説明

負圧ブースタ

【課題】 負圧ブースタにおいて、緊急ブレーキ時のブレーキ操作力を軽減しつつ、出力を早期に倍力限界点に到達させる。
【解決手段】弁筒20に取付けられる係止部材30の外周に係止部32が設けられ、係止部32に前方側から係合可能な係合爪69が前端部に設けられるようにして入力ピストン25の周囲に配置される複数の連結板部67cを有する連結部材67が、係止部32に係合爪69を係合させる方向に各連結板部67cが弾発力を発揮するようにして弁ピストン35に取付けられ、連結部材67は、緊急ブレーキ時には係止部32に各係合爪69を係合させて大気導入弁座39を開放状態に維持するものの、非緊急ブレーキ時には各係合爪69を係止部32よりも後方で係止部材30の外周に当接させるように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキマスタシリンダの倍力作動のために用いられる負圧ブースタに関し、特に、緊急ブレーキ時には出力杆に速やかに高出力を発揮させるようにしたマスタシリンダの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
緊急ブレーキ時に大気導入弁座を大きく開放して作動室に大量の大気を速やかに導入し、出力杆に高出力を発揮させるようにしたものが、特許文献1で既に知られている。
【特許文献1】特開2003−95085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1で開示されたものでは、第1負圧弁座を後端に有する弁筒がブースタピストンに連設され、第2負圧弁座を後端に有して弁筒内に収容されるとともに後方に向けてばね付勢される筒状部材の前端に、前記弁筒に実質的に一体化されたホルダに係合し得る係合部が設けられ、通常のブレーキ作動時には係合部をホルダに係合させた状態にある筒状部材の後端の第2負圧弁座が弁筒の後端の第1負圧弁座よりも前方に在るのに対して、緊急ブレーキ操作時には、前記係合部をホルダから離脱させるための力を入力ピストンから前記筒状部材に作用せしめ、ホルダとの連結を解除した筒状部材の後端の第2負圧弁座が弁体に当接して該弁体を第1負圧弁座から離隔させることで、大気弁の開放量を増大するようにしている。しかるに、このような特許文献1開示の構成では、緊急ブレーキ時に、ホルダとの連結を解除するように筒状部材を作動せしめる力を該筒状部材に作用せしめることが必要であり、必要以上の入力荷重が必要となる。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、緊急ブレーキ時のブレーキ操作力を軽減しつつ、出力を早期に倍力限界点に到達させ得るようにした負圧ブースタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、ブースタシェルに、その内部を負圧源に連なる前側の負圧室と後側の作動室とに区画するブースタピストンが収容され、前記ブースタシェルの後壁に摺動自在に支承される弁筒が前記ブースタピストンに連設され、前後動可能の入力杆と、この入力杆を後退方向に付勢する入力戻しばねと、前記入力杆に連動、連結される入力ピストンと、該入力ピストンに対して所定の後退位置から前方へ摺動し得るようにして前記入力ピストンに嵌合する弁ピストンと、該弁ピストンを前記後退位置側に付勢するばね力を発揮して前記入力ピストンおよび前記弁ピストン間に設けられるセットばねと、前記弁ピストンに形成される大気導入弁座ならびに前記弁筒に形成される負圧導入弁座を有するとともに前記入力杆の前後動に応じて前記作動室を前記負圧室と大気とに連通切換えする制御弁とが、前記弁筒内に配設され、前記弁筒および前記入力ピストンと、前記ブースタシェルの前壁に摺動可能に支承される出力杆との間に、前記入力杆による操作入力と、前記作動室および前記負圧室間の気圧差によるブースタピストンの推力との合力を前記出力杆に伝達する反力機構が介設される負圧ブースタにおいて、外周に係止部を有する係止部材が前記入力ピストンの前部を囲繞して前記弁筒に取付けられ、前記入力ピストンの周囲に配置されて前後に延びるとともに前端部を前記入力ピストンの半径方向内方に向かわせる弾発力を発揮する複数の連結板部と、前記係止部に前方側から係合することを可能として前記各連結板部の前端に設けられる複数の係合爪とを有する連結部材の後端部が前記弁ピストンに取付けられ、前記連結部材は、前記入力ピストンおよび前記弁ピストンが前記弁筒に対して所定ストローク以上先行前進した緊急ブレーキ時には前記係止部に前記各係合爪を係合させて前記大気導入弁座を開放状態に維持するものの、非緊急ブレーキ時には前記各係合爪を前記係止部よりも後方で前記係止部材の外周に当接させるように形成されることを特徴とする。
