説明

負極活物質、その製造方法およびそれを用いた非水電解質二次電池

【課題】 タングステン酸化物を負極活物質として用いる場合において、初回の充電における副反応を抑制し、初回の充放電効率に優れ、高容量の非水電解質二次電池を実現し得る負極活物質を提供する。
【解決手段】 負極活物質としてフッ素化タングステン酸化物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量型の非水電解質二次電池を実現するための電池用負極活物質、その製造方法、およびそれを用いた非水電解質二次に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信機器および携帯電子機器などの主電源として利用されているリチウムイオン電池は、起電力が高く、高エネルギー密度である特長を有している。このようなリチウムイオン電池に用いられる正極活物質としては、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガンスピネル(LiMn24)およびこれらの混合物がある。これらの正極活物質は、リチウムに対して4V以上の電圧を有している。一報、負極には一般的にカーボン材料が使用され、前述の正極と組み合わせることで4V級のリチウムイオン電池が構成されている。
【0003】
また、負極活物質としては、タングステン酸化物(特許文献1および2)、タングステン酸化物とスピネルチタン酸化物との混合物(特許文献3)、およびタングステン複合酸化物(特許文献4参照)などが知られているが、タングステン酸化物を負極活物質として用いる場合、初回の充放電における不可逆容量(充放電効率)が低下するという問題があることから、かかる問題を解決する手段として低酸素雰囲気下または減圧雰囲気下で加熱処理することが提案されている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開昭61-116756号公報
【特許文献2】特開昭61-206167号公報
【特許文献3】特開平07-302587号公報
【特許文献4】特開昭63-285871号公報
【特許文献5】特開平06-223831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記のようにタングステン酸化物を負極活物質として用いる場合に初回の充放電効率が低くなるのは、充電時に移動したリチウムの一部が、不可逆な副反応を伴って、放電時に正極へと戻らないことが要因である。しかしながら、上記特許文献5において提案されている手段によっても、かかる問題を十分に解決することは困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、タングステン酸化物を負極活物質として用いる場合において、初回の充電における副反応を抑制し、初回の充放電効率に優れ、高容量の非水電解質二次電池を実現し得る負極活物質を提供することを目的とする。
【0006】
さらに本発明は、タングステン酸化物を負極活物質として用いる場合において、初回の充放電効率に優れるとともに、高容量の非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、従来用いられていたタングステン酸化物にフッ素原子を導入し、得られたフッ素化タングステン酸化物を負極活物質として用いれば、上述のように初回の充放電効率が低下してしまうという問題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、フッ素化タングステン酸化物を含む電池用負極活物質を提供する。
【0008】
ここで、「初回の充放電効率」とは、本発明の負極活物質を用いて作製した直後の非水電解質二次電池を充電し、初回の充電電気量と初回の放電電気量を測定し、その比率(初回の放電電気量/初回の充電電気量:%)を算出することで得られる値である。このとき、対極には後述するようにリチウムメタルを用いる。初回の充電時に副反応である不可逆反応はほとんどが終了するため、初回の充放電効率として不可逆容量を評価することができる。
【0009】
前記フッ素化タングステン酸化物はリチウムを含有することが好ましい。
また、前記フッ素化タングステン酸化物(以下、「リチウム含有フッ素化タングステン酸化物」を含むものとする。)は、組成式:LixWO3-yz(0≦x<0.8、0<y<2、0<z<0.8)で表される。
【0010】
前記電池用負極活物質は、前記フッ素化タングステン酸化物の平均粒径0.6μm以下の一次粒子と、前記一次粒子が集合して形成された平均粒径10μm以下の二次粒子とを含むのが好ましく、前記フッ素化タングステン酸化物は、遷移金属元素、II族元素およびIIIB族からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含んでいてもよい。
