説明

誘電体層を用いたリフレクタおよびその製造方法

【課題】高い増反射効果を示す曲面リフレクタを提供する。
【解決手段】曲面形状の金属反射面22上に積層された複数層からなる誘電体層23は、光源10から入射する光線の入射角に応じて膜厚が分布している。入射角が大きい領域5は膜厚が厚く、入射角が小さい領域2は膜厚が薄く形成されている。例えば、光源10から入射する光線の主軸6方向についてを膜厚Lを一定とする。誘電体層は、増反射膜の構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体多層膜を用いたリフレクタに関する。
【背景技術】
【0002】
金属薄膜層を用いたリフレクタに、増反射膜と呼ばれる所定の構成の誘電体多層膜を積層することにより、金属薄膜層単体よりも反射率を高めることができる。一般的な増反射膜は、高屈折率薄膜層と低屈折率薄膜層の膜厚をそれぞれλ/4n(λは入射光の波長、nは薄膜の屈折率)に設定している。特許文献1には、金属薄膜層に接する低屈折率薄膜層の厚さをλ/4nよりも薄い特定の範囲にすることにより、さらに反射率を向上させることができると開示している。また、特許文献1の第4頁には、特許文献1の反射体は、理由は定かでないが、可視光線のほぼすべての広い波長領域において金属層単膜よりも高い反射率を実現することが可能であると記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、マイクロミラーの表面に増反射膜を配置することが開示されている。特許文献3には、イオンアシスト蒸着法により増反射膜を形成する方法が開示されている。
【0004】
一方、特許文献4には、露光装置のように、短波長光用の曲率半径の小さなレンズを用いる光学装置において、レンズ表面の光学薄膜(反射膜や反射防止膜)に膜厚ムラがあると光学性能が十分に発揮できないため、均一に成膜する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表WO2004/074887号公報
【特許文献2】特開2010−2776号公報
【特許文献3】特開2008−260978号公報
【特許文献4】特開2007−93894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らによれば、曲面のリフレクタで単色光を反射すると、平面のリフレクタよりも増反射効果が低減することがわかった。例えば、所定構成の増反射膜を備えた平面リフレクタについて、波長550nmにおける増反射効果を、金属薄膜層単体に対する反射光束の増加により測定すると、6%程度の反射光束の増加が得られるのに対し、同じ構成の増反射膜を備えた曲面のリフレクタでは、3%程度しか得られない。
【0007】
これは、従来の増反射膜は、特許文献1および2のように平面のリフレクタにおいて増反射効果を高める構造であるため、曲面のリフレクタの場合にその形状が増反射効果に与える影響が考慮されていないためであると推測される。また、従来は、特許文献3に記載のように、曲面の光学素子に均一な誘電体多層膜を成膜することが望まれていた。
【0008】
本発明の目的は、高い増反射効果を示す曲面リフレクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様によれば、曲面形状の金属反射面と、金属反射面上に積層された複数層からなる誘電体層とを備えるリフレクタであって、誘電体層は、光源から入射する光線の主軸方向についての膜厚が一定とした構造のものが提供される。
【0010】
また、本発明の第2の態様によれば、曲面形状の金属反射面と、金属反射面上に積層された複数層からなる誘電体層とを備えるリフレクタであって、誘電体層は、光源から入射する光線の入射角に応じて膜厚が分布しており、入射角が大きい領域は膜厚が厚く、入射角が小さい領域は膜厚が薄く形成されている構造のものが提供される。
【0011】
誘電体層は、例えば増反射膜を用いる。金属反射面は、例えば、光源からの光を直角に曲げる形状のものを用いる。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、曲面形状の金属反射面に、気相成長法により誘電体層を成膜する工程を含むリフレクタの製造方法であって、気相成長法により膜が成長する方向と、金属反射面に入射する光の主軸方向とを一致させて、誘電体層を成膜する方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、曲面の金属反射面上の誘電体層の膜厚を光源からの光線の入射方向に応じて設定したことにより、光の入射角によって誘電体層の光学特性が発揮されないという現象を防止し、誘電体層の全面で所定の光学特性、すなわち増反射効果を得ることができる。これにより、増反射効果の高い曲面リフレクタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態の曲面リフレクタ20と発光素子10の構成と、光の入射方向を示す説明図。
