説明

誘電体磁器組成物及び電子部品

【課題】 中間域のεを発現でき、ε及びQuのバランスを保持しながらτを小さくコントロールできる誘電体磁器組成物及びこれを用いた電子部品を提供する。
【解決手段】 Ca及びSrの少なくとも一方と、Tiと、Alと、Nb及びTaの少なくとも一方と、Oとの各元素を含有し、これらの元素について、組成式[aMO−bTiO−(1/2)cAl−(1/2)dM](但し、MはCa及び/又はSrであり、MはNb及び/又はTaであり、a、b、c及びdは各々モル比を表わし、且つ、a+b+c+d=1である)と表した場合に下記条件を満たす。0.436<a≦0.500、0.124<b≦0.325、0.054<c≦0.150且つ0.170<d<0.346。本電子部品は、本組成物からなる誘電体部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電体磁器組成物及びこれを用いた電子部品に関する。更に詳しくは、比誘電率(ε)が比較的高く、無負荷品質係数(Qu)が大きく、且つ共振周波数の温度係数(τ)の絶対値が小さい誘電体磁器組成物及びこれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動体通信及び衛星放送など、マイクロ波領域の電磁波を利用した各種の通信システムが急速に発展し、これに伴って多くの誘電体材料が開発されている。これらの誘電体材料では、比誘電率(ε)、無負荷品質係数(Qu)及び共振周波数の温度係数(τ)の3つの誘電特性が重視され、概ねεはその値が大きいこと、Quはその値が大きいこと、τはその絶対値が小さいこと、が要求される。しかし、これらは相反するものであり、同時に全てを達することは困難である。このため、目的の範囲で各特性をコントロールできることが望まれている。
従来、上記のような用途で使用される誘電体材料として、下記特許文献1に開示されたεが20〜30程度であるBaO−ZnO−Ta系材料(BaZnTa系)、及び、下記特許文献2に開示されたεが60〜80程度であるBaO−RE−TiO(RE:希土類元素)系材料(BaRETi系)が知られており、高周波用の共振器やフィルタの材料として実用化されている。しかし、未だこれらの材料の中間的なεを発揮する材料は少なく、近年、中間的なεを発揮する高周波用途の材料が求められている。
このような材料としては、下記特許文献3及び4に開示されたCaO−TiO−Al−Nb系材料(CaTiAlNb系)が知られている。更に、本発明者らによる下記特許文献5が知られている。
【0003】
【特許文献1】特公昭59−48484号公報
【特許文献2】特公昭59−37526号公報
【特許文献3】特開2001−302331号公報
【特許文献4】特開2001−302333号公報
【特許文献5】特開2002−308670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献3及び4の材料はτのばらつきが大きい。このため、バランスのよい各誘電特性を細かく網羅するということが困難である。また、上記特許文献5の材料はτのばらつきが抑えられ、Quも比較的大きく優れた材料であるが、εが多少小さめであるという問題がある。
本発明は上記観点に鑑みてなされたものであり、上記中間域のεを発現でき、ε及びQuのバランスを保持しながらτを小さくコントロールできる誘電体磁器組成物及びこれを用いた電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示す通りである。
(1)Ca及びSrの少なくとも一方と、Tiと、Alと、Nb及びTaの少なくとも一方と、Oとの各元素を含有し、
これらの元素について、組成式[aMO−bTiO−(1/2)cAl−(1/2)dM](但し、MはCa及び/又はSrであり、MはNb及び/又はTaであり、a、b、c及びdは各々モル比を表わし、且つ、a+b+c+d=1である)と表した場合に下記条件を満たすことを特徴とする誘電体磁器組成物。
0.436<a≦0.500
0.124<b≦0.325
0.054<c≦0.150
0.170<d<0.346
(2)上記a、上記b、上記c及び上記dが下記条件を満たす上記(1)に記載の誘電体磁器組成物。
0.436<a≦0.500
0.124<b≦0.300
0.062<c≦0.150
0.170<d<0.346
(3)上記a、上記b、上記c及び上記dが下記条件を満たす上記(1)に記載の誘電体磁器組成物。
0.436<a≦0.500
0.124<b≦0.275
0.069<c≦0.150
0.170<d<0.346
(4)上記a、上記b、上記c及び上記dが下記条件を満たす上記(1)に記載の誘電体磁器組成物。
0.444<a≦0.500
0.133<b≦0.275
0.075<c≦0.150
0.170<d≦0.323
(5)上記a、上記b、上記c及び上記dが下記条件を満たす上記(1)に記載の誘電体磁器組成物。
0.451<a≦0.500
0.141<b≦0.275
0.079<c≦0.150
0.170<d≦0.300
(6)本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、MnをMnO換算で0.01〜5モル%含有する上記(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(7)本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、MnをMnO換算で0.01〜2モル%含有する上記(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(8)本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、MnをMnO換算で0.01〜1モル%含有する上記(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(9)本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