説明

調理器

【課題】大きな厚膜化を伴わずに耐摩耗性の改善を可能とした調理器を提供することを目的とする。
【解決手段】基材の表面に耐熱性コート11を形成するとともに、この耐熱性コート11に添加材としてダイヤモンド粒子15を添加してプレコート材14を作製し、このプレコート材14により、調理用の鍋および鍋内の被調理物を加熱する加熱板に代表される調理金属部材の少なくとも一つを形成したものである。これによって、塗料や工程の無駄を省き、プレス成形物に安定的な寸法精度を得るとともに、大きな厚膜化を伴わずに耐摩耗性の改善を可能とした調理用の鍋、加熱板等を備えた調理器を提供できる。また、特に、調理用の鍋においては、耐熱性コート面から被調理物への熱の受け渡しをスムーズにし、良好な調理結果をもたらすものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理用の鍋、および鍋内の被調理物を加熱する加熱板に代表される調理金属部材の耐磨耗性の改善をはかった調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、広く世間一般に市販されている調理器として炊飯器は、着脱自在に備えられる調理用の鍋、および鍋の上面を覆うように蓋体に設置され被調理物を加熱する加熱板に代表される調理金属部材が使用されている。
【0003】
この内、鍋は、その基材がアルミニウム単体から形成されるか、アルミニウムとステンレスの積層材あるいはアルミニウムとステンレスと銅の積層材等の複合材料で形成されている。
【0004】
これら金属製の鍋は、通常は被調理物であるご飯が強く付着することを防止するために、その内面にフッ素樹脂コート等の耐熱性コートが処理されており、ご飯に対する非粘着性を向上させている。
【0005】
また、被調理物を加熱する加熱板についても、通常はステンレス等の金属で構成され、必要に応じてその片面あるいは両面にフッ素樹脂コート等の耐熱性コートを処理し、非粘着性を向上させたり、遠赤外線効果を発揮し食味の向上に寄与したりする構成をとっているものもある。
【0006】
このように鍋、加熱板等はともに基材表面に耐熱性コートを処理する場合、第一の手段として、まず、金属基材を鍋や加熱板等の形状にプレス成形した後に、基材表面に塗料を塗装するものがある。
【0007】
一例としては、アルミニウムとステンレスのクラッド材を内面がアルミニウムとなるように鍋形状にプレス成形した後に、アルミニウムにブラスト処理をし、次いで、液体塗料のプライマを塗装し、乾燥した後、液体、あるいは粉体のフッ素樹脂塗料を塗装、焼成して鍋内面にフッ素樹脂コートを処理する手法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、第二の手段としては、プレス成形前の金属材料にロールコートやスピンコート等の手法を用いて塗装処理を行ない、予めコート処理済みの基材を作製した後に、これをプレス成形して鍋等を成形するものがある。
【0009】
一例としては、アルミニウム平板に水酸化ナトリウムでエッチング処理を行ない、表面に微細な凹凸を設けた後に、アルマイト処理を実施し、その後、この平板上にスピンコートによりフッ素樹脂コートを塗装、焼成して基材を作製し、これを鍋等にプレス成形しているものがある。
【0010】
ここで、フッ素樹脂コートとしての基本性能を考察してみると、ご飯の非粘着性の確保は重要であるが、実使用の観点からさらに詳細に検討してみた場合、炊飯器の鍋内部で米を研ぐときに、米が強くフッ素樹脂コートに押し付けられる負荷や、鍋洗浄時にナイロンたわし等、摩耗性のある洗浄具による擦れ負荷等、フッ素樹脂コートは高い摩耗環境に置かれることを想定しなければならない。
【0011】
一般的に、フライパン等に用いられるフッ素樹脂コートの耐摩耗性を向上する手段としては、トップコートにセラミックス粒子等、無機充填材を多量に添加してトップコートの硬度を向上するといった手法がとられてきた(例えば、特許文献2参照)。しかし、炊飯用の鍋等の耐熱性コートにおいては、非粘着性や水位線表示部の視認性確保の観点から同様な手法を採用することは難しい。