【0006】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記連結部材の各連結板部の前後方向中間部には内方に突出した突起が一体に設けられ、前記入力ピストンには、ブレーキ作動状態では前記突起の前方に在るものの、緊急ブレーキの解除時には、前記入力ピストンの前記弁ピストンに対する後退動作に応じて前記突起に当接して前記係合爪を前記係止部から離脱させるように前記連結板部を押し広げるフランジ部が一体に設けられることを特徴とする。
【0007】
さらに請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明の構成に加えて、前記連結部材の前記各連結板部をそれぞれ挿通せしめる複数のスリットを形成するガイド手段が、前記入力ピストンの前後動をガイドするようにして前記弁筒に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、入力杆を急速前進させる緊急ブレーキ時には、入力ピストンおよび弁ピストンが弁筒に対して所定ストローク以上先行前進することで、弁ピストンに後端部が取付けられる連結部材が備える複数の連結板部の前端の係合爪が、弁筒に取付けられて入力ピストンの前部を囲繞する係止部材の外周の係止部に前方から係合する。これにより弁ピストン、入力ピストンおよび弁筒が実質的に一体化されることになり、入力ピストンの前進に応じて大気導入弁座を開放状態に保持する。したがって、その後、弁筒が入力ピストンの前進に倣うように前進しても、弁ピストンは弁筒とともに前進することになるから、大気導入弁座の全開状態は維持されることになり、その結果、大量の大気が作動室に一気に導入され、ブースタピストンの出力は、負圧室および作動室間の気圧差が最大となる倍力限界点に即座に到達することができ、緊急ブレーキに迅速に対応することができる。しかも弁筒に取付けられた係止部材と、弁ピストンとが連結部材を介して連結された状態で、入力ピストンおよび弁ピストン間に設けられるセットばねのばね荷重は入力ピストンに前進方向で作用するので、緊急ブレーキ時のブレーキ操作力を軽減することができる。さらに連結部材の係合爪を係止部材の係止部に係合させるのに必要な前記入力ピストンの前記弁筒に対する前進方向の先行ストローク量は、入力ピストンの軸方向に沿う前記連結部材の寸法を変更することで変化させることができ、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト開始閾値を前記連結部材の寸法変更によって、容易に調整することができる。
【0009】
また請求項2記載の発明によれば、緊急ブレーキの解除時には、各連結板部の前後方向中間部に一体に設けられて内方に突出した突起に、入力戻しばねのばね力で後退する入力ピストンに設けられたフランジ部が当接して連結板部を押し広げ、係合爪が係止部から離脱するので、入力ピストンが弁筒に対して後方に相対移動して非作動状態に戻ることになり、緊急ブレーキ状態を容易に解除することができる。しかも緊急ブレーキ解除までの前記入力ピストンの後退方向のストローク量は、入力ピストンの軸方向に沿う前記連結部材の寸法を変更することで変化させることができ、ブレーキアシスト解除閾値および戻り時のヒステリシスを前記連結部材の寸法変更によって容易に調整することができる。
【0010】
さらに請求項3記載の発明によれば、入力ピストンの前後動をガイドするようにして弁筒に設けられるガイド手段のスリットに、連結部材の各連結板部がそれぞれ挿通されるので、弁筒に対する連結部材の位置決めが確実になされることになり、連結部材の誤った組付けを回避して組付け性を高めることができる。また作動時にはガイド手段のスリットによって連結部材の作動がガイドされることになるとともに連結部材の回転を阻止することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0012】
図1〜図8は本発明の一実施例を示すものであり、図1は負圧ブースタの縦断面図、図2は負圧ブースタが非作動状態にあるときの図1の2矢示部拡大図であって図3の2−2線断面図、図3は図2の3−3線断面図、図4はガイド手段、キーおよび連結部材の分解斜視図、図5は通常ブレーキ状態での図2に対応した断面図、図6は負圧ブースタの出力特性を示す線図、図7は緊急ブレーキ状態での図2に対応した断面図、図8は緊急ブレーキ解除状態での図2に対応した断面図である。
【0013】
先ず図1において、負圧ブースタBのブースタシェル11は、前部シェル半体11aおよび後部シェル半体11bの対向端を相互に結合して構成され、後部シェル半体11bが自動車の車室前壁Dにボルト12によって固定され、前部シェル半体11aには、該ブースタBにより作動されるブレーキマスタシリンダMのシリンダボディMaがボルト14によって固着される。
