説明

調理器

【課題】菌類の増殖や酸化を抑制しつつ、玄米や胚芽米や分づき米を含む米類に含まれる機能成分を効率よく増量させ、軟らかく、不快臭もなくおいしく調理することを目的とする。
【解決手段】鍋1と、前記鍋を加熱する鍋加熱手段2と、前記鍋の温度を測定する鍋温度測定手段3と、前記鍋の温度に基づいて前記鍋加熱手段に与える電力を制御する制御手段4と、前記鍋内部に光を照射する光照射手段15と、前記鍋内部にミストを発生させるミスト発生手段5とを備え、調理行程の前段の前処理工程において、前記光照射手段により前記鍋内部に光照射するとともに、ミスト発生手段により鍋内部にミストを投入させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯器などの調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、玄米や胚芽米や分づき米を含む米類には、アミノ酸の一種であるγ―アミノ酪酸や、ポリフェノールの一種であるフェルラ酸等の抗酸化物質といろいろな機能成分が含まれ、健康志向の高まりとともに注目されてきている。
【0003】
例えば、γ―アミノ酪酸には、血液の流れを活発にし、代謝機能を促進する働きがあることから、血圧上昇抑制効果や腎機能や肝機能を改善する効果があり、玄米や胚芽米などで増量させるには、温水に1〜2晩漬けて発芽させるとよいことが知られている。
【0004】
これは、発芽させることにより、酵素の活性が高まり、内部に含まれるグルタミン酸が、酵素により代謝されて、γ―アミノ酪酸が生成されるためであると考えられている。
【0005】
また玄米等を水に浸漬させることでフェルラ酸等の抗酸化物質も増量することが知られており、光を照射することにより、さらに発芽が促がされ、γ―アミノ酪酸やフェルラ酸等の抗酸化物質が増量されるといった知見もある。
【0006】
調理器のなかで炊飯器において、γ―アミノ酪酸を増量させるため、胚芽米を所定時間、所定温度で水に浸漬して発芽させる発芽工程を設けることにより、家庭で簡単に発芽米を作り、γ―アミノ酪酸を増やして、引き続き炊飯することができるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−245786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の構成では、発芽工程で胚芽米等を水に浸漬させる必要があり、このとき生成されたγ―アミノ酪酸が水に溶出されてしまう。
【0008】
また、前記従来の構成では、増量が予測されるフェルラ酸等の抗酸化物質も水に溶出されてしまい、浸漬が長時間にわたると、せっかく増量させた抗酸化物質が酸化されてしまう可能性がある。
【0009】
また、これら機能成分の増量のための浸水が長時間にわたると、内部に含まれる脂質の酸化も進み、その結果生成されるアルデヒド類が増えて、炊きあがったご飯の不快臭が増加する可能性があり、タンパク質の酸化も進み、SH基の減少とともに、S−S架橋が増加し、結果澱粉の膨潤が抑制され、炊飯したとき、粘りの少ないぱさぱさしたご飯になってしまう可能性もある。
【0010】
さらに、長時間の浸水で、夏場では菌類が増殖し、腐敗が引き起こされる可能性もある。
【0011】
以上のことにより、従来の構成では、γ―アミノ酪酸や抗酸化物質を効率よく増量させることができず、炊き上がったご飯のおいしさといった観点にも、十分に、応える構成にはなっておらず、さらに腐敗の心配もある。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、生成したγ―アミノ酪酸やフェルラ酸等の抗酸化物質を水に溶出させることなく、全て効率よく米類に含有させ、また、抗酸化物質が酸化されることなく、効率のよい増量を実現し、さらに脂質、タンパク質の酸化も抑制できることから、炊き上がったご飯もおいしく、また、腐敗の心配もなく、安心して、そのまま引き続き炊き上げることができる調理器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の調理器は、鍋を加熱する内鍋加熱手段と、鍋内部に光を照射する光照射手段と、鍋内部にミストを発生させるミスト発生手段を備え、前処理工程を調理工程として有することにより、前処理工程において、鍋を加熱しながら、その内部や鍋内部に設置された米類に光照射とミスト投入