【0011】
本発明は上記負極活物質の製造方法にも関する。本発明の負極活物質は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムおよび酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物と、フッ化リチウム、フッ化ナトリウムおよびフッ化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化合物と、酸化タングステンとを混合し、得られた混合物を焼成することにより、製造することができる。上記製造方法においては、前記混合物を600℃から1200℃の温度で焼成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、初回の充電における副反応を抑制し、初回の充放電効率に優れ、高容量の非水電解質二次電池を実現し得るフッ素化タングステン酸化物からなる負極活物質を提供することができる。さらに本発明によれば、本発明のフッ素化タングステン酸化物からなる負極活物質を用いることにより、初回の充放電効率に優れるとともに、高容量の非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)本発明の負極活物質
本発明の電池用負極活物質を構成するフッ素化タングステン酸化物は、タングステン酸化物をフッ素化することにより得ることができるものである。このようにフッ素原子を導入することにより、タングステン酸化物の初回の充放電効率の低減を抑制することができる。かかるフッ素化タングステン酸化物は、組成式:LixWO3-yz(0≦x<0.8、0<y<2、0<z<0.8)で表される。
【0014】
ここで、上記組成式におけるx、yおよびzの範囲を決定するに際し、本発明者らは以下のような考察を行った。すなわち、本発明におけるフッ素化タングステン酸化物は、酸素原子の一部をフッ素原子が置換する形態で合成されると考えられる。本来的には、容量の観点から、酸素原子数が多い方が好ましいが、初回の充放電における不可逆容量が低減し、初回の充放電効率が増加することから、本発明においては上記のようにタングステン酸化物にフッ素原子を導入するのである。
【0015】
そして、上述のように、フッ素原子やリチウム原子をタングステン酸化物に導入することで、当該タングステン酸化物を負極活物質として用いた場合の初回の充放電効率が向上するが、これは、フッ素原子の導入によって不可逆容量低下の要因となる酸化リチウムの生成が抑制されるためであると考えられる。
【0016】
本発明のフッ素化タングステン酸化物の充放電容量は、タングステン酸化物イオンの価数変化に由来するため、フッ素原子およびリチウム原子を導入し過ぎると、単位重量あたりの充放電容量が低下してしまうため好ましくない。
【0017】
また、特にフッ素化タングステン酸化物がリチウム原子を含む場合、当該フッ素化タングステン酸化物の表面から酸素原子が引き抜かれて酸化リチウムになると考えられるため、引き抜かれて不足したリチウム原子を補うという観点から、上記組成式におけるリチウム原子の量xの範囲を決定すればよい。
【0018】
以上のような観点から、互いにトレードオフの関係にある初回の充放電における不可逆容量の低減と充放電容量の確保とを考慮して、電池設計を前提として本発明のフッ素化タングステン酸化物の組成を決定するのが好ましい。
【0019】
そして、本発明者らは、特に初回の充放電効率を優先することに主眼を置いて実験した結果、上記組成式において、xの値は、0.8以上であると1.0を超えると充放電効率が低下するため、0.8未満であるのがよいことを見出した。また、yおよびzの範囲としては、フッ素化が過度に進行するとタングステン酸化物の通常の充放電反応を阻害するものと考えられるため、0<y<2、0<z<0.8が好ましいと決定した。
【0020】
なお、本発明のフッ素化タングステン酸化物は、充放電時にその表面から酸素原子が引き抜かれて酸化リチウムになると考えられるため、特にフッ素化タングステン酸化物の粒子の表面がフッ素化されていることが好ましい。すなわち、本発明におけるフッ素化タングステン酸化物の粒子においては、少なくとも表面にフッ素原子が導入されており、内部は酸化タングステンで構成されていてもよい。
【0021】
以上のような組成を有するフッ素化タングステン酸化物からなる本発明の負極活物質の電気化学特性は、以下のように電気化学特性測定用セルを作製して測定することができる。すなわち、負極活物質(本発明のフッ素化タングステン酸化物)80重量部と、導電剤であるアセチレンブラック10重量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)10重量部とを混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)で希釈して、アルミニウム箔からなる集電体上に塗布する。