【0014】
ブースタシェル11の内部は、鋼板により環状に成形されるとともにブースタシェル11に前後往復動可能に収容されるブースタピストン15と、該ブースタピストン15の後面に重ねて結着されるとともに前記両シェル半体11a,11b間に外周縁部が挟止されるダイヤフラム16とにより、前側の負圧室17と後側の作動室18とに区画され、負圧室17は、負圧導入管19を介して負圧源V(たとえば内燃機関の吸気マニホールド内部)に接続される。ブースタピストン15およびダイヤフラム16の中心部には合成樹脂製の弁筒20が一体的に結合される。
【0015】
図2を併せて参照して、前記弁筒20は、後部シェル半体11bの中心部に突設されて後方に延びる案内筒部21に軸受部材22およびシール部材23を介して摺動自在に支承される。
【0016】
弁筒20内には、入力ピストン25と、該入力ピストン25に連結される入力杆26と、この入力杆26の前後動に応じて作動室18を負圧室17と大気とに連通切換えする制御弁27とが配設される。
【0017】
前記弁筒20の前部中心部には、前方から順に、前端を前方に開放した円形凹部28と、該円形凹部28よりも小径にして円形凹部28に同軸に連なる貫通孔29とが設けられ、この弁筒20の前部には係止部材30が取り付けられる。すなわち係止部材30は、その前端部外周に取り付け鍔部30aを有するとともにその軸方向全長にわたるシリンダ孔31を有して円筒状に形成されており、前記取り付け鍔部30aを円形凹部28に嵌合しながら貫通孔29に挿入される。
【0018】
入力ピストン25は、ピストン後部25aと、該ピストン後部25aよりも小径のピストン前部25bと、ピストン前部25bよりも小径に形成されてピストン後部25aおよびピストン前部25b間を連結する頸部25cとを一体に有し、ピストン後部25aの前端には半径方向外方に張り出すフランジ部25dが一体に連設される。而してピストン前部25bは係止部材30のシリンダ孔31に摺動可能に嵌合される。またピストン後部25aの後端には連結筒部25eが同軸にかつ一体に形成されており、この連結筒部25eには入力杆26の球状前端部26aが嵌合され、球状前端部26aの抜け止めのために連結筒部25eの一部がかしめられる。これにより入力杆26が入力ピストン25に首振り可能に連結され、入力杆26の後端には、該入力杆26を前進作動せしめるブレーキペダルP(図1参照)が連結される。
【0019】
入力ピストン25におけるピストン後部25aの外周には、円筒状の弁ピストン35が後退位置(図2で示す位置)と、前進位置(後述の図7で示す位置)との間を摺動し得るように嵌合され、その後退位置は、弁ピストン35の後端面が連結筒部25eの後端部外周に係止された止め輪36で受け止められることにより規定され、また弁ピストン35の前進位置は、弁ピストン35の前端が入力ピストン25のフランジ部25dに当接することにより規定される。また前記ピストン後部25aの外周面には、前記弁ピストン35の内周に摺接する環状のシール部材37が装着される。さらに入力ピストン25の前記フランジ部25dおよび前記弁ピストン35間には、弁ピストン35を後退位置に向かって付勢するセットばね38が縮設される。
【0020】
弁ピストン35の後端には大気導入弁座39が形成され、この大気導入弁座39を囲繞するように同心配置される環状の負圧導入弁座40が弁筒20に形成される。
【0021】
また弁筒20には、大気導入弁座39および負圧導入弁座40と協働する共通一個の弁体41が取り付けられる。この弁体41は全体がゴム等の弾性材で成形されたもので、大気導入弁座39および負圧導入弁座40に着座可能に対向して配置される弁部41aと、弁部41aの内周に連なって後方に延びる伸縮筒部41bと、該伸縮筒部41bの後端に連なる環状の取り付けビード部41cとから成っており、前記弁部41aにその内周側から挿入される環状の補強板42が、弁部41aにモールド結合される。また弁部41aの外周には、後方へ屈曲した環状のシールリップ43が一体に形成される。
【0022】
取り付けビード部41cは、負圧導入弁座40とともに弁筒20の内周側に一体に形成された環状隆起部20aの後端に当接する前部および後部弁ホルダ44,45間に気密に挟持され、後部弁ホルダ45には、弁筒20の内周面に密接するOリング等のシール部材46が装着される。
【0023】
弁部41aにモールド結合された補強板42と、入力杆26との間には、弁部41aを大気導入弁座39および負圧導入弁座40に着座させる方向に付勢する弁ばね47が縮設される。
【0024】
而して上記負圧導入弁座40、大気導入弁座39、弁体41および弁ばね47によって制御弁27が構成される。
【0025】
