説明

誘電体セラミックスおよびこれを用いた誘電体共振器

【課題】 高い比誘電率εrと高いQf値と良好な共振周波数の温度係数とを示す誘電体セラミックスを提供すること。
【解決手段】 BaO,Nd,TiOおよびAlを含有する主結晶相と、主結晶以外の結晶相とを含んでなる誘電体セラミックスであって、主結晶相を一般式aBaO・bNd・cTiO・dAlと表したとき、モル比a,b,c,dがそれぞれ、13.50≦a≦16.10,17.60≦b≦19.40,59.80≦c≦66.10,1.70≦d≦5.80,a+b+c+d=100を満足する範囲にあると
ともに、主結晶相以外の結晶相は、Ba−Al−Ti系酸化物,Al,Nd
またはこれらの混合物からなることを特徴とする誘電体セラミックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波およびミリ波等を含む高周波領域において、高い比誘電率εr(真空の誘電率εoとの比)および高いQf値を有する誘電体セラミックスおよび共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電話、パソコン等のモバイル通信市場の急速な技術の進展に伴い、部品および材料に要求される特性も益々厳しくなってきている。一般に、コンデンサなどに使用される誘電体材料には、高い誘電率が要求されることはもちろんであるが、誘電損失が小さく、なおかつ温度係数が良好であるなど諸条件を同時に満足する必要がある。最近では、使用機能の多様化により使用周波数もより高周波帯へシフトし、特に高周波領域(800M
Hz〜2GHz)での誘電特性が要求されるようになっている。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では酸化バリウムと酸化チタンと酸化ネオジウムと酸化ビスマスと酸化アルミニウムと酸化マンガンから成る組成物で、その組成式を、
xBaO+yTiO+zNd
と表したとき、
9≦x≦18モル%
65≦y≦73モル%
14≦z≦19モル%(ただしx+y+z=100)
となる範囲の主成分に対し、
Biを3.0〜11.0wt%
Al23を0.1〜2.0wt%
MnOを0.1 〜1.0wt%
各々添加する高周波用誘電体磁器組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−103813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のBaO−Nd−TiO系の誘電体セラミックスでは、AlまたはBiを添加することによって高い比誘電率を維持しながら、共振周波数の温度係数が正に大きかったものを小さくすることができるものの、Qf値はわずかしか向上せず、さらにBiは低融点化合物であるため、焼成の際に成形体内部から揮発しやすいので、焼成炉の炉壁を損傷させるという欠点があった。
【0006】
それゆえ、本発明では、高い比誘電率と、高い品質係数Q値と、0ppm/℃に近い安定した温度特性とを維持できるBaO−Nd−TiO−Al系の誘電体セラミックスおよび誘電体共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電体セラミックスは、BaO,Nd,TiOおよびAlを含有する主結晶相と、該主結晶以外の結晶相とを含んでなる誘電体セラミックスであって、前記主結晶相を一般式aBaO・bNd・cTiO・dAlと表したとき、モル比a,b,c,dがそれぞれ、13.50≦a≦16.10,17.60≦b≦19.40,59.80≦c
≦66.10,1.70≦d≦5.80,a+b+c+d=100を満足する範囲にあるとともに、前記主結
晶相以外の結晶相は、Ba−Al−Ti系酸化物,Al,Ndまたはこれら
の混合物からなることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の誘電体セラミックスは、上記構成において、前記Ba−Al−Ti系酸化物は、Ba1.23Al2.46Ti5.5416であることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の誘電体セラミックスは、上記いずれかの構成において、前記主結晶相以外の結晶相の占める体積比率が10体積%以下(0を含まず)であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の誘電体セラミックスは、上記いずれかの構成において、Ba,Nd,TiおよびAl以外の元素(Oを含まず)の含有量が酸化物換算で合計1.0質量%以下であ
ることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の誘電体セラミックスは、上記いずれかの構成において、比誘電率εr≧60,無負荷品質係数Qと周波数fとの積Qf≧13000GHz,25〜85℃における共振周波
数の温度特性τfが−10ppm/℃以上20ppm/℃以下であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の誘電体共振器は、上記いずれかの誘電体セラミックスを用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の誘電体セラミックスによれば、BaO,Nd,TiOおよびAlを含有する主結晶相を含んでなる誘電体セラミックスであって、主結晶相を一般式aBaO・bNd・cTiO・dAlと表したとき、モル比a,b,c,dがそれぞれ、13.50≦a≦16.10,17.60≦b≦19.40,59.80≦c≦66.10,1.70≦d≦5.80,a+b+c+d=100を満足する範囲にあるとともに、主結晶相以外の結晶相が、Ba−Al−Ti系酸化物,Al,Ndまたはこれらの混合物からなることから、誘電
特性が低下することを抑制でき、高い比誘電率εrと高い品質係数Qf値とを維持し、また誘電体セラミックスの共振周波数の温度係数τfの絶対値が大きくなるのを抑制することができる。
【0014】
また、本発明の誘電体共振器によれば、上記構成の誘電体セラミックスを用いるときには、誘電特性が低下することを抑制でき、高い比誘電率εrと高い品質係数Qf値とを維持し、また誘電体セラミックスの共振周波数の温度係数τfの絶対値が大きくなるのを抑制することができるので、気温差の激しい場所において長期間にわたって安定して良好な性能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の誘電体共振器の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の誘電体セラミックスおよびこれを用いた誘電体共振器の実施の形態の一例について説明する。
【0017】
本実施形態の誘電体セラミックスは、BaO,Nd,TiOおよびAlを含有する主結晶相と、主結晶以外の結晶相とを含んでなる誘電体セラミックスであって
、主結晶相を一般式aBaO・bNd・cTiO・dAlと表したとき、モル比(mol比)a,b,c,dがそれぞれ、13.50≦a≦16.10,17.60≦b≦19.40,59.80≦c≦66.10,1.70≦d≦5.80,a+b+c+d=100を満足する範囲にあるとともに、前記主結晶相以外の結晶相は、Ba−Al−Ti系酸化物,Al,Ndまた
はこれらの混合物からなる。
【0018】
本実施形態の誘電体セラミックスは、主結晶相を一般式aBaO・bNd・cTiO・dAlと表したとき、モル比(mol比)a,b,c,dが上記の範囲であると、主結晶相がタングステンブロンズ型結晶相を形成しやすいため、高い比誘電率εrおよび高い品質係数Qf値を得られやすく、また共振周波数の温度係数τfの絶対値を小さくできる傾向がある。また、モル比(mol比)a,b,c,dの範囲が、14.75≦
a≦15.07,18.16≦b≦18.69,62.31≦c≦63.99,2.78≦d≦4.25であると、より高い
比誘電率εrおよびより高い品質係数Qf値を得られやすく、また共振周波数の温度係数τfの絶対値をより小さくできる傾向があるので好ましい。
【0019】
なお、Ba,Nd, TiおよびAlの各元素の含有量は、誘電体セラミックスの一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いてBa,Nd, TiおよびAlの含有量をそれぞれ測定し、これを酸化物換算してその合計量を算出することにより得られる。ここで、測定値の誤差は分析値をnとするとn±√nである。
【0020】
さらに、本実施形態の誘電体セラミックスにおいて、主結晶相以外の結晶相は、Ba−Al−Ti系酸化物,AlまたはNdまたはこれらの混合物からなるので、誘電特性が低下することを抑制でき、高い比誘電率εrと高い品質係数Qf値とを維持し、また誘電体セラミックスの共振周波数の温度係数τfの絶対値が大きくなるのを抑制することができる。なお、Ba−Al−Ti系酸化物としては、誘電体セラミックスの比誘電率εrおよび品質係数Qf値を大きく低下させないもの、具体的には上記誘電体セラミックスがεrが30以上、品質係数Qf値が10000GHz以上となるものであれば好ましく
