説明

識別媒体、識別媒体の成型方法、及び識別媒体の読取方法

【課題】改竄、偽造、複製が容易ではない識別媒体、識別媒体の成型方法、及び識別媒体の読取方法を提供する。
【解決手段】光源を有する液晶ディスプレイ1の表面に設けられ、光源から射出された光を透過させる透明シート2の一部又は全体に、その光に対して複屈折を生じさせる1つ以上の偏光領域を含む2次元コード5を成型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイに設けられる識別媒体、識別媒体の成型方法、及び識別媒体の読取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実生活において、商品パッケージ、チケット、カード、金券、証書などの対象物に識別媒体を貼り付けて、その識別媒体を用いて対象物の真正性を識別する技術は日常的に利用されている。例えば、シート上に形成された回折格子を用いて、所定の識別情報をホログラムに記録したシートを対象物に予め貼り付けておき、対象物を使用するときに読取装置でホログラムに記録された情報を読み取り、読み取った情報を照合することで対象物の真正性を識別する技術が知られている。
【0003】
識別媒体は対象物の真正性を識別するために使用されるため、識別媒体の改竄、偽造、複製が容易ではないことが重要である。上記の例のように、識別媒体としてホログラムを利用する場合、悪意の第三者にホログラムの存在を気付かせないことが有効である。
【0004】
特許文献1,2は、悪意の第三者が肉眼ではホログラムを認識できない技術を開示している。具体的には、特許文献1では、肉眼では認識不能な大きさに形成された回折格子を用いて所定の識別情報をホログラムに記録する技術が提案されている。特許文献2では、温度に依存して透明状態と拡散透光性を有する非透明状態とに可逆的に変化する感熱層を回折格子パターンの表面に形成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−196608号
【特許文献2】特許第3915207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、液晶ディスプレイを搭載した情報端末が広く使用されている。識別情報又は秘匿情報を記録した識別媒体を液晶ディスプレイに貼り付ける場合、設計上の制約、空間的な制約、用途上の制約などの理由により、識別媒体を液晶ディスプレイの表示部に貼り付けることがある。この場合でも、識別媒体の改竄、偽造、複製を防ぐために、悪意の第三者に識別媒体の存在を気付かせないことが有効である。
【0007】
識別媒体としてホログラムを利用する場合、特許文献1の技術では、悪意の第三者が肉眼では回折格子を認識することができないので、悪意の第三者にホログラムを気付かせないことができる。しかしながら、このホログラムは、紫外光又は赤外光を吸収するインクが塗布されている部分を有しているので、完全な透明体ではない。それゆえ、このホログラムを液晶ディスプレイの表示部に貼り付けると、このホログラムにより、液晶ディスプレイの表示内容の一部が見づらくなる。
【0008】
同様に、特許文献2の技術では、感熱層を非透明状態に変化させることにより、悪意の第三者は肉眼でホログラムに記録された情報とは別の隠し情報を認識するので、悪意の第三者にホログラムを気付かせないことができる。しかしながら、このホログラムは、温度に依存して感熱層を非透明体状態に変化させるので、完全な透明体ではない。それゆえ、このホログラムを液晶ディスプレイの表示部に貼り付けると、このホログラムにより、液晶ディスプレイの表示内容の一部が見づらくなる。
【0009】
本発明は上記課題に解決するためになされたものであり、液晶ディスプレイの表示部に貼り付けても、液晶ディスプレイの表示内容の視認を妨げない、改竄、偽造、複製が困難な識別媒体、識別媒体の成型方法、及び識別媒体の読取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様によれば、光源を有する液晶ディスプレイ(1)の表面に設けられ、前記光源から射出された光を透過させるシート(2)の一部又は全体に、前記光に対して複屈折を生じさせる1つ以上の偏光領域(51)を含む2次元コード(5)領域が成型された識別媒体を提供する。
【0011】