後部弁ホルダ45と、入力杆26との間には入力戻しばね48が縮設され、これによって前部および後部弁ホルダ44,45が弁筒20の環状隆起部20aの後端に当接、保持されるとともに、入力杆26が後退方向へ付勢される。
【0026】
弁筒20の内周の環状隆起部20aには、負圧導入弁座40を囲繞する前部環状室49が形成され、この前部環状室49に弁部41aの前面が臨む。前部環状室49の半径方向外側の内周面は負圧導入弁座40よりも後方へ延びており、その内周面に弁部41aの外周のシールリップ43が摺動可能に密接する。したがって前部環状室49は、弁部41aが負圧導入弁座40に着座したとき閉じられるようになっている。さらに環状隆起部20aの内側には、シールリップ43付きの弁部41aによって、前記前部環状室49とは隔絶した後部環状室50が弁部41aの背面を臨ませるようにして画成される。
【0027】
弁筒20には、一端が負圧室17に通じるとともに他端が前部環状室49に開口するように形成される一対の第1ポート51…と、一端が作動室18に通じるとともに他端が負圧導入弁座40および大気導入弁座39間に開口するように形成される第2ポート52とが設けられる。第2ポート52は、前記貫通孔29よりも大径に形成されて該貫通孔29の後端に同軸に連なるとともに前記入力ピストン25のピストン後部25aおよび弁ピストン35を収容するようにして弁筒20に設けられる収容孔53と、一端が作動室18に通じるとともに他端が前記収容孔53の前端に通じるようにして弁筒20の一直径線上に設けられる一対の半径方向連通孔54…とから成るものであり、半径方向連通孔54…すなわち第2ポート52は、弁筒20の軸線と平行な方向に延びて弁筒20に設けられる軸方向連通孔55…を介して後部環状室50とも連通する。
【0028】
ブースタシェル11における後部シェル半体11bの案内筒部21の後端と、前記入力杆26とには、弁筒20を被覆する伸縮可能のブーツ58の両端が取り付けられ、このブーツ58の後端部に、前記弁体41の内側に連通する大気導入口59が設けられる。この大気導入口59に流入する空気を濾過するフィルタ60が入力杆26の外周面と弁筒20の内周面との間に介裝され、該フィルタ60は、入力杆26および弁筒20の相対移動を阻害することがないように、柔軟性を有する。
【0029】
図3および図4を併せて参照して、前記弁筒20には、入力ピストン25におけるフランジ部25dの外周に摺接することを可能として該入力ピストン25の作動をガイドするガイド手段61が設けられる。このガイド手段61は、入力ピストン25の軸線に関して対称である一対のガイド部材62,62が弁筒20に設けられて成るものであり、合成樹脂から成る弁筒20に両ガイド部材62,62はモールド結合される。
【0030】
ガイド部材62は、前記弁筒20に設けられた前記収容孔53の軸線を中心として円弧状に形成される円弧部62aと、該円弧部62aの周方向中央部外面から外方に突出する第1突部62bと、前記円弧部62aの周方向両端から外方に突出する一対の第2突部62c,62cと、前記第2突部62c,62cの前端にそれぞれ連なって前記円弧部62aから離隔する側に延びる延出板部62d,62dとを一体に有する。
【0031】
このガイド部材62は、第1突部62bを弁筒20内に埋没させつつ円弧部62aを収容孔53に嵌合させるようにして弁筒20にモールド結合されるものであり、延出板部62d,62dは、第2ポート52を前記収容孔53とともに形成する一対の半径方向連通孔54,54内に配置される。
【0032】
ところで一対のガイド部材62,62は、弁筒20の軸線に関して対称に配置されて弁筒20に設けられるものであり、両ガイド部材62,62の第2突部62c,62c…および延出板部62d,62…相互間には、軸方向に延びるスリット63,63が形成される。また前記ガイド部材62…における円弧部62a…の周方向両端部における前側には切欠き部64,64…が設けられる。
【0033】
また弁筒20には、ブースタピストン15および入力ピストン25の後退限を規定するキー65が一定距離の範囲で軸方向移動可能に取り付けられる。このキー65は、入力ピストン25の頸部25cを両側から挟むようにして弁筒20の半径方向連通孔54,54ならびにガイド手段61におけるガイド部材62…の切欠き部64,64…に挿通される一対の規制部65a,65aと、それらの規制部65a…の一端を連結する連結部65bとを一体に有して略U字状に形成され、前記連結部65bが、後部シェル半体11bの案内筒部21に設けられたストッパ壁66の前面に対向するように配置される。而してキー65がストッパ壁66に当接することによりブースタピストン15および弁筒20の後退限が規定され、また入力ピストン25における頸部25cの前端面がキー65に当接することにより入力ピストン25および入力杆26の後退限が規定される。前記頸部25cの軸方向長さはキー65の板厚より大きく設定されていて、入力ピストン25とキー65とが僅かに相対移動ができるようになっている。