【0022】
塗布後の集電体を真空中60℃で30分乾燥した後、15×20mm2の寸法に切断し、さらに真空中で150℃、14時間乾燥し、厚みが120μm〜190μmの電極を得る。一方、ステンレス鋼製の板にリチウム金属シートを圧着して作製した対極、ポリエチレン製のポーラスフィルムからなるセパレータ、ならびにエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を3対7の体積比で混合した溶媒に1.0MのLiPF6を溶解した電解液を用い、例えば0.17mA/cm2の電流密度で所定の電圧領域の間で充放電を繰り返す。
【0023】
本発明におけるフッ素化タングステン酸化物は、遷移金属元素、II族元素およびIIIB族からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含むのが好ましい。これは、上記のような添加元素をフッ素化タングステン酸化物にドープすることによって、当該フッ素化タングステン酸化物の物性を変化させることができるからである。
【0024】
例えば、遷移金属を添加元素としてドープすれば、フッ素化タングステン酸化物の結晶の安定性を増加させることができる。また、マグネシウムやアルミニウムを添加元素としてドープすれば、電子伝導性を増加させたり、あるいは、フッ素化タングステン酸化物の粒子表面での電解液との反応(副反応)を抑制することができる。そして、かかる副反応によって余分な生成物が反応界面に形成されることが抑制されて寿命が延び、さらには、高温加熱時にも電解液との発熱反応が抑制されて安全性も向上する。
【0025】
ここで、本発明の負極活物質は、フッ素化タングステン酸化物の平均粒径0.6μm以下の一次粒子と、前記一次粒子が集合して形成された平均粒径10μm以下の二次粒子とを含むのが好ましい。サブミクロンの粒子が単独で粉体となった場合は、嵩密度も小さく、ハンドリングがしにくい。このような観点から、一次粒子が集合した二次粒子にすることで充放電特性を確保すると同時にハンドリングも容易にすることができる。
【0026】
また、充放電反応のし易さに関連して、一次粒子は小さい方がリチウムの結晶内拡散がスムーズなため好ましい。実際の電気化学特性から判断すると、0.6μm以下であれば実用上問題ない充放電特性が得られる。一方、極板を製造する際には、本発明の負極活物質を用いたペーストを作成して塗工するが、上記二次粒子の平均粒径が10μmを超えると、ペースト作成時の分散性が損なわれ易く塗工が不均一になる傾向にあるといった問題が生じるため不適である。このような理由により、平均粒径0.6μm以下の一次粒子と、前記一次粒子が集合して形成された平均粒径10μm以下の二次粒子とを含むのが好ましい。
(2)本発明の負極活物質の製造方法
本発明の負極活物質を構成する組成式:LixWO3-yz(0≦x<0.8、0<y<2、0<z<0.8)で表されるフッ素化タングステン酸化物は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムおよび酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物と、フッ化リチウム、フッ化ナトリウムおよびフッ化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化合物と、酸化タングステンとを混合し、得られた混合物を焼成することにより合成することができる。すなわち、本発明の負極活物質は、粉末状の上記原料を用いて、いわゆる乾式法で製造することができる。
【0027】
リチウム源としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムおよび酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物を用いることができるが、なかでも、結果として初回充放電効率が若干高いことと、反応時の生成ガスに有害物(NOx)を含まないことや、タングステン酸化物との反応性が良好という理由から、炭酸リチウムおよび水酸化リチウムのうちの少なくとも一方を用いるのが好ましい。
【0028】
また、フッ素化合物としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウムおよびフッ化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いることができるが、カリウムやナトリウムといった不純物を含まないという理由から、フッ化リチウムを用いるのが好ましい。
【0029】
さらに、酸化タングステンとしては、例えばWO2やWO3を用いることができ、得られるフッ素化タングステン酸化物における酸素原子比を調整するために、WO2およびWO3の混合物を両者の比率を変更して用いることも可能である。