、MnをMnO換算で0.01〜0.6モル%含有する上記(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(10)本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、希土類元素REをRE換算で0.1〜10モル%含有する上記(1)乃至(9)のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(11)本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、希土類元素REをRE換算で0.1〜8モル%含有する請求項1乃至9のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(12)本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、希土類元素REをRE換算で0.1〜6モル%含有する上記(1)乃至(9)のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(13)上記希土類元素REは、La、Nd、Sm、Y及びYbのうちの少なくとも1種である上記(10)乃至(12)のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(14)本誘電体磁器組成物に含有されるTiの全量を100モル%とした場合に、Tiの30モル%未満がZr及び/又はSnに置換された上記(1)乃至(13)のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(15)本誘電体磁器組成物に含有されるAlの全量を100モル%とした場合に、Alの30モル%未満がGa、Y及びYbのうちの少なくとも1種に置換された上記(1)乃至(14)のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(16)本誘電体磁器組成物に含有されるMの全量を100モル%とした場合に、Mの30モル%未満がSbに置換された上記(1)乃至(15)のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
(17)上記(1)乃至(16)のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物からなる誘電体部を備えることを特徴とする電子部品。
【発明の効果】
【0006】
本発明の誘電体磁器組成物によれば、45〜65程度のεを発現でき、ε及びQuのバランスを保持しながらτの絶対値を小さくコントロールできる。このため、バランスのよい誘電特性を細かく網羅することができ、種々目的に応じて誘電特性を選択できる。特にεの値の選択性を得ることができ、更に、ε及びQuのバランスを保持しながらτの絶対値の小さい特性を得ることができる。
MnをMnO換算で5モル%以下含有する場合は、誘電特性にほとんど影響なく焼成時の酸素が供給されて、安定して目的とする誘電特性が得られる。
REをRE換算で10モル%以下含有する場合は、各誘電特性のコントロールの自由度をより広くできる。
REがLa、Nd、Sm、Y及びYbのうちの少なくとも1種である場合は、特にεを保持しつつ、Qu及びτを向上させることができる。
Tiの30モル%未満がZr及び/又はSnに置換された場合は、非置換時における各誘電特性値の近傍で各誘電特性をコントロールすることができ、所望の誘電特性の組み合わせを細かく網羅することができ、種々目的に応じて誘電特性を選択できる。特にTiをZrで置換した場合はε及びQuにほとんど影響を与えることなくτの絶対値を小さくすることができる。また、TiをSnで置換した場合はεにほとんど影響を与えることなくτ及びQuを細かくコントロールできる。
Alの30モル%未満がGa、Y及びYbのうちの少なくとも1種に置換された場合は、各誘電特性を非置換時における各誘電特性値の近傍でコントロールすることができる。特にY及びYbにより置換した場合は、τの絶対値を小さくすることができる。
の30モル%未満がSbに置換された場合は、特に焼結性が向上され、安定して目的とする誘電特性が得られる。
本発明の電子部品によると、45〜65程度のεを発現でき、ε及びQuのバランスを保持しながらτを小さくコントロールできる。このため、バランスのよい誘電特性を細かく網羅した各電子部品を得ることができる。特にεの値の選択性を得ることができ、更に、ε及びQuのバランスを保持しながらτの小さい特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下詳細に説明する。
本発明の誘電体磁器組成物は、Ca、Ti、Al、Nb及びOの各元素を含有してなる誘電体磁器組成物であって、組成式[aMO−bTiO−(1/2)cAl−(1/2)dM](但し、a、b、c及びdは各々モル比を表わし、a+b+c+d=1である。)により表した場合に、0.436<a≦0.500、0.124<b≦0.325、0.054<c≦0.150、0.170<d<0.346であることを特徴とする。尚、以下、この組成式を組成式[1]ともいう。
【0008】
上記「M」は、Ca及びSrのうちの少なくとも一方を表す。従って、MがCaのみである場合、組成式[1]は[aCaO−bTiO−(1/2)cAl−(1/2)dM]と表され、Srのみである場合、組成式[1]は[aSrO−bTiO−(1/2)cAl−(1/2)dM]と表され、Ca及びSrの両方である場合、組成式[1]は[a(Ca1−xSr)O−bTiO−(1/2)cAl−(1/2)dM]と表される。但し、xは0<x<1である。
即ち、Mは「Caのみ」、「Ca及びSrの両方」、「Srのみ」のいずれであってもよい。CaとSrとは任意の割合で置換することができる。Mが「Ca及びSrの両方」である場合、上記xの範囲は特に限定されないが、例えば、0.01≦x≦0.5とすることができ、更に0.01≦x≦0.3とすることができ、特に0.01≦x≦0.1とすることができる。