を同時に行うことができるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の調理器は、前処理工程において、鍋を加熱しながら鍋内部や鍋内部に設置された米類に光照射とミスト投入を行うことにより、米類への吸水と発芽を促し、各種機能成分の増量を実現し、さらに鍋内部へのミスト投入により、増量した抗酸化物質や脂質やタンパク質の酸化を抑制するとともに、菌の増殖も抑制し、結果各種機能性成分を、効率よく増量させつつ、炊き上げたときおいしいご飯を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
第1の発明は、鍋と、前記鍋を加熱する鍋加熱手段と、前記鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、前記鍋の温度に基づいて前記加熱手段に与える電力を制御する制御手段と、前記鍋内部に光を照射する光照射手段と、前記鍋内部にミストを発生させるミスト発生手段とを備え、調理行程の前段の前処理工程において、前記光照射手段により前記鍋内部に光照射するとともに、ミスト発生手段により鍋内部にミストを投入させるようにしたものである。
【0016】
したがって、鍋内部の温度を調整しつつ、鍋内部への光照射とミスト投入を可能にし、鍋内部に設置された米類を加温しつつ、鍋内部に投入されたミストにより米類への吸水が可能となり、水に浸漬させることなく発芽に必要な含水が実現し、その結果発芽が促され、同時に内鍋内部に設置された米類に直接光が照射されることにより、さらに発芽が促進され、結果各種機能成分が生成され、生成した機能成分は水に溶出されることなく、効率よく米類内部に留めることができる。
【0017】
また、鍋内部にミストを投入することにより、鍋内部空間の低酸素状態を実現し、前処理工程中の脂質やタンパク質の酸化抑制や菌類の増殖を抑制することができ、炊き上げたときおいしいご飯を得ることができる。
【0018】
第2の発明は、前記第1の発明において、ミスト発生手段により発生させたミストを加熱するミスト加熱手段と、前記ミスト温度を測定するミスト温度測定手段と、前記ミスト温度測定手段が測定したミスト温度に基づいて前記ミスト加熱手段に与える電力を制御する制御手段とを備えたもので、ミスト温度を上げることが可能となり、ミストを投入した鍋内部に設置された米類の吸水をより短時間で高めることが可能になり、発芽が効率よく促進され、それにともない酵素の活性化もより短時間で高まり、米類のフェルラ酸等の抗酸化物質やγ―アミノ酪酸をより増量させることができる。
【0019】
第3の発明は、前記第1の発明において、ミストを20℃以上40℃以下で維持できるように制御手段を制御するようにしたことにより、鍋内部に設置された米類の発芽や酵素
に適正な温度に維持することが可能になり、より効率よく各種機能成分を増量することができる。
【0020】
第4の発明は、前記第3の発明において、制御手段は、前処理工程の鍋温度を20℃以上40℃以下で維持できるよう制御するようにしたことにより、より速やかに、より正確に鍋内部に設置された米類の発芽や酵素に適正な温度に維持することが可能になり、さらに効率よく各種機能成分を増量することができる。
【0021】
第5の発明は、前記第1の発明において、前処理工程の時間が12時間以上48時間以下に設定したことにより、発芽するのに、十分な時間維持され、各種機能性成分を十分増量させることができる。
【0022】
第6の発明は、前記第1の発明において、光照射手段を1個以上備えたことにより、異なる波長の光を照射することが可能になり、異なる作用を同時に実現することができる。また、複数箇所から、光を照射することにより、鍋内部の米類により均一な光照射を実現することができる。
【0023】
第7の発明は、前記第1の発明において、光照射手段の光源の波長を200nmから700nmに設定したことにより、発芽促進作用や殺菌作用をもつ光源を備えることができる。
【0024】
第8の発明は、前記第1の発明において、水を貯水する水タンクと、前記水タンクの水を前記ミスト発生手段に供給する給水手段を備えたことにより、水ランクに貯水された水を使用して、自動的にミスト発生手段に水を供給し、発生させたミストを鍋内部に投入することができる。
【0025】
第9の発明は、前記第1の発明において、ミスト発生手段は、超音波振動子を具備したことで、鍋内部に超音波振動子によりミストを発生させることが可能となる。