本発明の第2態様によれば、第1態様に係る識別媒体であって、前記偏光領域(51)は残留応力を有する。
【0012】
本発明の第3態様によれば、第1又は2態様に係る識別媒体であって、前記シート(2)の光入射側に、1つ以上の色を用いて形成されたカラーコードを更に備える。
【0013】
本発明の第4態様によれば、光を透過させるシート(2)の一部又は全体に1つ以上の凸部(111)を有するスタンパ(11)を押圧し、前記スタンパ(11)を押圧する押圧力及び前記スタンパ(11)の温度を制御し、前記シート(2)に前記凸部(111)に対応した前記光に対して複屈折を生じさせる1つ以上の偏光領域(51)を含む2次元コード(5)領域を成型する成型方法を提供する。
【0014】
本発明の第5態様によれば、第4態様に係る成型方法であって、前記スタンパ(111)を前記シート(2)の融解温度(Tg)以上の温度(Tmax)として前記シート(2)に所定の押圧力(Pmax)で押圧させ、前記スタンパ(111)を前記シート(2)に押圧させた状態で前記スタンパ(111)の温度(Tmax)を低下させ、前記押圧力(Pmax)が段階的に低減するように制御する。
【0015】
本発明の第6態様によれば、第4態様に係る成型方法であって、前記スタンパ(111)を前記シート(2)の融解温度(Tg)未満の温度(Tmax)として前記シート(2)に第1の押圧力(P’max)で押圧させ、前記スタンパ(111)を前記シート(2)に押圧させた状態で、前記スタンパ(111)の押圧力が前記第1の押圧力(P’max)より小さい第2の押圧力(P’0)に低減するように制御する。
【0016】
本発明の第7態様によれば、光源を有する液晶ディスプレイ(1)の表面に設けられ、前記光源から射出された光を透過させるシート(2)の一部又は全体に、前記光に対して複屈折を生じさせる1つ以上の偏光領域(51)と前記光を透過させる透過領域とを含む2次元コード(5)領域が成型された識別媒体の、前記偏光領域(51)を透過した光を透過させず、前記透過領域を透過した光を透過させる偏光部(6)と、前記偏光部(6)を透過した光に基づいて、前記2次元コード(5)領域に記録された識別媒体を読み取る読取部と、
を備える読取装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、液晶ディスプレイの表示部に貼り付けても、液晶ディスプレイの表示内容の視認を妨げない、改竄、偽造、複製が困難な識別媒体、識別媒体の成型方法、及び識別媒体の読取方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る液晶ディスプレイの構成を示す正面図である。
【図2】図1に示した2次元コードの拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係る2次元コードを透明シートに成型する装置の構成を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係るスタンパの構成を示す端面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る2次元コードを透明シートに成型する方法を示した説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る、融解温度以上の温度で2次元コードを成型するときの温度と圧力の時間変化を示したグラフである。
【図7】本発明の実施形態に係る、融解温度未満の温度で2次元コードを成型するときの温度と圧力の時間変化を示したグラフである。
【図8】本発明の実施形態に係る液晶ディスプレイを直接目視する場合の2次元コードの識別態様を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態に係る液晶ディスプレイを偏光板を介して目視する場合の2次元コードの識別態様を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態の第1変形例に係る2次元コードを示す平面図である。
【図11】本発明の実施形態の第2変形例に係る液晶ディスプレイを直接目視する場合の2次元カラーコードの識別態様を示す説明図である。
