説明

貴金属ナノコロイド、貴金属微粒子、および其れらの製造方法

【課題】操作性および経済性に優れる方法により、プレミセル領域を利用して貴金属ナノコロイドを調製し、沈殿領域を利用して貴金属ナノコロイドを貴金属微粒子として沈殿させ回収する。
【解決手段】プレミセル領域において、疎水性配位子錯体を還元種とし貴金属イオン類から貴金属ナノコロイドを調製し、沈殿領域において、還元種と反対電荷を持つ嵩高い陰イオンを貴金属ナノコロイドに添加し、電荷を中和して沈殿を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属ナノコロイド、貴金属微粒子、および其れらを含有するインキに関し、また其れらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノコロイド液は、一般に金属ナノコロイド粒子の分散安定性が悪く、凝集を生じやすい。したがって、通常、保護コロイド形成剤として、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子化合物、界面活性剤などを添加して、保護コロイドを形成させ、金属ナノコロイド粒子の分散安定性を向上させている。
【0003】
回路形成などの用途で濃縮が必要な場合、例えば、特許文献1及び2に記載されるように、遠心分離法および限外濾過法などが一般的に利用される。また、溶媒を揮発させて、濃縮する場合もある。
【0004】
しかしながら、これらの従来法では、操作が煩雑であったり、濃縮するために多量のエネルギーが必要な場合があり、不経済な場合があった。
【0005】
このため、例えば、特許文献3〜7に記載されるように、プレミセル領域を利用して貴金属ナノコロイドを調製し、沈殿領域を利用して回収する方法が、これまで提案されてきた。
【0006】
しかしながら、プレミセル領域で調製し沈殿領域で回収する方法の場合、コロイドの大きさを比較的容易に制御できるものの、2倍以上の希釈が必要な場合が殆どであり、経済的に不利な場合が多い。
【0007】
また、沈殿領域でコロイドを調製し、そのまま沈殿として回収する方法の場合、希釈は必要ないため経済的ではあるが、沈殿速度が速くコロイドの大きさを制御し難い場合が多い。
【0008】
更に、コロイドを形成するための還元反応において、アルコール及びアミンを還元種として使用すると、加熱が必要な場合があり、得られるコロイドの特性に悪影響が生じる場合があった。また、水素化ホウ素ナトリウム及びジメチルアミンボランを使用すると、ガスが発生し、取り扱いが困難な場合があった。
【0009】
更には、インキと混合するためにナノコロイドを沈殿させて金属微粒子を調製すると、粒子径の均一性が不十分な場合があった。
【特許文献1】特開2002−338850号公報
【特許文献2】特開2003−217349号公報
【特許文献3】特開2004−285106号公報
【特許文献4】特開2004−256751号公報
【特許文献5】特開2004−256750号公報
【特許文献6】特開2004−241294号公報
【特許文献7】特開2004−238554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
プレミセル領域を利用して貴金属ナノコロイドを調製し、沈殿領域を利用して貴金属ナノコロイドを貴金属微粒子として沈殿させ回収する方法において、上記の様な不具合を解決することを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明によれば、平均粒子径が5〜100nmで、保護コロイド形成剤の非存在下で室温において調製後1時間の時点で該平均粒子径が実質的に変化しない貴金属ナノコロイドが提供される。
【0012】
また本発明によれば、平均粒子径が1〜50nmで、室温において調製後1時間の時点で該平均粒子径が実質的に変化しない貴金属微粒子が提供される。
【0013】
また本発明によれば、上記の貴金属微粒子を含有するインキが提供される。
【0014】
また本発明によれば、プレミセル領域において、疎水性配位子錯体を還元種とし貴金属イオン類から貴金属ナノコロイドを調製する工程を含む貴金属ナノコロイドの製造方法が提供される。
【0015】
また本発明によれば、上記の貴金属ナノコロイドを調製する工程の後に、沈殿領域において、前記還元種と反対電荷を持つ嵩高い陰イオンを該貴金属ナノコロイドに添加し、電荷を中和して沈殿を形成する工程を含む貴金属微粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上の本発明により、プレミセル領域を利用して貴金属ナノコロイドを調製し、沈殿領域を利用して貴金属ナノコロイドを貴金属微粒子として沈殿させ回収する方法において、以下を実現できる。