【0009】
上記「a」は、組成式[1]中のMOのモル比を表す。このaは、0.436<a≦0.500であり、0.444<a≦0.500が好ましく、0.451<a≦0.500がより好ましい。この範囲ではεを保持しつつ、特に大きなQuを得られる。
【0010】
上記「b」は、組成式[1]中のTiOのモル比を表す。このbは、0.124<b≦0.325であり、0.124<b≦0.300が好ましく、0.124<b≦0.275がより好ましく、0.133<b≦0.275が更に好ましく、0.141<b≦0.275が特に好ましい。この範囲ではεを保持しつつ、特にτの絶対値を小さく抑えることができる。
【0011】
このTiは、その一部がZr及び/又はSnにより置換されてもよい。即ち、Zrのみに置換されている場合、組成式[1]は[aMO−b(Ti1−αZrα)O−(1/2)cAl−(1/2)dM]と表され、Snのみにより置換されている場合、組成式[1]は[aMO−b(Ti1−βSnβ)O−(1/2)cAl−(1/2)dM]と表され、Zr及びSnの両方である場合、組成式[1]は[aMO−b(Ti1−α−βZrαSnβ)O−(1/2)cAl−(1/2)dM]と表される。
【0012】
このTiのZr及び/又はSnによる置換量は、特に限定されないが、本誘電体組成物に含有されるTiの全量を100モル%とした場合に30モル%未満であることが好ましい(0.01〜10モル%がより好ましく、0.01〜5モル%が特に好ましい)。即ち、β=0である場合は0<α<0.3が好ましい(0.01≦α≦0.1がより好ましく、0.01≦α≦0.05が特に好ましい)。また、α=0である場合は0<β<0.3が好ましい(0.01≦β≦0.1がより好ましく、0.01≦β≦0.05が特に好ましい)。更に、α≠0且つβ≠0である場合は0<α+β<0.3が好ましい(0.01≦α+β≦0.1がより好ましく、0.01≦α+β≦0.05が特に好ましい)。上記範囲では、各誘電特性を非置換時における各誘電特性値の近傍でコントロールすることができる。例えば、TiをZrで置換するとε及びQuにほとんど影響を与えることなく、τの絶対値を小さくすることができる。また、例えば、TiをSnで置換するとεにほとんど影響を与えることなく、τの絶対値を小さくさせたり、Quを向上させたりと誘電特性を細かくコントロールできる。
【0013】
上記「c」は、組成式[1]中のAlのモル比を表す。このcは、0.054<c≦0.150であり、0.062<c≦0.150が好ましく、0.069<c≦0.150がより好ましく、0.075<c≦0.150が更に好ましく、0.079<c≦0.150が特に好ましい。この範囲ではεを保持しつつ、特にτの絶対値を小さく抑えることができる。
【0014】
このAlは、その一部がGa、Y及びYbのうちの少なくとも1種により置換されてもよい。各元素により置換されている場合の組成式[1]は、前記Tiの場合にならって各々表すことができる。このAlのGa、Y及びYbによる置換の量は、特に限定されないが、本誘電体組成物に含有されるAlの全量を100モル%とした場合に30モル%未満であることが好ましい(0.01〜10モル%がより好ましく、0.01〜5モル%が特に好ましい)。上記範囲では、各誘電特性を非置換時における各誘電特性値の近傍でコントロールすることができる。特にY及びYbにより置換した場合は、τの絶対値を小さくすることができる。
【0015】
上記「M」は、Nb及びTaのうちの少なくとも一方を表す。従って、MがNbのみである場合、組成式[1]は[aMO−bTiO−(1/2)cAl−(1/2)dNb]と表され、Taのみである場合、組成式[1]は[aMO−bTiO−(1/2)cAl−(1/2)dTa]と表され、Nb及びTaの両方である場合、組成式[1]は[aMO−bTiO−(1/2)cAl−(1/2)d(Nb1−yTa]と表される。但し、yは0<y<1である。
即ち、Mは「Nbのみ」、「Nb及びTaの両方」、「Taのみ」のいずれであってもよいが、これらのなかでは「Nbのみ」又は「Nb及びTaの両方」であることが好ましい。これらの場合は、εを保持しつつ、Quを大きくでき、更に、τを適当な範囲にコントロールし易い。Mが「Nb及びTaの両方」である場合、上記yの範囲は特に限定されないが、0.01≦y≦0.5とすることができ、更に0.01≦y≦0.3とすることができ、特に0.05≦y≦0.2とすることができる。この範囲であれば、εへの影響を抑えつつ、Quを大きくでき、またτの絶対値を小さくすることができる。
【0016】
上記「d」は、組成式[1]中のMのモル比を表す。このdは、0.170<d<0.346であり、0.170<d<0.323が好ましく、0.170<c≦0.300がより好ましい。この範囲ではQuを保持しつつ、より大きなεが得られる。
【0017】
このMは、その一部がSbにより置換されてもよい。置換されている場合の組成式[1]は、前記Tiの場合にならって各々表される。この置換量は、特に限定されないが、本誘電体組成物に含有されるMの全量を100モル%とした場合に30モル%未満であることが好ましい(0.01〜20モル%がより好ましく、0.01〜10モル%が特に好ましい)。上記範囲では、特に焼結性を向上させることができ、その結果、安定して目的とする誘電特性を得ることができる。
【0018】
上記各a〜dの好ましい範囲は、各々の組み合せとすることもできる。即ち、例えば、0.436<a≦0.500、0.124<b≦0.300、0.062<c≦0.150、且つ、0.170<d<0.346とすることができ、更に、0.436<a≦0.500、0.124<b≦0.275、0.069<c≦0.150、且つ、0.170<d<0.346とすることができ、より更に0.444<a≦0.500、0.133<b≦0.275、0.075<c≦0.150、且つ、0.170<d<0.323とすることができ、特に0.451<a≦0.500、0.141<b≦0.275、0.079<c≦0.150、且つ、0.170<d≦0.300とすることができる。これらの範囲では、εを保持しつつ、大きなQu値を得られ、且つ、τの絶対値は小さく抑えることができる。即ち、例えば、εは45以上(通常65以下)であり、Qu×fは10000GHz以上であり、τは−15〜+15ppm/℃とすることができる。
