説明

誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムと金属膜付耐熱性樹脂フィルムの各製造方法および誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置

【課題】密着力に優れピンホールがなく金属ベース層の酸化が防止される金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造法等を提供する。
【解決手段】ロール・トゥ・ロール方式により搬送される樹脂フィルム8両面に原子層堆積(ALD)法により誘電体膜(AlO)を成膜する工程と、スパッタリングウェブコータにより各誘電体膜上に金属ベース層(Cu)を成膜する工程と、各誘電体膜上に金属ベース層が成膜された長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き取りロールに巻き取る巻き取り工程を具備し、これ等の工程を連続して行なうことを特徴とする。この方法によれば、ALD法により成膜されたピンホールのない誘電体膜上に金属ベース層が形成されるため、金属ベース層の膜厚を薄く設定してもピンホールが生じ難く、樹脂フィルムからの酸素供給が防止されて金属ベース層の酸化が抑制され密着力の低下も起こり難くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル配線基板に適用される金属膜付耐熱性樹脂フィルムとこの金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造に利用される金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムに係り、特に、樹脂フィルムに起因した金属ベース層の酸化が防止される誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法と、この金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを用いた金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法、および、上記金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルム上に金属膜を被覆して得られる多種類のフレキシブル配線基板が用いられ、このフレキシブル配線基板には、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムが用いられている。また、金属膜付耐熱性樹脂フィルムは折り曲げて使用されることがあるため、耐熱性樹脂フィルムに対する金属膜の密着力が高いことが必要となり、更に、配線パターンの繊細化、高密度化に伴い、金属膜にピンホールが存在すると断線の原因になり易いためピンホールが無いことも求められている。
【0003】
そして、この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法として、従来、金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングしかつ乾燥させて製造する方法、および、耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等)若しくは湿式めっき法により金属膜を成膜して製造する方法等が知られている。
【0004】
また、真空成膜法若しくは湿式めっき法を用いる三番目の製造方法として、特許文献1では、成膜速度は遅いが密着力に優れる金属膜を形成できるスパッタリング法を用いて金属膜付耐熱性樹脂フィルムを製造する方法が開示され、また、特許文献2では、成膜速度は遅いが密着力に優れる金属膜を形成できるスパッタリング法を用いて薄膜の金属ベース層をまず成膜し、次いで成膜速度の速い湿式めっき法を用いて上記金属ベース層上に厚膜の金属膜を形成し、金属膜付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造する方法が開示されている。また、特許文献1では、金属膜の密着力を更に高めるため、2種類のスパッタリングターゲットを用いた方法も開示されている。すなわち、モネルメタル等をスパッタリングターゲットとして薄膜の金属シード層をまず成膜し、次いで銅等をスパッタリングターゲットとして上記金属シード層上に厚膜の金属膜を成膜する方法が提案されている。
【0005】
そして、成膜速度の速い湿式めっき法と成膜速度の遅いスパッタリング法を併用する特許文献2の製造方法は、スパッタリング法のみを用いる特許文献1の方法と比較して効率に優れるため、特許文献2に記載された製造方法が広く利用されている。
【0006】
ところで、成膜速度の遅いスパッタリング法を用いて金属ベース層をまず成膜し、次いで成膜速度の速い湿式めっき法を用いて上記金属ベース層上に金属膜を形成する特許文献2の方法を採用することにより、金属膜の密着力に優れた金属膜付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造することは可能となるが、この方法を実施するに際しては、スパッタリング法による金属ベース層と湿式めっき法による金属膜の膜厚比の設定が重要となる。すなわち、スパッタリング法により形成される金属ベース層の膜厚は、ピンホールの発生を抑制しかつ良好な密着力を得るための厚さが必要とされている。これは、スパッタリング法により形成される金属ベース層の膜厚が必要とされる厚さ以上となれば、例え小さなピンホールが存在したとしても金属ベース層の成長と共にピンホールは塞がってしまうからである。但し、スパッタリング法による金属ベース層の成膜速度は、湿式めっき法の成膜速度より1桁程度遅いため、スパッタリング法により必要とされる厚さ以上の金属ベース層を形成しなければならない分、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造効率を悪化させることになる。従って、製造効率の観点から、膜厚が薄くてもピンホールのない金属ベース層を形成できる新たな方法が望まれていた。
【0007】
また、金属膜が成膜された樹脂フィルムを長期間放置すると、金属膜は、樹脂フィルムに含まれる酸素により酸化されてその密着力を低下させることが知られており、例えば吸収型多層膜NDフィルタの分野においては、金属膜の酸化を防止するためSiO2等の誘電体膜を樹脂フィルム上に成膜した後に金属膜を成膜する方法が採られている(特許文献3参照)。従って、フレキシブル配線基板に適用される金属膜付耐熱性樹脂フィルムや上記金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造に使用される金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムにおいても、金属膜や金属ベース層の酸化が防止される新たな製造方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3447070号公報
【特許文献2】特許第3570802号公報
【特許文献3】国際公開WO2007/083833号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of applied physics 97,121301 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、金属ベース層の密着力に優れかつピンホールがないと共に金属ベース層の酸化が防止される金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく製造できる方法を提供し、併せて、この金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを用いた金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法と上記金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者は、非特許文献1に記載された原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法に注目し、その採用を試みた。
【0012】
すなわち、ALD法は、分子層(原子層)を構成する元素が含まれる原料ガスを真空装置内に交互に導入し、被成膜体の最表面に吸着された分子と次に導入される原料ガスとの反応により分子層を形成する方法(これをボトムアップ成膜と呼ぶ場合がある)で、上述したスパッタリング法に較べて成膜速度は遅いが、スパッタリング法のようにターゲットからはじき出された微粒子やクラスターを被成膜体上に被着させて積み重ねる方法でないためピンホールのない薄膜を形成でき、しかも被成膜体表面の凹凸に影響されずに微細な隙間へも薄膜を形成できる。
【0013】
従って、金属ベース層を成膜する以前に樹脂フィルムに起因した酸化を防止するための上記誘電体膜をALD法により耐熱性樹脂フィルム(被成膜体)両面にまず形成し、次いでスパッタリング法により誘電体膜上に金属ベース層を成膜することで、密着力に優れかつピンホールがないと共に酸化が防止される金属ベース層を形成できることを見出すに至った。本発明はこのような技術的発見により完成されたものである。
