説明

貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子およびその製造法

本発明は、貴金属イオン含有液に磁性金属酸化物微粒子を分散させるか、または該磁性金属酸化物を与える金属イオンを添加し、該液に超音波、電離放射線または紫外線を照射することを特徴とする貴金属・磁性金属酸化物複合体の製造法、および該方法によって得られる貴金属・磁性金属酸化物複合体を提供する。本発明方法によれば所望の該複合体を高収率で、安定して、量産することができる。またかくして得られる複合体は、殊に医療分野などにおいて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子およびその製造法に関する。
【背景技術】
粒子径が一般に1μm以下のナノサイズの粒子(ナノ粒子)を含む微粒子は、従来、主として吸着剤、電子素子材料、触媒などの用途を期待してその研究・開発がなされてきた。現在知られているナノ粒子には、例えば金属(金、銀、銅、白金など)、半導体(CdSe、CdSなど)、磁性材料(γ−Fe、Feなど)、コロイド材料などがある。また、近年、金属酸化物などの粒子表面に金属粒子を担持させた複合微粒子(複合ナノ粒子)の研究・開発が種々進められている。
近年、これらのナノ粒子は、そのサイズの微小さおよび表面積の大きさから、医療・診断分野、バイオテクノロジー分野、環境関連分野などへの応用が期待されてきている。例えば、ドラッグデリバリーシステム(DDS)における薬剤や遺伝子のキャリアとして有望視されている。即ち、通常生体内に注入された粒子は、生体防御機構によって排除されるが、微粒子、特にナノ粒子はこの生体防御機構を回避でき、また血管壁を透過して組織、細胞内にも取り込まれ易い。また、微粒子表面に抗体を固定化すれば、このものは、抗原抗体反応による抗原の検出、分離・精製に役立つ。標識剤などを固定化させた微粒子は、分析用マーカー、トレーサーなどの分析用試薬として有効と考えられる。更に、磁性微粒子は、例えばMRI診断の造影剤などとして、また癌の温熱療法(ハイパーサーミア)にもその有用性が示唆されている。
このように、ナノ粒子、特に複合ナノ粒子は、医療・診断分野におけるその活用が期待されているものの、実際には、それらの調製自体、尚解明されていない複雑なメカニズムを経るものと考えられ、実質的に均一な複合ナノ粒子を、高収率で、安定して、しかも量産することはかなり困難な現状にある。
従来、上記のような複合ナノ粒子及び複合体の製造方法としては、代表的には以下の方法が報告されている。
・方法1:加熱法
マンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅の少なくとも1種の酸化物を含有する水溶液に、pH7−11の条件下に金化合物水溶液を滴下後、100−800℃に加熱する方法(特公平5−34284号請求項2および4参照)
・方法2:還元法
金化合物を溶解し且つマンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅の少なくとも1種の酸化物を含有するpH7−11の水溶液に、ヒドラジン、ホルマリン等の還元剤を滴下して酸化物上に金超微粒子を析出させる方法(特公平5−34284号請求項3参照)。
・方法3:光触媒反応法
金属イオンを含む液中に、半導体物質を担持させた非導電性物質を浸漬し、可視光および/または紫外線を照射して、金属超微粒子層を還元析出させる方法(特開昭63−197638号公報、特開昭60−50172号公報等参照)。
・方法4:γ線照射法1
複合ナノ粒子の製造方法ではないが、例えばゼオライト、シリカゲル、コロイド状シリカなどの材料を含むPt,Ag等の金属イオン水溶液にγ線を照射して、上記材料のポア乃至マトリックス内に金属を析出させて複合体を得る方法(Solid State Science,4,(2002),pp.489−494:J.Phys.Chem.,1994,98,9619−9625:Adv.Mater.,2003,15,No.6,March 17,pp.511−513:J.Mater.Chem.,1996 6(5),pp867−870等参照)。
・方法5:逆ミセル法
本発明者らが先に開発した方法であって、界面活性剤を利用して鉄化合物水溶液を水相とするW/Oエマルジョン(逆ミセル)を形成し、これに還元剤を加えて鉄ナノ粒子の逆ミセルを形成し、次いでこの逆ミセルに金化合物の水溶液を添加して同様に還元することによって、鉄と金とのナノ粒子が混在する複合粒子を合成する方法(Proceeding of the 6th International Conference of Nanostructured Materials,June 16−21,2002,NM−749:Journal of Alloys and Compounds,359(2003),46−50:Abstract of Autumn Meeting of Japan Society of Powder and Powder Metallurgy,2002,p75 and 76)。
・方法6:γ線照射法2
本発明者らが先に報告した方法であって、TiOナノ粒子を含むAu水溶液中に60Coガンマ線を照射してAu/TiO複合ナノ粒子を合成する方法(21世紀COE国際シンポジウム研究活動報告書、平成15年3月11−12日開催、81−82頁)
・方法7:超音波を利用する方法1
本発明者らが先に報告した方法であって、アルミナ、チタニア、シリカ等の触媒担体をテトラクロロパラデート(Pd(II))の水溶液中に添加後、該液に超音波照射して、上記担体上にPdを析出させる方法(Chemistry Letters,1999,pp.271−272)。
・方法8:超音波を利用する方法2
本発明者らが先に報告した方法であって、Na[AuCl]の水溶液に超音波を照射し、該水溶液にアルミナ粒子の担体を添加してAuを上記担体上に還元析出させる方法(Bull.Chem.Soc.Jpn.,75,No.10(2002),pp.2289−2296)。
しかしながら、これらの報告された方法は、特に、医療・診断分野において実用できる性能を有する磁性金属の複合ナノ粒子を製造するものではない。より詳しくは、前記方法1−4に示される方法は複合粒子を製造するものではないか、または複合粒子を製造するものであっても得られる複合粒子はその粒度がかなりばらつくものである。即ち、之等の方法では、微細で粒度の揃った複合ナノ粒子を製造することはできない。
