説明

負圧式倍力装置

【課題】 スライドバルブに設けたフック部と係合離脱可能なフック部を揺動端に有する係止部材の揺動端が周方向に横振れすることを抑制する。
【解決手段】 入力部材30のバルブボデー22に対する前進量が所定値以下の場合にスライドバルブ50を前方所定位置に保持する保持手段は、バルブボデー22の前端部と入力部材30の先端部外周間に設けられて前端部前面71aで反動部材81に当接し後端外周部71bでバルブボデー22の段部22kに当接する筒状の保持部材71と、保持部材71の外周部に設けた前後方向に延びる収容溝71cに組付けられて周方向の移動を規制されるとともに収容溝71cの底壁に形成した係止部71c2に係合して径方向に揺動可能で揺動端にフック部72aを有する係止部材72と、保持部材71に組付けられて係止部材72のフック部72aをスライドバルブ50のフック部50bに向けて付勢する付勢部材73を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ装置に採用される負圧式倍力装置に関し、特に、運転者が慌ててブレーキペダルを踏み込んだ時のような緊急ブレーキ操作時のブレーキペダル踏力の不足を補うことができるようにした負圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の負圧式倍力装置の一つとして、内部に圧力室を形成するハウジングと、このハウジング内に前進後退可能に組付けられて前記圧力室を定圧室と変圧室とに区画する可動隔壁と、この可動隔壁の可動部に結合されて前後方向に貫通する軸孔を有するバルブボデーと、このバルブボデーの前記軸孔に前進後退可能に組付けられて外部からの操作力を受ける入力部材と、前記バルブボデーの推進力を外部に出力する出力部材と、この出力部材と前記バルブボデーおよび前記入力部材に当接して出力の反力を前記バルブボデーおよび前記入力部材に伝える反動部材と、前記バルブボデーの軸孔内にて前記入力部材の外周に同軸的かつ前進後退可能に組付けられたスライドバルブと、前記入力部材の前記バルブボデーに対する前進量が所定値以下の場合には前記スライドバルブを前方所定位置に保持する保持手段と、前記入力部材の前記バルブボデーに対する前進量が所定値より大きい場合には前記スライドバルブを後方位置に所定量移動させる可動手段と、前記バルブボデーと前記スライドバルブが前記ハウジングに対して所定位置に戻った場合には前記スライドバルブを前記前方所定位置に復帰させる復帰手段とを備えるとともに、前記入力部材に設けた大気弁座とにより前記変圧室と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部と前記バルブボデー又は前記スライドバルブに設けた負圧弁座とにより前記変圧室と前記定圧室との連通・遮断を制御する負圧制御弁部を有して前記バルブボデーの前記軸孔に組付けられた制御弁を備えたものがあり、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【特許文献1】国際公開第WO01/32488号パンフレット
【0003】
上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置は、その入力−出力特性を、通常ブレーキ用特性と緊急ブレーキ用特性に切り換えることができるように構成し、緊急ブレーキ操作時には負圧式倍力装置の入力−出力特性を通常ブレーキ用特性から緊急ブレーキ用特性に切り換えるようにしたものである。これにより、通常ブレーキ操作時にブレーキペダルを強く踏み込んだ時の踏力に比して踏力が相当に小さい緊急ブレーキ操作時において、通常ブレーキ操作時にブレーキペダルを強く踏み込んだ時と同じ結果を得ることが可能である。
【0004】
ところで、上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置においては、前記保持手段が、前記バルブボデーの前端部と前記入力部材の先端部外周間に設けられて前端部前面で前記反動部材に当接し前端部外周に形成した環状フランジ部の後端外周部で前記バルブボデーの段部に当接する筒状の保持部材と、この保持部材の前記環状フランジ部より後方にて前記保持部材の外周部に設けた係止部(係止溝)に係合して同係合部を支点として径方向に揺動可能で前記スライドバルブに設けたフック部と係合離脱可能なフック部を揺動端に有する複数個の係止部材と、これら係止部材の外周に組付けられて前記係止部材のフック部を前記スライドバルブのフック部に向けて付勢する付勢部材を備えている。