【図12】本発明の実施形態の第2変形例に係る液晶ディスプレイを偏光板を介して目視する場合の2次元カラーコードの識別態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。なお、図面に記載の符号について、同一又は類似の部位には同一又は類似の符号を付している。また、図面に記載の部材は模式的なものであり、現実のものとは異なる。
【0020】
ここで、以下の実施形態は本発明の技術的思想を具体化するための識別媒体を例示するものであり、本発明の技術的思想は各構成要素の配置等を以下の実施形態に特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲内で種々の変更を加えることができる。
【0021】
図1は、本実施形態に係る液晶ディスプレイ1の構成を示す正面図である。図1に示すように、液晶ディスプレイ1は、透明シート2、液晶モジュール3、フレーム4、2次元コード5を備えている。透明シート2は、熱可塑性樹脂(例えば、ポリカーボネート(PC))からなり、液晶モジュール3の表面(表示部)に設けられて液晶ディスプレイ1の表示部を保護する。液晶モジュール3は、バックライト(光源、図示略)から照射される光を一定の方向(偏光角)に振動する光に揃える偏光板(図示略)を有している。透明シート2と液晶モジュール3は、フレーム4に固定されて液晶ディスプレイ1の内部に収納されている。また、液晶ディスプレイ1の信号処理回路を搭載した基板や電源部(図示略)もフレーム4に固定されて液晶ディスプレイ1の内部に収納されている。2次元コード5は透明シート2の一部に成型されている。なお、2次元コード5は透明シート2の全体に成型されてもよい。
【0022】
図2は、図1に示した2次元コード5の拡大図である。透明シート2の一部は、2次元コード5を成型することによりm×n領域(m行×n列からなる領域、図2ではm=5,n=5)に分割される。2次元コード5は、ナノインプリント法により透明シート2に直接成型される。具体的には、2次元コード5は、m×n領域のうちの任意の領域(図2では(1,2)、(1,4)、(1,5)、(2,1)、(2,5)、(3,3)、(4,1)、(4,2)、(4,5)、(5,4)の領域)で内部応力が残留する(残留応力を有する)ように成型される。以後、残留応力を有する領域を残留応力領域(偏光領域)51と呼ぶ。2次元コード5は、光に対して複屈折を生じさせる1つ以上の偏光領域と、光を透過させる透過領域を有する。
【0023】
次に、2次元コード5を透明シート2に成型する具体例を説明する。本実施形態では、2次元コード5は、熱ナノインプリント法により透明シート2に成型される。図3は、本実施形態に係る2次元コード5を透明シート2に成型する成型装置10の構成を示す説明図である。図4は、本実施形態に係るスタンパの構成を示す端面図である。図5は、本実施形態に係る2次元コード5を透明シート2に成型する方法を示した説明図である。
【0024】
図3に示すように、成型装置10は、スタンパ11、上側ローラ12、下側ローラ13を備えている。スタンパ11は上側ローラ12の円周面に取り付けられる。成型装置10は、上側ローラ12と下側ローラ13を用いてスタンパ11を透明シート2に圧接して、残留応力領域51を有する2次元コード5を透明シート2に成型する。
【0025】
図4に示すように、スタンパ11は下部に凹凸面を有する。2次元コード5の残留応力は、スタンパ11の凹凸面の凸部111が透明シート2に圧接することにより、透明シート2に与えられる。なお、図4のスタンパ11の凸部111は、図2の2次元コード5の(2,1)、(2,5)の領域に残留応力を与える。凸部111は高さh(1μm≦h≦100μm)を有する。
【0026】
図5(a)に示すように、成型装置10の制御部(図示略)は、2次元コード5が成型されるべき領域が上側ローラ12と下側ローラ13の間に位置するように透明シート2を移動させる。そして、制御部は、上側ローラ12と下側ローラ13を透明シート2に接近させて、上側ローラ12に取り付けられたスタンパ11と下側ローラ13の間に透明シート2を挟ませる。これにより、透明シート2は、上側ローラ12と下側ローラ13で加圧して型締めされてスタンパ11に圧接される。図5(b)に示すように、その後、制御部は、上側ローラ12と下側ローラ13を透明シート2から離れさせて、透明シート2を排出する。
【0027】
