説明

調整池の放流量調整装置および調整池

【課題】大がかりな可動部や電気的な制御装置を不要とし、水位の変動にかかわらず常に略許容放流量の放流することができる調整池の放流量調整装置および調整池を提供する。
【解決手段】調整池1の放流量調整装置2は、調整池1の放流口15に設置されてオリフィスを形成する可動板21と、調整池1に貯留された雨水に浮かぶフロート29と、フロート29と可動板21とを直接または動力伝達機構を介して連結する天秤棒28および動力伝達棒26とを有している。また、前記動力伝達機構が、動力伝達棒26に連結された駆動側ピニオンおよび可動板21に設置された従動側ラック、若しくは、可動板21に当接する偏心カムである。さらに、放流口15が断面矩形で、可動板21の一方の辺が曲線であって、可動板21の並進もしくは回動に伴う放流口15の開口面積の変化率が、放流口15の開口面積が狭くなるほど小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流れ込んだ雨水を一旦貯留して該雨水を適宜放流することにより、小規模な洪水の発生を防止する調整池、調節池、貯留池(以下「調整池」と総称する)における、調整池の放流量調整装置およびかかる放流量調整装置が設置された調整池に関する。
【背景技術】
【0002】
調整池は、たとえば、集中豪雨の際に一時的に雨水を貯留して、下流域における小規模な洪水を防止するためのものである。そして、貯留量を確保するため、雨水の流入に並行して放流している。すなわち、時間当たりの雨水の流入量よりも、時間当たりの放流量の方が多い限り、調整池の水位は上昇しない。反対に、時間当たりの雨水の流入量が時間当たりの放流量よりも多くなった場合には、調整池の水位は上昇することになる。このとき、調整池の放流口は、底面に近い位置に設置されているから、調整池の水位が高くなるほど、ヘッド圧が高まって放流量が増すことになる。
【0003】
ところが、下流域において洪水が発生しないようにするため、時間当たりの放流量は規制され、調整池が設置される地域(当該調整池の放流先である河川等)ごとに決まっている(以下、許容される時間当たりの最大放流量を「許容放流量」と称す)。このことは、調整池の水深が最も深い時に放流する量が許容放流量を超えないように、調整池、具体的には放流口のサイズが設計されていることを意味している。
【0004】
つまり、調整池の水位が低い間は、ヘッド圧が高まっていないため、僅かな量しか放流されず、水位が高まるにつれて放流量が増し、やがて、最高水位になって初めて許容放流量の放流が可能になるから、常に略許容放流量の放流をしながら最高水位になった場合に較べ、最高水位になるまでの時間が早く、且つ累積放流量が少ないことになる。
このことは、常に略許容放流量の放流することが可能な調整池にしておけば、調整池の容積を小さくすることが可能になり、調整池建設のための用地費や建設費を安価にすることができることになる。
そこで、常に略許容放流量の放流することが可能な調整池についての発明が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平5−280028号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開平6−119057号公報(第2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された発明は、先端に流入口を有する所定の長さのフレキシブルホースの先端をフロートに設置し、後端を放流口に接続し、流入口より水面近くの水を流入させるものである。このため、フレキシブルホース自体の保全性や耐久性に不安があるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に開示された発明は、上水槽(調整池に相当する)に水位計を設置して、該水位計の測定値に基づいて下流側放水管に設置された弁の開度を制御するものである。このため、流量計の設置を省略することができるものの、新たに、流量制御弁制御盤や水位計が必要になり、これらの保守点検のコストが生じるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、大がかりな可動部や電気的な制御装置を不要とし、水位の変動にかかわらず常に略許容放流量の放流することができる調整池の放流量調整装置、およびかかる放流量調整装置が設置された調整池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る調整池の放流量調整装置は、流入した雨水を一旦貯留して放流する調整池に設置されるものであって、
前記調整池の放流口に設置されてオリフィスを形成する変動手段と、該変動手段を水平方向または鉛直方向に並進自在に案内する案内手段もしくは回動自在に支持する軸支手段と、前記調整池に貯留された雨水に浮かぶフロートと、該フロートと前記変動手段とを直接または動力伝達機構を介して連結する連結手段と、を有し、
