説明

誘電体薄膜の形成方法及び該誘電体薄膜を有する薄膜キャパシタ

【課題】薄膜キャパシタ等に用いた場合に、高いチューナビリティを発現させ得る誘電体薄膜を形成する方法及び該方法により得られた誘電体薄膜を有する薄膜キャパシタとチューナブルデバイスを提供する。
【解決手段】Ba1-xSrxTiy3(0.2<x<0.6、0.9<y<1.1)の誘電体薄膜をゾルゲル法で形成するときに、塗布から焼成までの工程は2〜9回行い、初回の焼成後に形成される薄膜の厚さは20〜80nmとし、2回目以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さは20〜200nm未満とし、初回から2〜9回までのそれぞれの焼成は大気圧雰囲気下、昇温速度1〜50℃/分で500〜800℃の範囲内の所定の温度まで昇温させることにより行い、誘電体薄膜の総厚は100〜600nmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜キャパシタ等に用いた場合に、高いチューナビリティを発現させ得る誘電体薄膜を形成する方法に関する。また本発明は、この方法により形成された誘電体薄膜を有する高チューナビリティの薄膜キャパシタに関する。更に本発明は、この薄膜キャパシタを備えたチューナブルデバイスに関する。本明細書で「チューナブル(tunable)」とは、印加する電圧を変化させると静電容量が変化し得ることをいい、「チューナビリティ(tunability)」とは、静電容量の可変性又は変化率をいう。
【背景技術】
【0002】
高周波用フィルタ、高周波用アンテナ、フェーズシフタ等の高周波チューナブルデバイスには、可変容量素子(チューナブル素子)として、上部電極及び下部電極とこの両電極間に形成された誘電体層から構成される薄膜キャパシタ等が組み込まれている。薄膜キャパシタは、両電極間に印加する電圧の変化によってその静電容量を変化させるコンデンサとして機能する。このような薄膜キャパシタを構成する誘電体層には、高い誘電率を有するチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸バリウムストロンチウム(以下、「BST」という)、チタン酸バリウム(BaTiO3)等のペロブスカイト型酸化物を用いて形成された誘電体薄膜が使用されている。誘電体薄膜を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等の物理的気相成長法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の化学的気相成長法の他に、ゾルゲル法等の化学溶液法が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
そして、このようなチューナブルデバイスに用いられる薄膜キャパシタを評価する諸特性の一つに、印加電圧に対する静電容量の可変性(チューナビリティ)が挙げられ、電圧を印加させたときに制御できる静電容量の幅がより大きいもの、即ち高チューナビリティのものが望まれる。その理由は、チューナビリティが高いものほど、より小さい電圧変化で、より広い共振周波数帯域に対応することができるからである。具体的に、チューナビリティは、電圧を印加する前の静電容量をC0Vとし、tVの電圧を印加させた後の静電容量をCtVとすると、チューナビリティ=(C0V−CtV)/C0V×100%で表される。例えば、図5に示すように、5Vの電圧を印加すると、印加電圧がないときのC0VからC5Vまで静電容量が変化するが、このとき、C0VからC5Vまでの幅が大きければ大きいほどチューナビリティが高く、高チューナビリティの薄膜キャパシタであると言える。このようなチューナビリティを高める技術として、高周波帯域における使用に際して所望のインピーダンスを維持しつつ、誘電率の高い材料を用いて高チューナビリティを確保し得るチューナブルキャパシタが開示されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に開示されているチューナブルキャパシタは、第1の誘電体層と上面電極との間において、第1の誘電体層よりも低い誘電率の第2の誘電体層を、第1の誘電体層の主面の一部を覆うように形成することにより、低容量で高いチューナビリティを確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−236404号公報(6ページの右上欄10行目〜左下欄3行目)
【特許文献2】特開2008−53563号公報(段落[0004]、段落[0008])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在市場に出回る多くの薄膜キャパシタは、チューナビリティが比較的高いものでも未だ40〜50%程度であって十分なものとは言えず、様々な方向からチューナブル特性を改善するための種々の研究がなされている。
【0006】
一方、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、薄膜キャパシタのチューナブル特性に、誘電体薄膜の膜断面にみられる微細組織が大きく関係していることが判明した。例えば、図3に示すように、膜の縦断面において大粒径の粒状結晶が凝集した微細組織を有する誘電体薄膜26や、図4に示すように、微細な粒状結晶が凝集した微細組織を有する誘電体薄膜36では、高いチューナビリティが得られ難い傾向にある。一方、図2に示すように、膜の縦断面において柱状晶が膜厚方向を縦にして複数並んだ微細組織を有する誘電体薄膜16では、図3及び図4に示す誘電体薄膜に比べてチューナビリティが向上するという事実に着眼し、本発明に至ったものである。
