説明

誘導発熱ローラ装置

【課題】冷却流体を流通させる機構を設けることなく、処理物の奪熱運転可能、ローラ本体の表面温度の低温側への設定変更にかかる時間を短縮可能、又は磁束発生機構を構成する鉄心又は誘導コイルを冷却可能にし、その冷却過程における余剰熱を電気エネルギーとして回収して省エネルギーを可能にする。
【解決手段】中空のローラ本体2と、ローラ本体2の中空内部にロ−ラ本体2の軸方向に沿って配置された鉄心31及びこの鉄心31に巻回された誘導コイル32からなる磁束発生機構3と、ローラ本体2又は磁束発生機構3にその吸熱面81aが接触するように設けられる熱電変換素子81と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導発熱ローラ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばプラスチックフィルム、紙、布、不織布、合成繊維、金属箔等のシート材又はウェブ材、線(糸)材等の連続熱処理工程において、表面温度がコントロールされたローラが用いられている。そして、このローラの表面温度を一定の温度にコントロールしたり変更したりする装置として誘導発熱ローラ装置が用いられている。
【0003】
従来の誘導発熱ローラ装置は、特許文献1に示すように、回転するローラ本体の軸心に沿って、鉄心及び誘導コイルからなる磁束発生機構を有し、誘導コイルに電流を流すことによって、ローラ本体の側周壁に誘導電流が励起され、その電流によるジュール加熱によってローラ本体が加熱される構成である。
【0004】
しかしながら、この誘導発熱ローラ装置では、磁束発生機構を用いたローラ本体の加熱のみであり、処理物の奪熱又はローラ本体の冷却を必要とする場合は、自然放冷又は冷却流体を流通する機構を設ける必要がある。自然放冷では当然に所望温度に冷却するまでに時間がかかってしまう。また、冷却流体を流通する機構をもうける構成であれば、配管が必要となり、ローラ本体の構造が複雑になってしまうだけでなく、冷却流体の漏れの恐れがある。
【0005】
また、誘導発熱ローラ装置を高温で使用する場合又は高ワット密度で使用する場合には、磁束発生機構が、誘導コイルの電線に電流が流れることにより生じるジュール発熱(銅損)や、鉄心の鉄損による温度上昇により高温となってしまい、誘導コイルの絶縁性能が低下する、又は、鉄心の温度がキューリーポイントに近づくことに伴い鉄心の透磁率が1に近づき鉄心としての性能が低下するという問題がある。このようなことから、磁束発生機構の冷却が必要となる場合がある。このため従来は特許文献2に示すように、誘導コイル内に冷却流体を流通させる構成のものがあるが、このようなものでは、誘導コイルの構成が複雑になってしまうだけでなく、冷却流体の漏れの恐れがあるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−319477号公報
【特許文献2】特開2002−43050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、冷却流体を流通させる機構を設けることなく、処理物の奪熱運転可能、ローラ本体の表面温度の低温側への設定変更にかかる時間を短縮可能、又は磁束発生機構を構成する鉄心又は誘導コイルを冷却可能にし、その冷却過程における余剰熱を電気エネルギーとして回収して省エネルギーを可能にすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る誘導発熱ローラ装置は、中空のローラ本体と、前記ローラ本体の中空内部に前記ロ−ラ本体の軸方向に沿って配置された鉄心及びこの鉄心に巻回された誘導コイルからなる磁束発生機構と、前記ローラ本体又は前記磁束発生機構にその吸熱面が接触するように設けられる熱電変換素子と、を具備することを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、誘導発熱ローラ装置に熱電変換素子を設けるとともに、その熱電変換素子の吸熱面をローラ本体又は磁束発生機構に接触するように設けているので、熱電変換素子がローラ本体又は磁束発生機構の熱を奪うことによって、ローラ本体又は磁束発生機構を冷却することができる。特に、熱電変換素子をローラ本体に設けた場合は、ローラ本体に冷却流体を流通させる機構を設けることなく、ローラ本体の表面温度の低温側への設定変更にかかる時間を短縮することができるとともに、処理物の奪熱運転を行うことができる。一方、熱電変換素子を磁束発生機構に設けた場合は、誘導コイルで発生する銅損又は鉄心で発生する鉄損による熱の冷却を行うことができ、誘導コイルの絶縁性能の低下又は鉄心の機能低下を抑制することができる。また、上記ローラ本体又は磁束発生機構の冷却を熱電変換素子を用いて行っているので、その冷却過程における余剰熱を電気エネルギーとして回収することができ、誘導発熱ローラ装置における省エネルギー化を可能にすることができる。
