説明

調光フィルム

【課題】調光フィルムの駆動用電極形成部と引き回し導電材料との密着性を向上させ、安定した電源供給を実現する電極形成方法を提供する
【解決手段】2つの透明導電性樹脂基材4と、前記2つの透明導電性樹脂基材4に挟持された調光層1を有し、該調光層1が、樹脂マトリックス2と前記樹脂マトリックス2中に分散した光調整懸濁液3とを含む調光フィルムであって、前記透明導電性樹脂基材4の導電性を有する面の端部の対水接触角が8〜95°であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動用電極表面の親水性を向上させることで、駆動用電極表面と引き回し導電材料の密着性を安定させる調光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光調整懸濁液を含む調光硝子は、エドウィン・ランド(Edwin.Land)により最初に発明されたもので、その形態は、狭い間隔を有する2枚の透明導電性基板の間に、液体状態の光調整懸濁液を注入した構造になっている(例えば、特許文献1及び2参照)。エドウィン・ランドの発明によると、2枚の透明導電性基板の間に注入されている液状の光調整懸濁液は、電界を印加していない状態では懸濁液中に分散されている光調整粒子のブラウン運動により、入射光の大部分が光調整粒子により反射、散乱又は吸収され、ごく一部分だけが透過することになる。
即ち、光調整懸濁液に分散されている光調整粒子の形状、性質、濃度及び照射される光エネルギーの量により、透過、反射、散乱又は吸収の程度が決められる。前記構造の調光硝子を用いた調光窓に電界を印加すると、透明導電性基板を通じて光調整懸濁液に電場が形成され、光調整機能を表す光調整粒子が分極を起こし、電場に対して平行に配列され、光調整粒子と光調整粒子の間を光が透過し、最終的に調光硝子は透明になる。しかし、このような初期の調光装置は、実用上、光調整懸濁液内での光調整粒子の凝集、自重による沈降、熱による色相変化、光学密度の変化、紫外線照射による劣化、基板の間隔維持及びその間隔内への光調整懸濁液の注入が困難等であるために、実用化が難しかった。
【0003】
ロバート・エル・サックス(Robert.L.Saxe)、エフ・シー・ローウェル(F.C.Lowell)、又はアール・アイ・トンプソン(R.I.Thompson)は、調光窓の初期問題点、即ち、光調整粒子の凝集及び沈降、光学密度の変化等を補完した調光硝子を用いた調光窓を開示している(例えば、特許文献3〜9参照)。これらの特許等では、針状の光調整結晶粒子、結晶粒子分散用懸濁剤、分散調整剤及び安定剤等からなる液体状態の光調整懸濁液を用い、光調整粒子と懸濁剤の密度を殆ど同様に合わせて光調整粒子の沈降を防止しながら、分散調整剤を添加して光調整粒子の分散性を高めることにより、光調整粒子の凝集を防止し、初期の問題点を解決している。しかし、これらの調光硝子もやはり従来の調光硝子のように、2枚の透明導電性基板の間隔内に液状の光調整懸濁液を封入した構造になっているため、大型製品製造の場合、2枚の透明導電性基板の間隔内への均一な懸濁液の封入が困難で、製品上下間の水圧差による下部の膨張現象が起こりやすい問題がある。また、外部環境、例えば、風圧によって基板の間隔が変化することにより、その結果、光学密度が変化して色相が不均質になり、又は透明導電性基板の間に液体をためるための周辺の密封材が破壊され、光調整材料が漏れる問題がある。また、紫外線による劣化、透明導電性基板の周辺部と中央部間の電圧降下により、応答時間にむらが発生する。
【0004】
これを改善する方法として、液状の光調整懸濁液を硬化性の高分子樹脂の溶液と混合し、重合による相分離法、溶媒揮発による相分離法、又は温度による相分離法等を利用してフィルムを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献10参照)。しかし、硬化してフィルムマトリックスとなる高分子樹脂は、透明導電性基板との密着性を考慮に入れた分子設計にはなっていないため、表面にITO等の導電性薄膜が成膜されたPETフィルム等基板とフィルムマトリックスとの密着性は悪く、非常にはがれ易いという問題があった。
これを改善する方法としてPETフィルム等基板上にプライマー層を設け、調光層と透明導電性樹脂基材との密着性を高めた方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第1,955,923号明細書
【特許文献2】米国特許第1,963,496号明細書
【特許文献3】米国特許第3,756,700号明細書
【特許文献4】米国特許第4,247,175号明細書
【特許文献5】米国特許第4,273,422号明細書
【特許文献6】米国特許第4,407,565号明細書
【特許文献7】米国特許第4,422,963号明細書
【特許文献8】米国特許第3,912,365号明細書
【特許文献9】米国特許第4,078,856号明細書
【特許文献10】特開2002−189123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
調光フィルムは、駆動用電極形成部に対向している面の透明導電性樹脂基材を切断して取り除いた後、駆動用電極形成部上の調光材料を削ぎ落として除去し、ヘキサンなどの溶剤で表面洗浄を実施した後、引き回し用導電材を貼り付けて駆動させる。この際、透明導電性樹脂基材と調光材料の密着を助ける層であるプライマー層の表面に存在する樹脂マトリックスは、溶剤洗浄だけでは除去不十分で残渣となり、貼り付けた引き回し用導電材との密着性を悪化させ、初期の密着強度の低下、及び貼り付けから時間を経ることで剥がれるといった問題があった。
【0007】
本発明は、駆動用電極形成部と引き回し用の導電材料との密着性を向上させ、安定した電源供給を実現する調光フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、駆動用電極形成部の透明導電性樹脂基材の導電性を有する面を以下の通り処理することで上記課題を解決でき、駆動電源を安定供給する調光フィルムを提供できることを見出した。
(1)2つの透明導電性樹脂基材と、前記2つの透明導電性樹脂基材に挟持された調光層を有し、該調光層が、樹脂マトリックスと前記樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液とを含む調光フィルムであって、
前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部の対水接触角が8〜95°であることを特徴とする調光フィルム。
【0009】
前記導電性を有する面が、酸化インジウム錫、酸化亜鉛、及び酸化錫からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む導電性膜からなる請求項1に記載の調光フィルム。
【0010】
(2)前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部に導電材料を着接してなる前記(1)又は(2)に記載の調光フィルム。
【0011】
(3)前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部に導電層を形成し、該導電層上に導電材料を着接してなる前記(1)又は(2)に記載の調光フィルム。
【0012】
(4)前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部が、波長254nm以下の紫外線照射により親水化処理されてなる前記(1)〜(4)のいずれかに記載の調光フィルム。
【0013】
(5)前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部が、酸素を含有する大気圧プラズマにより親水化処理されてなる前記(1)〜(4)のいずれかに記載の調光フィルム。
【0014】
(6)前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部が、オゾンガスにより親水化処理されてなる前記(1)〜(4)のいずれかに記載の調光フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、駆動用電極形成部と引き回し用導電材の密着性を向上させて駆動用電極の剥離を抑制し、安定した電源供給を実現する調光フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の調光フィルムの一態様の断面構造概略図である。
【図2】図1の調光フィルムに電界が印加されていない場合の作動を説明するための概略図である。
【図3】図1の調光フィルムに電界が印加されている場合の作動を説明するための概略図である。
【図4】調光フィルムの駆動用電極に導電性テープを用いた構造を説明するための概略図である。液滴3の中の光調整粒子10は図示を省略した。
【図5】調光フィルムの駆動用電極に導電性ペーストと導電性テープを用いた構造を説明するための概略図である。液滴3の中の光調整粒子10は図示を省略した。
【図6】駆動用電極を形成する透明導電性樹脂基材上の表面接触角と、導電性テープの密着強度比との関係を示す図である。
【図7】熱老化試験における加熱時間と、駆動用電極を形成する透明導電性樹脂基材及び導電性テープの接続抵抗値との関係を示す図である。
【図8】駆動用電極を形成する透明導電性樹脂基材上の表面接触角と、導電性ペーストの塗膜残存率との関係を示す図である。
【図9】大気圧プラズマ洗浄において、試料を設置したステージの移動速度と、駆動用電極を形成する透明導電性樹脂基材上の対水接触角との関係を示す図である。
【図10】オゾンガス吹き付け洗浄において、試料へオゾンガスを吹き付けた時間と、駆動用電極を形成する透明導電性樹脂基材上の対水接触角との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の調光フィルムは、2つの透明導電性樹脂基材と、前記2つの透明導電性樹脂基材に挟持された調光層を有し、該調光層が、樹脂マトリックスと前記樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液とを含む調光フィルムであって、前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部の対水接触角が8〜95°であることを特徴とする。
【0018】
調光層は、一般に、調光材料を用いて形成することが可能である。調光材料は、フィルムマトリックスとしての、エネルギー線を照射することにより硬化する高分子媒体と、光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散した光調整懸濁液と、を含有する。そして、光調整懸濁液中の分散媒が、高分子媒体及びその硬化物と相分離しうるものであることが好ましい。この調光材料を用いて、2つの透明導電性樹脂基材間等に、高分子媒体から形成された樹脂マトリックス中に光調整懸濁液が分散した調光層を挟持させ、さらに前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部に後記の親水化処理を施して対水接触角を8〜95°とすることで本発明の対象である調光フィルムが得られる。本発明の調光フィルムの調光層では、液状の光調整懸濁液が、高分子媒体が硬化した固体状の樹脂マトリックス内に微細な液滴の形態で分散されている。光調整懸濁液に含まれる光調整粒子は、棒状又は針状であることが好ましい。
【0019】
このような調光フィルムに電界を印加すると、フィルムマトリックス中に分散されている光調整懸濁液の液滴中に浮遊分散されている電気的双極子モーメントをもつ光調整粒子が、電界に対し平行に配列されることにより、液滴が入射光に対して透明な状態に転換され、視野角度による散乱、又は透明性低下が殆どない状態で入射光を透過させる。
【0020】
