説明

負極活物質、負極製造方法、負極、及び二次電池

【課題】高容量、高電圧、かつ、サイクル特性が良好な非水電解質二次電池用負極活物質と、それを用いた二次電池を提供する。
【解決手段】炭素繊維1と、該炭素繊維の表面に設けられたリチウム合金形成可能物質2とを具備する負極活物質。炭素繊維としてアスペクト比が7以上、繊維は大径部と小径部とを有したものであり、あるいは該炭素繊維によりシートが形成されたものである。リチウムと合金形成可能な物質としては、ケイ素、ケイ素合金およびケイ素化合物の中から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに実用化されている一般的なリチウム二次電池は、電極材料として、正極には遷移金属複合酸化物などが用いられ、かつ、負極には炭素質材料が用いられている。負極に用いられる炭素質材料としては、可逆的にリチウムイオンを吸蔵・放出できる材料が好ましい。なぜならば、容量が大きく、充・放電が繰り返して行われても容量低下が小さいからである。その為、種々の研究・開発が進められている。例えば、Si,Sn等のLiと合金を形成する負極材料が提案されている。特許文献1は、蒸着により表面にケイ素が担持された球状フェノール樹脂焼成炭素粒子と炭化水素(例えば、カルボキシメチルセルロース)とが混合焼成されてなる負極活物質を提案している。特許文献2は、N−メチルピロリドンに溶解させたポリフッ化ビニリデン溶液に黒鉛粉末を分散させたスラリが塗布された銅箔(負極集電体)表面に、ケイ素が電着(被覆)されてなる負極(電極)を提案している。非特許文献1は、グラファイトがスズで被覆されてなる負極活物質を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−263986
【特許文献1】特開2003−217575
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A.Trifonova et al. Journal of Power Sources 174(2007)800−804
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記提案の技術が解決しようとした課題はサイクル特性の向上である。すなわち、前記ケイ素や錫は単位重量当たりのリチウムの吸蔵量が多い。ところが、リチウムを吸蔵したリチウム合金化合物は体積膨張収縮率が大きい。この為、充・放電サイクルを繰り返す中に、ケイ素や錫が担持体(又は基材)から剥がれてしまう。
【0006】
前記提案の技術において、ケイ素やスズの担持体(炭素材)は略球形である。この球形の負極活物質は最密充填構造を取り易いことが予想される。最密充填構造の負極活物質は、リチウム吸蔵時における体積膨張に耐えられず、損傷の恐れが予想される。場合によっては、即ち、炭素材(担持体)に対するリチウム合金の割合が多い場合には、負極自体が大きく膨張し、損傷することが予想される。
【0007】
これまで、特許文献1や非特許文献1に記載されている如く、炭素材(担持体)に被着させるケイ素やスズは小さな粒子であった。小さな粒子が被着されることで、充・放電時における体積変化は小さくなると考えられる。すなわち、ケイ素やスズの剥離が起き難くなることが予想される。しかしながら、逆に、密着力は弱くなる。
【0008】
従って、本発明は前記の課題を解決することである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、高容量、高電圧、かつ、サイクル特性が良好な電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する為の研究が、本発明者により、鋭意、推し進められて行った。その結果、次のようなことが判って来た。
【0010】
空隙が有ると、この空隙によって膨張に起因した歪は緩和される。従って、空隙が多い構造の場合には、充・放電(例えば、リチウム吸蔵・脱離)時に体積変化が起きても、この体積変化による歪が緩和される。この結果、サイクル特性の劣化の改善が図れるであろうと考えられるに至った。
【0011】
一般的に、球状(粒状)物質は最密充填構造となり易い。つまり、充填物が球状(粒状)の場合、この充填空間内には空隙が出来難い。充填物が繊維状の場合、この充填空間内には空隙が出来易い。従って、ケイ素や錫の担持体として用いられて来た球状(粒状)炭素の代わりに繊維状炭素(炭素繊維)が用いられたならば、ケイ素や錫が被着された場合のサイクル特性の大幅な改善が得られるであろうと考えられるに至った。
【0012】
このような啓示に基づいて研究が推し進められて行った結果、驚くべきことが判って来た。
【0013】
例えば、ケイ素がリチウムイオンを吸蔵(脱離)した後では、微小なケイ素(ケイ素単体、ケイ素合金、或いはケイ素化合物)粒子によって、炭素繊維表面が、全般的・均一的に、覆われていることが見出された(図9参照)。そして、図8の如きの構造では無く、図9の如きの構造のものになっていると、炭素繊維の表面に被着しているケイ素の脱落(剥離)の恐れが小さなものであった。ケイ素粒子の破壊と言った恐れも小さくなった。電気的導通の低下の恐れも小さくなった。特に、ケイ素は導電性が低い為、一部のケイ素しか電池反応に寄与しないと言った恐れも小さくなった。更には、ケイ素が担持体(炭素材)に偏在と言ったことも改善された。このことは、ケイ素被着量が多くなることを意味する。その結果、高容量の電池が得られる。かつ、耐久性や安全性と言った電池特性の向上も予想された。
【0014】
上記知見に基づいて本発明が達成されるに至った。
【0015】
すなわち、前記の課題は、
炭素繊維と、
前記炭素繊維の表面に設けられたリチウムと合金形成が可能な物質
とを具備する
ことを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0016】
好ましくは、前記の負極活物質であって、前記炭素繊維はアスペクト比が7以上であることを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0017】
好ましくは、前記の負極活物質であって、前記炭素繊維は、長さが70nm〜1000μm、直径が10nm〜10μmであることを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0018】