【0005】
しかし、この従来の負圧式倍力装置では、前端部前面で反動部材に当接して出力の反力を受ける保持部材が、前端部外周に形成した環状フランジ部(保持部材の前後方向全長に比して短いもの)の後端外周部でバルブボデーの段部に当接していて、この環状フランジ部に上記した反力による剪断力が作用する構造であり、また、当該負圧式倍力装置の全長(前後方向の長さ)に制約があって、保持部材の前端部外周に形成される環状フランジ部の前後方向長さを十分に大きくすることができないため、保持部材の素材を剛性が高くて安価な素材、例えば鉄等の金属とする必要がある。この場合には、保持部材の外周部に設ける係止部(係止溝)を機械加工で形成する必要があって、保持部材の生産性は悪いものとなる。
【0006】
また、従来の負圧式倍力装置では、係止部材が保持部材の外周部に組付けられるものであり、係止部材の揺動端が周方向に大きく横振れするおそれがある。この場合には、係止部材が所期の作動をしなくなって、係止部材のフック部とスライドバルブのフック部の係合離脱タイミングが不安定となり、当該保持手段の機能(入力部材のバルブボデーに対する前進量が所定値以下の場合にはスライドバルブを前方所定位置に保持する機能)が不安定となるおそれがある。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、上記した形式の負圧式倍力装置において、前記保持手段が、前記バルブボデーの前端部と前記入力部材の先端部外周間に設けられて前端部前面で前記反動部材に当接し後端外周部で前記バルブボデーの段部に当接する筒状の保持部材と、この保持部材の外周部に設けた前後方向に延びる収容溝に組付けられて周方向の移動を規制されるとともに前記収容溝の底壁に形成した係止部に係合して同係合部を支点として径方向に揺動可能で前記スライドバルブに設けたフック部と係合離脱可能なフック部を揺動端に有する係止部材と、前記保持部材に組付けられて前記係止部材のフック部を前記スライドバルブのフック部に向けて付勢する付勢部材を備える構成とした。
【0008】
この負圧式倍力装置においては、スライドバルブに設けたフック部と係合離脱可能なフック部を揺動端に有する係止部材が、保持部材の外周部に設けた前後方向に延びる収容溝に組付けられて周方向の移動を規制されるため、係止部材の揺動端が周方向に横振れすることは規制される。これにより、係止部材の横振れに伴う作動不良を抑制し得て、当該保持手段の機能を安定したものとすることが可能である。
【0009】
また、この負圧式倍力装置においては、前端部前面で反動部材に当接して出力の反力を受ける保持部材が、後端外周部でバルブボデーの段部に当接していて、保持部材の前後方向全長(全体)に上記した反力による剪断力が作用する構造であるため、上記した従来の構造(保持部材の前端部外周に形成した環状フランジ部に剪断力が作用する構造)に比して、保持部材の素材を剛性が低くて安価な素材、例えば合成樹脂とすることが可能である。この場合には、保持部材の外周部に設ける収容溝や、この収容溝の底壁に形成する係止部を型成形によって形成することが可能であって、保持部材の生産性を向上させることが可能である。
【0010】
また、本発明の実施に際して、前記バルブボデーと前記保持部材を同一樹脂材料にて形成した場合には、バルブボデーと保持部材に熱膨張差が生じなくて、周囲温度が変化しても、バルブボデーと保持部材の関係は変化しない。したがって、バルブボデーと保持部材では、組付けた状態の関係が維持され、周囲温度が変化しても、径方向隙間の拡大がないので同隙間への反動部材のカジレ(喰い込み)がない。
【0011】
また、本発明に実施に際して、前記付勢部材が前記保持部材および前記係止部材の各外周部に亘って形成された環状の溝に組付けられたガータースプリングであって、このガータースプリングによって前記係止部材が前記保持部材と一体化されている場合には、保持部材、係止部材およびガータースプリング等をユニット化してバルブボデーへの組付性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明による負圧式倍力装置を示していて、この負圧式倍力装置は、ハウジング10に組付けられて可動隔壁21とバルブボデー22を備えるパワーピストン20と、このパワーピストン20のバルブボデー22に組付けられた入力部材30と出力部材40とスライドバルブ50と制御弁60等を備えている。