【0014】
すなわち、請求項1に係る発明は、
長尺の耐熱性樹脂フィルムの両面にそれぞれ誘電体膜を介しスパッタリング法により成膜された金属ベース層を有すると共に、各金属ベース層上に湿式めっき法により金属膜が形成される誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法において、
巻き出しロールから巻き出された長尺の耐熱性樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により搬送して巻き取りロールに巻き取ると共に、巻き出しロールと巻き取りロール間の搬送路上において原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により上記耐熱性樹脂フィルムの両面に誘電体膜をそれぞれ成膜する第一成膜工程と、
上記搬送路上において耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有する第一スパッタリングウェブコータにより一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第二成膜工程と、
上記搬送路上において上記一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜した耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有する第二スパッタリングウェブコータにより他方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第三成膜工程と、
各誘電体膜上に金属ベース層がそれぞれ成膜された長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き取りロールに巻き取る巻き取り工程、
を具備し、かつ、上記第一成膜工程、第二成膜工程および第三成膜工程を連続して行なうことを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法において、
上記第一成膜工程が、耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室を交互に少なくとも1組以上配置した誘電体膜の成膜手段を用いて行なうことを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法において、
上記誘電体膜が、Si、Al、Zr、Hf、Ti、Ta、Nbから選ばれた少なくとも1種の酸化物膜若しくは窒化膜で構成され、かつ、上記金属ベース層が、CuまたはCu系合金から選ばれた1種で構成されることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法において、
上記誘電体膜と金属ベース層との間に、NiまたはNi合金から選ばれかつ上記スパッタリングウェブコータにより成膜される金属シード層が介在していることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法において、
上記長尺の耐熱性樹脂フィルムが、ポリイミドフィルムまたはアラミドフィルムから選ばれる1種で構成されることを特徴とする。
【0016】
次に、請求項6に係る発明は、
金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法において、
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られた誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの各金属ベース層上に、湿式めっき法により金属ベース層と同種の金属膜をそれぞれ形成することを特徴とする。
【0017】
また、請求項7に係る発明は、
長尺の耐熱性樹脂フィルムの両面に原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により成膜された誘電体膜と、各誘電体膜上にスパッタリング法により成膜された金属ベース層とを有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置において、
第一減圧室と、隔壁を介し上記第一減圧室に隣接して設けられた第二減圧室を具備し、
上記第一減圧室内には、長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き出す巻き出しロールと、巻き出された耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室が交互に少なくとも1組以上配置された誘電体膜の成膜手段が設けられ、かつ、
上記第二減圧室内には、隔壁の開口部を介し搬入されてくる耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有しかつ上記耐熱性樹脂フィルムの一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第一スパッタリングウェブコータと、上記一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜した耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有しかつ上記耐熱性樹脂フィルムの他方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第二スパッタリングウェブコータ、および、各誘電体膜上に金属ベース層がそれぞれ成膜された長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き取る巻き取りロールが設けられていると共に、
ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群が耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り上記第一減圧室と第二減圧室にそれぞれ設けられていることを特徴とし、
請求項8に係る発明は、
請求項7に記載の発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置において、
上記誘電体膜の成膜手段により形成される誘電体膜が、Si、Al、Zr、Hf、Ti、Ta、Nbから選ばれた少なくとも1種の酸化物膜若しくは窒化膜で構成され、かつ、第一スパッタリングウェブコータと第二スパッタリングウェブコータにより形成される金属ベース層が、CuまたはCu系合金から選ばれる1種で構成されることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
請求項7に記載の発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置において、
NiまたはNi合金から選ばれかつ上記誘電体膜と金属ベース層との間に介在させる金属シード層を第一スパッタリングウェブコータと第二スパッタリングウェブコータによりそれぞれ成膜させることを特徴とし、
また、請求項10に係る発明は、
請求項7〜9のいずれかに記載の発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置において、
上記長尺の耐熱性樹脂フィルムが、ポリイミドフィルムまたはアラミドフィルムから選ばれる1種で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1〜5に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法は、
巻き出しロールから巻き出された長尺の耐熱性樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により搬送して巻き取りロールに巻き取ると共に、巻き出しロールと巻き取りロール間の搬送路上において原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により上記耐熱性樹脂フィルムの両面に誘電体膜をそれぞれ成膜する第一成膜工程と、
上記搬送路上において耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有する第一スパッタリングウェブコータにより一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第二成膜工程と、
上記搬送路上において上記一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜した耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有する第二スパッタリングウェブコータにより他方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第三成膜工程と、
各誘電体膜上に金属ベース層がそれぞれ成膜された長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き取りロールに巻き取る巻き取り工程、
を具備し、かつ、上記第一成膜工程、第二成膜工程および第三成膜工程を連続して行なうことを特徴としている。