前記フロートの昇降量に応じて前記変動手段を駆動することによって、前記放流口の開口面積が変動することを特徴とする。
【0010】
(2)また、流入した雨水を一旦貯留して放流する調整池に設置されるものであって、
前記調整池の放流口に設置されてオリフィスを形成する円環状の加圧ゲートと、該加圧ゲートの内部に圧力シリンダと、前記調整池に貯留された雨水に浮かぶフロートと、該フロートと前記圧力シリンダのピストンロッドとを直接または動力伝達機構を介して連結する連結手段と、を有し、
前記フロートの昇降量に応じて前記加圧ゲートの開口面積が変動することを特徴とする。
【0011】
(3)また、前記連結手段が、前記調整池の側壁に傾動自在に支持され、一方の端部に前記フロートが設置された天秤棒と、該天秤棒と前記変動手段とを連結する略鉛直部材と、を有することを特徴とする。
【0012】
(4)また、前記連結手段が、前記調整池の側壁および底面に設置された一対の滑車と、該一対の滑車に巻回され、端部がそれぞれ前記フロートと前記変動手段とに連結された索体と、を有することを特徴とする。
【0013】
(5)また、前記動力伝達機構が、前記索体に連結され、前記調整池の側壁に設置された駆動側ピニオンと、該駆動側ピニオンに噛み合い、前記変動手段に設置された従動側ラックと、を有することを特徴とする。
【0014】
(6)また、前記動力伝達機構が、前記変動手段に当接する前記調整池の側壁に回動自在に設置された偏心カムであって、該偏心カムが、直接または前記調整池の側壁に設置された駆動側ピニオンを介して回転されることを特徴とする。
【0015】
(7)また、前記放流口が断面矩形で、前記変動手段の一方の辺が曲線であって、前記変動手段の並進もしくは回動に伴う前記放流口の開口面積の変化率が、前記放流口の開口面積が狭くなるほど小さくなることを特徴とする。
【0016】
(8)さらに、本発明に係る調整池は、前記(1)〜(7)の何れかに記載の調整池の放流量調整装置が設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る調整池の放流量調整装置は以上の構成であって、大がかりな可動部や電気的な制御装置を必要としないため、装置が簡素であって、建設費や、保全費を押さえることができる。
また、本発明に係る調整池は以上の構成であって、水位の変動にかかわらず常に略許容放流量の放流をすることができるから、調整池の容量を小さくすることが可能になり、用地費や建設費を安価に押さえることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(天秤・下スライド式)
図1は本発明の実施形態に係る調整池および調整池の放流量調整装置を模式的に示す側面視の断面図であって、(a)は調整池、(b)は最低水位における放流量調整装置、(c)は最高水位における放流量調整装置である。なお、図中、最高水位を「H.W.L」で、最低水位を「L.W.L」で示している。
図1の(a)〜(c)において、調整池1には、調整池の放流量調整装置2(以下「調整装置2」と称す)が設置されている。
調整池1は、底面11の周囲が側壁12(堰や堤防等をまとめて「側壁」と称する)によって包囲され、側壁12の底面11に近い位置には放流管13が、また、側壁12の高い位置には雨水が流入する際の流入口(図示しない)が設けられている。したがって、雨水を一旦貯留することができ、また、貯留した雨水を放流することができるものである。
【0019】
調整装置2は、底面11に立設され、放流管13が貫通している壁体14と、壁体14に設置されて放流管13に連通する開口部15(以下「放流口15」と称す)を有する固定板16と、固定板16に摺動して放流口15の開口面積を変更する変動手段21(以下「可動板21」と称す)と、壁体14に設置され、可動板21を上下方向に案内する図示しないガイド手段と、調整池1に貯留された雨水の水面に浮かぶフロート29と、フロート29が一方の端部に設置された天秤棒28と、壁体14に設置され、天秤棒28を傾動自在に支持する軸支手段27と、天秤棒28の他方の端部と可動板21とを連結する動力伝達棒26とを有している。
【0020】
すなわち、フロート29の昇降に連動して可動板21が昇降するものであって、昇降する可動板21と固定板16に設けられた放流口15とが干渉することによって、可動板21と放流口15とによって開口面積が変動するオリフィス(以下「可動式オリフィス」と称す)である。
このとき、後記するように、調整池の水位が低い場合は、開口面積を大きくして許容放流量に近い放流量を確保し、水位の上昇と共に開口面積を除々に小さくして、水位の変動にかかわらず、許容放流量と略同じ量の放流を継続するように開口面積が自動調整され、水位が最高水位「H.W.L」となった時にも同様に許容放流量の放流が可能なものである。
【0021】