【0007】
本発明の目的は、薄膜キャパシタ等に用いた場合に、高いチューナビリティを発現させ得る誘電体薄膜を形成する方法及び該誘電体薄膜を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、高チューナビリティの薄膜キャパシタ及び該薄膜キャパシタを備えたチューナブルデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、有機バリウム化合物、有機ストロンチウム化合物及びチタンアルコキシドを、モル比がBa:Sr:Ti=1−x:x:yとなるように有機溶媒中に溶解してなるBa1-xSrxTiy3薄膜形成用組成物を支持体上に塗布して乾燥し、塗膜を形成した後、塗膜が形成された支持体を焼成することにより、組成がBa1-xSrxTiy3の誘電体薄膜を形成する方法において、塗布から焼成までの工程は塗布から焼成までの工程を2〜9回行い、初回の焼成後に形成される薄膜の厚さは20〜80nmとし、2回目以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さは20〜200nm未満とし、初回から2〜9回までのそれぞれの焼成は大気圧雰囲気下、昇温速度1〜50℃/分で500〜800℃の範囲内の所定の温度まで昇温させることにより行い、誘電体薄膜の総厚は100〜600nmとし、誘電体薄膜の組成を示すx及びyの値は、0.2<x<0.6、かつ0.9<y<1.1とすることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点は、基板と、基板上に形成された絶縁体膜と、絶縁体膜上に形成された密着層と、密着層上に形成された下部電極と、下部電極上に第1の観点の形成方法により形成された誘電体薄膜と、誘電体薄膜上に形成された上部電極とを有し、次の式(1)で示される印加電圧による静電容量の変化率Tが60%以上であることを特徴とする薄膜キャパシタである。
【0011】
T=(C0V−C5V)/C0V×100 (1)
但し、式(1)中、C0Vは、印加電圧がないときの静電容量であり、C5Vは、印加電圧が5Vのときの静電容量を示す。
【0012】
本発明の第3の観点は、第1の観点の形成方法により形成され、縦断面において柱状晶が厚さ方向を縦にして複数並んだ微細組織を有する誘電体薄膜である。
【0013】
本発明の第4の観点は、第2の観点の薄膜キャパシタを備えたチューナブルデバイスである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点の形成方法では、塗布から焼成までの工程を2〜9回行い、初回の焼成後に形成される薄膜の厚さは20〜80nmとし、2回目以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さは20〜200nm未満とする。また、初回から2〜9回までのそれぞれの焼成は大気圧雰囲気下、昇温速度1〜50℃/分で500〜800℃の範囲内の所定の温度まで昇温させることにより行う。そして、最終的に形成される誘電体薄膜の総厚は、100〜600nmとし、組成は、Ba1-xSrxTiy3(0.2<x<0.6、かつ0.9<y<1.1)とする。このように誘電体薄膜を形成することで、膜の縦断面において柱状晶が膜厚方向を縦にして複数並んだ微細組織を有する誘電体薄膜を形成することができる。これにより、この誘電体薄膜を用いて形成される薄膜キャパシタ等において、非常に高いチューナビリティを発現させることができる。
【0015】
本発明の第2の観点の薄膜キャパシタは、本発明の形成方法により得られた誘電体薄膜を有するため、印加電圧による静電容量の変化率が60%以上の非常に高いチューナビリティが得られる。
【0016】
本発明の第3の観点の誘電体薄膜は、本発明の形成方法により形成されるため、膜の縦断面において柱状晶が膜厚方向を縦にして複数並んだ微細組織を有し、これを用いて形成される薄膜キャパシタ等において、非常に高いチューナビリティを発現させることができる。
【0017】
本発明の第4の観点のチューナブルデバイスでは、チューナブル素子として本発明の薄膜キャパシタを備えるため、非常に高いチューナブル特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明実施形態の薄膜キャパシタの断面構成図である。
【図2】本発明実施形態の形成方法により形成された誘電体薄膜の拡大断面写真図である。
【図3】従来の形成方法により形成された誘電体薄膜の一例を示す拡大断面写真図である。
【図4】従来の形成方法により形成された誘電体薄膜の別の例を示す拡大断面写真図である。
【図5】可変容量素子における印加電圧の変化に伴う静電容量の変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明は、薄膜キャパシタ等において、誘電体層として用いられる誘電体薄膜を、所望の微細組織に形成することによって高いチューナビリティを発現させるというものである。所望の微細組織とは、上述のように、図2に示す下部電極14上に形成された誘電体薄膜16の縦断面において、膜厚方向を縦にして柱状晶が複数並んだ微細組織である。このような微細組織を有する誘電体薄膜16は、これを用いて形成される薄膜キャパシタ等において、図3に示すような大粒径の粒状結晶が凝集する微細組織を有する誘電体薄膜26や、図4に示す微細な粒状結晶が凝集する微細組織を有する誘電体薄膜36に比べ、高いチューナビリティを発現させ得る。その理由は、組織が大きくなると、比誘電率が大きくなることに起因すると推察される。
