説明

負圧式倍力装置

【課題】乱流に起因する作動応答遅れや作動音の発生を抑制する。
【解決手段】負圧式倍力装置では、ハウジング10内を負圧室R1と変圧室R2に区画する可動隔壁21に連結されたバルブボデー22の軸孔22aに、バルブボデー22に対して進退可能なプランジャ32、負圧室R1と変圧室R2間を連通・遮断する負圧弁及び変圧室R2と大気間を連通・遮断する大気弁を備えた弁機構V、プランジャ32とバルブボデー22の前端部が後面に係合可能な反動部材34、反動部材34の前面に後端部にて係合する出力軸35が組付けられている。プランジャ32の外周には、整流部材61が一体的に組付けられている。整流部材61は、テーパー状の大気弁座32dの前方にてその前端部にある剥離部(最大径部)に当接していて、プランジャ32の後端部に設けた大気弁座32dに沿って流れて同大気弁座32dから剥離する際に発生する高いエネルギーを有する乱流を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に適用される負圧式倍力装置に係り、特に、ハウジング内にて可動隔壁によって区画される前方の負圧室と後方の変圧室との間に生じる差圧により、入力が増大されて出力するように構成されている負圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の負圧式倍力装置の一つとして、ハウジング内を前方の負圧室と後方の変圧室とに区画する可動隔壁に連結されたバルブボデーが軸孔を備えていて、この軸孔内には、前記バルブボデーに対して軸方向に進退可能で入力部材と一体的に移動するプランジャと、このプランジャの前記バルブボデーに対する進退移動に応じて前記負圧室と前記変圧室間を連通・遮断する負圧弁および前記変圧室と大気間を連通・遮断する大気弁を備えた弁機構が組み込まれるとともに、前記プランジャの前端部と前記バルブボデーの前端部が後面に係合可能な反動部材と、この反動部材の前面に後端部にて係合し前記バルブボデーに対して軸方向に移動可能な出力部材が組付けられており、前記大気弁が、前記プランジャの後端部に設けたテーパー状の大気弁座と、この大気弁座に対して着座・離座可能に配置された環状の大気弁部を備えているものがあり、例えば、下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−291119号公報
【0004】
上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置においては、プランジャの外周にてバルブボデーの軸孔内に組付けた弁機構の円筒状弁体内に、円筒状の消音部材が組付けられていて、円筒状の消音部材が、弁機構の円筒状弁体と一体的に移動し、プランジャの外周に摺接する状態にて相対移動するように構成されている。このため、円筒状の消音部材は、円筒状弁体を有するタンデムバルブに使用が限定される上、構造上、空気流路面積をすべて埋めるように配置されるため、流れ抵抗となり、作動応答遅れが生じる。また、円筒状の消音部材は、弁座(第2弁座)とプランジャ間に挟み込まれて、気密漏れを引き起こすおそれがある。なお、上記した構成にて消音部材がプランジャに摺接しないように、消音部材とプランジャの外周間に環状の隙間が形成されている場合には、プランジャの弁座に沿って流れる大気(空気)が、消音部材とプランジャ間の環状隙間を流れて、消音部材の内部を通過し難くなって、消音部材が有効に機能しなくなる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、上記した課題を解消すべくなされたものであり、上記した負圧式倍力装置において、前記大気弁座に沿って流れてきた空気が同大気弁座から剥離する(離れる)際に、高いエネルギーを有する乱流を吸収する整流部材が、前記大気弁座の前方にて、前記プランジャの外周に一体的に組付けられており、前記テーパー状の大気弁座の前端部にある剥離部(最大径部)に当接していることを特徴とする負圧式倍力装置に特徴がある。この場合において、前記整流部材は、吸音性・通気性を有する連続気泡の多孔質材料にて形成されていることが望ましい。
【0006】