【0019】
そして、第一成膜工程において原子層堆積(ALD)法により耐熱性樹脂フィルムの両面にピンホールのない誘電体膜を形成できるため、第二成膜工程と第三成膜工程においてスパッタリング法により各誘電体膜上に成膜される金属ベース層の膜厚については従来法のようにピンホールを塞ぐ厚さまで大きく設定する必要がなく、かつ、各誘電体膜の作用により耐熱性樹脂フィルムに起因した金属ベース層の酸化を防止することが可能となる。
【0020】
また、請求項6に係る金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法は、
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られた誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの各金属ベース層上に、湿式めっき法により金属ベース層と同種の金属膜をそれぞれ形成しているため、上記金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムが効率よく製造できる分、金属膜付耐熱性樹脂フィルムも効率よく製造することが可能となる。
【0021】
次に、請求項7〜10に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置は、
第一減圧室と、隔壁を介し上記第一減圧室に隣接して設けられた第二減圧室を具備し、
上記第一減圧室内には、長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き出す巻き出しロールと、巻き出された耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室が交互に少なくとも1組以上配置された誘電体膜の成膜手段が設けられ、かつ、
上記第二減圧室内には、隔壁の開口部を介し搬入されてくる耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有しかつ上記耐熱性樹脂フィルムの一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第一スパッタリングウェブコータと、上記一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜した耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有しかつ上記耐熱性樹脂フィルムの他方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第二スパッタリングウェブコータ、および、各誘電体膜上に金属ベース層がそれぞれ成膜された長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き取る巻き取りロールが設けられていると共に、
ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群が耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り上記第一減圧室と第二減圧室にそれぞれ設けられていることから、
この製造装置を用いて、金属ベース層の密着力に優れかつピンホールがないと共に金属ベース層の酸化が防止される誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを効率よく確実に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの概略構成を示す断面図。
【図2】本発明に係る金属膜付耐熱性樹脂フィルムの概略構成を示す断面図。
【図3】本発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置の概略構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
まず、本発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムは、図1に示すように耐熱性樹脂フィルム1と、この耐熱性樹脂フィルム1両面にそれぞれ原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により成膜された誘電体膜2と、各誘電体膜2の表面にスパッタリング法により成膜された金属ベース層3とで構成されている。
【0025】
また、上記金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを用いた本発明に係る金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、図2に示すように、金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属ベース層表面に金属膜4がそれぞれ成膜された構造を有している。すなわち、耐熱性樹脂フィルム1と、耐熱性樹脂フィルム1の両面に原子層堆積(ALD)法により成膜された誘電体膜2と、各誘電体膜2上にスパッタリング法により成膜された金属ベース層3と、各金属ベース層3上に湿式めっき法により形成された金属膜4とで構成されている。
【0026】
尚、図1に示す金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムあるいは図2に示す金属膜付耐熱性樹脂フィルムのいずれを使用するかは、後述する配線パターンの形成方法(サブトラクティブ法またはセミアディティブ法)により適宜選択される。
【0027】
そして、金属膜4が形成される前の前駆体、すなわち、耐熱性樹脂フィルム1と、耐熱性樹脂フィルム1の両面に原子層堆積(ALD)法により成膜された誘電体膜2と、各誘電体膜2上にスパッタリング法により成膜された金属ベース層3とで構成される前駆体が、本発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムである。
【0028】
ところで、原子層堆積(ALD)法により成膜された誘電体膜2はその表面活性が高いため、誘電体膜2が両面に成膜された耐熱性樹脂フィルム1をそのまま巻き取ってしまうと、接触する耐熱性樹脂フィルム1面に誘電体膜2が張り付いてしまう可能性がある。このため、本発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法においては、耐熱性樹脂フィルム両面に誘電体膜を成膜する第一成膜工程と、一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第二成膜工程と、他方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第三成膜工程とを連続して行なうことを要する。
【0029】
また、第一成膜工程の原子層堆積(ALD)法による成膜では、耐熱性樹脂フィルム1両面への同時成膜が可能である。これは、ALD法が単原子(単分子)層ずつ堆積する方法だからである。また、単原子(単分子)層ずつ堆積する方法であることから、上述したように耐熱性樹脂フィルム1(被成膜体)表面の凹凸に影響されず、微細な隙間へもピンホールのない誘電体膜を形成することができ、ピンホールのない上記誘電体膜の作用により金属ベース層の酸化防止が期待される。
【0030】
尚、誘電体膜を構成する材料としては、Si、Al、Zr、Hf、Ti、Ta、Nbから選ばれた少なくとも1種の酸化物膜若しくは窒化膜が挙げられ、また、上記金属ベース層を構成する材料としてはCuまたはCu系合金が挙げられる。
【0031】
また、上記誘電体膜と金属ベース層との間にNiまたはNi合金から選ばれかつスパッタリングウェブコータにより成膜される金属シード層を介在させてもよい。上記金属シード層の厚さは3nm〜50nmが望ましく、また、CuまたはCu系合金等で構成される金属ベース層の厚さは10nm〜1μmとすることが望ましい。尚、上記金属シード層は、誘電体膜と同様に金属ベース層の酸化を防止する作用が期待される。また、誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属ベース層上に湿式めっき法により形成される金属膜の膜厚については、上記金属ベース層と金属膜の合計厚さが、厚くとも18μm以下にすることが好ましい。
【0032】
また、本発明の耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる樹脂フィルムが、金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
【0033】
以下、本発明で用いられる「ALD法」、「スパッタリングウェブコータ」および「金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置」について詳細に説明する。
【0034】
1.ALD法
原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法は、分子層(原子層)を構成する元素が含まれる原料ガスを真空装置内に交互に導入し、真空装置内に配置された被成膜体の最表面に吸着された分子と、次に導入される原料ガスとの反応により単原子(単分子)層ずつ堆積させる方法で、層の膜厚を原子層レベルで制御できる方法である。