【0012】
そこで、従来、炊飯用の鍋等における耐熱性コートとして、フッ素樹脂コートの耐摩耗性を向上する手段としては、トップコートを極力厚膜化して膜厚をかせぐことにより耐摩耗性の向上をはかってきたが、厚膜化の手法としてはフッ素樹脂の粉体塗料を限界まで厚く塗装するか、フッ素樹脂コートを多層化する必要があった。
【0013】
通常は30〜50μm程度の厚さのフッ素樹脂コートはこの厚膜化により100μm程度にすることが可能であり、厚さに応じて耐摩耗性の向上が期待できる。
【特許文献1】特開平09−194196号公報
【特許文献2】特開2001−218684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前記従来の構成では、以下のような課題がある。すなわち、鍋や加熱板に耐熱性コートを処理する場合、その手法としては、プレス成形後に塗装するポストコート法とプレス成形前の基材に予め塗装しておくプレコート法がある。
【0015】
しかし、前者の場合、プレス成形後に液体塗料をスプレー塗装、あるいは粉体塗料を粉体塗装するものであるが、塗装の性質上、100%の塗着効率が得られるわけではなく、かなりの塗料が成形物に塗着することなく捨てられることとなる。
【0016】
実際の塗装においては、通常の液体塗装、あるいは粉体塗装で30〜50%程度の塗着効率、静電塗装を実施した場合でも50〜70%程度の塗着効率であり、多くの塗料が無駄になるばかりか、塗料の廃棄の手間も生じることとなる。
【0017】
特に、耐摩耗性を考慮し、厚膜化をはかりたいような場合、粉体塗装を行えば比較的容易に厚膜化できるが、反面、塗料の無駄が多くなる。
【0018】
さらに、フッ素樹脂コートのような耐熱性コートの場合には、通常、塗装完了後に400℃程度の高温で焼成を実施する必要が生じるため、焼成による高温処理で基材が変形して寸法的に不具合が生じることがしばしばである。
【0019】
また、基材にステンレスを用い、この片面に耐熱性コートを処理した場合、焼成時の高温により非塗装面のステンレス表面の酸化が促進されることにより、酸化膜が生じいわゆるテンパーカラーにより外観的な問題を引き起こす。このため、酸洗や電解研磨等の湿式手法かバフ研磨等の物理的な手法により酸化膜を除去する必要があり、煩雑な工程が必要となるばかりか、酸化膜除去工程時にプレス成形物に傷を生じる等の不具合が生じることもある。
【0020】
鍋や加熱板に耐熱性コートを処理する場合、その第二の手法としてはプレス成形前の基材に予め塗装しておくプレコート材のプレス成形がある。この手法によれば、塗料の無駄は少なく、プレス成形後に焼成する必要もないので、安定的な寸法精度が得られるほか、ステンレスにコートする場合においても、プレス成形前の平板材の状態で予め酸化膜除去をしておけばプレス成形後に煩雑な処理をする必要がない利点はある。
【0021】
しかし、鍋や加熱板は実使用や普段のお手入れ等でナイロンたわし等による摩耗性のある洗浄具による擦れ負荷等、表面に処理された耐熱性コートは高い摩耗環境に置かれることを想定しなければならない。
【0022】
先述のように、鍋や加熱板の耐熱性コートに高い非粘着性と耐摩耗性といった機能を付与しようとすれば、セラミックス等の添加材を極力含まないフッ素樹脂コートを厚膜塗装する必要がある。
【0023】
プレコートで一般に用いられるスピンコートの場合、液体塗料による塗装となるので、塗料焼成時のガス抜けによる発泡不良等を考慮すると、1〜2層の塗装で粉体塗装のような厚膜化をはかることは容易でない。
【0024】
また、フッ素樹脂等の耐熱性コートに使用される材料は高価であり、工業製品である炊飯器の大量生産を考慮した場合、極力使用量を抑えて厚さを薄くすることが望ましい。
【0025】
耐熱性コートの厚さを薄く抑えるには、トップコートに硬度の高い物質を多量に入れることも可能ではあるが、耐摩耗性の向上に効果のある程度まで添加材をトップコートに添加すると、前述のように、非粘着性が悪化したり耐久性に悪影響を与えたりするので機能を十分に果たさない。
【0026】