前記方法5は、エマルジョンを利用することに基づいて、得られる粒子表面が界面活性剤によって覆われており、それ故、該粒子表面に更に官能基などを付与して、薬剤や遺伝子のキャリアとして利用するなどの医療・診断分野における利用は絶望的である。
前記方法6は、前記方法3を発展させたものであり、方法3において紫外線に代えてガンマ線を利用することを特徴とするが、複合粒子の合成に利用する材料は光触媒としてのチタニア粒子に限定される。即ち、この技術は、光触媒の活性を促進させるためにチタニア粒子に金粒子を複合させたものであり、この技術が磁性粒子を利用した複合粒子の製造、殊に上記触媒分野とは関連のない医療分野などへの応用に適する複合粒子、特に磁性を有する複合微粒子の製造に応用できるとは考えられない。
前記方法7は、触媒の調製を目的として、超音波を利用してPd担持アルミナ触媒を製造する技術に関するのみで、この技術も医療分野などへの応用に適する磁性を有する複合粒子の製造に応用できるとは考えられない。
前記方法8は、超音波を利用して金ナノ粒子またはアルミナ担体上に金ナノ粒子を保持させた複合粒子を製造する技術に関しているが、得られる金ナノ粒子の粒子径は大きく、粒度分布も広いものであり、各種分野での実用性に乏しく、特に医療分野における利用は尚困難なものと考えられる。
以上のように、現在知られている複合微粒子及び複合体の製造技術は、いずれも磁性を有する複合微粒子の製造技術ではなく、該複合微粒子の製造に利用できるものとも考えられず、しかも得られる複合微粒子は、その医療分野などへの利用を考慮したとき、尚、複合粒子の粒子形状、均一性等の面で改善されるべき余地があり、より一層均一な粒子形状および磁性を有する複合微粒子を高収率で、安定して、量産できる技術の開発が望まれている。殊に、医療分野などにおいて応用可能な好ましい複合微粒子には、次のような諸性質が要望される。現在、そのような要求性能を満たす複合微粒子は開発されていない。
(1)粒子径が微小であること、
(2)各粒子はできるだけ形状が均一であり、粒度分布が狭いこと、
(3)粒子表面に官能基を付与されるかまたは付与できること、
(4)磁性を有すること、
(5)人体などに対して安全であること、
(6)製造容易で量産できること、
(7)粒子サイズに応じて異なる色調を呈すること、
(8)耐久性があること、
(9)安定性に優れており、取り扱いが容易であること。
【発明の開示】
本発明は、上記要求性能を満たし、殊に医療・診断分野、バイオテクノロジー分野、環境関連分野などへの利用に適した新しい磁性を有する複合金属微粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前述したように、以前から、金ナノ粒子担持酸化チタン粉末、磁性金属酸化物ナノ粒子などの各種の金属ナノ粒子の合成、研究を行ってきた。その過程で、磁性金属酸化物ナノ粒子表面に貴金属原子を複合化した新しい複合磁性金属微粒子の製造技術を確立すると共に、この技術によって上記要求性能を満たす新しい複合微粒子を提供するに成功した。本発明はこれらの知見を基礎として更に研究を重ねた結果完成されたものである。
本発明は、下記項1−17に記載の発明を提供する。
項1.貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に磁性金属酸化物微粒子を分散させるか、または該磁性金属酸化物を与える金属イオンを該液に添加し、次いで得られる液に超音波または電離放射線を照射することを特徴とする貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子(以下、この微粒子を単に「本発明微粒子」ということがある)の製造法。
項2.貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に磁性金属酸化物微粒子を分散させ、次いで得られる液に超音波または電離放射線を照射することを特徴とする貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子の製造法。
項3.貴金属イオンまたは貴金属錯体を構成する貴金属が、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウムおよびレニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である項1又は2に記載の方法。
項4.貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液が、水溶液、含水アルコール溶液またはアルコール溶液である項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5.貴金属イオンまたは金属錯体を含有する液が、更に水溶性高分子化合物、界面活性剤および有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む項1〜4のいずれかに記載の方法。
項6.磁性金属酸化物微粒子が、γ−FeおよびFeからなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子である項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7.貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液中の貴金属イオンまたは貴金属錯体の濃度が、1μM−1Mであり、磁性金属酸化物微粒子または該磁性金属酸化物を与える金属イオンが、上記液に対して0.001−50重量%となる量で分散または添加される項1〜6のいずれかに記載の方法。
項8.超音波の照射が、周波数10kHz−10MHz、出力1W以上の条件で行われる項1〜7のいずれかに記載の方法。
項9.電離放射線の照射が、吸収線量1J/kg以上の条件で行われる項1〜7のいずれかに記載の方法。
項10.貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に超音波または電離放射線を照射し、次いで該液に磁性金属酸化物微粒子を添加混合することを特徴とする貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子の製造法。
項11.項1〜10のいずれかに記載の方法によって得られる貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子。