【0035】
そして、ALD法は、被成膜体側から単原子(単分子)層ずつ堆積しながら成膜が始まる方法のため、上述したように耐熱性樹脂フィルム(被成膜体)に対してピンホールのない誘電体膜を形成することが可能である。このALD法は、上述した真空成膜法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等)において、金属クラスターが被成膜体上に飛来し、被成膜体表面に付着かつ上記クラスターが結合して膜を形成していくため、潜在的に該クラスター間にピンホールを作ってしまう可能性を有する真空成膜法と大きく異なっている。また、直進性が高いスパッタリング法や真空蒸着法では成膜が困難な凹凸を有する被成膜体面上にも、ALD法では均一な成膜が可能であり、耐熱性樹脂フィルムに含まれ一部表面に現われている場合があるフィラー粒子の陰にも、あるいは、耐熱性樹脂フィルム表面に存在する傷上にも膜が均一に形成される。更に、ALD法においては原料がガスであるため、スパッタリング法や真空蒸着法で多発するスプラッシュ(膜原料が固まりのまま被成膜体に飛来すること)の発生もない。従って、スプラッシュが成膜中の膜に付着し、それが脱落してピンホールになるような現象もない。また、ALD法で用いられる真空装置においては、PVD法やCVD法で用いられる真空装置に必要であった高価な電源ユニット等が不要であり、従来の成膜方法と比較して成膜コストの低減も図れる。
【0036】
そして、ALD法では、分子層を構成する元素のそれぞれが含まれる第1反応ガス(原料ガス)と第2反応ガス(原料ガス)を、真空装置(反応室)内に交互に導入する下記のA〜H工程で1サイクルを構成し、このサイクル数により膜厚の調整が行なわれる。
【0037】
A.真空装置に第1反応ガス(原料ガス)を導入
B.被成膜体の最表面に第1反応ガスが化学吸着
C.被成膜体の最表面が第1反応ガスで飽和
D.真空装置から過剰な第1反応ガスおよび副生成物を排気
E.真空装置に第2反応ガス(原料ガス)を導入
F.被成膜体の最表面に吸着していた第1反応ガスと第2反応ガスが反応
G.被成膜体の最表面が第2反応ガスで飽和
H.真空装置から過剰な第2反応ガスおよび副生成物を排気
【0038】
そして、ALD法では、SiO、Al、ZrO、HfO、Ta、TiO等の酸化物膜、AlN、TaN、TiN、TaSiN、TiSiN等の窒化物膜、Cu、Ru、Ir、Ni、Pt等の金属膜、CaF、SrF、MgF等のフッ化物膜、GaAs、InP、GaP等の化合物膜の成膜が可能である。
【0039】
例えば、ALD法でもっとも多く成膜が行われているAlの単原子(単分子)層を形成する場合、下記4工程で1サイクルが完成する。
【0040】
(1)第1反応ガスである水分子を導入して被成膜体の最表面にOH基を吸着させる。
(1層目以降の反応)
2HO+:O−Al(CH → :Al−O−Al(OH)+2CH
(2)過剰水分子をパージ排気する。
(3)Al膜の第2反応ガス(原料ガス)であるTMA[Trimethyl Aluminum:Al(CH]ガスを導入する。TMA分子がOH基と反応してCHガスが発生する。
(1層目の反応)
Al(CH+:O−H → :O−Al(CH+CH
(1層目以降の反応)
Al(CH+:Al−O−H → :Al−O−Al(CH+CH
(4)過剰なTMAガスとCHガスをパージ排気する。
【0041】
この4工程で約0.1nmのAl膜が形成されるので、要求する膜厚に到達するまで上記4工程を繰り返して膜厚を増加させる。
【0042】
ALD法においては反応を促進させるため、被成膜体を加熱(100〜300℃)するか、あるいはプラズマ照射を行うことが好ましい。
【0043】
2.スパッタリングウェブコータ
本発明に係る金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、図2に示したように耐熱性樹脂フィルム1と、耐熱性樹脂フィルム1の両面に原子層堆積(ALD)法により成膜された誘電体膜2と、各誘電体膜2上にスパッタリング法により成膜された金属ベース層3と、各金属ベース層3上に湿式めっき法により形成された金属膜4とで構成されている。
【0044】
そして、本発明に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法においては、金属ベース層3および必要に応じて誘電体膜2と金属ベース層3間に介在される金属シード層を成膜する手段として、長尺状フィルム面に効率よく金属膜を成膜できるスパッタリングウェブコータが適用される。
【0045】
上記スパッタリングウェブコータは、耐熱性樹脂フィルムの巻き出しロールと巻き取りロール間の搬送路上に配置されかつ水冷温調されたキャンロールと、キャンロールの外周面近傍に配置されたスパッタリングカソードを有しており、誘電体膜が形成された耐熱性樹脂フィルムをキャンロールに巻き付けた状態でスパッタリング成膜が行なわれるため、成膜中のプラズマに起因した耐熱性樹脂フィルムの熱的ダメージを低減できる。
【0046】
また、巻き出しロールと巻き取りロールはパウダークラッチ等により耐熱性樹脂フィルムの張力バランスが保たれており、キャンロールの回転により巻き出しロールから長尺の耐熱性樹脂フィルムが巻き出されて巻き取りロールに巻き取られる。また、金属ベース層および必要に応じて誘電体膜と金属ベース層間に介在される金属シード層のスパッタリング成膜には板状のターゲットを使用することが好ましいが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。このため、ノジュール(異物の成長)の発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することもできる。
【0047】
3.誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置
長尺の耐熱性樹脂フィルム両面に原子層堆積(ALD)法によりそれぞれ成膜された誘電体膜と、各誘電体膜上にスパッタリング法によりそれぞれ成膜された金属ベース層とを有する本発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置は、第一減圧室と、隔壁を介し上記第一減圧室に隣接して設けられた第二減圧室を具備し、上記第一減圧室内には、長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き出す巻き出しロールと、巻き出された耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室が交互に少なくとも1組以上配置された誘電体膜の成膜手段が設けられ、かつ、上記第二減圧室内には、隔壁の開口部を介し搬入されてくる耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタリングカソードを有し耐熱性樹脂フィルムの一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第一スパッタリングウェブコータと、上記一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜した耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタリングカソードを有し上記耐熱性樹脂フィルムの他方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第二スパッタリングウェブコータ、および、各誘電体膜上に金属ベース層がそれぞれ成膜された長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き取る巻き取りロールが設けられていると共に、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群が耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り上記第一減圧室と第二減圧室にそれぞれ設けられていることを特徴としている。
【0048】
ここで、ALD法は、本来、静止した被成膜体に対し反応ガスを入れ換えながら成膜を行う方法である。そこで、連続搬送される長尺の耐熱性樹脂フィルムにALD法による誘電体膜の成膜を行うため、本発明に係る製造装置においては、上述した第一減圧室内に耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室を交互に少なくとも1組以上配置する構成を採っている。そして、本発明に係る製造装置においては、第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室が交互に少なくとも1組以上配置されている第一減圧室の領域を耐熱性樹脂フィルムが通過することにより、上述したALD法の各反応を各反応室で行いながら誘電体膜が形成される。
【0049】
また、本発明に係る製造装置において、ALD法による誘電体膜の成膜が行なわれる第一減圧室とスパッタリング法による金属ベース層および必要に応じて誘電体膜と金属ベース層間に介在される金属シード層の成膜が行なわれる第二減圧室とでは成膜に適したガス圧が異なるため、各減圧室を上記隔壁で区画し、差動排気によりそれぞれの成膜に適したガス圧を保つ必要がある。また、ALD法においては、反応を促進させるため上述したように被成膜体を加熱しあるいはプラズマ照射を行なうことが望ましい。しかし、連続搬送されている耐熱性樹脂フィルムを均一に加熱することを考慮した場合、プラズマ照射を行なう方がより好ましい。