【0021】
このような微細組織を有する誘電体薄膜16は、支持体上に薄膜形成用の組成物を塗布して乾燥し、塗膜を形成した後、塗膜が形成された支持体を焼成する、いわゆるゾルゲル法によって形成することができる。具体的な形成方法について、以下、薄膜キャパシタの製造方法を例に挙げて説明する。
【0022】
薄膜キャパシタには、図1に示すように、基板11に下部電極14と誘電体薄膜16と上部電極17をこの順に積層してなる3層積層タイプのものと、図示しないが、比抵抗の小さいSi基板等を下部電極として用い、その上に誘電体薄膜と上部電極を積層してなる2層積層タイプのものとがある。ここでは前者の場合を例に挙げて説明する。
【0023】
基板11としては、Si基板等が挙げられ、絶縁体膜12には、例えばこのSi基板表面に酸化性ガス雰囲気下、ドライ酸化又はウェット酸化を施すことにより形成された熱酸化膜(SiO2)等が挙げられる。また、下部電極14には、Pt等の貴金属が用いられ、この下部電極14は、スパッタリング法、真空蒸着法等の気相成長法や、スクリーン印刷法等により形成することができる。更に、絶縁体膜12と下部電極14との密着性を確保するために適宜密着層13を設けてもよい。密着層13としては、Ti、Ta等の酸化親和性が高い金属薄膜又はそれらの酸化物を用いることができる。このような薄膜キャパシタの例では、誘電体薄膜16が形成される支持体として、具体的に、Pt/Ti/SiO2/Si、Pt/IrO/Ir/SiO2/Si、Pt/TiN/SiO2/Si、Pt/Ta/SiO2/Si、Pt/Ir/SiO2/Siの例に示されるような、密着層13と下部電極14とが積層された絶縁体膜12を有する基板11が挙げられる。
【0024】
また、薄膜形成用組成物としては、有機バリウム化合物、有機ストロンチウム化合物及びチタンアルコキシドを、モル比がBa:Sr:Ti=1−x:x:yとなるように有機溶媒中に溶解してなるBa1-xSrxTiy3薄膜形成用組成物が挙げられる。組成物中のモル比は、形成後の誘電体薄膜におけるモル比に反映されるため、後述する理由から、x値及びy値は、0.2<x<0.6、かつ0.9<y<1.1の範囲にする。有機バリウム化合物及び有機ストロンチウム化合物は、一般式Cn2n+1COOH(ただし、3≦n≦7)で表されるカルボン酸の金属塩であって、次の式(2)の構造をとり得るカルボン酸塩を用いるのが好ましい。ただし、式(2)において、R1〜R6は水素、メチル基又はエチル基であり、MはBa又はSrである。
【0025】
【化1】

具体的には、有機バリウム化合物としては、原料の入手が容易であることから、2−エチルヘキサン酸Ba又は2−エチル酪酸Baが特に好ましい。また、有機ストロンチウム化合物としては、原料の入手が容易であることから、2−エチルヘキサン酸Sr又は2−エチル酪酸Srが特に好ましい。一方、チタンアルコキシドとしては、原料の入手が容易であることから、チタンイソプロポキシド又はチタンブトキシドが特に好ましい。
【0026】
この薄膜形成用組成物を支持体、即ちこの例における下部電極14上に塗布する。続いてこれを乾燥し、塗膜を形成した後、塗膜が形成された支持体を焼成することにより、下部電極14上に所望の厚さの誘電体薄膜16を形成する。
【0027】
下部電極14上に所望の厚さの誘電体薄膜16を形成するに際し、本発明では、この塗布から焼成までの工程を2回以上行う。初回の焼成後に形成される薄膜の厚さは20〜80nmとし、2回目以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さは20〜200nm未満とする。塗布から焼成までの工程を2回以上行う理由は、一回の工程で所望の膜厚まで形成すると、焼成時に基板等との応力差から誘電体薄膜の表面に亀裂が生じたり、後述する理由から、上記所望の柱状晶の微細組織が得られないからである。初回の焼成後に形成される薄膜を80nm以下とする理由は、薄膜とは物性の異なる下部電極上に、一度に厚い膜を形成しようとすると、焼成の際に、結晶成長の起点となる核が電極界面のみならず膜内部にも形成され、その核を起点に粒状の結晶が成長しやすくなり、結果的に所望の柱状晶が得られないからである。一方、80nm以下に形成すれば、焼成の際に、結晶成長の起点となる核が膜内部に形成されず、下部電極との界面付近に優先的に形成され、柱状晶の微細組織を作ることができる。このようにして下部電極との界面に形成された初回の薄膜をシード層として、その後の繰り返し行われる塗布から焼成までの工程によって連鎖的に柱状晶を成長させ、最終的に所望の柱状晶の微細組織を得ることができる。また、初回の焼成後に形成される薄膜を20nm以上とする理由は、20nm未満では、焼成時にヒロック(hillock)と呼ばれる1μm以下程度の半球状の盛り上がりが下部電極に発生し、リーク電流や絶縁耐圧の特性に不具合が生じるからである。このうち、初回の焼成後に形成される薄膜の厚さは25〜60nmとするのが好ましい。
【0028】