項12.平均粒子径1nm−1μmの磁性金属酸化物微粒子と該微粒子表面に接合された平均粒子径1−500nmの貴金属ナノ粒子とからなり、磁性を有することを特徴とする項11に記載の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子。
項13.磁性金属酸化物粒子の平均粒子径が1nm〜100nmである項12に記載の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子。
項14.磁性金属酸化物粒子の平均粒子径に対する貴金属ナノ粒子の平均粒子径の比が0.001〜100の範囲にある項13に記載の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子。
項15.磁性金属酸化物粒子の平均粒子径が1〜100nmであり、貴金属ナノ粒子の平均粒子径が1−500nmであり、該磁性金属酸化物粒子の平均粒子径に対する貴金属ナノ粒子の平均粒子径の比が0.1〜10の範囲にある項13に記載の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子。
項16.液媒に分散可能であり、着色していることを特徴とする項11−15のいずれかに記載の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子。
項17.項11−16のいずれかに記載の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子とリンカー分子との結合物であって、該リンカー分子は上記微粒子を構成する貴金属と結合しており且つ被検物質と化学結合可能な官能基を有している、貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子とリンカー分子との結合物。
項18.リンカー分子が線状アルカンジチオール、グルタチオン及びホスホロチオエートからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、官能基がアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基、イミノ基、エーテル結合、カルボキシラート、リン酸残基及びスルフィド残基から選ばれる少なくとも1種である項17に記載の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子。
項19.医薬品、抗原、抗体、レセプター、ハプテン、酵素、蛋白質、ペプチド、核酸、ホルモン、病原体および毒素からなる群から選ばれる物質の分析試薬である項17または18に記載の結合物。
項20.医薬品、診断剤、細胞標識剤、酵素固定剤または蛋白質精製剤である項17または18に記載の結合物。
項21.クロマトグラフィーに利用される項17または18に記載の結合物。
項22.土壌改質または水質もしくは大気の浄化に利用される項17または18に記載の結合物。
項23.触媒、吸着剤またはセンサーに利用される項17または18に記載の結合物。
本発明方法によれば、所望の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子(本発明微粒子)を、高収率で、安定して、容易に量産することができる。特に、本発明方法によれば、超音波または電離放射線を照射する条件を適宜変更することによって、得られる本発明微粒子を構成する貴金属ナノ粒子の平均粒子径を1−500nm程度、好ましくは1−100nm程度の範囲内で任意の値に調節することができる。しかも各微粒子の粒子径分布を適宜制御でき、必要に応じて貴金属粒子部分の狭い粒子径分布を有する微粒子を得ることができる。
かくして得られる本発明微粒子は、磁性金属酸化物微粒子と該微粒子表面に接合乃至担持された貴金属ナノ粒子とからなる複合粒子であって、磁性を有することを特徴としている。磁性金属酸化物微粒子の平均粒子径は、通常1nm−1μm、好ましくは1−100nm程度であり、また貴金属ナノ粒子の平均粒子径は、通常1−500nm、好ましくは1−100nm程度である。また磁性金属酸化物微粒子の平均粒子径と貴金属ナノ粒子の平均粒子径との関連は、磁性金属酸化物微粒子の平均粒子径をA、貴金属ナノ粒子の平均粒子径をBとしたとき、0.001<B/A<100、好ましくは0.1<B/A<10の式を満たすものであるのが望ましい。
また、本発明微粒子は、液媒に分散可能で、安定した分散状態を維持し得、更にその表面プラズモン吸収により着色している特徴を有している。
本発明微粒子は、磁性金属酸化物の利用に基づく所望の磁性を有することから、磁気による誘導、捕集、分離などが容易であり、従って、これを利用した試薬などは容易に磁気分離できる特徴を有している。
また、本発明微粒子は、上記磁性金属酸化物表面に複合化された貴金属ナノ粒子(貴金属原子)に官能基を付与することができ、この官能基を利用して、ヌクレオチド、蛋白質、抗体、酵素、細胞、標識剤、医薬品有効成分化合物などを化学結合させることができる。かくして得られる微粒子は、医薬品、診断剤、薬剤などの分析試薬の分離・精製剤などとして、殊に医療・診断分野で有効である。
勿論、上記貴金属および磁性金属酸化物は人体に対して安全であり、また本発明方法ではその製造工程で有害な試薬などを利用する必要もないため、得られる微粒子自体、医療分野などへの適用の際の安全性に優れたものである。
しかも、本発明微粒子は、前記した各性質を長期に亘って安定して保持する耐久性があり、その取り扱いも容易である利点を有している。
本発明微粒子は、前記した複合する微粒子相互の大きさに応じて、種々の特徴を有している。例えば、複合微粒子の全体のサイズが4−400nmの範囲にあるものは、一般に安定して血管中を循環し得るため、DDSへの応用に適している。殊に、本発明微粒子のうちで平均粒子径が100nm以下であるものは、固形癌組織に選択的に集積する効果、即ちEPR効果(Enhanced permeability and retention effect)を奏し得るため、該微粒子に例えば抗ガン剤などの薬剤を結合、担持させることによって、該薬剤を選択的に癌組織にのみ運搬することができ、かくして有害な副作用を伴うことなく癌治療効果を飛躍的に向上させ得ると考えられる。
本発明微粒子を構成する貴金属粒子の平均粒子径が、前記範囲内で比較的小さいものは、大きな表面積を有するため、該貴金属粒子の表面に比較的多量の蛋白質などの物質を結合させることができる。従って、該微粒子は医薬品、診断剤、薬剤分析試薬などの用途に好適である。その内でも、多数の貴金属粒子が磁性金属酸化物粒子表面を被覆するように担持された本発明微粒子は、その粒子表面に磁性金属酸化物が現れていないため、不必要な物質との結合のおそれを回避できる利点がある。