図1の(b)は降雨前であって、水位がオリフィスの下縁(開口部15の下縁に同じ)に同じ最低水位「L.W.L」にあるから、フロート29もまた最低位置にある。このとき、天秤棒28は支点Pを回動中心として倒伏し、端部における支持点Qにおいて回動自在に連結された動力伝達棒26を最高位置にまで引き上げている。このとき、開口部15は全開、すなわち、可動板21は引き上げられて開口部15に干渉しない状態で、オリフィスを形成している。
すなわち、降雨が始まった初期は、水位はオリフィスの下縁(開口部15の下縁に同じ)近くにあるため、開口部15は略全開の状態で雨水は放流される。
【0022】
図1の(c)は降雨が継続して水位が最高水位「H.W.L」になった状態を示している。なお、後述するように雨水の流入に並行して略許容放流量で放流されるため、通常は満杯になることはない。
図1の(c)において、フロート29は最高位置にあって、最低水位「L.W.L」から最高水位「H.W.L」まで、距離Hmaxだけ上昇し、天秤棒28は略水平に起立している。このとき、動力伝達棒26は最低位置にまで押し下げられ、可動板21は最大距離Ymaxだけ押し下げられて最低位置にある。そして、開口部15は最も狭く、開口面積は最高水位「H.W.L」のヘッド圧に対して許容放流量の放流が可能な大きさになっている。
【0023】
次に、オリフィスの放流量について説明する。可動板21と放流口15とによって形成される開口が、上下方向で「オリフィス高さL]、水平方向で「オリフィス幅BL]の矩形の場合、オリフィスの下縁(開口部15の下縁に同じ)からの水深を「H」とすると、
H1.2Lの時 Q0=1.7〜1.8・BL・H3/2 ・・・(式1)

H1.8Lの時 Q0=C・(BL−kBL・(H-1.8・L)j)・(L−kL・(H-1.8・L)j
・(2・g(H-(L−kL・(H-1.8・L)j)/2))1/2 ・・・(式2)
ここに、kBL :オリフィスの幅方向可動変数
L :オリフィスの高さ方向可動変数
j:可動変数根(乗)
C :流量係数
g:重力加速度

1.2LH1.8L の区間については、 式1におけるH=1.2Lの時のQ0と、式2におけるH=1.8Lの時のQ0を用いた直線近似とする。
【0024】
以上の説明から明らかなように、可動式オリフィスは、オリフィスを可動式にすることにより、調整池の水位が低い場合は開口面積を大きくして許容放流量に近い放流量を確保し、水位の上昇と共に開口面積を小さくして、調整池水位が最高水位「H.W.L」となった時にも同様に許容放流量を放流できる装置である。そして、放流量が水深「H」の指数関数(たとえば、略1/2乗)で表せることから、水深が浅い場合は、水位変動に対する開口面積の変化率は大きいが、水深が深くなるにつれ、水位変動に対する開口面積の変化率は小さくなる傾向がある。
【0025】
したがって、可動式オリフィスの開口面積は、水深が浅い場合は大きく、且つ水位上昇に伴って急速に開口面積が縮小し、水位の上昇とともに開口面積の縮小率が小さくなるのが好ましい。
このため、本発明においては、フロート29の昇降量と動力伝達棒26の昇降量が比例する場合には、可動板21を曲線に形状し、開口部が矩形のまま変動しないようにしている(これについては別途詳細に説明する)。また、動力伝達棒26と可動板21との間に動力伝達機構を設置して、フロート29の昇降量と可動板21の移動量とが、前記式を満足する移動量になるようにしている(これについては別途詳細に説明する)。
なお、可動板21が所定の重量を有し、水圧やガイド手段との摩擦等に打ち勝って自然落下するものである場合、動力伝達棒26は剛性のないロープやチェーン等(以下「索体」と総称する)であってもよい。
【0026】
(天秤・上スライド式)
図2は本発明の実施形態に係るその他の調整池および調整池の放流量調整装置を模式的に示す側面視の断面図であって、(a)は最低水位における放流量調整装置、(b)は最高水位における放流量調整装置である。なお、図1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0027】
図2の(a)は降雨前であって、水位がオリフィスの下縁(開口部15の下縁に同じ)に同じ最低水位「L.W.L」にあるから、フロート29もまた最低位置にある。このとき、天秤棒28は端部における支点Pを回動中心として倒伏し、支点よりもフロート29に近い位置にある支持点Qにおいて回動自在に連結された動力伝達棒26を最低位置にまで押し下げている。このとき、開口部15は全開、すなわち、可動板21は押し下げられて開口部15に干渉しない状態で、オリフィスを形成している。
すなわち、降雨が始まった初期は、水位はオリフィスの下縁(開口部15の下縁に同じ)近くにあるため、開口部15は略全開の状態で雨水は放流される。
【0028】
図2の(b)は降雨が継続して水位が最高水位「H.W.L」になった状態を示している。なお、後述するように雨水の流入に並行して略許容放流量で放流されるため、通常は満杯になることはない。
