説明

調波ノイズの減法キャンセル方法

【課題】抑制されるべき一つ以上の正弦波ノイズ(9)によって有用信号(8)が擾乱されるといった可聴処理における一般的な問題を解決することを目的とする。
【解決手段】本発明は、擾乱された有用信号(1)における未知の周波数の正弦波外乱(9)をキャンセルする方法であって、振幅、位相、および周波数といった正弦波外乱(9)の3つのパラメータを推定(2)するステップと、推定されたパラメータに基づいて基準信号(5)を生成(4)するステップと、擾乱された有用信号(1)から基準信号(6)を減算(6)するステップとを有する方法を提供する。推定は、拡張形カルマンフィルタによって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にノイズ抑制の分野に係わり、特に、対象信号における未知の周波数の追加の正弦波外乱(disturbance)をキャンセルする方法に関わる。同方法は、可聴信号を高めることに重点的に取り組む。しかしながら、本発明は、音響の分野に制限されず、圧力センサの信号にも適用され得る。
【背景技術】
【0002】
可聴処理における一般的な問題は、情報を有する信号が一つ以上の正弦波信号によって擾乱される(disturbed、入り乱れる)ことである。干渉信号を抑制する従来の方法は、非特許文献1に記載されるように正弦波干渉の周波数に同調される固定ノッチフィルタを用いる。
【0003】
対象信号における劣化を僅かにするためには、フィルタのノッチは、非常にシャープでなくてはならず、良好な抑制には干渉の周波数は正確に知られてなくてはならない。これ以外の場合ではノッチフィルタ処理の通常の方法がもはや適用可能でなくなり、非特許文献2に提案されている適応アプローチ法が使用されなくてはならない。フィルタは、ほとんどのパワーを含む主正弦波干渉と同期し、それを完全に抑制する。更に、フィルタは、干渉周波数の軽微な時間に依存した変化を追跡することができる。しかしながら、上記アプローチ法は、ノッチ周波数で情報を有する信号のスペクトルコンテンツを保つことができないといった一つの重要な欠点を有する。したがって、一方がノイズを表し、他方が有用な情報を表す2つの正弦波への明確な分離が可能でなくなる。
【0004】
上記問題は、正弦波干渉抑制を外乱のキャンセルとして捉えることで解決することができる。人工基準信号が生成され、ノイジーな情報を有する信号から基準信号が減算される。したがって、抑制は、基準信号に対する正弦波パラメータの推定値の質に依存することになる。
【0005】
一旦一つの良好な推定値が見つけられると、推定処理は、推定器が対象信号によって生ずる振幅および位相における変化を追跡できないよう遅くされるか完全に停止されてもよい。スペクトルコンテンツは、正弦波干渉のパラメータが時間に対して一定である限り保たれる。パラメータが変化した場合、スペクトルコンテンツはもはや保たれず通常の推定手順を再開しなくてはならなくなる。例えば、非特許文献3のような最新技術方法は、キャンセルのために既知の周波数を仮定し、その多くは振幅および位相のシーケンシャルパラメータ推定に勾配降下を用いる。音声信号を処理するために、外乱正弦波パラメータの推定は下降のステップ大きさによって制御され、音声ポーズのときにだけ行われる。このようにして、音声部における有用スペクトルコンテンツの抑制が大きく減少される。
【非特許文献1】Ulrich Tietze and Christoph Schenk, “Halbleiter-Schaltungstechnik”, Springer, 12th edition, 2002
【非特許文献2】Philip A.Regalia, ”Adaptive IIR Filtering in Singal Processing and Control”, Marcel Dekker, 1994
【非特許文献3】Henning Puder, ”Gerauschreduktionsverfahren mit modellbasierten Ansatzen fur Freisprecheinrichtungen in Kraftfahrzeugen”, PhD Thesis, Technische universitat Darmstadt, 2003
【非特許文献4】Steven M. Kay, “Fundamentals of Statistical Signal Processing - Estimation Theory”, Signal Processing Series, Prentice Hall, 1993
【非特許文献5】Malcom Slaney, “An efficient implantation of the Patterson Holdsworth auditory filter bank”, Apple Computer Inc, 1993
【非特許文献6】”Voice-Activity Detector”, ETSI Rec. GSM 06.92, 1989
【非特許文献7】Yariv Ephraim and David Malah, ”Speech enhancement using a minimum mean-square error short-time spectral amplitude estimator”, IEEE Transactions on Acoustics, Speech and Signal Processing, 32(6), 1984