上側ローラ12はヒータ等の第1加熱手段(図示略)を内部に有する。第1加熱手段は、制御部からの指令に基づいて、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2に接近する前に上側ローラ12を加熱する。また、場合によって、第1加熱手段は、制御部からの指令に基づいて、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2から離れる前に上側ローラ12を冷却する。
【0028】
同様に、下側ローラ13はヒータ等の第2加熱手段(図示略)を内部に有する。第2加熱手段は、制御部からの指令に基づいて、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2に接近する前に下側ローラ13を加熱する。また、場合によって、第2加熱手段は、制御部からの指令に基づいて、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2から離れる前に下側ローラ13を冷却する。
【0029】
熱ナノインプリント法により2次元コード5を成型する方法には、熱可塑性樹脂からなる透明シート2が融解する温度(固体から粘性を有する液体に変化する温度、ガラス転移温度)Tgを基準にして、次の2つの方法がある:(1)融解温度Tg以上の温度で2次元コード5を成型する方法;(2)融解温度Tg未満の温度で2次元コード5を成型する方法。
【0030】
最初に、融解温度Tg以上の温度で2次元コード5を成型する方法を説明する。
【0031】
第1加熱手段と第2加熱手段は、制御部からの指令に基づいて、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2に接近する前に、融解温度Tg以上の温度に上側ローラ12と下側ローラ13を加熱する。制御部は、上側ローラ12と下側ローラ13を透明シート2に接近させて、上側ローラ12と下側ローラ13で透明シートを一定時間型締めさせる。この過程で、透明シート2の一部(成型領域)とスタンパ11は温度Tg以上の温度に加熱される。そして、透明シート2の一部(成型領域)は、固体から粘性を有して軟化して、スタンパ11の形状に応じて流動する。そして、第1加熱手段と第2加熱手段は、制御部からの指令に基づいて、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2から離れる前に、融解温度Tgよりも低い温度に上側ローラ12と下側ローラ13を冷却する。この過程で、透明シート2の一部とスタンパ11は温度Tgよりも低い温度に冷却される。そして、透明シート2の一部(成型領域)は、軟化した状態から固体に戻る。この状態で、上側ローラ12と下側ローラ13は透明シート2から離れて、透明シート2が成型装置10から排出される。これにより、2次元コード5が透明シート2の成型領域に成型されて、スタンパ11の形状が透明シート2に転写される。
【0032】
図6を参照して、上記の成型における温度と圧力の時間変化を説明する。
【0033】
最初に温度の時間変化を説明する。第1加熱手段と第2加熱手段が上側ローラ12と下側ローラ13を加熱し始める時点t0から、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2を型締めし始める時点t1までの間に、上側ローラ12の温度は初期温度TUから融解温度Tg以上の温度Tmaxに達し、下側ローラ13の温度は初期温度TLから融解温度Tg以上の温度Tmaxに達する。そして、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2を型締めし始める時点t1から、第1加熱手段と第2加熱手段が上側ローラ12と下側ローラ13を冷却し始める時点t2までの間に、上側ローラ12の温度と下側ローラ13の温度は融解温度Tg以上の温度Tmaxを維持する。最後に、第1加熱手段と第2加熱手段が上側ローラ12と下側ローラ13を冷却し始める時点t2から、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2から離れ始める時点t5までの間に、上側ローラ12の温度はTmaxから初期温度TUに戻り、下側ローラ13の温度は温度Tmaxから初期温度TLに戻る。
【0034】