【図2】比較例の曲面リフレクタと発光素子の構成と、光の入射方向を示す説明図。
【図3】(a)および(b)比較例の曲面リフレクタの誘電体多層膜の製造方法を示す説明図、(c)実施形態の曲面リフレクタの誘電体多層膜の製造方法を示す説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。
【0016】
本発明では、曲面リフレクタでは光源との位置関係により、リフレクタ面への光の入射角が異なることを考慮し、曲面リフレクタの増反射効果を高める。すなわち、誘電体薄膜を用いた増反射効果は、入射光の角度に対し依存し、光入射角が大きくなるにつれ、増反射の中心波長は短い方へシフトするため、波長シフトを抑制するために、入射角度が大きいリフレクタ面では誘電体薄膜の膜厚を厚くする。これにより、LEDのように単色光に近い光源を使用した場合であっても、曲面リフレクタの全面で増反射を生じさせる。
【0017】
以下、図1を用いて本実施形態の発光装置の構造を説明する。
【0018】
図1のように、本発光装置は、発光素子10と曲面リフレクタ20とを含む。ここでは、発光素子10は、曲面リフレクタ20の下端とほぼ水平に配置されている。曲面リフレクタ20は、凹型の曲面を有する筺体21の曲面に、金属膜22と、誘電体多層膜23とを積層した構造である。筺体21の曲面形状は、発光素子10から放射状に出射された光が、金属層22および誘電体多層膜23で、発光素子10の出射光の主軸6に対してほぼ90°の方向に向かって反射されるように設計されている。
【0019】
金属層22は、AlやAg等の反射率の高い材料により形成されている。誘電体多層膜23は、金属層22側に配置された低屈折率層とその上に配置された高屈折率層とを組として、これをひと組以上積層した構造であり、発光素子10からの光に対して増反射効果を発揮する。低屈折率層は、例えば二酸化ケイ素膜や、酸化アルミニウム膜を用いる。高屈折率層は、低屈折率層よりも屈折率の高い、例えば酸化チタンや酸化ジルコニウム層を用いる。
【0020】
低屈折率層と高屈折率層は、それぞれの界面で反射された光束が互いに干渉し強めあうことにより、金属層22単体のみによる反射率よりも増幅された反射率を示す。
【0021】
誘電体多層膜23の膜厚について説明する。本発明では、発光素子10から放射状に放射された光が誘電体多層膜23に入射する際の入射角が大きい領域では、基板面に垂直な方向についての膜厚が大きくなるようにした。これを実現するため、具体的には、発光素子10の出射光の主軸6に平行な方向についての誘電体多層膜23の膜厚Lが、湾曲した誘電体多層膜23の各部(全面)において一定になるようにした。
【0022】
このようにすると、図1のように誘電体多層膜23への入射角が領域2,3,4,5の順で大きくなるに従い、基板面に垂直な方向の膜厚も順に大きくなるため、増反射の中心波長を誘電体多層膜23の広い領域で一定に保ち、増反射効果を発揮することができる。
【0023】
これに対し、比較例として、図2に示すように、一様な膜厚の誘電体多層膜33を備えた曲面リフレクタ30を用いた場合には、誘電体多層膜23への入射角が領域12,13,14,15の順で大きくなっても、膜厚は一定であるため、増反射の中心波長を誘電体多層膜23が短波長側にシフトする。発光素子10の出射波長は、一定にであるため、一部の領域のみでしかの増反射効果を得ることができず、全体の反射率を高めることができない。
【0024】
本実施形態の誘電体多層膜23の湾曲した低屈折率層と高屈折率層は、上述のように発光素子10の出射光の主軸6に平行な方向の膜厚L(均一膜厚成長方向についての膜厚L)が各部において一定であるが、この膜厚Lは、以下のように定める。すなわち、発光素子10の出射光の主軸6に平行な方向の膜厚Lは、増反射膜の条件であるd=λ/4n(λ:発光素子10の出射光波長、n:屈折率)によって定まるdに対して、L=d/(cosθ)(ここでは、θ=45°)を満たす値に設定する。もしくは、特許文献1等に記載されている公知の平板状の増反射膜の条件を満たす膜厚dに対して、L=d/(cos45°)を満たす値となるように設定する。なお、θ=45°としているのは、本実施形態の曲面リフレクタ20が発光素子10からの光を主軸6に対して90°の方向に向かって反射する反射角δ=90°のリフレクタであり、誘電体多層膜23への入射角の中心角θ=δ/2=45°だからである。よって、θは、曲面リフレクタ20の反射角δに応じて、θ=δ/2に設定する。