【0030】
焼成温度に関しては600℃から1200℃の領域で焼成することが好ましい。600℃未満では反応が不十分であり、1200℃を超えるほどの高温は必要なく製造コストも高価になるからである。得られるフッ素化タングステン酸化物の結晶構造を十分に発達させるためには、800℃以上の焼成温度が好ましい。
【0031】
ここで、上記のようにフッ素化タングステン酸化物の一次粒子の平均粒径を0.6μm以下とし、前記一次粒子が集合して形成された二次粒子の平均粒径を10μm以下に制御するためには、酸化タングステンである出発材料をあらかじめこのような粒子に合成したものを使用すればよい。酸化タングステンは金属タングステンを酸化することで容易に合成できるが、金属タングステンを適した粒子に調整することで酸化タングステンの粒子を調製することができる。
【0032】
(3)本発明の非水電解質二次電池について
本発明は、上記フッ素化タングステン酸化物を負極活物質として含む負極と、正極と、セパレータと、電解液とを有する非水電解質二次電池にも関する。
【0033】
一般的なLiCoO2/炭素材料の非水電解質二次電池においては、コバルトの充電電位である4.5V近傍まで酸化しないという耐酸化性、黒鉛の充電電位である0V近傍まで還元しないという耐還元性が必要となるため(電位はリチウム金属基準、以下同様)、これらの電位窓を満足できない有機溶媒は非水電解質二次電池用の電解液からは除外されてきた。
【0034】
例えばラクトン系有機溶媒、プロピレンカーボネート、トリメチルフォスフェイトおよびトリエチルフォスフェイトなどの溶媒は、安価であるうえに大きい誘電率を有するため、電解質(塩)を十分に溶解させる能力を持ち、さらに耐酸化性にも優れるため、有用な溶媒である。
【0035】
ところが、負極に黒鉛を使用する場合には、耐還元性が問題となるため、ラクトン系の有機溶媒は使用が困難であった。また、プロピレンカーボネートも黒鉛の充放電時に同時に分解されるなどの理由で使用が困難であった。消火作用をもち安全性に優れたトリメチルフォスフェイトおよびトリエチルフォスフェイトも同様の理由で使用が困難であった。
【0036】
これに対し、本発明の非水電解質二次電池においては、負極活物質として黒鉛ではなく上記フッ素化タングステン酸化物を用いるため、負極側の電位が上がるため、溶媒に求められる耐還元性は飛躍的に緩和される。したがって、従来から使用されているエチレンカーボネート(ECC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)およびジエチルカーボネート(DEC)などに加え、上記のラクトン系有機溶媒、プロピレンカーボネート、トリメチルフォスフェイトおよびトリエチルフォスフェイトなどの溶媒も有効に用いることができる。
【0037】
正極活物質としてニッケルマンガンスピネル酸化物などを使用する場合、正極の電位は4.7V以上まで上がるが、上記の溶媒は5V以上でも酸化しないことから耐酸化性について問題なく使用することができる。また、耐酸化性に優れたスルフォラン、メチルジグライムおよびフッ素化エチレンカーボネートなども、本発明の非水電解質二次電池には適した溶媒であると考えられる。
【0038】
なお、上記のジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)およびジエチルカーボネート(DEC)などは、粘性の高い溶媒の希釈剤として使用することも可能である。
【0039】
また、単独で使用が可能であれば非常に有益なイオン性液体も、溶媒として使用することは、上記と同様に黒鉛を負極に使用している場合には制限されたり困難であったりしていたが、本発明の非水電解質二次電池においては使用することができる。
【0040】
ただし、イオン性液体を単独で使用することが安全性などの観点からは好ましいが、固体のものや、粘性が高いものもあるため、従来の生産設備を用いることを考慮すれば、上述した溶媒と混合して使用してもその優位性はある程度確保できると考えられる。
【0041】
イオン性液体としては以下のものが挙げられる。カチオン種としては、例えば1、2、及び3置換されたイミダゾリウム、ピリジニウム、フォスフォニウム、アンモニウム、ピロリジニウム、グアニジニウムおよびイソウロニウムが挙げられる。アニオン種としては、例えばハロゲン、サルフェイト、アミド、イミド、メタン種、ボレイト、フォスフェイト、アンチモネイト、デカネイトおよびコバルトテトラカルボニルなどが挙げられる。
【0042】
本発明の非水電解質二次電池においては使用することができる電解質としては特に制限はなく、従来から非水電解質二次電池において使用されているLiPF6やLiBF4、さらには有機アニオンのリチウム塩も用いることができる。