【0013】
ハウジング10は、図1に示したように、内部に圧力室Roを形成する前方シェル11と後方シェル12を備えていて、内部の圧力室Roが可動隔壁21によって負圧導入管13を通して負圧源(例えば、図示省略のエンジンの吸気マニホールド)に常時連通する定圧室R1と、この定圧室R1と大気にそれぞれ連通・遮断する変圧室R2とに区画されている。このハウジング10は、ハウジング10と可動隔壁21を気密的に貫通する複数本(図1では1本が示されている)のタイロッド14の後端部に設けられたねじ部にて静止部材、すなわち車体(図示省略)に固定されるように構成されている。なお、タイロッド14の前端部に設けられたねじ部には、ブレーキマスタシリンダ100が組付けられている。
【0014】
可動隔壁21は、金属製のプレート21aとゴム製のダイアフラム21bとから成り、ダイアフラム21bの外周縁部を除いてハウジング10に対して前後方向へ移動可能に設置されている。ダイアフラム21bは、その外周縁に形成されたビード部にて、後方シェル12の外周縁に設けられた折り返し部と前方シェル11とにより気密的に挟持されている。また、ダイアフラム21bは、その内周縁に形成されたビード部にて、バルブボデー22の前方フランジ部外周に設けられた溝に、プレート21aとともに気密的に固定されている。
【0015】
図1に示したブレーキマスタシリンダ100は、そのシリンダ本体101の後端部101aが前方シェル11に形成された中心筒部11aを貫通して定圧室R1内に気密的に突入し、またシリンダ本体101に形成されたフランジ部101bの後面が前方シェル11の前面に当接している。また、ブレーキマスタシリンダ100のピストン102は、シリンダ本体101から後方に突出して定圧室R1内に突入しており、出力部材40の先端によって前方に押動されるように構成されている。
【0016】
バルブボデー22は、可動隔壁21の内周可動部に結合された樹脂製の中空体であって、円筒状に形成された部位にてハウジング10の後方シェル12に気密的かつ前後方向へ移動可能に組付けられており、ハウジング10の前方シェル11との間に介装されたスプリング15によって後方に付勢されている。また、バルブボデー22の軸心には、図2に示したように、前端面から後端面に向けて、反力室孔22a、保持部材収容孔22b、プランジャ・バルブ収容孔22c、制御弁収容孔22d、フィルタ収容孔22e等からなり、前後方向に貫通する軸孔が設けられている。また、バルブボデー22には、反力室孔22aに対して連続的で保持部材収容孔22bに対して同心的に環状凹溝22fが設けられている。
【0017】
また、バルブボデー22には、プランジャ・バルブ収容孔22cに対応してキー部材挿通孔22gが径方向に設けられている。また、バルブボデー22には、定圧室R1と制御弁収容孔22dを連通可能な連通孔22hが設けられていて、この連通孔22hの後端部には制御弁60の負圧弁部60aが着座可能な負圧弁座22iが形成されている。
【0018】
入力部材30は、バルブボデー22内にて同バルブボデー22に対し前進後退可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける部材であり、バルブボデー22の中間部内に収容されてバルブボデー22に対して軸方向(前後方向)に移動可能なプランジャ31と、このプランジャ31に球状先端部32aにて関節状に連結されて後端部32bにてブレーキペダル110に連結される入力ロッド32を備えている。また、入力部材30は、バルブボデー22の保持部材収容孔22bに組付けた保持部材71に軸方向へ移動可能に組付けられてプランジャ31の先端に後端にて当接する当接部材33を備えている。
【0019】
プランジャ31は、図2にて示したように、その先端部31aにて当接部材33を介してバルブボデー22の反力室孔22aに収容された反動部材81に係合可能であり、その後端には制御弁60の大気制御弁部60bに離座可能に着座する環状の大気弁座31bが形成されている。反動部材81は、リアクションゴムディスクであり、図2および図3にて示したように、出力部材40における後方部材41の円筒部41a内に収容された状態にてバルブボデー22の反力受け面22jに当接するとともに、保持部材71の前端部前面71aと当接部材33の前端部前面33aに当接可能となっている。
【0020】