また、鍋等に塗装されたフッ素樹脂コートの場合には、フッ素樹脂コート自体が強い撥水性を有することから、鍋に水を入れて加熱したときに生じる水蒸気の泡がなかなかフッ素樹脂コート表面から離脱せずに大きく成長する傾向にあり、このため鍋内の被調理物への熱の受け渡しがスムーズにいかずに良好な対流を生じにくく、調理結果に不具合をもたらす場合がある。
【0027】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、塗料や工程の無駄を省き、プレス成形物に安定的な寸法精度を得るとともに、プレス成形時のダメージを抑制し、大きな厚膜化を伴わずに耐摩耗性の改善を可能とした調理用の鍋、加熱板等を備えた調理器を提供することを目的とする。また、特に、鍋においては、耐熱性コート面から被調理物への熱の受け渡しをスムーズにし、良好な調理結果をもたらすことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0028】
前記従来の課題を解決するために、本発明の調理器は、基材の表面に耐熱性コートを形成するとともに、この耐熱性コートに添加材としてダイヤモンド粒子を添加してプレコート材を作製し、このプレコート材により、調理用の鍋および鍋内の被調理物を加熱する加熱板に代表される調理金属部材の少なくとも一つを形成したものである。
【0029】
これによって、塗料や工程の無駄を省き、プレス成形物に安定的な寸法精度を得るとともに、大きな厚膜化を伴わずに耐摩耗性の改善を可能とした調理用の鍋、加熱板等を備えた調理器を提供できる。また、特に、調理用の鍋においては、耐熱性コート面から被調理物への熱の受け渡しをスムーズにし、良好な調理結果をもたらすものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の調理器は、調理金属部材の大きな厚膜化を伴わずに耐摩耗性の改善を可能とするとともに、特に、調理用の鍋においては、耐熱性コート面から被調理物への熱の受け渡しをスムーズにし、良好な調理結果をもたらすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
第1の発明は、基材の表面に耐熱性コートを形成するとともに、この耐熱性コートに添加材としてダイヤモンド粒子を添加してプレコート材を作製し、このプレコート材により、調理用の鍋および鍋内の被調理物を加熱する加熱板に代表される調理金属部材の少なくとも一つを形成した調理器とするものである。これによって、塗料や工程の無駄を省き、プレス成形物に安定的な寸法精度を得るとともに、大きな厚膜化を伴わずに耐摩耗性の改善を可能とした調理用の鍋、加熱板等を備えた調理器を提供できる。また、特に、調理用の鍋においては、耐熱性コート面から被調理物への熱の受け渡しをスムーズにし、良好な調理結果をもたらすものである。
【0032】
第2の発明は、特に、第1の発明において、基材は円盤状であることにより、スピンコーターによる回転塗装が可能になり、膜厚が均一なプレコート材を効率的に生産できるとともに、円盤状のため円周形状を有する調理用の鍋や加熱板への加工が容易である。
【0033】
第3の発明は、特に、第2の発明において、ダイヤモンド粒子を添加した耐熱性コートは円盤状の基材の中心部にのみ設けたことにより、プレコート材を鍋形状に加工した場合、ダイヤモンド粒子を添加した耐熱性コート層は鍋底面にのみ配置されることになり、調理時に強力に加熱される鍋底面にダイヤモンド粒子が存在することにより、ダイヤモンド粒子が沸騰核になって熱の放出点となり加熱時に細かな泡を生じやすくなる結果、鍋内の被調理物に良好な対流を生じ、良好な調理結果をもたらすことができる。また、この場合、鍋側面付近にはダイヤモンド粒子を添加した耐熱性コート層が存在しないので、側面部の非粘着性の劣化がない、あるいは材料費を節約ができるといった利点が生じる。
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0035】
(実施の形態1)
図1、図2は、本発明の実施の形態1における調理器として炊飯器を例示したものである。
【0036】