好ましくは、前記の負極活物質であって、前記炭素繊維は、大径部と小径部とを有し、前記大径部は、直径が20nm〜10μm、前記小径部は、直径が10nm〜5μm、(前記大径部における直径)>(前記小径部における直径)であることを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0019】
好ましくは、前記の負極活物質であって、前記炭素繊維は、該炭素繊維によってシートが構成された形態のものであることを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0020】
好ましくは、前記の負極活物質であって、前記炭素繊維は、樹脂およびピッチを含む分散液が作製される分散液作製工程と、前記分散液から、紡糸により、炭素繊維前駆体からなるシートが作製される紡糸工程と、前記紡糸工程で得られたシートの炭素繊維前駆体が炭素繊維に変性する変性工程とを有する製造方法を経て作製されてなることを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0021】
好ましくは、前記の負極活物質であって、リチウムと合金形成が可能な物質は、ケイ素、ケイ素合金、及びケイ素化合物の群の中から選ばれる少なくとも一種のものであることを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0022】
好ましくは、前記の負極活物質であって、前記炭素繊維が被覆される割合は50%〜100%であることを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0023】
好ましくは、前記の負極活物質であって、(リチウムと合金形成が可能な物質の層の厚さ)/(炭素繊維の層の厚さ)=0.01〜100であることを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0024】
好ましくは、前記の負極活物質であって、リチウムイオンの吸蔵・脱離処理が行われてなることを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0025】
好ましくは、前記の負極活物質であって、電池に組み込まれる前において、リチウムイオンの吸蔵・脱離処理が行われてなることを特徴とする負極活物質によって解決される。
【0026】
前記の課題は、
負極活物質を用いて構成された負極の製造方法であって、
リチウムと合金形成が可能な物質が炭素繊維の表面に設けられる負極活物質製造工程
を具備することを特徴とする負極製造方法によって解決される。
【0027】
前記の課題は、
前記負極活物質を用いて構成された負極の製造方法であって、
リチウムと合金形成が可能な物質が炭素繊維の表面に設けられる負極活物質製造工程
を具備することを特徴とする負極製造方法によって解決される。
【0028】
好ましくは、前記の負極製造方法であって、リチウムと合金形成が可能な物質が設けられた炭素繊維に対して、リチウムイオン吸蔵・脱離処理が行われるリチウムイオン吸蔵・脱離工程を更に具備することを特徴とする負極製造方法によって解決される。
【0029】
前記の課題は、
前記負極活物質を用いて構成されてなる
ことを特徴とする負極によって解決される。
【0030】
前記の課題は、
前記負極活物質を用いて構成された負極と、
正極と、
非水電解質
とを具備する
ことを特徴とする非水電解質二次電池によって解決される。
【発明の効果】
【0031】
高容量、高電圧、かつ、サイクル特性が良好な二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態になる負極活物質の断面模式図
【図2】本発明の他の実施形態になる負極活物質の断面模式図
【図3】本発明の負極活物質を構成する炭素繊維を製造する静電紡糸装置の概略図
【図4】実施例1の黒鉛化炭素繊維不織布のSEM写真
【図5】実施例1の黒鉛化炭素繊維不織布のXRD測定結果
【図6】実施例1の黒鉛化炭素繊維不織布のラマン測定結果
【図7】imageJ処理後の画像
【図8】吸蔵・脱離処理前の負極(Si蒸着黒鉛化炭素繊維製不織布)表面のSEM写真
【図9】吸蔵・脱離処理後の負極(Si蒸着黒鉛化炭素繊維製不織布)表面のSEM写真
【図10】実施例1の二次電池のサイクル特性のグラフ
【図11】比較例1のサイクル試験前の負極(Si蒸着銅箔)表面のSEM写真
【図12】比較例1の二次電池のサイクル特性のグラフ
【図13】比較例1のサイクル試験後の負極表面のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0033】
第1の発明は負極活物質である。本負極活物質は炭素繊維を具備する。本負極活物質はリチウム合金形成可能物質(リチウムと合金形成が可能な物質)を具備する。前記リチウム合金形成可能物質は前記炭素繊維の表面に設けられている。前記炭素繊維は、好ましくは、シートを構成している。すなわち、好ましくは、シートを構成した炭素繊維(例えば、炭素繊維製不織布)の表面に前記リチウム合金形成可能物質が設けられる。前記リチウム合金形成可能物質が表面に設けられた炭素繊維(又は炭素繊維製のシート(例えば、不織布))に対して、好ましくは、リチウムイオンの吸蔵・脱離処理が行われる。より好ましくは、電池に組み込まれる前(或いは、負極活物質が用いられた電池が、市場に出荷される前)において、予め、前記吸蔵・脱離処理が行われる。前記吸蔵・脱離処理は、好ましくは、繰り返して行われる。前記繰り返し回数は、好ましくは、5回以上であった。より好ましくは10回以上であった。好ましくは100回以下であった。より好ましくは50回以下であった。前記炭素繊維は、好ましくは、アスペクト比が7以上であった。より好ましくは10以上であった。更に好ましくは50以上であった。この高アスペクト比と言う点において、本発明の繊維(炭素繊維)は、所謂、粒子と言った形態のものと大きく異なる。アスペクト比の上限値に格別な制約は無い。但し、本発明が対象とする分野にあっては、アスペクト比が無限大に近いと言った非常に大きな場合は、使用性が低下する。この為、現実的には、アスペクト比は、好ましくは、1000以下であった。更に好ましくは500以下であった。前記炭素繊維は、好ましくは、その長さが70nm〜1000μmであった。より好ましくは100nm以上であった。更に好ましくは300nm以上であった。もっと好ましくは1μm以上であった。より好ましくは500μm以下であった。更に好ましくは100μm以下であった。前記炭素繊維は、直径が細すぎた場合、炭素繊維間に空隙が確保され難かった。直径が大き過ぎた場合、セパレータを突き破る恐れが有った。