説明

貯水槽

【課題】槽内底部に滞留したpHの高い水が給水されるのを抑制し、捨て水を不要にし、槽内に貯えられた水を有効利用することができる貯水槽を提供する。
【解決手段】配水管に接続され且つ内面にモルタル45が被覆された貯水槽であって、槽内の水を外部へ給水するための給水部51が備えられ、給水部51は槽内に設けられて槽内底部Bに向かって延びる給水管69を有し、槽内底部Bに円環状の堰体73が設けられ、堰体73は給水管69の汲み上げ口69aの下方領域74を周囲から取り囲んでおり、槽内底部Bから堰体73の上端部までの高さHが槽内底部Bから給水管69の汲み上げ口69aまでの間隔Cと同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等の災害時に給水タンクとして機能する貯水槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の貯水槽としては、例えば図7,図8に示すように、水道配管11に接続されて、平常時には、水道配管11の一部として水道配管11内の水道水が槽内に通水され、緊急時には、水道配管11と槽本体12との間が遮断される貯水槽13がある。
【0003】
貯水槽13は円筒状の槽本体12からなり、槽本体12の長手方向両端部には、槽本体12の内部で径方向に延びる導入管14および導出管15が設けられている。水道配管11と導入管14とは導入用配管16を介して接続され、水道配管11と導出管15とは導出用配管17を介して接続されている。
【0004】
導入用配管16と導出用配管17とはバイパス配管18を介して接続されている。これら各配管16〜18にはそれぞれ第1〜第3の自動開閉バルブ19〜21が設けられている。また、槽本体12には、震災時等に槽本体12内に貯えられた水道水を取り出すための飲料用の給水管22が設けられている。給水管22は槽本体12の内部で径方向に延びており、給水管22の上部には給水弁23が設けられている。
【0005】
尚、図9に示すように、槽本体12の内面は、防食材としてのモルタル24で被覆(ライニング)されている。給水管22は槽内上部から槽内底部に向かって延びており、槽内底部と給水管22の汲み上げ口22aとの上下間には所定の間隔Aが形成されている。
【0006】
これによると、平常時には、第1および第2の自動開閉バルブ19,20が開、第3の自動開閉バルブ21が閉に切り換えられており、水道配管11内の水道水が導入用配管16と導入管14とを通って槽本体12内に導入され、槽本体12内の水道水が導出管15と導出用配管17とを通って水道配管11に導出される。
【0007】
これにより、貯水槽13を介して水道水が水道配管11を給送されるため、貯水槽13内に水道水が貯えられるとともに、その水道水が入れ替えられる。
地震等の緊急時には、第1および第2の自動開閉バルブ19,20が閉、第3の自動開閉バルブ21が開に切り換えられ、これにより、水道配管11と槽本体12との接続が遮断されて、一定量の水道水が貯水槽13内に確保される。
【0008】
この状態で、図8の仮想線で示すように、給水弁23に給水ホース25を接続し、地上に配置されたエンジンポンプ26と給水スタンド27とを接続する。給水弁23を開いてエンジンポンプ26を作動させることにより、貯水槽13内の水道水が、汲み上げ口22aから給水管22内に汲み上げられ、給水ホース25を通って給水スタンド27に供給され、給水スタンド27から被災者に飲料水として給水可能となる。
【0009】
尚、上記のような貯水槽13は例えば下記特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平10−219765
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら上記の従来形式では、モルタル24のアルカリ分(カルシウム分)が析出(溶出)し、モルタル24の近傍における水道水のpHが上昇し、カルシウム分を多く含むことで比重が大きくなる。この結果、pHの高い水道水が貯水槽13内の底部に次第に滞留する。
【0011】
このようなpHの高い水道水は飲料水として不向きであるが、pHの高い水道水が貯水槽13内の底部に滞留した状態で、地震等の災害が発生すると、pHの高い水道水が給水管22から汲み上げられて給水されてしまうという問題がある。
【0012】
この問題の対策として、給水管22から汲み上げられる水道水のpHが低下するまで、汲み上げられた水道水を捨てる捨て水を行っているが、このような捨て水を行うには手間や時間を要し、迅速な給水活動ができないといった問題や、貴重な水を無駄にしてしまうといった問題がある。
【0013】