次に圧力の時間変化を説明する。上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2を型締めし始める時点t1から、第1加熱手段と第2加熱手段が上側ローラ12と下側ローラ13を冷却し始める時点t2を超えた時点t3までの間、上側ローラ12と下側ローラ13は圧力Pmaxで透明シート2を型締めし続ける。そして、第1加熱手段と第2加熱手段が上側ローラ12と下側ローラ13を冷却し始める時点t2を超えた時点t3から、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2から離れ始める時点t5までの間、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2を型締めする圧力は段階的に減少する。具体的には、時点t3から時点t4までの間、上側ローラ12と下側ローラ13は圧力P2(P2<Pmax)で透明シート2を型締めし続け、時点t4から時点t5までの間、上側ローラ12と下側ローラ13は圧力P1(P1<P2)で透明シート2を型締めし続ける。時点t5にて、上側ローラ12と下側ローラ13は透明シート2から離れて、透明シート2が成型装置10から排出される。
【0035】
2次元コード5の成型品質は、温度Tmaxの値、圧力Pmaxの値、初期温度TUから温度Tmaxまでの上側ローラ12の温度勾配の値、初期温度TLから温度Tmaxまでの下側ローラ13の温度勾配の値、圧力Pmaxで透明シート2を型締めし続ける時間(t3−t1)などによって決まる。2次元コード5の歪みと反りは、温度Tmaxから初期温度TUまでの上側ローラ12の温度勾配、温度Tmaxから初期温度TLまでの下側ローラ13の温度勾配、圧力P2で透明シート2を型締めし続ける時間(t4−t3)、圧力P1で透明シート2を型締めし続ける時間(t5−t4)などの値によって変化する。例えば、透明シート2がポリカーボネート(融解温度約150℃)の場合、温度Tmax=150℃、t2−t1<1sec、120℃≦初期温度TL≦初期温度TU≦140℃、t2−t1<t3−t1<t4−t3<t5−t4である。
【0036】
次に、融解温度Tg未満の温度で2次元コード5を成型する方法を説明する。
【0037】
第1加熱手段と第2加熱手段は、制御部からの指令に基づいて、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2に接近する前に、融解温度Tg未満の温度に上側ローラ12と下側ローラ13を加熱する。制御部は、上側ローラ12と下側ローラ13を透明シート2に接近させて、上側ローラ12と下側ローラ13で透明シートを一定時間型締めさせる。そして、上側ローラ12と下側ローラ13は透明シート2から離れて、透明シート2が成型装置10から排出される。これにより、2次元コード5が透明シート2の成型領域に成型されて、スタンパ11の形状が透明シート2に転写される。
【0038】
図7を参照して、上記の成型における温度と圧力の時間変化を説明する。
【0039】
最初に温度の時間変化を説明する。第1加熱手段と第2加熱手段が上側ローラ12と下側ローラ13を加熱し始める時点t’0から、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2を型締めし始める時点t’1までの間に、上側ローラ12の温度は初期温度TUから融解温度Tg未満の温度Tmaxに達し、下側ローラ13の温度は初期温度TLから融解温度Tg未満の温度Tmaxに達する。なお、温度Tmaxは、温度Tg/2と融解温度Tgの間の値(Tg/2≦Tmax<Tg)をとる。そして、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2を型締めし始める時点t’1以降、上側ローラ12の温度と下側ローラ13の温度は融解温度Tg未満の温度Tmaxを維持する。
【0040】
次に圧力の時間変化を説明する。上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2を型締めし始める時点t’1から時点t’2までの間、上側ローラ12と下側ローラ13は圧力P’maxで透明シート2を型締めし続ける。時点t’2以降、上側ローラ12と下側ローラ13は圧力をゼロにする。時点t’3(t’3>t’2)にて、上側ローラ12と下側ローラ13は透明シート2から離れて、透明シート2が成型装置10から排出される。