【0026】
以下、本実施の形態について、図を用いて説明する。尚、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
図1に示すように、本実施の形態における炊飯器は、調理物(玄米等や水)を収納する鍋1と、この鍋1を加熱して、調理物の調理を行う電磁加熱コイルなどからなる鍋加熱手段2と、鍋1の温度を測定する温度センサーからなる鍋温度測定手段3と、この鍋温度測定手段3が測定した鍋1の温度に基づいて、炊飯の各工程を順次実行できるように鍋加熱手段2に与える電力を制御する制御手段4とを備えている。
【0028】
また、鍋1とは別に、ミスト発生手段5が設けてあり、このミスト発生手段5は、水を貯蔵しておく水タンク6と、これを加熱する水タンク加熱手段7と、この水タンク6からの水をミスト生成室8に送給するポンプなどの給水手段9とから構成されている。
【0029】
前記ミスト生成室8の外底面には、例えば主に超音波振動子からなるミスト生成手段10が配置されている。
【0030】
ミスト生成室8に供給される給水手段9の水量は制御手段4で制御され、流量は流量調節器11にて調節される。
【0031】
生成されたミストは、通路パイプ12にて鍋1の上部のミスト加熱手段13に送られ、
その後、鍋1の内部に投入される。
【0032】
ミスト加熱手段13に与える電力は、ミストの温度を測定する温度センサーからなるミスト温度測定手段14が測定したミストの温度に基づいて制御手段4にて制御される。
【0033】
また、耐熱性の材料で形成したカバーを備えた光照射手段15、例えば、LEDを備え、これを点灯させたとき、透過口16を光が透過し、鍋1内部へ照射できる構成になっている。
【0034】
尚、光照射手段15はLEDに限定されるものでない。
【0035】
また、図には示していないが、炊飯器の本体外郭の一部などに前処理工程を有した炊飯コースを選択できる炊飯操作部を設け、この操作部を押すことにより、選択した炊飯コースが実施される。
【0036】
ここで、玄米3合(444g)を炊飯する場合を例にとって、本実施の形態における炊飯器の炊飯工程を説明する。
【0037】
表1に炊飯コースと工程条件を示した。
【0038】
前処理工程条件として、鍋1の温度と維持時間、照射するLEDの波長、ミスト温度を示した。
【0039】
また、従来例1では、通常の炊飯器の浸水工程条件として、浸水の温度と維持時間を示し、従来例2では、発芽工程を炊飯工程に有した従来の炊飯器の発芽工程の浸水の温度と維持時間を示した。
【0040】
【表1】

【0041】
表2では、それぞれの炊飯コースで炊飯したときの、炊き上がり玄米ご飯の硬さ、臭い、γ―アミノ酪酸量、抗酸化物質であるフェルラ酸量を示した。硬さ、臭いは官能評価の結果を示した。また、γ―アミノ酪酸量、フェルラ酸量については、従来例1と比較したときの比率で示した。
【0042】
【表2】

【0043】
本実施の形態1ではまず、鍋1に玄米と規定量の水を収納し、炊飯部で前処理工程を有した炊飯コースを選択し、炊飯ボタンを押すことにより、鍋温度測定手段3で測定した鍋1の温度に基づいて、炊飯工程が開始される。
【0044】
前処理工程の鍋温度は40℃で維持され、470nm、365nmの各LED光線が鍋内部を照射し、40℃のミストを投入した状態で、36時間維持される。
【0045】
表2により、実施の形態1の炊飯コースでは、硬さは、従来例1や従来例2と比較して軟らかくなった。また、臭いは、従来例1や従来例2と同等であった。
【0046】
これは、36時間の前処理工程中、発芽に最適な温度である40℃で鍋温度を制御しつつ、40℃のミストで吸水させることにより、内部への吸水と発芽が進み、酵素による澱粉の加水分解が促進され、炊き上げたとき軟らかくなったと考えられる。
【0047】
また、前処理工程中、ミストを投入することにより、鍋内部の上部空間を低酸素状態に維持することが可能になり、従来例2の浸水工程維持時間3時間と比較すると浸水が長時間にわたっているが、脂質やタンパク質の酸化が抑制され、炊き上がったご飯の不快臭が増加せず、さらに、タンパク質のS−S架橋の生成が抑えられたことから、硬くならずに、軟らかく炊き上がったと考えられる。
【0048】
表2により、実施の形態1の炊飯コースでは、従来例1や従来例2と比較して、機能成分であるγ―アミノ酪酸量や抗酸化物質でもあるフェルラ酸量の増加が見られた。