【0017】
(ア)基本的に希釈の必要がないため、簡便な操作性および良好な経済性を実現できる。
【0018】
(イ)基本的に濃縮の必要がないため、簡便な操作性および良好な経済性を実現できる。
【0019】
(ウ)加熱の必要がないため、操作が簡便でありエネルギーの消費が少なく経済的である。
【0020】
(エ)ガス等が発生しないため、良好な操作性を実現できる。
【0021】
(オ)貴金属ナノコロイドの粒子径を良好に制御でき、長時間安定しており、粒子径の特性が変化しない。また、得られる貴金属微粒子の粒子径も良好に制御でき、長時間安定しており、粒子径の特性が変化しない。
【0022】
(カ)簡便な操作によりに、粒子径が制御された安定な貴金属ナノコロイドが得られる。また、簡便な操作によりに、粒子径が制御された貴金属微粒子として回収できる。得られる貴金属微粒子は極めて安定しており、長時間、粒子径特性が変化しない。
【0023】
(キ)得られた貴金属微粒子をインキに混合した場合、極めて良好な分散性を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(貴金属ナノコロイドの調製)
本発明においては、プレミセル領域において、疎水性配位子錯体を還元種とし貴金属イオン類から貴金属ナノコロイドを調製する。
【0025】
具体的には、2,2’−ビピリジン(bpyと略記する場合もある)及び1,10−フェナントロリン(phenと略記する場合もある)等の疎水性配位子と、Co2+及びFe2+等の還元種金属との錯体により、貴金属イオン類の貴金属を還元し、貴金属ナノコロイドを作製する。
【0026】
例えば、Co2+とAuCl4-とを反応させた場合、コロイドは形成されない。このことから、疎水性配位子が貴金属に配位して安定化していると考えられる。
【0027】
塩化金酸イオンとの反応式は、以下の通りである。
【0028】
3[Fe(phen)32+(濃赤色) + AuCl4-
→ 3[Fe(phen)33+(淡赤色) + Au(淡赤色)
3[Co(phen)32+(淡黄色) + AuCl4-
→ 3[Co(phen)33+(淡黄色) + Au(淡赤色)
疎水性配位子錯体は、テトラクロロ金酸イオン([AuCl4-)と電気的に引き合い酸化還元が起こりやすいために陽イオン型が好ましく、特に、以下の一般式Iで表されるカチオンが好ましい。
【0029】
[Mns+ms+
但し、Mは還元種金属で、安定した電荷の異なる2つ以上のイオン状態を持つことから、Co、Fe、Mn及びCrが好ましく、貴金属種と反応させた時の安定性から、Co及びFeが特に好ましい。
【0030】
Rは疎水性配位子で、疎水性とするために配位子には、中性配位子を用いる事が好ましく、そのためN配位が好ましい。このような観点から、エチレンジアミン、ピリジン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン及びエチレンジアミン四酢酸が好ましい。また、配位子が無い場合、酸化還元が急激に進行し沈澱を生じ、“かさばっていない”小さな分子が配位子の場合でも、反応が急速に進行し沈澱を生じる。このような観点から、ピリジン、2,2’−ビピリジン及び1,10−フェナントロリンが好ましい。更に、酸化状態が変わった時にも配位子として安定に配位できる複座配位が好ましいため、2,2’−ビピリジン及び1,10−フェナントロリンが特に好ましい。
【0031】
nは1〜3の整数で、mは2〜5の整数で、sは1〜5の整数である。mはMの配位数を満たし、Mの周囲を配位子で覆うことが好ましく、例えばFe2+は6座配位である。
【0032】
貴金属は一般に水に溶解しない(イオンにならない)ため、貴金属種の水溶液を作るには貴金属をハロゲン化物のような形で錯体化する必要があり、一般式IIで表されるアニオンの形で入手できる。
【0033】
pqt- II
但し、Aは還元されナノコロイドを形成する貴金属である。Co(II)錯イオンおよびFe(II)錯イオンを還元剤に用いる場合、還元できる金属種は貴金属に限られ、金(Au)の他に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)を還元することが可能である。
【0034】
Xは、Cl、Br、CNが一般的に入手可能であるため好ましく、CNはシアン化物の発生の恐れがあるので、Cl及びBrが特に好ましい。