【0043】
セパレータとしては、従来から非水電解質二次電池において使用されているものであれば特に制限なく用いることができる。例えばポリオレフィンの微多孔膜や不織布などを使用することができる。不織布を構成する材料としては、例えばポリエステルなどが挙げられる。
【0044】
正極および負極に含まれる集電体としては、一般には、アルミニウムやアルミニウム合金の箔などの薄膜が正極用の集電体に用いられ、銅箔が負極用の集電体に用いられる。これに対し、本発明の非水電解質二次電池において、負極活物質として上記フッ素化タングステン酸化物を用いるため、負極用の集電体にもアルミニウムやアルミニウム合金の箔を使用することが可能である。また、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデンやスチレンブタジエンゴムを用いることができる。
【0045】
本発明の非水電解質二次電池の形状としては、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、偏平型、角型等いずれにも適用できる。電池の形状がコイン型やボタン型のときは、正極活物質や負極材料の合剤は主としてペレットの形状に圧縮されて用いられる。そのペレットの厚みや直径は電池の大きさにより決定すればよい。なお、本発明における電極の巻回体は、必ずしも真円筒形である必要はなく、その断面が楕円である長円筒形または長方形等の角柱状の形状であっても構わない。
【0046】
図2に、本発明に係る非水電解質二次電池の一例である円筒型電池の一部を断面にした側面図を示す。図2に示す円筒形電池においては、正極および負極がセパレータを介して複数回渦巻状に巻回されて得られた極板群4が、電池ケース1内に収納されている。そして、正極からは正極リード5が引き出されて封口板2に接続され、負極からは負極リード6が引き出されて電池ケース1の底部に接続されている。
【0047】
電池ケースやリード板は、耐有機電解液性の電子伝導性をもつ金属や合金を用いることができる。例えば、鉄、ニッケル、チタン、クロム、モリブデン、銅、アルミニウム等の金属またはそれらの合金が用いられる。特に、電池ケースはステンレス鋼板、Al−Mn合金板を加工したもの、正極リードはアルミニウムが好ましい。負極リードはニッケルあるいはアルミニウムが好ましい。また、電池ケースには、軽量化を図るため各種エンジニアリングプラスチックスおよびこれと金属の併用したものを用いることも可能である。
【0048】
極板群の上下部にはそれぞれ絶縁リング7が設けられている。そして、電解液を注入し、封口板を用いて電池ケースを密封する。このとき、安全弁を封口板に設けることができる。安全弁の他、従来から知られている種々の安全素子を備えつけてもよい。例えば、過電流防止素子として、ヒューズ、バイメタル、PTC素子等が用いられる。
【0049】
また、安全弁のほかに電池ケースの内圧上昇の対策として、電池ケースに切込を入れる方法、ガスケット亀裂方法、封口板亀裂方法またはリード板との切断方法を利用することができる。また、充電器に過充電や過放電対策を組み込んだ保護回路を具備させるか、または、独立に接続させてもよい。キャップ、電池ケース、シート、リード板の溶接法については、公知の方法(例えば、直流もしくは交流の電気溶接、レーザー溶接または超音波溶接等)を用いることができる。また、封口用シール剤としては、アスファルト等の従来から知られている化合物や混合物を用いることができる。
【0050】
以下に、実施例に代表させて本発明を説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
《実施例1》
リチウム化合物である炭酸リチウムと、フッ素化合物であるフッ化リチウムと、酸化タングステンとを混合し、950℃で10時間焼成することによって本発明の負極活物質を構成するフッ素化タングステン酸化物(負極活物質1:試料番号A−1)を合成した。なお、混合時において、混合物中におけるフッ素原子/タングステン原子の比(F/W)が0.2となるように、また、リチウム原子/タングステン原子の比(Li/W)が0.2となるように、各原料を仕込んだ。
【0052】
[粒子の形態観察]
ここで、得られたフッ素化タングステン酸化物の粒子のSEM写真を撮影した。図1は、本実施例で得たフッ素化タングステン酸化物の粒子のSEM写真である、図1を解析したところ、ほぼ0.6μm以下の平均粒径を有する一次粒子が集合して、平均粒径1μm程度の二次粒子を形成していることがわかった。
【0053】
[電気化学特性]
また、ここで得られたフッ素化タングステン酸化物からなる本発明の負極活物質の電気化学特性を、電気化学特性測定用セルを作製して測定した。上記フッ素化タングステン酸化物80重量部と、導電剤であるアセチレンブラック10重量部と、結着剤であるPVdF10重量部とを混合し、NMPで希釈して、アルミニウム箔からなる集電体上に塗布した。塗布後の集電体を真空中60℃で30分乾燥した後、15×20mm2の寸法に切断し、さらに真空中で150℃、14時間乾燥し、厚みが120μm〜190μmの負極を得た。