【0019】
本誘電体磁器組成物に含まれる結晶相は特に限定されないが、ペロブスカイト型の結晶構造を呈し、組成式[M(AlκκTi1−2κ)O](但し、0.175≦κ≦0.3)で表される結晶相を主結晶相とすることが好ましい。更に、副結晶相は認められてもよいが、副結晶相が認められないことがより好ましい。即ち、主結晶相内に上記組成式に含まれない元素が固溶されていることがより好ましい。
【0020】
本誘電体磁器組成物には、上記組成式[1]外の組成として遷移金属元素の酸化物(複酸化物を含む)、B、Si、Ga、In、Sn、Sb、Pb及びBi等のうちの少なくとも1種を含む酸化物(複酸化物を含む)等を含有できる。これらの元素の本誘電体磁器組成物中における酸化数(価数)は特に限定されない。上記遷移金属元素としては、Mn、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Hf及びW等が挙げられる。上記遷移金属元素及び上記それ以外の元素のうちでは、遷移金属元素が好ましく、そのなかではMn、Fe、Co、Ni及びCuがより好ましく、更には、Mnが特に好ましい。これらの遷移金属元素は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。Mnは特に各誘電特性を向上させることができる。これらの酸化物の含有量は特に限定されないが、本誘電体磁器組成物を100モル%とした場合に、上記元素の酸化物換算合計量は5モル%以下(より好ましくは2モル%以下、更に好ましくは1モル%以下、特に好ましくは0.6モル%以下、含有する場合は通常0.01モル%以上)が好ましい。この範囲では、Quをより大きな値に保持し易い。また、これらの酸化物が含有される理由は問わないが、例えば、製造時に酸素供給剤として配合された酸化物に由来する場合が挙げられる。
尚、上記酸化物換算を行う場合、上記の各元素は各々、MnO、V、Cr、Fe、CoO、NiO、CuO、ZnO、ZrO、MoO、HfO、WO、B、SiO、Ga、In、SnO、Sb、PbO及びBiとして換算するものとする。
【0021】
本誘電体磁器組成物には、上記組成式[1]外の組成として希土類元素REの酸化物(複酸化物を含む)を含有することができる。REを含有することにより各誘電特性のコントロールの自由度が広くなる。これらの元素の本誘電体磁器組成物中における酸化数(価数)は特に限定されない。上記REとしては、La、Nd、Sm、Y、Yb、Sc、Ce、Pr、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuが挙げられる。これらのなかでもLa、Nd、Sm、Y及びYbが好ましい。これらのREは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの酸化物の含有量は特に限定されないが、本誘電体磁器組成物を100モル%とした場合に、上記REのRE換算合計量は10モル%以下(より好ましくは8モル%以下、更に好ましくは6モル%以下、含有する場合は通常0.1モル%以上)が好ましい。この範囲では、εを保持しつつ、高いQu且つ絶対値の小さなτを得易い。
【0022】
上記組成式[1]で表される誘電体磁器組成物は、MTiOと、M(Al0.50.5)Oと、Mとの3種の複酸化物が相互に固溶して得られた誘電体磁器組成として考えることができる。即ち、組成式[rMTiO−sM(Al0.50.5)O−tM1/32/36/3](但しMはCa及び/又はSrであり、MはNb及び/又はTaであり、r、s及びtは各々モル比を表し、r+s+t=1である)と表すことができる(以下、この組成式を組成式[2]ともいう)。
【0023】
この組成式[2]においては、上記r、上記s及び上記tの相関を三角図に表した場合に、r、s及びtの各々の値に対応する点は、図5におけるPを頂点とする四辺形のうち、辺Pを除く領域にあることが好ましい。この領域はP’P’を頂点とする四辺形のうち、辺P’Pを除く領域であることがより好ましく、P’P’P"を頂点とする四辺形のうち、辺P’Pを除く領域であることが特に好ましい。但し、上記各点(r、s、t)は、以下の通りである。
;(0.4879、0.2627、0.2494)
;(0.3702、0.5553、0.0745)
;(0.18、0.27、0.55)
;(0.2925、0.1575、0.55)
’;(0.4466、0.3654、0.1880)
’;(0.22、0.33、0.45)
’;(0.2475、0.2025、0.55)
" ;(0.3025、0.2475、0.45)
これらの領域ではτの絶対値がより小さな特性を得ることができる。また、この組成物では上記各複酸化物のうちM(組成式[2]中ではM1/32/36/3と表記)が含有されることが好ましいと考えられる。Mが含有されることで、Qu及びτの各々誘電特性を保持しながらεを目的とする値に引き上げていると考えられるからである。
【0024】
本発明の誘電体磁器組成物は、εを45〜63(更に48〜60、特に50〜58、とりわけ53〜58)とすることができる。また、Quと共振周波数fとの積であるQu×fを10000GHz以上(更に11000GHz以上、特に12000GHz以上、とりわけ12500GHz以上)、及び共振周波数の温度係数τを−15〜+15ppm/℃(更に−12〜+12ppm/℃、特に−10〜+10ppm/℃、とりわけ5〜+5ppm/℃)とすることができる。
例えば、他の誘電特性のバランスを保持しつつ、εを特に大きく得ようとする場合には、0.444≦a≦0.462、0.133≦b≦0.173、0.096≦c≦0.108、且つ、0.261≦d≦0.323とすることにより、εは53〜59、Qu×fは10000〜13000GHz、τは0〜15ppm/℃とすることができる。