出力部材40は、反動部材81とともにバルブボデー22の反力室孔22aと環状凹溝22fに軸方向へ移動可能に組付けられた後方部材41と、この後方部材41の先端部に一体的に組付けられた出力ロッド42(図1参照)によって構成されていて、出力ロッド42の先端はブレーキマスタシリンダ100におけるピストン102の係合部に押動可能に当接している。
【0021】
スライドバルブ50は、バルブボデー22と入力部材30間にてバルブボデー22に気密用シールリング51を介して同軸的かつ前進後退可能(軸方向移動可能)に組付けられていて、バルブボデー22とスライドバルブ50間に介装したスプリング52により後方に付勢されており、その後端には制御弁60の第2の負圧制御弁部60cに着座可能な第2の負圧弁座50aが形成されている。また、スライドバルブ50は、その軸方向移動位置がバルブボデー22に組付けたキー部材53、係止部材72、ガータースプリング73等によって規定されるように構成されている。
【0022】
また、スライドバルブ50は、図3〜図6にて示したように、その前端部外周に環状のフック部50bと環状の押動斜面50cを有し、その中間部にシール取付溝50dと係止面50eを有している。環状のフック部50bは、係止部材72の後方内端に形成されたフック部72aに係合離脱可能であり、環状の押動斜面50cは、係止部材72の後方内端に形成された受動斜面72bに係合離脱可能である。また、係止面50eは、キー部材53の前面と係合離脱可能である。
【0023】
キー部材53は、バルブボデー22に対するプランジャ31とスライドバルブ50の軸方向移動を規定するために、バルブボデー22に形成された径方向のキー部材挿通孔22gに挿通されている。キー部材53の前後方向の肉厚寸法は、キー部材挿通孔22gの前後方向寸法よりも小さく、キー部材53は、バルブボデー22に対して所定量だけ前後方向に移動可能である。
【0024】
このキー部材53は、バルブボデー22から径外方に突出した両端部の後端面にて後方シェル12に当接可能であり、ハウジング10に対するバルブボデー22の後方への移動限界位置は、図2に示すように、キー部材挿通孔22gの前方壁がキー部材53の前端面に当接しかつキー部材53の両端部の後端面が後方シェル12に当接した位置である。また、キー部材53は、その中央部にて、プランジャ31の中央部に形成された環状溝の前後両端面31c,31dに当接可能であり、バルブボデー22に対するプランジャ31の後方への移動限界位置は、環状溝の前端面31cがキー部材53の前端面に当接しかつキー部材53の後端面がキー部材挿通孔22gの後方壁に当接した位置である。また、バルブボデー22に対するプランジャ31の前方への移動限界位置は、環状溝の後端面31dがキー部材53の後端面に当接しかつキー部材53の前端面がキー部材挿通孔22gの前方壁に当接した位置である。
【0025】
また、キー部材53は、その中央部前面にて、スライドバルブ50の中間部に形成された係止面50eに当接可能であり、スライドバルブ50がバルブボデー22に対して後方位置に移動している状態にて、バルブボデー22とスライドバルブ50がハウジング10に対して図2に示した所定位置(復帰位置)に戻る場合には、バルブボデー22の後方への移動を規制する前にスライドバルブ50の後方への移動を規制して、スライドバルブ50をバルブボデー22に対して前方所定位置に復帰させる。
【0026】
保持部材71は、バルブボデー22と同一の樹脂材料にて筒状に形成されていて、バルブボデー22の前端部と入力部材30の先端部外周、すなわち、プランジャ31の先端部31a外周および当接部材33の外周間に設けられており、前端部前面71aで反動部材81に当接し後端外周部71bでバルブボデー22の段部22kに当接している。また、保持部材71には、図3と図7にて示したように、前後方向に延びる収容溝71cと周方向に延びる取付溝71dが形成されるとともに、前後方向に延びる突起71e(図3参照)が形成されている。
【0027】
収容溝71cは、係止部材72の前端部および中間部を収容するものであって、保持部材71の外周部で前後方向の中間部分から後端にまで形成されており、その底壁71c1には係止部(突起)71c2が形成されている。取付溝71dは、ガータースプリング73を取付けるための溝であって、収容溝71cに対応する部分を除いて環状に形成されている。突起71eは、図3に示したように、バルブボデー22に形成した前後方向に延びる直線状溝22mに嵌合していて、保持部材71をバルブボデー22に対して回転方向の位置決めをしている。
