説明

調理用鍋

【課題】セラミックコーティングを施した調理用鍋において、当該鍋に入れる水の量をより正確に量ることができる調理用鍋を提供する。
【解決手段】互いに色の異なる第1及び第2セラミック層5,6を積層し、第1セラミック層5に貫通穴5aを設け、当該貫通穴5aを通じて第2セラミック層6の一部を外部に露出させ、当該露出する第2セラミック層6の一部により水位線3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内表面に水位線が付与された調理用鍋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の調理用鍋としては、例えば、炊飯器用鍋が知られている。炊飯器用鍋は、調理物であるご飯が強く付着することを防ぐために、非粘着性を有することが求められる。このため、炊飯器用鍋は、非粘着性のコーティング剤でコーティングされることが一般的である。前記コーティング剤としては、フッ素樹脂由来のものがよく用いられている。
【0003】
しかしながら、近年、フッ素樹脂コーティングの原料となるパーフロロオクタン酸(PFOA)が発ガン性を有している可能性があることが、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)により指摘されている。このため、PFOAを含まないコーティング剤として、セラミックスを原料としたコーティング剤が注目されている。そのようなコーティング剤の一つとして、特許文献1(特表2009−543656号公報)に開示されたものがある。
【0004】
特許文献1のコーティング剤を用いたセラミックコーティングは、フッ素樹脂コーティングに比べて、強度が強く、熱伝導率が高いといった特徴がある。また、図8に示すように、特許文献1のコーティング剤101は、基材102に塗布した後、乾燥すると、非粘着性成分103のほぼ全てが表層部分101aに集まる(析出する)という性質がある。このため、特許文献1のコーティング剤を用いたセラミックコーティングは、表面の非粘着性が非常に強いという特徴がある。これらの特徴は、特に炊飯器用鍋にとっては、大きなメリットとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−543656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ご飯の食味は、炊飯前に炊飯器用鍋に入れる水の量に大きく影響される。従って、炊飯器用鍋は、当該鍋に入れる水の量をできる限り正確に量れるように構成されることが望ましい。
【0007】
しかしながら、前記のような非粘着性の強いセラミックコーティングを施した炊飯器用鍋においては、タンポ印刷若しくは刻印方式などの従来の方法では水位線を付与することができないという課題がある。すなわち、タンポ印刷にて調理用鍋に水位線を付与しようとすると、前記セラミックコーティングの非粘着性(疎水性)が強すぎるために、タンポ印刷に用いるインクが弾かれてしまう。また、刻印方式にて炊飯器用鍋に水位線を付与しようとすると、刻印時の衝撃により、セラミックコーティングが割れてしまうおそれがある。また、セラミックコーティングは、製造上、厚さを厚くすることができない(約50μm程度が限界)という特徴がある。このため、刻印方式により形成した凹部に着色用インクを流し込んで定着させることは困難である。なお、炊飯器用鍋は、曲面が多いために、スクリーン印刷などの印刷法を利用して水位線を付与することはできない。
【0008】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、セラミックコーティングを施した調理用鍋において、当該鍋に入れる水の量をより正確に量ることができる調理用鍋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、基材の少なくとも内表面にセラミックコーティングを施した調理用鍋であって、
前記セラミックコーティングは、
互いに色の異なる第1及び第2セラミック層を積層した複層構造を有し、
前記第1セラミック層には貫通穴が設けられ、当該貫通穴を通じて前記第2セラミック層の一部が外部に露出し、当該露出する前記第2セラミック層の一部により水位線が形成されている、調理用鍋を提供する。
【0010】
本発明の第2態様によれば、前記第1セラミック層の表面は、非粘着性及び疎水性を有し、
前記水位線は、親水性を有する、
第1態様に記載の調理用鍋を提供する。
【0011】
本発明の第3態様によれば、前記水位線の表面が粗面である、第1又は2態様に記載の調理用鍋を提供する。
【0012】
本発明の第4態様によれば、前記貫通穴は、前記第1及び第2セラミック層を積層した後、レーザーを照射することにより形成されている、第1〜3態様のいずれか1つに記載の調理用鍋を提供する。
【0013】
本発明の第5態様によれば、前記水位線は、複数のレーザー照射痕を有する、第4態様に記載の調理用鍋を提供する。
【0014】
本発明の第6態様によれば、前記水位線の幅方向に複数のレーザー照射痕を有する、第5態様に記載の調理用鍋を提供する。
【0015】