このような観点から、前記炭素繊維は、好ましくは、その直径が10nm〜10μmであった。前記炭素繊維は、好ましくは、大径部と小径部とを有する。(前記大径部における直径)>(前記小径部における直径)である。前記大径部は、好ましくは、その直径が20nm〜10μmであった。更に好ましくは50nm以上であった。前記小径部は、好ましくは、その直径が10nm〜5μmであった。更に好ましくは3μm以下であった。前記炭素繊維は、好ましくは、樹脂およびピッチを含む分散液が作製される分散液作製工程と、前記分散液から、紡糸により、炭素繊維前駆体からなるシートが作製される紡糸工程と、前記紡糸工程で得られたシートの炭素繊維前駆体が炭素繊維に変性する変性工程とを有する製造方法を経て作製されたものである。前記リチウム合金形成可能物質としては、金属または半金属の元素の単体、金属または半金属の元素の合金、或いは金属または半金属の元素の化合物が挙げられる。前記金属または半金属の元素としては、例えばSn,Pb,Al,In,Zn,Sb,Bi,Cd,Mg,B,Gd,Ge,As,Ag,Zr,Y,Hf,Si等が挙げられる。中でも好ましいのは、Si,Snである。特に好ましいのはSiである。従って、特に好ましいのはSi,Si合金、及びSi化合物の群の中から選ばれる少なくとも一種である。前記リチウム合金形成可能物質(例えば、Si)によって炭素繊維が被覆される割合は、好ましくは50%〜100%であった。(リチウム合金形成可能物質の層厚)/(炭素繊維の層厚)は、好ましくは、0.01〜100であった。
【0034】
第2の発明は負極の製造方法である。本製造方法は負極活物質(特に、前記負極活物質)を用いて構成された負極の製造方法である。前記負極活物質は、リチウム合金形成可能物質が炭素繊維の表面に被着することにより、得られる。本製造方法は、好ましくは、前記リチウム合金形成可能物質が被着した炭素繊維(又は炭素繊維製のシート)に対して、リチウムイオン吸蔵・脱離処理が行われるリチウムイオン吸蔵・脱離工程を更に具備する。この吸蔵・脱離工程は、好ましくは、繰り返して行われる。前記繰り返し回数は、好ましくは、5回以上であった。より好ましくは10回以上であった。好ましくは100回以下であった。より好ましくは50回以下であった。前記負極活物質製の電極が組み込まれた電池において、充・放電が行われたならば、リチウムイオン吸蔵・脱離処理が行われることになる。しかしながら、それまでは、リチウムイオン吸蔵・脱離処理が行われていない。すなわち、電池使用の初期使用段階では、リチウムイオン吸蔵・脱離処理が行われていない。つまり、電池使用の初期使用段階では、リチウムイオン吸蔵・脱離処理による効果が奏されて無い。従って、電極が電池に組み込まれる前、或いは電池出荷前において、予め、リチウムイオン吸蔵・脱離処理が繰り返して行われることが好ましい。
【0035】
第3の発明は負極である。前記負極活物質を用いて構成された負極である。
【0036】
第4の発明は非水電解質二次電池である。本非水電解質二次電池は、前記負極活物質を用いて構成された負極を具備する。本非水電解質二次電池は正極を具備する。本非水電解質二次電池は非水電解質を具備する。
【0037】
以下、更に詳しい説明が行われる。
【0038】
炭素繊維(或いは炭素繊維製のシート)を第1層(内層)、前記炭素繊維(或いは炭素繊維製のシート)の表面に設けられたリチウム合金形成可能物質を第2層(外層)とした場合、本発明になる負極活物質は、所謂、コア(第1層(内層))/シェル(第2層(外層))の構造物であると言える。第1層(内層)と第2層(外層)とは、直接、接触していることが好ましい。場合によっては、第1層(内層)と第2層(外層)との間に、別の異なる層が存在していても良い。第1層(内層)の内側に、別の異なる層が存在していても良い。第2層(外層)の外側に、別の異なる層(最外層)が存在していても良い。但し、第1層(内層:炭素繊維または炭素繊維製のシート)と第2層(外層:リチウム合金形成可能物質)とは、好ましくは、電気的に導通していることである。第2層(外層:リチウム合金形成可能物質)と前記第2層の外側に在る層とは、好ましくは、電気的に導通していることである。層構造は、好ましくは、5層以下である。より好ましくは3層以下である。
【0039】
本発明の負極活物質の断面模式図が図1,2に示される。図1,2中、1は第1層(内層)である。この第1層(内層)1は、炭素繊維で構成されている。2は第2層(外層)である。この第2層(外層)2は、リチウム合金形成可能物質である。例えば、Si粒子である。或いは、Sn粒子である。3は最外層である。この最外層3は、Cuなどの導電材である。
【0040】
第1層1は第2層2によって覆われている。被覆率は、好ましくは、50%以上であった。より好ましくは70%以上であった。更に好ましくは80%以上であった。もっと好ましくは90%以上であった。最も好ましいのは、第1層1の全表面が第2層2によって実質上覆われている場合であった。言い換えるならば、露出している炭素繊維が、実質上、見えないと言う場合である。
【0041】
前記被覆率はSEM画像を観察することによって求めることが出来る。SEM画像の観察に際しては、好ましくは、100〜10000倍(より好ましくは1000倍以上である。より好ましくは5000倍以下である。)の倍率で行われる。SEM画像観察において、第1層が露出している面積をS1、第2層が第1層を覆っている面積をS2とした時、被覆率Sは{S2/(S1+S2)}×100(%)で得られる。
【0042】
前記第1層1の厚さをL1、前記第2層2の厚さをL2とした時、L2/L1が小さ過ぎた場合、非水電解質二次電池の容量特性の向上度が低くなる傾向が認められた。逆に、L2/L1が大き過ぎた場合、非水電解質二次電池のサイクル特性の向上度が低下する傾向が認められた。好ましいL2/L1は、0.01〜100であった。より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.1以上の場合であった。より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下の場合であった。
【0043】
前記第1層の質量をM1、前記第2層の質量をM2とした時、M2/M1が小さ過ぎた場合、非水電解質二次電池の容量特性の向上度が低くなる傾向が認められた。逆に、M2/M1が大き過ぎた場合、非水電解質二次電池のサイクル特性の向上度が低下する傾向が認められた。好ましいM2/M1は、0.01〜1000であった。より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.1以上の場合であった。より好ましくは200以下、更に好ましくは100以下の場合であった。