本発明による負圧式倍力装置においては、大気弁が開いて変圧室と大気が連通し、大気(空気)が大気弁を通して変圧室に流入する際に、大気弁座から剥離される空気を剥離直後に整流部材によって整流することができて、剥離直後の部位に生じる乱流エネルギーを吸収することができる。したがって、剥離直後の部位での乱流の発生が抑制され、乱流に起因する作動応答遅れや作動音の発生が抑制される。また、整流部材は、テーパー状の大気弁座の前端部にある剥離部(最大径部)に当接しておればよく、流路を無用に狭めることがないため、空気の流れ抵抗になり難く、応答性を損なうことが殆どない。更に、整流部材は、大気弁座の前方にて、プランジャの外周に一体的に組付けられるため、大気弁座(プランジャ)と大気弁部間に挟み込まれるおそれもない。
【0007】
上記した本発明の実施に際して、前記整流部材は円筒状に形成されていて、同整流部材の外周は、後端部を除いて、前方を小径とするテーパー形状に形成されているも可能である。この場合には、整流部材の外周に形成される通路の流路面積が変圧室に向けてなだらかに増大変化するため、変圧室に入る大気の急激な体積増大変化を抑制することができて、変圧室での大気の急激な体積増大変化に伴う乱流の発生を抑制することができる。このため、乱流に起因する作動応答遅れや作動音の発生が更に抑制される。
【0008】
また、上記した本発明の実施に際して、前記プランジャの前記大気弁座より前方には、前記整流部材の後端部内周が組付けられる円筒部が、前記大気弁座の大径部に対して同一径で連続して形成されていることも可能である。この場合には、大気弁座の前方に円筒部が大気弁座の大径部に対して同一径で連続して形成されることにより、円筒部の軸方向寸法にバラツキがあっても大気弁座の外形寸法を精度よく形成することができて、大気弁座を容易かつ正確に形成することが可能である。また、この場合には、大気弁座の径外方端が尖った形状とならないため、外周部の傷付やへこみを防止するための特別な管理をする必要がない。
【0009】
また、上記した本発明の実施に際して、前記プランジャの前記大気弁座より前方には、前記大気弁座の大径部と同一径の円筒部が前記大気弁座に連続して形成されていて、この円筒部の後端部外周に形成した環状溝には円環状に形成されている前記整流部材が組付けられていることも可能である。この場合には、整流部材の小型化・低コスト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による負圧式倍力装置の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示した負圧式倍力装置の要部拡大断面図(図3に示したバルブボデーのA−B−Cでの断面図)である。
【図3】図1および図2に示したバルブボデー単体の背面図である。
【図4】本発明による負圧式倍力装置の第2実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図5】本発明による負圧式倍力装置の第3実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図6】本発明による負圧式倍力装置の第4実施形態を示す要部拡大断面図である。
【図7】本発明による負圧式倍力装置の第5実施形態を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明を車両用ブレーキの負圧式倍力装置に実施した第1実施形態を示していて、この第1実施形態の負圧式倍力装置においては、ハウジング10に可動隔壁21とバルブボデー22を備えるパワーピストン20が組付けられていて、ハウジング10内が可動隔壁21により前方の負圧室R1と後方の変圧室R2とに区画されている。
【0012】
ハウジング10は、図1に示したように、前方シェル11と後方シェル12を備えるとともに、負圧室R1を負圧源(例えば、図示省略のエンジンの吸気マニホールド)に常時連通させるための負圧導入管13を備えている。このハウジング10は、同ハウジング10と可動隔壁21を気密的に貫通する複数本(図1では1本が示されている)のタイロッド14の後端部に設けられたねじ部14aにて静止部材、すなわち車体(図示省略)に固定されるように構成されている。なお、タイロッド14の前端部に設けられたねじ部14bには、ブレーキマスタシリンダ100が組付けられている。
【0013】
ブレーキマスタシリンダ100は、そのシリンダ本体101の後端部101aが前方シェル11に形成された中心筒部11aを貫通して負圧室R1内に気密的に突入し、またシリンダ本体101に形成されたフランジ部101bの後面が前方シェル11の前面に当接している。また、ブレーキマスタシリンダ100のピストン102は、シリンダ本体101から後方に突出して負圧室R1内に突入しており、後述する出力軸35の先端ロッド部35aによって前方に押動されるように構成されている。