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記を鑑みて、干渉周波数が未知の場合にも適用される改善されたノイズキャンセル技術を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的は、独立項の特徴部分によって実現される。有利な特徴は従属項に記載される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
基礎となる発明は、基本的には、補償技法を用いて擾乱された(disturbed)音声信号から個々の正弦波干渉を除去する。基本的な考え方は、正弦波干渉に同相/直角位相モデルを用いる。
【0009】
提案される方法は、各干渉の同相振幅、横軸振幅、および周波数を推定し追跡する。推定は、拡張形カルマンフィルタによって再帰的に行われる。3つのパラメータに基づき、基準信号を生成し、擾乱された信号から基準信号を減算することで擾乱された信号において正弦波干渉が補償される。
【0010】
3つの未知の正弦波外乱パラメータの推定は、拡張形カルマンフィルタによって順次行われる。フィルタは、適応ノッチフィルタと比べても最もパワフルな周波数に収束し、そのパラメータを推定する。パラメータ推定手順は、カルマンフレームワークにおける仮定測定およびプラントノイズ共分散に対して異なる値を選択することで制御され得る。測定共分散における高値は、例えば、推定値および基準信号を定める。基礎となる発明によって提案される方法は、干渉の周波数を知る必要がなく、適応ノッチフィルタと比べて、どの信号情報も排除されないといった利点を有する。
【0011】
カルマンフィルタの初期化および信号および干渉の分散のそれぞれの値は、追加的なセンサ、例えば、モータノイズの抑制の場合にはモータの回転数カウンタによって決定される。更に、学習手順によっても決定され、その場合、可能な外乱/干渉/ノイズおよびそれらの特性が識別される。それにより決定される値は、干渉の周波数の正確な値ではなく、カルマンフィルタ適応を速め、推定の正確性を改善することに有用な推定値に過ぎない。
【0012】
更に、初期化後の連続的なセンサ情報は、別個の測定方式を追加することでフィルタ処理に簡単に組み込まれる。回転数カウンタおよび他の装置のセンサフュージョンがそれにより実現される。
【0013】
本発明の第1の態様によると、擾乱された有用信号(disturbed useful signal)における未知の周波数の正弦波外乱をキャンセルする方法が提供される。同方法は、振幅、位相、および周波数といった正弦波外乱の3つのパラメータを推定するステップと、推定されたパラメータに基づいて基準信号を生成するステップと、擾乱された有用信号から基準信号を減算するステップとを有する。
【0014】
正弦波外乱のパラメータの推定は、追加的なセンサおよび/または学習手順の値で初期化される。
【0015】
特に、幾つかの正弦波外乱は同方法を連続して繰り返すことでキャンセルされる。
【0016】
擾乱された有用信号は、推定ステップ前に帯域フィルタ処理される。
【0017】
したがって、擾乱された有用信号は、上述の方法を各帯域に適用する前に幾つかの帯域フィルタによって帯域に分解される。
【0018】
更に、所与の正弦波外乱は第1の帯域でキャンセルされ、所与の正弦波外乱は第1の帯域における所与の正弦波外乱をキャンセルするために生成される基準信号を用いて第2の帯域でキャンセルされる。
【0019】
所与の正弦波外乱は、第1の帯域における所与の正弦波外乱をキャンセルするために生成される基準信号を第2の帯域周波数応答に対する第1の帯域周波数応答の比に適応することで第2の帯域においてキャンセルされる。
【0020】
推定は、拡張形カルマンフィルタによって実施される。
【0021】
更に、推定ステップの初期値における信頼度が適応される。
【0022】
信頼度は、拡張形カルマンフィルタの誤差共分散マトリクスを制御することで適応される。
【0023】
本発明による方法は、時間選択的に実行され、特に、音声活動測定に基づいて実行される。
【0024】
取得された推定有用信号(estimated useful signal)は、EphraimおよびMalahの方法に従ってフィルタ処理される。
【0025】
本発明の別の態様によると、演算装置で実行されるとき前述の方法を実行するコンピュータソフトウェアプログラムプロダクトが提供される。
【0026】
本発明の更なる態様によると、擾乱された情報を有する信号における未知の周波数の正弦波外乱をキャンセルするシステムが提供され、演算装置が前述の方法を実行する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の更なる利点および可能な適用法は、添付の図面と共に以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【0028】
補償方法
図1を参照して、基準ノイズを追加することで擾乱された(disturbed)信号におけるノイズを除去することを提案する本発明の全体的な補償方法を以下に説明する。
【0029】
図1から分かるように、本発明による方法は、各干渉に対して同相振幅、横軸振幅および周波数のパラメータを推定(2)し追跡する。推定は、拡張形カルマンフィルタによって再帰的に実施される。3つの推定されたパラメータ(3)に基づき、正弦波干渉(9)が擾乱された信号(1)において補償されるよう、基準信号(5)が生成(4)され、擾乱された信号(1)から減算(6)される。
【0030】
利用される基準信号は、ノイズモデル(4)に基づいて生成される人工信号(5)
【数1】


