説明

誘導法により多結晶シリコンインゴットを製造するための装置

誘導法により多結晶シリコンインゴットを製造するための装置が、シリコンの加熱を始動させるための手段と、インダクターに囲まれる冷却るつぼとを備える筐体を備える。るつぼは、可動式の底部と、鉛直方向に延在するスロットで離間されるセクションで構成される4つの壁と、可動式の底部を移動させるための手段と、冷却るつぼの下方に配置される制御冷却コンパートメントとを有する。るつぼの内面は、矩形断面又は正方形断面の溶融チャンバの範囲を規定する。冷却るつぼの壁は、少なくともインダクターから冷却るつぼの最下部に向かって外側に広がるため、溶融チャンバが拡張され、溶融チャンバを拡張する角度βは、式
【数1】


(式中、dは、インデューサーの高さにおける溶融チャンバの断面の矩形の短辺又は正方形の一辺の寸法であり、bは、インデューサーの高さにおける溶融チャンバの断面の隣接する辺の寸法であり、kは実験係数であり、1.5〜2である)によって規定される。本装置は、シリコン融液の流出を減少させ、またこのようにして製造される多結晶シリコンの品質を高めることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導法(induction method)によりマルチ結晶(以下、多結晶という)シリコンインゴットを製造するための装置に関し、多結晶シリコン製の太陽電池の製造に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
太陽光線から電力を作り出す太陽電池は、結晶シリコン(単結晶シリコン及び多結晶シリコン、すなわち大型結晶からなるポリ結晶シリコンの両方)から構築される。
【0003】
多結晶シリコン太陽電池の効率が単結晶シリコン太陽電池の効率に近づいている一方で、多結晶シリコン成長設備の生産性の方が、単結晶シリコン成長設備のものよりも数倍大きいため、多結晶シリコンに対する関心は絶えず増し続けている。また、多結晶シリコンの成長は、単結晶シリコンの成長よりも単純である。
【0004】
誘導法により多結晶シリコンインゴットを製造するための装置は、当該技術分野で既知であり、該装置は、インダクターに囲まれ、かつ可動式の底部と、鉛直方向に延在するスロットで離間されるセクションで構成される4つの壁とを有する冷却るつぼを実装するチャンバを備える。インゴットの冷却を制御するための加熱手段のセットも存在する(特許文献1)。また、該装置は、冷却るつぼの溶融空間内の結晶化したインゴットの上に実装して、さらに、仕切り機構の上側で、装入したシリコン塊を加熱し、溶融及び鋳造することができる別個の仕切り手段を備える。
【0005】
既知の装置の欠点は、多結晶シリコンの低生産性及び得られる多結晶シリコンの不十分な品質にある。多結晶シリコンは結晶構造中に多数の欠陥を有する。
【0006】
本発明と密接に関係する、誘導法により多結晶シリコンインゴットを製造するための装置は、シリコンの加熱を始動させるための手段と;インダクターに囲まれ、かつ可動式の底部と、鉛直方向に延在するスロットで離間されるセクションで構成される4つの壁とを有する冷却るつぼと;可動式の底部を移動させるための手段と;冷却るつぼの下方に配置される制御冷却コンパートメントとを備える筐体を備え、冷却るつぼの内面が矩形断面又は正方形断面の溶融チャンバの範囲を規定し、また、冷却るつぼの壁が、少なくともインダクターから冷却るつぼの最下部に向かって外側に広がるため、溶融チャンバが拡張される(特許文献2)。溶融チャンバを拡張する角度は0.4°〜2°である。
【0007】
既知の装置の欠点は、多結晶シリコンインゴットの低い品質、及びたびたび起こるシリコン融液の流出に起因する多結晶シリコンインゴットの製造の生産性の低下にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1754806号 (2007年2月21日公開、cl.S30B 11/00)
【特許文献2】欧州特許出願公開第0349904号 (1990年1月10日公開、cl.B22D 11/10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、提案する構造変更によってシリコン融液の流出を減少させることにより、より良好な品質の多結晶シリコンを獲得し、多結晶シリコンの生産性を高める、誘導法により多結晶シリコンインゴットを製造するための改良された装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、シリコンの加熱を始動させるための手段と;インダクターに囲まれ、かつ可動式の底部と、鉛直方向に延在するスロットで離間されるセクションで構成される4つの壁とを有する冷却るつぼと;前記可動式の底部を移動させるための手段と;前記冷却るつぼの下方に配置される制御冷却コンパートメントとを備える筐体を備え、前記冷却るつぼの内面が矩形断面又は正方形断面の溶融チャンバの範囲を規定し、また、前記冷却るつぼの前記壁が、少なくとも前記インダクターから前記冷却るつぼの最下部に向かって外側に広がるため、前記溶融チャンバが拡張される、誘導法により多結晶シリコンインゴットを製造するための装置を提供することによって達成される。本発明によると、前記冷却るつぼの壁がそれぞれ、前記溶融チャンバの辺の中央部に、鉛直方向に延在するスロットのない中心セクションを有し、かつ前記溶融チャンバを拡張する角度βは、次式によって規定される。
【0011】
【数1】