【0049】
これは、前処理工程中、発芽に最適な温度である40℃で内鍋温度を制御し、同時に発芽に最適な40℃のミストで吸水させることにより、内部への吸水と発芽が進み、さらに
470nmのLED照射では、発芽反応をさらに促進させることが可能になり、機能成分の生成量が増加したと考えられる。
【0050】
さらに、前処理工程では、365nmの殺菌作用のあるLED照射により、36時間と長時間前処理工程を行っても菌類の増殖を抑制し、引き続き炊飯水を添加し炊飯させることができた。
【0051】
以上述べたことから明らかなように、実施の形態1の調理器である炊飯器は、鍋と、鍋を加熱する鍋加熱手段と、鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、鍋内部に光を照射する光照射手段と、鍋の温度に基づいて加熱手段に与える電力を制御する制御手段と、鍋内部にミストを発生させるミスト発生手段を備え、前処理工程を炊飯工程として有する炊飯器で、前処理工程において、内鍋温度を20℃以上40℃以下で、12時間以上48時間以下維持し、光照射手段により鍋内部に200nmから700nmの波長の光を照射するとともに、鍋内部に20℃以上40℃以下のミストを投入することにより、酸化や菌類の発生を抑制しつつ、発芽を促進することが可能となり、抗酸化物質を始めとする機能成分が増量し、引き続き炊き上げたとき、軟らかい、おいしいご飯を得ることができる。
【0052】
なお、光照射手段の設置個数は1個に限られず、複数個にすることも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明にかかる調理器は、内鍋を加熱する内鍋加熱手段と、内鍋の温度を測定する内鍋温度測定手段と、内鍋の温度に基づいて加熱手段に与える電力を制御する制御手段を備えることにより、食品以外の有機物を加熱するとき、反応に応じて、加熱温度や時間を変えることができ、さらにミスト発生手段と内鍋内部に光照射する光照射手段を備えることにより、ミストを投入し、光を照射しながら加熱反応を行う用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態1を示す炊飯器の断面図
【符号の説明】
【0055】
1 鍋
2 鍋加熱手段
3 鍋温度測定手段
4 制御手段
5 ミスト発生手段
6 水タンク
9 給水手段
10 超音波振動子
13 ミスト加熱手段
14 ミスト温度測定手段
15 光照射手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋と、前記鍋を加熱する鍋加熱手段と、前記鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、前記鍋の温度に基づいて前記加熱手段に与える電力を制御する制御手段と、前記鍋内部に光を照射する光照射手段と、前記鍋内部にミストを発生させるミスト発生手段とを備え、調理行程の前段の前処理工程において、前記光照射手段により前記鍋内部に光照射するとともに、ミスト発生手段により鍋内部にミストを投入させるようにした調理器。
【請求項2】
ミスト発生手段により発生させたミストを加熱するミスト加熱手段と、前記ミスト温度を測定するミスト温度測定手段と、前記ミスト温度測定手段が測定したミスト温度に基づいて前記ミスト加熱手段に与える電力を制御する制御手段とを備えた請求項1記載の調理器。
【請求項3】
ミストを20℃以上40℃以下で維持できるように制御手段を制御するようにした請求項1記載の調理器。
【請求項4】
制御手段は、前処理工程の鍋温度を20℃以上40℃以下で維持できるよう制御するようにした請求項3記載の調理器。
【請求項5】
前処理工程の時間が12時間以上48時間以下に設定した請求項1記載の調理器。
【請求項6】
光照射手段を1個以上備えた請求項1記載の調理器。
【請求項7】
光照射手段の光源の波長を200nmから700nmに設定した請求項1記載の調理器。
【請求項8】
水を貯水する水タンクと、前記水タンクの水を前記ミスト発生手段に供給する給水手段を備えた請求項1記載の調理器。
【請求項9】
ミスト発生手段は、超音波振動子を具備した請求項1記載の調理器。

【図1】
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