図1に示すように、調理器本体1は、調理用の鍋2を着脱自在に収納し、鍋2の底部に接触するようヒーターよりなる加熱手段3を設け、鍋2を直接加熱するように構成している。鍋2の上方開口部を覆う蓋5は、開閉自在なものであり、内面に内蓋6を着脱自在に設置している。
【0037】
また、鍋底温度検知センサー4は、鍋2の外底部に対向して設け、鍋2の温度を検知するもので、その出力を加熱制御基板7に入力している。加熱制御基板7は、マイクロコンピュータ等を有する操作部8からの入力に基づいて、マイクロコンピュータによるプログラム制御により調理および保温工程を実行するよう構成している。なお、蓋5には蒸気キャップ9が設けられている。
【0038】
ここで、調理用の鍋2は、厚さ1.5mmのアルミニウムを基材としてこれをプレス加工して鍋形状にしたものであり、内面には予め耐熱性コートとしてフッ素樹脂コートを処理している。
【0039】
以下、このフッ素樹脂コート処理したアルミニウム製の鍋の製法について、図2を参照しながら説明する。
【0040】
まず、アルミニウム材を所定の大きさに打ち抜き円盤状をした基材10を用意し、これを苛性ソーダでエッチング処理して表面に凹凸12を設けた後に、アルマイト加工処理して0.1μm厚さ程度のアルマイト層13を設けて耐食性を良化する。
【0041】
次に、この基材10をスピンコーターに載せ、フッ素樹脂コート処理(耐熱性コート11処理)を実施するが、このとき、液体状のフッ素樹脂塗料にはポリテトラフロロエチレン=パーフロロアルキルビニルエーテル(以下PFA)を主体とするフッ素樹脂に接着樹脂、カーボンブラック顔料、光輝材のほか、平均粒径3μmのダイヤモンド粒子15を添加し、膜厚が約30μmとなるようにスピンコート処理した後、380℃、20分間焼成処理を実施した。
【0042】
以上のように作製したプレコート材14をプレス成形によって鍋形状に加工した後、必要に応じて鍋側面に水位線を打刻等により設け、その後、鍋外面にアルマイト加工を処理して鍋2を完成させた。
【0043】
このとき、フッ素樹脂コート塗膜に含有するダイヤモンド量により、フッ素樹脂コートの性能は(表1)のように変化する。
【0044】
【表1】

【0045】
(表1)において、*1は、市販の研磨粒子入りナイロンたわしに1kgの荷重をかけてフッ素樹脂コート面を摩耗し、基材が露出するまでの往復回数を比較し、×は基準と同等の耐久性、△は基準の1.5〜2.0倍の耐久性、○は基準の2.1〜5.0倍の耐久性、◎は5倍を超える耐久性を有するものである。
【0046】
また、*2は、5合の米を炊飯し、炊飯終了後に鍋2を上下逆さまにしてひっくり返したときに、鍋2から落ちずにフッ素樹脂コート面に残存したご飯重量で判断し、×は基準よりも50%以上多く残存、△は基準よりも20%以上多く残存、○は基準と同等レベル残存したものである。
【0047】
ダイヤモンドは鉱物中モース硬度が最も高い物質であるとともに、高温に耐え、酸やアルカリに対しても安定性が高いので、炊飯時の高温、ご飯のおねばや各種調味料に曝される鍋2のフッ素樹脂コートに添加して耐摩耗性を向上するには好適な材料である。
【0048】
実使用において、鍋2を洗浄するときには、市販のナイロンたわしでフッ素樹脂コート面が擦られ、フッ素樹脂コートが摩滅劣化していく現象が散見されるが、これはナイロンたわしに含有される研磨材による摩耗作用が大きく関与している。一般的には、ナイロンたわしに含有される研磨材はアルミナ粒子であり、本実施の形態では、アルミナ粒子よりも硬度が高いダイヤモンドを用いたことにより、ナイロンたわしに対して高い耐摩耗性が得られたものである。
【0049】
ここで、(表1)に示すように、フッ素樹脂コート中のダイヤモンド量に着目すると、0.3wt%未満では十分な耐摩耗性が期待できない可能性が高く、5%を超えるとご飯の非粘着性が悪化することと、外観の白化が目立つことから、ダイヤモンド粒子は0.3〜5wt%添加していることが望ましい。
【0050】
次に、フッ素樹脂コートに添加するダイヤモンド平均粒径を変更したフッ素樹脂コートの耐食性と耐摩耗性を調べた結果を(表2)に示す。このときのダイヤモンドの添加量は1wt%とした。