また、例えば、他の誘電特性のバランスを保持しつつ、Quを大きく得ようとする場合には、0.458≦a≦0.487、0.124≦b≦0.217、0.117≦c≦0.129、且つ、0.175≦d≦0.292とすることにより、εは47〜53、Qu×fは12500〜15000GHz、τは−15〜0ppm/℃とすることができる。
更に、例えば、他の誘電特性のバランスを保持しつつ、τの絶対値を特に小さく得ようとする場合には、0.432≦a≦0.487、0.144≦b≦0.223、0.101≦c≦0.139、且つ、0.175≦d≦0.323とすることにより、εは48〜58、Qu×fは9000〜15000GHz、τは−4〜4ppm/℃とすることができる。
即ち、目的に合わせて幅広く誘電特性をコントロールでき、バランスのよい誘電特性を細かく網羅でき、種々目的に応じた誘電特性を選択できる。
【0025】
[2]誘電体磁器組成物の製造方法
本誘電体磁器組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、M、Al、Ti及びMのモル比が上記組成式[1]における各元素のモル比となるように、M、Al、Ti及びMの各々が含有された原料組成物を熱処理して得ることができる。
また、M、Al、Ti及びMと各々置換可能な前記元素を含有する誘電体磁器組成物を得る場合には、M、Al、Ti、M及び各置換可能な前記元素のモル比が上記組成式[1]における各元素のモル比となるように、M、Al、Ti、M及び各置換可能な前記元素の各々が含有された原料組成物を熱処理して得ることができる。
更に、上記組成式[1]外にMn及びRE等を含む副成分を含有する誘電体磁器組成物を得る場合は、M、Al、Ti及びMのモル比が上記組成式[1]における各元素のモル比となるように、且つ、副成分を構成する各元素が前記範囲を満たすように、各々が含有された原料組成物を熱処理して得ることができる。
【0026】
上記原料組成物は、各元素を各々個別に含む原料の混合物等であってもよく、複数の元素を含む複酸化物の混合物等であってもよい。
上記各元素を各々個別に含む原料とは、例えば、Ca化合物、Sr化合物、Al化合物、Ti化合物、Nb化合物、Ta化合物、Zr化合物、Sn化合物、Y化合物、Yb化合物、Sb化合物、及びその他のRE化合物等が挙げられる。更に、これらの各化合物は、通常、各元素の酸化物又は熱処理されて酸化物となる化合物とすることができる。このうち熱処理されて酸化物となる化合物の種類は特に限定されず、例えば、炭酸塩、水酸化物、炭酸水素塩、硝酸塩及び有機金属化合物等が挙げられる。これらの酸化物及び熱処理されて酸化物となる化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、各原料の形態も特に限定されず、粉末又は液状物等を用いることができる。更に、上記複数の元素を含む複酸化物としては、CaTiO、SrTiO、(Ca0.5Sr0.5)TiO、Ca(Al0.5Nb0.5)TiO、Ca(Al0.5Ta0.5)TiO、Ca(Al1/2Nb1/4Ta1/4)TiO、CaNb、CaTa、Ca(Nb0.5Ta0.5等が挙げられる。これらの複酸化物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、前記各原料と併用してもよく、併用してなくてもよい。
【0027】
上記「熱処理」は、誘電体磁器組成物が得られる条件であれば特に限定されない。即ち、例えば、熱処理は焼成工程のみの1段で行ってもよく、仮焼工程と焼成工程との2段で行ってもよい。2段で行う場合には連続的に行ってもよく、非連続的に行ってもよい。
焼成工程(上記2段の場合は第2熱処理工程)は、焼成されて誘電体磁器組成物となる、原料組成物(上記2段の場合は仮焼成分)を含む成形体を焼成する工程である。焼成工程における焼成温度は特に限定されないが、例えば、1100〜1700℃(より好ましくは1300〜1600℃)とすることができる。この温度範囲であれば、成形体を十分に焼結できると共に緻密化することができる。また、焼成時間は特に限定されないが、1時間以上(通常100時間以下)とすることができる。
更に、焼成雰囲気は特に限定されず、酸化性雰囲気であっても、非酸化性雰囲気であってもよい。酸化性雰囲気としては、大気雰囲気が挙げられる。また、非酸化性雰囲気とは、酸素分圧が小さい雰囲気であり、通常、酸素分圧が10Pa以下(好ましくは0.1Pa以下、通常0.0001Pa以上)に保持されている雰囲気である。非酸化性雰囲気を構成する気体は特に限定されないが、例えば、窒素及びアルゴン等の希ガスなどの不活性ガスが挙げられる。また、焼成雰囲気は、湿潤雰囲気であってもよく、非湿潤雰囲気であってもよい。湿潤雰囲気とは、露点管理がされた雰囲気であり、通常、露点が90℃以下(好ましくは80℃以下、通常30℃以上)に保たれている雰囲気である。更に、この焼成は加圧焼成でもよく、非加圧焼成でもよい。
【0028】
仮焼工程(上記2段の場合は第1熱処理工程)は、原料組成物を仮焼して仮焼物を得る工程である。原料組成物を混合し、成形して得た成形体を仮焼工程を経ずに直接焼成した場合、後の焼成工程においても十分に焼結させることができない場合がある。これに対して仮焼を行うと、上記の原料組成物が反応して目的の化合物が生成し、後の焼成工程における焼成温度を効果的に低下させることができる。
仮焼工程における仮焼温度は特に限定されないが600〜1400℃(より好ましくは800〜1300℃)とすることができる。この温度範囲であれば、未反応の原料成分が残存し難く、また、焼結してしまい仮焼物の粉砕が困難となることもない。この仮焼における仮焼時間は特に限定されないが、1時間以上(通常20時間以下)とすることができる。更に、仮焼雰囲気は特に限定されず、前記焼成雰囲気と同様な各種雰囲気を用いることができ、焼成雰囲気と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
これらの熱処理条件は各々の組合せとすることができる。即ち、例えば、各元素を個別に含有する原料の混合物を大気雰囲気下600〜1400℃(より好ましくは800〜1300℃)で1〜20時間仮焼し、その後、仮焼物を粉砕した後、成形し、次いで、大気雰囲気下1100〜1700℃(より好ましくは1300〜1600℃)で1〜100時間焼成することで得ることができる。