すなわち、フロート29は最高位置にあって、最低水位「L.W.L」から最高水位「H.W.L」まで、距離Hmaxだけ上昇し、天秤棒28は略水平に起立している。このとき、動力伝達棒26は最高位置にまで引き上げられ、可動板21は最大距離Ymaxだけ引き上げられて最高位置にある。そして、開口部15は最も狭く、開口面積は最高水位「H.W.L」のヘッド圧に対して許容放流量の放流が可能な大きさになっている。
【0029】
(天秤・横スライド式)
図3は本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置のその他の態様を模式的に示す部分正面図である。なお、図1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0030】
図3の(a)において、可動板21は動力伝達機構30を介して駆動されるものである。動力伝達機構30は、壁体14に回動自在に設置された偏心カム31と、偏心カム31に固定された偏心レバー32とによって形成され、偏心カム31のカム端面33は可動板21に当接している。一方、可動板21は壁体14に設置された図示しないガイド手段によって案内されて、水平方向に往復移動をするものであって、バネ22によって偏心カム31側に付勢されている。
【0031】
そして、偏心レバー32には動力伝達棒26が連結されているから、動力伝達棒26の昇降によって、偏心カム31が回転し、該回転によって、カム端面33に当接している可動板21は往復移動をすることになる。このとき、カム端面33の曲線は、前記式1および式2を満足するものであるから、調整池の水位が低い場合は、開口面積を大きくして許容放流量に近い放流量を確保し、水位の上昇と共に開口面積を除々に小さくして、水位の変動にかかわらず、許容放流量と略同じ量の放流を継続するように開口面積が自動調整され、水位が最高水位「H.W.L」となった時にも同様に許容放流量の放流が可能になっている。
【0032】
図3の(b)において、可動板21と動力伝達機構30との間に当接レバー35が配置されている。すなわち、 当接レバー35は略中央がヒンジ34によって回動自在に設置され、一方の端部近くがカム端面33に当接し、他方の端部近くが可動板21に当接している。したがって、動力伝達機構30を設置する位置の自由度が増すと共に、カム端面33の動きを増幅して可動板21に伝達することができる。
【0033】
(ワイヤー・下スライド式)
図4は本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置のその他の態様を模式的に示す側面視の断面図であって、(a)は最低水位、(b)は最高水位である。なお、図1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0034】
図4の(a)は降雨前であって、水位がオリフィスの下縁(開口部15の下縁に同じ)に同じ最低水位「L.W.L」にあるから、フロート29もまた最低位置にある。このとき、可動板21には動力伝達機構40が設置され、フロート29と動力伝達機構40とを連結するワイヤー25は、底面11に設置された底面滑車17と壁体14に設置された壁体上滑車18とに、それぞれ巻回され略N字状を呈している。このとき、動力伝達機構40は自重または図示しない牽引手段によって下方に向かって牽引されているから、ワイヤー25が弛むことはない。
すなわち、フロート29は、最も低い位置にあって、動力伝達機構40もまた最も低い位置にある。このとき、開口部15は全開、すなわち、可動板21は押し下げられて開口部15に干渉しない状態で、オリフィスを形成している。
すなわち、降雨が始まった初期は、水位はオリフィスの下縁(開口部15の下縁に同じ)近くにあるため、開口部15は略全開の状態で雨水は放流される。
【0035】
図4の(b)は降雨が継続して水位が最高水位「H.W.L」になった状態を示している。なお、後述するように雨水の流入に並行して略許容放流量で放流されるため、通常は満杯になることはない。図4の(b)において、フロート29は最高位置にあって、最低水位「L.W.L」から最高水位「H.W.L」まで、距離Hmaxだけ上昇しているから、動力伝達機構40の図示しない動力受け入れ部もまた、距離Hmaxに相当する量だけ移動(たとえば、回転)している。そして、動力伝達機構40の図示しない動力受け渡し部は、可動板21を最高位置にまで引き上げられているから、開口部15は最も狭く、開口面積は最高水位「H.W.L」のヘッド圧に対して許容放流量の放流が可能な大きさになっている。
【0036】
なお、以上は、動力伝達機構40の動力受け入れ部が上方向に移動するものを示しているが、壁体の下方(開口部15よりも低い位置)に壁体下滑車(図示しない)を設置して、動力伝達機構40の動力受け入れ部が下方向に移動するようにしてもよい。
また、動力伝達機構30を設置して横スライド式にしてもよい。
【0037】
(動力伝達機構)