【0034】
前記弁ピストン35には連結部材67が連動、連結される。この連結部材67は、前記弁ピストン35の後部を囲繞するリング部67aと、該リング部67aの周方向複数個所に一体に連なる取付け板部67b…と、前記リング部67aの周方向に間隔をあけた複数個所に連設されて前方に延びる連結板部67c…とを一体に備える。
【0035】
前記取付け板部67b…は、前記リング部67aの周方向に等間隔をあけた2個所に連設されてわずかに前方に突出するものであり、これらの取付け板部67b…の前端が、前記弁ピストン35の外周に設けられた凹部68(図2参照)に後方側から係合することによって連結部材67が弁ピストン35に取付けられることになり、セットばね38は、入力ピストン25のフランジ部25dと、連結部材67のリング部67aとの間に縮設される。
【0036】
前記連結板部67c…は、前記リング部67aの周方向に等間隔をあけた2箇所に連設されており、これらの連結板部67c…の前端には、内方に向けて突出する係合爪69…が設けられる。而して弁筒20に取付けられた前記係止部材30の外周には、前記係合爪69…を係合させ得る環状の溝である係止部32が設けられ、この係止部32よりも後方で前記係止部材30の外周は、後方に向かうにつれて小径となるテーパ面33を形成する。
【0037】
ところで前記連結板部67c…は、係止部材30の前記係止部32に前記係合爪69…を係合させる方向の弾発力を発揮するものであり、前記ガイド手段61におけるスリット63…にそれぞれ挿通される。
【0038】
また前記係止部材30を嵌合せしめるようにして弁筒20に設けられる貫通孔29の内周には、前記ガイド手段61のスリット63…に連なるガイド溝71…が軸方向に延びて設けられており、連結板部67c…の前部は前記ガイド溝71…に挿通される。
【0039】
しかも前記連結部材67は、入力ピストン25が弁筒20に対して所定ストローク以上先行前進した緊急ブレーキ時には係止部材30の係止部32に前記各係合爪69…を係合させて前記大気導入弁座39を開放状態に維持するものの、非緊急ブレーキ時には前記各係合爪69…を前記係止部32よりも後方で係止部材30の外周のテーパ面33に当接させるように形成されている。
【0040】
また連結部材67における各連結板部67c…の前後方向中間部には内方に突出した突起70…が一体に設けられる。一方、入力ピストン25に一体に設けられるフランジ部25dは、ブレーキ作動状態では前記突起70の前方に在るものの、緊急ブレーキの解除時には、入力ピストン25の弁ピストン35に対する後退動作に応じて前記突起70…に当接して係合爪69…を前記係止部32から離脱させるように連結板部67c…を押し広げることになる。
【0041】
再び図2において、弁筒20の前端面には、前記係止部材30の取り付け鍔部30aを囲繞する環状部20bが形成され、この環状部20bと、係止部材30の前端部とで作動ピストン74が構成される。この作動ピストン74の外周にはカップ状の出力ピストン75が摺動自在に嵌合され、この出力ピストン75と、作動ピストン74および入力ピストン25のピストン前部25bとの軸方向対向面間には偏平な弾性反力ピストン76が介装される。
【0042】
その際、弾性反力ピストン76は上記環状部20bの前端面および係止部材30の前端面に密接する。これによって係止部材30は弁筒20に連結されるとともに、環状部20bおよび取り付け鍔部30a間が弾性反力ピストン76によってシールされる。また入力ピストン25のピストン前部25bおよび弾性反力ピストン76間には、負圧ブースタBの非作動時に一定の間隙gができるようになっている。
【0043】
出力ピストン75の前面には出力杆77が突設され、この出力杆77は前記ブレーキマスタシリンダMのピストン13に連接される。
【0044】
而して、作動ピストン74、入力ピストン25、弾性反力ピストン76および出力ピストン75は、入力杆26に対する入力と、作動室18およびを負圧室17間の気圧差によるブースタピストン15の推力との合力を出力杆77に伝達する反力機構73を構成する。
【0045】
出力ピストン75および弁筒20の前端面にはリテーナ78が当接するように配設され、このリテーナ78とブースタシェル11の前壁との間にブースタピストン15および弁筒20を後退方向へ付勢するブースタ戻しばね79が縮設される。
【0046】