【0014】
パワーピストン20の可動隔壁21は、金属製で環状のプレート21aと、ゴム製で環状のダイアフラム21bとからなり、ハウジング10内にて前後方向(パワーピストン20の軸方向)へ移動可能に設置されている。ダイアフラム21bは、その外周縁に形成された環状の外周ビード部にて、後方シェル12の外周縁に設けられた折り返し部と前方シェル11とにより気密的に挟持されている。また、ダイアフラム21bは、その内周縁に形成された環状の内周ビード部にて、バルブボデー22の前端部外周に形成した環状の溝にプレート21aの内周部とともに気密的に固定されている。
【0015】
パワーピストン20のバルブボデー22は、可動隔壁21の内周部に連結された樹脂製の中空体であって、円筒状に形成された中間部位にてハウジング10の後方シェル12に気密的かつ前後方向へ移動可能に組付けられており、ハウジング10の前方シェル11との間に介装されたリターンスプリング15によって後方に向けて付勢されている。なお、バルブボデー22のハウジング10外に突出する部位は、後端に複数の通気孔19aを有するブーツ19によって被覆保護されている。
【0016】
また、バルブボデー22には、図2および図3に示したように、前後方向にて貫通する段付の軸孔22aが形成されるとともに、この軸孔22aの中間段部に後端にて連通するとともに前端にて負圧室R1に連通する一対の(図1および図2では一方のみが示されている)負圧連通路22bと、軸孔22aの前方部分に略直交していてキー部材39を外周から挿通可能な一対の(図1および図2では一方のみが示されている)キー取付孔22cが形成されている。
【0017】
上記した軸孔22aには、入力軸31とプランジャ32が同軸的に組付けられるとともに、弁機構Vとフィルタ51,52が同軸的に組付けられている。また、上記した軸孔22aには、プランジャ32の前方に、反動部材34および出力軸(出力部材)35が同軸的に組付けられている。
【0018】
入力軸31は、バルブボデー22に対して進退可能であり、球状先端部31aにてプランジャ32の受承連結部32cに関節状に連結され、後端ねじ部31bにてヨークを介してブレーキペダル(共に図示省略)に連結されていて、ブレーキペダルに作用する踏力を入力として前方に向けて受けるように構成されている。
【0019】
プランジャ32は、その先端部32aにて反動部材34における後面の中央部位に係合可能であるとともに、その中間部に形成した環状フランジ部32bにてキー部材39に係合可能であって、先端部32aが反動部材34から出力の反力を部分的に受ける部分である。また、プランジャ32の後端には、弁機構Vの環状大気弁部41bに離座可能に着座する環状の大気弁座32dが形成されていて、この大気弁座32dと弁機構Vの環状大気弁部41bによって、変圧室R2と大気間を連通・遮断する大気弁が構成されている。
【0020】
反動部材34は、その後面の中央部位が後方に膨出変形可能なリアクションゴムディスクであり、出力軸35の後方円筒部35b内に収容されて前面全体にて出力軸35の後端部後面に係合(当接)した状態にて、バルブボデー22の前端部に組付けられている。この反動部材34は、その後面にて、プランジャ32の先端部32a前面に当接可能であるとともに、バルブボデー22の円環状前端面に当接している。
【0021】
出力軸35は、反動部材34とともにバルブボデー22の軸孔22aの前端部内に前後方向へ移動可能に組付けられていて、図1に示したように、先端部に組付けた先端ロッド部35aにてブレーキマスタシリンダ100におけるピストン102の係合部に押動可能に当接しており、制動作動時にはブレーキマスタシリンダ100のピストン102から受ける反力を反動部材34に伝達するようになっている。
【0022】
キー部材39は、パワーピストン20のバルブボデー22に対するプランジャ32の前後方向移動を規定する機能と、ハウジング10に対するパワーピストン20の後方への移動限界位置(バルブボデー22の後方復帰位置)を規定する機能を有していて、バルブボデー22とプランジャ32のそれぞれに対してパワーピストン20の軸方向に所要量相対移動可能に組付けられている。
【0023】