【0028】
係止部材72は、保持部材71の収容溝71cに径外方から径内方に向けて組付けられていて、周方向の移動を規制されるとともに、収容溝71cの底壁71c1に形成した係止部(突起)71c2に凹部72cにて係合して同係合部を支点として径方向に揺動可能とされている。この係止部材72は、前後方向の中間外周部に収容溝72dを有し、後端部にフック部72aと受動斜面72bを有し、内周部に受動斜面72eを有している。なお、この実施形態においては、図示省略されているが係止部材72が一対2個用いられていて、径方向にて対向配置されている。
【0029】
係止部材72のフック部72aは、スライドバルブ50における環状のフック部50bと係合離脱可能である。係止部材72の受動斜面72bは、スライドバルブ50における環状の押動斜面50cと係合離脱可能である。係止部材72の収容溝72dは、ガータースプリング73の一部を収容している。係止部材72の受動斜面72eは、プランジャ31に形成された環状の押動斜面31eと係合離脱可能である。
【0030】
ガータースプリング73は、保持部材71および係止部材72の各外周部に亘って形成された環状の溝(保持部材71の取付溝71dと係止部材72の収容溝72dからなる溝)に組付けられていて、係止部材72のフック部72aをスライドバルブ50の環状フック部50bに向けて付勢している。また、ガータースプリング73は、保持部材71と係止部材72を一体化している。
【0031】
上記した構成により、入力部材30におけるプランジャ31のバルブボデー22に対する前進量が所定値以下の場合には、プランジャ31に形成された押動斜面31eが係止部材72の受動斜面72eに係合しなくて、スライドバルブ50のフック部50bと係止部材72のフック部72aの係合が保持され、図2および図3に示したように、スライドバルブ50が前方所定位置に保持される。したがって、係止部材72を揺動可能に支持する保持部材71、係止部材72のフック部72a、スライドバルブ50のフック部50b、ガータースプリング73等がスライドバルブ50を前方所定位置に保持する保持手段として機能する。
【0032】
また、入力部材30におけるプランジャ31のバルブボデー22に対する前進量が所定値より大きい場合には、プランジャ31に形成された押動斜面31eが係止部材72の受動斜面72eに係合して、係止部材72の後端部がガータースプリング73の付勢力に抗して半径方向外方に押動される。このため、スライドバルブ50のフック部50bが係止部材72のフック部72aとの係合を解かれて離脱し、スライドバルブ50がスプリング52により後方位置に所定量移動させられ、スライドバルブ50の後端に形成された第2の負圧弁座50aが制御弁60の第2の負圧制御弁部60cに着座する。したがって、プランジャ31の押動斜面31e、係止部材72の受動斜面72e、スプリング52等がスライドバルブ50を後方位置に所定量移動させる可動手段として機能する。
【0033】
また、スライドバルブ50がバルブボデー22に対して後方位置に移動している状態にて、バルブボデー22とスライドバルブ50がキー部材53の機能によってハウジング10に対して図2に示した所定位置(復帰位置)に戻る場合には、バルブボデー22が所定位置に戻る直前に、スライドバルブ50が所定位置に戻って停止するため、係止部材72の受動斜面72bがスライドバルブ50の押動斜面50cに係合して、係止部材72がガータースプリング73の付勢力に抗して半径方向外方に一時的に押動される。
【0034】
このため、バルブボデー22が所定位置に戻ったときには、係止部材72がガータースプリング73の付勢力により半径方向内方に押されて係止部材72のフック部72aがスライドバルブ50のフック部50bに再係合する。したがって、キー部材53、スライドバルブ50の押動斜面50c、係止部材72の受動斜面72b、ガータースプリング73等がスライドバルブ50を前方所定位置に復帰させる復帰手段として機能する。
【0035】
制御弁60は、図2にて示したように、上記した負圧制御弁部60a、大気制御弁部60bおよび第2の負圧制御弁部60cを有する環状の可動部60Aと、バルブボデー22の制御弁収容孔22dに形成された段部に気密的に嵌合固定された環状の固定部60Bと、環状の可動部60Aと環状の固定部60Bを連結する円筒部60Dによって構成されている。環状の可動部60Aは、入力ロッド32間に介装したスプリング61によって前方に向けて付勢されていて、前後方向に移動可能である。環状の固定部60Bは、入力ロッド32間に介装したスプリング62によって前方に向けて付勢されていて、バルブボデー22に固定されている。