調光フィルムに電界を印加する駆動用電極は対向している透明導電性樹脂基材のそれぞれに設けられる。駆動用電極は以下の工程によって設けることができる。第一の工程では対向している2つの透明導電性樹脂基材の何れか一方の駆動用電極形成部(導電性を有する面の端部)に定めた場所に対向している透明導電性樹脂基材を所望の電極形状に切断・除去する。第二の工程では透明導電性樹脂基材除去後に露出した面の調光層を削ぎ落とす。第三の工程は調光層を削ぎ落とした部分をヘキサンなどの溶剤で拭き取り洗浄する。第四の工程は拭き取り洗浄して乾燥した表面を親水化処理して対水接触角を8〜95°とする。第五の工程は親水化処理面又は該親水化処理面上に形成した導電層表面に導電性テープなどの引き回し用導電材料を着接する。これら一連の工程を対向している2つの透明導電性樹脂基材の両方に実施する。本発明においては、従来の調光フィルム駆動用電極部分の問題点、すなわち駆動用電極部分と引き回し用導電材料との密着性が弱く、調光フィルムの駆動電源の供給不良の問題が解決される。
【0021】
<親水化処理>
上述のように、本発明の調光フィルムにおいては、透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部に対して親水化処理を施して対水接触角を8〜95°とするが、対水接触角を当該範囲とすることで、透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部たる、駆動用電極形成部において、引き回し用導電材料との密着性が向上し、前記従来の問題点を解消することができる。当該親水化処理方法は乾式洗浄が好ましく、具体的には、例えば低圧水銀ランプを用いた254nm以下の紫外線(UV)照射によるUV洗浄、大気圧下でプラズマを発生させて、被処理面に照射するプラズマ洗浄、オゾンガス吹き付けによるオゾンガス吹き付け洗浄がより好ましく挙げられる。以下に、これらについて詳細に説明する。
【0022】
UV洗浄に用いるUV洗浄装置のUVランプ照射波長は、樹脂マトリックスの高分子樹脂の主要成分である有機物に対して分解能力の高い波長254nm以下が好ましい。表面洗浄・改質効果を高める働きのオゾンを生成する波長185nm以下にもピークが存在するUVランプであることがより好ましい。これを実現する光源としては、例えば、低圧水銀ランプ、キセノンエキシマランプが使用できる。
【0023】
UV洗浄装置はUVランプに対向して設置した被処理物に所定時間UVを照射する装置である。UVランプと被処理物との距離(照射距離)は、大気中の酸素による吸収で光減衰の少ない距離が好ましく、低圧水銀ランプの場合は0〜200mm、キセノンエキシマランプの場合は0〜8mmの間で使用されることが好ましい
【0024】
UV洗浄装置は、UVランプが位置固定され、被処理物が移動されるようになっていてもよく、被処理物が位置固定され、UVランプが移動されるようになっていてもよい。
【0025】
低圧水銀ランプを用いたUV洗浄装置は、例えばオーク製作所のUVドライプロセッサー、岩崎電気のOCシリーズなどが、キセノンエキシマランプを用いたUV洗浄装置は、例えば岩崎電気のUEEXシリーズ、株式会社エキシマのE500−172、エム・ディ・エキシマのMEUTなどがそれぞれ使用できる。
【0026】
また、UV洗浄をした場合は、対水接触角を所定の範囲にする以外に、導電性を有する面の残渣を一掃する効果もあり、残留する残渣の熱による変質に起因する、導電材料との接続部における抵抗値の変化を抑えることができるという効果を奏する。
【0027】
大気圧プラズマ洗浄に用いる大気圧プラズマ洗浄装置は少なくとも一対の電極を有し、これら電極間への電界印加によって大気圧プラズマ放電が生成されるようになっている。大気圧プラズマ洗浄装置はプラズマ空間中を被処理物が直接通過するダイレクト方式と、電極間に発生したプラズマをガス流により被処理物に噴出するリモート方式があるが、リモート方式の方が被処理物へのプラズマによる熱損傷を防止することが出来るので、リモート方式を選択するのが望ましい。
【0028】
リモート方式大気圧プラズマ洗浄装置のプラズマ空間中には、酸素と窒素を混合したガス、もしくは酸素とアルゴンを混合したガスを導入することが望ましい。酸素と窒素の混合ガスのそれぞれの濃度は、酸素が70〜80%程度、窒素が30〜20%程度が好ましい。酸素とアルゴンの混合ガスのそれぞれの濃度は、酸素が0.10〜0.05%程度、アルゴンが99.90〜99.95%程度が好ましい。
【0029】
電極間には周波数20〜40kHzでピークからピークまでの電圧が1〜20kVのパルス状に印加される装置が好ましい。
【0030】
プラズマ噴出部が位置固定され、被処理物が移動されているようになっていてもよく、被処理物が位置固定され、プラズマ噴出部が移動されているようになっていてもよい。
大気圧プラズマ洗浄装置は、例えばパナソニック電工のAiplasma、積水化学工業のAPシリーズなどが使用できる。
【0031】
オゾンガス吹き付け洗浄にはオゾンガス発生装置で発生したオゾンガスを、配管により被処理物直上まで導き、被処理物に対向して設置された噴出部から放出する構成を持つ装置を用いるのが好ましい。
【0032】
オゾンガス発生装置は、白金と二酸化鉛電極で挟んだ固体高分子電解質膜により超純水を電気分解するいわゆる電解法でオゾンガスを得る装置、一定の間隔をおいた平板の片側、もしくは両側の電極を絶縁体(誘電体)で覆い、交流電圧をかけ、平板間に流した酸素を解離、再結合させるいわゆる無声放電法でオゾンガスを得る装置などが使用できる。
オゾンガス発生装置は、例えばササクラのオゾンマスター、東芝三菱電機産業システムのH、P、C、N各シリーズ、コフロックのPZHシリーズなどが使用できる。
【0033】
オゾンガスの噴出部は配管等をそのまま噴出口として利用するスポット状噴出口、もしくは閉鎖容器に複数の噴出口が開いている、いわゆるシャワーヘッド状噴出口のどちらを用いてもよい。
【0034】
オゾンガス噴出部が位置固定され、被処理物が移動されているようになっていてもよく、被処理物が位置固定され、オゾンガス噴出部が移動されているようになっていてもよい。
【0035】
オゾンガス発生装置の発生濃度は1〜100g/Nm の装置が好ましく、オゾン放出量は0.1〜30g/時が得られる装置が好ましい。
【0036】
前記のUV洗浄装置、大気圧プラズマ洗浄装置、オゾンガス吹き付け装置のそれぞれで親水化処理によって駆動用電極面の対水接触角を8〜95°とすることができる。対水接触角の範囲は、駆動用電極表面を親水化処理(10分以上)して得られる最も低い対水接触角8°から、安定な密着強度が得られる90°までが好ましく、単に高い密着力を得る観点からは20〜90°が好ましく、量産性を充分に確保する観点からは短い処理時間(1〜3分程度)で得られる75〜90°が好ましい。
【0037】
以上のように、親水化処理をした導電性を有する面に、導電材料を着接するか、あるいは、導電性を有する面に導電層を形成し、該導電層上に導電材料を着接する。ここで、導電材料としては、透明導電性樹脂基材に通電するための配線、導電テープ、金属箔、導電線網等を用いることができる。詳細については後述する。
また、形成する導電層としては、銀ペースト、カーボンペースト等の導電ペーストなどを用いることができ、孔版印刷、スクリーン印刷、ディスペンス塗布、刷毛塗り等の方法ですることで形成することができる。また、当該導電層の厚みは、50〜100μmとすることが好ましく、その面積としては、着接する導電材料の着接領域の面積を考慮し、その面積よりも大きく形成することが好ましい。
【0038】
以下、各層構成及び調光フィルムについて説明する。
【0039】
<調光層>
本発明における調光層は、樹脂マトリックスと該樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液とを含む調光材料からなる。なお、樹脂マトリックスは高分子媒体からなり、光調整懸濁液は光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散したものである。高分子媒体及び分散媒(光調整懸濁液中の分散媒)としては、高分子媒体及びその硬化物と分散媒とが、少なくともフィルム化したときに互いに相分離しうるものを用いる。互いに非相溶又は部分相溶性の高分子媒体と分散媒とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0040】
本発明において用いられる高分子媒体は、(A)エチレン性不飽和結合を有する置換基を持つ樹脂及び(B)光重合開始剤を含み、紫外線、可視光線、電子線等のエネルギー線を照射することにより硬化するものが挙げられる。(A)エチレン性不飽和結合を有する樹脂としては、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂等が合成容易性、調光性能、耐久性等の点から好ましい。
【0041】
これらの樹脂は、置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を有することが、調光性能、耐久性等の点から好ましい。
【0042】
前記シリコーン系樹脂の具体例としては、例えば、特公昭53−36515号公報、特公昭57−52371号公報、特公昭58−53656号公報、特公昭61−17863号公報等に記載の樹脂を挙げることができる。
【0043】
前記シリコーン系樹脂は、例えば、両末端シラノールポリジメチルシロキサン、両末端シラノールポリジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー、両末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン等の両末端シラノールシロキサンポリマー、トリメチルエトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン等のエチレン性不飽和結合含有シラン化合物等を、2−エチルヘキサン錫等の有機錫系触媒の存在下で、脱水素縮合反応及び脱アルコール反応させて合成される。シリコーン系樹脂の形態としては、無溶剤型が好ましく用いられる。すなわち、シリコーン系樹脂の合成に溶剤を用いた場合には、合成反応後に溶剤を除去することが好ましい。
【0044】
なお、シリコーン系樹脂の製造時の各種原料の仕込み配合において、(3−アクリロキシプロピル)メトキシシラン等のエチレン性不飽和結合含有シラン化合物の量は、原料シロキサン及びシラン化合物総量の19〜50質量%とすることが好ましく、25〜40質量%とすることがより好ましい。エチレン性不飽和結合含有シラン化合物の量は、19質量%未満であると最終的に得られる樹脂のエチレン性不飽和結合濃度が所望の濃度より低くなりすぎる傾向があり、50質量%を超えると得られる樹脂のエチレン性不飽和結合濃度が所望の濃度より高くなりすぎる傾向がある。
【0045】
前記アクリル系樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン等の主鎖形成モノマーと、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和結合導入用官能基含有モノマー等を共重合して、プレポリマーを一旦合成し、次いで、このプレポリマーの官能基と反応させるべく(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸等のモノマーを前記プレポリマーに付加反応させることにより得ることができる。
また、前記ポリエステル樹脂は、特に制限はなく、公知の方法で容易に製造できるものが挙げられる。
【0046】
これら(A)エチレン性不飽和結合を有する樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって得られるポリスチレン換算の重量平均分子量は、20,000〜100,000であることが好ましく、30,000〜80,000であることがより好ましい。