弁機構Vは、バルブボデー22における各負圧連通路22bの後端部に一体的に形成した円弧形状の負圧弁座22dと、プランジャ32の後端部に一体的に形成した環状の大気弁座32dと、この大気弁座32dに対して同軸的に配置されてバルブボデー22に組付けた筒状の弁体41を備えている。弁体41は、負圧弁座22dに対して着座・離座可能で負圧弁座22dとにより、負圧室R1と変圧室R2を連通・遮断可能な負圧弁を構成する負圧弁部41aを有するとともに、大気弁座32dに対して着座・離座可能で大気弁座32dとにより、変圧室R2と大気を連通・遮断可能な大気弁を構成する環状の大気弁部41bを有している。
【0024】
負圧弁部41aと大気弁部41bは、弁体41の可動部(軸方向に移動可能な部分)に一体的に形成されていて、圧縮スプリング42によって負圧弁座22dと大気弁座32dに向けて(前方に向けて)付勢されている。なお、弁体41の固定部(軸方向に移動不能な部分)は、リテーナ43を介して入力軸31の段部に係止する圧縮スプリング44によって前方に向けて付勢されていて、バルブボデー22における軸孔22aの定位置(段部)に保持されている。
【0025】
上記した弁機構Vの構成によって、変圧室R2は、入力軸31およびプランジャ32のバルブボデー22に対する前後方向の移動に応じて、負圧室R1または大気に連通可能である。すなわち、図1および図2に示した入力軸31およびプランジャ32がバルブボデー22に対して原位置から前方へ移動して、負圧弁部41aが負圧弁座22dに着座し、大気弁座32dが大気弁部41bから離座したときには、変圧室R2が負圧室R1との連通を遮断されて大気に連通する。このときには、ブーツ19の通気孔19a、フィルタ51,52、弁体41の内部、大気弁座32dと大気弁部41b間の隙間、バルブボデー22に設けた軸方向連通路Xと径方向連通路Y等を通して、変圧室R2に大気が流入する。
【0026】
また、図1および図2に示したように、入力軸31およびプランジャ32がバルブボデー22に対して復帰位置(原位置)に戻って、大気弁座32dが大気弁部41bに着座し、負圧弁部41aが負圧弁座22dから離座している状態(すなわち、大気弁が閉じて、変圧室R2と大気との連通が遮断され、かつ、負圧弁が開いて、負圧室R1と変圧室R2とが連通している状態)では、変圧室R2が大気との連通を遮断されて負圧室R1に連通する。このときには、バルブボデー22に設けた径方向連通路Yと軸方向連通路X、負圧弁部41aと負圧弁座22d間の隙間、負圧連通路22b等を通して、変圧室R2から負圧室R1に空気が吸引されて流れる。
【0027】
上記した軸方向連通路Xは、図2に示したように、大気弁より前方にてプランジャ32の後方部位外周に形成された後方の軸方向連通路X1と、バルブボデー22に設けられて後端部にて後方の軸方向連通路X1に連通する前方の軸方向連通路X2によって形成されている。一方、上記した径方向連通路Yは、図2に示したように、各負圧連通路22bが形成されていない部位にて、バルブボデー22に設けられていて、径外端にて変圧室R2に連通し、径内方にて前方の軸方向連通路X2に連通している。
【0028】
ところで、この第1実施形態においては、図2および図3に示したように、円筒状の整流部材61が、プランジャ32の外周に一体的に組付けられている。整流部材61は、吸音性・通気性を有する連続気泡の多孔質材料(例えば、ゴムスポンジ)にて形成されていて、前方を大径とするテーパー状の大気弁座32dの前方にて、バルブボデー22の軸孔内壁S(負圧連通路22bが形成されている部位の軸孔内壁)に対して非接触状態で組付けられている。
【0029】
この整流部材61は、大気弁座32dに沿って流れてきた空気が同大気弁座32dから剥離する(離れる)際に、高いエネルギーを有する乱流を吸収するもの(大気弁座32dに沿って流れて同大気弁座32dから剥離される空気(大気)を剥離直後に整流して乱流を生じさせる乱流エネルギーを吸収するもの)であり、その外径が大気弁座32dの最大径に比して所定量大きく形成されていて、テーパー状の大気弁座32dの前端部にある剥離部(最大径部)に当接している。なお、整流部材61は、その前端がバルブボデー22の円筒部22e(プランジャ32の軸方向中間部を軸支している部分)の後面に接していて、プランジャ32が原位置(復帰位置)から軸方向に前進移動するときには、軸方向にて殆ど抵抗なく変形するように構成されている。
【0030】
