説明

貫通孔を有する微細構造成形体の製造方法及び微細構造成形体素材

【課題】針状、円錐あるいは台形状等種々の形状の貫通孔を明けることができ、形状・寸法精度に優れた高品質の貫通孔を有する微細構造成形体を製造する方法及びその方法により製造される微細構造成形体素材を提供する。
【解決手段】本発明に係る貫通孔を有する微細構造成形体を製造する製造方法は、溶融状態の熱可塑性樹脂に貫通孔を明け、これを冷却し固化させることにより微細な貫通孔を含む微細構造成形体を製造する製造方法であって、微細構造成形体となる樹脂溶融体54、分離層55及び付加樹脂溶融体58の三層構造を形成させた状態で貫通孔を明けることにより実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な貫通孔を含む微細構造成形体の製造方法及び微細構造成形体素材に係り、特に溶融状態の熱可塑性樹脂に微細な貫通孔を明け、これを冷却し固化させることにより微細な貫通孔を含む微細構造成形体を製造する製造方法及びその方法により製造される微細構造成形体素材に関する。
【背景技術】
【0002】
微細構造成形体は、電子デバイス、光デバイス、記録メディア、バイオデバイス等種々の分野にその用途が拡大しており、これらに使用される微細構造成形体は、精密機械加工、射出成形、リソグラフィ、ナノインプリント、ホットエンボス等の各種加工法により製造されている。これらの加工方法により製造されるものの多くは、樹脂、半導体材料、金属材料等の表面に微細な凹凸を有する微細構造成形体であるが、高精度の微細な貫通孔を有する微細構造成形体も必要とされている。
【0003】
このような貫通孔を有する微細構造成形体は、例えば、医療用途として、マイクロ針アレイによる経皮性薬剤搬送システム、バイオセンサー、医用高分子膜(血液浄化、血液透析、人工肝臓、膜型人工肺、ウイルス除去膜等)、人工血管等への利用が進められている。また、電気・電子材料用途として、電池用セパレータ、多孔質センサ、液晶光学表示素子等への利用が進められている。
【0004】
そして、このような貫通孔を有する微細構造成形体の製造方法として、先ず、射出成形法や熱式インプリント法が挙げられる。射出成形法は、第4図に示すように、金型に突起状のピンを形成し、その周りに溶融樹脂を射出して冷却した後、金型を開いて取り出す工法である。一方、熱式インプリント法は、第5図に示すように、Si、ガラス、石英等の基板上に形成された固体状の熱可塑性樹脂フィルムをそのガラス転移温度以上に加熱して軟化させるとともに、同じく加熱されたスタンパの突起を樹脂に押圧して加圧変形させ、それらを冷却して離型した後に、突起と基板との間の残膜を酸素の反応性イオンエッチングで除去して基板表面を出し、基板と樹脂とを引き剥がして貫通孔を形成させる工法である。
【0005】
また、図6に示すような針状突起を有する金型を用いて樹脂フィルムを押圧することにより微細な貫通孔を明ける精密機械加工法がある。
【0006】
さらに、貫通孔を有する微細構造成形体の製造方法として、例えば、特許文献1に、PET,PES,PC,PI等の高分子材料からなるフィルムにレーザ光を照射して穿孔加工を施すことを特徴とする微細粒子分級用フィルターの製造方法が提案されている。
【0007】
特許文献2には、複数の貫通孔が形成されている基板の前記各貫通孔に対して、所定の透光性及び所定の粘度を有しかつ硬化可能な液状のレンズ材料を滴下又は噴射し、前記各貫通孔に前記レンズ材料を位置させて各マイクロレンズを製造するマイクロレンズアレイの製造方法が提案されている。そして、明細書に、貫通孔は、そのサイズに応じて、超精密切削加工、レーザ加工、集束イオンビーム加工、レーザエッチング加工、マイクロ放電加工、電子ビーム描画等により明けることができると記載されている。
【0008】
また、特許文献3に、電鋳加工し微細金型として利用可能な樹脂層中に傾斜した側壁を有する高精度な3次元微細構造体を、簡易なX線露光システムにより、安価に大量生産できる方法が提供されている。特許文献4に、樹脂にエンボス加工を施し、エンボス加工された凹部底を化学エッチング又はレーザによるアブレーション処理を行って貫通孔を形成し薄膜ミクロフィルタを製造する製造方法が提案されている。
【0009】
特許文献5には、プラスチックフィルムを針剣山ロールと圧縮空気吹き出し口との間隙に置き、該フィルムに圧縮空気を吹き付けて針剣山ロールに押し付け、針によって連続的に微細孔を加工する方法であって、針根元径が1mm以下で、プラスチックフィルムに設けられた開口部の平均径が500μm以下となるプラスチックフィルム用微細孔加工設備が提案されている。
【0010】