【0030】
本発明の製造方法では、上記熱処理を行う熱処理工程以外にも他の工程を備えることができる。他の工程としては、例えば、(1)仮焼物を粉砕して得られた仮焼粉末を造粒する造粒工程、及び、(2)上記(1)で得られた造粒粉末を成形して成形体を得る成形工程等が挙げられる。
上記造粒工程は、仮焼により得られた仮焼物を粉砕等して得られた仮焼粉末にバインダ、溶剤、可塑剤及び分散剤等を含有させて成形に適した粒子状態にする工程である。造粒方法は特に限定されず、スプレードライ法等を用いることができる。また、成形工程は、前記造粒工程で得られた造粒粉末を成形して成形体を得る工程である。この工程では、通常、造粒粉末等には、バインダ、溶剤、可塑剤及び分散剤等を含有させることで成形性を付与する。また、成形方法は、特に限定されず、一軸プレスや、冷間等方静水圧プレス(以下、単に「CIP」という)等の種々の方法で行うことができる。
【0031】
[3]電子部品
本発明の電子部品は、本誘電体磁器組成物からなる誘電体部を備えることを特徴とする。
上記「誘電体部」は、前記本発明の誘電体磁器組成物からなる。また、その形状及び大きさ等は特に限定されない。この誘電体部は、例えば、フィルタ、デュプレクサ、共振器、LCデバイス、カプラ、ダイプレクサ、ダイオード、誘電体アンテナ、セラミックコンデンサ、配線基板及びパッケージ等の磁器製部分として用いることができる。これらの用途により、適した形状及び大きさ等とすることが好ましい。
また、本電子部品には、誘電体部以外にも他部を備えることができる。他部としては、導体部が挙げられる。導体部は、通常、誘電体部の表面及び/又は内部に形成された導電性を有する部分である。この導体部は、誘電体部と同時焼成されたものであってもよく、同時焼成されていないものであってもよい。導体部を構成する導体材料は特に限定されず、例えば、Ag、Cu、Au、Ni、Al、W、Ti、V、Cr、Mn、Mo、Pd、Pb、Ru、Rh及びIr等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0032】
即ち、本発明の電子部品としては、本発明の誘電体磁器組成物からなる円筒形状の誘電体部を備える誘電体共振器が挙げられる。
また、列設された複数の貫通孔を備える直方体形状の誘電体部と、誘電体部の所定外表面及び貫通孔内を覆う導体部とを備えるデュプレクサ及び誘電体フィルタが挙げられる。
更に、積層された複数の薄板形状の誘電体部と、各誘電体部間に形成された導体パターンと、導体パターン同士を電気的に接続するスルーホール導体又は外表面導体と、を備える誘電体積層チップアンテナが挙げられる。
また、直方体形状の誘電体部と、誘電体部の長手方向の一端に配設された給電電極と、他端に配設された固定電極と、誘電体部の側面を螺旋状に巻回し一端が給電電極に接続され且つ他端が自由端である放射電極と、を備える誘電体チップアンテナが挙げられる。
更に、積層された複数の薄板形状の誘電体部と、各誘電体部間及び所定の外表面に形成された導体パターンと、導体パターン同士を電気的に接続するスルーホール導体又は外表面導体と、を備えるLCフィルタ、セラミックコンデンサ、及び、セラミック配線基板が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(1)誘電体磁器組成物の作製
市販のCaCO、SrCO、TiO、Al、Nb、Ta、MnO、RE、ZrO、SnO、Ga及びSbの各粉末を、それぞれ酸化物換算で、組成式[1]中のa〜dの値が表1の組み合わせとなるように秤量した。次いで、これらの各粉末(原料)をエタノールを溶媒として湿式混合して混合粉末(原料組成物)を得た。この混合粉末を大気雰囲気において1200℃で2時間仮焼した。その後、この仮焼物に分散剤、バインダ及びエタノールを加え、ボールミルにより粉砕してスラリーにした。次いで、このスラリーを乾燥させて造粒して造粒粉末とした。その後、この造粒粉末を20MPaの圧力で一軸プレスを行い、円柱状に成形した。その後、150MPaの圧力でCIP(冷間等方静水圧プレス)処理を行い、この成形体を大気雰囲気において1500℃で3時間保持し、焼成して、実験例1〜49の誘電体磁器組成物からなる誘電体を得た。
【0034】
【表1】

尚、表1中の「*」は本発明の範囲に含まれないことを示す。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

尚、例えば、実験例32において「a=0.4583」は、CaOとSrOとの合計モル比を表し、「a」全体の「2.5%」にあたる0.0115(モル比)が「Sr」となるように、上記「CaCO」に換えて「SrCO」を配合したことを示すものである。「Ti置換」、「Al置換」及び「Nb置換」等についても同様である。
【0037】
(2)誘電特性の測定
得られた実験例1〜49の各誘電体の表面を研磨した後、平行導体板型誘電体共振器法により、測定周波数3〜5GHzにおいて、ε、Qu及びτを測定した。但し、τの測定温度範囲は25〜80℃とした。また、Quについては、共振周波数fとの積(Qu×f)として評価した。これらの結果を上記表1〜3に併記した。
【0038】
表1〜3によれば、aが下限値0.436を下回り且つdが0.346を超える実験例2は、Qu×fが2600GHzと小さく、また、τは65とその絶対値が大きい。
これに対して、a、b、c及びdのいずれもが本発明の範囲内である実験例1及び実験例3〜49では、Qu×fは10000〜14400GHzと実験例2に対して3.8〜5.5倍も高く、優れたQuが得られることが分かる。更に、τは−15〜+15ppm/℃と比較的狭い数値範囲に制御され、その絶対値は実験例2の23%と小さい。また、εは48〜58と目的とする中間域の値を安定して得ることができ、この中間域のなかで幅広く調整できることが分かる。従って、バランスのよい誘電特性を細かく網羅でき、種々目的に応じて誘電特性を選択できる誘電体磁器組成物であることが分かる。
【0039】