このように、初回の薄膜をシード層として形成しておけば、2回目以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さは、ある程度厚めに形成しても、所望の柱状晶の微細組織に成長させることができる。2回目以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さを上記範囲に限定したのは、下限値未満では、塗布から焼成までの工程数が多くなりすぎるため、生産性が悪くなるからである。また、焼成回数が多くなることによって、下部電極に上述のヒロックが発生し、リーク電流や絶縁耐圧の特性に不具合が生じるからである。一方、上限値を越えると、膜内部にも核が形成されてしまい、シード層を形成しておいても柱状晶の微細組織が得られないからである。このうち、2回目以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さは30〜150nmとするのが好ましい。また、これらの範囲のうち、2回目以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さは、初回の焼成後に形成される薄膜の膜厚と同じ厚さ又はそれよりも厚くするのがより好ましい。また、上述した理由から、塗布から焼成までの工程は、2〜9回繰り返し行い、好ましくは3〜6回繰り返し行う。
【0029】
薄膜形成用組成物の塗布については、スピンコーティング法、ディップコーティング法又はスプレーコーティング法等の従来からの塗布法を好適に用いることができるが、本発明では、複数回の焼成後に形成される薄膜の各膜厚を正確に調整する必要があることから、スピンコーティング法を用いるのが特に好ましい。膜厚の調整は、スピンコートの回転数や薄膜形成用組成物の粘度を調整することによって行われる。
【0030】
下部電極14上又は焼成後形成された薄膜上に塗布した薄膜形成用組成物の乾燥は大気圧雰囲気下、室温〜350℃の範囲で行うのが好ましい。また、塗膜の厚さは、焼成後の各薄膜の厚さがそれぞれ上記範囲になるように調整する。塗布した薄膜形成用組成物を乾燥し、形成された塗膜の初回から2〜9回までのそれぞれの焼成は大気圧雰囲気下、昇温速度1〜50℃/分で500〜800℃の範囲内の所定の温度まで昇温させ、好ましくは1〜120分保持することにより行う。昇温速度を上記範囲に限定したのは、下限値未満では、プロセスが極めて長くなってしまい、一方、上限値を越えると、焼成後の各膜厚を上記範囲に設定しても、柱状晶の微細組織が得られないからである。また、所定の温度、即ち焼成温度を上記範囲に限定したのは、下限値未満では十分な結晶性が得られないため高いチューナビリティが得られず、上限値を越えると電極を変質させるおそれがあるからである。初回から最終回までの各回における乾燥及び焼成は、それぞれ同一条件で行っても、上記条件の範囲内で変量しても良い。
【0031】
このような工程を経て形成される誘電体薄膜の総厚は100〜600nmとする。総厚を100〜600nmの範囲に限定したのは、下限値未満ではリーク電流や絶縁耐圧の特性に不具合が生じ、上限値を越えるとチューナビリティが低減する不具合が生じるからである。このうち、誘電体薄膜の総厚は250〜450nmの範囲とするのが好ましい。また、誘電体薄膜の組成、即ちBa1-xSrxTiy3で示される誘電体薄膜におけるx及びyの値は0.2<x<0.6、かつ0.9<y<1.1とする。xが上記範囲から外れると、比誘電率が小さくなり、不十分となるからである。また、yの値が上記範囲から外れると、チューナビリティが低下する。このうち、x及びyの値は0.25≦x≦0.55、かつ0.95≦y≦1.05とするのが好ましい。
【0032】
上記誘電体薄膜16の形成に続いて、誘電体薄膜16上に上部電極17を積層し、薄膜キャパシタを得ることができる。この上部電極17も、上記下部電極14と同様に、Pt等の貴金属が用いられ、スパッタリング法、真空蒸着法等の気相成長法や、スクリーン印刷法等により形成することができる。なお、薄膜キャパシタの構成は、この例に示す構成に限定されるものではない。
【0033】
以上、本発明の誘電体薄膜を有する薄膜キャパシタは、誘電体薄膜が膜の縦断面において、所望の柱状晶の微細組織を有することにより、高いチューナビリティが得られる。例えば、図5において、印加電圧がないときの静電容量C0Vから、5Vの印加電圧をかけたときの静電容量C5Vまでの幅、即ち可変量を従来よりも大きくすることができる。具体的には、次の式(1)において、Tが60%以上を示す。
【0034】
T=(C0V−C5V)/C0V×100 (1)
このように、本発明の誘電体薄膜を用いて形成される薄膜キャパシタは、チューナブル特性を始め、種々の特性において優れており、高周波用フィルタ、高周波用アンテナ、フェーズシフタ等の高周波チューナブルデバイスに適用することができる。
【実施例】
【0035】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0036】
<実施例1>
先ず、図1に示すように、絶縁体膜12上に密着層13とPt下部電極14とが積層された基板11を用意した。また、有機バリウム化合物として2−エチルヘキサン酸Baを、有機ストロンチウム化合物として2−エチルヘキサン酸Srを、及びチタンアルコキシドとしてチタンイソプロポキシドを用意し、これらをBa、Sr、Tiのモル比が45:55:100となるように酢酸イソアミルに溶解して薄膜形成用組成物を調製した。
【0037】