また、槽内底部と給水管22の汲み上げ口22aとの間隔Aを拡大して、汲み上げ口22aを槽内底部に滞留しているpHの高い水の層からできるだけ離すことが考えられるが、この場合、貯水槽13内に大量の水道水が残留してしまうため、貯水槽13内の水道水を有効利用することが困難であるという問題が発生する。
【0014】
本発明は、槽内底部に滞留した飲料水として不向きなpHの高い水が給水されるのを抑制することができ、捨て水を不要にすることが可能であり、槽内に貯えられた水を有効利用することができる貯水槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本第1発明は、配水管に接続され且つpHを変化させる成分を発生する可能性のある防食材が内面に被覆された貯水槽であって、
槽内の水を外部へ給水するための給水部が備えられ、
給水部は槽内に設けられて槽内底部に向かって延びる給水管を有し、
槽内底部に、給水管の下端に形成された汲み上げ口の下方領域を周囲から囲むように堰体が設けられているものである。
【0016】
これによると、給水時、槽内に貯えられた水は、汲み上げ口から給水管内に汲み上げられ、給水部から槽外へ給水される。この際、槽内底部に滞留しているpHの高い水は、堰体に邪魔されて、給水管の汲み上げ口に流れ込み難くなる。これにより、pHの高い水が給水部から槽外へ給水されてしまうのを抑制することができ、したがって、捨て水を不要にすることができ、迅速な給水活動を行うことができる。
【0017】
また、槽内底部に堰体を設けたことにより、従来のように、槽内底部と給水管の汲み上げ口との間隔を拡大して、汲み上げ口を槽内の底部に滞留しているpHの高い水の層からできるだけ離す必要はない。したがって、槽内に残留する水の量を大幅に低減することができ、槽内の水を有効利用することができる。
【0018】
本第2発明は、槽内底部から堰体の上端部までの高さが槽内底部から給水管の汲み上げ口までの間隔と同じであるものである。
これによると、堰体の上端部と給水管の汲み上げ口とが同じ高さになるので、堰体を備えた貯水槽の槽内に残留する水の量と堰体を備えていない貯水槽の槽内に残留する水の量とが同じになり、これにより、堰体を備えた貯水槽から給水される給水量が堰体を備えていない貯水槽から給水される給水量と同じになる。
【0019】
本第3発明は、平常時には、配水管の一部として配水管内の水が槽内に通水され、緊急時には、配水管と槽との接続が遮断されるものである。
これによると、平常時には、常に槽内に水が流れているため、槽内に水が貯えられるとともに槽内の水が入れ替えられ、これにより、槽内の水質の悪化を防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明によると、槽内底部に滞留しているpHの高い水は、堰体に邪魔されて、給水管の汲み上げ口に流れ込み難くなる。これにより、pHの高い水が給水部から槽外へ給水されてしまうのを抑制することができ、したがって、捨て水を不要にすることができ、迅速な給水活動を行うことができる。
【0021】
また、槽内底部に堰体を設けたことにより、従来のように、槽内底部と給水管の汲み上げ口との間隔を拡大して、汲み上げ口を槽内の底部に滞留しているpHの高い水の層からできるだけ離す必要はない。このため、槽内に残留する水の量を大幅に低減することができ、槽内の水を有効利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明における第1の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1,図2に示すように、41は、水道管路を構成する配水管42に接続された貯水槽であり、日本ダクタイル鉄管協会規格(JDPA)のダクタイル鋳鉄製貯水槽G1041の規定に準ずるものである。
【0023】
貯水槽41は、地中に設置された槽本体43と、槽本体43と配水管42とを接続する接続配管44とを有している。槽本体43は、円筒状の直管部43aと、直管部43aの長手方向の両端部を閉じるキャップ部43bとを有している。図3,図4に示すように、槽本体43の内面にはモルタル45が被覆(ライニング)されている。尚、モルタル45は防食材の一例であり、槽本体43内の水のpHを中性から上昇させるアルカリ分(カルシウム分)がモルタル45から析出(溶出)する可能性がある。
【0024】
槽本体43の一端部(上流側端部)には、配水管42内の水(水道水)を槽内に引き込む流入部47と、消防用導水部48とが設けられている。また、槽本体43の他端部(下流側端部)には、槽内の水を流出して配水管42に戻す流出部49と、消防用導水部50と、槽内の水を外部へ給水するための給水部51とが設けられている。
【0025】
流入部47は、槽本体43の一端部の外周面上端部に設けられたT字管53と、槽内に設けられ且つT字管53の下端部に連通する流入管54と、T字管53の上端部に取り付けられた空気弁55とを有している。尚、流入管54には複数の流入口54aが形成されている。