図5は本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置に設置される動力伝達機構を説明する正面図である。図5の(a)において、可動板21には上に向かってラック41が固定され、ラック41には受け渡し小ピニオン42が噛み合い、受け渡し小ピニオン42には同軸に受け渡し大ピニオン43が固定されている。さらに、受け渡し大ピニオン43には、受け入れピニオン44が噛み合って、受け入れピニオン44には受け入れホイール45が固定されている。
【0038】
そして、受け入れホイール45にワイヤー25が巻回しているから、フロート29が上昇して、ワイヤー25を引き上げると、受け入れホイール45および受け入れピニオン44は図中、反時計回りの回転し、一方、受け渡し大ピニオン43および受け渡し小ピニオン42は時計回りに回転する。そうすると、ラック41は押し下げられることになる。なお、ラック41はバネ46によって上方向に付勢されているが、バネ46の設置を省略して、受け入れホイール45等に時計回りの、受け渡し大ピニオン43等に反時計回りの付勢手段を設けてもよい。
なお、図中、ピッチ円が真円の外歯車を示しているが、可動板21が矩形であって、可動板21と固定板16によって形成される開口部が矩形である場合には、楕円歯車ないし異形歯車を設置することによって、前記式1および式2を満たす開口面積が得られるものである。
【0039】
図5の(b)において、可動板21には下に向かってラック41が固定され、ラック41は、受け渡し小ピニオン42が時計回りに回った時に、引き下げられる側に配置されている。したがって、フロート29が上昇すると、ラック41は押し下げられることになる。
【0040】
図5の(c)において、動力伝達機構50は、横スライド方式に好適であって、動力伝達機構30における偏心カム31(図3参照)をピニオン等によって回転させるものである。すなわち、動力伝達機構50は、壁体14に回動自在に設置された偏心カム51と、偏心カム51に固定された受け渡しピニオン52と、受け渡しピニオン52に噛み合った受け入れピニオン53と、受け入れピニオン53に同軸に固定された受け入れホイール54とを有している。
そして、受け入れホイール54にワイヤー25が巻回しているから、フロート29が上昇して、ワイヤー25を引き上げると、受け入れホイール54および受け入れピニオン53は図中、反時計回りの回転し、一方、受け渡しピニオン52および偏心カム51は時計回りに回転する。そうすると、バネ22によって付勢されて偏心カム51のカム端面55に当接している可動板21は、往復移動をすることになる。
このとき、カム端面33の曲線は、前記式1および式2を満足するものであるから、調整池の水位が低い場合は、開口面積を大きくして許容放流量に近い放流量を確保し、水位の上昇と共に開口面積を除々に小さくして、水位の変動にかかわらず、許容放流量と略同じ量の放流を継続するように開口面積が自動調整され、水位が最高水位「H.W.L」となった時にも同様に許容放流量の放流ができるものである。
【0041】
(可動板)
図6〜9は本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置に設置される可動板を説明する正面図であって、(a)は開口面積が最も広い場合、(b)は開口面積が中間程度の場合、(c)は開口面積が最も狭い場合である。図6は「上スライド式」であって、固定板16に設けられた放流口15が矩形で、可動板21aの上縁が所定の曲線形状に形成されている。したがって、フロートの上昇量と可動板21aの上昇量が比例する場合であっても、可動板21aが上昇する途中の全行程において(図6の(b)参照)、放流口15と可動板21aの上縁とによって形成される開口(オリフィスに同じ)は、前記式1および式2を満足するから、略許容放流量の放流が継続されることになる。すなわち、水深が浅い場合は早く開口面積の縮小率が大きく、水位の上昇とともに開口面積の縮小率が小さくなるようにする。
【0042】
図7は「下スライド式」であって、固定板16に設けられた放流口15が矩形で、可動板21bの下縁が所定の曲線形状に形成されている。したがって、フロートの上昇量と可動板21aの下降量が比例する場合であっても、可動板21aが下降する途中の全行程において(図7の(b)参照)、放流口15と可動板21bの上縁とによって形成される開口(オリフィスに同じ)は、前記式1および式2を満足するから、略許容放流量の放流が継続されることになる。
【0043】
図8は「回転スライド式」であって、固定板16に設けられた放流口15および可動板21cが矩形であって、可動板21cが一方の角近くを支点に回動するものである。したがって、フロートの上昇量と可動板21cの回転量が比例する場合であっても、可動板21cが回転する途中の全行程において(図8の(b)参照)、放流口15と可動板21cの上縁とによって形成される開口(オリフィスに同じ)は、前記式1および式2を満足するから、略許容放流量の放流が継続されることになる。
なお、可動板21cの上縁を直線にしないで所定の曲線にしておけば、さらに高い精度で前記式1および式2を満足することができる。すなわち、動力伝達機構40等を用いてフロート29の昇降動作を回転運動に変換し、スライド板を回転させることにより、水深が浅い場合は開口面積の縮小率が大きく、水位の上昇とともに開口面積の縮小率が小さくなっている。