【0051】
【表2】

【0052】
(表2)においてはフッ素樹脂コート厚さを30μmとした場合の耐食性の試験結果を開示するが、これは作製した鍋に、2%塩水、1%クエン酸混合水溶液を満たして60℃で30日間保温したときの耐食性を確認したものである。
【0053】
(表2)において、○、×は判定基準を示しており、○は異常なし、×はブリスタ発生を示している。
【0054】
(表2)より、ダイヤモンドの平均粒径は0.5〜10μmの範囲であれば、良好な耐食性と耐摩耗性を確保できることを確認できたため、実用的には炭化珪素の平均粒径をこの範囲とすることが望ましい。
【0055】
また、本実施の形態においては、フッ素樹脂コートにダイヤモンド粒子15を存在させることにより、前述のように、耐摩耗性の向上等の効果が得られるほか、フッ素樹脂コートに存在するダイヤモンド粒子15が沸騰核になって、炊飯時に細かな泡が多く発生し、良好な対流を発生させる結果、良好な調理結果をもたらすという効果も生じるが、以下この点について概説する。
【0056】
フッ素樹脂は熱伝導率が低く、強い疎水性物質であり撥水性が高いため、フッ素樹脂をコートした鍋に水を入れて加熱すると、沸騰して生じてきた泡がなかなか表面から離脱せずに大きくなり、これが伝熱を妨げ対流を阻害する結果、調理結果に不具合をもたらすことがあった。
【0057】
この点を改善するためには、本来は親水性の物質をフッ素樹脂コートに添加して撥水性を下げることが考えられるが、親水性の物質を添加した場合には非粘着性が低下する等の悪影響も懸念される。
【0058】
一方、ダイヤモンドは疎水性物質であり、フッ素樹脂とのなじみもよく、非粘着性の悪化、表面からの脱落、吸水するといった悪影響の可能性も少ない。
【0059】
また、フッ素樹脂の熱伝導率は極めて低いのに対し、本実施の形態で添加したダイヤモンドの熱伝導率は約2000W/m・kと極めて高く、この値は熱伝導率が高い金属とされるアルミニウムの約9倍、銅の約5倍である。
【0060】
したがって、ダイヤモンドは極めて高い熱伝導率を有することから、特に、ダイヤモンド粒子を添加材粒子とした場合にはダイヤモンド粒子が沸騰核になって熱の放出点となり加熱時に細かな泡を生じやすくなる結果、鍋内の被調理物に良好な対流を生じ、良好な調理結果をもたらすことができる。
【0061】
なお、本実施の形態では、1層のフッ素樹脂コートを設けたのみであるので、この1層目のフッ素樹脂コート層がトップコートに相当する。また、調理金属部材として調理用の鍋2について説明したが、図1における内蓋6に耐熱性コートとしてのフッ素樹脂コートを設けることもできるものである。さらに、調理として炊飯について説明したが、これに限らず、調理全般に適用できるものである。
【0062】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2における調理器の基材を示すものである。調理器としての基本構成は実施の形態1と同様であるので。その説明を省略する。
【0063】
本実施の形態においては、鍋2は、実施の形態1と同様に、厚さ1.5mmのアルミニウムを基材としてこれをプレス加工して鍋形状にしたものであり、内面には予め2層のフッ素樹脂コートよりなる耐熱性コート16を処理している。
【0064】
以下、このフッ素樹脂コート処理したアルミニウム製の鍋の製法について、図3を参照しながら説明する。
【0065】
まず、実施の形態1と同様に、基材のアルミニウム材を所定の大きさの円盤状に打ち抜き、これを苛性ソーダでエッチング処理して表面に凹凸を設けた後に、アルマイト加工処理して0.1μm厚さ程度のアルマイト層を設けて耐食性を良化する。
【0066】
次に、この円盤をスピンコーターにかけ、1層目のコート17としてフッ素樹脂コート処理を実施するが、このとき、液体状のフッ素樹脂塗料にはポリテトラフロロエチレン(以下PTFE)を主体とするフッ素樹脂に接着樹脂、カーボンブラック顔料、光輝材を添加し、膜厚が約20μmとなるようにスピンコート処理した後、150℃、20分間乾燥処理を実施した。
【0067】