【0026】
図1,図2,図4に示すように、各消防用導水部48,50はそれぞれ、槽本体43の一端部および他端部の外周面上端部に設けられた短管57,58と、槽内に設けられ且つ短管57,58の下端部に連通する消防用導水管59,60と、短管57,58の上端部に取り付けられた補修弁61,62と、補修弁61,62の出口側に設けられた消防用採水口63,64とを有している。尚、各消防用採水口63,64には消火ポンプ等の消火装置の吸入口が着脱可能である。
【0027】
図1〜図3に示すように、流出部49は、槽本体43の他端部の外周面上端部に設けられたT字管65と、槽内に設けられ且つT字管65の下端部に連通する流出管66と、T字管65の上端部に取り付けられた空気弁67とを有している。尚、前記空気弁55,67は空気の吸入および排出を制御するものである。また、流出管66には複数の流出口66aが形成されている。
【0028】
給水部51は、槽本体43の他端部の外周面上端部に立設された短管部68と、槽内に設けられ且つ上端部が短管部68の下端部に連通する給水管69と、短管部68の上端に取り付けられた補修弁70と、補修弁62の出口側に設けられた給水口71とを有している。給水管69は、短管部68の下端から槽内底部Bに向かって下方へ延びており、その下端に、汲み上げ口69aを有している。
【0029】
槽内底部Bには円環形状の堰体73が設けられており、堰体73は給水管69の汲み上げ口69aの下方領域74を周囲から取り囲んでいる。槽内底部Bから堰体73の上端部までの高さHは槽内底部Bから給水管69の汲み上げ口69aまでの間隔Cと同じである。さらに、槽内底部Bから給水管69の汲み上げ口69aまでの間隔Cは、槽内底部Bから各消防用導水管59,60の下端開口までの間隔と同じである。
【0030】
堰体73の材質はステンレス(例えばSUS304等)であるが、ステンレスに限定されるものではなく、樹脂を用いてもよい。また、堰体73は、円環形状に限定されるものではなく、楕円型の環形状や或いは多角形型の環形状であってもよい。
【0031】
図2〜図4に示すように、各空気弁55,67と補修弁61,62,70とは、地中に形成された弁操作室81内に納められている。
図1に示すように、接続配管44は流入連絡配管75と流出連絡配管76とを有しており、配水管42と流入部47のT字管53とが流入連絡配管75を介して接続され、配水管42と流出部49のT字管65とが流出連絡配管76を介して接続されている。
【0032】
流入連絡配管75と流出連絡配管76とにわたり緊急弁77が取り付けられている。緊急弁77は、その内部に、流入連絡配管75と流出連絡配管76とに連通するバイパス通路78を有しており、流入および流出連絡配管75,76の開閉とバイパス通路78の開閉とを行う。また、配水管42には、流入連絡配管75との接続部分と流出連絡配管76との接続部分との間に位置する切換弁79が設けられている。通常、この切換弁79は全閉されている。
【0033】
以下、上記構成における作用を説明する。
図1に示すように、平常時には、緊急弁77は、一方の切換位置V1に切換えられて、流入および流出連絡配管75,76を開放し、バイパス通路78を閉鎖している。これにより、配水管42内の水が、流入連絡配管75とT字管53とを経て、流入管54の流入口54aから槽本体43内へ流入するとともに、槽本体43内の水が流出管66の流出口66aからT字管65と流出連絡配管76とを経て、配水管42内に流出する。
【0034】
これにより、貯水槽41を介して水が配水管42を給送されるため、配水管42の一部として配水管42の水が貯水槽41内に通水され、貯水槽41内に水が貯えられるとともに、その水が入れ替えられる。
【0035】
地震等の緊急時には、地震計からの外部信号や配水管42内の水圧低下等に基づいて、緊急弁77が、他方の切換位置V2に切換えられて、流入および流出連絡配管75,76を閉鎖し、バイパス通路78を開放する。これにより、配水管42と槽本体43との接続が遮断され、配水管42内の水は、上流側からバイパス通路78を通って配水管42内の下流側へ戻り、槽本体43には供給されない。また、槽本体43内には一定量の水が確保される。
【0036】
給水を行う場合、図2の仮想線で示すように、エンジンポンプ84と給水スタンド85とからなる給水装置86を地上に配置し、給水装置86の給水ホース83を給水口71に接続する。そして、補修弁70を開き、エンジンポンプ84を作動させることにより、槽本体43内の水が汲み上げ口69aから給水管69内に汲み上げられ、短管部68を経た後、給水ホース83を通って給水スタンド85に供給され、給水スタンド85から被災者に飲料水として給水される。