【0050】
次に、本発明に係る製造装置の一実施態様を図3に示す。
【0051】
すなわち、本発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置5は、図3に示すように、ALD法による誘電体膜の成膜が行なわれる第一減圧室7と、開口部42を有する隔壁41を介し、隣接して設けられたスパッタリング法による金属ベース層および必要に応じて金属シード層の成膜が行なわれる第二減圧室6とを備えている。また、ALD法による誘電体膜の成膜が行なわれる第一減圧室7と、スパッタリング法による金属ベース層等の成膜が行なわれる第二減圧室6とでは成膜に適したガス圧が異なるため、開口部42を有する上記隔壁41により各領域が区画されて差動排気されている。また、上記隔壁41の開口部42部分において耐熱性樹脂フィルム8を2本のロールで挟んで気密性を高めることも可能である。
【0052】
また、上記第一減圧室7内には、長尺の耐熱性樹脂フィルム8を巻き出す巻き出しロール9と、巻き出された耐熱性樹脂フィルム8の搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室が交互に3組(すなわち、第1反応室14、16、18と、第2反応室15、17、19)配置されており、また、上記第二減圧室6内には、隔壁41の開口部42を介し搬入されてくる耐熱性樹脂フィルム8が巻き付けられると共に水冷温調されたキャンロール11と4台のマグネトロンスパッタリングカソード20、21、22、23を有し耐熱性樹脂フィルム8の一方の誘電体膜上に金属ベース層等を成膜する第一スパッタリングウェブコータと、上記一方の誘電体膜上に金属ベース層等を成膜した耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられると共に水冷温調されたキャンロール12と4台のマグネトロンスパッタリングカソード24、25、26、27を有し上記耐熱性樹脂フィルム8の他方の誘電体膜上に金属ベース層等を成膜する第二スパッタリングウェブコータ、および、各誘電体膜上に金属ベース層等がそれぞれ成膜された長尺の耐熱性樹脂フィルム8を巻き取る巻き取りロール10が設けられており、更に、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のフリーロール28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40が耐熱性樹脂フィルム8の搬送方向に亘り第一減圧室7と第二減圧室6にそれぞれ設けられている。
【0053】
そして、上記長尺の耐熱性樹脂フィルム8は、巻き出しロール9から巻き出されて巻き取りロール10により巻き取られる。巻き出しロール9と巻き取りロール10はパウダークラッチ等により張力バランスが保たれており、水冷温調されたキャンロール11、12の回転により耐熱性樹脂フィルム8が搬送される。また、上記巻き出しロール9と巻き取りロール10間には、駆動部を持たない上述のフリーロール28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40が設けられており、張力によりキャンロール11、12に耐熱性樹脂フィルム8を密着させる制御を行う場合には、上記フリーロール31、32、37、38に張力センサが取り付けられることもある。また、差速によりキャンロール11、12に耐熱性樹脂フィルム8を密着させる制御を行う場合には、フリーロール31、32、37、38が駆動ロールとなることもある。
【0054】
また、耐熱性樹脂フィルムと誘電体膜との密着力を高めるため、上記第一減圧室7内のALD法による誘電体膜の成膜を行う前段の位置に、アルゴンガス、酸素ガス等を導入したプラズマ処理あるいはイオンビーム処理を行なう表面処理ユニット13を配置することも可能である。
【0055】
そして、表面処理ユニット13によりその両面をクリーニングおよび活性化処理された耐熱性樹脂フィルム8は、第1反応ガスが導入された第1反応室14、第2反応ガスが導入された第2反応室15、第1反応ガスが導入された第1反応室16、第2反応ガスが導入された第2反応室17、第1反応ガスが導入された第1反応室18、および、第2反応ガスが導入された第2反応室19を通過することで、上述したALD法による反応が起こって3原子(分子)層の誘電体膜が両面同時に成膜される。尚、誘電体膜の原子層を増やしたい場合は、第1反応ガスが導入された第1反応室と第2反応ガスが導入された第2反応室を1組として、組単位で増設すればよい。
【0056】
次に、両面に誘電体膜が形成された耐熱性樹脂フィルム8は、第一減圧室7から上記隔壁41の開口部42を通って第二減圧室6内に搬入され、水冷温調されたキャンロールと4台のマグネトロンスパッタリングカソードをそれぞれ有する第一スパッタリングウェブコータと第二スパッタリングウェブコータの成膜領域に搬送される。スパッタリングウェブコータの成膜領域では、金属ベース層等の形成用金属ターゲットが取り付けられた4台のマグネトロンスパッタリングカソード20、21、22、23を用いて水冷温調されたキャンロール11上に巻き付けられた耐熱性樹脂フィルム8の第1成膜面(一方の誘電体膜上)に金属ベース層等が成膜され、更に、金属ベース層等の形成用金属ターゲットが取り付けられた4台のマグネトロンスパッタリングカソード24、25、26、27を用いて水冷温調されたキャンロール12上に巻き付けられた耐熱性樹脂フィルム8の第2成膜面(他方の誘電体膜上)に金属ベース層等が成膜された後、各誘電体膜上に金属ベース層等がそれぞれ成膜された耐熱性樹脂フィルム8は巻き取りロール10に巻き取られて本発明に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムが得られる。
【0057】
そして、このようにして製造された誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムにおいては、上記誘電体膜がALD法により成膜されているため金属ベース層にピンホールが存在することがない。金属ベース層にピンホールが存在しない理由について本発明者は以下のように推察している。まず、ALD法は原子レベルで成膜が進行するため、耐熱性樹脂フィルムにおける凸凹部分の全てを誘電体膜により完全にカバーさせることができる。そして、真空を保持したままの表面活性が高い状態にある上記誘電体膜全面にスパッタリング法により金属ベース層が成膜されることになるため、金属ベース層にピンホールが存在することがないと推察している。一方、上述したALD法による誘電体膜の成膜を行なわずにスパッタリング法による金属ベース層の成膜を行なった場合、スパッタリング粒子の指向性が高いことに起因して、耐熱性樹脂フィルムにおける凸凹部分の全てを金属ベース層により(金属シード層を設ける場合には金属シード層と金属ベース層により)完全にカバーさせることが難しいため、カバーされなかった部分がピンホール存在の原因の一つになっていると考えられる。
【0058】
尚、得られた誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムについては、後述するように配線加工をしてもよいし、更に、金属ベース層上に湿式めっき処理を行なって金属膜付耐熱樹脂フィルムへ加工しても良い。
【0059】
そして、誘電体膜を有する上記金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属ベース層上に湿式めっき法を用いて金属膜を形成する場合、電気めっき処理のみで行う場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合がある。湿式めっき処理は、常法による湿式めっき法の諸条件を採用すればよい。そして、ピンホールのない誘電体膜上に形成された金属ベース層の上に金属膜を更に形成することで、優れた密着力を有しピンホールもなくかつ金属ベース層の酸化が防止され更に製造コストのメリットをも満足した金属膜付耐熱性樹脂フィルムを得ることが可能となる。
【0060】
このようにして得られた金属膜付耐熱性樹脂フィルムを用いて、この金属膜付耐熱性樹脂フィルムの少なくとも片面に配線パターンを個別に形成する。また、所定の位置に層間接続のためのヴィアホールを形成して各種用途に用いることもできる。より具体的に説明すると、(1)高密度配線パターンをフレキシブルシートの少なくとも片面に個別に形成して利用する。(2)配線層が形成されたフレキシブルシートに該配線層とフレキシブルシートとを貫通するヴィアホールを形成して利用する。(3)場合によっては、該ヴィアホール内に導電性物質を充填してホール内を導電化して利用する。
【0061】
そして、上記配線パターンの形成方法としては、いわゆる公知のサブトラクティブ法またはセミアディティブ法を利用することができる。
【0062】