である。人工信号(5)は、情報を有する信号(8)s(n)を重畳する実際の擾乱された信号(9)v(n)の推定値を表す。上記基準の推定(2)は、以下のモデルパラメータ
を決定することで間接的に行われる:
【数2】

【0031】
ノイズ(9)は、人工モデル信号(5)
【数3】


を擾乱された信号(1)y(n)全体から減算(6)することで抑制される:
【数4】

【0032】
ここで、e(n)は時間nにおけるノイズ補償後の誤差信号であり、s(n)は時間nにおける有用信号(useful signal)であり、
【数5】


は時間nで推定された有用信号(estimated useful signal)であり、v(n)は時間nにおける干渉ノイズであり、
【数6】


は時間nにおける推定された干渉信号であり、y(n)は時間nにおける追加的な擾乱された(disturbed)有用信号である。
【0033】
正弦波振動の補償を取り扱う適当なモデルは、同相/直角位相モデルであり、このモデルは本発明で用いられる。また、
【数7】


による一般的な正弦波信号v(n)は、モデルにおいて3つのパラメータ
【数8】


によって説明され、それぞれ、同相分、直角分および正規化された周波数を示す。
【0034】
基準信号の生成は、次式によって説明される:
【数9】

【0035】
この方法は、ノッチフィルタ処理の欠点を基本的に取り除く。即ち、
1. 完全に削除する代わりに決定された振動を特に減衰される。従って有用信号の一定且つ不変の振動が確保される。
【0036】
2. 入力信号および最終評価値に基づきモデルパラメータの一定推定
【数10】


によって干渉周波数における一時的な変化が追跡され、このとき推定値は、
【数11】


である。
【0037】
上記方法で得られる結果は、推定器(2)の正確性および有用信号(8)とノイズ信号(9)とを識別する可能性に依存する。位相または周波数における僅かな推定誤差は、所定の時間後基準とノイズ信号との間の減算に大きな誤差をもたらす。したがって、新しい推定(2)が常に確実に必要となる。演算コストを低レベルで維持し続けるためには、本発明では、シーケンシャル方法を用いることが提案される。
【0038】
カルマンフィルタ
以下では、図2および図3を参照して、本発明がカルマンフィルタによる逐次推定方法をどのように使用するかを説明する。
【0039】
現在の推定値
【数12】