、特には、Ba1.23Al2.46Ti5.5416であると、さらに誘電特性が低下するのを抑制することができるので好ましい。
【0021】
なお、主結晶と主結晶以外の結晶相は、X線回折法またはTEMによる電子回折法等により、各結晶相のJCPDSカードを参照することによって同定することができる。また、上記結晶相はEPMAまたはTEMによるEDS(Energy Dispersive Spectroscopy)分析によって、結晶相に含まれる成分を解析することもできる。
【0022】
また、本実施形態では主結晶相とは、2つ以上の結晶相のうち、もっとも体積比率の大きい結晶相を意味する。
【0023】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、主結晶相以外の結晶相の占める体積比率が誘電体セラミックス全体の10体積%以下であることが好ましい。(いいかえれば、主結晶相の占める体積比率が90体積%以上であることが好ましい。)
本実施形態の誘電体セラミックスは、誘電体セラミックスの主結晶相以外の結晶相の占める体積比率が誘電体セラミックス全体の10体積%以下ならば、比誘電率εr,品質係数
Qf値を特に高く、また共振周波数の温度係数τfの絶対値が特に小さく維持できる傾向がある。さらに主結晶相以外の結晶相の占める体積比率は5体積%以下とするのがより好ましい。
【0024】
主結晶相および主結晶相以外の結晶相の体積比率を求める方法は、例えば、100μm×100μmの範囲が観察できるように、任意の倍率に調節した金属顕微鏡,SEM,BEMま
たはEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)等により、誘電体セラミックスの磁器
表面および内部断面の数カ所を写真または画像として撮影し、この写真または画像を画像解析装置により解析することにより、数カ所の結晶相比率を算出し、この平均値を求めることで算出することが可能である。また画像解析装置としては、例えば、ニレコ社製のLUZEX−FS等を用いればよい。なお、主結晶相と主結晶相以外の結晶相の特定は前述した方法、つまりX線回折法またはTEMによる電子回折法等により、求めることができる。
【0025】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、主結晶相は、Alの含有量が50モル%(mol%)以上であることが好ましい。
【0026】
ここで、本実施形態では、主結晶相中に含まれるAlの含有量とは、全量を誘電体セラミックス中に含まれるAlの含有量とした場合の、主結晶相に含まれるAlの含有量の全量中に占める割合のことである。
【0027】
なお、主結晶相中に含有されるAlの含有量は、以下のとおりに求めることができる。
【0028】
まず、前述したとおりの方法で、主結晶相および主結晶相以外の結晶相の体積比率を求める。
【0029】
次に、誘電体セラミックスの平均ボイド率を求める。平均ボイド率は、例えば、100μ
m×100μmの範囲が観察できるように、任意の倍率に調節した金属顕微鏡またはSEM
等により、誘電体セラミックスの磁器表面および内部断面の数カ所を写真または画像として撮影し、この写真または画像を画像解析装置により解析することにより、単位面積あたりのボイドの面積が占める割合をボイド率として、数カ所のボイド率を算出し、この平均値を求めることで算出することが可能である。画像解析装置としては例えばニレコ社製のLUZEX−FS等を用いればよい。
【0030】
主結晶相および主結晶相以外の結晶相の体積比率と平均ボイド率によって、以下の関係式(1)式により主結晶相の理論密度を求めることができる。
ρ/(1−p/100)=(V/100×ρ)+(V/100×ρ)+(V/100×ρ)+
(V/100×ρ) (1)
ρ:誘電体セラミックスの磁器密度
ρ:主結晶相の理論密度
ρ:Ba−Al−Ti系酸化物の理論密度
ρ:Alの理論密度
ρ:Ndの理論密度
p:平均ボイド率
:主結晶相の体積比率
:Ba−Al−Ti系酸化物の体積比率
:Alの体積比率
:Ndの体積比率
なお、Ba−Al−Ti系酸化物,AlおよびNdの理論密度はJCPD
Sカードに記載されている計算密度を参照するとよい。
【0031】
また、算出した各結晶相の体積比率および理論密度をもちいて、各結晶相の質量比を算出することによって、各結晶相の質量比から主結晶相中に含まれるAl量を求めることができる。
【0032】
誘電体セラミックスに含まれるBa−Al−Ti系酸化物およびAlの質量比を関係式(2)式および関係式(3)式で算出する。
【0033】