その後、平均粒径3.5μmのダイヤモンド粒子15を1wt%添加したPFAを主体とする液体状のフッ素樹脂塗料を膜厚が10μmとなるようにスピンコートし、380℃、20分間焼成し、総膜厚が30μmでトップコート18にダイヤモンド粒子15が添加されているプレコート材14を作製した。
【0068】
以上のように作製したプレコート材14をプレス成形によって鍋形状に加工した後、必要に応じて鍋側面に水位線を打刻等により設け、その後、鍋外面にアルマイト加工を処理して鍋を完成させた。
【0069】
本実施の形態における鍋のフッ素樹脂コート16は2層コートであり、実施の形態1で示した1層コートの鍋よりも膜厚を厚くすることが容易であり、耐久性をより向上することができる上、1層目のコート17には高価なダイヤモンド粒子15が入っていないのでコストを抑えることができる。
【0070】
また、本実施の形態においては、トップコート18にダイヤモンドを添加しているので、実施の形態1同様に、耐摩耗性の向上等の効果が得られるほか、トップコート内部の表層側に存在する粒子が沸騰核になって、調理時に細かな泡が多く発生し、良好な対流を発生させる結果、良好な調理結果をもたらすという効果も生じる。さらに、ダイヤモンド粒子15を1層目のコート17に添加しても特に問題はない。
【0071】
なお、実施の形態1、2においては、それぞれ添加材粒子としてダイヤモンドを用いているが、アルミナ、シリカ等のセラミックス材料やカーボン、光輝材あるいはマイカ等を混合して用いても何ら問題はなく、前述の通り、ご飯の非粘着性や外観に対する検討を行った上でこれら添加物の添加量を決定することが重要である。
【0072】
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3における調理器の鍋を示すものである。調理器としての基本構成は実施の形態1と同様であるので。その説明を省略する。
【0073】
本実施の形態においては、鍋2は、実施の形態1と同様に、厚さ1.5mmのアルミニウムを基材としてこれをプレス加工して鍋形状にしたものであり、内面の底部には予め2層のフッ素樹脂コートを処理し、側面部には1層のフッ素樹脂コートを処理している。
【0074】
以下、このフッ素樹脂コート処理したアルミニウム製の鍋の製法について、図4を参照しながら説明する。
【0075】
実施の形態1と同様に、まず、基材のアルミニウム材を所定の大きさの円盤状に打ち抜き、これを苛性ソーダでエッチング処理して表面に凹凸を設けた後に、アルマイト加工処理して0.1μm厚さ程度のアルマイト層を設けて耐食性を良化する。
【0076】
次に、この円盤をスピンコーターに載せ、1層目のコートとしてフッ素樹脂コート処理を実施するが、このとき、液体状のフッ素樹脂塗料にはポリテトラフロロエチレン(以下PTFE)を主体とするフッ素樹脂に接着樹脂、カーボンブラック顔料、光輝材を添加し、膜厚が約20μmとなるようにスピンコート処理した後、150℃、20分間乾燥処理を実施した。
【0077】
その後、プレス成形後に側面部となる部位をマスキングし、平均粒径3.5μmのダイヤモンド粒子1wt%を平均粒径20μmのPFA粉体にマイクロカプセル化した粉体状のフッ素樹脂塗料を膜厚が10μmとなるように粉体塗装を実施し、380℃、20分間焼成した。
【0078】
したがって、本実施の形態におけるプレコート材はプレス成形後に鍋底部となる円盤の中心部20付近で2層コート30μm、円盤の周囲部21で1層コート20μmとなり、中心部付近の2層コートのトップコートのみにダイヤモンド粒子が添加されている。
【0079】
以上のように作製したプレコート材をプレス成形によって鍋形状に加工した後、必要に応じて鍋側面に水位線を打刻等により設け、その後、鍋外面にアルマイト加工を処理して鍋を完成させた。
【0080】
本実施の形態においては、鍋底22付近のみにダイヤモンド粒子を添加したフッ素樹脂コートが存在するので、調理時に強力に加熱される鍋底面にダイヤモンド粒子が存在することにより、ダイヤモンド粒子が沸騰核になって熱の放出点となり加熱時に細かな泡を生じやすくなる結果、鍋内の被調理物に良好な対流を生じ、良好な調理結果をもたらすことができる。