本発明の第7態様によれば、前記水位線の幅は、2.0mm以下である、第1〜6態様のいずれか1つに記載の調理用鍋を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる調理用鍋によれば、互いに色の異なる第1及び第2セラミック層を積層し、第1セラミック層に貫通穴を設けて第2セラミック層の一部を外部に露出させることにより水位線を形成するようにしているので、非粘着性の強いセラミックコーティングを施した炊飯器用鍋においても、水位線を付与することができる。従って、調理用鍋に入れる水の量をより正確に量ることができる。また、インクなどの着色剤を別途塗布するなどの必要性がない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態にかかる炊飯器用鍋の全体構造を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の炊飯器用鍋における水位線近傍の構造を示す断面図である。
【図3】図1の炊飯器用鍋において、水位線を形成する様子を模式的に示す断面図である。
【図4】セラミック層にレーザーを照射することにより形成される穴の形状を示す断面図である。
【図5】図1の炊飯器用鍋において、水位線に合うように水を入れたときの水面の状態を模式的に示す拡大断面図である。
【図6】図1の炊飯器用鍋における水位線とレーザーのスポット径との関係を示す説明図である。
【図7】図1の炊飯器用鍋における水位線の形状を示す拡大断面図である。
【図8】基材上に塗布した従来のコーティング剤を乾燥したときに、コーティング剤中の非粘着成分が表層部分に集まる様子を模式的に示す説明図である。
【図9】比較例にかかる炊飯器用鍋において、水位線に合うように水を入れたときの水面の状態を模式的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
《実施形態》
図1及び図2を用いて、本発明の実施形態にかかる炊飯器用鍋の構造について説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる炊飯器用鍋の全体構造を模式的に示す断面図である。図2は、図1の炊飯器用鍋における水位線近傍の構造を模式的に示す断面図である。なお、ここでは、調理用鍋の一例として炊飯器用鍋について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、内表面に水位線が付与された調理用鍋であればよい。
【0020】
本実施形態にかかる炊飯器用鍋1は、基材2の内表面にセラミックコーティング4を施したものである。炊飯器用鍋1の内表面には、後述するように、水位線3が付与されている。基材2の材質としては、例えば、ステンレス若しくはアルミニウムなどを用いることができる。基材2の構造は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。例えば、基材2は、ステンレスとアルミニウムとを積層した2層構造とすることができる。
【0021】
セラミックコーティング4は、第1セラミック層の一例である黒色セラミック層5と、第2セラミック層の一例である白色セラミック層6とを積層した複層構造で構成されている。
【0022】
黒色セラミック層5には、水位線3に対応する位置に貫通穴5aが設けられている。この貫通穴5aを通じて、白色セラミック層6の一部が外部に露出している。当該露出する白色セラミック層6の一部が水位線3となる。黒色セラミック層5と白色セラミック層6とで色を異ならせているため、ユーザは水位線3を明確に認識することができる。また、このとき、インクなどの着色剤を別途塗布するなどの必要性がない。なお、ここでは、2つのセラミック層の色を、白色と黒色の組み合わせとしたが、その他の色の組み合わせであってもよい。
【0023】
貫通穴5aは、図3に示すように、基材2上に黒色及び白色セラミック層5,6を形成した後、黒色セラミック層5に向けてレーザー7を照射(レーザー加工)することにより形成されている。レーザー7は、衝撃波と熱でセラミック層を除去するものである。ここで、黒色及び白色セラミック層5,6のようなセラミック層にレーザー7を照射したときに形成される穴(レーザー照射痕)は、図4に示すような底面が丸みを帯びた形状になる。このため、レーザー7により白色セラミック層6の一部も除去するようにしている。レーザー7としては、例えば、YAGレーザー、炭酸ガスレーザー、若しくはグリーンレーザーを用いることができる。
【0024】
なお、黒色及び白色セラミック層5,6の一部を除去するのにレーザー7を用いた場合、レーザー7の衝撃波により白色セラミック層6が劣化して剥離し、基材2が露出してしまうことがあり得る。このため、白色セラミック層6に与えるダメージが少なくなるように、レーザー7の出力若しくは加工スピードなどを調整することが好ましい。また、黒色セラミック層5の厚さは10μm以下とし、白色セラミック6の厚さは25μm以上とし、レーザー7による加工の深さは10μm〜15μm程度に設定することが好ましい。また、白色セラミック層6の厚さが薄くなると耐食性が低くなるので、白色セラミック層6の厚さは、最薄部(水位線3に対応する部分)でも20μm以上となるように設定することが好ましい。なお、黒色セラミック層5と白色セラミック層6の合計厚さは、約50μm程度が製造上の限界である。
【0025】