【0012】
(式中、
dは、前記インデューサーの高さにおける前記溶融チャンバの断面の矩形の短辺又は正方形の一辺の寸法であり、
bは、前記インデューサーの高さにおける前記溶融チャンバの断面の隣接する辺の寸法であり、
kは実験係数であり、1.5〜2である)
【0013】
係数kは、成長するインゴットの周囲が長い最大の値である。
【0014】
冷却るつぼの壁それぞれの中心セクションの幅は、溶融チャンバの辺の寸法の1/6〜1である。
【0015】
導電性材料及び熱伝導性材料の水冷鉛直セクションとして設計される移動壁を伴う冷却るつぼ底部における誘導溶融によるシリコンの溶融及び鋳造のプロセスでは、融液の一部により形成されるメニスカスが、電磁力によって、るつぼの内面側から押しやられ、その静水圧によって均衡がとられる。原材料を連続供給すると、この均衡がくずれ、より低い高さのメニスカスが、冷却るつぼの内面側に定期的に注がれ、ここで、融液が結晶化して、冷却るつぼの周囲部分に、シリコン融液を抑留して、融液とるつぼとの接触を防止するような炉壁付着物(wall accretion)が形成する。
【0016】
溶融プロセスが進行して、インゴットが下向きに移動するにつれ、炉壁付着物が厚くなる。るつぼ上に位置する炉壁付着物の外面の温度は、シリコンの融点よりも低く、その熱伝導率及びるつぼの壁への熱の伝達に依存するのに対し、炉壁付着物の内面は、シリコンの融点に等しい温度を有する。このようにして形成される炉壁付着物は、融液浴の断面及び高さの両方に温度勾配を有する。
【0017】
誘導溶融による多結晶シリコンインゴットの製造では、炉壁付着物と冷却るつぼとの間の間隙への融液の流出が複数の要因に起因する。
【0018】
要因の1つは、炉壁付着物全体にわたる横方向の温度勾配に関連する。
【0019】
温度勾配に起因して、炉壁付着物の熱収縮が起こる。また、シリコンの流動温度よりも高い900℃〜1050℃の温度で、炉壁付着物が塑性変形を受ける。炉壁付着物の熱収縮の大きさは、冷却るつぼで形成される溶融チャンバの温度勾配並びにサイズ及び形状に依存する。許容値を超える任意の過度な熱収縮は、不適当な炉壁付着物の冷却、その過熱、溶融、及び炉壁付着物と冷却るつぼの内壁との間の間隙への流出をもたらす。
【0020】
炉壁付着物と冷却るつぼの内壁との間の間隙へのシリコンの流出をもたらす別の要因は、炉壁付着物が冷却るつぼの内壁に捉えられた際の、炉壁付着物の崩壊にある。壁の表面上に欠陥が存在しなければ、液体シリコンは、冷却るつぼの壁の内側を湿潤させず、また壁に固着しない。冷却るつぼの内壁の表面上の主な欠陥は、インダクター電磁場がシリコン融液内を貫通すると共にシリコン融液を加熱するのに不可欠な、壁セクション間の鉛直スロットである。
【0021】
壁セクションは、鉛直スロットで離間され、かつ矩形形状又は正方形形状の周囲に配置されて、対応する冷却るつぼ壁の中央部に鉛直スロットを設けない中心セクションをそれぞれ有する4つの壁を形成し、また、考慮に入れられると共に溶融チャンバを拡張する、冷却るつぼの壁で形成される溶融チャンバのサイズが、シリコンの誘導溶融における炉壁付着物の熱収縮の結果として、間隙の形成を安定化して、シリコン融液の流出の減少をもたらすことが実験的に立証された。
【0022】
その上、概説する配置が、炉壁付着物と冷却るつぼの壁面との間の最小間隙を伴う領域を含む冷却るつぼの壁面に捉えられる炉壁付着物の除去をもたらし、得られる多結晶シリコンインゴットの熱収縮及び横断寸法を考慮に入れることを可能とする。結果として、シリコン融液の流出が有意に減少し、シリコンが一定速度、安定条件下で結晶化する。
【0023】
溶融及び結晶化のプロセスの安定性の向上は、多結晶シリコンを生じる大きな微結晶の形成をもたらす。その上、結晶化プロセスの安定性は、結晶構造中の欠陥を排除して、これにより得られる高品質の製品、すなわち、太陽電池をもたらす。
【0024】
このため、多結晶シリコンインゴットを製造するための装置の提案する設計は、太陽電池の製造に好適な多結晶シリコンの生産高をより高いものとする。
【0025】
限定するものではないが、以下の図面を参照して本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】誘導溶融により多結晶シリコンインゴットを製造するための装置の縦断面図である。
【図2】融液が入った冷却るつぼの縦断面図である。
【図3】溶融チャンバを示す冷却るつぼの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
誘導溶融により多結晶シリコンインゴットを製造するための装置(図1)は、装入ホッパー2と連絡する筐体1を備える。筐体1内には、シリコンの加熱を始動させるための手段3、インダクター5に囲まれる冷却るつぼ4と、冷却るつぼ4の下方に配置される制御冷却コンパートメント6とが存在する。冷却るつぼ4は、可動式の底部7、並びに鉛直スロット10で離間されるセクション8及び中心セクション9(図3)によって規定される。可動式の底部7は、制御冷却コンパートメント6内で可動式の底部7を上下に移動させるための手段11に連動する。鉛直スロット10で離間されるセクション8及び中心セクション9は、4つの相互に直交する壁12、13、14及び15を形成する。冷却るつぼ4の内面は、正方形断面又は矩形断面の溶融チャンバ16の範囲を規定し、ここにシリコン塊材料17が装入される。冷却るつぼ4の壁12、13、14及び15それぞれの中心セクション9は、溶融チャンバ16の辺の中央部に鉛直スロットを設けない。冷却るつぼ4の壁12、13、14及び15のセクション8及び中心セクション9は(図2)、外側に傾斜を付けることにより、少なくともインダクター5から冷却るつぼ4の下部、すなわち底部に向かって溶融チャンバ16を拡張し、溶融チャンバを拡張する角度βは、次式によって規定される。
【0028】
【数2】