また、実験例26〜31より、組成式[1]外の組成として希土類元素酸化物を含有することで、εは49〜54と目的とする中間域の値を保持し、且つ、Qu×fは11700〜12900GHzの範囲に保持しつつ、τを−2〜12とその絶対値が小さい範囲に制御できることが分かる。
【0040】
更に、実験例17、32及び33より、CaとSrとの置換は、いずれの誘電特性にもほとんど影響を与えず行うことができることが分かる。また、実験例17及び34〜37より、Tiに対してZr及び/又はSnを置換した場合は、ε及びQuをほとんど変化させず、τを向上させることができることが分かる。即ち、各々2.5〜5.0%の置換で20〜80%もの向上(絶対値が0に近づく)が認められる。実験例17及び40〜43より、Alに対してY及びYbを置換した場合は、ε及びQuをほとんど変化させず、τを向上させることができることが分かる。即ち、各々2.5〜5.0%の置換で40〜80%もの向上(絶対値が0に近づく)が認められる。実験例17及び44及び45より、AlとGaとの置換は、いずれの誘電特性にもほとんど影響を与えず行うことができることが分かる。実験例17及び46〜49より、Nbに対してTa及びSbを置換した場合は、ε及びQuをほとんど変化させず、τを向上させることができることが分かる。即ち、各々2.5〜5.0%の置換で20〜50%の向上(絶対値が0に近づく)が認められる。
【0041】
(3)X線回折測定
上記(1)で得られた実験例1(本発明品)と実験例2(比較品)との各誘電体磁器をX線回折測定に供した。この結果を多重チャートにして図1に示した。図1中の上段は実験例2のチャートであり、下段は実験例1のチャートである。
これらについて同定を行ったところ、各チャート内の黒塗りの逆三角マークが施された各ピークはいずれも主結晶相のピークであり、ペロブスカイト型を呈していることが分かった。また、上段のチャート内の黒丸マークが施されたピークは析出された副結晶相であり、この副結晶相は、CaNbであることが分かった。これらのことから、実験例1の誘電体磁器にはCa(AlκNbκTi1−2κ)Oをベースとするペロブスカイト型の複酸化物に、過剰の成分が固溶しているものと考えられる。一方、実験例2の誘電体磁器には、Al及びTiに対して過度に多いNbが配合されたため、CaNbが別相として析出したものと考えられる。このCaNbの含有によりεの向上が認められるが、別相としては析出されず、固溶されていることが好ましいものと考えられる。
【0042】
また、下段のチャート内の黒塗りの逆三角マークが施された各ピークはいずれも、上段のチャート内に示された主結晶相のピークに極めて似ているが、一部のピークの立上り部分にブロード化及びピーク位置のシフト等が認められた。更に、この実験例1では主結晶相のみを構成するのに必要量を超える量の原料を配合しているにも関わらず、主結晶相以外のピークが認められない。これらのことから、下段のチャートは余剰な成分が主結晶相中に固溶しているものと考えられる。
【0043】
誘電体共振器の製造
本誘電体磁器組成物を、誘電体共振器として用いた場合を以下に説明する。
上記(1)における表1内の実験例1と同様にして造粒した造粒粉を用い、一軸プレスにて円筒形状の未焼成体を成形した。得られた未焼成体を、大気雰囲気において1500℃で3時間保持して焼成し、内径6.8mm、上部(高さ12mm)の外径26mm、下部(高さ13mm)の外径15mmの外径が異なる2つの円筒形を積み上げた形状の誘電体部(図2の11、即ち、誘電体部)を得た。その後、得られた誘電体部を、金属製のケーシング12内の底面に固定して共振器1を得た。
【0044】
デュプレクサの製造
本誘電体磁器組成物を、デュプレクサとして用いた場合を以下に説明する。
上記(1)における表1内の実験例1と同様にして造粒した造粒粉を用い、一軸プレスにて列設された貫通孔(図3及び4の211及び212)を有する直方体形状(図3及び4の21と同じ形状)の未焼成体を成形した。得られた未焼成体を、大気雰囲気において1500℃で3時間保持し、焼成してデュプレクサ用の誘電体部(図3及び4の21)を得た。その後、得られた誘電体部の所定の外表面(貫通孔の表面を含む)に導体用銀ペーストを印刷して焼き付け、導体部22を形成し、デュプレクサ2を得た。
即ち、デュプレクサ2は、共振器211又は励振孔212となる平行に孔設された貫通孔を有する直方体形状の誘電体部21と、この誘電体部21の貫通孔が開口する開放端面を除く所定の外表面(貫通孔の表面を含む)を覆う導体部22とを備える。
【0045】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。また、本発明の誘電体材料の誘電特性に、実質的に影響を及ぼさない範囲で他の成分及び/又は不可避不純物等が含有されていてもよい。
尚、以下に前記組成式[2]により上記実験例1〜49を表した場合の前記r、s及びtを下記表4に示す。
【0046】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の誘電体部品の用途は、特に限定されず、マイクロ波帯域及びミリ波帯域において使用される各種電子部品として利用することができる。この各種電子部品としては、フィルタ、デュプレクサ、共振器、LCデバイス、カプラ、ダイプレクサ、ダイオード、誘電体アンテナ及びセラミックコンデンサ等の個別部品類などが挙げられる。更には、汎用基板、各種機能部品が埋め込まれた機能基板(LTCC多層デバイス等)などの基板類、MPU及びSAW等のパッケージ類、これら個別部品類、基板類及びパッケージ類の少なくともいずれかを備えるモジュール類等が挙げられる。また、これらの電子部品は、各種のマイクロ波帯域及び/又はミリ波帯域の電波を利用する移動体通信機器、移動体通信基地局機器、衛星通信機器、衛星通信基地局機器、衛星放送機器、無線LAN機器、及びBluetooth(登録商標)用機器等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実験例1(下段チャート)及び実験例2(上段チャート)のX線回折測定により得られたチャートによる説明図である。