エチレン性不飽和結合を有する樹脂のエチレン性不飽和結合濃度は、好ましくは0.3モル/kg〜0.5モル/kgとされる。この濃度が0.3モル/kg未満では、調光フィルム端部の処理が容易に行えず、相対する透明電極間がショートしやすく電気的信頼性が劣る傾向がある。一方、この濃度が0.5モル/kgを超えると硬化した高分子媒体が、光調整懸濁液の液滴を構成する分散媒に溶け込みやすくなり、溶け込んだ高分子媒体が液滴中の光調整粒子の動きを阻害し、調光性能が低下する傾向がある。
【0047】
(A)エチレン性不飽和結合を有する樹脂のエチレン性不飽和結合濃度は、NMRの水素の積分強度比から求められる。また、仕込み原料の樹脂への転化率がわかる場合は、計算によっても求められる。
【0048】
高分子媒体に用いる(B)光重合開始剤としては、J.Photochem.Sci.Technol.,2、283(1977)に記載される化合物、具体的には2、2−ジメトキシ−1、2−ジフェニルエタン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(2、4、6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、(1−ヒドロキシシクロヘキシル)フェニルケトン等を使用することができる。
【0049】
(B)光重合開始剤の使用量は、上記の(A)樹脂100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましく、0.2〜10質量部であることがより好ましい。
【0050】
また、上記の(A)エチレン性不飽和結合を有する置換基をもつ樹脂の他に、有機溶剤可溶型樹脂又は熱可塑性樹脂、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜10,0000のポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等も高分子媒体の構成材料として併用することができる。
また、高分子媒体中には、ジブチル錫ジラウレート等の着色防止剤等の添加物を必要に応じて添加してもよい。さらに、高分子媒体には溶剤が含まれていてもよく、溶剤としては、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、エタノール、メタノール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができる。
【0051】
光調整懸濁液中の分散媒としては、光調整懸濁液中で分散媒の役割を果たし、また光調整粒子に選択的に付着被覆し、高分子媒体との相分離の際に光調整粒子が相分離された液滴相に移動するように作用し、電気導電性がなく、高分子媒体とは親和性がない液状共重合体を使用することが好ましい。
【0052】
液状共重合体としては例えば、フルオロ基及び/又は水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーが好ましく、フルオロ基及び水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーがより好ましい。このような液状共重合体を使用すると、フルオロ基、水酸基のどちらか1つのモノマー単位は光調整粒子に向き、残りのモノマー単位は高分子媒体中で光調整懸濁液が液滴として安定に維持するために働くことから、光調整懸濁液内に光調整粒子が非常に均質に分散され、相分離の際に光調整粒子が相分離される液滴内に誘導される。
【0053】
このようなフルオロ基及び/又は水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーとしては、フルオロ基含有モノマー及び/又は水酸基含有モノマーを用いて共重合させたものが挙げられ、具体的には、メタクリル酸2、2、2−トリフルオロエチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸3、5、5−トリメチルヘキシル/アクリル酸2−ヒドロキシプロピル/フマール酸共重合体、アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸2、2、3、3−テトラフルオロプロピル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸1H、1H、5H−オクタフルオロペンチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸1H、1H、2H、2H−ヘプタデカフルオロデシル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸2、2、2−トリフルオロエチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸2、2、3、3−テトラフルオロプロピル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸1H、1H、5H−オクタフルオロペンチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸1H、1H、2H、2H−ヘプタデカフルオロデシル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーは、フルオロ基及び水酸基の両方を有することがより好ましい。
【0054】
これらの(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜20,000であることが好ましく、2,000〜1,0000であることがより好ましい。
【0055】
これらの(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーの原料となるフルオロ基含有モノマーの使用量は、原料であるモノマー総量の6〜12モル%であることが好ましく、より効果的には7〜8モル%である。フルオロ基含有モノマーの使用量が12モル%を超える場合には、屈折率が大きくなり、光透過率が低下する傾向がある。また、これらの(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーの原料となる水酸基含有モノマーの使用量は0.5〜22.0モル%であることが好ましく、より効果的には1〜8モル%である。水酸基含有モノマーの使用量が22.0モル%を超える場合には、屈折率が大きくなり、光透過性が低下する傾向がある。
【0056】
本発明に使用される光調整懸濁液は、分散媒中に光調整粒子が流動可能に分散したものである。光調整粒子としては、例えば、高分子媒体、又は高分子媒体中の樹脂成分、即ち上記の(A)エチレン性不飽和結合を有する置換基をもつ樹脂等と親和力がなく、また光調整粒子の分散性を高めることができる高分子分散剤の存在下で、光調整粒子の前駆体であるピラジン−2,3−ジカルボン酸・2水和物、ピラジン−2,5−ジカルボン酸・2水和物、ピリジン−2,5−ジカルボン酸・1水和物からなる群の中から選ばれた1つの物質とヨウ素及びヨウ化物を反応させて作ったポリヨウ化物の針状小結晶が、好ましく用いられる。使用しうる高分子分散剤としては、例えば、ニトロセルロース等が挙げられる。ヨウ化物としては、ヨウ化カルシウム等が挙げられる。このようにして得られるポリヨウ化物としては、例えば、下記一般式
CaI(C)・XHO (X:1〜2)
CaI(C・cHO (a:3〜7、b:1〜2、c:1〜3)
で表されるものが挙げられる。これらのポリヨウ化物は針状結晶であることが好ましい。
【0057】
また、調光フィルム用光調整懸濁液に用いる光調整粒子として、米国特許第2、041、138号明細書(E.H.Land)、米国特許第2、306、108号明細書(Landら)、米国特許第2、375、963号明細書(Thomas)、米国特許第4、270、841号明細書(R.L.Saxe)及び英国特許第433、455号明細書に開示されている光調整粒子も、使用することができる。これらの特許によって公知とされたポリヨウ化物の結晶は、ピラジンカルボン酸、又はピリジンカルボン酸の1つを選択して、ヨウ素、塩素又は臭素と反応させることにより、ポリヨウ化物、ポリ塩化物又はポリ臭化物等のポリハロゲン化物とすることによって作製されている。これらのポリハロゲン化物は、ハロゲン原子が無機質又は有機質と反応した錯化合物で、これらの詳しい製法は、例えば、サックスの米国特許第4,422,963号明細書に開示されている。
【0058】
サックスが開示しているように、光調整粒子を合成する過程において、均一な大きさの光調整粒子を形成させるため、及び、特定の分散媒内での光調整粒子の分散性を向上させるため、上述したように高分子分散剤としてニトロセルロースのような高分子物質を使用することが好ましい。しかしながら、ニトロセルロースを用いると、ニトロセルロースで被覆された結晶が得られ、このような結晶を光調整粒子として用いる場合、光調整粒子は相分離の時に分離される液滴内に浮遊せず、樹脂マトリックス内に残存することがある。これを防ぐためには、高分子媒体の(A)エチレン性不飽和結合を有する置換基を持つ樹脂として、エチレン性不飽和結合を有する置換基を持つシリコーン系樹脂を用いることが好ましく、シリコーン系樹脂を用いた場合には、フィルム製造の際に光調整粒子が相分離により形成された微細な液滴内へ容易に分散、浮遊し、その結果、より優れた可変能力を得ることができる。
【0059】
上記の光調整粒子の他、例えば、炭素繊維等の無機繊維、τ型無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン等のフタロシアニン化合物等を使用することもできる。フタロシアニン化合物において、中心金属としては、銅、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、チタン、ベリリウム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、クロム等が挙げられる。
本発明において、光調整粒子の大きさは1μm以下であることが好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましく、0.1〜0.5μmであることがさらに好ましい。光調整粒子の大きさが1μmを超える場合には、光散乱を生じたり、電界が印加された場合に光調整懸濁液中での配向運動が低下する等、透明性が低下する問題が発生することがある。なお、光調整粒子の大きさは、サブミクロン粒子アナライザ(例えば、製品名:N4MD(ベックマン・コールタ社製)で測定した光子相関分光分析法による体積平均粒径の値とする。
【0060】
本発明に使用される光調整懸濁液は、光調整粒子1〜70質量%及び分散媒30〜99質量%からなることが好ましく、光調整粒子4〜50質量%及び分散媒50〜96質量%からなることがより好ましい。本発明における高分子媒体の屈折率と分散媒の屈折率は近似していることが好ましい。具体的には、本発明における高分子媒体と分散媒との屈折率の差は、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.003以下である。調光材料は、高分子媒体100質量部に対して、光調整懸濁液を通常1〜100質量部、好ましくは6〜70質量部、より好ましくは6〜60質量部含有する。
【0061】
<プライマー層>
本発明の調光フィルムには、調光層との密着性向上のため、透明導電性樹脂基材の導電性を有する面側にプライマー層を設けることが好ましい。
プライマー層には、ペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレート等を用いることが好ましい。以下に、本発明においてプライマー層に用いられるペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートについて説明する。ペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートの例としては、(式1)〜(式7)で表される化合物が挙げられる。
【0062】
【化1】