サブトラクティブ法は、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの金属膜表面にドライフィルム等のレジスト層を設け、このレジスト層上に所定の配線パターンを有するマスクを設けると共に、このマスクを介し紫外線照射して露光し、かつ、レジスト層を現像して金属膜付耐熱性樹脂フィルムの上記金属膜および金属ベース層をエッチングするためのエッチングマスクを得る。次いで、現像処理されたレジスト層(上記エッチングマスク)から露出している金属膜および金属ベース層をエッチングして除去し、かつ、残存するレジスト層(エッチングマスク)を除去して配線パターンを得る方法である。エッチングには、塩化第2鉄溶液等のエッチング液を用いることができる。
【0063】
セミアディティブ法は、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの金属膜または金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属ベース層の表面にドライフィルム等のレジスト層を設け、このレジスト層上に所定の配線パターンを有するマスクを設けると共に、このマスクを介し紫外線照射して露光し、かつ、レジスト層を現像して上記金属膜または金属ベース層表面に銅を電着させるためのめっき用マスクを得る。次いで、現像処理されたレジスト層(上記めっき用マスク)から露出している金属膜または金属ベース層を陰極とした電気メッキにより配線部を形成し、次に残存するレジスト層(上記めっき用マスク)を除去した後、レジスト層で覆われていた不要な金属膜または金属ベース層をエッチング除去して配線パターンを得る方法である。セミアディティブ法により配線パターンを得る場合、誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを用いるか、上記金属膜付耐熱性樹脂フィルムを用いるかは適宜選択できる。そして、セミアディティブ法により金属膜付耐熱性樹脂フィルムを配線パターン加工する場合、金属膜の厚みを1μm以上確保し、エッチング除去できる厚みであればよい。
【0064】
尚、上記配線パターンの形成は、両面をパターン加工してフレキシブルシートの両面に配線パターンを形成することが好ましい。全ての配線パターンを幾つかの配線領域に分割するかどうかは、配線パターンの配線密度の分布等による。例えば、配線パターンを、配線幅と配線間隔がそれぞれ50μm以下の高密度配線領域とその他の配線領域に分け、プリント基板との熱膨張差や取扱い上の都合等を考慮して分割する配線基板のサイズを10〜65mm程度に設定して適宜分割すればよい。
【0065】
また、上記ヴィアホールの形成方法としては、従来公知の方法が利用でき、例えば、レーザー加工等により、配線パターンの所定の位置に該配線パターンとフレキシブルシートを貫通するヴィアホールを形成する。ヴィアホールの直径は、ホール内の導電化に支障を来たさない範囲内で小さくすることが好ましく、通常100μm以下、好ましくは50μm以下にする。ヴィアホール内には、めっき、蒸着、スパッタリング等により銅等の導電性金属を充填あるいは所定の開孔パターンを持つマスクを使用して導電性ペーストを圧入、乾燥し、ホール内を導電化して層間の電気的接続を行う。
【0066】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0067】
図3に示す誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置5を用い、上記長尺の耐熱性樹脂フィルム8には、幅500mm、長さ200m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックスS(登録商標)」を使用した。
【0068】
また、第一減圧室7内の表面処理ユニット13には、酸素ガス導入によるイオンビーム照射を採用し、イオンビーム電圧3kVを印加した。
【0069】
また、ALD法による誘電体膜は、3分子層ともAlの単原子(単分子)とし、第1反応ガスには水分子を導入し、第2反応ガスにはTMA[Trimethyl Aluminum:Al(CH]ガスを導入した。各プラズマ反応室14、15、16、17、18、19には、アルゴンガスの導入による1kWのRFプラズマを発生させ、反応ガスを連続的に第一減圧室7の正面から導入しながら、第一減圧室7の背面に向かってそれぞれ独立したドライポンプで排気した。
【0070】
また、金属ベース層はCu膜とし、各マグネトロンスパッタターゲットにはCuを用い、アルゴンガスを300sccmで導入し、各カソード電力10kWで成膜を行った。また、巻き出しロール9と巻き取りロール10の張力は80Nとした。
【0071】
そして、第一減圧室7の巻き出しロール9に上記耐熱性ポリイミドフィルム(耐熱性樹脂フィルム)8をセットし、かつ、表面処理ユニット13、各プラズマ反応室14〜19、キャンロール11、キャンロール12を経由して上記耐熱性ポリイミドフィルム8の先端部を巻き取りロール10に取り付けた。
【0072】
上記製造装置5におけるスパッタリング法の成膜を行なう第二減圧室6とALD法の成膜を行なう第一減圧室7のそれぞれについて、大型ドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、スパッタリング法の成膜を行なう上記第二減圧室6はターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて5×10-3Paまで排気した。また、各キャンロール11、12における水冷温調の設定値は20℃とした。
【0073】
そして、上記フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)8の搬送速度を2m/分にした後、表面処理ユニット13のイオンビーム、各プラズマ反応室14〜19のプラズマと各マグネトロンスパッタリングカソード20、21、22、23、24、25、26、27にも酸素ガスあるいはアルゴンガスを導入し、イオンビーム、各プラズマ反応室のプラズマと各マグネトロンスパッタリングカソードに電力を印加して成膜処理を開始した。
【0074】
そして、上記フィルム8の長さ190m分が通過して時点で、イオンビーム、各プラズマ反応室のプラズマと各マグネトロンスパッタリングカソードへの電力を停止し、それぞれのガス導入も停止した。
【0075】
最後に、フィルム8の搬送を停止し、かつ、各ポンプを停止してから第二減圧室6と第一減圧室7をベント(大気開放)し、巻き出しロール9の耐熱性ポリイミドフィルム8の終端部を外し、全てのフィルム8を巻き取りロール10に巻き取ってから取り外した。
【0076】
そして、得られた誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの一部を切り出し、その第1成膜面(上記フィルムの一方の面に形成されたAlの誘電体膜とCu金属ベース層)および第2成膜面(上記フィルムの他方の面に形成されたAlの誘電体膜とCu金属ベース層)を部分的にCu金属ベース層のみエッチングし、かつ、それぞれの面に形成されたCuの膜厚を蛍光X線膜厚計により測定した結果、上記第1成膜面と第2成膜面とも約100nmであった。
【0077】
その後、誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属ベース層上に、電解めっき法によりCu全体の膜厚が5μmになるまで金属膜を成膜して実施例1に係る金属膜付耐熱性樹脂フィルムを得た。
【0078】
尚、本実施例1では上記誘電体膜にAlを採用したが、このAl以外の酸素透過バリア性を有するSi、Al、Zr、Hf、Ti、Ta、Nbから選ばれる少なくとも1種の酸化物膜若しくは窒化膜を採用することも可能である。
【実施例2】
【0079】
図3に示した誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置5において、マグネトロンスパッタリングカソード20、27のスパッタリングターゲットに7重量%Cr−Ni合金ターゲットを用いた以外は実施例1と同様にして実施例2に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを製造した。すなわち、誘電体膜と金属ベース層との間に7重量%Cr−Ni合金の金属シード層が介在した金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを製造した。尚、Cr−Ni合金の金属シード層とCu金属ベース層との合計膜厚は、実施例1と同様に100nmであった。
【0080】
[比較例]
実施例と同様に、長尺の耐熱性樹脂フィルム8には、幅500mm、長さ200m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックスS(登録商標)」を使用した。
【0081】
また、比較例では、第一減圧室7のALD法による誘電体膜の成膜は行なわず、第二減圧室6において、耐熱性ポリイミドフィルム面へ直接スパッタリングによる金属ベース層の成膜を行った。また、第一減圧室7内の表面処理ユニット13には、酸素ガス導入によるイオンビーム照射を採用し、イオンビーム電圧3kVを印加した。
【0082】
また、各キャンロールにおける水冷温調の設定値は20℃とした。また、各マグネトロンスパッタターゲットにはCuを用い、アルゴンガスを300sccm導入し、各カソード電力10kWで成膜を行った。また、巻き出しロール9と巻き取りロール10の張力は80Nとした。
【0083】