次に、この薄膜形成用組成物を、基板11に積層されたPt下部電極14上にスピンコーティング法により塗布し、大気中で200℃で乾燥して塗膜を形成した後、大気中で昇温速度5℃/分で700℃まで昇温させ、この温度(焼成温度)で60分間維持することにより、厚さ80nmの薄膜を形成した。次いで、上記と同様の条件で、塗布から焼成までの工程を初回を含めて計4回行うことにより、Ba、Sr、Tiのモル比が45:55:100であり、総厚が320nmの誘電体薄膜16を、Pt下部電極14上に形成した。なお、2回以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さは、いずれも80nmとした。
【0038】
次いで、形成した誘電体薄膜16上に、メタルマスクを用いて約250×250μm角のPt上部電極17をスパッタリング法にて形成し、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例1とした。
【0039】
<実施例2>
薄膜形成用組成物中におけるBa、Sr、Tiのモル比、即ち形成後の誘電体薄膜におけるBa、Sr、Tiのモル比を50:50:100としたこと以外は、実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例2とした。
【0040】
<実施例3>
薄膜形成用組成物中におけるBa、Sr、Tiのモル比、即ち形成後の誘電体薄膜におけるBa、Sr、Tiのモル比を70:30:100としたこと以外は、実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例3とした。
【0041】
<実施例4>
薄膜形成用組成物中におけるBa、Sr、Tiのモル比、即ち形成後の誘電体薄膜におけるBa、Sr、Tiのモル比を75:25:100としたこと以外は、実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例4とした。
【0042】
<実施例5>
薄膜形成用組成物中におけるBa、Sr、Tiのモル比、即ち形成後の誘電体薄膜におけるBa、Sr、Tiのモル比を70:35:95としたこと以外は、実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例5とした。
【0043】
<実施例6>
薄膜形成用組成物中におけるBa、Sr、Tiのモル比、即ち形成後の誘電体薄膜におけるBa、Sr、Tiのモル比を70:30:105としたこと以外は、実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例6とした。
【0044】
<実施例7>
初回の焼成後に形成される薄膜の厚さを40nm、2回以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さを40nmとし、塗布から焼成までの工程を初回を含めて計8回行ったこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例7とした。
【0045】
<実施例8>
初回の焼成後に形成される薄膜の厚さを80nm、2回以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さを120nmとし、塗布から焼成までの工程を初回を含めて計3回行ったこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例8とした。
【0046】
<実施例9>
初回の焼成後に形成される薄膜の厚さを80nm、2回目の焼成後に形成される薄膜の厚さを80nmとし、塗布から焼成までの工程を初回を含めて計2回行い、総厚が160nmの誘電体薄膜を形成したこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例9とした。
【0047】
<実施例10>
焼成の際の昇温速度を30℃/分としたこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例10とした。
【0048】
<実施例11>
焼成温度を500℃としたこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例11とした。
【0049】
<実施例12>
焼成温度を600℃としたこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例12とした。
【0050】
<実施例13>
焼成温度を800℃としたこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例13とした。
【0051】
<実施例14>
有機バリウム化合物として2−エチル酪酸Baを、有機ストロンチウム化合物として2−エチル酪酸Srを用いて薄膜形成用組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例14とした。
【0052】
<実施例15>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例1と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例15とした。
【0053】
<実施例16>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例2と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例16とした。
【0054】
<実施例17>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例3と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例17とした。