【0037】
この際、モルタル45のアルカリ分(カルシウム分)が析出すると、カルシウム分を多く含むことで比重が大きくなり、pHの高い水が槽内底部Bに滞留するが、このpHの高い水は、図6に示すように、堰体73に邪魔されて、給水管69の汲み上げ口69aに流れ込み難くなる。これにより、pHの高い水が給水部51から槽外の給水スタンド85へ給水されてしまうのを抑制することができる。したがって、捨て水を不要にすることができ、迅速な給水活動を行うことができる。
【0038】
また、槽内底部Bに堰体73を設けたことにより、従来(図9参照)のように、槽内底部と給水管22の汲み上げ口22aとの間隔Aを拡大して、汲み上げ口22aを槽内底部に滞留しているpHの高い水の層からできるだけ離す必要はない。したがって、槽内に残留する水の量を大幅に低減することができ、槽内の水を有効利用することができる。
【0039】
また、槽内底部Bから堰体73の上端部までの高さHが槽内底部Bから給水管69の汲み上げ口69aまでの間隔Cと同じであるため、堰体73の上端部と汲み上げ口69aとが同じ高さになり、これにより、堰体73を備えた貯水槽41の槽内に残留する水の量と堰体73を備えていない貯水槽41の槽内に残留する水の量とが同じになり、堰体73を備えた貯水槽41から給水される給水量が堰体73を備えていない貯水槽41から給水される給水量と同じになる。
【0040】
また、消火活動を行う場合には、消火ポンプ等の消火装置の吸入口を消防用採水口63,64の少なくとも片方に接続し、消火装置を接続した補修弁61,62を開放した後、消火装置を作動させる。これにより、槽本体43内の水が消防用導水管59,60と短管57,58を通って消火装置に供給される。
【0041】
上記第1の実施の形態では、図2の仮想線で示すように、接続されたエンジンポンプ84と給水スタンド85とからなる動力式の給水装置86を給水ホース83で給水口71に接続したが、第2の実施の形態として、ウィングポンプからなる手動式の給水装置を給水ホース83で給水口71に接続してもよい。
【0042】
尚、各実施の形態では、図6に示すように、堰体73に囲まれた下部領域74内においても、槽本体43の内面はモルタル45で被覆されているが、下部領域74の面積は非常に狭いので、下部領域74内のモルタル45から析出するアルカリ分は全体に比べて非常に微量であり、給水上問題にならない。
【0043】
また、各実施の形態では、水のpHを上昇させる成分(アルカリ分)を発生する可能性のある防食材の一例としてモルタル45を挙げたが、モルタル45に限定されるものではない。また、水のpHを中性から低下させる成分を発生する可能性のある防食材であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態における貯水槽の平面図である。
【図2】同、貯水槽の縦断面図である。
【図3】同、貯水槽の給水部と流出部との拡大図である。
【図4】同、貯水槽の給水部と消防用導水部との拡大図である。
【図5】図3におけるX−X矢視図である。
【図6】同、貯水槽の給水管の汲み上げ口と堰体との拡大断面図である。
【図7】従来の貯水槽の平面図である。
【図8】図7におけるX−X矢視図である。
【図9】同、貯水槽の給水管の汲み上げ口とその下方領域との拡大図である。
【符号の説明】
【0045】
41 貯水槽
42 配水管
45 モルタル(防食材)
51 給水部
69 給水管
69a 汲み上げ口
73 堰体
74 下方領域
B 槽内底部
C 槽内底部から給水管の汲み上げ口までの間隔
H 槽内底部から堰体の上端部までの高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配水管に接続され且つpHを変化させる成分を発生する可能性のある防食材が内面に被覆された貯水槽であって、
槽内の水を外部へ給水するための給水部が備えられ、
給水部は槽内に設けられて槽内底部に向かって延びる給水管を有し、
槽内底部に、給水管の下端に形成された汲み上げ口の下方領域を周囲から囲むように堰体が設けられていることを特徴とする貯水槽。
【請求項2】
槽内底部から堰体の上端部までの高さが槽内底部から給水管の汲み上げ口までの間隔と同じであることを特徴とする請求項1記載の貯水槽。
【請求項3】
平常時には、配水管の一部として配水管内の水が槽内に通水され、緊急時には、配水管と槽との接続が遮断されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の貯水槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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