特許文献6には、帯状のシート、特にプラスチックシートを穿孔するための、一対のローラを有する装置が記載されている。このローラ対は、その外周面に対して半径方向に設けられたニードルを有するニードル付ローラと、該ニードル付ローラとの接触状態に保持される対向ローラとからなっており、該対向ローラの外周面が、各ニードルの先端部の針入を可能にするライニング、例えば弾性的な外側層を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10-118569号公報
【特許文献2】特開2003-4909号公報
【特許文献3】特開2008-89617号公報
【特許文献4】特表2002-533236号公報
【特許文献5】特開2004-344986号公報
【特許文献6】特表平11-508830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
貫通孔を有する微細構造成形体を工業的に作製する上で重要なことは、貫通孔の形状精度(真円度、孔直径、孔深さ、孔形状、バリやヒケの無いこと)、貫通孔の形状の自由度(深さ、直径、孔の形状)、あるいは、スタンパ突起の耐久性(磨耗、折損、変形)、歩留まりなどの生産性又は経済性である。特に、医療用途や電気・電子材料用途においては、単一ではなく高精度の多数の貫通孔を有する微細構造成形体が求められており、形状に関する精度と自由度の要求及び生産性又は経済性の要求の両立が求められている。
【0013】
このような要求に対して、射出成形法は、生産性が高いが、金型内には20MPa以上の高圧が作用し、しかも金型内におかれた突起には高い剪断力が作用するので、突起状のピンの磨耗、折損、倒壊などが生じやすく耐久性に問題がある。また、樹脂が突起の廻りを流動する時のウエルドラインが発生しやすい。ピンの耐久性の問題から、直径が数百μm以下の孔をあけるには無理がある。そして、金型の孔とピンとの勘合部に樹脂が侵入し、バリが出やすいと同時に、残膜が残って完全な貫通孔を明けるのが容易でないという問題がある。さらに、成形品として得られる厚さは0.3mm以上であり、貫通孔を有する薄く大面積の成形体を得ることができないという問題もある。
【0014】
熱式インプリント法は、図5(b)に示すように、ガラス転移点の近辺で加熱軟化された固体状の熱可塑性樹脂フィルムを突起で加圧変形させるために、極めて大きな加圧力を要し、スタンパの突起の先端の磨耗やヘタリが生じやすいという問題がある。また、図5(c)に示す残膜を酸素の反応性イオンエッチングで除去するためには、高価な設備と工程時間を必要とするため、生産性が低く、設備が高価になるという問題がある。さらに、固体状の樹脂を常温からガラス転移温度まで、金型からの伝熱で加熱するためには数分台の長い時間を要し生産性が低いという問題がある。
【0015】
精密機械加工法は、金型の微細突起により固体状の樹脂フィルムを穿孔するものであるから、工具の摩耗が激しく工具の寿命が短いという問題がある。また、精密機械加工法は、図6(b)、(c)に示すように、微細な貫通孔を明けるのが容易でなく、バリが発生しやすいという問題がある。特に剛性の低い樹脂が加工対象である場合は、貫通孔を明けるのが困難であるという問題がある。このような精密機械加工法に伴う問題は、固体状の樹脂フィルムを機械的に穿孔するいずれの方法も同様である。
【0016】
特許文献1〜3に記載されたレーザ、X線あるいは電子線等を利用して微細な貫通孔を明ける方法は、大がかりな設備を要し、種々の断面形状をした貫通孔を明けるのが困難であるという問題がある。特許文献4に記載されたホットエンボス加工法は、特許文献4に記載するようにアブレーション処理が必要になる、剛性の低い樹脂フィルムには貫通孔を明けることができない、金型の寿命が短い、あるいは、金型の加熱・冷却に時間を要し生産性が悪い等の問題がある。
【0017】
特許文献5及び特許文献6に示された方法は、上記精密機械加工法の場合と同様に、固体状のシートあるいはフィルム等の固体樹脂に孔を明ける方法であり、弾性体に孔を明けるものであるから、孔明け部位にバリが発生しやすく、孔のエッジ部が丸くなりやすく形状精度が出ないという問題がある。また、固体樹脂が伸び変形するために孔が明き難く、部分的に孔のない部分が発生するという問題がある。
【0018】
さらに、特許文献5及び特許文献6に示す方法にあっては、孔の形状がスタンパの突起の形状に制約され、その先端が針状でない円錐状あるいは台形状の孔はあけることはできないという問題がある。また、スタンパの突起先端部分には大きな応力が作用するから、磨耗、ヘタリ等が発生しやすく、孔の直径と深さの比(アスペクト比)が1を超える場合、あるいは高弾性の固体樹脂を加工する場合は、スタンパの突起の座屈強度が問題となる。例えば、直径100μm、高さ1mmといった高アスペクト比の針状突起により孔明け加工をすると、針状突起は座屈破壊する可能性が高い。