【0041】
2次元コード5の成型品質は、圧力P’maxの値と圧力P’maxで透明シート2を型締めし続ける時間(t’2−t’1)などによって決まる。なお、2次元コード5の成型時の温度は融解温度Tg未満の温度に設定されているので、図7の圧力P’maxの値と圧力P’maxで透明シート2を型締めし続ける時間(t’2−t’1)は、図6の圧力Pmaxの値と圧力Pmaxで透明シート2を型締めし続ける時間(t2−t1)よりも大きくなるが、上側ローラ12と下側ローラ13が透明シート2を型締めする圧力を段階的に減少させる必要はない。例えば、透明シート2がポリカーボネート(融解温度約150℃)の場合、120℃≦温度Tmax≦130℃、t’2−t’1<10sec、図7の圧力P’max>図6の圧力Pmax(図7の圧力P’max=図6の圧力Pmaxの約2倍)、15MPa≦図7の圧力P’max≦30MPaである。
【0042】
融解温度Tg未満の温度で2次元コード5を成型する方法は、融解温度Tg以上の温度で2次元コード5を成型する方法と比較して、次の技術的利点を有している:(1)図6のような温度勾配や段階的な圧力減少などの細かい制御が必要ではないので、2次元コード5を成型する工程の単純化が図れる;(2)温度Tmaxは融解温度Tg未満なので、冷却期間を設ける必要がなく、かつ、圧力Pmaxを0に一気に減少でき、2次元コード5を成型する工程の短縮化が図れる;(3)(1),(2)の工程の効率化により、2次元コード5の成型にかかるコストを減らすことができる;(4)融解温度Tg未満で成型するので、熱変形による歪み、しわ、反りを少なくでき、目視で識別し難い2次元コード5を成型することができる。
【0043】
次に、2次元コード5を識別する方法を説明する。図8は、本実施形態に係る液晶ディスプレイを直接目視する場合の2次元コードの識別態様を示す説明図である。図9は、本実施形態に係る液晶ディスプレイを偏光板を介して目視する場合の2次元コードの識別態様を示す説明図である。なお、図9の偏光板6は、液晶ディスプレイ1内の偏光板の偏光方向と同じ方向に振動する光だけを透過する。また、以下の説明では、液晶ディスプレイ1は、表示部の全面に白を表示するが、他の色を表示してもよい。
【0044】
図8(a)に示すように、観察者が全面に白を表示した液晶ディスプレイ1の表示部を直接目視する場合、液晶ディスプレイ1のバックライトから照射される光は、偏光板にて偏光方向に振動する光に偏光されて、透明シート2又は2次元コード5を透過して観察者に達する。このままでは、観察者は、透明シート2に成型された2次元コード5を認識することができないので、2次元コード5の明部と暗部を”1”と”0”にそれぞれコードして、2次元コード5のm×n領域(図8(b)ではm=5,n=5)を左から右かつ上から下に読み取るとすると、”1111111111111111111111111”という情報として2次元コードを読み取る(図8(b)参照)。なお、液晶ディスプレイ1内の偏光板で偏光された光は2次元コード5の残留応力領域51を透過した後に、残留応力領域51での複屈折により、楕円偏光、円偏光、又は偏光角が異なる直線偏光に変換される。
【0045】
図9(a)に示すように、観察者が全面に白を表示した液晶ディスプレイ1の表示部を偏光板6を介して目視する場合、液晶ディスプレイ1のバックライトから照射される光は、偏光板にて偏光方向に振動する光に偏光されて、透明シート2又は2次元コード5と偏光板6を透過して観察者に達する。このとき、2次元コード5の残留応力領域51を透過した光は、残留応力により偏光角が変えられるため、液晶ディスプレイ1内の偏光板と偏光板6の位相関係によっては偏光板6を透過できない。それゆえ、観察者は残留応力領域51を暗部として認識する。観察者が2次元コード5が透明シート2に成型されていることを知っている場合、2次元コード5の明部と暗部を”1”と”0”にそれぞれコードして、2次元コード5のm×n領域(図9(b)ではm=5,n=5)を左から右かつ上から下に読み取ると、”1010001110110110011011101”という隠し情報を読み取る(図9(b)参照)。
【0046】