【0010】
従来の誘導発熱ローラ装置の構成を大幅に変更することなく熱電変換素子を配置してローラ本体の冷却を行うためには、前記熱電変換素子が、前記ローラ本体の内面にその吸熱面が接触するように設けられていることが考えられる。
【0011】
従来の誘導発熱ローラ装置の構成を大幅に変更することなく熱電変換素子を配置して磁束発生機構の冷却を行うためには、前記熱電変換素子が、誘導コイルの外面にその吸熱面が接触するように設けられていることが望ましい。ここで、熱電変換素子の吸着面を誘導コイルの外面に接触して設けるとは、直接接触するように設けることの他、誘導コイルの外面と熱電変換素子の吸着面との間に絶縁材を介在させて設けることを含む。
【0012】
従来の誘導発熱ローラ装置の構成を大幅に変更することなく熱電変換素子を配置して磁束発生機構の鉄心の冷却を行うためには、前記熱電変換素子が、前記鉄心の内面にその吸熱面が接触するように設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、冷却流体を流通させる機構を設けることなく、処理物の奪熱運転可能、ローラ本体の表面温度の低温側への設定変更にかかる時間を短縮可能、又は磁束発生機構を構成する鉄心又は誘導コイルを冷却可能にし、その冷却過程における余剰熱を電気エネルギーとして回収して省エネルギーを可能にすることができる。また、誘導コイルの電流密度又は鉄心の磁束密度を大きくとる設計が可能となり、使用材料の低減ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る誘導発熱ローラ装置の断面図である。
【図2】同実施形態における熱電変換モジュールの部分拡大断面図である。
【図3】同実施形態における電力伝達機構を示す部分拡大断面図である。
【図4】変形実施形態に係る誘導発熱ローラ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明に係る誘導発熱ローラ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100は、例えばプラスチックフィルム、紙、布、不織布、合成繊維、金属箔等のシート材又はウェブ材、線(糸)材等の連続熱処理工程等において用いられるものであり、図1に示すように、回転可能に設けられた中空円筒状のローラ本体2と、このローラ本体2内に収容される磁束発生機構3と、を備えている。
【0017】
ローラ本体2の両端部には、ジャーナル41が取り付けられている。このジャーナル41は、中空の駆動軸42と一体に構成されており、駆動軸42は、転がり軸受等の軸受51を介して基台52に回転自在に支持されている。そして、ローラ本体2は、例えばモータ等により外部から与えられる駆動力によって回転されるように構成されている。
【0018】
また、ローラ本体2の側周壁21には、長手方向(軸方向)に延びる気液二相の熱媒体を封入するジャケット室21Aが、周方向に複数形成され、各ジャケット室21A内の端部は環状の孔と連通している。このジャケット室21A内に封入した気液二相の熱媒体の潜熱移動によりローラ本体2の表面温度を均一化する。
【0019】
さらに、ローラ本体2には、ローラ本体2の温度を検出するための例えば熱電対からなる温度センサT1が設けられている。本実施形態では、ローラ本体2においてジャケット室21Aとローラ本体2の外周面との間に細孔を穿ち、この細孔に温度センサを挿入することによって温度センサT1がローラ本体2に設けられる。なお、符号L1は、温度センサからの信号を外部に取り出すためのリード線である。
【0020】