【0019】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、針状、円錐あるいは台形状等種々の形状の貫通孔を明けることができ、バリや孔底の丸まりや形状不良がほとんど無く、形状・寸法精度に優れた高品質の貫通孔を有する微細構造成形体を製造する製造方法及びその方法により製造される微細構造成形体素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る貫通孔を有する微細構造成形体を製造する製造方法は、スタンパに微細突起部を設け、これにより貫通孔を有する微細構造成形体を製造する製造方法であって、加熱された前記スタンパ上に熱可塑性の第一の溶融樹脂を供給して前記微細構造成形体となる樹脂溶融体を形成する段階と、前記樹脂溶融体の上に分離層を形成した後、さらに熱可塑性の第二の溶融樹脂を供給して前記分離層の上に付加樹脂溶融体を形成する段階と、前記付加樹脂溶融体の上面を押圧し、前記微細突起部の頂部を、前記樹脂溶融体を貫通して前記分離層から前記付加樹脂溶融体の中に突出させる段階と、前記樹脂溶融体及び前記付加樹脂溶融体を冷却し固化させた後、その固化した樹脂溶融体を前記分離層から剥離することにより実施することができる。
【0021】
上記発明において、前記分離層は、アルミニウム、銀、金、銅、薄紙、ポリジメチルシロキサンシート、カーボン又はポリテトラフルオロエチレンシート、または、食用油、ジメチルシロキサンからなる固体状又は液体状の層からなるものとすることができる。
【0022】
前記熱可塑性樹脂は、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレン・テレフタレート、ポリエチレン・ナフタレート、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、メタクリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、MCナイロン、超高分子量ポリエチレンを使用することができる。
【0023】
また、前記固化した樹脂溶融体と前記固化した付加樹脂溶融体の縁周辺部は、その少なくとも対向する二辺が融着されて一体になっているものとすることができる。
【0024】
上記製造方法の発明により、表面側にある微細構造体層と分離層を挟んで裏面側にある付加層の三層からなるシート状の微細構造成形体素材であって、前記微細構造体層と前記付加層の縁周辺部は、少なくとも対向する二辺が融着されて一体になり、前記微細構造体層は、これを貫通し前記分離層から前記付加層の中に突出する貫通孔を有する微細構造成形体素材を製造することができる。
【0025】
上記微細構造成形体素材において、前記微細構造体層は、その厚さが30μm〜3mmであり、最小直径が100nm〜1000μmの貫通孔を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、種々の断面形状をした微細な貫通孔を有し、バリや孔底の丸まりや形状不良がほとんど無い高品質の微細な貫通孔を有する微細構造成形体を製造することができる。また、プレス式の微細構造転写成形装置により本発明を実施する場合に、金型の突起部の座屈破壊を生じる可能性が低くかつ金型の寿命を長くすることができるので効率的かつ経済的に貫通孔を有する微細構造成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る製造方法の説明図である。
【図2】本発明の実施に使用される各種の微細突起部を有するスタンパの模式図である。
【図3】実施例の顕微鏡写真を示す図である。
【図4】射出成形法による微細構造成形体の製造方法を概説する模式図である。
【図5】熱式インプリント法による微細構造成形体の製造方法を概説する模式図である。
【図6】固体フィルムに針状突起を押し付けることによる微細構造成形体の製造方法を概説する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係る貫通孔を有する微細構造成形体の製造方法を説明する概念図であり、プレス式の微細構造転写成形装置を用いて貫通孔を有する微細構造成形体を製造する場合の例である。図1において、下金型10に微細突起部35を有するスタンパ30が設けられており、そのスタンパ30上に熱可塑性の溶融樹脂が溶融樹脂供給装置の樹脂供給口45から供給できるようになっている。そして、溶融樹脂供給装置は種々の材質の溶融樹脂を供給することができるようになっている。