このように、観察者が偏光板6を介して2次元コード5を目視する場合のみ、2次元コード5の隠し情報を認識できるので、2次元コード5の存在自体を秘匿することができる。また、観察者が2次元コード5を直接目視する場合、2次元コード5は透明シート2の一部であるので、2次元コード5は液晶ディスプレイの表示内容の視認を妨げない。それゆえ、2次元コード5に記録された隠し情報を、対象物の真正性を識別する識別情報として用いることにより、2次元コード5は、液晶ディスプレイ1の表示部に貼り付けても、液晶ディスプレイ1の表示内容の視認を妨げない、改竄、偽造、複製が困難な識別媒体となる。
【0047】
2次元コード5によって記録された識別情報の読み取りは、読取装置を用いて行ってもよい。読取装置は、偏光板6と、偏光板6を透過した光に基づいて、2次元コード5に記録された識別情報を読み取る読取部とを備える。読取装置の偏光板6を図9(a)に示すように2次元コード5に対向させ、読取部は偏光板6を透過した光に基づいて2次元コード5に記録された識別情報を図9(b)に示すように読み取る。
【0048】
(第1変形例)
図10は、本実施形態の第1変形例に係る2次元コードを示す平面図である。図10に示すように、本変形例では2次元コード5はQRコード52に置き換えられる。この場合、読取装置の読取面を偏光板6を介してQRコード52にかざすことにより、読取装置はQRコード52の明暗パターンを読み取り、QRコード52に記録された隠し情報を認識する。
【0049】
(第2変形例)
図11は、本実施形態の第2変形例に係る液晶ディスプレイを直接目視する場合の2次元カラーコードの識別態様を示す説明図である。図12は、本実施形態の第2変形例に係る液晶ディスプレイを偏光板を介して目視する場合の2次元カラーコードの識別態様を示す説明図である。本変形例では、液晶ディスプレイ1が、透明シート2に成型された2次元コード5に対応する表示部の領域(2次元コード5の奥)に、m×n領域(m行×n列からなる領域、図11ではm=5,n=5)に分割された図11のカラーコード7を表示する。また、2次元コード5とカラーコード7を重ね合わせた態様を2次元カラーコードと呼ぶ。
【0050】
観察者が液晶ディスプレイ1の表示部を直接目視する場合、液晶ディスプレイ1のバックライトから照射される光は、偏光板にて偏光方向に振動する光に偏光されて、透明シート2又は2次元コード5を透過して観察者に達する。それゆえ、観察者は、透明シート2に成型された2次元コード5を識別することなくカラーコード7を視認する。2次元コード5の明部と暗部を”1”と”0”にそれぞれコードし、かつ、カラーコード7の赤、橙、黄、緑、青、紫を”2”、”3”、”4”、”5”、”6”、”7”にそれぞれコードして、2次元カラーコードのm×n領域を左から右かつ上から下に読み取るとすると、”2745251243741316227536115”という情報を読み取る(図11参照)。
【0051】
観察者が液晶ディスプレイ1の表示部を偏光板6を介して目視する場合、液晶ディスプレイ1のバックライトから照射される光は、偏光板にて偏光方向に振動する光に偏光されて、透明シート2又は2次元コード5と偏光板6を透過して観察者に達する。このとき、2次元コード5の残留応力領域51を透過した光は、残留応力により偏光角が変えられるため、液晶ディスプレイ1内の偏光板と偏光板6の位相関係によっては偏光板6を透過できない。それゆえ、観察者は残留応力領域51を暗部として認識する。観察者が2次元コード5が透明シート2に成型されていることを知っている場合、2次元コード5の明部と暗部を”1”と”0”にそれぞれコードし、かつ、カラーコード7の赤、橙、黄、緑、青、紫を”2”、”3”、”4”、”5”、”6”、”7”にそれぞれコードして、2次元カラーコードのm×n領域(図12ではm=5,n=5)を左から右かつ上から下に読み取ると、”2040001240740310027036105”という隠し情報を読み取る(図12参照)。
【0052】
このように、観察者が偏光板6を介して2次元カラーコードを目視する場合のみ、2次元カラーコードの隠し情報を認識できるので、2次元カラーコードの存在自体を秘匿することができる。また、観察者が2次元カラーコードを直接目視する場合、2次元コード5は透明シート2の一部であるので、2次元カラーコードは液晶ディスプレイの表示内容の視認を妨げない。それゆえ、2次元カラーコードに記録された隠し情報を、対象物の真正性を識別する識別情報として用いることにより、2次元化コード5は、液晶ディスプレイ1の表示部に貼り付けても、液晶ディスプレイ1の表示内容の視認を妨げない、改竄、偽造、複製が困難な識別媒体となる。