磁束発生機構3は、円筒形状をなす円筒状鉄心31と、当該円筒状鉄心31の外側周面に巻装された誘導コイル32とから構成されている。円筒状鉄心31の両端にはそれぞれ、支持ロッド6が取り付けられている。この支持ロッド6は、それぞれ駆動軸42の内部に挿通されており、転がり軸受等の軸受7を介して駆動軸42に対して回転自在に支持されている。これにより、磁束発生機構3は、ローラ本体2の内部において、宙づり状態で支持されることになる。誘導コイル32には、リード線L2が接続されており、このリード線L2には、交流電圧を印加するための交流電源(不図示)が接続されている。
【0021】
このような磁束発生機構3により、誘導コイル32に交流電圧が印加されると交番磁束が発生し、その交番磁束はローラ本体2の側周壁21を通過する。この通過によりローラ本体2に誘導電流が発生し、その誘導電流でローラ本体2はジュール発熱する。
【0022】
しかして本実施形態の誘導発熱ローラ装置100には複数の熱電変換素子から構成される複数の熱電変換モジュール8が設けられている。
【0023】
この熱電変換モジュール8は、熱エネルギーから電気エネルギーに、または電気エネルギーから熱エネルギーに変換する機器(デバイス)であり、図1に示すように、ローラ本体2の内周面にその吸熱面が内周面に接触するように設けられている。
【0024】
具体的に熱電変換モジュール8は、図2に示すように、冷却対象であるローラ本体2の内周面にその吸熱面81aが接触して設けられたペルチェ素子81と、当該ペルチェ素子81の放熱面81bにその加熱面82aが接触するように設けられ、冷却面82bがローラ本体2の中空に設けられるゼーベック素子82とからなる。
【0025】
これらペルチェ素子81及びゼーベック素子82は、p型半導体及びn型半導体の2種類の半導体である熱電変換部材8a、8bが用いられており、2種類の熱電変換部材8a、8bは電極部材8cを介して交互に、そして電気的に直列に接続されている。そして、ペルチェ素子81は、その熱電変換部材8a、8bに電流を流すと、熱電変換部材8a、8bの一方の端部側で吸熱が生じ、他方の端部側で発熱する(ペルチェ効果)。一方、ゼーベック素子82は、熱電変換部材8a、8bの一方を比較的高い温度にすると共に他方を相対的に低温にすると、その温度差に応じた熱起電力を発生するものである(ゼーベック効果)。本実施形態では、ゼーベック素子82の加熱面82aをペルチェ素子81の放熱面81bに接触するように設けているので、ペルチェ素子81による熱エネルギーを効率良く電気エネルギーに変換して発電することができる。
【0026】
次に、誘導発熱ローラ装置100の電力伝達機構9について図3を参照して説明する。
【0027】
この電力伝達機構9は、回転トランスを用いて構成されるものであり、熱電変換モジュール8の電力需給部91と温度センサT1の電力需給部92とからなる。
【0028】
熱電変換モジュール8の電力需給部91は、駆動軸42の一方の端部に固定された第1の支持枠10の内面に支持された回転トランスを構成するロータコイル91aと、支持ロッド6の一方の端部に固定された第2の支持枠11の外面に、前記ロータコイル91aに向かい合うように支持された回転トランスを構成するステータコイル91bとを備えている。また、熱電変換モジュール8から延設されたリード線L3とロータコイル91aとの間には、AC−DC変換部91cが設けられている。
【0029】
なお、図3中の符号91dは、AC−DC変換部91cへの電力供給用のステータコイルであり、符号91eは、AC−DC変換部91cへの電力供給用のロータコイルである。なお、AC−DC変換部91cへの電力供給用のステータコイル91dは、変換器91fを介してレセプタクルに接続されており、このレセプタクルに結合されるプラグP1を介して外部リード線L4により外部と電気的に接続される。
【0030】
温度センサT1の電力需給部92は、第1の支持枠10の内面に支持された回転トランスを構成するロータコイル92aと、第2の支持枠11の外面に、前記ロータコイル92aに向かい合うように支持された回転トランスを構成するステータコイル92bとを備えている。
【0031】
また、第1の支持枠10には信号変換器92cが設けられている。そして、温度センサT1から延設されたリード線L1は信号変換器92cに接続されており、温度センサT1が検出した温度に対応する電圧が温度信号に変換されて、ロータコイル92aに与えられる。