【0063】
【化2】

【0064】
【化3】

【0065】
【化4】

【0066】
【化5】

【0067】
【化6】

【0068】
【化7】

【0069】
なお、(式5)〜(式7)においてRは、全て同じでも異なっていてもよい、下記に示されるものであり、少なくとも一つ以上がHであることが好ましい。
【0070】
【化8】

【0071】
プライマー層は、さらに酸化物微粒子を含有していることが好ましい。
プライマー層に含有されても良い酸化物の例としては、SiO、ITO、ZrO、TiO、Bi、Al、Y、CeO、ZnO、CuO、SnO、コバルトブルー等が挙げられる。より好ましくは、SiO、ITO、ZrOのいずれかあるいはこれらの混合物である。
【0072】
プライマー層に酸化物微粒子をフィラーとして添加すると、高い硬度のプライマー層を得ることが可能となり、調光フィルムを剥がして駆動用電極を取り出す際に、下地透明導電膜に傷が付きにくくなる効果がある。
【0073】
また、プライマー層に酸化物微粒子を添加することにより、プライマー層の表面エネルギーを調節してさらに密着性向上効果を得ることが可能となる場合がある。
酸化物微粒子の好ましい粒径としては、調光フィルムのヘイズ上昇抑制の点から50nm以下である。
【0074】
本発明において、平均粒径とはBET法による比表面積測定装置より測定した比表面積より、下記式を用いて算出された粒径である。
平均粒径(nm)=6,000/(密度[g/cm]×比表面積[m/g])
【0075】
上記範囲の平均粒径を有する金属酸化物微粒子は、市販品を適宜選択すればいい。
なお、酸化物微粒子のプライマー層における好ましい含有量は、調光フィルムのヘイズ上昇抑制の点からプライマー層の材料全体に対して30質量%以下である。
【0076】
本発明において用いられるペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートは、下記の方法により得ることができる。
ペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートは公知の方法で合成することが出来る。例えば、一般的にウレタンアクリレートは、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物等の水酸基と、水酸基含有(メタ)アクリレートとを公知の方法で反応させて得られることから、ペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートも同様に、例えば、以下の製法1〜製法4のいずれかで製造することが可能である。
【0077】
(製法1):ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及びペンタエリスリトール骨格含有(メタ)アクリレートを一括して仕込んで反応させる方法。
(製法2):ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を反応させ、次いでペンタエリスリトール骨格含有(メタ)アクリレートを反応させる方法。
(製法3):ポリイソシアネート化合物及びペンタエリスリトール骨格含有(メタ)アクリレートを反応させ、次いでポリオール化合物を反応させる方法。
(製法4):ポリイソシアネート化合物及びペンタエリスリトール骨格含有(メタ)アクリレートを反応させ、次いでポリオール化合物を反応させ、最後にまたペンタエリスリトール骨格含有(メタ)アクリレートを反応させる方法。
また、これらの反応には触媒を用いてもよく、例えば、ラウリル酸ジブチル錫等の錫系の触媒、三級アミン系触媒等が用いられる。
【0078】
上記製法1〜製法4において用いられるペンタエリスリトール骨格含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0079】
上記製法1〜製法4において用いられるポリイソシアネート化合物としては、例えば2、4−トリレンジイソシアネート、2、6−トリレンジイソシアネート、1、3−キシリレンジイソシアネート、1、4−キシリレンジイソシアネート、1、5−ナフタレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3、3’−ジメチル−4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3、3’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4、4’−ビフェニレンジイソシアネート、1、6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(3−イソシアネートメチル−3、5、5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート)、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、2、2、4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1、4−ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアネートエチル)フマレート、6−イソプロピル−1、3−フェニルジイソシアネート、4−ジフェニルプロパンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0080】
ペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートは、ペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートを含む市販品を用いることもでき、例えば、UA−306H、UA−306I、UA−306T、UA−510H(共栄社化学(株)製)等が挙げられる。
【0081】

ペンタエリスリトール骨格とIPDI骨格の両方を含有するウレタンアクリレートは、上記製法1〜製法4のうち、ポリイソシアネート化合物としてイソホロンジイソシアネートを用いることにより得ることができる。
【0082】
また、市販品を用いることもでき、ペンタエリスリトール骨格とIPDI骨格の両方を含有するウレタンアクリレートを含む市販品として、具体的には下記に例示できる。
AY42−151(フィラーとしてSiO微粒子含有、東レ・ダウコーニング(株)製)、UVHC3000(フィラー非含有、モメンンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)、UVHC7000(フィラー非含有、モメンンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)等が挙げられる。
【0083】
プライマー層を形成するための材料は、IPDI骨格を含有するウレタンアクリレートとは別に、水酸基を有する(メタ)アクリレートを混合して併用しても良い。より好ましくは、水酸基を有する(メタ)アクリレートがペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレートを併用することである。水酸基を有する(メタ)アクリレートは、具体的には、下記(式8)〜(式15)で表される化合物が挙げられる。
【0084】
【化9】