【0029】
本発明に係る貫通孔を有する微細構造成形体は、以下のように製造される。先ず、微細突起部35を有するスタンパ30が所定温度に加熱され、図1(a)に示すように、このスタンパ30上に熱可塑性の第一の溶融樹脂53が供給される。その第一の溶融樹脂53によりスタンパ30上に微細構造成形体を形成させる熱可塑性の樹脂溶融体54が形成される。
【0030】
次に、形成された樹脂溶融体54の上に分離層55を形成させる。分離層55は、以下に説明するアルミニウムなどの箔等を配設することによって形成される。そして、図1(b)に示すようにその分離層55のうえにさらに熱可塑性の第二の溶融樹脂57が供給され、図1(c)に示すように分離層55のうえに付加樹脂溶融体58(図1(c))が形成される。
【0031】
次に、図1(d)に示すように、下金型10及び上金型20により付加樹脂溶融体58の上面を押圧し、微細突起部35の頂部を、樹脂溶融体54を貫通して分離層55から付加樹脂溶融体58の中に突出させる。そして、樹脂溶融体54及び前記付加樹脂溶融体58を冷却し固化させる。
【0032】
次に、固化した樹脂溶融体、分離層55及び固化した付加樹脂溶融体をスタンパ30から剥離すると、図1(e)に示す固化した樹脂溶融体64、分離層55及び固化した付加樹脂溶融体68が一体になった微細構造成形体素材60を得ることができる。そして、微細構造成形体素材60において固化した樹脂溶融体64を分離層55から剥離すると目的の貫通孔を有する微細構造成形体61を得ることができる(図1(f))。なお、貫通孔を有する微細構造成形体61は、図1(d)の状態において固化した樹脂溶融体をスタンパ30から剥離するとともに、固化した樹脂溶融体を分離層55から剥離することによっても得ることができる。
【0033】
上記のように、先ず微細構造成形体素材60を作製し、次に微細構造成形体素材60から貫通孔を有する微細構造成形体61を得る場合は、以下に示す利点を有する。すなわち、微細構造成形体素材60においては、固化した付加樹脂溶融体68が保護部材、強度部材としての機能を有するので微細構造成形体61の損傷を防止することができる。また、必要に応じて微細構造成形体素材60から容易に微細構造成形体61を得ることができるので、保管、管理等の便宜を図ることができる等の利点がある。
【0034】
微細構造成形体素材60は、その縁周辺部のすべてが融着されて一体になっているものでもよく、微細構造成形体素材60の縁周辺部の少なくとも対向する二辺が融着されて一体になっているものでもよい。微細構造成形体素材60の縁周辺部の少なくとも対向する二辺が融着されて一体になっているものは、例えば、連続状のアルミニウムの箔等を分離層55に使用して微細構造成形体素材60を作製することができるので(アルミニウムの箔等は必要に応じて切断される)、効率的に微細構造成形体素材60を製造することができる。なお、微細構造成形体素材60から貫通孔を有する微細構造成形体61を得る場合は、微細構造成形体素材60の縁周辺部の融着一体化している部分を裁断すると、固化した樹脂溶融体64を分離層55から剥離するのが容易になる。
【0035】
このような微細構造成形体素材60は、それ自体単独に利用、取引の対象にすることができる。すなわち、上記製造方法により、表面側にある微細構造体層と分離層を挟んで裏面側にある付加層の三層からなるシート状の微細構造成形体素材であって、微細構造体層と付加層の縁周辺部は、少なくとも対向する二辺が融着されて一体になり、微細構造体層は、これを貫通し分離層から付加層の中に突出する貫通孔を有する微細構造成形体素材を製造することができる。
【0036】
本発明においては、第一の溶融樹脂53、すなわち、微細構造成形体61を形成させる熱可塑性樹脂は、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレン・テレフタレート、ポリエチレン・ナフタレート、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、メタクリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、MCナイロン、超高分子量ポリエチレンを使用することができる。
【0037】