B=(V×ρ)×100/((V×ρ)+(V×ρ)+(V×ρ)+(
×ρ)) (2)
C=(V×ρ)×100/((V×ρ)+(V×ρ)+(V×ρ)+(
×ρ)) (3)
B:Ba−Al−Ti系酸化物の質量比
C:Alの質量比
また、Ba−Al−Ti系酸化物中にあるAlの質量比は関係式(4)式で求めることができる。
【0034】
B′=B×D/E (4)
B′:Ba−Al−Ti系酸化物中にあるAlの質量比
D:Alの1モル(mol)当りの質量
E:Ba−Al−Ti系酸化物の1モル(mol)当りの質量
つまり、主結晶相以外の結晶相に含まれるAl量は関係式(5)式で求めることができる。
【0035】
MA=B′+C (5)
MA:主結晶相以外の結晶相に含まれるAl
したがって、以下の関係式(6)式によって、主結晶相に含まれるAlの含有量の全量中に占める割合を求めることができる。
【0036】
MA=(MA−MA)/MA×100 (6)
MA:主結晶相中に含有されるAl
MA:誘電体セラミックス中に含まれるAl量(原料で使用されるAl質量比)
MA:主結晶相以外の結晶相に含まれるAl
本実施形態において、主結晶相は、Alの含有量が50モル%(mol%)以上であると、AlのAlがタングステンブロンズ型結晶中のTiと置換しやすく、AlがTiと置換することによってタングステンブロンズ型結晶の歪みが緩和されると考えられ、比誘電率εrがより高く、品質係数Qf値がより高く、共振周波数の温度係数τfの絶対値をより小さくできる傾向がある。特に、主結晶相は、Alの含有量が65モル%(mol%)以上であることが好ましい。なお、Al量は質量%で規定してもよい。
【0037】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、Ba,Nd, TiおよびAl以外の元素(Oを除く)の含有量が酸化物換算で合計1.0質量%以下含むことが好ましい。
【0038】
本実施形態の誘電体セラミックスは、Ba,Nd, TiおよびAl以外の元素(Oを除く)を含むことができるが、その含有量は酸化物換算で合計1.0質量%以下であると、誘
電体セラミックスの焼結性が向上し、より高密度かつ高い機械的特性を有する傾向がある。なお、Ba,Nd, TiおよびAl以外の元素の例としては、Na,K,Ca,Mg,Sr,Fe,Si,La,Ce,PrおよびZrなどである。また、Na,K,Ca,Mg,Sr,Fe,Si,La,Ce,PrおよびZrは、誘電体セラミックスの粒界において、低融点化合物を形成しやすく、誘電体セラミックスの焼結温度よりも低温度域で液相を形成して焼結を促進させやすい。また、Na,K,Ca,Mg,Sr,Fe,Si,
La,Ce,PrおよびZrの少なくとも1つの含有量が酸化物換算で合計1.0質量%以
下であると、低融点化合物の含有量が多くなりすぎず、比誘電率や品質係数Qf値の低下、共振周波数の温度依存性が高まるのを抑制することができる。また、Ba,Nd, TiおよびAl以外の元素(Oを除く)の含有量は、酸化物換算で0.4質量%以下とするのが
より好ましい。
【0039】
なお、Na,K,Ca,Mg,Sr,Fe,Si,La,Ce,PrおよびZrの各元素の含有量は、Ba,Nd, TiおよびAlと同様に、誘電体セラミックスの一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いてNa,K,Ca,Mg,Sr,Fe,Si,La,Ce,PrおよびZrの含有量をそれぞれ測定し、これを酸化物換算してその合計量を算出することにより得られる。ここで、測定値の誤差は分析値をnとするとn±√nである。
【0040】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、比誘電率εr≧60,Qf≧13000GHz、25〜85℃における共振周波数の温度特性τfが−10ppm/℃以上20ppm/℃以下であ
ることが好ましい。
【0041】
本実施形態の誘電体セラミックスは上記特性を示すならば、比誘電率が高いので誘電体共振器の小型化が容易で、品質係数Qf値が高いので電気的損失が比較的に小さく、また、一般的な使用環境である25〜85℃における共振周波数の温度特性τfが小さいので温度変化が激しい環境での使用にも耐えられる傾向がある。
【0042】
また、本実施形態の誘電体セラミックスはその表面および内部の平均ボイド率が5%以下であることが好ましい。
【0043】