【0085】
【化10】

【0086】
【化11】

【0087】
【化12】

【0088】
【化13】

【0089】
【化14】

【0090】
【化15】

【0091】
【化16】

【0092】
上記の分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレートは、公知の方法で合成することが出来る。例えば、エポキシエステルの場合、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを不活性ガス中でエステル化触媒と重合禁止剤の存在下に反応させることにより得ることができる。
【0093】
不活性ガスとしては窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素等が挙げられる。これらは単独または併用して使用することができる。
エステル化触媒としては、トリエチルアミン、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体等の三級窒素を含有する化合物、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のリン化合物、またはテトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルアミン等のアミン塩等が用いられる。添加量は0.000001〜20質量%、好ましくは0.001〜1質量%である。
【0094】
重合禁止剤としてはハイドロキノン、ターシャリーブチルハイドロキノン等のそれ自体公知の重合禁止剤が用いられる。使用量は0.000001〜0.1質量%の範囲から選択される。
【0095】
エポキシエステルの例としては、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート(商品名:アロニックスM−5700、東亞合成(株)製、あるいは商品名:エポキシエステルM−600A、共栄社化学(株)製)、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート(商品名:ライトエステルG−201P、共栄社化学(株)製)、グリセリンジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(商品名:エポキシエステル80MFA、共栄社化学(株)製)等が挙げられる。
【0096】
また、水酸基とペンタエリスリトール骨格とを有する(メタ)アクリレートの場合、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトール等とアクリル酸またはメタクリル酸を空気中でエステル化触媒と重合禁止剤の存在下に反応させることにより得られる。ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールに対してアクリル酸あるいはメタクリル酸を付加させる反応方法としては、特公平5−86972号公報、特開昭63−68642号公報に記載された公知のものが適用できる。
【0097】
プライマー層形成に用いるペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレート、より好ましくはIPDI骨格をさらに含有するウレタンアクリレートは、必要により水酸基を有する(メタ)アクリレートを併用して、熱重合開始剤あるいは光重合開始剤を用いて硬化させて薄膜とすることが好ましい。熱硬化法、光硬化法は、特に制限はなく、通常の各硬化法を適用することができる。
【0098】
本発明に用いられる熱重合開始剤としては、熱により分解してラジカルを生成して重合性化合物の重合を開始し得るものであればよく、有用なラジカル開始剤は既知の開始剤であり、有機過酸化物、アゾニトリル等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
有機過酸化物には、アルキルパーオキシド、アリールパーオキシド、アシルパーオキシド、アロイルパーオキシド、ケトンパーオキシド、パーオキシカボネート、パーオキシカーボキシレート等が含まれる。
【0100】
アルキルパーオキシドとしては、ジイソプロピルパーオキシド、ジターシャリーブチルパーオキシド、ジターシャリーアミルパーオキシド、ターシャリーブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ターシャリーアミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ターシャリーブチルヒドロ−パーオキシド等が挙げられる。
【0101】
アリールパーオキシドとしては、ジクミルパーオキシド、クミルヒドロパーオキシド等が挙げられ、アシルパーオキシドとしては、ジラウロイルパーオキシド等が挙げられる。
アロイルパーオキシドとしては、ジベンゾイルパーオキシド等が挙げられる。
ケトンパーオキシドとしては、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等を挙げることができる。
【0102】
アゾニトリルとしては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピルニトリル等が挙げられる。
【0103】
熱重合開始剤の市販品としては、特にパーロイルIB、パークミルND、パーロイルNPP、パーロイルIPP、パーロイルSBP、パーオクタND、パーロイルTCP、パーロイルOPP、パーヘキシルND、パーブチルND、パーブチルNHP、パーヘキシルPV、パーブチルPV、パーロイル355、パーロイルL、パーオクタO、パーロイルSA、パーヘキサ25O、パーヘキシルO、ナイパーPMB、パーブチルO、ナイパーBMT、ナイパーBW、パーヘキサMC、パーヘキサTMH(以上、日油(株)製)、アゾ化合物、特に、2、2’−アゾビス(4−メトキシ−2、4−ジメチルバレロニトリル)、2、2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチル−ブチロニトリル)、2、2’−アゾビス(N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド)及び/又はジメチル2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2、2’−アゾイソブチレート等が挙げられる。
【0104】
光重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生して重合性化合物の重合を開始し得るものであればよく、例えばアセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2、2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4、4’−ジメトキシベンゾフェノン、4、4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2、4、6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2、6−ジメトキシベンゾイル)−2、4、4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0105】
光重合開始剤の市販品としては、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア500、イルガキュア2959、イルガキュア127、イルガキュア754、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア379EG、イルガキュア1300、イルガキュア819、イルガキュア819DW、イルガキュア1800、イルガキュア1870、イルガキュア784、イルガキュアOXE01、イルガキュアOXE02、イルガキュア250、イルガキュアPAG103、イルガキュアPAG108、イルガキュアPAG121、イルガキュアPAG203、ダロキュア1173、ダロキュアMBF、ダロキュアTPO、ダロキュア4265、ダロキュアEDB、ダロキュアEHA(以上、チバ・ジャパン(株)製)、C0014、B1225、D1640、D2375、D2963、M1245、B0103、C1105、C0292、E0063、P0211、I0678、P1410、P1377、M1209、F0362、B0139、B1275、B0481、D1621、B1267、B1164、C0136、C1485、I0591、F0021、A0061、B0050、B0221、B0079、B0222、B1019、B1015、B0942、B0869、B0083、B2380、B2381、D1801、D3358、D2248、D2238、D2253、B1231、M0792、A1028、B0486、T0157、T2041、T2042、T1188、T1608(以上、東京化成工業(株)製)等が挙げられる。
【0106】
本発明において、プライマー層の膜厚は、500nm以下であることが好ましく、さらに1nm〜500nmの膜厚であることがより好ましい。好ましくは10nm〜500nm、さらに好ましくは10nm〜500nm、また、より好ましくは10nm〜100nmである。膜厚が1nm未満であると充分な接着強度を発現できない傾向があり、膜厚が500nmを超えるとプライマー層のタックが強くなり、プライマー層を塗工してロールに巻き取った後に、プライマー層が基材フィルム裏面に転写する、あるいは調光フィルム製造時にラミネートする側の基材フィルムの位置合わせが困難になるといった不具合が生じ易い傾向がある。
【0107】
プライマー層の膜厚は紫外・可視光線の反射率分光法、X線反射率測定、エリプソメトリー等によって測定可能である。
【0108】
<透明導電性樹脂基材>
本発明の調光フィルムを製造するときに使用される透明導電性樹脂基材としては、一般的に、透明樹脂基材に、光透過率が80%以上の透明導電性膜(酸化インジウム錫、酸化亜鉛、及び酸化錫からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む導電性膜)がコーティングされている表面抵抗値が3〜3,000Ωの透明導電性樹脂基材を使用することができる。つまり、透明導電性樹脂基材の導電性を有する面は、酸化インジウム錫、酸化亜鉛、及び酸化錫からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む導電性膜からなる構成とすることが好ましい。なお、光透過率はJIS K7105の全光線透過率の測定法に準拠して測定することができる。また、透明樹脂基材としては、例えば、高分子フィルム等を使用することができる。
【0109】