【0044】
本発明の負極活物質の形成方法が以下に説明される。
第1層構成材料(炭素繊維あるいは炭素繊維製シート)と、第2層構成材料(リチウムと合金形成が可能な物質(或いは、その前駆体))とを共存させる必要がある。この共存状態は仮積層と称される。仮積層の状態では、第1層構成材料と第2層構成材料とが、何らかの形態で、接触していれば良い。例えば、第1層構成材料と第2層構成材料とが混合される。蒸着やスパッタ等のPVD手段、或いはCVD手段により、第2層構成材料が第1層構成材料の表面に堆積される。電解メッキあるいは無電解メッキなどの湿式メッキ手段により、第2層構成材料が第1層構成材料の表面にメッキされる。第2層構成材料を含む塗料が第1層構成材料の表面に塗布される。第1層が炭素繊維(非シート)の場合、上記手法の中でも、好ましくは、簡単なことから、混合法が採用される。炭素繊維製シートの場合は、好ましくは、PVD等の乾式メッキ手段、湿式メッキ手段が採用される。勿論、シートの場合、第2層構成材料含有溶液中に漬けることでも可能である。第2層構成材料がケイ素や金属酸化物の場合、電気メッキの手法は採用できない。この場合は、乾式メッキ手段あるいは無電解メッキ手段が用いられる。
【0045】
仮積層の状態では、第2層が第1層上に固着(強く被着)されている必要は無い。第2層構成材料が第1層構成材料(炭素繊維、炭素繊維製シート)の近辺に存在しておれば良い。炭素繊維製シートの場合には、第2層構成材料がシート内部まで入り込んでなくても良い。必要量の第2層構成材料がシート表面に存するのみでも良い。
【0046】
リチウム合金形成可能物質が上記手法で炭素繊維(或いは炭素繊維製シート)の表面に設けられた後、好ましくは、リチウムイオン吸蔵・脱離(吸蔵および/または脱離)処理が行われる。勿論、吸蔵と脱離との処理が行われることが好ましい。更には、1回のみでは無く、複数回行われることが好ましい。すなわち、吸蔵処理と脱離処理とが繰り返して行われることが好ましい。繰り返し回数は、好ましくは、5回以上であった。より好ましくは10回以上であった。繰り返し回数は多い方が好ましい。繰り返し回数が多くなると、生産性が低下する。従って、好ましくは100回以下であった。より好ましくは50回以下であった。更に好ましくは30回以下であった。リチウムイオン吸蔵・脱離処理の効果は、図8と図9とから明白である。図8は、炭素繊維製不織布(シート)上にSi粒子を蒸着させた段階(リチウムイオン吸蔵・脱離処理前)でのSEM写真である。図8より、Si粒子が炭素繊維製不織布表面に堆積していることが判る。Si粒子は炭素繊維製不織布表面にのみ堆積しており、内部の一つ一つの繊維には被着(付着)していない。図9は、Si粒子堆積炭素繊維製不織布(図8参照)にリチウムイオン吸蔵・脱離処理が施された後段階でのSEM写真である。図9より、Si粒子が一本一本の繊維の表面に被着していることが判る。恰も、Si粒子が連続コーティングされたかの如くに被着されている。すなわち、リチウムイオン吸蔵・脱離処理によって、Si粒子が均一に被着している。このことは、Si粒子が剥離し難いことを意味する。かつ、Si粒子の被着に偏在が少ない。このことは、Si粒子被着に起因する効果(リチウムイオンの吸蔵効果)が高まることを意味する。
【0047】
リチウムイオン吸蔵・脱離反応は電気化学反応であれば良い。例えば、本発明になる負極活物質を用いて電極(負極)を作製する。この電極(負極)と適切な電極(対極:正極)とが対抗配置され、電圧が印加される。或いは、前記電極(負極)とリチウムイオン吸蔵・脱離反応を起こし得る物質とが接触させられる。前記対極に用いられる活物質は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられるリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型リン酸リチウムと言った正極活物質が用いられる。或いは、リチウム金属、リチウム金属合金も用いられる。
【0048】
リチウムイオン吸蔵・脱離反応は、非水電解質二次電池を作製した後に、非水電解質二次電池の充・放電反応として行うことも出来る。リチウムイオン吸蔵・脱離反応が非水電解質二次電池の充・放電反応として行われる場合、種々のリチウムイオン二次電池の充・放電方式が用いられる。充・放電方式または電気化学的方式でリチウムイオン吸蔵・脱離反応を起こさせる方法としては、外部より電圧を印加して一定強度の電流を流す定電流法、外部より一定強度の電圧を印可する定電圧法、定電流法に引き続いて定電圧法を用いる方法が有る。パルス電圧を印加するバルス電圧法も有る。パルス電圧法が採用されると、リチウムイオン吸蔵・脱離反応に要する時間が短い。
【0049】
リチウムイオン吸蔵・脱離反応はリチウムの酸化還元電位に対して4V以下で行われることが好ましかった。より好ましくは3V以下であった。更に好ましくは2.5V以下であった。前記反応に際しての電流密度が大き過ぎると、反応が起こり難かった。小さ過ぎると、時間が掛かり過ぎた。このようなことから、負極活物質1g当たり0.01〜5000mAが好ましかった。より好ましくは10〜500mAであった。
【0050】
本発明になる負極活物質が用いられて作製された電極(負極)に、直接、リチウム金属(リチウム含有合金(箔や粒子))を接触させ、リチウムイオンの吸蔵反応を行う方法も好ましい。この方法が採用されると、負極活物質の不可逆的に消費されるリチウムイオンが、正極活物質ではなく、リチウム金属(箔や粒子)から供給される。従って、不可逆的に消費される正極活物質の量を減らすことが出来る。その結果、電池容量の増加、コストの減少が得られる。対極にリチウム金属を用いたリチウムイオンの吸蔵反応、或いは吸蔵および脱離反応が行われた後、該負極が取り出され、非水電解質二次電池に組み込まれる。この方法でも、不可逆的に消費されるリチウムイオンが、正極活物質では無く、リチウム金属(箔や粒子)から供給される。従って、不可逆的に消費される正極活物質の量を減らすことが出来る。その結果、電池容量の増加、コストの減少が得られる。
【0051】