そして、第一減圧室7の巻き出しロール9に上記耐熱性ポリイミドフィルム8をセットし、かつ、表面処理ユニット13、各プラズマ反応室14〜19、キャンロール11、キャンロール12を経由して上記耐熱性ポリイミドフィルム8の先端部を巻き取りロール10に取り付けた。
【0084】
上記製造装置5における第二減圧室6と第一減圧室7のそれぞれについて、大型ドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、スパッタリング法の成膜を行なう上記第二減圧室6はターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて5×10-3Paまで排気した。
【0085】
そして、上記フィルムの搬送速度を2m/分にした後、表面処理ユニット13のイオンビームと各マグネトロンスパッタリングカソード20、21、22、23、24、25、26、27にも酸素ガスあるいはアルゴンガスを導入し、イオンビームと各マグネトロンスパッタリングカソードに電力を印加して成膜処理を開始し、かつ、上記フィルム8の長さ190m分が通過して時点で、イオンビームと各マグネトロンスパッタリングカソードへの電力を停止し、それぞれのガス導入も停止した。
【0086】
最後に、フィルム8の搬送を停止し、かつ、各ポンプを停止してから第二減圧室6と第一減圧室7をベント(大気開放)し、巻き出しロール9の耐熱性ポリイミドフィルム8の終端部を外し、全てのフィルム8を巻き取りロール10に巻き取ってから取り外した。
【0087】
そして、誘電体膜を具備しない比較例に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの一部を切り出し、その第1成膜面(上記フィルムの一方の面に直接形成されたCu金属ベース層)および第2成膜面(上記フィルムの他方の面に直接形成されたCu金属ベース層)を部分的にエッチングし、かつ、それぞれの面に形成されたCuの膜厚を蛍光X線膜厚計により測定した結果、上記第1成膜面と第2成膜面とも約100nmであった。
【0088】
その後、誘電体膜を具備しない比較例に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの金属ベース層上に、電解めっき法によりCu全体の膜厚が5μmになるまで金属膜を成膜して比較例に係る金属膜付耐熱性樹脂フィルムを得た。
【0089】
「評 価」
耐熱性樹脂フィルム上にALD法による誘電体膜(Al)を成膜しかつこの誘電体膜(Al)上にスパッタリング法により金属ベース層(Cu)を成膜して製造された実施例1に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム、実施例1と同様、耐熱性樹脂フィルム上にALD法による誘電体膜(Al)を成膜しかつこの誘電体膜(Al)上にスパッタリング法により金属シード層(Cr−Ni合金)と金属ベース層(Cu)を成膜して製造された実施例2に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム、および、ALD法による誘電体膜(Al)を形成せずに耐熱性樹脂フィルムの面上に直接スパッタリング法により金属ベース層(Cu)を成膜して製造された誘電体膜を具備しない比較例に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムについて、初期および高温高湿環境下に放置したときの密着力測定を行った。
【0090】
すなわち、実施例1〜2に係る誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムに電解めっき法により金属膜を成膜した実施例1〜2に係る金属膜付耐熱性樹脂フィルムと、誘電体膜を具備しない比較例に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムに電解めっき法により金属膜を成膜した比較例に係る金属膜付耐熱性樹脂フィルムから、それぞれ100mm角のサンプルを切り出し、エッチングにより片面に1mm幅の金属(Cu)ストライプを形成した。
【0091】
そして、実施例1〜2と比較例の各サンプルについて上記金属ストライプを垂直方向に引き剥がしながら密着力をそれぞれ測定した。更に、実施例1〜2と比較例の各サンプルを、温度85℃、湿度85%の環境試験器内に放置し、100時間経過毎に上記密着力の測定をそれぞれ行った。この結果を表1示す。
【0092】
【表1】

【0093】
(1)表1に示された密着力(相対比)のデータから、ALD法により形成された誘電体膜(Al)を有する実施例1〜2に金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムは、上記誘電体膜を具備しない比較例に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムと比較して環境試験における密着力の低下が遅くなっていることが確認され、かつ、実施例1と実施例2に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを比較した場合、実施例2に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの方が密着力の低下が遅くなっていることが確認される。
【0094】
(2)そして、上記差異が生ずる理由として本発明者は以下のように考えている。
【0095】
まず、ALD法により形成された誘電体膜(Al)を有する実施例1〜2に金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムは、わずか3分子層ではあるがALD法により成膜されたピンホールのない誘電体膜(Al)の作用により耐熱性樹脂フィルム基板からの酸素供給が抑制され、金属ベース層(Cu)の酸化に起因する密着力の低下が予防できると考えられ、かつ、実施例2に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムにおいては、上記誘電体膜(Al)と共に金属シード層(Cr−Ni合金)の作用が加えられた結果、実施例1に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムより密着力の低下が遅くなったものと考えられる。尚、ALD法による誘電体膜(Al)の堆積分子層の数を増やせば、更に上記効果を増大できることが期待できる。
【0096】
(3)他方、上記誘電体膜(Al)を具備しない比較例に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムは、耐熱性樹脂フィルム基板からの酸素供給による金属ベース層(Cu)の酸化に起因して密着力の低下が生じているものと考えられる。
【0097】
従って、本発明に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法を採用することにより、耐熱性樹脂フィルム基板からの酸素供給に起因した金属ベース層(Cu)の密着力低下を予防できることが確認される。
【0098】
(4)尚、上記密着力の測定試験に加え、誘電体膜(Al)を有する実施例1〜2に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムと上記誘電体膜を具備しない比較例に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムからそれぞれ100mm角のサンプルを切り出し、各サンプル両面に形成された金属ベース層内の直径10μm以上のピンホールの数を顕微鏡観察により計測する試験も合わせて行なっている。
【0099】
この結果、ALD法により形成された誘電体膜(Al)上に直接若しくは金属シード層(Cr−Ni合金)を介し上記金属ベース層(Cu)が成膜された実施例1〜2に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムにおいては上記金属ベース層(Cu)にピンホールが両面とも存在しなかったのに対し、上記誘電体膜を具備しない比較例に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムにおいては金属ベース層(Cu)にピンホールが存在することが確認された。
【0100】
そして、実施例1〜2に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムにおいて金属ベース層(Cu)にピンホールが存在しない理由として、本発明者は以下のように考えている。
【0101】
すなわち、実施例1〜2に係る金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムにおいては、ALD法によりピンホールのない誘電体膜(Al)が耐熱性樹脂フィルム表面に沿って表面上での化学反応により一様かつ均一に形成されているため、誘電体膜(Al)上にスパッタリング法により成膜される金属ベース層(Cu)にピンホールが形成され難いと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係る製造方法によれば、密着力に優れかつピンホールがないと共に金属ベース層の酸化が防止される誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムを連続して効率よく製造できるため、この金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムから得られる金属膜付耐熱性樹脂フィルムを液晶テレビ、携帯電話等のフレキシブル配線に適用できる産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0103】