上記高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂系のフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等の樹脂フィルムが挙げられるが、ポリエチレンテレフタレートフィルムが、透明性に優れ、成形性、接着性、加工性等に優れるので好ましい。
【0110】
透明樹脂基材にコーティングされる透明導電膜の厚みは、10〜5,000nmであることが好ましく、透明樹脂基材の厚みは特に制限はない。例えば、高分子フィルムの場合には10〜200μmが好ましい。透明樹脂基材の間隔が狭く、異物質の混入等により発生する短絡を防止するために、透明導電膜の上に数nm〜1μm程度の厚さの透明絶縁層が形成されている透明樹脂導電性基材を使用してもよい。また、本発明の調光フィルムを反射型の調光窓に利用する場合(例えば、自動車用リアビューミラー等)は、反射体であるアルミニウム、金、又は銀のような導電性金属の薄膜を駆動用電極として直接用いてもよい。
【0111】
<調光フィルム>
本発明の調光フィルムは、調光材料を用いて形成することが可能であり、調光材料は、高分子媒体から形成された樹脂マトリックスと、樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液とからなり、この調光材料を用いて調光層を形成する。調光層は、2枚の透明導電性樹脂基材に挟持されている。また、調光層との密着性を向上させるためのプライマー層を設ける場合、プライマー層を有する2枚の透明導電性樹脂基材に挟持されているか、あるいはプライマー層を有する透明導電性樹脂基材とプライマー層を有さない透明導電性樹脂基材の2枚の透明導電性樹脂基材に挟持されている。
【0112】
調光フィルムを得るためには、まず、液状の光調整懸濁液を、高分子媒体と均質に混合し、光調整懸濁液が高分子媒体中に液滴状態で分散した混合液からなる調光材料を得る。
具体的には、以下の通りである。光調整粒子を溶媒に分散した液と光調整懸濁液の分散媒を混合し、ロータリーエバポレーター等で溶媒を留去し、光調整懸濁液を作製する。
次いで、光調整懸濁液及び高分子媒体を混合し、光調整懸濁液が高分子媒体中に液滴状態で分散した混合液(調光材料)とする。
【0113】
この調光材料を、透明導電性樹脂基材上に一定な厚さで塗布した後、高圧水銀灯等を用いて紫外線を照射し高分子媒体を硬化させる。その結果、硬化高分子媒体からなる樹脂マトリックス中に、光調整懸濁液が液滴状に分散されている調光層ができ上がる。高分子媒体と光調整懸濁液との混合比率を様々に変えることにより、調光層の光透過率を調節することができる。このようにして形成された調光層の上にもう一方の透明導電性樹脂基材を密着させることにより、調光フィルムが得られる。
【0114】
あるいは、この調光材料を、透明導電性樹脂基材上に一定の厚さで塗布した後、もう一方の透明導電性樹脂基材でラミネートした後に紫外線を照射し、高分子媒体を硬化させてもよい。
また、2枚の透明導電性樹脂基材の両方の上に調光層を形成し、それを調光層同士が密着するようにして積層してもよい。調光層の厚みは、5〜1、000μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。
【0115】
樹脂マトリックス中に分散されている光調整懸濁液の液滴の大きさ(平均液滴径)は、通常0.5〜100μm、好ましくは0.5〜20μm、より好ましくは1〜5μmである。液滴の大きさは、光調整懸濁液を構成している各成分の濃度、光調整懸濁液及び高分子媒体の粘度、光調整懸濁液中の分散媒の高分子媒体に対する相溶性等により決められる。
【0116】
平均液滴径は、例えば、SEMを用いて、調光フィルムの一方の面方向から写真等の画像を撮影し、任意に選択した複数の液滴直径を測定し、その平均値として算出することができる。また、調光フィルムの光学顕微鏡での視野画像をデジタルデータとしてコンピュータに取り込み、画像処理インテグレーションソフトウェアを使用し算出することも可能である。
【0117】
透明導電性樹脂基材のプライマー処理(プライマー層の形成)を行う場合、例えば、プライマー層を形成する材料を、バーコーター法、マイヤーバーコーター法、アプリケーター法、ドクターブレード法、ロールコーター法、ダイコーター法、コンマコーター法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独または組み合わせて用いて、透明導電性樹脂基材に塗布することにより行うことができる。
【0118】
なお、塗布する際はプライマー層を形成する材料を必要に応じて適当な溶剤で希釈し、プライマー層を形成する材料の溶液を用いてもよい。溶剤を用いた場合には、透明導電性樹脂基材上に塗布した後乾燥を要する。尚、プライマー層となる塗膜は必要に応じて透明導電性樹脂基材の片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。
【0119】
プライマー層形成に用いる溶剤としては、プライマー層を形成する材料を溶解し、プライマー層形成後に乾燥等により除去できるものであればよく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエタノール、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、アニソール、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチルジグリコール、ジメチルジグリコール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができ、これらの混合溶剤でもよい。
【0120】
調光層となる調光材料の塗布には、例えば、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ロールコーター、ダイコーター、コンマコーター等の公知の塗工手段を用いることができる。調光材料を、透明導電性樹脂基材上に設けたプライマー層面に塗布し、あるいは、一方にプライマー層を有さない透明導電性樹脂基材を用いる場合には、透明導電性樹脂基材に直接塗布することもできる。なお、塗布する際は、調光材料を必要に応じて、適当な溶剤で希釈してもよい。溶剤を用いた場合には、透明導電性樹脂基材上に塗布した後に乾燥を要する。
【0121】
調光材料の塗布に用いる溶剤としては、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、エタノール、メタノール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができる。液状の光調整懸濁液が、固体の樹脂マトリックス中に微細な液滴形態で分散されている調光層を形成するためには、調光材料をホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等で混合して高分子媒体中に光調整懸濁液を微細に分散させる方法、高分子媒体中の樹脂成分の重合による相分離法、溶剤揮発による相分離法、又は温度による相分離法等を利用することができる。
【0122】
上記の方法によれば、電場の形成により任意に光透過率が調節できる調光フィルムが提供される。この調光フィルムは、電場が形成されていない場合にも、光の散乱のない鮮明な着色状態を維持し、電場が形成されると透明な状態に転換される。この能力は、20万回以上の可逆的反復特性を示す。透明な状態においての光透過率増進と、着色された状態における鮮明度の増進のためには、液状の光調整懸濁液の屈折率と、樹脂マトリックスの屈折率を一致させることが好ましい。
【0123】
調光フィルムを作動させるための使用電源は交流で、10〜100ボルト(実効値)、30Hz〜500kHzの周波数範囲とすることができる。
【0124】
本発明の調光フィルムは、電界に対する応答時間を、消色時には1〜50秒以内、着色時には1〜100秒以内とすることができる。
【0125】
また、紫外線耐久性は、750W紫外線等を利用した紫外線照射試験の結果、250時間が経過した後にも安定な可変特性を示し、−50℃〜90℃で長時間放置した場合にも、初期の可変特性を維持することが可能である。
【0126】
従来技術である液晶を使用した調光フィルムの製造における、水を用いたエマルジョンによる方法を使用すると、液晶が水分と反応して光調整特性を失うことが多く、同一の特性のフィルムを製造しにくいという問題がある。本発明においては、液晶ではなく、光調整粒子が光調整懸濁液内に分散されている液状の光調整懸濁液を使用するため、液晶を利用した調光フィルムとは異なり、電界が印加されていない場合にも光が散乱せず、鮮明度が優れて視野角の制限のない着色状態を表す。そして、光調整粒子の含量、液滴形態や膜厚を調節したり、又は電界強度を調節したりすることにより、光可変度を任意に調節できる。また、本発明の調光フィルムは、液晶を用いないことから、紫外線露光による色調変化及び可変能力の低下、大型製品特有の透明導電性樹脂基材の周辺部と中央部間に生ずる電圧降下に伴う応答時間差も解消される。
【0127】
本発明による調光フィルムに電界が印加されていないときには、光調整懸濁液内の光調整粒子のブラウン運動のため、光調整粒子の光吸収、2色性効果による鮮明な着色状態を示す。しかし、電界が印加されると、液滴又は液滴連結体の中の光調整粒子が電場に平行に配列され、透明な状態に転換される。また、フィルム状態であるがため、液状の光調整懸濁液をそのまま使用する従来技術による調光硝子の問題点、即ち、2枚の透明導電性樹脂基材の間への液状の懸濁液の注入の困難性、製品の上下間の水圧差による下部の膨張現象、風圧等の外部環境による基材間隔の変化による局部的な色相変化、透明導電性樹脂基材の間の密封材の破壊による調光材料の漏洩が解決される。
【0128】
また、液晶を利用した従来技術による調光窓の場合には、液晶が紫外線により容易に劣化し、またネマチック液晶の熱的特性によりその使用温度の範囲も狭い。更に、光学特性面においても、電界が印加されていない場合には光散乱による乳白色の半透明な状態を示し、電界が印加される場合にも、完全には鮮明化せず、乳濁状態が残存する問題点がある。従って、このような調光窓では、既存の液晶表示素子で動作原理として利用されている光の遮断及び透過による表示機能が不可能である。しかし、本発明による調光フィルムを使用すれば、このような問題点が解決できる。
【0129】
前記プライマー層を設けると、調光層と透明導電性樹脂基材との密着性が強く、製造過程あるいはフィルム製造後の加工過程等で調光層が透明導電性樹脂基材から剥がれるといった問題が生じることのない優れた調光フィルムである。
【0130】
本発明の調光フィルムは、例えば、室内外の仕切り(パーティション)、建築物用の窓硝子/天窓、電子産業および映像機器に使用される各種平面表示素子、各種計器板と既存の液晶表示素子の代替品、光シャッター、各種室内外広告および案内標示板、航空機/鉄道車両/船舶用の窓硝子、自動車用の窓硝子/バックミラー/サンルーフ、眼鏡、サングラス、サンバイザー等の用途に好適に使用することができる。