ステータコイル92bは、変換器92dを介してレセプタクルに接続されており、このレセプタクルに結合されるプラグP2を介して外部リード線L5により外部と電気的に接続される。
【0032】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100によれば、誘導発熱ローラ装置100に熱電変換モジュール8を設けるとともに、その熱電変換モジュール8の吸熱面81aをローラ本体2に接触するように設けているので、熱電変換モジュール8がローラ本体2の熱を奪うことによって、ローラ本体2及び処理物を冷却することができる。したがって、ローラ本体2に冷却流体を流通させる機構を設ける必要がなく、配管を不要にするとともに冷却流体も不要となり、ローラ本体2の表面温度の低温側への設定変更にかかる時間を短縮することができるとともに、処理物の奪熱運転を行うことができる。また、ローラ本体2の冷却を熱電変換モジュール8を用いて行っているので、その冷却過程における余剰熱を電気エネルギーとして回収することができ、誘導発熱ローラ装置100における省エネルギー化を可能にすることができる。
【0033】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0034】
例えば、前記実施形態では、熱電変換モジュールをローラ本体の内周面に設ける構成であったが、その他、磁束発生機構に設けるようにしても良い。このとき、例えば、図4に示すように、誘導コイル32及び鉄心31の間に設けるようにしても良いし、誘導コイル32の外面に設けるようにしても良い。なお、誘導コイル32の外面に設ける場合には、熱電変換モジュール8の吸熱面81aを絶縁材を介して誘導コイル32の外面に接触するように設けることが考えられる。また、熱電変換モジュール8を鉄心31の内面に設けるようにしても良い。また、熱電変換モジュールをローラ本体及び磁束発生機構の両方に設けるようにしても良い。
【0035】
また、前記実施形態の電力伝達機構、特に熱電変換モジュールの電力需給部は回転トランスを用いて構成したものだったが、その他、スリップリングを用いて構成したものであっても良い。
【0036】
さらに、前記実施形態では、両持ち式の誘導発熱ローラ装置について説明したが、片持ち式の誘導発熱ローラ装置に適用することもできる。
【0037】
その上、熱処理ローラ装置に適用することもできる。この熱処理ローラ装置は、表面に接触する処理物を熱処理する中空円筒状の熱処理ローラと、当該熱処理ローラを回転させる回転駆動部と、を備え、前記処理ローラの内周面に熱電変換モジュールを設けることにより構成されている。
【0038】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
100・・・誘導発熱ローラ装置
2 ・・・ローラ本体
3 ・・・磁束発生機構
31 ・・・鉄心
32 ・・・誘導コイル
8 ・・・熱電変換モジュール
81 ・・・ペルチェ素子(熱電変換素子)
81a・・・吸熱面
81b・・・放熱面
82 ・・・ゼーベック素子(熱電変換素子)
82a・・・加熱面
82b・・・冷却面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のローラ本体と、
前記ローラ本体の中空内部に前記ロ−ラ本体の軸方向に沿って配置された鉄心及びこの鉄心に巻回された誘導コイルからなる磁束発生機構と、
前記ローラ本体又は前記磁束発生機構にその吸熱面が接触するように設けられる熱電変換素子と、を具備する誘導発熱ローラ装置。
【請求項2】
前記熱電変換素子が、前記ローラ本体の内面にその吸熱面が接触するように設けられている請求項1記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項3】
前記熱電変換素子が、誘導コイルの外面にその吸熱面が接触するように設けられている請求項1記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項4】
前記熱電変換素子が、前記鉄心の内面にその吸熱面が接触するように設けられている請求項1記載の誘導発熱ローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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