【図2】本発明の電子部品の一例である誘電体共振器の概形を示す模式図である。
【図3】本発明の電子部品の一例であるデュプレクサの概形を示す斜視図である。
【図4】図3に示すデュプレクサの模式的な断面図である。
【図5】組成式[2]に関する三角図である。
【符号の説明】
【0049】
1;誘電体共振器、11;誘電体部、12;ケーシング、2;デュプレクサ、21;誘電体部、211;共振器(貫通孔)、212;励振孔(貫通孔)、22;導体部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca及びSrの少なくとも一方と、Tiと、Alと、Nb及びTaの少なくとも一方と、Oとの各元素を含有し、
これらの元素について、組成式[aMO−bTiO−(1/2)cAl−(1/2)dM](但し、MはCa及び/又はSrであり、MはNb及び/又はTaであり、a、b、c及びdは各々モル比を表わし、且つ、a+b+c+d=1である)と表した場合に下記条件を満たすことを特徴とする誘電体磁器組成物。
0.436<a≦0.500
0.124<b≦0.325
0.054<c≦0.150
0.170<d<0.346
【請求項2】
上記a、上記b、上記c及び上記dが下記条件を満たす請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
0.436<a≦0.500
0.124<b≦0.300
0.062<c≦0.150
0.170<d<0.346
【請求項3】
上記a、上記b、上記c及び上記dが下記条件を満たす請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
0.436<a≦0.500
0.124<b≦0.275
0.069<c≦0.150
0.170<d<0.346
【請求項4】
上記a、上記b、上記c及び上記dが下記条件を満たす請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
0.444<a≦0.500
0.133<b≦0.275
0.075<c≦0.150
0.170<d≦0.323
【請求項5】
上記a、上記b、上記c及び上記dが下記条件を満たす請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
0.451<a≦0.500
0.141<b≦0.275
0.079<c≦0.150
0.170<d≦0.300
【請求項6】
本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、MnをMnO換算で0.01〜5モル%含有する請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、MnをMnO換算で0.01〜2モル%含有する請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、MnをMnO換算で0.01〜1モル%含有する請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項9】
本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、MnをMnO換算で0.01〜0.6モル%含有する請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項10】
本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、希土類元素REをRE換算で0.1〜10モル%含有する請求項1乃至9のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項11】
本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、希土類元素REをRE換算で0.1〜8モル%含有する請求項1乃至9のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項12】
本誘電体磁器組成物に含有される金属元素を酸化物換算した全モル量を100モル%とした場合に、希土類元素REをRE換算で0.1〜6モル%含有する請求項1乃至9のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項13】
上記希土類元素REは、La、Nd、Sm、Y及びYbのうちの少なくとも1種である請求項10乃至12のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項14】
本誘電体磁器組成物に含有されるTiの全量を100モル%とした場合に、Tiの30モル%未満がZr及び/又はSnに置換された請求項1乃至13のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項15】
本誘電体磁器組成物に含有されるAlの全量を100モル%とした場合に、Alの30モル%未満がGa、Y及びYbのうちの少なくとも1種に置換された請求項1乃至14のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項16】
本誘電体磁器組成物に含有されるMの全量を100モル%とした場合に、Mの30モル%未満がSbに置換された請求項1乃至15のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項17】
請求項1乃至16のうちのいずれかに記載の誘電体磁器組成物からなる誘電体部を備えることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−103977(P2006−103977A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288660(P2004−288660)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】