【0044】
図9は「横スライド式」であって、固定板(図示しない)に設けられた放流口15および可動板21が矩形であって、可動板21が偏心カム31によって往復移動(並進)されている。すなわち、カム端面33が所定の曲線に形成されているから、フロートの上昇量と偏心カム31の回転量が比例する場合であっても、偏心カム31が回転する途中の全行程において、放流口15と可動板21cの側縁とによって形成される開口(オリフィスに同じ)は、前記式1および式2を満足するから、略許容放流量の放流が継続されることになる。水深が浅い場合は開口面積の縮小率が大きく、水位の上昇とともに開口面積の縮小率が小さくなっている。
なお、可動板21の側縁を直線にしないで所定の曲線にしておけば、さらに高い精度で前記式1および式2を満足することができる。
【0045】
(天秤・加圧ゲート式)
図10は本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置のその他の態様を模式的に示す部分正面図である。なお、図1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。図10において、固定板(図示しない)に設けられた放流口15に円環状の加圧ゲート61が設置され、その中央孔62によってオリフィスが形成されている。加圧ゲート61の内部には、油圧ホース63を介して油圧シリンダ64から油(油圧に同じ)が供給され、油(油圧)の供給によって中央孔62の面積が変更されるものである。
また、油圧シリンダ64のピストンロッド65の先端は偏心カム31に当接して、これによって往復移動(並進)されている。
【0046】
すなわち、カム端面33が所定の曲線に形成されているから、フロートの上昇量と偏心カム31の回転量が比例する場合であっても、偏心カム31が回転する途中の全行程において、中央孔62の開口面積が前記式1および式2を満足するから、略許容放流量の放流が継続されることになる。つまり、水深が浅い場合は開口面積の縮小率が大きく、水位の上昇とともに開口面積の縮小率が小さくなっている。
なお、油圧シリンダ64に替えて、空圧シリンダによっても同様の作用効果が得れる。
【0047】
(試算)
次に、本発明の実施形態に係る調整池について、その効果を確認したので、その一部を示す。表1、表2は、試算に用いた諸元および結果であって、表1は本発明に係る調整池(可動式オリフィスが設置されている)、表2は比較のための従来の調整池(従来のオリフィス(以下「固定オリフィス」と称す)が設置されている)である。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
図11は本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するため試算したオリフィス開度の特性グラフであって、(a)は水平方向開度(BL)、(b)は開口面積(BL・L)である。すなわち、図11に示す特性グラフでは、水位が低い間であっても多く放流し、水位が一定の値以上になったら、放流量を許容放流量に抑えるための平方向開度(BL)および開口面積(BL・L)であるから、前述の(式1)および(式2)を満足するものであって、可動式オリフィスの開口面積は、水深が浅い場合は大きく、且つ水位上昇に伴って急速に開口面積が縮小し、水位の上昇とともに開口面積の縮小率が小さくなっている。
【0051】
図12は本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するために用いた雨水の流入ハイドログラフである。図12において、11時頃から流入量が増し始め、12時頃に流入量が急激に増大している。そして、13時にピークを迎え、その後は、略対称になるように流入量が減少している。
【0052】
図13は本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するために用いた可動式オリフィスの可動状況を示すものであって、(a)はオリフィス幅の推移図、(b)は開口面積の推移図である。可動式オリフィスでは、雨水の流入量の急増に対応して、オリフィス幅(BL)が急速に狭まり、これに伴って、開口面積(BL×L)も急速に減少している。そして、流入量がピークを過ぎたあたりから、オリフィス幅(BL)は除々に広がり始める。すなわち、貯水量に慣性があるため、流入量の急速減少に同じ程度で、オリフィス幅(BL)を急激に広げたのでは、放流量が許容放流量を超えるおそれがあるからである。
【0053】
図14は本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するために用いた可動式オリフィスの放流状況を示す推移図である。可動式オリフィスでは、あらかじめ、オリフィスの開口面積を広くして、水位の上昇に対応して開口面積を狭めている、したがって、雨水が流入を開始する早い時間帯から大量の放流が始まり、長い時間にわたって略許容放流量の放流が継続している。このため、最大水位は1.946mにおさまっている。