【0036】
負圧制御弁部60aは、バルブボデー22に形成された負圧弁座22iに着座・離座可能であり、負圧弁座22iへの着座によって定圧室R1と変圧室R2の連通を遮断し、負圧弁座22iからの離座によって定圧室R1と変圧室R2を連通させる。大気制御弁部60bは、プランジャ31に形成された環状の大気弁座31bに着座・離座可能であり、環状の大気弁座31bへの着座によって変圧室R2と大気の連通を遮断し、環状の大気弁座31bからの離座によって変圧室R2と大気を連通させる。第2の負圧制御弁部60cは、スライドバルブ50に形成された第2の負圧弁座50aに着座・離座可能であり、第2の負圧弁座50aへの着座によって定圧室R1と変圧室R2の連通を遮断し、第2の負圧弁座50aからの離座によって定圧室R1と変圧室R2を連通させる。
【0037】
フィルタ91,92は、バルブボデー22のフィルタ収容孔22e内にて入力ロッド32間に装着されていて、これらのフィルタ91,92にはバルブボデー22の摺動部を外周から保護するブーツ93に形成された通気孔93aを通して大気が流入可能である。ブーツ93は、前端部にてハウジング10における後方シェル12の後端筒部に嵌合固定され、後端部にて入力ロッド32の中間部外周に嵌合固定されている。
【0038】
上記のように構成したこの実施形態の負圧式倍力装置においては、通常ブレーキ操作時、入力部材30とバルブボデー22との相対移動量(バルブボデー22に対する入力部材30の前進量)が所定値以下であるため、プランジャ31の押動斜面31eが係止部材72の受動斜面72eに係合せず、スライドバルブ50は図2に示した前方所定位置に保持される。したがって、このときには、スライドバルブ50がバルブボデー22に対して移動せず、一般的に知られている通常ブレーキ作動が得られる。
【0039】
一方、運転者が慌ててブレーキペダル110を踏み込む緊急ブレーキ操作時には、入力部材30とバルブボデー22との相対移動量(バルブボデー22に対する入力部材30の前進量)が所定値より大きくなる。このときには、プランジャ31の押動斜面31eが係止部材72の受動斜面72eに係合して、係止部材72がガータースプリング73の付勢力に抗して半径方向外方に押動される。このため、スライドバルブ50のフック部50bが係止部材72のフック部72aとの係合を解かれて離脱し、スライドバルブ50がスプリング52により後方位置に所定量移動させられる。
【0040】
また、スライドバルブ50が後方に移動すると、スライドバルブ50の後端に形成された第2の負圧弁座50aが制御弁60の第2の負圧制御弁部60cに着座し、定圧室R1と変圧室R2との連通を遮断する。このとき、プランジャ31は、入力ロッド32と一体で前方へ移動中であり、スライドバルブ50が制御弁60の可動部60Aを後方へ押し戻しているため、プランジャ31の後端に形成された環状の大気弁座31bと制御弁60の大気制御弁部60bとが急速に離間し、変圧室R2が大気と連通する。その結果、通常ブレーキ動作に比べ、定圧室R1と変圧室R2との連通遮断及び変圧室R2と大気との連通が急速に行われ、ジャンピング状態での出力を通常状態よりも大きくすることが可能となり、通常ブレーキ操作時より大きな推進力(出力)を得ることが可能となる。
【0041】
また、上記した緊急ブレーキ動作が終了してブレーキペダル110が戻されると、プランジャ31は、その環状溝の前端面31cがキー部材53と当接しつつ後方に移動する。キー部材53が後方シェル12に当接すると、キー部材53がスライドバルブ50の係止面50eに当接し、バルブボデー22とともに後退してきたスライドバルブ50の後方への移動を規制する。この後に、バルブボデー22が更に後退するため、バルブボデー22と一体的に後退する係止部材72の受動斜面72bがスライドバルブ50の押動斜面50cに係合して、係止部材72がガータースプリング73の付勢力に抗して半径方向外方に一時的に押動される。
【0042】
このため、バルブボデー22が所定位置に戻ったときには、係止部材72がガータースプリング73の付勢力により半径方向内方に押されて係止部材72のフック部72aがスライドバルブ50のフック部50bに再係合する。したがって、次の緊急ブレーキ動作に備えることになる。
