説明

貯留タンクの製造方法

【課題】水張り試験を外槽の完成を待たずに行うことを可能とすることによって工期の短縮を図る。
【解決手段】内槽に試験用液体を貯留することによって搬入出口が残存する外槽に作用する応力をシミュレーションにより算出すると共に応力が許容値であるかを判定し、応力が許容値である場合には搬入出口を閉鎖する前に水張り試験を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LNG(Liquefied Natural Gas)等を貯留する貯留タンクの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、LNG(液体)を貯留する貯留タンク(LNGタンク)は、LNGを貯留するための内槽と該内槽を囲む外槽との2層構造を有している。そして、このようなLNGタンクとしては、地面に立設されるいわゆる地上式と地下に埋設される地下式とが用いられている。
このうち、地上式のLNGタンクを製造する場合には、内槽及び外槽を組み立てる際に、内槽及び外槽の地面とほぼ同じ高さの位置に開口部を設け、当該開口部を組立て部品等の搬入出口として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭63−31634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、LNGタンクの製造過程においては、内槽の機能を検証するための水張り試験が行われる。当該水張り試験は、上記搬入出口が閉じられた内槽に対して実際に水(試験用液体)を貯留することによって行われる。
そして、従来このような水張り試験は、内槽及び外槽の開口部を閉じ、内槽及び外槽が完成した時点で行われていた。
このため、先に内槽が完成した場合であっても、外槽の完成まで水張り試験を待つ必要があり、工期の長期化に繋がることとなる。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、水張り試験を外槽の完成を待たずに行うことを可能とすることによって工期の短縮を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0007】
第1の発明は、液体を貯留する内槽と、該内槽を囲む外槽とを備える貯留タンクの製造方法であって、上記内槽に試験用液体を貯留することによって搬入出口が残存する外槽に作用する応力をシミュレーションにより算出すると共に上記応力が許容値であるかを判定し、上記応力が許容値である場合には上記搬入出口を閉鎖する前に上記試験用液体を上記内槽に貯留する試験を行うという構成を採用する。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記応力が許容値でない場合に搬入出口の補強を行うという構成を採用する。
【0009】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記応力が許容値である場合には、上記試験用液体を上記内槽に貯留する試験を行いながら上記搬入出口の閉鎖作業を行うという構成を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シミュレーションによって、内槽に試験用液体を貯留した場合に、搬入出口が残存する外槽に作用する応力を算出する。また、当該応力が許容値であるかを判定する。そして、当該応力が許容値である場合には、外槽の搬入出口を閉鎖する前に試験用液体を内槽に貯留する試験(水張り試験)を開始する。
つまり、本発明によれば、シミュレーションによって外槽の搬入出口を閉鎖せずに水張り試験を行う際の安全性を保障し、外槽の搬入出口の閉鎖が完了するのを待つことなく水張り試験を開始する。
したがって、本発明によれば、外槽の完成まで水張り試験を待つことによる工期の長期化を防止し、貯留タンクを製造する際の工期の短縮を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態におけるLNGタンクの製造方法によって製造されるLNGタンクの概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるLNGタンクの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態におけるLNGタンクの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態におけるLNGタンクの製造方法に用いるシミュレーションの結果を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態におけるLNGタンクの製造方法に用いるシミュレーションの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係る貯留タンクの製造方法の一実施形態であるLNGタンクの製造方法について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0013】