一方、固定オリフィスでは、最大水位2.381mで許容放流量の放流に到達するまでは、水位の上昇に伴って放流量は除々に増大するだけであるから、流入量の放流量を超える分は蓄積され、水位はますます上昇することになる。なお、図は計算結果であって、実際は、許容放流量を超える放流は許されないから、最大水位を超えた分は、当該調整池から溢れることになる。
【0054】
図15は本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するために用いた可動式オリフィスの放流状況を示す流出ハイドログラフである。可動式オリフィスでは、前述のように、早い時間から長い時間にわたって略許容放流量の放流をするため、早い時間に調整池の水は低下することになり、ピークを過ぎてからの放流量が急速に減少している。
一方、固定オリフィスでは、最大水位に到達した後、除々に水位が低下するものの、放流量が水位の低下に伴って減少するため、放流量の低下の割合が緩慢になっている。
【0055】
図16は本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するために用いた貯水状況を示すものであって、(a)は調整池水位の推移図、(b)は貯留量の推移図である。可動式オリフィスでは、早い時間から略許容放流量の放流をするため、水位の上昇が押さられ、1.946mであるのに対し、最高水位になって初めて許容放流量の放流をする固定オリフィスでは、水位が約2.381mにまで上昇している。このため、可動式オリフィスでは、2141m3の貯留量で、当該降雨をしのぐことができるのに対し、固定オリフィスでは、2619m3の貯留量が必要になっている。すなわち、可動式オリフィスを設置した調整池の容積は、固定オリフィスが設置された調整池の容積に比較して、約18%小さくすることが可能になることが示される。
【0056】
なお、調整池計算における降雨は、便宜的に一定時間内における中央降雨波形をとっているものが多く、これにより調整池計算を行っている。この中央降雨波形の雨に近いものが一定時間内に2度発生することも自然界ではあり、この場合は天災として処理されている。したがって、本発明の調整池の放流量調整装置によれば、許容放流量に近い放流量を常に放流することが可能になるから、治水安全度を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は以上の構成であるから、調整池の放流量調整装置および調整池として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る調整池および調整池の放流量調整装置を模式的に示す側面視の断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置のその他の態様を模式的に示す側面視の断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置のその他の態様を模式的に示す部分正面図。
【図4】本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置のその他の態様を模式的に示す側面視の断面図。
【図5】本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置に設置される動力伝達機構を説明する正面図。
【図6】本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置に設置される可動板を説明する正面図。
【図7】本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置に設置される可動板を説明する正面図。
【図8】本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置に設置される可動板を説明する正面図。
【図9】本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置に設置される可動板を説明する正面図。
【図10】本発明の実施形態に係る調整池の放流量調整装置のその他の態様を模式的に示す部分正面図。
【図11】本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するため試算したオリフィス開度の特性グラフ。
【図12】本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するために用いた雨水の流入ハイドログラフ。
【図13】本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するために用いた可動式オリフィスの可動状況を示すオリフィス幅の推移図および開口面積の推移図。