本発明微粒子は、これを構成する貴金属粒子の平均粒子径が約20nm前後である場合に、最も顕著に表面プラズモン吸収の色調を呈することができる。従って、このような本発明微粒子は、その色調変化を利用した用途に好適である。複数の貴金属粒子が磁性金属酸化物表面に分散して担持された本発明微粒子は、これを医薬品等の用途に応用する場合、生体分子等の物質を介して貴金属粒子同士が結合することによって色調を変化させ得るため、その識別が正確に行い得る利点がある。また、磁性金属酸化物粒子が例えば約10nmのオーダのサイズである比較的大きい微粒子は、磁力による捕集が非常に容易となる利点がある。逆に、磁性金属酸化物粒子が、約100−1nmのオーダと比較的小さいサイズである場合も磁力による捕集は可能であり、しかもこのような微粒子は、この磁性金属酸化物粒子のサイズに応じて水中での分散性に優れることが予測できる。
【図面の簡単な説明】
図1(1−a及び1−b)は、実施例1で得た本発明微粒子の分散液(磁気分離前:図1−a)及び(磁気分離後:図1−b:)の各吸光度分析結果を示すグラフである。
図2は、実施例1で製造した本発明微粒子のX線回折測定結果を示すグラフである。
図3および4は、実施例1で製造した本発明微粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す写真である。
図5は、実施例2で製造した本発明微粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す写真である。
図6は、実施例3で製造した本発明微粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す写真である。
図7は、実施例4で製造した本発明微粒子分散液の吸光度分析結果を示すグラフである。
図8は、実施例5で製造した本発明微粒子を構成する金ナノ粒子の粒度分布を示すグラフである。
図9は、実施例6で製造した本発明微粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す写真である。
図10は、実施例7で製造した本発明微粒子分散液の吸光度分析結果を示すグラフである。
図11は、実施例8で製造した本発明微粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す写真である。
図12は、実施例8で製造した本発明微粒子を構成する金ナノ粒子の粒度分布を示すグラフである。
図13は、実施例8で製造した本発明微粒子のX線回折測定結果を示すグラフである。
図14および15は、実施例9で製造した本発明微粒子のそれぞれの透過型電子顕微鏡観察結果を示す写真である。
図16および17は、実施例9で製造した本発明微粒子を構成する金ナノ粒子のそれぞれの粒度分布を示すグラフである。
図18は、実施例9で製造した本発明微粒子のX線回折測定結果を示すグラフである。
図19は、実施例10で製造した本発明微粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す写真である。
図20は、実施例12で製造した本発明微粒子分散液の吸光度分析結果を示すグラフである。
図21は、実施例12における超音波照射時間と反応液中に残存する金イオン濃度との関係を示すグラフである。
図22は、実施例14で製造した本発明微粒子の透過型電子顕微鏡観察結果を示す写真である。
図23および24は、比較例1で得た比較微粒子のそれぞれの透過型電子顕微鏡観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明微粒子の製造方法を詳述する。
本発明微粒子は、貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に、磁性金属酸化物微粒子を分散させるか、または該磁性金属酸化物を与える金属イオンを該液に添加し、次いで該液に超音波または電離放射線を照射することによって製造できる。該照射によれば、原料とする磁性金属酸化物微粒子の表面に(金属イオンを利用する場合はまず磁性金属酸化物微粒子が形成され、次いでその表面に)、還元された貴金属のナノ粒子(貴金属原子)が析出する。
(1)貴金属イオンまたは貴金属錯体含有液
貴金属イオンまたは貴金属錯体を構成する貴金属としては、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、レニウムなどの金属を使用することができる。これらの内でも金、銀などの利用は有利である。即ち、これらの金属は、その表面プラズモン吸収が可視領域にあり、これを接合(担持)させて得られる本発明微粒子は、該プラズモン観測によってその存在を容易に確認できる。従って、そのような金属を利用して得られる本発明微粒子は、これを例えば抗原抗体反応に利用すれば、その反応の進行の有無が目視、或いは表面プラズモン吸収スペクトルの変化を測定することにより容易に確認できる利点がある。
貴金属イオン含有液は、上記貴金属イオンを含む水溶液またはアルコール溶液である。その調製は、通常の方法に従って、貴金属イオンを与える適当な化合物を水、含水アルコールもしくはアルコール(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール等)、または塩酸、硫酸、硝酸などの酸(アルコールなどの有機物を含んでいてもよい)に溶解させることにより行い得る。適当な化合物としては、貴金属の硝酸塩、塩化物、酢酸塩、クエン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酸化物、水酸化物など、具体的には硝酸銀、塩化金酸、塩化パラジウムなどを挙げることができる。中でも、水に易溶で比較的安価な、塩化物、硝酸塩などの水溶液、酸化物の塩酸溶液、硝酸溶液などは好ましい。調製される貴金属イオン含有液の濃度は、特に制限されないが、一般には貴金属イオン含有液中の貴金属イオンの濃度が、1μM−1M程度、好ましくは0.1−10mM程度となる範囲から選ばれるのが適当である。貴金属イオン濃度が上記範囲を超えてあまりに高くなりすぎる場合は、得られる貴金属粒子のサイズが大きくなりすぎたり、貴金属単独の粒子が多量生成したりするおそれがある。逆に、貴金属イオン濃度が上記範囲よりあまりに低すぎる場合は、所望の複合粒子は殆ど得られない。