【0035】
pは1又は2であり、qは1〜6の整数であり、tは1〜6の整数である。
【0036】
疎水性配位子錯体中の還元種金属の濃度は、貴金属イオン類中の貴金属濃度に対して、十分に還元反応を進行させる理由から1倍モル以上が好ましく、2倍モル以上がより好ましく、2.5倍モル以上が更に好ましい。一方、コロイドが凝集し沈殿してしまうことを避けるため、3.9倍モル以下が好ましく、3.5倍モル以下がより好ましく、3.2倍モル以下が更に好ましい。
【0037】
例えば、Co錯体およびFe錯体の濃度は、HAuCl4の理論値からは3倍モルが好ましく、コロイドの安定にも最適であった。3倍モルを越え4倍モルになるとコロイドは凝集し沈澱となった。例えばAuが0.2mMでCoが0.6mMでは1時間安定であったコロイドが、Coを0.8mMと4倍モルにすると5分で凝集し黒色の沈澱となった
貴金属イオン類中の貴金属濃度は、生産効率の観点から、0.07ミリモル/L以上が好ましく、0.09ミリモル/L以上がより好ましく、0.1ミリモル/L以上が更に好ましい。一方、安定したコロイドを得る観点から、0.29ミリモル/L以下が好ましく、0.25ミリモル/L以下がより好ましく、0.2ミリモル/L以下が更に好ましい。
【0038】
具体的には、HAuCl4の濃度は0.1〜0.2mが最適であった。0.1mM以下は薄すぎて経済的でないこと、またドデシル硫酸ナトリウム(SDSとも略記する)との沈澱相図からは0.7mMよりも薄いと電荷中和による沈澱の生成が抑えられると考えられる。0.2mMでは1時間程度まではコロイドは安定していた(10時間で沈澱)。0.3mMではプラズモン発色を示し、ナノコロイドが生成したことを示すが、10分程度で沈殿した。0.3mM以上の濃度では、プラズモン発色を生じず、ナノコロイドは形成されなかった(凝集)。
【0039】
以上の方法では、アルコール及びアミン等を還元種に使用する時のように加熱が必要なく、水素化ホウ素ナトリウム及びジメチルアミンボラン等を使用した時のようにガスの発生もなく、取り扱いが容易である。
【0040】
得られた貴金属ナノコロイドは、保護コロイド形成剤の非存在下で室温において1時間以上安定に存在している。
【0041】
(貴金属微粒子の調製)
以上のようにして貴金属ナノコロイドを調製した後に、沈殿領域において、還元種と反対電荷を持つ嵩高い陰イオンを貴金属ナノコロイドに添加し、電荷を中和して沈殿を形成し、貴金属微粒子を製造する。
【0042】
具体的には、Co錯体で還元された貴金属ナノコロイドに、還元種と反対電荷を持つ“嵩高い”陰イオンを添加し、電荷を中和し沈殿を形成する。
【0043】
嵩高い陰イオンとしては、ヨウ化物、過塩素酸、p−トルエンスルホン酸、テトラフェニルホウ酸、陰イオン製界面活性剤および陰イオン性高分子の陰イオンが挙げられ、単独または混合して用いることができる。
【0044】
より具体的には、脂肪酸石けん、N−アシルアミノ酸、N−アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等のカルボン酸塩類;アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸の塩ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸の塩ホルマリン重縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、スルホコハク酸アルキル二塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシル−N−メチルタウリン塩、ジメチル−5−スルホイソフタレートナトリウム塩などのスルホン酸塩類;硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第二級高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、第二級高級アルコールエトキシサルフェート、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアマイドの硫酸エステル塩などの硫酸エステル塩類;アルキル硫酸塩などの硫酸塩類;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩などのリン酸エステル類;ポリ及びオリゴ(メタ)アクリル酸、スチレン−無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの部分加水分解開環物(開環率は30〜80%が好ましい)、スチレン−無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの完全加水分解開環物、エチレン−無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの部分加水分解開環物(開環率は30〜80%が好ましい)、エチレン−無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの完全加水分解開環物、イソブチレン−無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの部分加水分解開環物(開環率は30〜80%が好ましい)、イソブチレン−無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの完全加水分解開環物、ポリ及びオリゴ酢酸ビニル、ポリ及びオリゴビニルアルコール、ヘキサエチルセルロース由来のオリゴマー、メチルセルロース由来のオリゴマー、カルボキシメチルセルロース由来のオリゴマー等を使用するが、中でも、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等のアルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩などであり、これらは沈澱をインキに混練する際に容易に混じり合うため好ましい。
【0045】
嵩高い陰イオンの濃度は、十分な沈殿を生じさせるために、疎水性配位子錯体中の還元種金属濃度の0.02倍モル以上が好ましく、0.2倍モル以上がより好ましく、0.5倍モル以上が更に好ましい。一方、ミセルを形成して沈殿が再溶解することを抑制するため、4倍モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましく、2倍モル以下が更に好ましい。
【0046】
具体的には、陰イオン濃度は[Co(phen)32+などの金属錯イオンの電荷を中和する等量を最大とすると沈澱が生じる。これよりも多い量は経済的でなく、陰イオンが界面活性剤であったときはプレミセルやミセルを形成して可溶化を起こし再溶解することがあるので、過度の高濃度は好ましくない。
【0047】
また、使用する陰イオンの種類にもよるが“嵩高い”即ち、“疎水的な”陰イオンを使用すると電荷が中和する前に疎水性が勝り、沈澱を生じる。おおよそ、[Co(phen)32+と半分モルの陰イオンの使用で疎水的な沈澱が生じる。例えばHAuCl4が0.2mMでCo(phen)3SO4が0.6mMの時、SDSが0.015mM〜2.5mMの範囲で沈澱を生じるので、この範囲でSDSを使用すればよいが、0.3mM〜1.2mMでの使用が好ましい。
【0048】
[Co(phen)32+とSDSとの系では、濃度にもよるが、沈澱する領域では速くて10分、遅くても10時間程度で貴金属ナノコロイドが沈殿する。
【0049】
得られた貴金属微粒子は、室温において1時間以上安定に存在している。
【0050】
(粒径)
以上のようにして調製された貴金属ナノコロイド及び貴金属微粒子の粒径は、これを用いてインキを調製するなど、以降の操作に必要な十分に長時間の間、良好に制御されている。具体的には、貴金属ナノコロイドの平均粒子径は、調製後の1時間以内であれば、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは20nm以上で、一方、好ましくは100nm以下、より好ましくは70nm以下、さらに好ましくは40nm以下で、均一に制御されている。
【0051】
また、貴金属微粒子の平均粒子径は、調製後の1時間以内であれば、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは8nm以上で、一方、好ましくは50nm以下、より好ましくは35nm以下、さらに好ましくは25nm以下で、均一に制御されている。このように長時間安定な理由として、還元種が保護剤の役割をし、貴金属を微粒子のまま安定化していると考えられる。このため貴金属微粒子の成長はゆっくりで、24時間後でも15〜30nm程度までしか凝集が進まない。
【0052】
なお、コロイドの平均粒子径は、Microtrack社製Nanotrack150で測定できる。また、貴金属微粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡写真からカウントして、決定する。