1 耐熱性樹脂フィルム
2 ALD法による誘電体膜
3 スパッタリング法による金属ベース層
4 湿式めっき法による金属膜
5 誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置
6 第二減圧室
7 第一減圧室
8 耐熱性樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)
9 巻き出しロール
10 巻き取りロール
11 キャンロール
12 キャンロール
13 表面処理ユニット
14 第1反応室
15 第2反応室
16 第1反応室
17 第2反応室
18 第1反応室
19 第2反応室
20 マグネトロンスパッタカソード
21 マグネトロンスパッタカソード
22 マグネトロンスパッタカソード
23 マグネトロンスパッタカソード
24 マグネトロンスパッタカソード
25 マグネトロンスパッタカソード
26 マグネトロンスパッタカソード
27 マグネトロンスパッタカソード
28 フリーロール
29 フリーロール
30 フリーロール
31 フリーロール若しくは駆動ロール
32 フリーロール若しくは駆動ロール
33 フリーロール
34 フリーロール
35 フリーロール
36 フリーロール
37 フリーロール若しくは駆動ロール
38 フリーロール若しくは駆動ロール
39 フリーロール
40 フリーロール
41 隔壁
42 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の耐熱性樹脂フィルムの両面にそれぞれ誘電体膜を介しスパッタリング法により成膜された金属ベース層を有すると共に、各金属ベース層上に湿式めっき法により金属膜が形成される誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法において、
巻き出しロールから巻き出された長尺の耐熱性樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により搬送して巻き取りロールに巻き取ると共に、巻き出しロールと巻き取りロール間の搬送路上において原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により上記耐熱性樹脂フィルムの両面に誘電体膜をそれぞれ成膜する第一成膜工程と、
上記搬送路上において耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有する第一スパッタリングウェブコータにより一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第二成膜工程と、
上記搬送路上において上記一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜した耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有する第二スパッタリングウェブコータにより他方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第三成膜工程と、
各誘電体膜上に金属ベース層がそれぞれ成膜された長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き取りロールに巻き取る巻き取り工程、
を具備し、かつ、上記第一成膜工程、第二成膜工程および第三成膜工程を連続して行なうことを特徴とする誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
上記第一成膜工程が、耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室を交互に少なくとも1組以上配置した誘電体膜の成膜手段を用いて行なうことを特徴とする請求項1に記載の誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
上記誘電体膜が、Si、Al、Zr、Hf、Ti、Ta、Nbから選ばれた少なくとも1種の酸化物膜若しくは窒化膜で構成され、かつ、上記金属ベース層が、CuまたはCu系合金から選ばれた1種で構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
上記誘電体膜と金属ベース層との間に、NiまたはNi合金から選ばれかつ上記スパッタリングウェブコータにより成膜される金属シード層が介在していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
上記長尺の耐熱性樹脂フィルムが、ポリイミドフィルムまたはアラミドフィルムから選ばれる1種で構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られた誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの各金属ベース層上に、湿式めっき法により金属ベース層と同種の金属膜をそれぞれ形成することを特徴とする金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
長尺の耐熱性樹脂フィルムの両面に原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により成膜された誘電体膜と、各誘電体膜上にスパッタリング法により成膜された金属ベース層とを有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置において、
第一減圧室と、隔壁を介し上記第一減圧室に隣接して設けられた第二減圧室を具備し、
上記第一減圧室内には、長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き出す巻き出しロールと、巻き出された耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室が交互に少なくとも1組以上配置された誘電体膜の成膜手段が設けられ、かつ、
上記第二減圧室内には、隔壁の開口部を介し搬入されてくる耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有しかつ上記耐熱性樹脂フィルムの一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第一スパッタリングウェブコータと、上記一方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜した耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有しかつ上記耐熱性樹脂フィルムの他方の誘電体膜上に金属ベース層を成膜する第二スパッタリングウェブコータ、および、各誘電体膜上に金属ベース層がそれぞれ成膜された長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き取る巻き取りロールが設けられていると共に、
ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール群が耐熱性樹脂フィルムの搬送方向に亘り上記第一減圧室と第二減圧室にそれぞれ設けられていることを特徴とする誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置。
【請求項8】
上記誘電体膜の成膜手段により形成される誘電体膜が、Si、Al、Zr、Hf、Ti、Ta、Nbから選ばれた少なくとも1種の酸化物膜若しくは窒化膜で構成され、かつ、第一スパッタリングウェブコータと第二スパッタリングウェブコータにより形成される金属ベース層が、CuまたはCu系合金から選ばれる1種で構成されることを特徴とする請求項7に記載の誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置。
【請求項9】
NiまたはNi合金から選ばれかつ上記誘電体膜と金属ベース層との間に介在させる金属シード層を第一スパッタリングウェブコータと第二スパッタリングウェブコータによりそれぞれ成膜させることを特徴とする請求項7に記載の誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置。
【請求項10】
上記長尺の耐熱性樹脂フィルムが、ポリイミドフィルムまたはアラミドフィルムから選ばれる1種で構成されることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の誘電体膜を有する金属ベース層付耐熱性樹脂フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−255611(P2011−255611A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132859(P2010−132859)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】