説明

誘電特性測定用耐圧容器センサー

【課題】食品等の各種流体に幅広く適用する、小スペースで誘電特性を簡便に測定するための汎用性の高い測定機器を提供する。
【解決手段】電極となる金属性の円筒型耐圧容器2と上下耐圧容器蓋1を有し、容器中央部に耐圧容器電極の対となる円柱状若しくは円筒状電極3がこれと平行に絶縁体4を介して設置され、該円柱状若しくは円筒状電極は導線5を介して耐圧容器外部に絶縁状態で導かれてなる誘電特性測定用耐圧容器センサーを用いることで、幅広い流体の誘電特性を簡便に小スペースで測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の各種流体の誘電特性を測定する耐圧容器センサーに関する。詳細には、食品等の幅広い各種流体の誘電特性を小スペースで簡便に測定するための汎用性の高い小型耐圧容器センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
物質は固有の誘電特性を持つことから、電場に置くことにより誘電分極を示し、電気容量、誘電率、誘電損失、誘電緩和などを知ることができる。これらの特性は、原子団や分子の運動状態を直接反映する。従って、誘電特性を測定することは、測定試料における構成成分の分子状態やその変化を検出する有効的な手段となる。
【0003】
誘電特性の測定は、非破壊条件下で直接的に測定できる有効な手段であることから、食品、医療、化学等の分野で広く応用が試みられている。応用例としては、食品においては、含水率や食用油の劣化状態(例えば特許文献1など)、巨視的観点からのソース等調味料の品質管理、また発酵現場においては菌体数のモニタリング等が挙げられる。医療分野では、非観血的に皮膚より血中のグルコースレベルを測定する方法が考案されている(特許文献2)。また、混合燃料中のアルコール含有率などの測定にも応用されている。
【0004】
天然物からの食品素材や機能性物質などの抽出においては、目的とする溶質に対する適切な溶媒を選択する必要があるが、従来、溶解挙動の指標として溶解度パラメータを用いた抽出プロセスが検討されてきている。溶解度パラメータは個々の蒸発潜熱により定義され、経験的に溶質−溶媒間の溶解度パラメータ値が近いほど相溶性が高まる事が分かっており、溶けやすさを判断する目安として用いられているが、極性が高い水素結合性の物質間ではあてはめることが困難である。
【0005】
一方、個々の物質は電場内において、単一相に限らず混合相においての全体的な誘電特性を実測する事が可能である。誘電特性の変化を測定するに当たり、電極表面積(S)と電極間距離(d)が一定である電場領域に誘電体(測定試料)を挿入した場合、誘電率(ε)と電気容量(C)との関係はC=ε(S/d)で表わされる。従って、電気容量(C)はインピーダンスアナライザーやLCRメーターを用いることで容易に計測する事が可能であるため、測定試料の誘電率の変化を電気容量の変化として測定できる。そして、溶解度パラメータと同様に溶質−溶媒間の誘電率差が小さいほど混合性が高いことが報告されていることから、電気容量の測定によって適切な溶媒選択が可能となる。
【0006】
このように、食品等の各種流体の誘電特性を測定することは、これらの物理的変化や性質を非破壊で直接観測できるという大きな利点を有しており非常に有効であるが、電極設置等の点から測定装置が大型化してしまう、測定対象流体の性質により構造を変える必要がでてくる等の傾向が見られる。このため、幅広い流体の誘電特性を簡便に測定するための汎用性の高い測定機器の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2005−515436号公報
【特許文献2】特開2010−188135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、食品等の各種流体(気体、液体、高温高圧下における超臨界流体等の様々な流体、及び、流体に溶解した試料等)に幅広く適用する、小スペースで誘電特性を簡便に測定するための汎用性の高い測定機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、以下の構成を有する誘電特性測定用小型耐圧容器センサーを開発するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は次のとおりである。なお、下記の(1)〜(5)は、図1の各符号に対応している。
(I)電極となる金属性の円筒型耐圧容器(2)と上下耐圧容器蓋(1)を有し、容器中央部に耐圧容器電極の対となる円柱状若しくは円筒状電極(3)が平行に絶縁体(4)を介して設置され、該円柱状若しくは円筒状電極(3)は導線(5)を介して耐圧容器外部に絶縁状態で導かれてなること、を特徴とする誘電特性測定用耐圧容器センサー。
(II)電極が耐腐食性、耐熱性を有するステンレス製であること、を特徴とする(I)に記載の誘電特性測定用耐圧容器センサー。
(III)容器体積が20〜30mLであること、を特徴とする(I)又は(II)に記載の誘電特性測定用耐圧容器センサー。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、気体、液体、高温高圧下における超臨界流体等の様々な流体、及び、流体に溶解した試料等の幅広い相状態の流体の誘電特性を小スペースで簡易に測定する事ができる。そして、本発明の容器センサーは小型であるため高い耐圧性が確保され、流通式も可能であるため、プラント等での品質管理用小型センサー、成分分離操作のモニタリングなど、インラインで連続的に用いることのできる汎用性の高い小型誘電特性測定用耐圧容器センサーとして使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の誘電特性測定用耐圧容器センサーの一例の断面図を示す。
【図2】本発明の誘電特性測定用耐圧容器センサーを用いて流体の誘電特性を測定する場合の、流体通路及び引き出し導線の保圧構造例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の耐圧容器は、円筒型および上下のナットとなる蓋によって構成される。材質(素材)はステンレス等の金属製のものを用いることで、この容器自体が電極としての役割を果たすことが本発明の特徴のひとつである。これにより、従来から用いられている平板電極やシリンダー型の電極を圧力容器内に設置する必要が無く、容器の小型化及び設計の簡便性を実現している。特にSUS316等の耐腐食性、耐熱性の高いものを素材として用いることで、超臨界流体等の過酷な反応場にも適用できる。これと対となる容器内部の円柱状若しくは円筒状電極は、円筒型耐圧容器と平行に絶縁体を介して設置される。この柱状若しくは円筒状電極の素材については、耐圧容器電極と同一素材を用いることが好ましい。