【0053】
(インキ)
以上のようにして得られた沈殿は2〜3日経つと金色に色が変わるが、インキと混練すると赤色に戻る。沈殿を樹脂と混合し固化した沈殿物の極薄切片の電子顕微鏡観察によると、平均粒子径が10〜20nmの貴金属ナノコロイドを沈澱して得た貴金属微粒子は、7日後でも10〜20nmの平均粒子径を保ち、貴金属微粒子が独立して分散している事が分かる。即ち、本発明で得られる貴金属微粒子は、インキと混合した際、極めて良好な分散性を示す。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、特に明記しない限り、試薬等は市販の高純度品を使用した。
【0055】
(実施例1−1)金コロイド1
塩化金酸(HAuCl4、還元反応時濃度:0.1mmol/L)を含む水溶液と、硫酸トリスコバルトフェナントロリン(Co(phen)3SO4、還元反応時濃度:0.3mmol/L)を含む水溶液とを室温で混合し、金イオンを還元して平均粒子径30nmの金コロイド1を得た。得られたコロイド溶液は、混合直後、溶液は赤紫色を呈し透明であり、10分後、1時間後および10時間後も同様の状態を保ち、安定していた。
【0056】
(実施例1−2)金コロイド2
HAuCl4の還元反応時濃度を0.2mmol/Lとし、Co(phen)3SO4の還元反応時濃度を0.6mmol/Lとした以外は、金コロイド1の場合と同様にして、平均粒子径32nmの金コロイド2を得た。得られたコロイド溶液は、混合直後、溶液は紫色を呈し透明であり、10分後および1時間後も同様の状態を保ち、安定していた。
【0057】
(実施例1−3)金コロイド3
HAuCl4の還元反応時濃度を0.3mmol/Lとし、Co(phen)3SO4の還元反応時濃度を0.9mmol/Lとした以外は、金コロイド1の場合と同様にして、平均粒子径30±5nmの金コロイド3を得た。得られたコロイド溶液は、混合直後、溶液は紫色を呈し透明であり安定していた。
【0058】
(実施例1−4)金コロイド4
HAuCl4の還元反応時濃度を0.4mmol/Lとし、Co(phen)3SO4の還元反応時濃度を1.2mmol/Lとした以外は、金コロイド1の場合と同様にして、平均粒子径40±5nmの金コロイド4を得た。得られたコロイド溶液は、混合直後、溶液は紫色を呈し透明であり安定していた。
【0059】
(実施例2−1)金微粒子1
室温において、金コロイド2を含むコロイド溶液に、終濃度が0.4mmol/LとなるようSDSを添加してコロイドを沈殿させ、金微粒子1を得た。金微粒子1の平均粒子径は12±2nmであり、沈殿形成後1時間を経ても粒子径は同様の特性を保っていた。
【0060】
(実施例2−2)金微粒子2
SDSの終濃度を0.6mmol/Lとした以外は金微粒子1の場合と同様にして、金微粒子2を得た。金微粒子2の平均粒子径は12±2nmであり、沈殿形成後1時間を経ても粒子径は同様の特性を保っていた。
【0061】
(実施例2−3)金微粒子3
SDSの終濃度を1.2mmol/Lとした以外は金微粒子1の場合と同様にして、金微粒子3を得た。金微粒子3の平均粒子径は12±2nmであり、沈殿形成後1時間を経ても粒子径は同様の特性を保っていた。
【0062】
(実施例2−4及び2−5)金微粒子4及び5
SDSの終濃度を0.1mmol/L及び2.0mmol/Lとした以外は金微粒子1の場合と同様にして、金微粒子4及び5を夫々得た。
【0063】
(実施例2−6及び2−7)金微粒子6及び7
SDSをドデカンスルホン酸ナトリウム及びドデカンベンゼンスルホン酸とした以外は金微粒子3の場合と同様にして、金微粒子6及び7を夫々得た。
【0064】
(実施例2−8及び2−9)金微粒子8及び9
SDSをドデカン酸ナトリウム及びp−トルエンスルホン酸ナトリウムとした以外は金微粒子3の場合と同様にして、金微粒子8及び9を夫々得た。
【0065】
(実施例2−10)金微粒子10
SDSを過塩素酸ナトリウムとした以外は金微粒子3の場合と同様にして、金微粒子10を得た。
【0066】
(実施例3−1〜3−3)インキ1〜3
東洋インキ社製FDフォームメジウムに金微粒子1〜3を夫々混合し、赤色のインキ1〜3を夫々調製した。インキ中の金微粒子は極めて良好に分散しており、インキの印刷特性も極めて良好であった。
【0067】
(実施例3−4及び3−5)インキ4及び5
金微粒子1を金微粒子4及び5とした以外はインキ1と同様にして、赤色のインキ4及び5を夫々調製した。混合性およびインキの印刷特性は、インキ1〜3に比べると劣っていた。