【0053】
上記の例では、2次元コード5の明部と暗部とカラーコード7の各色に割り当てられた数値の列を2次元カラーコードの隠し情報に設定したが、2次元コード5の暗部に割り当てられた数値”0”の出現位置を2次元カラーコードの隠し情報に設定してもよい。また、液晶ディスプレイ1は、カラーコード7の色と色の配置を適宜変更可能であるので、状況によって、カラーコード7の色と色の配置を変更することにより、複数種類の2次元カラーコードの隠し情報を提供してもよい。例えば、2種類の2次元カラーコードの隠し情報を秘密鍵と公開鍵として使用できる。
【0054】
2次元カラーコードによって記録された識別情報の読取は、読取装置を用いて行っても良い。読取装置は、偏光板6と、偏光板6を透過した光に基づいて、2次元カラーコードの隠し情報を読み取る読取部とを備える。読取装置の偏光板6を2次元カラーコードに対向させ、読取部は偏光板6を透過した光に基づいて2次元カラーコードの隠し情報を図12に示すように読み取る。
【0055】
更に、2次元コード5をQRコード52に置き換えて、2次元カラーコードをカラーQRコードとして使用してもよい。この場合、読取装置の読取面を偏光板6を介してカラーQRコードにかざすことにより、読取装置はカラーQRコードのカラーパターンを読み取り、カラーQRコードに記録された隠し情報を認識する。
【符号の説明】
【0056】
1 液晶ディスプレイ
2 透明シート
5 2次元コード
6 偏光板
7 カラーコード
10 成型装置
11 スタンパ
51 残留応力領域
111 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源を有する液晶ディスプレイの表面に設けられ、前記光源から射出された光を透過させるシートの一部又は全体に、前記光に対して複屈折を生じさせる1つ以上の偏光領域を含む2次元コード領域が成型された識別媒体。
【請求項2】
前記偏光領域は残留応力を有することを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記シートの光入射側に、1つ以上の色を用いて形成されたカラーコードを更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の識別媒体。
【請求項4】
光を透過させるシートの一部又は全体に1つ以上の凸部を有するスタンパを押圧し、
前記スタンパを押圧する押圧力及び前記スタンパの温度を制御し、
前記シートに前記凸部に対応した前記光に対して複屈折を生じさせる1つ以上の偏光領域を含む2次元コード領域を成型することを特徴とする成型方法。
【請求項5】
前記スタンパを前記シートの融解温度以上の温度として前記シートに所定の押圧力で押圧させ、
前記スタンパを前記シートに押圧させた状態で前記スタンパの温度を低下させ、前記押圧力が段階的に低減するように制御することを特徴とする請求項4に記載の成型方法。
【請求項6】
前記スタンパを前記シートの融解温度未満の温度として前記シートに第1の押圧力で押圧させ、
前記スタンパを前記シートに押圧させた状態で、前記スタンパの押圧力が前記第1の押圧力より小さい第2の押圧力に低減するように制御することを特徴とする請求項4に記載の成型方法。
【請求項7】
光源を有する液晶ディスプレイの表面に設けられ、前記光源から射出された光を透過させるシートの一部又は全体に、前記光に対して複屈折を生じさせる1つ以上の偏光領域と前記光を透過させる透過領域とを含む2次元コード領域が成型された識別媒体の、前記偏光領域を透過した光を透過させず、前記透過領域を透過した光を透過させる偏光部と、
前記偏光部を透過した光に基づいて、前記2次元コード領域に記録された識別媒体を読み取る読取部と、
を備えることを特徴とする読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−181591(P2012−181591A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42503(P2011−42503)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】