【0043】
ところで、上記した実施形態の負圧式倍力装置においては、スライドバルブ50に設けたフック部50bと係合離脱可能なフック部72aを揺動端に有する係止部材72が、保持部材71の外周部に設けた前後方向に延びる収容溝71cに組付けられて周方向の移動を規制されるため、係止部材72の揺動端が周方向に横振れすることは規制される。これにより、係止部材72の横振れに伴う作動不良を抑制し得て、当該保持手段の機能を安定したものとすることが可能である。
【0044】
また、上記した実施形態の負圧式倍力装置においては、前端部前面71aで反動部材81に当接して出力の反力を受ける保持部材71が、後端外周部71bでバルブボデー22の段部22kに当接していて、保持部材71の前後方向全長(全体)に上記した反力による剪断力が作用する構造であるため、背景技術にて記述した従来の構造(保持部材の前端部外周に形成した環状フランジ部に剪断力が作用する構造)に比して、保持部材71の素材を剛性が低くて安価な合成樹脂とすることができる。また、保持部材71の素材を合成樹脂とすることにより、保持部材71の外周部に設ける収容溝71cや、この収容溝71cの底壁71c1に形成する係止部(突起)71c2を型成形によって形成することができて、保持部材71の生産性を向上させることができる。
【0045】
また、上記した実施形態の負圧式倍力装置においては、バルブボデー22と保持部材71を同一樹脂材料にて形成したため、バルブボデー22と保持部材71に熱膨張差が生じなくて、周囲温度が変化しても、バルブボデー22と保持部材71の関係は変化しない。したがって、バルブボデー22と保持部材71では、組付けた状態の関係が維持され、周囲温度が変化しても、径方向隙間の拡大がないので同隙間への反動部材のカジレ(喰い込み)がない。
【0046】
また、上記した実施形態の負圧式倍力装置においては、保持部材71および係止部材72の各外周部に亘って形成された環状の溝(保持部材71の取付溝71dと係止部材72の収容溝72dからなる溝)にガータースプリング73が組付けられていて、このガータースプリング73によって係止部材72が保持部材71と一体化されているため、保持部材71、係止部材72およびガータースプリング73等をユニット化してバルブボデー22への組付性を向上させることが可能である。
【0047】
上記した実施形態においては、一対2個の係止部材72を用いて本発明を実施したが、この係止部材72の個数は適宜増減可能であり、1個の係止部材72を用いて本発明を実施することも可能である。この場合には、保持部材71に収容溝71cを1個設けることで実施でき、保持部材71の強度を十分に確保することができるとともに、当該負圧式倍力装置の構成部品数を少なくしてシンプルな構成とすることが可能である。
【0048】
また、上記した実施形態においては、バルブボデー22に負圧弁座22iを設けるとともに、スライドバルブ50に負圧弁座50aを設けて本発明を実施したが、スライドバルブ50が前方位置にあるときの負圧弁座50aの位置が上記した負圧弁座22iの位置となるように設定した場合には、バルブボデー22に負圧弁座22iを設けないで実施することも可能である。
【0049】
また、上記した実施形態においては、シングル型の負圧式倍力装置に本発明を実施したが、本発明はタンデム型やトリプル型の負圧式倍力装置にも同様に実施可能であることは勿論のこと、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明による負圧式倍力装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の要部拡大断面図である。
【図3】図2の部分拡大断面図である。
【図4】図2に示したスライドバルブとキー部材の関係を示す正面図である。
【図5】図4に示したスライドバルブとキー部材の側面図である。
【図6】図4の6−6線に沿った断面図である。
【図7】図2および図3に示した保持部材、係止部材、ガータースプリング等の組付状態を示す部分側面図である。
【符号の説明】
【0051】