を計算するために、カルマンフィルタは擾乱された信号の現在のサンプル値y(n)=s(n)+v(n)、パラメータの最終推定値
【数13】


および誤差共分散マトリクスM(n−1|n−1)の形態にある上記推定の正確さに関する情報だけを必要とする。更に、フィルタは、非特許文献4から分かるように、時間とともに線形に変化するパラメータθ(n)について最適な線形推定結果を提供するといった肯定的な特徴を有する。最適推定とは、カルマンフィルタが全ての線形推定器の期待二次誤差、即ち、線形最小平均二乗誤差(LMMSE)を最小化することを意味する。
【0040】
以下では、一般的なカルマン方程式が本発明による調波ノイズの減法キャンセルにどのように適合されるかを説明する。
【0041】
標準的なアプローチ法が線形の動的モデルを必要とするため、周波数
【数14】


といった三番目のパラメータは既知であると最初仮定される。以下の本発明による拡張形カルマンフィルタの使用の説明では、既存の方程式が変更され周波数推定が追加される。
【0042】
推定するパラメータθ(n)は、システムの状態変数である。それらの時間に対する変化は、線形確立系
【数15】


によってモデリングされる。
【0043】
このとき、θ(n)およびθ(n)は正弦波外乱の現在の同相分または直角分を表し、u(n)は正規分布された零平均二次元ホワイトノイズ
【数16】


であり、そのチャネルu(n)およびu(n)は互いに無相関であり、同じ分散
【数17】


を有する。
【0044】
パラメータθ(n)は擾乱されたノイズ信号(1)
【数18】


を介して観察される。このときw(n)は、音声信号(8)s(n)のノイズ信号(9)
【数19】


の尺度に対する影響を表す。
【0045】
「音声信号」w(n)は、その平均値μ(n)およびその分散
【数20】


によって統計的に説明される。しかしながら、ガウス分布の前提が音声信号に対して成立しないため、統計的挙動の完全な説明には不十分である。その結果、カルマンフィルタは、最小平均二乗誤差(MMSE)の点では最適な結果をもたらさないが、線形推定方法(LMMSE)に対してだけ最適値を提供する。図2は、上述の定義および仮定から結果として得られる巡回型カルマン推定アルゴリズムを示す。
【0046】
初期化は、値
【数21】


およびM(−1|−1)の設定を含む。アルゴリズムは、n=0から始められる。理論では、瞬間n=−1におけるパラメータθを平均値および共分散に対する初期値(starting value)として使用することが示唆される。パラメータに統計的データを割り当てることが困難なため、本発明では、初期値(beginning value)としてθ(−1|−1)に適当な推測値を用いることが提案される。上記初期値(start value)の信頼度(confidence)は、M(−1|−1)によって決定される。同相分または直角分の推定に関しては、[00]を「平均値」として使用することが提案されている。以下の誤差共分散マトリクスを用いると、可能推定範囲が制限されることは殆どない。
【数22】


【数23】


に相当小さい値が選択される場合、アルゴリズムはある期間中に初期値の範囲において「正しい」パラメータθ(n)を探す。アルゴリズムが上記パラメータを見つけることができない場合、その「探索方向」を遅くだけする。フィルタは、非常に強い「バイアス」に曝される。
【0047】
振幅値θ(n)およびθ(n)の追跡は、共分散マトリクスQを介して制御される。本発明によると、マトリクスQは、対角
【数24】


であり、両方の振幅成分の独立した変化が可能となる。本発明によると、背景ノイズに対する好適な値は、
【数25】


である。値が大きすぎると、ノッチフィルタの挙動に類似する挙動が生ずる。
【0048】
拡張形カルマンフィルタ
以下では、図3を参照して本発明がどのように拡張形カルマンフィルタを使用するかを説明する。
【0049】
上述したフィルタを用いて周波数変化を正しく追跡することができない。これは、図2に示すカルマンフィルタアルゴリズムに周波数に対する三番目の再帰的方程式を追加することで変えることができる。これにより、カルマンフィルタは、可変周波数を有する振動に自身を同期させることができ、時宜に適った変化を追跡し補償することができる。この補正は、以下の観測方程式が周波数範囲で線形でないため、通常のカルマン理論の分野では行われない:
【数26】

【0050】
それにも関わらず、カルマンフィルタのシーケンシャル推定方程式は利用される。実際に、テイラー級数近似を適用することで項h(θ(n),n))を線形化することができる。基準モデルh(θ,n)は、以下の式で説明されるように、推定値
【数27】