【0054】
一方、ステンレス鋼製の板にリチウム金属シートを圧着して作製して、上記負極と同じ寸法の対極を作製し、ポリエチレン製のポーラスフィルムからなるセパレータ、ならびにEC(エチレンカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)を3対7の体積比で混合した溶媒に1.0MのLiPFを溶解した電解液を用い、電気化学特性測定用セルを作製した。
【0055】
このセルの充放電を、0.17mA/cm2の電流密度で、上記対極(すなわちリチウム金属)に対して0.5V〜2.5Vの電圧領域の間で繰り返し、初回の充電電気量と初回の放電電気量を測定し、その比率(初回の放電電気量/初回の充電電気量:%)を算出した。結果を表1に示す。なお、表1には、使用した原料および焼成温度も示す。
【0056】
《実施例2〜14》
リチウム化合物、フッ素化合物および焼成温度のうちのいずれかを表1に示すものに代えた他は、実施例1と同様にして本発明のフッ素化タングステン酸化物(負極活物質2〜14:試料番号A−2〜A−4、試料番号B−1〜B−2および試料番号C−1〜C−8)を合成し、電気化学特性測定用セルを作製して電気化学特性を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
《実施例15〜21》
本実施例においては、フッ素化タングステン酸化物におけるリチウム原子の量に関して検討した。炭酸リチウムの混合量を変化させた他は、実施例1(試料番号A−1)と同様にして、種々のリチウム量を有する本発明のフッ素化タングステン酸化物(負極活物質15〜21:試料番号D−1〜D−7)を合成し、電気化学特性測定用セルを作製して電気化学特性を測定した。結果を表2に示す。なお実施例1〜14の結果も示す。
【0059】
ただし、本実施例においては、Li/Wが、0.05、0.1、0.2、0.5、0.7、0.8または1.0になるような量で炭酸リチウムを仕込んだ。なお、F/Wは0.2とした。
【0060】
《実施例22〜26》
本実施例においては、添加元素の検討を行った。原料混合時に、他の原料に加えて添加元素としてコバルト、マンガン、ニッケル、マグネシウムまたはアルミニウムを混合した他は、実施例1(試料番号A−1)と同様にして、種々の添加元素を含む本発明のフッ素化タングステン酸化物(負極活物質22〜26:試料番号E−1〜E−5)を合成し、電気化学特性測定用セルを作製して電気化学特性を測定した。結果を表2に示す。ただし、F/W比は0.2とし、添加元素の量はWに対して0.05とした。
【0061】
《実施例27〜33》
本実施例においては、フッ素原子の含有量について検討をした。タングステン酸化物であるWO2、WO3、炭酸リチウムおよびフッ化リチウムの添加量を変化させて混合し、F/W比が0.06、0.1、0.3、0.5、0.7、0.8または1.0とした他は、実施例1(試料番号A−1)と同様にして、種々のフッ素原子含有量を有する本発明のフッ素化タングステン酸化物(負極活物質27〜33:試料番号F−1〜F−7)を合成し、電気化学特性測定用セルを作製して電気化学特性を測定した。結果を表2に示す。
【0062】
なお、酸素原子の比率に関しては、上述したように、充放電容量の観点からはWに対して大きい方が有利であるが、フッ素化はフッ素化タングステン酸化物粒子の表面において酸素の一部を置換する形で進行させなければ不可逆容量の低減につながらないようであった。また、試料番号F−1〜F−7のフッ素化タングステン酸化物において、WO3-yに換算すると、yの値はそれぞれF−1からF−7の順に0.01、0.25、0.66、1.2、1.63、2.0および2.2であった。
【0063】
《比較例1および2》
本発明の比較例として、市販されているWO3(比較例1)およびWO2(比較例2)を用いた他は、実施例1と同様にして電気化学特性測定用セルを作製して電気化学特性を測定した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2より、焼成温度は600℃〜1200℃が好ましいことがわかる。また、フッ素化合物としてはフッ化リチウムを用いることでリチウム電池用の負極としては不純物の量が減少し、効率が増加するので好ましい。一方、フッ素原子の添加量としてF/W比は0.8以下が好ましいことがわかる。これに相関して酸素比は2.0以下が好ましい。
【0066】
《実施例34〜39および比較例3》
本実施例においては、試料番号A−1、B−1、C−5、D−3、E−1、F−2および比較例1の負極活物質を用いて負極を作製し、当該負極を用いて図2に示す構造を有する円筒型電池を作製した。