【0055】
<実施例18>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例4と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例18とした。
【0056】
<実施例19>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例5と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例19とした。
【0057】
<実施例20>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例6と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例20とした。
【0058】
<実施例21>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例7と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例21とした。
【0059】
<実施例22>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例8と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例22とした。
【0060】
<実施例23>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例9と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例23とした。
【0061】
<実施例24>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例10と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例24とした。
【0062】
<実施例25>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例11と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例25とした。
【0063】
<実施例26>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例12と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例26とした。
【0064】
<実施例27>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例13と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例27とした。
【0065】
<実施例28>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、実施例14と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを実施例28とした。
【0066】
<比較例1>
薄膜形成用組成物中におけるBa、Sr、Tiのモル比、即ち形成後の誘電体薄膜におけるBa、Sr、Tiのモル比を10:90:100としたこと以外は、実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例1とした。
【0067】
<比較例2>
薄膜形成用組成物中におけるBa、Sr、Tiのモル比、即ち形成後の誘電体薄膜におけるBa、Sr、Tiのモル比を30:70:100としたこと以外は、実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例2とした。
【0068】
<比較例3>
薄膜形成用組成物中におけるBa、Sr、Tiのモル比、即ち形成後の誘電体薄膜におけるBa、Sr、Tiのモル比を90:10:100としたこと以外は、実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例3とした。
【0069】
<比較例4>
薄膜形成用組成物中におけるBa、Sr、Tiのモル比、即ち形成後の誘電体薄膜におけるBa、Sr、Tiのモル比を100:0:100としたこと以外は、実施例1と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例4とした。
【0070】
<比較例5>
初回の焼成後に形成される薄膜の厚さを10nm、2回以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さを10nmとし、塗布から焼成までの工程を初回を含めて計32回行ったこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例5とした。
【0071】
<比較例6>
初回の焼成後に形成される薄膜の厚さを160nm、2回目の焼成後に形成される薄膜の厚さを160nmとし、塗布から焼成までの工程を初回を含めて計2回行ったこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例6とした。
【0072】
<比較例7>