の近くで展開される:
【数28】

【0051】
このとき、方程式15は次式のようになる:
【数29】

【0052】
上記方程式は、線形となり、カルマンモデル方程式(例えば、方程式11)とは以下の既知の項
【数30】


についてだけ異なる。
【0053】
変換y’(n)=y(n)−z(n)を用いて、正規カルマンフィルタと同じ始まりの必要条件を得る。カルマンフィルタアプローチ法を用いるとき、図3に示される拡張形カルマンフィルタ(EKF)と呼ばれる推定アルゴリズムが得られる。
【0054】
予測ステップ(ステップ1および2)は変わらない。パラメータの数だけが1から3に増加される。周波数が同相/直角分のパラメータに追加される。カルマンフィルタアルゴリズムの他の三つの式(ステップ4b、5bおよび6b)が僅かに変化されている。新しい測定値y(n)に基づいて予測推定値の補正を行う方程式は、非線形信号モデル
【数31】


を用いて期待測定値
【数32】


を予測する(ステップ5b)。振幅/利得(ステップ4b)および推定誤差(ステップ6b)は、新しいステップ毎に計算されなくてはならない一次線形化
【数33】


を用いる。線形カルマンフィルタのように、利得および誤差の過程のオフライン計算は可能でない。更に、フィルタは、線形化のためその線形の最適特徴を失い、推定誤差M(n|n)が実際の誤差の一次近似値として解釈されなくてはらない。
【0055】
サブ帯域分解
以下では、本発明によって行われるサブ帯域分解を説明する。
【0056】
本発明による抑制は、擾乱された音声信号(1)y(n)に対して直接的に実施されない。その代わりに、本発明は、調波ノイズの減法キャンセルの第1のステップであるサブ帯域分解を最初に行うことを提案する。その機能は、人間の蝸牛殻の神経信号処理を再生することである。ノイズ抑制は、神経の高レベルで行われ、蝸牛殻によってフィルタ処理された信号が用いられる。
【0057】
良好な結果を示すモデルは、Pattersonによって提案されるガンマトーンフィルタバンクである。それに関連して、非特許文献5の技術報告書を参照する。上記フィルタバンクは、オーダー8の異なる帯域フィルタよりなり、フィルタは、互いに対して異なる帯域幅および異なる中心周波数距離を有する。帯域幅および距離、または、帯域オーバーラップは、心理音響分析に基づいて定義され、周波数が増加すると増加される。
【0058】
ロボットヘッドの蝸牛殻をシミュレートする例として、100チャネルを有するガンマトーンフィルタバンクのバージョンの使用が提案される。フィルタバンクの異なる帯域制限されたチャネルでは、正弦波外乱のノイズ減少が実現される。外乱周波数に依存して、抑制は、同じ減衰外乱が重なり合う隣接するチャネルに存在するため、一つ以上のチャネルで行われなくてはならない。外乱周波数は他のチャネルでも抑制される。つまり、直接的処理、即ち、ノッチフィルタ処理と比べて相当な追加仕事を含む。一方で、本発明による補償技法は、サブ帯域分解より恩恵を受ける。より近い正弦波干渉は、分解によって分離される。フィルタバンクは、高パワーを有する正弦波振動、例えば、ネットワークハミングの100Hzおよび200Hz振動を分離するよう特に深い周波数に対して低チャネル幅を示す。
【0059】
推定手順は、一つのチャネルだけで行われる。便利には、選択されるチャネルは、所与の初期周波数に対して最も大きい振幅過程を有するものである。メインおよびサブチャネルの伝達関数間の固定関係により、他のチャネルに対して好適な人工基準信号を生成することが可能となる。
【0060】
まとめ
本発明により提案される補償方法は、次の2点でノッチフィルタ処理と異なる。
【0061】
第1に、補償する周波数の限定された予備知識だけを必要とする、即ち、アルゴリズムは初期値の近傍で最もパワフルな周波数に自動的に収束される。
【0062】
第2に、モデルノイズパラメータ
【数34】