【0081】
また、この場合、鍋側面23付近にはダイヤモンド粒子を添加したトップコート層が存在しないので、側面部の非粘着性の劣化がない、あるいは材料費を節約できるといった利点が生じる。
【0082】
なお、本実施の形態においては、添加材粒子としてダイヤモンドを用いたが、アルミナ、シリカ等のセラミックス材料やカーボン、光輝材あるいはマイカ等を混合して用いても何ら問題はなく、前述の通り、ご飯の非粘着性や外観に関する検討を行った上でこれら添加物の添加量を決定することが重要である。
【0083】
なお、実施の形態1〜3においては、アルミニウム製の鍋について例示したが、電磁誘導加熱式の調理器に主に用いられるアルミニウムとステンレスのクラッド材からプレス成形される鍋等にも適用しても特に問題はない。
【0084】
(実施の形態4)
図5、図6は、本発明の実施の形態4における調理器として炊飯器を例示するものである。
【0085】
図5に示すように、調理器本体31は、調理用の鍋32を着脱自在に収納し、鍋32の底部および側底部と、鍋32内の被調理物を加熱する加熱板36との対抗部にそれぞれ電磁誘導加熱コイル33、42を設け、鍋32および加熱板36を電磁誘導加熱により加熱するように構成している。この電磁誘導加熱コイル33の外方に防磁用のフェライト34を設けている。蓋35は、鍋32の上方開口部を開閉自在に覆い、この蓋35の内面に加熱板36を着脱自在に設置している。
【0086】
鍋底温度検知センサー38は、鍋32の外底部に対向して設け、鍋32の温度を検知するもので、その出力を加熱制御基板39に入力している。加熱制御基板39は、マイクロコンピュータや、電磁誘導加熱コイル33、34に高周波電流を供給するインバータ回路等を有し、基板冷却ファン37により冷却されながら動作して、操作部40からの入力に基づいて、マイクロコンピュータによるプログラム制御により調理および保温工程を実行するよう構成している。なお、蓋35には蒸気キャップ41を設けている。
【0087】
本実施の形態の調理器は、加熱板36を電磁誘導加熱により発熱させるが、加熱板36は厚さ0.5mmのフェライト系ステンレスを基材としたものであり、フェライト系ステンレスの片面に耐熱性コートをプレコートした後、これをプレス加工して加熱板36の形状にしたものである。
【0088】
以下、この耐熱性コート処理したステンレス製加熱板の製法について、図6を参照しながら説明する。
【0089】
まず、ロール巻きにした平板状のステンレス材43の片面にブラスト処理を実施した後、ポリエーテルサルホン(以下PES)とポリアミドイミド(以下PAI)を主体とした溶剤系塗料に、カーボンブラック、酸化チタンを加えた塗料をロールコート法により1層目のコート44として厚さ10μmとなるように塗装後、150℃、20分間乾燥する。
【0090】
次に、PESを主体とした溶剤系塗料に、カーボンブラックと酸化チタンを加え、さらに成膜後の塗膜中に1wt%のダイヤモンドが存在するように平均粒径3μmのダイヤモンド粒子を添加し、また、成膜後の塗膜中に10wt%のPFAが存在するようにPFA粒子を添加した塗料を作製した。
【0091】
この塗料をロールコート法により厚さ10μmとなるようにトップコート45として塗装した後、380℃、20分間焼成処理を実施したので、総膜厚が約20μmでトップコート45にダイヤモンド粒子が添加されたコートを有するプレコート処理ロール材とした。
【0092】
この状態で、このロール材は耐熱性コート焼成時の加熱処理により非塗装面のステンレス露出面46には酸化膜が形成され、金色や茶色のテンパーカラーが出現している。
【0093】
この酸化膜は外観的を悪化させるのみならず、耐食性をも劣化させるため、除去する必要があるので、このロール材を燐酸/硫酸混合液や塩酸等に浸漬するか、バフ研磨等の物理的処理により酸化膜を十分に除去する必要があるが、焼成を無酸化炉で行う場合、酸化膜はできないので酸洗やバフ研磨は不要である。
【0094】
以上のように作製したプレコート処理ロール材はトランスファー成形等によるプレス加工にて連続的に加熱板36に成形することが可能である。