適用法としては、本発明の調光フィルムを直接使用することも可能であるが、用途によっては、例えば、本発明の調光フィルムを2枚の基材に挟持させて使用したり、基材の片面に貼り付けて使用したりしてもよい。前記基材としては、例えば、ガラスや、上記透明樹脂基材と同様の高分子フィルム等を使用することができる。
【0131】
本発明の調光フィルムの構造及び動作を図面により更に詳しく説明すると、下記の通りである。
図1は、本発明の一態様の調光フィルムの構造概略図で、調光層1が、透明導電性膜5aがコーティングされている2枚の透明樹脂基材5bからなる透明導電性樹脂基材4の間に挟まれている。調光層1と透明導電性樹脂基材4の間にはプライマー層6が設けられている。スイッチ8の切り換えにより、電源7と2枚の透明導電性膜5aの接続、非接続を行う。調光層1は、高分子媒体としての前記(A)エチレン性不飽和結合を有する置換基をもつ樹脂を紫外線硬化させたフィルム状の樹脂マトリックス2と、樹脂マトリックス2内に液滴3の形態で分散されている液状の光調整懸濁液からなる。
【0132】
図2は、図1に示した調光フィルムの作動を説明するための図面で、スイッチ8が切られ、電界が印加されていない場合を示す。この場合には、液状の光調整懸濁液の液滴3を構成している分散媒9の中に分散している光調整粒子10のブラウン運動により、入射光11は光調整粒子10に吸収、散乱又は反射され、透過できない。しかし、図3に示すように、スイッチ8を接続して電界を印加すると、光調整粒子10が印加された電界によって形成される電場と平行に配列するため、入射光11は配列した光調整粒子10間を通過するようになる。このようにして、散乱及び透明性の低下のない光透過機能が付与される。
【0133】
<導電性テープ(導電材料)>
本発明の調光フィルムにおいて、駆動用電極の作製に使用される導電性テープは一般的に金属箔に導電性粘着材が塗布されている表面抵抗値1〜100mΩ/cm2の導電性テープを使用できる。金属箔としては銅箔、アルミ箔、鉛箔などが上げられるが、調光フィルムの駆動電源との接続の際に引き回し導電材から配線を施す際に半田付けの必要があるため、半田付けが容易である銅箔であることが好ましい。導電性粘着材としてはニッケル、銀、銅などの金属微粒子やカーボンからなる繊維もしくは微粒子、あるいは樹脂微粒子に金属を被覆したもののいずれかが混合されたアクリル系粘着材が好ましい。
【0134】
金属箔、導電性粘着材を含めた導電性テープの総厚は特に制限はないが、調光フィルムに用いられる透明導電性基材の高分子フィルムの厚さを逸脱しない範囲が好ましく、10〜200μmが好ましい。例えばソニーケミカル&インフォーメションデバイスのCU7636、住友スリーエムのCU−35C、竹内工業株式会社のCUシリーズ、太陽金網株式会社のコ・フォイルなどが使用できる。
【0135】
<導電性ペースト>
本発明の調光フィルムにおいて、駆動用電極を作製するときに使用される導電性ペーストは、金、銀、白金などの貴金属や銅、アルミニウムなど導電率が高い材料を含むペースト材料を使用できる。また、導電性ポリマーを用いることもできる。粘度を印刷等に適した範囲に調合するために、バインダーとしてポリエステルなどのポリマーや希釈溶剤などを適宜混合してもよい。さらには透明導電性基材のガラス転移温度(Tg)よりも低い焼成温度で硬化する低温焼成型ペーストが好ましい。例えば、ハリマ化成のナノペースト、東洋紡のAgペーストDP120−H3、太陽インキ製造の導電性ペーストECM−100 AF4810などが使用できる。
【実施例】
【0136】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0137】
(光調整粒子の製造例)
光調整粒子を製造するために、撹拌機及び冷却管を装着した500mlの四つ口フラスコに、ニトロセルロース1/4LIG(商品名、ベルジュラックNC社製)15質量%の酢酸イソアミル(試薬特級、和光純薬工業(株)製)希釈溶液87.54g、酢酸イソアミル44.96g、脱水CaI(化学用、和光純薬工業(株)製)4.5g、無水エタノール(有機合成用、和光純薬工業(株)製)2.0g、精製水(精製水、和光純薬工業(株)製)0.6gの溶液に、ヨウ素(JIS試薬特級、和光純薬工業(株)製)4.5gを溶解し、光調整粒子の基盤形成物質であるピラジン−2、5−ジカルボン酸2水和物(PolyCarbon Industries製)3gを添加した。45℃で3時間撹拌して反応を終了させた後、超音波分散機で2時間分散させた。このとき、混合液の色相は、茶色から暗紺色に変化した。
【0138】
次に、反応溶液から一定な大きさの光調整粒子を取り出すために、遠心分離機を用いて光調整粒子を分離した。反応溶液を750Gの速度で10分間遠心分離して沈殿物を取り除き、更に7390Gで2時間遠心分離して、浮遊物を取り除き、沈殿物粒子を回収した。この沈殿物粒子は、サブミクロン粒子アナライザ(製品名:N4MD、ベックマン・コールタ社製)で測定した平均粒径が0.36μmを有する針状結晶であった。この沈殿物粒子を光調整粒子とした。
【0139】
(光調整懸濁液の製造例)
前記の(光調整粒子の製造例)で得た光調整粒子45.5gを、光調整懸濁液の分散媒としてのアクリル酸ブチル(和光特級、和光純薬工業(株)製)/メタクリル酸2、2、2−トリフルオロエチル(工業用、共栄社化学工業(株)製)/アクリル酸2−ヒドロキシエチル(和光1級、和光純薬工業(株)製)共重合体(モノマーモル比:18/1.5/0.5、重量平均分子量:2,000、屈折率1.4719)50gに加え、撹拌機により30分間混合した。次いで酢酸イソアミルをロータリーエバポレーターで133Paの真空で80℃、3時間減圧除去し、光調整粒子の沈降及び凝集現象のない安定な液状の光調整懸濁液を製造した。
【0140】
(エネルギー線硬化型シリコーン系樹脂の製造例)
ディーンスタークトラップ、冷却管、撹拌機、加熱装置を備えた四つ口フラスコに、両末端シラノールポリジメチルシロキサン(試薬、チッソ(株)製)17.8g、両末端シラノールポリジメチルジフェニルシロキサン(試薬、チッソ(株)製)62.2g、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン(試薬、チッソ(株)製)20g、2−エチルヘキサン錫(和光純薬工業(株)製)0.1gを仕込み、100℃のヘプタン中で3時間リフラックスし、反応を行った。
【0141】
次いで、トリメチルエトキシシラン(試薬、チッソ(株)製)25gを添加し、2時間リフラックスし、脱アルコール反応させ、ヘプタンをロータリーエバポレーターを用いて100Paの真空で80℃、4時間減圧除去し、重量平均分子量35000、屈折率1.4745のエネルギー線硬化型シリコーン系樹脂を得た。NMRの水素積分比からこの樹脂のエチレン性不飽和結合濃度は、0.31モル/kgであった。なお、エチレン性不飽和結合濃度は下記の方法により測定した。
【0142】
[エチレン性不飽和結合濃度の測定方法]
エチレン性不飽和結合濃度(モル/kg)は、NMRの水素積分比から算出した(エチレン性不飽和結合の水素の6ppm近傍の積分値、フェニル基の水素の7.5ppm近傍の積分値、及びメチル基の水素の0.1ppm近傍の積分値を使用)。測定溶媒はCDClとした。上記で製造した樹脂においては、NMRの水素積分比から算出した質量比率がメチル基:フェニル基:エチレン性不飽和結合基=11:6.4:1、全体の中のエチレン性不飽和結合基の割合は5.4%、各々の分子量から1分子あたりのエチレン性不飽和結合基の数は9.35、よって、1kgあたりのモル数は0.31モル/kgと算出した。
【0143】
(調光材料の製造例)
前記(エネルギー線硬化型シリコーン系樹脂の製造例)で得たエネルギー線硬化型シリコーン系樹脂10g、光重合開始剤としてのビス(2、4、6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティ・ケミカルス(株)製)0.2g、着色防止剤としてのジブチル錫ジラウレート0.3gに、前記(光調整懸濁液の製造例)で得た光調整懸濁液2.5gを添加し、1分間機械的に混合し、調光材料を製造した。
【0144】
(プライマー層付き透明導電性樹脂基材の製造例)
ITO(インジウム錫の酸化物)透明導電膜(厚み300Å)がコーティングされている表面電気抵抗値が200〜400ΩのPETフィルム(300R、東洋紡績(株)製、厚み125μm)からなる透明導電性樹脂基材の透明導電膜上に、AY42−151(商品名、東レ・ダウコーニング(株))をイソプロピルアルコール:1−メトキシ−2−プロパノール=1:1混合溶剤に1.0質量%となるように溶解した溶液を、マイクログラビア法(メッシュ#150)を用いて、全面塗布して、50℃/30s、60℃/30s、70℃/1min乾燥後、UV照射1,000mJ/cm(メタルハライドランプ)で光硬化してプライマー層を形成した。なお、AY42−151には光重合開始剤(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)が含有されている。プライマー層の厚みは、73nmであった。
【0145】
[プライマー層膜厚の測定方法]
プライマー層の膜厚は、瞬間分光光度計F−20(フィルメトリクス(株)製)を用いて測定した。
【0146】
(調光フィルムの製造例)
前記(プライマー層付き透明導電性樹脂基材の製造例)で得たプライマー層付き透明導電性樹脂基材の上に、前記(調光材料の製造例)で得た調光材料を全面塗布し、次いでその上に同様にプライマー層を形成した同じ透明導電性樹脂基材を、プライマー層形成面が調光材料の塗布層に向くようにして積層して密着させ、メタルハライドランプを用いて3,000mJ/cmの紫外線を前記積層した透明導電性樹脂基材のポリエステルフィルム側から照射し、光調整懸濁液が球形の液滴として紫外線硬化した樹脂マトリックス内に分散形成されたフィルム状の厚み90μmの調光層が透明導電性樹脂基材に挟まれた厚み340μm調光フィルムを製造した。
【0147】
[実施例1〜3、比較例1]
(導電性テープと透明導電性樹脂基材の密着性評価)
前記(調光フィルムの製造例)で得られた調光フィルムを50mm×50mmに切断し、フィルム両端部の50mm×12mmの範囲の透明導電性樹脂基材を切り取り、調光層を露出させた。
次いで、露出した調光層をプラスチック製のヘラで削ぎ落とし、削ぎ落とした部分(透明銅製性樹脂基材の導電性を有する面の端部、以下、「駆動用電極部分」と称する。)を、ヘキサンを含浸させた不織布で溶剤洗浄した。
同様に駆動用電極部分を溶剤洗浄した試料を4枚用意して、駆動用電極部分にオーク製作所製UVドライプロセッサー(254nmに主要なピークを持ち、185nmにもピークを持つ低圧水銀ランプを備えた装置、ランプと試料面の距離は15mm、試料面での照度は7mW/cm)で所定時間UV洗浄して対水接触角が、実施例1〜3においてはそれぞれ87°、86°、77°、比較例1においては102°の4試料を得た。