上記のように構成したこの第1実施形態の負圧式倍力装置においては、ブレーキペダルを踏み込んで、入力軸31とプランジャ32をバルブボデー22に対して原位置(復帰位置)から軸方向に前進移動させると、負圧弁部41aが負圧弁座22dに着座することにより負圧弁が閉じて、負圧室R1と変圧室R2間の連通が遮断されるとともに、大気弁座32dが大気弁部41bから離座することにより大気弁が開いて、変圧室R2と大気間が連通される。このため、開状態の大気弁と軸方向連通路Xと径方向連通路Yを通して変圧室R2に大気が流入して、変圧室R2の圧力が負圧から順次大気圧となり、負圧室R1と変圧室R2間の差圧に応じた出力が出力軸35に生じる。また、出力軸35に出力が生じると、その反力が出力軸35から反動部材34の前面34aに伝達され、反動部材34の後面からバルブボデー22とプランジャ32に伝達される。
【0031】
ところで、この第1実施形態の負圧式倍力装置においては、大気弁座32dに沿って流れきた空気が同大気弁座32dから剥離する(離れる)際に、高いエネルギーを有する乱流を吸収する整流部材61が、大気弁座32dの前方にて、プランジャ32の外周に一体的に組付けられており、テーパー状の大気弁座32dの前端部にある剥離部(最大径部)に当接している。このため、大気弁が開いて変圧室R2と大気が連通し、大気(空気)が大気弁を通して変圧室R2に流入する際に、大気弁座32dから剥離される空気を剥離直後に整流部材61によって整流することができて、剥離直後の部位に生じる乱流エネルギーを吸収することができる。したがって、剥離直後の部位での乱流の発生が抑制され、乱流に起因する作動応答遅れや作動音の発生が抑制される。
【0032】
また、この第1実施形態においては、整流部材61が、テーパー状の大気弁座32dの前端部にある剥離部(最大径部)に当接しておればよく、流路を無用に狭めることがないため、空気の流れ抵抗になり難く、応答性を損なうことが殆どない。更に、整流部材61は、大気弁座32dの前方にて、プランジャ32の外周に一体的に組付けられるため、大気弁座(プランジャ)32dと大気弁部41d間に挟み込まれるおそれもない。また、整流部材61は、バルブボデー22の軸孔内壁Sに対して非接触状態で、プランジャ32の外周に一体的に組付けられていて、プランジャ32と一体的に移動する。このため、プランジャ32の移動時に、整流部材61がバルブボデー22の軸孔内壁Sに摺接することはなく、バルブボデー22の軸孔内壁Sと整流部材61の摺接に起因する作動応答遅れも生じない。また、この第1実施形態においては、整流部材61が連続気泡の多孔質材料にて形成されているため、優れた吸音性・通気性が得られる。
【0033】
上記した第1実施形態においては、整流部材61が円筒状に形成されていて、その外径が全長に亘って同一とされているが、図4に示した第2実施形態のように、円筒状に形成されている整流部材61の外径が、後端部を除いて、前方を小径とするテーパー形状に形成されるように構成して実施することも可能である。この第2実施形態では、整流部材61の外周に形成される通路(後方の軸方向連通路X1)の流路面積が変圧室R2に向けてなだらかに増大変化するため、変圧室R2に入る大気の急激な体積増大変化を抑制することができて、変圧室R2での大気の急激な体積増大変化に伴う乱流の発生を抑制することができる。このため、乱流に起因する作動応答遅れや作動音の発生が上記第1実施形態に比して更に抑制される。
【0034】
また、上記した第1実施形態および第2実施形態においては、プランジャ32における大気弁座32dの大径部位において軸線Lに直交して径外方に延びる整流部材61の後端面と、プランジャ32における大気弁座32dの大径部位において軸線Lに直交して径内方に延びる整流部材61の後端面が、同一面となるように構成して実施したが、図5に示した第3実施形態または図6に示した第4実施形態のように、プランジャ32の大気弁座32dより前方に、整流部材61の後端部内周が組付けられる円筒部32eが、大気弁座の大径部に対して同一径で連続して形成されるように構成して実施することも可能である。なお、第3実施形態および第4実施形態においては、プランジャ32に円筒部32eが形成されていること、および、これに合わせて整流部材61の後端部内周に凹部61aが形成されていることを除いて、上記した第1実施形態および第2実施形態の構成と同じである。
【0035】
この第3実施形態および第4実施形態においては、大気弁座32dの前方に円筒部32eが大気弁座32dの大径部に対して同一径で連続して形成されることにより、円筒部32eの軸方向寸法にバラツキがあっても大気弁座32dの外形寸法を精度よく形成することができて、大気弁座32dを容易かつ正確に形成することが可能である。また、この第3実施形態および第4実施形態においては、大気弁座32dの径外方端が尖った形状とならないため、外周部の傷付やへこみを防止するための特別な管理をする必要がない。