本実施形態の誘電体セラミックスは、平均ボイド率を5%以下とすると、比誘電率εr,品質係数Qf値の低下が生じにくく、誘電特性の低下が抑えられ、誘電特性が安定しやすい。より好ましくはボイド率を3%以下にすると、誘電特性が安定化しやすい。なお、本実施形態の誘電体セラミックスを含むセラミック体を誘電体共振器に配置するときにおいて、誘電体セラミックスの平均ボイド率を5%以下とすると、セラミック体の密度が低下しすぎることがないため、機械的特性の低下を抑えることができる。よって、セラミック体のハンドリング時や落下時、共振器内への取付け時、各基地局へ設置した後にかかる振動や衝撃が加わった時などに、セラミック体のカケ、割れ、破損が生じにくくなる。
【0044】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスの製造方法について説明する。例えば以下の工程(1)〜(7)により製造することが可能である。
【0045】
(1)原料として、高純度の炭酸バリウム(BaCO),酸化ネオジウム(Nd),酸化チタン(TiO),および酸化アルミニウム(Al)の各粉末を準備する。そして、BaCO,Nd,TiO,およびAlを所望の割合となるように秤量する。次に秤量された粉末に純水を加え、混合原料の平均粒径が2.0μm以
下となるまで1〜50時間、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより粉砕を行い、混合物を得る。
【0046】
(2)この混合物を乾燥後、900〜1300℃で1〜10時間仮焼して仮焼原料を得る。ここ
で、仮焼温度または仮焼時間を調整することで、主結晶相以外の結晶相の体積比率を任意に変更することができる。例えば、仮焼温度が低い場合または仮焼時間が短い場合は主結晶相の合成が進みづらくなり、誘電体セラミックス中に主結晶相以外の結晶相の体積比率が増加しやすくなる。
【0047】
(3)得られた仮焼原料を平均粒径0.5〜3μmとなるまで、ボールミル等により粉砕
し、得られた混合物を容器に移し、この仮焼原料を、例えば、ASTM E 11−61に記載されている粒度番号が80のメッシュの篩いに通すことによって、分級された仮焼粉末を得る。なお、仮焼原料の粉砕には、ボールミルの代わりに増幸産業社製のマスコロイダーを用いてもよい。
【0048】
(4)(3)で得られた仮焼粉末に純水を加えた後、平均粒径が2.0μm以下となるま
でジルコニアボール等を使用したボールミルにより混合を行う。
【0049】
(5)3〜10質量%のバインダ、例えば、パラフィンワックスやアクリル系ポリマー,ウレタン系ポリマー,ポリビニルアルコール(PVA),またはポリエチレングリコール(PEG)等の有機バインダを加えて、その後、例えばスプレードライ法等により造粒または整粒し、得られた造粒体又は整粒粉体等を、例えば金型プレス法、冷間静水圧プレス法、又は押し出し成形法等により任意の形状に成形する。
【0050】
(6)得られた成形体を大気雰囲気中1350℃〜1550℃で1〜10時間保持して焼成し焼成体を得る。より好ましくは1400〜1500℃で焼成するのがよい。
【0051】
(7)必要に応じて、得られた焼成体を酸素5〜30体積%以上含むガス中において、温度900〜1500℃,圧力0.1〜300MPaで、30分〜100時間熱処理する。より好ましくは、温度1000〜1300℃,圧力1〜1000気圧で1〜60時間熱処理するのがよい。
【0052】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスを使用した誘電体共振器の一例について以下に説明する。
【0053】
図1は、本実施形態の誘電体共振器の断面を示す模式図である。
【0054】
図1に示すように、本実施形態の誘電体共振器1は、金属ケース2,入力端子3,出力端子4,セラミック体5および載置台6を有する。金属ケース2は、軽量なアルミニウム等の金属からなり、入力端子3および出力端子4は、金属ケース2の内壁の相対向する両側に設けられている。また、セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスを含む。そして、セラミック体5は、入力端子3と出力端子4の間に配置され、フィルタとして用いられている。このような誘電体共振器1において、入力端子3からマイクロ波が入力されると、入力されたマイクロ波は、セラミック体5と自由空間との境界における反射によってセラミック体5内に閉じこめられ、特定の周波数で共振を起こす。そしてこの共振した信号が出力端子4と電磁界結合することにより、金属ケース2の外部に出力される。
【0055】