【0148】
UV洗浄したそれぞれの試料の駆動用電極部分に、引き回し用導電材料として、幅15mm、長さ50mmの導電性テープ(ソニーケミカル&インフォーメションデバイス製銅テープ、CU7636)をプラスチックヘラで1回圧着し貼り付け、図4に示す構造の試料を作製した。導電性テープは図4に示すとおり、貼り付ける側の透明導電性樹脂基材に対向している透明導電性樹脂基材の端部との短絡を防ぐため、2mm離した部分に貼り付けてある。
【0149】
この試料の導電性テープを駆動用電極表面から180°方向に引き剥がし、ピール強度を測定した。その結果、図6に示すように対水接触角95°以下である実施例1〜3の試料のピール強度は対水接触角100°の試料のピール強度の約7倍であることが分かった。導電性テープは駆動用電極部分に良好に密着しており、調光フィルムの駆動電源を安定供給可能である。
【0150】
[対水接触角測定方法]
協和界面科学株式会社製、接触角計CA−X型を用い、測定液に水を用いた液滴法にて接触角を測定した。測定は同一試料で3回行い、その平均値を求め対水接触角とした。
【0151】
[ピール強度測定方法]
導電性テープと駆動用電極表面のピール強度は、SHIMADZU社製オートグラフAG−100Eを用い、180°ピール、ロード加重50N、引き上げスピード50mm/minで引き剥がすように行い、測定した。試験はテープを貼り付け後30分放置した後実施した。
【0152】
[実施例4、比較例2]
(導電性テープ−透明導電性樹脂基材構造の熱老化試験)
前記(導電性テープと透明導電性樹脂基材の密着性評価)と同様に駆動用電極部分を作製して溶剤洗浄した試料を2枚用意し、駆動用電極表面のUV洗浄有り(実施例4)とUV洗浄無し(比較例2)で作り分けて、図4に示す構造の試料を作製した。UV洗浄有りの試料の対水接触角は85°、UV洗浄無しの試料の対水接触角は101°であった。
【0153】
この試料に対して熱老化試験を実施した。熱老化試験による駆動用電極部分の性能劣化有無は、駆動用電極部分の透明導電性樹脂基材と導電性テープの接続抵抗値で判断した。
調光フィルムに用いる透明導電性樹脂基材の表面電気抵抗値は、前記の通り200〜400Ωである。調光フィルムは2枚の透明導電性樹脂基材を用いているため合成抵抗値は400〜800Ωである。透明導電性樹脂基材と導電性テープ間の抵抗値は、透明導電性樹脂基材と導電性テープ間は清浄であれば、ほぼ0Ωである。
【0154】
接続抵抗値は透明導電性樹脂基材の合成抵抗値と、透明導電性樹脂基材と導電性テープ間の抵抗値の合成抵抗値、つまり400〜800Ωの範囲であるのが良好と判断できる。
熱老化試験の結果は図7に示すとおりである。UV洗浄無し試料は駆動用電極部分と導電性テープ間に残渣が多くあり、その残渣が熱により変質して接続抵抗値を増加させ、1,000時間以降では800Ωを超えた。
【0155】
一方、UV洗浄有り試料は残渣が少なく、熱老化による駆動用電極と銅テープ間の接続抵抗値が1,500時間を越えても800Ω以下であることが分かった。
親水化処理することで長時間に渡って調光フィルムの駆動電源を安定供給可能であることが確認された。
【0156】
[熱老化試験方法]
90℃に温度調節した恒温槽(ヤマト科学製、送風定温恒温器DKM600)に試料を投入・加熱して熱老化試験を実施した。所定時間毎に取り出し接続抵抗を測定して駆動用電極部分の性能劣化有無を判断した。
【0157】
[接続抵抗測定方法]
接続抵抗の測定には横河ヒューレットパッカード製インピーダンスアナライザー4192Aを用いた。調光フィルムの測定回路中に存在する静電容量成分が無視できる測定周波数10MHz、測定信号電圧1Vに設定してインピーダンスを測定し、インピーダンス値を接続抵抗値とした。
【0158】
[実施例5〜6、比較例3〜4]
(導電性ペーストと透明導電性樹脂基材の密着性評価)
図4の透明導電性樹脂基材と導電性テープの駆動用電極構造よりも、強固な密着性を持つ下地材(導電層)を設けた図5の駆動用電極構造を検討するため、導電性ペーストと透明導電性樹脂基材の密着性を評価した。
【0159】
前記(導電性テープと透明導電性樹脂基材の密着性評価)と同様に駆動用電極部分を作製して溶剤洗浄した後にUV洗浄して、対水接触角が、実施例5〜6においては、それぞれ95°、86°、83°比較例3〜4においてはそれぞれ98°、102°とした試料の駆動用電極面に、導電性ペースト(太陽インキ製造株式会社、ECM−100 AF4810)をゴムスキージで100μmの厚さに塗布して、90℃に温度調節した乾燥機で30分間硬化させた後、導電性ペースト密着性試験を実施した。その結果、図8に示すように対水接触角95°以下の実施例5〜6の試料で塗膜残存率100%を得ることが出来た。
【0160】
図5に示す構造においても駆動用電極部分は高い密着強度が得られて、駆動用電源が安定供給できる。
【0161】
[導電性ペースト密着性試験方法]
カッターナイフ等で駆動用電極表面に形成した導電性ペースト塗膜を碁盤状の目を切り込む。碁盤目の間隔は2mmとし、縦横直角に6本の線を交差させる。切り込んだ碁盤目にセロハンテープを強く圧着して、テープを上方にすばやく引き上げて剥離した後に残存した碁盤目を計数した。計数結果から下式により塗膜残存率を求めた。
塗膜残存率(%)=(剥離後の碁盤目数/剥離前の碁盤目数)×100
【0162】
[実施例7]
実施例1〜3と同様に駆動用電極部分を作製して溶剤洗浄した後に、Diener Electronic社製リモート式大気圧プラズマ処理装置Plasmabeamを用いて大気圧プラズマ洗浄を実施した。
【0163】
大気圧プラズマ生成時のガスには圧縮空気(大気)を用いた。プラズマ噴出部は冶具で固定し、プラズマ噴出部に対向して設けたモーター駆動の自動ステージに試料(駆動用電極表面)を設置して、試料を移動させながら洗浄処理した。プラズマ噴出部と試料表面の距離は15mmとした。ステージ移動速度を0、30、50、75、80、100mm/sと変化させてプラズマ洗浄した。
【0164】
大気圧プラズマ洗浄によっても、調光フィルムの駆動用電極表面の対水接触角は図9に示すように、処理時間に応じて親水化処理が可能であった。
ステージ移動速度80mm/sで大気圧プラズマ処理し対水接触角が94.7°とした駆動用電極表面に対して、導電性ペーストと透明導電性樹脂基材の密着性評価を実施したところ、導電性ペーストの塗膜残存率は100%となり、実施例1〜3のUV洗浄と同様に密着強度向上が可能であった。
【0165】
[実施例8]
実施例1〜3と同様に駆動用電極部分を作製して溶剤洗浄した後に、ササクラ社製オゾンマスターを用いてオゾンガス吹き付け洗浄を実施した。オゾンガスの生成条件は、オゾン出力を100%に設定し、オゾンガスを流量2g/hr.とした。発生したオゾンガスを内径6mmの樹脂ホースで導き、樹脂ホースに対向して設置した試料表面に向けてガスを吹き付け洗浄した。樹脂ホースと試料表面の距離は5mmとした。吹き付けは試料の1箇所に対して行い、吹き付け時間を30、60、600、900秒と変化させて洗浄した。
実施例1〜3、5〜6に示したUV洗浄、大気圧プラズマ洗浄に比べ処理に時間を要するが、オゾンガス吹き付けによっても、調光フィルムの駆動用電極表面の対水接触角は図10に示すように吹き付け時間に応じて親水化処理が可能であった。
【0166】
オゾンガス吹き付けを900秒行い、対水接触角が95.0°とした駆動用電極表面に対して、導電性ペーストと透明導電性樹脂基材の密着性評価を実施したところ、導電性ペーストの塗膜残存率は100%となり、実施例1〜3のUV洗浄と同様に密着強度向上が可能であった。
【符号の説明】
【0167】
1 調光層
2 樹脂マトリックス
3 液滴
4 透明導電性樹脂基材
5a 透明導電膜
5b 透明樹脂基材
6 プライマー層
7 電源
8 スイッチ
9 分散媒
10 光調整粒子
11 入射光
12 調光層を除去して露出した透明導電膜の導電性を有する面
13 透明導電膜に電源印加する引き回し用導電材(導電性テープ)
14 導電性ペースト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの透明導電性樹脂基材と、前記2つの透明導電性樹脂基材に挟持された調光層を有し、該調光層が、樹脂マトリックスと前記樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液とを含む調光フィルムであって、
前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部の対水接触角が8〜95°であることを特徴とする調光フィルム。
【請求項2】
前記導電性を有する面が、酸化インジウム錫、酸化亜鉛、及び酸化錫からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む導電性膜からなる請求項1に記載の調光フィルム。
【請求項3】
前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部に導電材料を着接してなる請求項1又は2に記載の調光フィルム。
【請求項4】
前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部に導電層を形成し、該導電層上に導電材料を着接してなる請求項1又は2に記載の調光フィルム。
【請求項5】
前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部が、波長254nm以下の紫外線照射により親水化処理されてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の調光フィルム。
【請求項6】
前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部が、酸素を含有する大気圧プラズマにより親水化処理されてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の調光フィルム。
【請求項7】
前記透明導電性樹脂基材の導電性を有する面の端部が、オゾンガスにより親水化処理されてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の調光フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−25010(P2012−25010A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164910(P2010−164910)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】