貴金属錯体を含有する液としては、上記各貴金属のイオンに適当な配位子が配位した化合物の水溶液、含水アルコールもしくはアルコール溶液を挙げることができる。配位子は、非共有電子対もしくは負電荷をもっている限り特に限定されず、各種のものから選択することができる。具体的には、例えば単座配位子としての、ハロゲン化物イオン(F,Cl,Br,Iなど)、シアン化物イオン(CN)、アンモニア(NH)、ピリジンなど;二座配位子としてのエチレンジアミン(HNCHCHNH)、アセチルアセトンイオンなど;六座配位子としてのエチレンジアミンテトラ酢酸イオンなどを挙げることができる。
上記貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液には、更に必要に応じて適当な添加剤を添加することができる。該添加剤としては、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子化合物;界面活性剤;アルコール類、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなど)、ポリオール類(アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、これらのモノアルキルエーテルまたはジアルキルエーテル、グリセリンなど)、カルボン酸類(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸など)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)などの各種の水混和性有機溶媒などが包含される。これらの添加剤は、金属イオンの還元反応速度を促進し、また生成する金属粒子の大きさを整えるのに有効な場合がある。
(2)磁性金属酸化物微粒子または磁性金属酸化物を与える金属イオン
また、本発明方法において用いられる磁性金属酸化物微粒子は、磁性を有する微粒子である限り特に制限はない。その具体例としては、酸化鉄(とりわけ磁鉱、マグヘマイト、フェライトなどのFeを主成分とする磁性酸化物など)の微粒子を挙げることができる。特に好ましい具体例としては、γ−Fe、Feなどの磁性微粒子を挙げることができる。
その他の金属の酸化物、例えばコバルト、ニッケルなどの酸化物、これらの金属の金属間化合物またはこれらの金属と鉄との金属間化合物(例えばCoPt、FePtなど)の酸化物、またはこれら各金属の合金(例えばCo/Ni、Co/Fe、Ni/Feなどの2元合金、Co/Fe/Niなどの3元合金など)の酸化物も、本発明における磁性金属酸化物微粒子として利用することができる。
本発明に利用する磁性金属酸化物微粒子は、好ましくは1nm−1μmの平均粒子径を有している。特に好ましい大きさは、ナノ粒子と呼ばれるサイズ、一般にはその平均粒子径が1μm以下、好ましくは1−500nm程度、より好ましくは5−200nm程度を挙げることができる。
上記磁性金属酸化物微粒子およびその製造法は公知である。例えば該微粒子は、PVS(Physical Vapor Synthesis)法(C.J.Parker,M.N.Ali,B.B.Lympany,US公開特許第5514349A参照)などに記載の方法に従って製造することができる。また、磁性金属酸化物微粒子は、既に市販されている。本発明ではこのような市販品、例えばNanoteck社製の市販品を利用することもできる。
磁性金属酸化物微粒子の貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液中への分散量は、通常0.001−50重量%程度、好ましくは0.1−10重量%程度となる量範囲から選ばれる。この範囲内での利用によって、所望の特性を有する本発明微粒子を得ることができる。
本発明者らは、上記した本発明方法(第一の方法)において、予め、貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に、磁性金属酸化物微粒子を分散させることなく、超音波または電離放射線を照射すると貴金属微粒子が生成すること、次いで、この貴金属微粒子を含む系内に磁性金属酸化物微粒子を添加混合すると、上記した本発明方法と同様に、本発明微粒子が得られることを確認している。
従って、本発明は貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に超音波または電離放射線を照射し、次いで磁性金属酸化物微粒子を添加混合することを特徴とする貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子の製造方法(第二の方法)をも提供する。
この第二の本発明方法は、上記した方法と磁性金属酸化物微粒子の添加時期が異なる以外は同様にして実施することができる。該方法によって、所望の本発明微粒子が得られる理由は現在明確ではないが、後述するように、本発明方法によって得られる貴金属粒子の表面は、むき出し(naked)であり且つ生成直後には高い反応性を有しているために、この系内に磁性金属酸化物微粒子を存在させると、該粒子表面に接合し、これに担持されるものと考えられる。
更に、本発明者らは、前記貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に磁性金属酸化物微粒子を分散させて超音波又は電離放射線を照射する第一の本発明方法において、磁性金属酸化物微粒子に代えて、磁性金属酸化物を与える金属イオン、即ち上記微粒子を構成する金属のイオンを利用する場合にも、本発明所期の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子が同様に製造できることを確認している。この場合、金属イオンは、例えば前述したFe,Co,Niなどの金属を塩酸、硫酸、硝酸などの酸(アルコールなどの有機物を含んでいてもよい)に溶解させた液の形態、前述した金属塩や金属錯体の形態、もしくはこれら金属塩や金属錯体を適当な液中に溶解させた形態で、前記貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液中に配合すればよい。その配合量は、配合した金属イオンから形成される磁性金属酸化物微粒子が前記と同様の濃度となる量、通常金属イオンとして0.01mM−1Mから選ばれるのが適当である。
(3)超音波または電離放射線照射
本発明方法(第一の方法)においては、磁性金属酸化物微粒子(もしくは磁性金属酸化物を与える金属イオン)を分散または存在させた貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に、超音波または電離放射線を照射する。
