抑制した。なお式(A)で示されるxanthoxyletinは構造にクマリン骨格を含む化合物であって、クマリン類に関しては、抗腫瘍活性、感作促進、冠状血管拡張、抗菌作用、そして抗炎症などの生理・薬理作用が報告されている。
【化5】

【0021】
そこで、クマリン系化合物150種についてiNOS発現抑制に対するスクリーニングを行ったところ、少なくとも下記(2)、(3)で示される2種類のクマリン化合物(以下、それぞれを化合物(2)、化合物(3)という。)がxanthoxyletinよりも強いiNOS発現抑制作用を示すことを確認した。この結果を下記表1に示す。なお、表1は、クマリン化合物をジメチルスルホキシドに溶解した濃厚溶液(1μM)を1nMまで希釈したものの結果である。
【化6】

【化7】

【表1】

【0022】
また、上記化合物(2)、化合物(3)は、炎症性サイトカインの1種であるTNF−αのタンパク発現も比較的強く抑制することも分かった。この結果を下記表2に示しておく。なお、表2は、クマリン化合物をジメチルスルホキシドに溶解した濃厚溶液(1μM)を1nMまで希釈したものの結果である。
【表2】

【0023】
また、上記iNOSのタンパク発現抑制の結果を受け、上記化合物(2)、(3)についてNOの発生量(iNOS酵素活性)に対する作用を検討したところ、iNOS発現抑制活性の強度を反映するNO発生抑制作用を観察することができた。この結果を図1に示す。この結果によると、クマリン化合物の濃度が30μM以上であると顕著にNO発生抑制を抑制できることがわかる。一方、細胞への毒性を考慮すると100μM以下であることが望ましく、上記の結果から、狭く限定されるわけではないが、クマリン化合物の濃度としては20μM以上100μM以下の範囲にあることが望ましく、更に望ましくは30μM以上50μM以下の範囲内であると考えられる。
【0024】
以上により、活性が強い新規クマリン化合物を提供することができることが確認でき、特に、上記化合物の相関性から、上記式(1)で示されるクマリン化合物が有用であると結論付けることができた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上の通り、本発明に係るクマリン化合物は、抗アレルギー性気道炎活性、抗肺炎活性、抗関節炎活性、抗血管炎活性、膵細胞の自己破壊阻害、同種移植片急性拒絶反応阻害を有すると期待され、数々の炎症疾患を抑制する薬(抗炎症薬)として産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例に係るクマリン化合物のiNOS酵素活性を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される誘導型一酸化窒素合成酵素を阻害するクマリン化合物。
【化1】

(ここでXは水素原子、置換基を有してよい炭化水素基又は置換基を有してよいアリール基であり、R及びRは、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Y及びZは、水素原子又は置換基を有してもよい炭化水素基である。R1、2、Y及びZは、それぞれ同じであっても良いし異なっていてもよい。)
【請求項2】
下記式(2)又は(3)で示される誘導型一酸化窒素合成酵素を阻害するクマリン化合物。
【化2】

【化3】

【請求項3】
請求項1又は2に記載のクマリン化合物を有効成分とするiNOS阻害剤。
【請求項4】
前記クマリン化合物を20μM以上100μM以下含む請求項1又は2記載のiNOS阻害剤。

【図1】
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【公開番号】特開2007−290981(P2007−290981A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118234(P2006−118234)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月30日 社団法人日本薬学会主催の「日本薬学会第126年会」において文書をもって発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】