対極に用いることが出来る正極活物質としては、リチウム含有複合金属酸化物、オリビン型リン酸リチウム等が挙げられる。リチウム含有複合金属酸化物は、例えばリチウムと遷移金属とを含む金属酸化物である。或いは、金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。遷移金属元素としては、Co,Ni,Mn,Feの群の中から選ばれる少なくとも一種以上を含有するものが好ましい。リチウム含有複合金属酸化物の具体例としては、例えばLiCoO,LiNiO,LiMnO,LiCoNi(1−m),LiCo(1−m),LiNi(1−m),LiMn,LiMn(2−m)(Mは、Na,Mg,Sc,Y,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Al,Cr,Pb,Sb,Bの群の中から選ばれる少なくとも一つの元素である。k=0〜1.2, m=0〜0.9, n=2.0〜2.3)等が挙げられる。オリビン型結晶構造を有し、LiFe(1−y)PO(Mは、Co,Ni,Cu,Zn,Al,Sn,B,Ga,Cr,V,Ti,Mg,Ca,Srの群の中から選ばれる少なくとも一つの元素である。0.9<x<1.2, 0≦y<0.3)で表される化合物(リチウム鉄リン酸化物)を用いることも出来る。リチウム鉄リン酸化物としては、例えばLiFePOが好適である。その他にも、ヨーロッパ特許第415856号公報に述べられているX−S−R−S−(S−R−S)n−S−R−S−X′のようなリチウムチオレートを用いることも出来る。
【0052】
次に、本負極活物質を構成する炭素繊維が説明される。本発明で用いられる炭素繊維の大きさや長さは前述の通りである。そして、各種のタイプの炭素繊維が用いられる。カーボンナノチューブ、例えば気相成長法によるカーボンナノチューブが用いられる。PAN系の炭素繊維、ピッチ系の炭素繊維、又はレーヨン系の炭素繊維が用いられる。セルロース等の天然の炭素系の繊維を分離して熱処理工程を経て作られる炭素繊維、多孔質炭素繊維であっても良い。
【0053】
炭素繊維は、その直径がほぼ均一なものであっても良い。しかしながら、前述の通り、凸凹が有る炭素繊維は好ましい。すなわち、大径部と小径部とを有する炭素繊維は好ましい。炭素繊維の直径に比べて十分に小さい凹凸を有する活性炭素繊維のような多孔質炭素繊維も好ましい。このような凸凹を有する炭素繊維が用いられた場合、表面に被着されたリチウム合金形成可能物質(Si粒子など)が剥離し難かったからである。すなわち、前記大径部は、好ましくは、その直径が20nm〜10μmであった。更に好ましくは50nm以上であった。もっと好ましくは100nm以上であった。好ましくは1μm以下であった。前記小径部は、好ましくは、その直径が10nm〜5μmであった。更に好ましくは3μm以下であった。もっと好ましくは1μm以下であった。条件[(前記大径部における直径(直径の平均値))>(前記小径部における直径(直径の平均値))]が満たされる。特に、[(前記大径部における直径の最大値)/(前記小径部における直径の最小値)]が1.1〜100(より好ましくは2以上。より好ましくは50以下。更に好ましくは20以下)であった。好ましくは、前記大径部の長さが60nm〜900μm(より好ましくは500nm〜100μm)であった。好ましくは、前記小径部の長さが10nm〜100μm(より好ましくは、50nm〜10μm)であった。前記炭素繊維は、好ましくは、比表面積(BET比表面積)が1〜100m/g(より好ましくは2〜50m/g)であった。前記炭素繊維は、好ましくは、そのX線回折測定において、黒鉛構造(002)由来のピークが25°〜30°(2θ)の範囲に有るものであった。好ましくは前記ピークの半値幅が0.1〜2(より好ましくは0.1〜1)のものであった。前記半値幅が大きすぎた場合、黒鉛の結晶性が低く、非水電解質二次電池の負極に用いた場合、性能が劣るものであった。前記炭素繊維は、好ましくは、条件[ID/IG=0.1〜2(IDは、前記炭素繊維のラマン分光スペクトルにおいて、1300〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度。IGは、前記炭素繊維のラマン分光スペクトルにおいて、1580〜1620cm−1の範囲にあるピーク強度。)]を満たすものであった。より好ましくは、前記比が0.1〜1であった。前記比が大きすぎた場合、黒鉛の結晶性が低く、非水電解質二次電池の負極に用いた場合、性能が劣るものであった。前記炭素繊維は、好ましくは、条件[L/(S)1/2=5〜300(Sは、走査型電子顕微鏡で前記炭素繊維を観察して得た画像における前記炭素繊維の面積。Lは、走査型電子顕微鏡で前記炭素繊維を観察して得た画像における前記炭素繊維の外周長さ)]を満たすものであった。より好ましくは、前記比が50〜200であった。SEM観察を行う際、好ましくは、測定範囲に入る繊維の数が50本以上である。すなわち、50本以上の場合、測定誤差が小さなものであった。本演算処理を行ったプログラムは、ソフト名「imageJ」(米国立精神衛生/神経疾患・脳卒中研究所研究支援ブランチHP http:http://rsb.Info.nih.gov//ij/index.htmlrsb.Info.nih.gov//ij/index.htmlである。
【0054】
本発明にあっては、好ましくは、前記特徴を有する炭素繊維である。しかしながら、前記特徴を有さない炭素繊維が含まれていても良い。例えば、(本発明の特徴を有する炭素繊維の量)/(本発明の特徴を有する炭素繊維の量+本発明の特徴を有さない炭素繊維の量)≧0.5であれば、本発明の特徴が大きく損なわれるものではなかった。好ましくは、前記比が0.6以上であった。より好ましくは、前記比が0.7以上であった。更に好ましくは、前記比が0.8以上であった。もっと好ましくは、前記比が0.9以上であった。
【0055】
本発明の負極活物質を構成する炭素繊維は、シート状の不織布の形態であっても良い。複数枚の不織布が積層された形態のものでも良い。積層物はロールで圧縮されていても良い。シートの形態のものが用いられた場合、それ自体が集電機能を有する為、負極を構成するのに金属集電体が用いられずに済む。
【0056】