【0025】
上記のような膜厚を有する誘電体多層膜23の成膜方法としては、蒸着、スパッタ、イオンプレーティング等の気相成長法を用いることができる。具体的には、平面の成膜対象物(基板)を配置した場合に均一な膜厚で膜が成長する方向(均一膜厚成長方向)41を確認し、この均一膜厚成長方向が、曲面リフレクタ20の発光素子10の出射光の主軸6の方向と一致するように筺体21を配置して成膜を行う方法を用いる。これにより、膜厚の変化した誘電体多層膜23を比較的容易に成膜することができる。
【0026】
実際に、図3(a),(b),(c)に示したように、筺体21の向きを、発光素子10の出射光の主軸6の方向が均一膜厚成長方向41に対して、それぞれ垂直、45°、平行、に設定し、誘電体多層膜23を成膜し、曲面リフレクタ20の試料を作成した。図3(c)の試料は、均一膜厚成長方向41と主軸6の方向が平行であり、本実施形態の図1の構造の均一膜成長方向41の膜厚Lが一定の誘電体多層膜23が成膜された。図3(a)の試料は、誘電体多層膜23の膜厚の変化が、本実施形態の図3(c)の試料とは逆向きであった。図3(b)の試料は、誘電体多層膜23の膜厚変化が小さかった。
【0027】
これらに発光素子10からの光を入射し、反射光束の量を測定したところ、金属層22のみの場合と比較した反射光束の増加率は、図3(a)の試料で1%、図3(b)の試料で3%であったのに対し、本実施形態の図3(c)の試料は6%であった。
【0028】
これらのことから、本実施形態の、基板面に垂直な方向の膜厚が変化した誘電体多層膜23を備えた曲面リフレクタおよびその成膜方法は、増反射効果を高めることに有効であることが確認できた。
【0029】
本発明では、曲面のリフレクタの増反射効果を高めることができるため、発光素子等の光源と組み合わせることにより、光量の大きな発光装置を得ることができる。このような発光装置は、例えば車両用のヘッドランプや、液晶表示装置のバックライト装置、プロジェクタ装置の光源、室内・屋外照明等の照明装置として適している。また、本発明の曲面リフレクタの用途は、発光装置に限られるものではなく、曲面リフレクタを用いるすべての装置に適用可能である。
【0030】
また、本発明は、誘電体多層膜を備えた曲面リフレクタについて説明したが、リフレクタに限らず、誘電体多層膜を曲面に成膜して使用する製品全般に適用することが可能である。
【0031】
上述の実施形態では、光源として発光素子を用いた場合について説明したが、本発明の光源は、単色光を発する発光素子に限定されるものではなく、単色光ではない光源、発光素子ではないランプ等の光源を用いることももちろん可能である。
【符号の説明】
【0032】
2〜5…領域、6…出射光の主軸、10…発光素子、20…曲面リフレクタ、21…筺体、22…金属層、23…誘電体多層膜、33…誘電体多層膜、41…均一膜厚成長方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面形状の金属反射面と、前記金属反射面上に積層された複数層からなる誘電体層とを備え、
前記誘電体層は、光源から入射する光線の主軸方向についての膜厚が一定であることを特徴とするリフレクタ。
【請求項2】
曲面形状の金属反射面と、前記金属反射面上に積層された複数層からなる誘電体層とを備え、
前記誘電体層は、光源から入射する光線の入射角に応じて膜厚が分布しており、前記入射角が大きい領域は膜厚が厚く、入射角が小さい領域は膜厚が薄く形成されていることを特徴とするリフレクタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリフレクタにおいて、前記誘電体層は、増反射膜であることを特徴とするリフレクタ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のリフレクタにおいて、前記金属反射面は、光源からの光を直角に曲げる形状であることを特徴とするリフレクタ。
【請求項5】
曲面形状の金属反射面に、気相成長法により誘電体層を成膜する工程を含むリフレクタの製造方法であって、
前記気相成長法により膜が成長する方向と、前記金属反射面に入射する光の主軸方向とを一致させて、前記誘電体層を成膜することを特徴とするリフレクタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−203359(P2011−203359A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68548(P2010−68548)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】