【0036】
上記した第1実施形態〜第4実施形態においては、整流部材61の前端がバルブボデー22の円筒部22e後面に接していて、プランジャ32が原位置(復帰位置)から軸方向に前進移動するときには、整流部材61が軸方向にて変形するように構成されているが、図7に示した第5実施形態のように、プランジャ32の大気弁座32dより前方に、大気弁座32dの大径部と同一径の円筒部32eが大気弁座32dに連続して形成されていて、この円筒部32eの後端部外周に形成した環状溝32e1には円環状に形成されている整流部材61が組付けられるように構成して実施することも可能である。この第5実施形態においては、円環状に形成されている整流部材61によって、上記した第1実施形態の整流部材61と同様な作用・効果が得られるとともに、整流部材61の小型化・低コスト化が可能である。
【符号の説明】
【0037】
10…ハウジング、20…パワーピストン、21…可動隔壁、22…バルブボデー、22a…軸孔、22b…負圧連通路、22c…キー取付孔、22d…負圧弁座、22e…円筒部、S…バルブボデーの軸孔内壁段差、31…入力軸、32…プランジャ、32d…大気弁座、32e…円筒部、34…反動部材、35…出力軸、39…キー部材、41…弁体、41a…負圧弁部、41b…大気弁部、X…軸方向連通路、X1…後方の軸方向連通路、X2…前方の軸方向連通路、Y…径方向連通路、V…弁機構、R1…負圧室、R2…変圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内を前方の負圧室と後方の変圧室とに区画する可動隔壁に連結されたバルブボデーが軸孔を備えていて、この軸孔内には、前記バルブボデーに対して軸方向に進退可能で入力部材と一体的に移動するプランジャと、このプランジャの前記バルブボデーに対する進退移動に応じて前記負圧室と前記変圧室間を連通・遮断する負圧弁および前記変圧室と大気間を連通・遮断する大気弁を備えた弁機構が組み込まれるとともに、前記プランジャの前端部と前記バルブボデーの前端部が後面に係合可能な反動部材と、この反動部材の前面に後端部にて係合し前記バルブボデーに対して軸方向に移動可能な出力部材が組付けられており、前記大気弁が、前記プランジャの後端部に設けたテーパー状の大気弁座と、この大気弁座に対して着座・離座可能に配置された環状の大気弁部を備えている負圧式倍力装置において、
前記大気弁座に沿って流れてきた空気が同大気弁座から剥離する際に、高いエネルギーを有する乱流を吸収する整流部材が、前記大気弁座の前方にて、前記プランジャの外周に一体的に組付けられており、前記テーパー状の大気弁座の前端部にある剥離部に当接していることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の負圧式倍力装置において、前記整流部材は、吸音性・通気性を有する連続気泡の多孔質材料にて形成されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の負圧式倍力装置において、前記整流部材は円筒状に形成されていて、同整流部材の外周は、後端部を除いて、前方を小径とするテーパー形状に形成されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の負圧式倍力装置において、前記プランジャの前記大気弁座より前方には、前記整流部材の後端部内周が組付けられる円筒部が、前記大気弁座の大径部に対して同一径で連続して形成されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の負圧式倍力装置において、前記プランジャの前記大気弁座より前方には、前記大気弁座の大径部と同一径の円筒部が前記大気弁座に連続して形成されていて、この円筒部の後端部外周に形成した環状溝には円環状に形成されている前記整流部材が組付けられていることを特徴とする負圧式倍力装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−112046(P2013−112046A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257549(P2011−257549)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】