前記炭素繊維は、好ましくは、次の工程を経て得られる。樹脂およびピッチを含む分散液が作製される分散液作製工程である。前記分散液作製工程で得られた分散液から、紡糸により、炭素繊維前駆体からなるシート(不織布)が作製される紡糸工程である。前記紡糸工程で得られたシートの炭素繊維前駆体が炭素繊維に変性する変性工程である。前記分散液作製工程は、樹脂およびピッチ(炭素粒子)を含む分散液が作製される工程である。前記紡糸工程は、前記分散液が紡糸される工程である。この紡糸工程によって、炭素繊維前駆体からなるシートが作製される。紡糸工程には公知の紡糸方法が採用される。例えば、溶融紡糸法、湿式紡糸法、静電紡糸法などである。好ましくは静電紡糸法であった。前記変性工程は、前記紡糸工程で得られたシートの炭素繊維前駆体が炭素繊維に変性される工程である。前記変性工程は加熱工程を有する。この加熱工程では、前記シート(炭素繊維前駆体製の3次元構造を有するシート)が、例えば50〜4000℃に加熱される。前記変性工程は、好ましくは、樹脂除去工程を有する。この樹脂除去工程は、前記紡糸工程で得られたシートに含まれる樹脂が除去される工程である。前記樹脂除去工程は、例えば加熱工程である。この加熱工程は、例えば酸化性ガス雰囲気下において、前記シート(前記紡糸工程で得られた不織布)が加熱される工程である。前記変性工程は、好ましくは、炭化工程を有する。この炭化工程は、前記シート(特に、前記樹脂除去工程後のシート)が炭化処理される工程である。前記変性工程は、好ましくは、黒鉛化工程を有する。この黒鉛化工程は、前記シート(特に、前記炭化工程後のシート)が黒鉛化処理される工程である。前記黒鉛化工程は、例えば加熱工程である。この加熱工程は、例えば不活性雰囲気下において、前記シート(特に、前記炭化工程後のシート)が加熱される工程である。前記加熱工程は、前記シート(特に、前記炭化工程後のシート)への通電による発熱(加熱)工程である。
【0057】
上記不織布(シート)形態の炭素繊維では無く、一本一本の炭素繊維を用いたい場合には、前記製造方法で得られた不織布(シート)が解かれることで得られる。例えば、粉砕工程を経ることで炭素繊維が得られる。
【0058】
前記樹脂は、好ましくは、水溶性樹脂である。前記樹脂は、好ましくは、熱分解性樹脂である。特に、好ましくは、水溶性で、かつ、熱分解性樹脂である。最も好ましい樹脂は、ポリビニルアルコールである。前記炭素粒子はピッチである。前記ピッチは、好ましくは、硬ピッチ又はメソフェーズピッチである。特に好ましくはメソフェーズピッチである。(前記ピッチの量)/(前記樹脂の量)が、好ましくは、0.2〜2(より好ましくは、0.7〜1.5)(質量比)である。
【0059】
上記の他にも、特開2003−82535号公報、特開2009−298690号公報、特開2009−292676号公報に記載されているセルロースから作製された微細炭素繊維を用いることも出来る。次の方法で得られた炭素繊維を用いることも出来る。例えば、セルロース原料を該セルロース原料のミクロフィブリルを保存した状態で乾燥させた後、不活性雰囲気下で炭化または黒鉛化する方法である。或いは、600〜1200℃の温度範囲で嫌気性雰囲気下でバクテリアセルロースを仮焼する方法である。又は、種々の形態を有する植物セルロース系物質(及び/又は再生セルロース系物質)にハロゲン(ハロゲン化物)を電子受容体としてドーピングし、このドーピングされた前記植物セルロース系物質(及び/又は再生セルロース系物質)を、不活性ガス雰囲気中、800℃〜2800℃の熱処理温度で炭素化する方法などである。
【0060】
次に、リチウム合金形成可能物質が説明される。前記物質は金属元素が用いられたものでも、半金属元素が用いられたものでも良い。前記物質は、前記元素の単体、合金、或いは化合物の形態何れであっても良い。前記元素としては、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、銀(Ag)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)等が挙げられる。化合物例としては、LiAl,AlSb,CuMgSb,SiB,SiB,MgSi,MgSn,NiSi,TiSi,MoSi,CoSi,NiSi,CaSi,CrSi,CuSi,FeSi,MnSi,NbSi,TaSi,VSi,WSi,ZnSi,SiC,Si,SiO,SiOv (0<v≦2),SnOw (0<w≦2),SnSiO,LiSiO,LiSnO等が挙げられる。リチウムチタン複合酸化物(スピネル型、ラムステライト型等)も挙げられる。好ましくは、ケイ素もしくはスズの単体、合金、化合物である。より好ましくは、ケイ素の単体、合金、化合物である。
【0061】
次に、非水電解質二次電池が説明される。
本発明の負極活物質で構成された負極は、好ましくは、30〜80%の空隙率を持っていた。35%以上の空隙率を持つものがより好ましかった。40%以上の空隙率を持つものが更に好ましかった。70%以下の空隙率を持つものがより好ましかった。60%以下の空隙率を持つものが更に好ましかった。大きな空隙率は少ない負極活物質を意味する。従って、電池の容量が小さい。小さな空隙率は、負極活物質がリチウムイオンの吸蔵反応で膨張した際、破損を引き起こす。この結果、電池のサイクル特性が劣化する。空隙率は、SEM観察によって求められる。或いは、水銀を用いたポロシメータ法で求められる。非水電解質二次電池において、本発明の負極活物質以外の負極活物質が多少用いられても良い。すなわち、本発明の効果を損なわない範囲で本発明外の負極活物質が用いられても良い。
【0062】
正極活物質としては前記対極で説明された正極活物質が用いられる。
【0063】
セパレータは、合成樹脂(例えば、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等)製の多孔質膜、又はセラミック製の多孔質膜により構成される。2種以上の多孔質膜が積層されたものでも良い。
【0064】
電解液は非水溶媒と電解質塩とを含有する。非水溶媒としては、例えば環状炭酸エステル(炭酸プロピレン、炭酸エチレン等)、鎖状エステル(炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル等)、エーテル類(γ−ブチロラクトン、スルホラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等)が用いられる。これらは、単独でも、複数種の混合物でも良い。酸化安定性の観点から、炭酸エステルは好ましい。電解質塩としては、例えばLiBF,LiClO,LiPF,LiSbF,LiAsF,LiAlCl,LiCFSO,LiCFCO,LiSCN,LiBCl,LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、ハロゲン化リチウム(LiCl,LiBr,LiI等)、ホウ酸塩類(ビス(1,2−ベンゼンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3−ナフタレンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’−ビフェニルジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5−フルオロ−2−オレート−1−ベンゼンスルホン酸−O,O’)ホウ酸リチウム等)、イミド塩類(LiN(CFSO,LiN(CFSO)(CSO)等)が用いられる。LiPF,LiBF等のリチウム塩は好ましい。LiPFは特に好ましい。電解液として、高分子化合物に電解液が保持されたゲル状の電解質が用いられても良い。前記高分子化合物は、例えばポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート等である。電気化学的安定性の観点から、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイドの構造を持つ高分子化合物が好ましい。