【0029】
(式中、
dは、インデューサー5の高さにおける溶融チャンバ16の断面の矩形の短辺又は正方形の一辺の寸法であり、
bは、インデューサー5の高さにおける溶融チャンバ16の断面の隣接する辺の寸法であり、
kは実験係数であり、1.5〜2である)
【0030】
冷却るつぼ4の壁12、13、14及び15それぞれの中心セクション9(図3)は、溶融チャンバ16の辺の寸法の1/6〜1の幅を有する。
【0031】
冷却るつぼ4の壁12、13、14及び15は、取り外し可能な状態でマニホールド18と接続する。マニホールド18は、冷却液(水)の供給、配水及び分配をもたらす。
【0032】
冷却るつぼ4の壁12、13、14及び15は、銅又は銅をベースとした合金からなり、シリコンの加熱を始動させるための手段3及び可動式の底部7は、グラファイト等の導電性材料からなる。
【0033】
本発明の装置は以下のように作動する。
【0034】
筐体1内で、制御雰囲気を作る。溶融空間16を限定するように可動式の底部7を下から冷却るつぼ4の頂部に移動させる。シリコン塊材料17を装入ホッパー2から溶融チャンバ16に添加し、シリコンの加熱を始動させるための手段3を導入する。高周波電磁場をインダクター5によって作り出す。可動式の底部7及びシリコンの加熱を始動させるための手段3を、インダクター5の電磁場において加熱し、溶融チャンバ16内の熱の伝達によりシリコン塊材料17を加熱する。温度が700℃〜800℃に達すると、装入材料が誘導加熱及び誘導溶融を受ける。
【0035】
シリコンの加熱を始動させるための手段3を、インダクター5の電磁場から移動させると、断面(図2、図3)の形態に従い、溶融チャンバ16内にシリコン融液浴が形成される。熱の伝達の結果として、シリコン融液が結晶化し、冷却るつぼ4の壁に近い融液浴の周囲部分に炉壁付着物19が形成する。これは、融液が溶融空間16から流出することを防ぎ、溶融シリコンと冷却るつぼ4の壁12、13、14及び15との相互作用を防止する。インダクター5の電磁場に起因して、上部の融液浴は、冷却るつぼ4の壁12、13、14及び15から追いやられ、メニスカスが形成し、シリコン塊材料17が連続的に装入ホッパー2からメニスカス表面上に供給される。シリコン塊材料17が溶融すると、メニスカスの静水圧が増大する。定期的に、圧力平衡が乱れると、融液が冷却るつぼ4の壁12、13、14及び15に向けて炉壁付着物の上端から流出し、融液の外層が結晶化し、炉壁付着物19が連続的に成長する。可動式の底部7をインダクター5の帯域から下に移動させると、シリコン融液がその下部で連続的に結晶化し、溶融プロセス及びインゴットの下降運動が進行するにつれて、多結晶インゴット20が形成される。多結晶インゴット20は連続的に制御冷却コンパートメント6へと下降する。融液浴がインダクター5及び冷却るつぼ4の高さで相対的に一定のままであるような速度で、多結晶インゴット20を引き抜くと、融液が融液浴の底部で連続的に結晶化して、インゴットが形成される。制御冷却コンパートメント6では、インゴットを制御条件下で冷却して、熱応力を取り除く。
【0036】
本発明の装置において得られた多結晶インゴットは、340×340mm及び340×530mmの断面サイズを有していた。
【0037】
340×340mmの断面サイズのインゴットは、インダクターの高さで一辺の寸法が342mmである正方形断面の溶融チャンバにおいて得られた。冷却るつぼの中心セクションの幅は60mmであり、溶融チャンバの辺の中央部には鉛直スロットが存在しないものとした。溶融チャンバを拡張する角度βは以下の通りであった:
【数3】