この照射によって、所望の磁性金属酸化物微粒子表面に貴金属原子もしくはナノ粒子を接合させた本発明微粒子を得ることができる。その理由は、現在尚全て解明されたわけではなく、理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者は、照射される超音波または電離放射線のエネルギーによって、液中の貴金属イオン(もしくは錯体)が還元されて磁性金属酸化物微粒子表面に原子状の貴金属単体を析出させるものと推定している。尚、磁性金属酸化物微粒子表面への貴金属単体の析出は、例えば後記する実施例に従って得られた本発明微粒子のTEM写真撮影結果などからも確認できる。
より詳しくは、磁性金属酸化物微粒子が、水溶液中に懸濁している状況で、超音波および電離放射線照射によって、化学エネルギーより遙かに高い励起を受けると、次のようにして本発明微粒子(複合微粒子)が形成されると推測できる。即ち、超音波および電離放射線は、周知の通り、水溶液中でそれぞれ、気泡(キャビティ)発生や電離によって、空間的にかつ時間的に限られた領域内で還元力および酸化力の高い化学種を発生させる。これらの化学種の作用で発生する貴金属ナノ粒子は、生成直後にはその表面の反応性が高く、それ故、共存している磁性金属酸化物微粒子と出会うとこれと強く結合する。
また、超音波および電離放射線が磁性金属酸化物微粒子とその分散媒としての水とからなる非均質系に作用する場合、その物質相の差異が際立つ両者の界面においてその作用の強さに不均一性が生じ、界面近傍での酸化還元反応の確率が高まることも推測できる。特に、電離放射線が比較的密度の高い固体により強く吸収されることは周知である。
更に、界面活性剤などが存在する水系に超音波を照射すると、還元剤として作用する様々な有機ラジカルなどが発生する。電離放射線の照射の場合も、非常に高いエネルギーの光子などの衝突によって、同様のラジカルが発生する。これらの生成によって、本発明微粒子の生成速度、粒子の大きさなどが調整できると考えられる。
一方、磁性金属酸化物微粒子を与える金属イオンを共存させる系の場合、超音波および電離放射線の照射によって、溶液中で酸化還元反応が起こることに加えて、溶媒である水もしくは溶存ガス中に含まれる酸素などによる酸化反応も逐次的に進行する。これらの化学反応を経由して、金属イオンから磁性金属酸化物が生成する。一方、貴金属ナノ粒子は化学的安定性が高いために酸化されず、最終的に貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子が生成すると考えられる。
超音波および電離放射線の照射は、貴金属イオンが還元されて貴金属原子が析出する条件(磁性酸化物微粒子を与える金属イオンを利用する場合は、磁性酸化物微粒子が生成すると共に、その表面に上記と同様に貴金属原子が析出する条件)で実施することができる。
超音波照射は、通常、周波数10kHz−10MHz、出力1W以上の条件で実施することができる。該超音波照射は、より好ましくは例えばアルゴン(Ar)などの不活性ガス置換雰囲気中で行われる。好ましい照射条件の一例としては、周波数200kHz、出力200W、照射時間1−300分間の条件を挙げることができる。
電離放射線には、直接(一次)電離放射線および間接(二次)電離放射線が含まれる。直接電離放射線とは電子、陽子、α粒子などの荷電粒子線であり、間接電離放射線とはγ線(電磁波)、X線、中性子線などの非荷電粒子線である。この電離放射線の波長は、1nm未満、好ましくは0.1nm以下、より好ましくは0.01nm以下であるのがよい。特に波長が短いほど、大きさが均一で微細な貴金属粒子が短時間で生成する傾向がある。
該電離放射線の照射は、通常、吸収線量1J/kg以上、好ましくは1−1,000,000J/kgの条件で実施できる。特に、電離放射線としてγ線を利用する場合、該γ線は、線量1Gy以上の条件で実施するのが好ましい。γ線照射の好ましい具体例としては、放射線源として例えばコバルト60γ線源(γ線光量子のエネルギー:1.25MeV)を用いて、線量率約3kGy/h、照射時間1−18時間の条件で実施する例を挙げることができる。
尚、電離放射線の照射は、磁性粒子の分散状態を維持するために、溶液を攪拌しながら実施するのが好ましい。超音波照射の場合には、超音波の照射自体が攪拌効果をもつので、特に攪拌操作は不要である。また、本発明では電離放射線の照射と超音波照射とを併用することもできる。この併用によれば、超音波照射の攪拌効果によって分散性のよい、所望の本発明微粒子が得られる場合がある。
電離放射線及び/又は超音波照射時の温度条件は、特に限定はない。室温(常温)下で実施されるのが普通であるが、0−100℃程度の冷却条件及び加温条件を採用することも可能である。電離放射線及び/又は超音波照射を行うべき液を収容する容器の大きさは、例えば攪拌などによって容器内液が均一な状態に保てる限り特に制限はない。通常1mlのオーダーから100L程度のオーダの範囲から任意に選択することができる。
(4)本発明微粒子
かくして、本発明微粒子の分散液を得ることができる。この液は、そのまま分散液として、各種用途に利用することができる。また、該液に分散されている本発明微粒子は、その磁性を利用して、適当な磁石などによって磁気分離後、乾燥することによって、粉末製品形態として回収することができる。該粉末製品は、そのままでまたはこれを水などの適当な分散媒中に再分散させて、各種用途に利用することができる。
本発明方法によれば、前述したように、特に医療・診断分野における応用に適した要求性能を満たす微粒子の製造が可能であり、得られる微粒子はそのような医療・診断分野を初めとして、バイオテクノロジー分野、環境関連分野などの広範な各種分野において、新しい材料として有用である。
(5)本発明微粒子の用途
本発明微粒子の代表的用途としては、医療・診断分野における用途を挙げることができる。この用途には、例えば医薬品(DDSにおける薬剤など);診断剤;各種物質(医薬品有効成分化合物、抗原、抗体、レセプター、ハプテン、酵素、蛋白質、ペプチド、核酸、ホルモン、病原体、毒素など)の分析試薬;細胞などの分離・精製剤(細胞標識剤、酵素固定剤、蛋白質精製剤など)などが含まれる。特に、本発明微粒子は、液媒に分散可能で、均一系とみなし得る分散液を提供できるものであり、また微粒子形態に基づく広い表面積を有しているため、上記診断剤、分析試薬、分離・精製剤などとして、迅速且つ高精度に所望の結果を提供できる。しかも、本発明微粒子は、その分離、回収を磁気により容易に行い得る利点もある。