黒色及び白色セラミック層5,6は、例えば、サーモロン・リミテッド社のTHERMOLON(登録商標)などのコーティング剤を用いて形成されている。このため、黒色及び白色セラミック層5,6は、通常のフッ素樹脂コーティングに比べて、強度が強く、熱伝導率が高い特徴を有している。また、黒色セラミック層5の表層部分は非粘着性及び疎水性を有し、黒色セラミック層5の表層部分よりも白色セラミック層6側の部分及び白色セラミック層6は親水性を有している。従って、白色セラミック層6が外部に露出している部分である水位線3の部分は、親水性を有している。
【0026】
なお、非粘着性及び疎水性を発現する材料としては、メチル基などのアルキル基、若しくはフッソ原子を有するパーフロロアルキル基などを含む材料が挙げられる。また、これらの材料に、シリコーンオイル、フッソ系オイル、シリコーン樹脂、若しくはフッソ樹脂などを添加すると、非粘着性及び疎水性をさらに強化することができる。
【0027】
ここで、水位線203の部分を含む炊飯器用鍋201の内表面の全体が疎水性を有する場合には、図9に示すように、水210に表面張力が働いて水面が盛り上がる。従って、炊飯器用鍋201に入れる水の量を水位線203が示す通りの量に合わせることは困難である。
【0028】
これに対して、本実施形態によれば、水位線3の部分が親水性を有するので、図5に示すように、水位線3の部分では表面張力を抑えることができる。従って、炊飯器用鍋1に入れる水の量を水位線3が示す通りの量に、より正確に合わせることができる。
【0029】
なお、水位線3は、図6に示すように、レーザー7のスポット径D7を水位線3の幅Wよりも小さく(例えば、100μm)して、複数回のレーザー7の照射により形成することが好ましい。すなわち、図7に示すように、水位線3の長さ方向のみならず、水位線3の幅方向にも複数のレーザー照射痕7Bを形成して、水位線3の表面に大きな凹凸を形成することが好ましい。例えば、水位線の平均表面粗さを2〜8μmとすることが好ましい。水位線3の表面を粗面とすることにより、水位線3の総表面積を大きくして、水位線3の親水性を向上させることができる。これにより、炊飯器用鍋1に入れる水の量を、水位線3が示す通りの量に、さらに正確に合わせることができる。
【0030】
なお、水位線3を親水性にすると、水位線3にご飯粒が強く付着し易くなる。水位線3にご飯粒が強く付着した状態で、ご飯粒を水位線3から引き剥がすと、ご飯粒と共に、白色セラミック層6も剥がれてしまうおそれがある。このため、水位線3の幅Wは、ご飯粒が水位線3の部分に入り込まないように、2mm以下(例えば0.5mm)に設定することが好ましい。
【0031】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、基材2上に直接、白色セラミック層6を形成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、基材2に用いるアルミニウムの表面をアルマイト処理して硬質アルマイト層を形成し、当該アルマイト層の上に白色セラミック層6を形成するようにしてもよい。これにより、黒色及び白色セラミック層5,6の耐衝撃性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明にかかる調理用鍋は、セラミックコーティングを施した調理用鍋において、当該鍋に入れる水の量をより正確に量ることができるので、特に炊飯器用鍋として有用である。
【符号の説明】
【0033】
1 炊飯器用鍋
2 基材
3 水位線
4 セラミックコーティング
5 黒色セラミック層(第1セラミック層)
5a 貫通穴
6 白色セラミック層(第2セラミック層)
7 レーザー
10 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも内表面にセラミックコーティングを施した調理用鍋であって、
前記セラミックコーティングは、
互いに色の異なる第1及び第2セラミック層を積層した複層構造を有し、
前記第1セラミック層には貫通穴が設けられ、当該貫通穴を通じて前記第2セラミック層の一部が外部に露出し、当該露出する前記第2セラミック層の一部により水位線が形成されている、調理用鍋。
【請求項2】
前記第1セラミック層の表面は、非粘着性及び疎水性を有し、
前記水位線は、親水性を有する、
請求項1に記載の調理用鍋。
【請求項3】
前記水位線の表面が粗面である、請求項1又は2に記載の調理用鍋。
【請求項4】
前記貫通穴は、前記第1及び第2セラミック層を積層した後、レーザーを照射することにより形成されている、請求項1〜3のいずれか1つに記載の調理用鍋。
【請求項5】
前記水位線は、複数のレーザー照射痕を有する、請求項4に記載の調理用鍋。
【請求項6】
前記水位線の幅方向に複数のレーザー照射痕を有する、請求項5に記載の調理用鍋。
【請求項7】
前記水位線の幅は、2.0mm以下である、請求項1〜6のいずれか1つに記載の調理用鍋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−160871(P2011−160871A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24304(P2010−24304)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】