【0014】
容器体積は20〜30mL程度とし、円筒の肉厚は6mm程度とする。これにより、小型であり且つ高い耐圧性を保持する事ができる。耐圧容器の外表面は、外部からの電気的な干渉から保護するため、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等、耐熱性、耐薬品性に優れた絶縁素材による塗装を施すことが好ましい。
【0015】
円柱状若しくは円筒状電極は、テフロン(登録商標)樹脂等の絶縁体で被覆されたPt等の導線を介することで、耐圧容器外部に導く。導線は、例えば、内径の1/16inchのPEEK樹脂等の絶縁かつ耐圧チューブ内を通すことのできる径のものを用い、外を覆うPEEK樹脂等のチューブはステンレス製フェラルを用いて1/16inchメスナットにて、1/16inchユニオンティーに締め込む。このような構成により、外部に連絡する導線部分の圧力の漏えいを防止する事ができる。
【0016】
そして、ユニオンティーの流体出口は内径1/16inchのPEEK樹脂チューブをステンレス製フェラルを用いて1/16inchメスナットで締め込む事により、絶縁状態下での流体の通路を確保できる。また、耐圧容器電極の流体出口部分は、同一素材、例えばSUS316製のフェラルおよびオスナットでPEEK樹脂チューブを締め込むことで、ユニオンティーまでの絶縁を施し、かつオスナット部分が耐圧容器電極を外部に導く役割を果たすことができる。
【0017】
このような誘電特性測定容器は、ヒーターまたはオーブン等で適切な温度条件下に置いて、流体および測定試料をポンプ等で流入させ、背圧弁またはレギュレーターにより適切な圧力条件下を達成する事で目的の誘電特性を測定する。誘電特性の測定は、例えば10Hz〜100MHzの低周波から高周波範囲における誘電体の誘電特性をLCRメーターまたはインピーダンスアナライザーを接続することで行う。
【0018】
測定対象となる流体は、水、メタノール、エタノール、アセトン、n−ヘキサン、フェノール、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル、二酸化炭素等の溶媒全般、また、これらの混合溶媒ならびにこれらの超臨界流体を含む。溶質成分に関しては、テルペノイドや脂肪酸等の炭化水素化合物、ポリフェノール類、炭水化物等の有極性成分が主な対象となる。また、これらの溶媒、溶質で構成される食品自体も測定対象となり、特に様々な粘度の流体について測定可能であることが特徴である。
【0019】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
本発明の構成の一例である誘電特性測定用耐圧容器センサーの断面図を図1に、流体通路及び引き出し導線の保圧構造例を図2に示した。図1においては、金属性の円筒型耐圧容器(2)と上下耐圧容器蓋(1)が耐圧容器電極を構成し、容器中央部に耐圧容器電極の対となる円柱状若しくは円筒状電極(3)が平行に絶縁体(4)を介して設置され、対となる円柱状若しくは円筒状電極(3)は導線(5)を介して耐圧容器外部に絶縁状態で導かれている。なお、耐圧容器表面は絶縁塗装(6)を施している。
【0021】
図2においては、引き出し導線として、絶縁体で被覆された導線(8)が耐圧容器外部に導かれ、この導線は、内径1/16inchのPEEK樹脂の絶縁かつ耐圧チューブ内(9)、(12)を通され、外を覆うPEEK樹脂チューブはSUS316製フェラル(14)を用いて1/16inchメスナット(10)にて、1/16inchユニオンティー(11)に締め込まれている。そして、ユニオンティーの流体出口は、内径1/16inchのPEEK樹脂チューブをステンレス製フェラルを用いて1/16inchメスナットで締め込まれ、また、耐圧容器電極の流体出口部分は、SUS316製のフェラルおよびオスナット(13)でPEEK樹脂チューブを締め込むことで、ユニオンティーまでの絶縁を施している。
【0022】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0023】
本発明は、食品等の各種流体(気体、液体、高温高圧下における超臨界流体等の様々な流体、及び、流体に溶解した試料等)に幅広く適用可能な、小スペースで誘電特性を簡便に測定するための汎用性の高い測定機器を提供することを目的とする。
【0024】
そして、金属性の円筒型耐圧容器電極と上下耐圧容器蓋を有し、容器中央部に円筒型耐圧容器電極の対となる円柱状若しくは円筒状電極がこれと平行に絶縁体を介して設置され、該円柱状若しくは円筒状電極は導線を介して耐圧容器外部に絶縁状態で導かれてなる誘電特性測定用耐圧容器センサーを用いることで、幅広い流体の誘電特性を簡便に小スペースで測定できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極となる金属性の円筒型耐圧容器と上下耐圧容器蓋を有し、容器中央部に耐圧容器電極の対となる円柱状若しくは円筒状電極が平行に絶縁体を介して設置され、該円柱状若しくは円筒状電極は導線を介して耐圧容器外部に絶縁状態で導かれてなること、を特徴とする誘電特性測定用耐圧容器センサー。
【請求項2】
電極が耐腐食性、耐熱性を有するステンレス製であること、を特徴とする請求項1に記載の誘電特性測定用耐圧容器センサー。
【請求項3】
容器体積が20〜30mLであること、を特徴とする請求項1又は2に記載の誘電特性測定用耐圧容器センサー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−118020(P2012−118020A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270637(P2010−270637)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(597135194)マルボシ酢株式会社 (4)
【Fターム(参考)】