およびQ(n)を制御することで同じ周波数の音声部分を拡張形カルマンフィルタが除去することを防止する。
【0063】
本発明は、音声活動検知(VAD)方法を用いてこの制御を実現する。このような方法は、例えば、非特許文献6に記載されるように移動通信分野において使用される。上記検知方法は、閾値を決定する。閾値を超えると、即ち、音声が信号に存在する場合、パラメータ推定は
【数35】


のように測定ノイズに対して高値を与えることで停止される。パラメータ推定および追跡は、閾値未満、即ち、音声がもはや信号に存在しないと再び開始される。
【0064】
別の測定方程式を追加することで異なるセンサ源、即ち、回転数カウンタからの情報を含むこともできる。これにより、話中にも周波数値を追跡することができ推定は停止される必要がない。
【0065】
基礎となる発明によると、幾つかの拡張形カルマンフィルタが更に並列に接続される。したがって、第1のフィルタは信号または信号の所与の周波数帯域における最もパワフルな正弦波外乱を除去する。得られた信号は第2のフィルタに供給され、2番目にパワフルな正弦波外乱を抑制する等である。
【0066】
残留する外乱信号を抑制するために更なるステップを実行することが提案される。それにより、補償ステップ後、信号はEphraimおよびMalahによる方法に従ってフィルタ処理され得る。上記方法は、非特許文献7に説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明による基準ノイズを追加することによる擾乱された信号におけるノイズの除去を示す図である。
【図2】巡回型カルマン推定アルゴリズムを示す図である。
【図3】巡回型拡張形カルマン推定アルゴリズムを示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 擾乱された信号
2 推定
3 推定されたパラメータ
4 生成
5 基準信号
6 減算
8 情報を有する信号
9 実際の外乱信号





【特許請求の範囲】
【請求項1】
擾乱された有用信号における未知の周波数の正弦波外乱をキャンセルする方法であって、
振幅、位相、および周波数である上記正弦波外乱の3つのパラメータを推定するステップと、
上記推定されたパラメータに基づいて基準信号を生成するステップと、
上記擾乱された有用信号から上記基準信号を減算するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
上記正弦波外乱の上記パラメータ推定が、追加的なセンサまたは学習手順の値で初期化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記追加的なセンサからの情報が、カルマン形態において追加的な測定方式として組み込まれる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
複数の正弦波外乱が、請求項1記載の方法を連続して繰り返すことでキャンセルされる、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
上記擾乱された有用信号が、上記推定するステップの前に帯域フィルタ処理される、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1または4記載の方法が各帯域に適用される前に、上記擾乱された有用信号が幾つかの帯域フィルタによって帯域に分解される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
所与の正弦波外乱が第1の帯域でキャンセルされ、
上記所与の正弦波外乱が、上記第1の帯域において所与の正弦波外乱をキャンセルするために生成された上記基準信号を用いて第2の帯域でキャンセルされる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記所与の正弦波外乱が、上記第1の帯域において所与の正弦波外乱をキャンセルするために生成された上記基準信号を、上記第2の帯域周波数応答と上記第1の帯域周波数応答の比に適合させることで、上記第2の帯域においてキャンセルされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記推定が拡張形カルマンフィルタによって実施される、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
上記推定するステップの初期値における信頼度が適合される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記信頼度が上記拡張形カルマンフィルタの誤差共分散マトリクスを制御することで適合される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
時間選択的に実行されることを特徴とする、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
音声活動測定に基づいて実行されることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
取得された推定有用信号が、EphraimおよびMalahの方法にしたがってフィルタ処理される、請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
演算装置での実行時に請求項1乃至14のいずれかに記載の方法を実行するコンピュータソフトウェアプログラム。
【請求項16】
擾乱された情報を有する信号における未知の周波数の正弦波外乱をキャンセルするシステムであって、
演算装置が請求項1乃至14のいずれかに記載の方法を実行するよう設計される、システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−5918(P2006−5918A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−152153(P2005−152153)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(503113186)ホンダ リサーチ インスティテュート ヨーロッパ ゲーエムベーハー (50)
【氏名又は名称原語表記】Honda Research Institute Europe GmbH
【Fターム(参考)】