【0068】
(実施例3−6及び3−7)インキ6及び7
金微粒子1を金微粒子6及び7とした以外はインキ1と同様にして、赤色のインキ6及び7を夫々調製した。混合性およびインキの印刷特性は、インキ1〜3に比べると僅かに劣っていた。
【0069】
(実施例3−8及び3−9)インキ8及び9
金微粒子1を金微粒子8及び9とした以外はインキ1と同様にして、赤色のインキ8及び9を夫々調製した。混合性およびインキの印刷特性は、インキ1〜3に比べると劣っていた。
【0070】
(実施例3−10)インキ10
金微粒子1を金微粒子10とした以外はインキ1と同様にして、赤色のインキ10を調製した。混合性およびインキの印刷特性は、インキ1〜3に比べると明らかに劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の方法は、常温での反応であるため、操作性および経済性に優れる。また、高価な還元剤を必要としない。更に、低濃度で起こる反応である事と還元剤に使用する非金属錯体が貴金属微粒子を保護するためにため、微粒子は均一である。このため、コロイドは長時間安定であり、均一な粒子を沈澱によって回収できる。
【0072】
また、出発物質は親水性であるが、沈殿させることで、疎水性に変わる。このため、分散媒(水)の除去が、例えば、デカンテーション法などにより容易に行なえる。よって、インキ化、即ち、樹脂への混練が容易である。
【0073】
結果として、優れた、金属ナノコロイドの調製方法および濃縮方法、更に、金属ナノコロイド表面の改質(親水性から疎水性)およびインキが提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が5〜100nmで、保護コロイド形成剤の非存在下で室温において調製後1時間の時点で該平均粒子径が実質的に変化しない貴金属ナノコロイド。
【請求項2】
平均粒子径が1〜50nmで、室温において調製後1時間の時点で該平均粒子径が実質的に変化しない貴金属微粒子。
【請求項3】
請求項2記載の貴金属微粒子を含有するインキ。
【請求項4】
プレミセル領域において、疎水性配位子錯体を還元種とし貴金属イオン類から貴金属ナノコロイドを調製する工程を含む貴金属ナノコロイドの製造方法。
【請求項5】
前記疎水性配位子錯体は以下の一般式Iで表されるカチオンであり、
[Mns+ms+
(但し、MはCo、Fe、Mn又はCrであり、Rはエチレンジアミン、ピリジン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン又はエチレンジアミン四酢酸であり、nは1〜3の整数であり、mは2〜5の整数であり、sは1〜5の整数である)
前記貴金属イオン類は以下の一般式IIで表されるアニオンである
pqt- II
(但し、AはAu、Pt、Pd、Rh、Ir、Os又はRuであり、XはCl、Br又はCNであり、pは1又は2であり、qは1〜6の整数であり、tは1〜6の整数である。)
請求項4記載の貴金属ナノコロイドの製造方法。
【請求項6】
前記疎水性配位子錯体中の還元種金属濃度は前記貴金属イオン類中の貴金属濃度の1倍モル以上3.9倍モル以下であり、
前記貴金属イオン類中の貴金属濃度は0.07ミリモル/L以上0.29ミリモル/L以下である請求項4又は5記載の貴金属ナノコロイドの製造方法。
【請求項7】
請求項4乃至6何れか記載の貴金属ナノコロイドを調製する工程の後に、沈殿領域において、前記還元種と反対電荷を持つ嵩高い陰イオンを該貴金属ナノコロイドに添加し、電荷を中和して沈殿を形成する工程を含む貴金属微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記嵩高い陰イオンは、ヨウ化物、過塩素酸、p−トルエンスルホン酸、テトラフェニルホウ酸、陰イオン製界面活性剤および陰イオン性高分子の陰イオンからなる群より選ばれる1種以上である請求項7記載の貴金属微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記嵩高い陰イオンの濃度は、前記疎水性配位子錯体中の還元種金属濃度の0.02倍モル以上4倍モル以下である請求項7又は8記載の貴金属微粒子の製造方法。

【公開番号】特開2008−163443(P2008−163443A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−495(P2007−495)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【Fターム(参考)】