図1は、本実施形態のLNGタンクの製造方法によって製造されるLNGタンク1の概略構成を示す断面図である。
この図に示すように、LNGタンク1は、LNGを貯留するための内槽2と、該内槽2を囲う外槽3とを有している。なお、内槽2は、例えば、低温環境でも脆弱とならない9%ニッケル鋼等から構成されている。また、外槽3は、例えば、プレストレスをかけられたプレストレスコンクリート等から構成される。
【0014】
内槽2と外槽3とは、略円筒形状を有しており半径方向に所定間隔(例えば1m程度)離間されて配置されている。
そして、内槽2及び外槽3には、製造過程において、部品や機材等の搬入出を行う搬入出口2a,3aを備えている。この搬入出口2a,3aは、LNGタンク1の設置面3と略同一の高さに形成されるものであり、図1に示すように、LNGタンク1の完成後においては閉鎖されている。
【0015】
次に、このように構成されたLNGタンク1の製造方法(本実施形態のLNGタンクの製造方法)について、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0016】
まず、搬入出口2a,3aが開口された外槽3及び内槽2の建設が行われる(ステップS1)。
より詳細には、例えば、搬入出口3aを有する外槽3の外形を形成し、搬入出口2aを介して外槽3の内部に内槽2の構成部品を搬入して搬入出口2aを有する内槽2の外形を形成し、さらに搬入出口2a,3aを介して部品や機材の搬入出を行いながら、外槽3及び内槽2に対する内部作業を行うことによって、搬入出口2a,3aが開口された外槽3及び内槽2の建設が行われる。
【0017】
続いて、内槽2の搬入出口2aの閉鎖作業が行われる(ステップS2)。
より詳細には、内槽2の搬入出口2aを内槽2の構成部品である側板によって閉じると共に当該側板を溶接によって接合することによって内槽2の搬入出口2aを閉鎖する。
【0018】
続いて、外槽3の搬入出口3aを閉鎖することなく水張り試験が可能であるかの判定を行うために、外槽3の応力判定が行われる(ステップS3)。そして、本実施形態のLNGタンクの製造方法においては、外槽3に作用する応力を、有限要素法を用いたシミュレーションによって算出し、当該応力を許容値と比較することによって応力判定が行われる。
【0019】
より詳細には、外槽3の応力判定においては、図3に示すように、搬入出口3aが閉鎖されずに残存する外槽3の解析モデルがコンピュータによって作成され(ステップS3a)、当該解析モデルをコンピュータによって解くことで外槽3の搬入出口3a近傍に作用する応力が算出される(ステップS3b)。そして、コンピュータによって、算出した応力が予め記憶する許容値であるかの判定が行われる(ステップS3c)ことで搬入出口3aを閉鎖することなく水張り試験が可能であるかの判定が行われる。
【0020】
なお、外槽3の搬入出口3aに作用する応力は、内槽2に水が貯留されて、その設置面すなわち外槽3が設置される設置面が変形することによって大きく変化する。また、外槽3の搬入出口3aに作用する応力は、外槽3がプレストレスコンクリートである場合には、コンクリートの死荷重、プレストレス量によっても変化する。したがって、上記解析モデルは、内槽2に貯留される水の量、コンクリートの死荷重、及びプレストレス量等を独立変数とし、応力を従属変数とする演算式が含まれている。そして、コンピュータに入力される内槽2に貯留される水の量、コンクリートの死荷重、及びプレストレス量等を上記演算式に代入することによって外槽3の搬入出口3a近傍に作用する応力が算出される。
また、本実施形態のLNGタンクの製造方法においては、鉛直応力と水平応力との両方を上述のステップS3の応力として算出する。
【0021】
そして、ステップS3の結果、外槽3の搬入出口3aに作用する応力が許容値である場合には、内槽2に実際に水を貯留する水張り試験と並行して、外槽3の搬入出口3aの閉鎖作業を行う(ステップS4)。
【0022】
一方、ステップS3の結果、外槽3の搬入出口3aに作用する応力が許容値から外れる場合には、搬入出口3aの補強によって対応可能であるかの判定される(ステップS5)。
より詳細には、例えば、コンピュータによって、ステップS3において算出された応力と上記許容値との差分を算出し、当該差分が搬入出口3aの補強によって補えるかの判断をし、この結果、補える場合には補強によって対応可能と判定され、補えない場合には補強によって対応不可と判定される。
【0023】
そして、搬入出口3aの補強によって対応可能と判定された場合には、補強作業が行われる(ステップS6)。
より詳細には、搬入出口3aの周囲に鉄筋等を配置することによって搬入出口3aの補強が行われる。この補強は、外槽3の搬入出口3aを閉じるよりも短時間で行うことが可能である。
このような補強作業が完了した後は、再度ステップS3に戻り、補強がなされた外槽3の解析モデルに基づいて外槽3の応力判定が行われる。
【0024】
なお、搬入出口3aの補強によって対応不可と判定された場合には、搬入出口3aの閉鎖作業(ステップS7)が行われた後、水張り試験(ステップS8)が行われる。
【0025】