【図14】本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するために用いた可動式オリフィスの放流状況を示す推移図。
【図15】本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するために用いた可動式オリフィスの放流状況を示す流出ハイドログラフ。
【図16】本発明の実施形態に係る調整池の効果を確認するために用いた貯水状況を示す調整池水位の推移図および貯留量の推移図。
【符号の説明】
【0059】
1 調整池
2 放流量調整装置(調整装置)
11 底面
12 側壁
13 放流管
14 壁体
15 放流口
16 固定板
17 底面滑車
18 壁体上滑車
21 可動板
22 バネ
25 ワイヤー
26 動力伝達棒
27 軸支手段
28 天秤棒
29 フロート
30 動力伝達機構
31 偏心カム
32 偏心レバー
33 カム端面
34 ヒンジ
35 当接レバー
40 動力伝達機構
41 ラック
42 受け渡し小ピニオン
43 受け渡し大ピニオン
44 受け入れピニオン
45 受け入れホイール
46 バネ
50 動力伝達機構
51 偏心カム
52 受け渡しピニオン
53 受け入れピニオン
54 受け入れホイール
55 カム端面
61 加圧ゲート
62 中央孔
63 油圧ホース
64 油圧シリンダ
65 ピストンロッド
BL オリフィス幅
L オリフィス高さ
P 支点
Q 支持点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入した雨水を一旦貯留して放流する調整池における調整池の放流量調整装置であって、
前記調整池の放流口に設置されてオリフィスを形成する変動手段と、該変動手段を水平方向または鉛直方向に並進自在に案内する案内手段もしくは回動自在に支持する軸支手段と、前記調整池に貯留された雨水に浮かぶフロートと、該フロートと前記変動手段とを直接または動力伝達機構を介して連結する連結手段と、を有し、
前記フロートの昇降量に応じて前記変動手段を駆動することによって、前記放流口の開口面積が変動することを特徴とする調整池の放流量調整装置。
【請求項2】
流入した雨水を一旦貯留して放流する調整池における調整池の放流量調整装置であって、
前記調整池の放流口に設置されてオリフィスを形成する円環状の加圧ゲートと、該加圧ゲートの内部に圧力シリンダと、前記調整池に貯留された雨水に浮かぶフロートと、該フロートと前記圧力シリンダのピストンロッドとを直接または動力伝達機構を介して連結する連結手段と、を有し、
前記フロートの昇降量に応じて前記加圧ゲートの開口面積が変動することを特徴とする調整池の放流量調整装置。
【請求項3】
前記連結手段が、前記調整池の側壁に傾動自在に支持され、一方の端部に前記フロートが設置された天秤棒と、該天秤棒と前記変動手段とを連結する略鉛直部材と、を有することを特徴とする請求項1または2記載の調整池の放流量調整装置。
【請求項4】
前記連結手段が、前記調整池の側壁および底面に設置された一対の滑車と、該一対の滑車に巻回され、端部がそれぞれ前記フロートと前記変動手段とに連結された索体と、を有することを特徴とする請求項1または2記載の調整池の放流量調整装置。
【請求項5】
前記動力伝達機構が、前記索体に連結され、前記調整池の側壁に設置された駆動側ピニオンと、該駆動側ピニオンに噛み合い、前記変動手段に設置された従動側ラックと、を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の調整池の放流量調整装置。
【請求項6】
前記動力伝達機構が、前記変動手段に当接する前記調整池の側壁に回動自在に設置された偏心カムであって、該偏心カムが、直接または前記調整池の側壁に設置された駆動側ピニオンを介して回転されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の調整池の放流量調整装置。
【請求項7】
前記放流口が断面矩形で、前記変動手段の一方の辺が曲線であって、前記変動手段の並進もしくは回動に伴う前記放流口の開口面積の変化率が、前記放流口の開口面積が狭くなるほど小さくなることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の調整池の放流量調整装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の調整池の放流量調整装置が設置されていることを特徴とする調整池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−9632(P2007−9632A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194937(P2005−194937)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(503052829)
【Fターム(参考)】