【0038】
多結晶シリコンインゴットの製造において、融液の流出は従来技術のデータよりもはるかに少ない。流出が起こっても、短い距離で止まった。結果として、このようにして製造された多結晶シリコンインゴットは、大領域の無欠陥単結晶シリコンを有するものであった。多結晶シリコンの生産能力は12%増大した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンの加熱を始動させるための手段と;インダクターに囲まれ、かつ可動式の底部と、鉛直方向に延在するスロットで離間されるセクションで構成される4つの壁とを有する冷却るつぼと;前記可動式の底部を移動させるための手段と;前記冷却るつぼの下方に配置される制御冷却コンパートメントとを備える筐体を備え、前記冷却るつぼの内面が矩形断面又は正方形断面の溶融チャンバの範囲を規定し、また、前記冷却るつぼの前記壁が、少なくとも前記インダクターから前記冷却るつぼの最下部に向かって外側に広がるため、前記溶融チャンバが拡張される、誘導法により多結晶シリコンインゴットを製造するための装置であって、
前記冷却るつぼの壁がそれぞれ、前記溶融チャンバの辺の中央部に、鉛直方向に延在するスロットのない中心セクションを有し、かつ前記溶融チャンバを拡張する角度βが、式
【数1】

(式中、
dは、前記インデューサーの高さにおける前記溶融チャンバの断面の矩形の短辺又は正方形の一辺の寸法であり、
bは、前記インデューサーの高さにおける前記溶融チャンバの断面の隣接する辺の寸法であり、
kは実験係数であり、1.5〜2である)
によって規定されることを特徴とする、誘導法により多結晶シリコンインゴットを製造するための装置。
【請求項2】
前記冷却るつぼの壁それぞれの前記中心セクションが、前記溶融チャンバの辺の寸法の1/6〜1の幅を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−533516(P2012−533516A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521601(P2012−521601)
【出願日】平成22年7月19日(2010.7.19)
【国際出願番号】PCT/UA2010/000045
【国際公開番号】WO2011/010982
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(511145513)ピラー エルティーディー. (3)
【出願人】(512016054)テシス リミテッド (2)
【出願人】(511145535)シリシオ ソラー、エス.エー.ユー. (3)
【Fターム(参考)】