初回の焼成後に形成される薄膜の厚さを320nmとし、塗布から焼成までの工程を計1回で行ったこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例7とした。
【0073】
<比較例8>
塗布から焼成までの工程を初回を含めて計10回行い、総厚が800nmの誘電体薄膜を形成したこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例8とした。
【0074】
<比較例9>
初回の焼成後に形成される薄膜の厚さを80nmとし、塗布から焼成までの工程を計1回で行い、総厚が80nmの誘電体薄膜を形成したこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例9とした。
【0075】
<比較例10>
焼成の際の昇温速度を60℃/分としたこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例10とした。
【0076】
<比較例11>
焼成の際の昇温速度を100℃/分としたこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例11とした。
【0077】
<比較例12>
焼成の際の昇温速度を600℃/分としたこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例12とした。
【0078】
<比較例13>
焼成温度を450℃としたこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例13とした。
【0079】
<比較例14>
焼成温度を900℃としたこと以外は、実施例3と同様に薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例14とした。
【0080】
<比較例15>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例1と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例15とした。
【0081】
<比較例16>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例2と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例16とした。
【0082】
<比較例17>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例3と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例17とした。
【0083】
<比較例18>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例4と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例18とした。
【0084】
<比較例19>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例5と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例19とした。
【0085】
<比較例20>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例6と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例20とした。
【0086】
<比較例21>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例7と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例21とした。
【0087】
<比較例22>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例8と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例22とした。
【0088】
<比較例23>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例9と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例23とした。
【0089】
<比較例24>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例10と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例24とした。
【0090】
<比較例25>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例11と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例25とした。
【0091】
<比較例26>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例12と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例26とした。
【0092】