次にこの実施例の作用について説明すると、負圧ブースタBの休止状態では、図1および図2に示すように、弁筒20に取り付けられたキー65が、後部シェル半体11bにおけるストッパ壁66の前面に当接し、このキー65に入力ピストン25の頸部25cの前端面が当接することにより、ブースタピストン15および入力杆26がそれぞれの後退限に位置している。このとき、弁ピストン35はセットばね38の付勢力で入力ピストン25上の止め輪36に当接する後退位置に保持されており、この弁ピストン35の後端の大気導入弁座39は弁体41の弁部41aに着座しながら、この弁部41aを押圧して負圧導入弁座40から僅かに離座させている。これによって大気導入口59および第2ポート52間の連通が遮断されるとともに、第1および第2ポート51,52間が連通される。したがって負圧室17の負圧が両ポート51,52を通して作動室18に伝達し、両室17,18は同圧となっているため、ブースタピストン15および弁筒20はブースタ戻しばね79の付勢力により後退位置に保持される。
[通常ブレーキ]
車両を制動すべくブレーキペダルPを普通の速度で踏込み、入力杆26および入力ピストン25を前進させれば、入力ピストン25は、図5で示すように、後退位置に保持された状態の弁ピストン35を伴なって前進する。したがって弁ばね47の付勢力で、弁体41は直ちに伸縮筒部41bを伸ばしながら弁部41aを負圧導入弁座40に着座させることになり、それと同時に、大気導入弁座39が弁体41から離れることによって第1および第2ポート51,52間の連通が遮断されるとともに、第2ポート52が弁体41の内側を通して大気導入口59と連通される。
【0047】
その結果、大気導入口59から弁筒20内に流入した大気が大気導入弁座39を通過し、第2ポート52を経て作動室18に導入され、作動室18を負圧室17より高圧にするので、それらの気圧差に基づく前方推力を得てブースタピストン15は、弁筒20、作動ピストン115、弾性反力ピストン22、出力ピストン75および出力杆77を伴いながらブースタ戻しばね79の力に抗して前進し、出力杆77によりブレーキマスタシリンダMのピストン13が前方に押圧されるようになる。このように大気導入弁座39は、入力杆26の前進と同時に前進して、弁部41aから離座することで、ブースタピストン15の応答性を高めることができる。
【0048】
入力杆26の前進初期、入力ピストン25のピストン前部25bが間隙gを詰めて弾性反力ピストン76に当接するまでは、大気導入弁座39が開いても、入力杆26は反力機構73から反力を受けないので、出力杆77の出力は、図8に線a−bで示すように急速に立ち上がるジャンピング特性を示す。
【0049】
また入力杆26の前進操作時には、弁筒20の前部環状室49に臨む弁部41aの前面には、第1ポート51から前部環状室49に伝達する負圧が作用するのに対して、弁筒20の後部環状室50に臨む弁部41aの背面には、第2ポート52から軸方向連通孔55を介して後部環状室50に伝達する大気圧が作用するので、弁部41aは、弁ばね47のセット荷重による他、前部および後部環状室49,50間の気圧差によっても負圧導入弁座40との着座方向へ付勢されることになる。したがって、上記気圧差による付勢力分、弁ばね47のセット荷重を低減することが可能となり、それに伴い入力杆26を後退方向へ付勢する入力戻しばね48のセット荷重の低減も可能となり、その結果、比較的小さい初期操作入力によりジャンピング特性が得られので、ブレーキマスタシリンダMおよび各車輪ブレーキの無効ストロークを素早く排除して、各車輪ブレーキの応答性を高めることができる。
【0050】
またこの状態において、弁部41aの外周のシールリップ43は、後方に屈曲して、弁筒20の内周面に密接しているので、前部および後部環状室49,50間の気圧差により、上記内周面への密接力が高められ、両環状室49,50間の気密を確保することができる。
【0051】
入力ピストン25のピストン前部25bが弾性反力ピストン76に当接してからは、出力杆77の作動反力の一部が弾性反力ピストン76を介して入力杆26にフィードバックされることになるので、操縦者は出力杆77の出力の大きさを感受することができる。
【0052】
希望の出力を得たところで入力杆26の前進を停止すれば、ブースタピストン15の前進は、弁体41の弁部41aを再び大気導入弁座39に着座させて、それ以上の大気の負圧室3への導入を阻止することで停止する。したがって弁筒20およびブースタピストン15は、入力杆26の前進に倣って前進することになる。
【0053】
ところで、入力杆26の前進速度が比較的低い通常ブレーキ時には、入力杆26に対するブースタピストン15および弁筒20の追従遅れが比較的少ないから、入力杆26および弁筒20の相対変位も少なく、また入力杆26に連結した入力ピストン25とともに前進する弁ピストン35と、弁筒20に連結した係止部材30との相対変位も少ない。したがって弁ピストン35と前後動をともにする連結部材67の連結板部67c…は、その係合爪69…を前記係止部32よりも後方の前記係止部材30の外周面であるテーパ面33上を僅かに移動するのみで、係止部32に係合することはない。