本実施形態の誘電体共振器1は、セラミック体5として本実施形態の誘電体セラミックスを用いれば、このように、本実施形態の誘電体セラミックスは、携帯電話の基地局に使用される種々の共振器用材料として好適に利用できる。
【0056】
なお、本実施形態の誘電体セラミックスは上記に限定されず、入力端子3および出力端子4をセラミック体5に直接設けてもよい。また、セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は直方体、立方体,板状体,円板,円柱,多角柱、またはその他共振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は500MHz〜500GHz程度であり、共振周波数としては700
MHz〜80GHz程度が実用上好ましい。
【0057】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、各種共振器用材料以外に、MIC(Monolithic IC)用誘電体基板材料、誘電体導波路用材料、誘電体アンテナまたは積層型セラミ
ックコンデンサの誘電体材料等に使用してもよい。
【実施例1】
【0058】
本実施の形態によるBaO−Nd−TiO−Al系材料のモル比a、b、c、およびdの値と仮焼温度を種々変更して試料を作製し、比誘電率εr,Q値および共振周波数の温度係数の測定をした。また、平均ボイド率、結晶相の体積比率を測定し、主結晶相の理論密度および主結晶相のAlモル%を算出した。製造方法および特性測定方法の詳細を以下に説明する。
【0059】
出発原料として、純度99.5質量%以上のBaCO,Nd,TiOおよびAlを準備した。
【0060】
【表1】

【0061】
次に、それぞれの材料を表1の割合となるように秤量する。そして、BaCO,Nd,TiOおよびAlを混合したものを、ボールミル内に投入し、ボールミル内に純水を加える。その後、混合原料の平均粒径が0.5〜3.0μmの範囲内となるまで、ジルコニアボールを使用したボールミルにより粉砕して混合物を得た。
【0062】
そして、得られた混合物を乾燥後、表1に示した仮焼温度で仮焼し仮焼原料を得て、そ
の仮焼原料をASTM E 11−61に記載されている粒度番号が80のメッシュの篩いに通すことによって、分級された仮焼粉末を得た後、その仮焼粉末に純水を加えて1〜30時間、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより粉砕を行うことによって0.5〜2μmの
平均粒径となるようにし、表1に示す試料No.1〜38のスラリーをそれぞれ得た。
【0063】
次に、上記スラリーに、それぞれ3〜10質量%のポリビニルアルコールを加えてから所定時間混合した後、このスラリーをスプレードライヤーで噴霧造粒して2次原料を得た。この2次原料を金型プレス成形法によりφ20mm,高さ15mmの円柱体に成形し成形体を得た。
【0064】
得られた成形体を大気雰囲気中1400℃〜1500℃で2時間保持して焼成し、試料No.1〜38を得た。なお、これら試料は、焼成後に上下面と側面の一部に研磨加工を施し、アセトン中で超音波洗浄を行ったものである。
【0065】
次に、これら試料No.1〜38について、誘電特性を評価した。誘電特性の評価は、試料No.1〜38を用いて誘電体円柱共振器法(国際規格IEC61338-1-3(1999))により測定周波数4〜5GHzにおける比誘電率εrとQ値を測定した。なお、Q値については測定周波数fとの積で表される品質係数Qf値に換算している。また、25〜85℃の温度範囲における共振周波数を測定し、25℃での共振周波数を基準にして25〜85℃の共振周波数の温度係数τfを算出した。なお、試料は入力端子および出力端子が接続された金属キャビティ内にセットされ、その金属キャビティを恒温槽内にセットした後、所望の温度で観測される共振周波数を測定して、25〜85℃の共振周波数の温度係数τfは次の(7)式で算出することができる。
【0066】
τf=(f85−f25)/f25/(85−25) (7)
ここで、f85は85℃のときに測定された共振周波数、f25は25℃のときに測定された共振周波数である。
【0067】
また、平均ボイド率は100μm×100μmの範囲が観察できるように、任意の倍率に調節した金属顕微鏡により、誘電体セラミックスの磁器表面および内部断面の数カ所を写真または画像として撮影し、この写真または画像を画像解析装置により解析することにより、単位面積あたりのボイドの面積が占める割合をボイド率として、数カ所のボイド率を算出し、この平均値を求めることで算出した。
【0068】