10…ハウジング、20…パワーピストン、21…可動隔壁、22…バルブボデー、22a…反力室孔、22b…保持部材収容孔、22c…プランジャ・バルブ収容孔、22d…制御弁収容孔、22e…フィルタ収容孔、22f…環状凹溝、22g…キー部材挿通孔、22h…連通孔、22i…負圧弁座、22j…反力受け面、22k…段部、30…入力部材、31…プランジャ、31a…プランジャの先端部、31b…大気弁座、31e…押動斜面、32…入力ロッド、33…当接部材、40…出力部材、50…スライドバルブ、50a…負圧弁座、50b…フック部、50c…押動斜面、51…シールリング、52…スプリング、60…制御弁、60a…負圧制御弁部、60b…大気制御弁部、60c…負圧制御弁部、71…保持部材、71a…前端部前面、71b…後端外周部、71c…収容溝、71c1…収容溝の底壁、71c2…係止部(突起)、71d…取付溝、72…係止部材、72a…フック部、72b,72e…受動斜面、72d…収容溝、73…ガータースプリング(付勢部材)、81…反動部材、Ro…圧力室、R1…定圧室、R2…変圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に圧力室を形成するハウジングと、このハウジング内に前進後退可能に組付けられて前記圧力室を定圧室と変圧室とに区画する可動隔壁と、この可動隔壁の可動部に結合されて前後方向に貫通する軸孔を有するバルブボデーと、このバルブボデーの前記軸孔に前進後退可能に組付けられて外部からの操作力を受ける入力部材と、前記バルブボデーの推進力を外部に出力する出力部材と、この出力部材と前記バルブボデーおよび前記入力部材に当接して出力の反力を前記バルブボデーおよび前記入力部材に伝える反動部材と、前記バルブボデーの軸孔内にて前記入力部材の外周に同軸的かつ前進後退可能に組付けられたスライドバルブと、前記入力部材の前記バルブボデーに対する前進量が所定値以下の場合には前記スライドバルブを前方所定位置に保持する保持手段と、前記入力部材の前記バルブボデーに対する前進量が所定値より大きい場合には前記スライドバルブを後方位置に所定量移動させる可動手段と、前記バルブボデーと前記スライドバルブが前記ハウジングに対して所定位置に戻った場合には前記スライドバルブを前記前方所定位置に復帰させる復帰手段とを備えるとともに、前記入力部材に設けた大気弁座とにより前記変圧室と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部と前記バルブボデー又は前記スライドバルブに設けた負圧弁座とにより前記変圧室と前記定圧室との連通・遮断を制御する負圧制御弁部を有して前記バルブボデーの前記軸孔に組付けられた制御弁を備えた負圧式倍力装置において、
前記保持手段は、前記バルブボデーの前端部と前記入力部材の先端部外周間に設けられて前端部前面で前記反動部材に当接し後端外周部で前記バルブボデーの段部に当接する筒状の保持部材と、この保持部材の外周部に設けた前後方向に延びる収容溝に組付けられて周方向の移動を規制されるとともに前記収容溝の底壁に形成した係止部に係合して同係合部を支点として径方向に揺動可能で前記スライドバルブに設けたフック部と係合離脱可能なフック部を揺動端に有する係止部材と、前記保持部材に組付けられて前記係止部材のフック部を前記スライドバルブのフック部に向けて付勢する付勢部材を備えていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の負圧式倍力装置において、前記保持部材は樹脂成形品であることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項3】
請求項1に記載の負圧式倍力装置において、前記バルブボデーと前記保持部材は同一樹脂材料にて形成されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項4】
請求項1に記載の負圧式倍力装置において、前記付勢部材は前記保持部材および前記係止部材の各外周部に亘って形成された環状の溝に組付けられたガータースプリングであって、このガータースプリングによって前記係止部材は前記保持部材と一体化されていることを特徴とする負圧式倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−76327(P2006−76327A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259373(P2004−259373)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】