ステップS4あるいはステップS8において水張り試験の結果が良好である場合には、その後、仕上作業等を行いLNGタンク1が完成となる。
【0026】
以上のような本実施形態のLNGタンクの製造方法によれば、シミュレーションによって、内槽2に試験用液体を貯留した場合に、搬入出口3aが残存する外槽3に作用する応力を算出する。また、当該応力が許容値であるかを判定する。そして、当該応力が許容値である場合には、外槽3の搬入出口3aを閉鎖する前に水張り試験を開始する。
つまり、本実施形態のLNGタンクの製造方法によれば、シミュレーションによって外槽3の搬入出口3aを閉鎖せずに水張り試験を行う際の安全性を保障し、外槽3の搬入出口3aの閉鎖が完了するのを待つことなく水張り試験を開始する。
したがって、本実施形態のLNGタンクの製造方法によれば、外槽3の完成まで水張り試験を待つことによる工期の長期化を防止し、LNGタンクを製造する際の工期の短縮を図ることが可能となる。
【0027】
また、本実施形態のLNGタンクの製造方法においては、シミュレーションによって算出した応力が許容値から外れる場合であっても、搬入出口3aの補強を行うことで水張り試験を行う際の安全性を保障されるのであれば、外槽3の搬入出口3aの閉鎖が完了するのを待つことなく水張り試験を開始する。
したがって、本実施形態のLNGタンクの製造方法によれば、外槽3の完成まで水張り試験を待つことによる工期の長期化を防止し、LNGタンクを製造する際の工期の短縮を図ることが可能となる。
【0028】
また、本実施形態のLNGタンクの製造方法においては、シミュレーションによって算出した応力が許容値である場合には、水張り試験を行いながら搬入出口3aの閉鎖作業を行う。
このため、本実施形態のLNGタンクの製造方法によれば、外槽3の完成まで水張り試験を待つことによる工期の長期化を防止し、LNGタンクを製造する際の工期の短縮を図ることが可能となる。
【0029】
図4及び図5は、実際に有限要素法を用いたシミュレーションによって算出した応力の分布を示す図であり、図4が鉛直応力の分布を示し、図5が水平応力の分布を示している。
なお、図4及び図5においては、搬入出口3aの半分のみを示している。また、図4及び図5において、(a)が外槽3の外側における応力分布を示し、(b)が外槽3の内側における応力分布を示す。
これらの図に示すように、内槽2に水を貯留した場合には、外槽3の外側の広い範囲に応力が作用する。
そして、例えば、応力が3.5N/mm以下が搬入出口3aを閉じることなく水張り試験が実施可能な許容値とし、応力が3.5N/mmより大きい場合には、上記ステップS3の応力判定がNGであるとされる。
【0030】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0031】
例えば、上記実施形態においては、内槽2に貯留する液体がLNGである構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、内槽2にLNG以外の液体を貯留する貯留タンクに適用することもできる。
【0032】
また、上記実施形態においては、試験用液体として水を用いる構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、水以外の液体を試験用液体として用いることも可能である。
【0033】
また、上記実施形態においては、シミュレーションによって算出した応力が許容値である場合に、外槽3の搬入出口3aの閉鎖作業を水張り試験と並行して行う構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、外槽3の搬入出口3a以外の作業(例えば、内槽2と外槽3との間において行われる作業)を水張り試験と並行して行っても良い。
【符号の説明】
【0034】
1……LNGタンク(貯留タンク)、2……内槽、3……外槽、3a……搬入出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する内槽と、該内槽を囲む外槽とを備える貯留タンクの製造方法であって、
前記内槽に試験用液体を貯留することによって搬入出口が残存する外槽に作用する応力をシミュレーションにより算出すると共に前記応力が許容値であるかを判定し、
前記応力が許容値である場合には前記搬入出口を閉鎖する前に前記試験用液体を前記内槽に貯留する試験を行う
ことを特徴とする貯留タンクの製造方法。
【請求項2】
前記応力が許容値でない場合に搬入出口の補強を行うことを特徴とする請求項1記載の貯留タンクの製造方法。
【請求項3】
前記応力が許容値である場合には、前記試験用液体を前記内槽に貯留する試験を行いながら前記搬入出口の閉鎖作業を行うことを特徴とする請求項1または2記載の貯留タンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−275796(P2010−275796A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130399(P2009−130399)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】