分離層55は、固化した樹脂溶融体64を分離層55から容易に剥離することができるものであればよい。例えば、樹脂溶融体54の上に形成又は配設したアルミニウム、銀、金、銅、薄紙、ポリジメチルシロキサンシート(シリコーンゴムシート)、カーボン又はポリテトラフルオロエチレンシート、または、食用油、ジメチルシロキサンからなる固体状又は液体状の層を分離層55として使用することができる。分離層55の厚さは、1〜50μmとすることができる。アルミニウムからなる分離層55の場合は、例えば市販のアルミ箔を使用することができる。この分離層55は薄く微細突起部35が貫通しやすいので、微細突起部35、特にその先端部分の摩耗、変形等による損傷を防止することができる。
【0038】
分離層55は、一般的には微細構造成形体61から完全に剥離され、また、微細構造成形体61に何らの物理的、化学的な影響を与えないものが選ばれる。しかしながら、必要に応じて分離層55の全部又は一部が微細構造成形体61に残留した状態で利用される場合もある。また、分離層55は必ずしも上述のような物質で形成されるものに限らない。例えば、固化した樹脂溶融体64と固化した付加樹脂溶融体68とにより形成された微細構造成形体素材60であって、固化した樹脂溶融体64と固化した付加樹脂溶融体68の界面が相互に剥離しやすく形成されており、微細構造成形体素材60から固化した樹脂溶融体64を損傷することなく固化した付加樹脂溶融体68を剥離することができるようなものの場合は、上記のような物質からなる分離層55を要しない。すなわち、固化した樹脂溶融体64と固化した付加樹脂溶融体68の境界層部が分離層55と同等の機能を発揮するからである。
【0039】
本発明においては第二の溶融樹脂57、すなわち、付加樹脂溶融体58を形成させる樹脂は、上記微細構造成形体61を形成させる熱可塑性樹脂と同様な樹脂を使用することができる。また、第二の溶融樹脂57は、第一の溶融樹脂53と同じ材質であってもよく、相互に異なる材質であってもよい。
【0040】
また、本発明においては、微細構造成形体61の貫通孔は種々の形状のものを形成することができる。例えば、図1は、円錐状の微細突起部35を有するスタンパ30の例を示した。これにより、断面が円錐状の貫通孔を有する微細構造成形体61を得ることができる。本発明においてこのスタンパ30に設ける微細突起部35は、図2に示す各種形状のものを使用することがでる。すなわち、スタンパ30の微細突起部35は、図2に示すように、円筒又は角柱状(a)、円錐又は角錐状(b)、円筒又は角柱であって先端部が砲弾状(c)又は槍状(d)、円錐台又は角錐台(e)、あるいは図2(b)の特殊な形状(f)、(g)のように貫通孔を形成しない微細凹凸が形成されているもの等の種々の形状にすることができる。そして、これらのスタンパ30を使用して、断面形状が円形又は角形の直径又は辺長が100nm〜1mm、高さが100nm〜3mmの各種の貫通孔を形成することができる。なお、貫通孔を有する微細構造成形体61の厚さは、30μm〜3mmとすることができる。
【0041】
このように微細な各種の貫通孔を明けることができるのは、本発明においては、上述の分離層55を用いたことによる微細突起部35の損傷の防止の他、以下に説明する効果を得ることができるからである。すなわち、本発明においては、微細突起部35がその根元からほとんど先端まで樹脂溶融体54又は固化した樹脂溶融体64の中にあって保護されており、また、微細突起部35にこれを折損させるような横方向の外力が作用し難く、微細突起部35の損傷を防止することができるという効果を得ることができる。さらに、本発明においては、微細突起部35の先端部が、付加樹脂溶融体58又は固化した付加樹脂溶融体68の中にあって保護される。このため、微細突起部35の損傷を防止することができ、微細突起部35を細くすることができるので、微細な貫通孔を明けることができる。
【0042】
第一の溶融樹脂53及び第二の溶融樹脂57をスタンパ30上に供給するときのスタンパ30の加熱温度は、微細構造成形体61を形成させる樹脂の種類、その樹脂の成形性やスタンパ30から剥離する際の粘着力の温度依存性等を考慮して、最適な温度が選ばれる。例えば、スタンパ30の温度は、ポリメチルメタクリレートであれば130〜170℃、ポリカーボネート樹脂であれば160〜220℃、環状ポリオレフィン樹脂では160〜190℃、ポリエチレンアフタレート樹脂では160〜180℃、ポリプロピレンであれば110〜170℃、ポリエチレンであれば90〜120℃が好適である。
【0043】