【0065】
導電剤は、例えばグラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛など)、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等)、導電性繊維(炭素繊維、金属繊維)、金属(Al等)粉末、導電性ウィスカ(酸化亜鉛、チタン酸カリウム等)、導電性金属酸化物(酸化チタン等)、有機導電性材料(フェニレン誘導体など)、フッ化カーボン等である。
【0066】
結着剤は、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ヘキシル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルホン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、変性アクリルゴム、カルボキシメチルセルロース等である。
【0067】
以下、具体的な実施例を挙げて説明される。但し、本発明は以下の実施例によって限定されるものでは無い。
【0068】
[実施例1]
100gのポリビニルアルコール(商品名:ポバール117:株式会社クラレ製)と、120gのメソフェーズピッチ(商品名:AR:三菱ガス化学株式会社社製)と、800gの水とが、ビーズミルで、混合された。これにより、ポリビニルアルコールが溶解したメソフェーズピッチ分散液が作製された。この分散液中の炭素粒子の粒径は200nm(測定装置:LA−950:株式会社堀場製作所製)であった。分散液の粘度は4500mPa・S(測定装置:BH型粘度計:TOKIMEC製)であった。
【0069】
静電紡糸装置(図3参照 ノズル径;1.0mm 捕集体(集電極);アルミ箔 ノズルと捕集体との距離;10cm 電圧;10kV)が用いられた。すなわち、上記分散液を用いて静電紡糸が行われた。その結果、炭素繊維前駆体製の不織布が捕集体上に作製された。
【0070】
この不織布が積層された。この積層不織布に対して、空気中において、150℃で、10分間の加熱が行われた。この後、300℃にて、1時間の加熱が行われた。
この後、アルゴンガス雰囲気下で、900℃までの加熱が行われた。
次いで、黒鉛化炉にて、2800℃までの加熱が行われた。
【0071】
この結果、炭素繊維製シートが得られた。この黒鉛化炭素繊維製不織布のSEM写真(SEM装置:装置名:VE−8800 株式会社KEYENCE製)が図4に示される。これによれば、不織布を構成する炭素繊維は、凹凸を有するものであった。すなわち、前記繊維は、大径部(直径:約500〜1000nm)と、小径部(直径:約100〜200nm)とを有するものであった。前記大径部の長さ(一つの大径部の長さ)は約500〜1000nmであった。前記小径部の長さ(前記大径部と前記大径部との間の距離)は約500〜1000nmであった。1本の繊維の長さは100μm以上であった。繊維のアスペクト比は100以上であった。
【0072】
前記不織布の厚みは125μmであった。目付量は210g/mであった。BET表面積(測定装置:株式会社島津製作所製)は10.8m/gであった。
【0073】
本実施例で得られた黒鉛化炭素繊維製不織布のXRD測定結果(XRD装置:株式会社リガク製)が図5に示される。最大ピークにおける半値幅は0.95であった。
【0074】
本実施例で得られた黒鉛化炭素繊維製不織布のラマン測定結果(ラマン測定装置:株式会社島津製作所製)が図6に示される。これによれば、ID/IGは0.87であった。
【0075】
前記SEM写真を用いてS/Lの測定が行われた。すなわち、imageJ(米国立精神衛生/神経疾患・脳卒中研究所研究支援ブランチHPhttp://rsb.info.nih.gov/ij/index.html)が用いられた。炭素繊維と炭素繊維以外の部分とが分けられ、炭素繊維部分の面積と周囲の長さとが測定された。処理後の画像が図7に示される。この結果、L/(S)1/2=140であった。同様の画像を用いて測定した処、(大径部における直径の最大値)/(小径部における直径の最小値)=10であった。
【0076】
蒸着装置(UEP−4000:ULVAC社製)が用いられ、上記黒鉛化炭素繊維製不織布の表面にSi粒子の蒸着が行われた。蒸着膜の厚さは約500nmである。図8は、Si粒子が蒸着した黒鉛化炭素繊維製不織布の表面のSEM写真である。
【0077】
図8に示されるSi蒸着黒鉛化炭素繊維製不織布からシート状の負極が構成された。リチウム金属で対極(正極)が構成された。前記負極と前記正極と非水電解質とが用いられて二次電池が作製された。この非水電解質二次電池に負極の重量1g当たり350mAの電流密度となるよう電圧が印加され、負極構成要素のケイ素にリチウムイオンの吸蔵および脱離が行われた。この吸蔵・脱離処理は10回繰り返して行われた。この吸蔵・脱離処理後における負極(Si蒸着黒鉛化炭素繊維製不織布)のSEM写真が図9に示される。図9は、Si粒子が炭素繊維の表面に連続(均一)コーティングされているかの如きの形態であることを示している。すなわち、炭素繊維の表面が、約100%、Siによって覆われていると言っても差支えない。このSiコーティング後の繊維の直径を計測すると、約700〜1100nmであった。従って、炭素繊維の平均直径(第1層1の厚さ:L1)を500nmとすると、Siコーティング厚(第2層2の厚さ:L2)は約100〜300nm{(700−500)/2〜(1100−500)/2}nmである。Si蒸着処理前の炭素繊維には、大径部と小径部とが有り、Si蒸着処理後においても、前記大径部と小径部とに起因して、大径部と小径部とが認められた。しかしながら、吸蔵・脱離処理後におけるSiコーティング炭素繊維は、その径は略同程度なものであった。