【0054】
そして出力杆77の出力は、弾性反力ピストン76に当接する作動ピストン74および入力ピストン25におけるピストン前部25aの受圧面積の比によって定まる倍力比をもって、図6の線b−cで示すように増加する。
【0055】
負圧室17および作動室18間の気圧差が最大となる倍力限界点cに達してからは、出力杆77の出力は、線c−dに示すように、ブースタピストン15の上記気圧差による最大推力と、入力杆26への操作入力との和となる。
[緊急ブレーキ]
ブレーキペダルPを急速に踏み込む緊急ブレーキ時には、入力ピストン25の前進速度が速いため、ブースタピストン15および弁筒20が前進し始める前に、入力ピストン25のピストン前部25bによって弾性反力ピストン76を圧縮しながら、入力ピストン25および弁ピストン35を大きく前進させる。すると、図7で示すように、弁ピストン35に取付けられた連結部材67のばね板部67c…の前端の係合爪69…が、係止部材30の係止部32に係合し、連結部材67は、セットばね38の付勢力に抗して、弁筒20に取付けられた係止部材30と連結状態となり、弁ピストン35、入力ピストン25および弁筒20が実質的に一体化されることになり、大気導入弁座39が弁体41の弁部41aから最大に引き離された全開状態に保持される。
【0056】
而して緊急ブレーキ時には、大気導入弁座39の全開状態で弁ピストン35が係止部材30に図6で示す連結点eで連結されることになり、連結後にはブースタピストン15および弁筒20が入力杆26の前進に倣うように僅かに前進しても、弁ピストン35は弁筒20と一体となって前進することになるから、大気導入弁座39の全開状態は維持される。その結果、大量の大気が負圧室17に一気に導入され、図6の線e−fで示すように、負圧室17および作動室18間の気圧差が最大となる倍力限界点fに即座に到達し、通常ブレーキ時に比べてΔPだけの出力増大を図ることができ、マスタシリンダMのピストン13を強力に押圧し続け、緊急ブレーキに対応することができる。
【0057】
この緊急ブレーキ時でも、大気導入弁座39は、入力杆26の前進と同時に前進して、弁部41aから離座することができるので、ブースタピストン15の応答性を高めることができる。
【0058】
また連結部材67を介して弁ピストン35および係止部材30が連結された状態で、入力ピストン25および弁ピストン35間に設けられるセットばね38のばね荷重は、入力ピストン25に前進方向で作用するので、緊急ブレーキ時のブレーキ操作力を軽減することができる。
【0059】
さらに連結部材67の係合爪69…を係止部材30の係止部32に係合させるのに必要な前記入力ピストン25の前記弁筒20に対する前進方向の先行ストローク量は、入力ピストン25の軸方向に沿う前記連結部材67の寸法を変更することで変化させることができ、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト開始閾値を前記連結部材67の寸法変更によって容易に調整することができる。
[緊急ブレーキ状態からの解除]
緊急ブレーキ状態を解除すべく、ブレーキペダルPから踏力を解放すると、先ず入力杆26および入力ピストン25が入力戻しばね48の力をもって後退する。入力ピストン25が後退を始めると、図8に示すように、入力ピストン25のフランジ部25dが、連結板部67c…の突起71…に当接して係合爪69…を前記係止部32から離脱させるように連結板部67c…を押し広げるので、連結部材67の係止部材30への係合状態が解除される。その後は、弁ピストン35が、セットばね38の付勢力によって入力ピストン25の止め輪36に当接する後退位置に直ちに復帰して、大気導入弁座39を弁体41の弁部41aに着座させるとともに、その弁部41aを後方へ押して負圧導入弁座40から離座させるので、作動室18が第2ポート52および第1ポート51を介して負圧室17と連通し、作動室18への大気の導入が阻止されるとともに、作動室18の空気が負圧室17を経て負圧源Vに吸入され、それらの気圧差が無くなる。これによりブースタピストン15も、ブースタ戻しばね27の弾発力をもって後退し、マスタシリンダMの作動を解除していく。
【0060】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】負圧ブースタの縦断面図である。
【図2】負圧ブースタが非作動状態にあるときの図1の2矢示部拡大図であって図3の2−2線に沿う断面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】ガイド手段、キーおよび連結部材の分解斜視図である。
【図5】通常ブレーキ状態での図2に対応した断面図である。