また、主結晶相および主結晶相以外の結晶相の体積比率を求める。体積比率を求める方法は、例えば、100μm×100μmの範囲が観察できるように、任意の倍率に調節した金属顕微鏡,SEM,BEMおよびEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により、誘
電体セラミックスの磁器表面および内部断面の数カ所を写真または画像として撮影し、この写真または画像を画像解析装置により解析することにより、数カ所の結晶相比率を算出し、この平均値を求めることで算出した。なお、主結晶相および主結晶相以外の結晶相の特定は、TEMによる電子回折法により求めた。なお、試料No.1〜38をTEMによる電子回折法により、主結晶相以外の結晶相を同定したところ、試料No.1〜36はBa1.23Al2.46Ti5.5416(表2中では、BATと表記),AlまたはNdであることがわかった。また、試料No.37および38は、主結晶相以外の結晶相が、BaTi,NdTiおよびNdAlOであることがわかった。
【0069】
そして、平均ボイド率および結晶相比率から主結晶相の理論密度を算出した後、上述した(2)〜(6)式を用いて主結晶相に含有するAl量を算出した。
【0070】
これらの測定結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2から、主結晶相を一般式aBaO・bNd・cTiO・dAlと表したとき、モル比a,b,c,dがそれぞれ、13.50≦a≦16.10,17.60≦b≦19.40,59.80≦c≦66.10,1.70≦d≦5.80,a+b+c+d=100を満足する範囲にあるとともに、主結晶相以外の結晶相が、Ba−Al−Ti系酸化物,Al,Ndまたはこれ
らの混合物からなる誘電体セラミックスである試料No.2〜8,11〜17,20〜26,29〜35は、主結晶相を一般式aBaO・bNd・cTiO・dAlと表したとき、モル比a,b,c,dがそれぞれ、13.50≦a≦16.10,17.60≦b≦19.40,59.80≦
c≦66.10,1.70≦d≦5.80,a+b+c+d=100を満足する範囲外にある試料No.1,
9,10,18,19,27,28,36〜29,37および38と比べて、比誘電率εr,品質係数Qf値および25〜85℃の共振周波数の温度係数τfの値において、誘電特性が良好に維持できる傾向があった。なお、とりわけ、主結晶相以外の結晶に、Ba−Al−Ti系酸化物,AlまたはNd以外の成分を含む試料No.37,38と比べて、誘電特性を良好に維持できる傾向があった。
【0073】
また、主結晶相を一般式aBaO・bNd・cTiO・dAlと表したとき、モル比a,b,c,dがそれぞれ、13.50≦a≦16.10,17.60≦b≦19.40,59.80
≦c≦66.10,1.70≦d≦5.80,a+b+c+d=100を満足する範囲にあるとともに、主結
晶相以外の結晶相が、Ba−Al−Ti系酸化物,Al,Ndまたはこれら
の混合物からなる誘電体セラミックスである試料No.2〜8,11〜17,20〜26,29〜35において、主結晶相以外の結晶相の占める体積比率が10体積%以下である試料No.2〜7,11〜17,20〜26,および29〜35は、比誘電率εr≧60,品質係数Qf≧13000GHz
,25〜85℃における共振周波数の温度特性τfが−10ppm/℃以上20ppm/℃以下となり、より良好な特性を維持できる傾向があることがわかった。
【0074】
またさらに、試料No.2〜7,11〜17,20〜26,および29〜35において、主結晶相のAlの含有量が50モル%以上である試料No.3〜7,12〜17,21〜25および30〜34は、より良好な特性が得られる傾向があることがわかった。
【実施例2】
【0075】
次に、誘電体セラミックス中のBa,Nd,TiおよびAl以外の元素(Oを除く)の合計含有量が誘電特性に与える影響について確認する試験を実施した。
【0076】
試験に用いる試料の作製は、仮焼原料を粉砕する際に、予め準備した炭酸ナトリウム(NaCO),炭酸カリウム(KCO),炭酸カルシウム(CaCO),炭酸マグネシウム(MgCO),炭酸ストロンチウム(SrCO),酸化鉄(Fe),酸化ケイ素(SiO),酸化ランタン(La),酸化セリウム(CeO),酸化プラセオジウム(Pr11)および酸化ジルコニウム(ZrO)の少なくとも1つを表2に示す量を添加して、実施例1と同様の製造方法により実施した。また、表3に示す、資料No.39〜49の試験組成については、前記各成分の含有量以外は実施例1の表1に示す試料No.20と同様の組成とした。製造した試料No.39〜49については、比誘電率εr,品質係数Qf値,共振周波数の温度係数τfを実施例1と同様の測定方法により測定した。