【0078】
上記吸蔵・脱離処理されたSi蒸着黒鉛化炭素繊維製不織布が所定形状に打ち抜かれて負極が構成された。対極(正極:リチウム金属)と、電解質(1M LiPF/EC+DEC(体積比1:1 キシダ化学株式会社製))と、ポリエチレン製セパレータとが用意された。これ等が用いられてリチウムイオン二次電池が作製された。
【0079】
このリチウムイオン二次電池において充・放電(電流:負極1g当たり350mA)が繰り返された。その充・放電特性が図10に示される。図10は、100サイクル後でも容量低下が少ないことを示している。
【0080】
[比較例1]
実施例1と同じ装置を用い、かつ、同じ条件で、銅箔の表面にSi粒子の蒸着が行われた。このSi蒸着銅箔から負極が構成された。このSi蒸着銅箔製の負極が用いられた以外は実施例1に準じて行われ、リチウムイオン二次電池が作製された。
サイクル試験前の負極表面のSEM写真が図11に示される。
実施例1と同条件でサイクル試験が行われた。第3サイクルの充電後には放電が行われなかった。サイクル試験結果が図12に示される。サイクル試験後の負極のSEM写真が図13に示される。図13は、Si層が、リチウムイオンを吸蔵し、体積が膨張した為、銅箔から剥離していることを示している。
【符号の説明】
【0081】
1 第1層(内層:炭素繊維)
2 第2層(外層:リチウム合金形成可能物質)
3 最外層(導電材)
4 捕集体
5 パンタイプの紡糸原液供給装置
6 ドラムタイプの吐出口



【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と、
前記炭素繊維の表面に設けられたリチウムと合金形成が可能な物質
とを具備する
ことを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
リチウムと合金形成が可能な物質が表面に設けられた炭素繊維は、
アスペクト比が7以上である
ことを特徴とする請求項1の負極活物質。
【請求項3】
リチウムと合金形成が可能な物質が表面に設けられた炭素繊維は、
長さが70nm〜1000μm、
直径が10nm〜10μm
である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の負極活物質。
【請求項4】
リチウムと合金形成が可能な物質が表面に設けられた炭素繊維は、
大径部と小径部とを有し、
前記大径部は、
直径が20nm〜10μm、
前記小径部は、
直径が10nm〜5μm、
(前記大径部における直径)>(前記小径部における直径)である
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかの負極活物質。
【請求項5】
リチウムと合金形成が可能な物質が表面に設けられた炭素繊維は、該炭素繊維によってシートが構成された形態のものである
ことを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかの負極活物質。
【請求項6】
リチウムと合金形成が可能な物質が表面に設けられた炭素繊維は、
樹脂およびピッチを含む分散液が作製される分散液作製工程と、前記分散液から、紡糸により、炭素繊維前駆体からなるシートが作製される紡糸工程と、前記紡糸工程で得られたシートの炭素繊維前駆体が炭素繊維に変性する変性工程とを有する製造方法を経て作製されてなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項5いずれかの負極活物質。
【請求項7】
リチウムと合金形成が可能な物質は、
ケイ素、ケイ素合金、及びケイ素化合物の群の中から選ばれる少なくとも一種のものである
ことを特徴とする請求項1〜請求項6いずれかの負極活物質。
【請求項8】
リチウムと合金形成が可能な物質によって炭素繊維が被覆される割合は50%〜100%である
ことを特徴とする請求項1〜請求項7いずれかの負極活物質。
【請求項9】
(リチウムと合金形成が可能な物質の層の厚さ)/(炭素繊維の層の厚さ)=0.01〜100である
ことを特徴とする請求項1〜請求項8いずれかの負極活物質。
【請求項10】
リチウムイオンの吸蔵・脱離処理が行われてなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項9いずれかの負極活物質。
【請求項11】
電池に組み込む前においてリチウムイオンの吸蔵・脱離処理が行われてなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項10いずれかの負極活物質。
【請求項12】
負極活物質を用いて構成された負極の製造方法であって、
リチウムと合金形成が可能な物質が炭素繊維の表面に設けられる負極活物質製造工程
を具備することを特徴とする負極製造方法。
【請求項13】
請求項1〜請求項11いずれかの負極活物質を用いて構成された負極の製造方法であって、
リチウムと合金形成が可能な物質が炭素繊維の表面に設けられる負極活物質製造工程
を具備することを特徴とする負極製造方法。
【請求項14】
リチウムと合金形成が可能な物質が設けられた炭素繊維に対して、リチウムイオン吸蔵・脱離処理が行われるリチウムイオン吸蔵・脱離工程
を具備することを特徴とする請求項12又は請求項13の負極製造方法。
【請求項15】
請求項1〜請求項11いずれかの負極活物質を用いて構成されてなる
ことを特徴とする負極。
【請求項16】
請求項1〜請求項11いずれかの負極活物質を用いて構成された負極と、
正極と、
非水電解質
とを具備する
ことを特徴とする非水電解質二次電池。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【図7】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−119079(P2012−119079A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265114(P2010−265114)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(392017624)平松産業株式会社 (15)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】