また、第一の溶融樹脂53及び第二の溶融樹脂57のスタンパ30上への供給は、樹脂が溶融フィルム状に吐出され、スタンパの表面が端から順次塗布されるようになっているのがよい。これにより、スタンパ30上に供給される樹脂の厚さを容易に制御することができる。また、塗布の工程終了時には微細構造成形体61が溶融樹脂により概ね賦形されており、加圧時の加圧力が貫通孔の形成に有効に作用するようになる。このため、低い加圧力及び短い加圧時間でも精度の高い貫通孔を形成することができる。上記加圧力は、例えば十数MPa以下にすることができる。
【実施例1】
【0044】
微細構造体層及び付加層がポリプロピレン樹脂(PP)、分離層がアルミニウムである貫通孔を有する微細構造成形体素材を作製した。微細構造体層の厚さは約430μm、分離層は厚さが17μmの市販のアルミ箔を用い、付加層の厚さは約300μmとした。本微細構造成形体素材の作製に使用したスタンパは、円錐状の微細突起部を有しており、微細突起部の高さが約500μmであった。図3に、本微細構造成形体素材から分離層及び付加層を剥離した後の微細構造体層を顕微鏡観察した結果を示す。図3(a)は、微細構造体層を貫通孔を含む断面で切断し、その断面部をレーザ顕微鏡で観察した結果を示す。図3(b)及び(c)は、微細構造体層を天面方向から見た光学顕微鏡写真で、図3(c)は、図3(b)の貫通孔部分の拡大写真である。
【0045】
図3に示すように、本微細構造体層においては、貫通孔は真円状をしており貫通孔の縁部周縁にバリはなく(図3(a)、(c))、真円状の貫通孔が整然と明けられていることが分かる(図3(b))。
【符号の説明】
【0046】
10 下金型
20 上金型
30 スタンパ
35 微細突起部
45 樹脂供給口
53 第一の溶融樹脂
54 樹脂溶融体
55 分離層
57 第二の溶融樹脂
58 付加樹脂溶融体
60 微細構造成形体素材
61 貫通孔を有する微細構造成形体
64 固化した樹脂溶融体
68 固化した付加樹脂溶融体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタンパに微細突起部を設け、これにより貫通孔を有する微細構造成形体を製造する製造方法であって、
加熱された前記スタンパ上に熱可塑性の第一の溶融樹脂を供給して前記微細構造成形体となる樹脂溶融体を形成する段階と、
前記樹脂溶融体の上に分離層を形成した後、さらに熱可塑性の第二の溶融樹脂を供給して前記分離層の上に付加樹脂溶融体を形成する段階と、
前記付加樹脂溶融体の上面を押圧し、前記微細突起部の頂部を、前記樹脂溶融体を貫通して前記分離層から前記付加樹脂溶融体の中に突出させる段階と、
前記樹脂溶融体及び前記付加樹脂溶融体を冷却し固化させた後、その固化した樹脂溶融体を前記分離層から剥離することにより貫通孔を有する微細構造成形体を製造する製造方法。
【請求項2】
前記分離層は、アルミニウム、銀、金、銅、薄紙、ポリジメチルシロキサンシート、カーボン又はポリテトラフルオロエチレンシート、または、食用油、ジメチルシロキサンからなる固体状又は液体状の層であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレン・テレフタレート、ポリエチレン・ナフタレート、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、メタクリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、MCナイロン、超高分子量ポリエチレンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記固化した樹脂溶融体と前記固化した付加樹脂溶融体の縁周辺部は、その少なくとも対向する二辺が融着されて一体になっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
表面側にある微細構造体層と分離層を挟んで裏面側にある付加層の三層からなるシート状の微細構造成形体素材であって、
前記微細構造体層と前記付加層の縁周辺部は、少なくとも対向する二辺が融着されて一体になり、
前記微細構造体層は、これを貫通し前記分離層から前記付加層の中に突出する微細孔を有する微細構造成形体素材。
【請求項6】
前記微細構造体層は、その厚さが30μm〜3mmであり、最小直径が100nm〜1000μmの貫通孔を有することを特徴とする請求項5に記載の微細構造成形体素材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−230396(P2011−230396A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103459(P2010−103459)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】