【0077】
結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
表3に示すように、1.0質量%以下では、試料No.21と比較して、特性値の低下を抑
制できることがわかった。
【0080】
また、表2の試料No.39〜49によれば、Ba,Nd, TiおよびAl以外の元素の合計含有量は、酸化物換算で0.4質量%以下とすれば、試料No.20と比較して、比誘電率
εr,品質係数Qf値がより高く、また共振周波数の温度係数τfがより小さくなり、さらに好ましいことがわかった。
【実施例3】
【0081】
次に、BaO−Nd−TiO−Al系材料の平均ボイド率が誘電特性に与える影響について確認する試験を実施した。
【0082】
試験に用いる試料の作製は、焼成保持時間をそれぞれ10,8,6,4,3,2時間と変更した以外は実施例1と同様の製造方法により実施した。また、表4に示す、資料No.50〜55の組成については、表1に示す試料No.20と同様の組成とした。なお、焼成保持時間が長くなるほど、平均ボイド率は大きくなる。製造した試料No.50〜55については、比誘電率εr、品質係数Qf値、25〜85℃の共振周波数の温度係数τfを実施例1と同様の測定方法により測定した。また、平均ボイド率については、誘電体セラミックス表面
の100μm×100μmの範囲が観察可能なSEM写真を数カ所とり、これを画像解析装置(ニレコ社製LUZEX−FS)により解析して、数カ所のボイド率を算出し、この平均値を求めることで算出した。
【0083】
結果を表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
表4に示すように、試料No.50〜55は、平均ボイド率が5%以下であるので、比誘電率εr,品質係数Qf値の低下が生じにくく、誘電特性の低下が抑えられ、誘電特性が安定しやすいので、比誘電率εrは、平均ボイド率が小さくなるに従い特性が向上する傾向を示した。
【符号の説明】
【0086】
1:誘電体共振器
2:金属ケース
3:入力端子
4:出力端子
5:セラミック体
6:載置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaO,Nd,TiOおよびAlを含有する主結晶相と、該主結晶以外の結晶相とを含んでなる誘電体セラミックスであって、前記主結晶相を一般式aBaO・bNd・cTiO・dAlと表したとき、モル比a,b,c,dがそれぞれ、13.50≦a≦16.10,17.60≦b≦19.40,59.80≦c≦66.10,1.70≦d≦5.80,a+b+c+d=100を満足する範囲にあるとともに、
前記主結晶相以外の結晶相は、Ba−Al−Ti系酸化物,Al,Ndまた
はこれらの混合物からなることを特徴とする誘電体セラミックス。
【請求項2】
前記Ba−Al−Ti系酸化物は、Ba1.23Al2.46Ti5.5416であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミックス。
【請求項3】
前記主結晶相以外の結晶相の占める体積比率が10体積%以下(0を含まず)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘電体セラミックス。
【請求項4】
Ba,Nd,TiおよびAl以外の元素(Oを含まず)の含有量が酸化物換算で合計1.0質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の誘電体セラミックス。
【請求項5】
比誘電率εr≧60,無負荷品質係数Qと周波数fとの積Qf≧13000GHz,25〜85℃における共振周波数の温度特性τfが−10ppm/℃以上20ppm/℃以下であることを特徴とする請求項3乃至4のいずれかに記載の誘電体セラミックス。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の誘電体セラミックスを用いたことを特徴とする誘電体共振器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−46387(P2012−46387A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190993(P2010−190993)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】