【0095】
こうして作製されたプレコート処理ロール材は、プレス成形によって加熱板36の形状に加工するが、コート面は鍋32に相対するように加工し、必要に応じて把手等の付属部品を装着して完成するものである。
【0096】
本実施の形態で作製した加熱板36の鍋32に相対する面に処理された耐熱性コート面からは、波長3〜15μmの遠赤外線が放射率は88%の強度で放射されており、一方、蓋35に相対するステンレス鏡面仕上げ面の遠赤放射率は2%となる。
【0097】
それ故に、以上のごとき構成を備えた本実施の形態における調理器に備えられる加熱板36は、鍋32に相対する面からの熱放射率が圧倒的に高く、熱が効率的に加熱板36から調理中の米や水に伝えられるが、加熱板36から蓋35への熱放射は低く蓋35の不要な温度上昇は防止できる。
【0098】
また、耐摩耗性を確認してみたところ、本実施の形態における加熱板36のフッ素樹脂コートは同膜厚を有する通常のフッ素樹脂コートと比べて2倍以上の耐摩耗性を有することが確認できたが、これはフッ素樹脂コート内に添加したダイヤモンド粒子の効果である。
【0099】
したがって、本実施の形態における加熱板36は耐摩耗性が高く、お手入れによる傷つきに強く、耐久性が高いので遠赤放射の効果を長期間にわたり初期同等に維持することが可能である。
【0100】
さらに、プレコート材であるので、塗料の無駄が少なく、プレス加工後に塗装や酸化膜除去等の煩雑な工程もなく、プレス後の焼成処理もないので高い寸法精度を得ることができる。
【0101】
なお、本実施の形態においては、ステンレスと耐熱性コーティングの密着性を向上するためにブラスト処理を用いたが、化成処理に置き換えることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上のように、本発明にかかる調理器は、調理金属部材の大きな厚膜化を伴わずに耐摩耗性の改善を可能とするとともに、特に、調理用の鍋においては、耐熱性コート面から被調理物への熱の受け渡しをスムーズにし、良好な調理結果をもたらすものであるので、炊飯器としてはもちろんのこと、例えば、基材の表面に耐熱性コートを形成した天板を有する調理器具等としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の実施の形態1における調理器の断面図
【図2】(a)同調理器の鍋を加工するための基材の斜視図(b)同調理器の鍋を加工するためのプレコート材の拡大断面図
【図3】本発明の実施の形態2における調理器のプレコート材の拡大断面図
【図4】(a)本発明の実施の形態3における調理器のプレコート材の斜視図(b)同調理器の鍋を示す破断面図
【図5】本発明の実施の形態4における調理器の断面図
【図6】(a)同調理器の加熱板に加工するステンレス製ロール材の斜視図(b)同調理器の加熱板におけるプレコート材の拡大断面図
【符号の説明】
【0104】
2、32 鍋
10 基材
11、16 耐熱性コート
15 ダイヤモンド粒子
36 加熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に耐熱性コートを形成するとともに、この耐熱性コートに添加材としてダイヤモンド粒子を添加してプレコート材を作製し、このプレコート材により、調理用の鍋および鍋内の被調理物を加熱する加熱板に代表される調理金属部材の少なくとも一つを形成した調理器。
【請求項2】
基材は円盤状である請求項1に記載の調理器。
【請求項3】
ダイヤモンド粒子を添加した耐熱性コートは円盤状の基材の中心部にのみ設けた請求項2に記載の調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−154659(P2008−154659A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344083(P2006−344083)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】