<比較例27>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例13と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例27とした。
【0093】
<比較例28>
焼成を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った以外は、比較例14と同様に、薄膜キャパシタを得た。この薄膜キャパシタを比較例28とした。
【0094】
<比較試験及び評価>
実施例1〜28及び比較例1〜28で得られた薄膜キャパシタについて、チューナビリティを評価した。これらの結果を以下の表1及び表2に示す。
【0095】
具体的には、薄膜キャパシタのPt下部電極とPt上部電極間に、温度23℃、周波数1MHzにて5Vまでの電圧を印加し、電圧を印加しないときの静電容量C0Vと、5Vの電圧を印加したときの静電容量C5Vから、次の式(1)より算出される静電容量の変化率Tを測定した。なお、静電容量の変化率Tは、インピーダンスマテリアルアナライザ(ヒューレット・パッカード社製 型式名:HP4291A)を用いて測定した。
【0096】
T=(C0V−C5V)/C0V×100 (1)
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【0100】
【表4】

表1及び表3から明らかなように、Ba、Sr、Tiのモル比が規定範囲から外れる比較例1〜4では、十分なチューナビリティが得られなかった。
【0101】
また、初回の焼成後に形成される薄膜の厚さが20nm未満であり、塗布から焼成までの工程を9回を超えて行った比較例5では、ヒロックが生じ、このヒロックが原因となって、十分な絶縁耐圧が得られなった。一方、初回の焼成後に形成される薄膜の厚さが80nmを超える比較例6、1回の塗布から焼成までの工程で誘電体薄膜を形成した比較例7では、所望の柱状晶が得られず、チューナビリティが低い結果となった。また、誘電体薄膜の総厚が600nmを超えて行った比較例8においても、高い比誘電率が得られず、結果として、十分なチューナビリティが得られなった。総厚が100nm未満であり、1回の塗布から焼成までの工程で誘電体薄膜を形成した比較例9では、十分な絶縁耐圧が得られなかった。
【0102】
また、昇温速度50℃/分を超えて焼成を行った比較例10〜12においても、所望の柱状晶は得られず、十分なチューナビリティが得られなった。
【0103】
更に、焼成温度500℃未満で焼成を行った比較例13では、十分な結晶性が得られないため、十分なチューナビリティが得られず、焼成温度800℃を超えて焼成を行った比較例14では、高いチューナビリティは得られたものの、Pt下部電極に変質が生じる結果となった。
【0104】
一方、いずれの条件をも満たす実施例1〜14では、すべての項目において、優れた結果を示した。
【0105】
また、表2及び表4から明らかなように、焼成雰囲気を大気圧の窒素ガス雰囲気下で行った実施例15〜28においても、すべての項目において、優れた結果を示した。
【符号の説明】
【0106】
11 基板
12 絶縁体膜
13 密着層
14 下部電極
16 誘電体薄膜
17 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機バリウム化合物、有機ストロンチウム化合物及びチタンアルコキシドを、モル比がBa:Sr:Ti=1−x:x:yとなるように有機溶媒中に溶解してなるBa1-xSrxTiy3薄膜形成用組成物を支持体上に塗布して乾燥し、塗膜を形成した後、前記塗膜が形成された支持体を焼成することにより、組成がBa1-xSrxTiy3の誘電体薄膜を形成する方法において、
前記塗布から焼成までの工程は2〜9回行い、
初回の焼成後に形成される薄膜の厚さは20〜80nmとし、
2回目以降の焼成後に形成される各薄膜の厚さは20〜200nm未満とし、
前記初回から2〜9回までのそれぞれの焼成は大気圧雰囲気下、昇温速度1〜50℃/分で500〜800℃の範囲内の所定の温度まで昇温させることにより行い、
前記誘電体薄膜の総厚は100〜600nmとし、
前記誘電体薄膜の組成を示す前記x及びyの値は0.2<x<0.6、かつ0.9<y<1.1とする
ことを特徴とする誘電体薄膜の形成方法。
【請求項2】
基板と、前記基板上に形成された絶縁体膜と、前記絶縁体膜上に形成された密着層と、前記密着層上に形成された下部電極と、前記下部電極上に請求項1記載の形成方法により形成された誘電体薄膜と、前記誘電体薄膜上に形成された上部電極とを有し、
次の式(1)で示される印加電圧による静電容量の変化率Tが60%以上であることを特徴とする薄膜キャパシタ。
T=(C0V−C5V)/C0V×100 (1)
但し、式(1)中、C0Vは、印加電圧がないときの静電容量であり、C5Vは、印加電圧が5Vのときの静電容量を示す。
【請求項3】
請求項1記載の形成方法により形成され、縦断面において柱状晶が厚さ方向を縦にして複数並んだ微細組織を有する誘電体薄膜。
【請求項4】
請求項2記載の薄膜キャパシタを備えたチューナブルデバイス。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−73960(P2011−73960A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192655(P2010−192655)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】