【0067】
負極活物質粉末85重量部に対し、導電剤である炭素粉末10重量部と結着剤であるポリフッ化ビニリデン樹脂5重量部とを混合した。得られた混合物を脱水N−メチルピロリジノンに分散させてスラリーを得、アルミニウム箔からなる集電体上に塗布し、乾燥・圧延した後、所定の大きさに切断し、負極を作製した。
【0068】
負極活物質を正極活物質(Li1±xNi1/2Mn1/22(x≦0.1))に代えた他は、負極と同様にして正極を作製した。また、セパレータとしてはポリプロピレン製の不織布を用い、有機電解液には、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の体積比1:1の混合溶媒に、LiPF6を1.0モル/リットル溶解したものを使用した。作製した円筒型電池の寸法は直径14.1mm、高さ50.0mmとした。
【0069】
このようにして作製した円筒型電池を3.0Vの定電圧充電を行い、放電は100mAの定電流で1Vまで放電した。このとき得られた放電容量を表3に示した。
【表3】

【0070】
表3より明らかなように、本発明のフッ素化タングステン酸化物を用いた場合は、不可逆容量の低減で電池容量が増加していることがわかる。この不可逆容量の低減は、上述したように、負極活物質粒子表面の酸素とリチウムが反応して酸化リチウムとなり、放電で正極に戻らなくなる現象を表面にフッ素が存在することで酸素を活物質中に引きとめリチウムと反応することを抑制したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、タングステン酸化物を負極に用いる場合の従来の課題である初回の不可逆容量を低減した高容量非水電解質2次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のフッ素化タングステン酸化物の粒子形態を示すSEM写真である。
【図2】本発明に係る非水電解質二次電池の一例である円筒型電池の一部を断面にした側面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 電池ケース
2 封口板
3 絶縁パッキング
4 極板群
5 正極リード
6 負極リード
7 絶縁リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化タングステン酸化物を含むことを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
前記フッ素化タングステン酸化物がリチウムを含有する請求項1記載の負極活物質。
【請求項3】
前記フッ素化タングステン酸化物が、組成式:LixWO3-yz(0≦x<0.8、0<y<2、0<z<0.8)で表される請求項1または2記載の負極活物質。
【請求項4】
前記フッ素化タングステン酸化物の平均粒径0.6μm以下の一次粒子と、前記一次粒子が集合して形成された平均粒径10μm以下の二次粒子とを含む請求項1〜3のいずれかに記載の負極活物質。
【請求項5】
前記フッ素化タングステン酸化物が、遷移金属元素、II族元素およびIIIB族からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含む請求項1〜4のいずれかに記載の負極活物質。
【請求項6】
炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムおよび酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種のリチウム化合物と、フッ化リチウム、フッ化ナトリウムおよびフッ化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化合物と、酸化タングステンとを混合し、得られた混合物を焼成することにより、組成式:LixWO3-yz(0≦x<0.8、0<y<2、0<z<0.8)で表されるタングステン酸化物を得ることを特徴とする負極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記混合物を600℃から1200℃の温度で焼成する請求項6記載の負極活物質の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の負極活物質を含む負極を有する非水電解質二次電池。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−172991(P2006−172991A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366095(P2004−366095)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】