上記分析試薬、分離精製剤などとしての利用に当たり、本発明微粒子は、そのままで、またはこれを適当な担体に担持させた形態で、各種のクロマトグラフィー、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーに利用することができる。殊に、本発明微粒子は磁性を有するので、その回収や洗浄が容易となる利点があり、磁場配向を利用することにより本発明微粒子を規則的かつ緻密に充填できる利点もある。
また、本発明微粒子は、土壌改質、水質もしくは大気の浄化などに利用することもできる。本発明微粒子の土壌改質への応用例としては、例えば、後述するように、環境ホルモンを捕捉できるリンカー分子が結合された本発明微粒子の利用例を挙げることができる。この応用例によれば、土壌に大量に含まれる他の化合物(フミン質やフルボ酸など)は捕捉せずに、環境ホルモンだけを選択的にかつ効率良く捕捉することができる。このように、本発明微粒子の利用によれば、選択性の高い捕捉能と磁気分離技術とを併用して、効率的な土壌の浄化が可能である。また、本発明微粒子は、上記土壌改質と同様にして、水質もしくは大気の浄化にも適用可能である。
更に、本発明微粒子は、触媒、吸着剤、センサーなどとして利用することもできる。このような利用例でも、本発明微粒子は磁性を有することに基づいてこれを規則的かつ精密に配列させ得、これにより高集積化が可能である。また、本発明微粒子は、その回収が容易であることから、リサイクルのできる材料として有効である。
これらの各種用途への利用に当たり、本発明微粒子は、一般には、その表面に担持された貴金属原子に適当な官能基を付与して、ヌクレオチド、蛋白質、抗体、酵素、細胞、標識剤、医薬品有効成分化合物などの被検物質と化学結合(共有結合)する能力を与える。上記官能基およびその付与は、当業界において既に知られている。例えば官能基としては、金属と結合し得る基、具体的にはアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基(−SH基)、イミノ基、エーテル結合(エーテル基)、カルボン酸残基(カルボキシラート)、リン酸残基、スルフィド残基などを挙げることができる。官能基の付与は、これら各官能基に応じてそれぞれ常法に従うことができる。例えば−SH基の付与は、リンカー分子として線状アルカンジチオール、グルタチオン、ホスホロチオエートなどを用いて常法に従って実施できる。本発明は、このようにして調製されるリンカー分子を結合させた本発明微粒子をも提供する。
尚、本発明微粒子と被検物質との結合は、上記のようにリンカー分子を介して行われるものであるから、可能な場合は、本発明微粒子表面へのリンカー分子の結合に代えて、これと結合すべき被検物質へのリンカー分子の導入を行ってもよい。
特に、本発明微粒子は磁性を有していることに基づいて、上述した医療・診断分野における利用の際、被検物質との結合物を容易に磁気分離できる利点がある。
【実施例】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。
【実施例1】
(1)本発明微粒子の調製のための磁性金属酸化物微粒子の調製
磁性金属酸化物ナノ粒子として、PVS(Physical Vapor Synthesis)法により得られた市販品(Feナノ粒子、商品名:NanoTek(登録商標)Iron Oxide,Nanophase Technologies Corporation製、安達新産業株式会社より入手、平均粒子径23nm)を利用した。
(2)本発明微粒子の調製
1重量%PVA水溶液50mL中に、上記(1)の磁性金属酸化物ナノ粒子(平均粒子径23nm)49.2mg、HAuCl8.5mg(Auとして4.9mg、濃度が0.5mMとなる量)および2−プロパノール0.472mLを加えて原料ナノ粒子分散液を調製した。上記分散液をガラス製バイアルビン(容量70mL)に封入後、これに線量率約3kGy/hで、撹拌しながら3時間γ線を照射した(室温)。γ線照射条件は次の通りとした。
放射線源:コバルト60γ線源(γ線光量子のエネルギー:1.25MeV)
線源強さ:約7000キュリー
かくして、本発明微粒子(貴金属・金属酸化物複合微粒子)を分散させた液を得た。
(3)本発明微粒子(粉末)の単離
上記(2)で得られた分散液に、これを収容しているガラス製バイアル瓶の外部から直径30mm、高さ10mmの円柱型磁石(表面磁束密度:445mT)により磁場をかけ、1−24時間静置した。その後、バイアル瓶を開封し上澄み液を回収し、残部は再度これに水50mLを加えて分散液を調製した。また、該残部を乾燥して粉末形態の本発明微粒子を得た。
(4)本発明微粒子の性状試験
(4−1)吸光度分析
上記(2)で得られた分散液(本発明微粒子を含む、磁気分離前)および上記(3)で調製した本発明微粒子の再分散液(磁気分離後、磁性成分という)および比較のため磁気分離後に回収した上澄み液(非磁性成分という)について、それぞれ水で10倍希釈後(但し非磁性成分は希釈せず)、以下の条件で吸光度分析を行った。
〈吸光度分析条件〉
測定機種:Varian Cary 50(Varian,Inc.)
測定条件:光路長1cmのディスポーザブルセルを利用
結果を図1−aおよび図1−bに示す。各図において横軸は波長(nm)を示し、縦軸は吸光度を示す。図1−bにおいて(1)は磁性成分を示し、(2)は非磁性成分を示す。また、図1−aおよび1−bにおける矢印はAuナノ粒子に起因する表面プラズモン吸収を示す。
図1−aに示される結果から、磁気分離前の本発明微粒子の分散液では微粒子に担持された金に起因する表面プラズモン吸収が、ほぼ550nm付近に観察された。
また、図1−bに示される結果においても、磁性成分では、同様のプラズモン吸収が観察された。これに対して、非磁性成分ではそのようなプラズモン吸収は観察できなかった。このことから、磁気分離によって、金を担持したナノ粒子が分離されることが明らかとなった。
(4−2)X線回折測定(XRD)
前記(3)と同様にして磁気分離した本発明微粒子(粉末)試料について、XRD測定[測定機種:Rigaku RINT2100−Ultima(理学電機株式会社製)、Cu−Ka1を用いて測定]した。
結果を図2(横軸:2θ、縦軸:強度比(絶対単位))に示す。
図2に示される結果から、磁気分離した本発明微粒子は、金に由来するピークが2θ=37−38付近に確認された。このことから、本発明微粒子は、金を担持するものであることが確認された。
(4−3)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