【図6】負圧ブースタの出力特性を示す線図である。
【図7】緊急ブレーキ状態での図2に対応した断面図である。
【図8】緊急ブレーキ解除状態での図2に対応した断面図である。
【符号の説明】
【0062】
11・・・ブースタシェル
15・・・ブースタピストン
17・・・負圧室
18・・・作動室
20・・・弁筒
25・・・入力ピストン
25d・・・フランジ部
26・・・入力杆
27・・・制御弁
30・・・係止部材
32・・・係止部
35・・・弁ピストン
38・・・セットばね
39・・・大気導入弁座
40・・・負圧導入弁座
48・・・入力戻しばね
61・・・ガイド手段
63・・・スリット
67・・・連結部材
67c・・・連結板部
69・・・係合爪
70・・・突起
73・・・反力機構
77・・・出力杆
B・・・負圧ブースタ
V・・・負圧源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブースタシェル(11)に、その内部を負圧源(V)に連なる前側の負圧室(17)と後側の作動室(18)とに区画するブースタピストン(15)が収容され、前記ブースタシェル(11)の後壁に摺動自在に支承される弁筒(20)が前記ブースタピストン(15)に連設され、前後動可能の入力杆(26)と、この入力杆(26)を後退方向に付勢する入力戻しばね(48)と、前記入力杆(26)に連動、連結される入力ピストン(25)と、該入力ピストン(25)に対して所定の後退位置から前方へ摺動し得るようにして前記入力ピストン(25)に嵌合する弁ピストン(35)と、該弁ピストン(35)を前記後退位置側に付勢するばね力を発揮して前記入力ピストン(25)および前記弁ピストン(35)間に設けられるセットばね(38)と、前記弁ピストン(35)に形成される大気導入弁座(39)ならびに前記弁筒(20)に形成される負圧導入弁座(40)を有するとともに前記入力杆(26)の前後動に応じて前記作動室(18)を前記負圧室(17)と大気とに連通切換えする制御弁(27)とが、前記弁筒(20)内に配設され、前記弁筒(20)および前記入力ピストン(25)と、前記ブースタシェル(11)の前壁に摺動可能に支承される出力杆(77)との間に、前記入力杆(26)による操作入力と、前記作動室(18)および前記負圧室(17)間の気圧差によるブースタピストン(15)の推力との合力を前記出力杆(77)に伝達する反力機構(73)が介設される負圧ブースタにおいて、外周に係止部(32)を有する係止部材(30)が前記入力ピストン(25)の前部を囲繞して前記弁筒(20)に取付けられ、前記入力ピストン(25)の周囲に配置されて前後に延びるとともに前端部を前記入力ピストン(25)の半径方向内方に向かわせる弾発力を発揮する複数の連結板部(67c)と、前記係止部(32)に前方側から係合することを可能として前記各連結板部(67c)の前端に設けられる複数の係合爪(69)とを有する連結部材(67)の後端部が前記弁ピストン(35)に取付けられ、前記連結部材(67)は、前記入力ピストン(25)および前記弁ピストン(35)が前記弁筒(20)に対して所定ストローク以上先行前進した緊急ブレーキ時には前記係止部(32)に前記各係合爪(69)を係合させて前記大気導入弁座(39)を開放状態に維持するものの、非緊急ブレーキ時には前記各係合爪(69)を前記係止部(32)よりも後方で前記係止部材(30)の外周に当接させるように形成されることを特徴とする負圧ブースタ。
【請求項2】
前記連結部材(67)の各連結板部(67c)の前後方向中間部には内方に突出した突起(70)が一体に設けられ、前記入力ピストン(25)には、ブレーキ作動状態では前記突起(70)の前方に在るものの、緊急ブレーキの解除時には、前記入力ピストン(25)の前記弁ピストン(35)に対する後退動作に応じて前記突起(70)に当接して前記係合爪(69)を前記係止部(32)から離脱させるように前記連結板部(67c)を押し広げるフランジ部(25d)が一体に設けられることを特徴とする請求項1記載の負圧ブースタ。
【請求項3】
前記連結部材(67)の前記各連結板部(67c)をそれぞれ挿通せしめる複数のスリット(63)を形成するガイド手段(61)が、前記入力ピストン(25)の前後動をガイドするようにして前記弁筒(20)に設けられることを特徴とする請求項1または2記載の負圧ブースタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−36716(P2010−36716A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201650(P2008−201650)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】