本発明微粒子粉末試料(前記(3)と同様にして調製したもの)のTEM観察による撮影写真を図3(倍率50000倍にて撮影)および4(倍率100000にて撮影)に示す。
各図に示されるとおり、本発明微粒子はFeナノ粒子表面に微小なAu粒子(平均粒子径約5nm)が多数担持されているものであることが明らかである。即ち、Feナノ粒子の大きさは、約5−100nmの範囲にあり、その平均粒子径は約23nmであり、該粒子表面に存在するAu粒子の大きさはかなり揃っていることが明らかである。尚、之等の写真は乾燥後の粉末試料について撮影されたものであるため、Feナノ粒子は相互に凝集した状態となっている。以降に示されるTEM撮影写真において、磁性金属酸化物粒子が凝集した状態で観察されるのは、いずれも同様に、粉末試料の調製段階で乾燥させているためである。
(4−4)グルタチオン(GSH)吸着試験
前記(3)で調製した本発明微粒子の再分散液(磁気分離後の磁性成分、本発明液とする)について、グルタチオン(GSH)を初期濃度100μMとなる量で添加し、2時間撹拌後、前記(3)と同様にして微粒子を磁気により捕集し、フィルターを用いて分離した。微粒子を分離した残りの上澄み液について、後述する吸光度分析によりGSH濃度を求めた。該残留濃度を初期濃度から差し引いたものが微粒子に結合したものとして、各微粒子のGSH結合性を検討した。
上澄み液に残留しているGSH濃度の定量は、既知の手法を用いて行った(G.L.Ellman,Arch.Biochem.Boiphys.,82,70−77(1959):O.W.Griffith,Anal.Biochem.,106,207−212(1980)。
具体的には、微粒子を除去した残りの上澄み液0.9mLに対して、発色試薬としてスルホサリチル酸水溶液(濃度5重量%)を0.1mL、2−ニトロ安息香酸水溶液(濃度1mM)を1mLおよびリン酸塩pH標準液(pH7.41)を9mL加え、紫外可視分光光度計を用いて波長412nmでの吸光度からGSH濃度を定量した。
尚、利用した金ナノ粒子分散液は、文献記載の方法(例えば、New J.Chem.,1998,pp.1239−1255参照)に準じて、以下のようにして製造した。即ち、1重量%PVA水溶液50mL中に、HAuCl8.5mgおよび2−プロパノール0.472mLを加えた水溶液を調製し、該水溶液をガラス製バイアルビン(容量70mL)に封入後、これに線量率約3kGy/hで、撹拌しながら3時間γ線を照射(室温)して、金ナノ粒子を分散させた液を得た。γ線照射条件は次の通りとした。
放射線源:コバルト60γ線源(γ線光量子のエネルギー:1.25MeV)
線源強さ:約7000キュリー
その結果、上澄み液に残留しているGSH濃度は約28μMと定量され、このことから本発明微粒子への結合GSH濃度は約72μMであり、本発明微粒子には多量のGSHが結合(チオール結合)することが判った。
以上の試験結果から、本発明微粒子は、前述したように、リンカー分子を介して例えば抗原、酵素、蛋白質、細胞などの各種の薬剤などを結合させることができ、これによって医薬品、診断剤、標識剤、酵素固定剤などとして利用できることが判った。
【実施例2】
実施例1の(2)において1重量%PVA水溶液をPVA非添加の水に代える以外は同様にして微粒子分散液を得、これをガラス製フラスコ(容量150mL)中に封入し、内部空気をアルゴンガスで置換後、下記条件で超音波照射した。
周波数:200kHz
出力:200W
照射時間:20分間
上記により、本発明微粒子(貴金属・金属酸化物複合微粒子)を分散させた液を得た。
このものを、実施例1の(3)に記載の方法により磁気分離して粉末を得た。得られた粉末は、実施例1の(4)に記載のXRDおよびTEMによって、実施例1で得た本発明微粒子と同様に、Fe微粒子表面に微小なAuナノ粒子(平均粒子径約40nm)が多数担持されているものであることが明らかとなった。そのTEM観察による撮影写真(倍率50000にて撮影)を図5に示す。図において、コントラストの高い粒子(黒く写っている粒子)がAuナノ粒子である。Auナノ粒子同士の合体がほとんど観察されていないことから、Auナノ粒子間の結合よりもAuナノ粒子とFeナノ粒子との間で起こる結合の方が強いことが明らかとなった。
【実施例3】
実施例1の(2)において1重量%PVA水溶液をPVA非添加の水に代える以外は同様にしてγ線照射により本発明微粒子分散液を得、このものから実施例1の(3)と同様にして粉末形態の本発明微粒子を単離した。
得られた本発明微粒子のTEM観察による撮影写真(倍率50000にて撮影)を図6に示す。該図に示されるとおり、平均粒子径約140nmのAuナノ粒子が生成していることが確認された。更に、該Auナノ粒子の表面に多数のFeナノ粒子が結合していることが明らかとなった。この結果から、Auナノ粒子とFeナノ粒子との間で強い結合力が存在することが示された。
【実施例4】
実施例1の(2)において、磁性ナノ粒子(平均粒子径23nm)の使用量を49.2mgから39.4mg、29.5mg、19.7mg、9.8mgおよび4.9mgのそれぞれに変化させ、γ線照射時間を3時間から6時間に変化させる以外は同様にして、本発明微粒子(貴金属・金属酸化物複合微粒子)を分散させた液を得た。
得られた各分散液について、実施例1の(3)と同様にして本発明微粒子を単離し、その再分散液(磁性成分、測定時に20倍希釈した)について、実施例1の(4)と同様にして吸光度分析を行った。得られた結果を、図1と同様にして、図7(磁性成分の結果)に示す。尚、図7には原料とする磁性ナノ粒子の使用量を実施例1と同じ49.2mgとした場合の結果も併記する。図7中、(1)は磁性ナノ粒子49.2mgを使用した場合の結果であり、(2)は磁性ナノ粒子49.2mgを使用した場合の結果であり、(3)は磁性ナノ粒子39.4mgを使用した場合の結果であり、(4)は磁性ナノ粒子29.5mgを使用した場合の結果であり、(5)は磁性ナノ粒子19.7mgを使用した場合の結果であり、(6)は磁性ナノ粒子9.8mgを使用した場合の結果である。
図7に示される結果から、原料とする磁性ナノ粒子の使用量の変化に拘わらず、金ナノ粒子の表面プラズモン吸収が磁性成分中に確認された。
【実施例5】
実施例1の(2)において、γ線照射時間を3時間から6時間に変化させる以外は同様にして、本発明微粒子(貴金属・金属酸化物複合微粒子)を分散させた液を得た。得られた分散液から、実施例1の(3)と同様にして本発明微粒子を単離し、実施例1の(4−3)と同様にしてTEMによる写真撮影を行い、得られた複数の写真から複合微粒子を形成する金粒子部分のうちの200個の金粒子について、ノギスでその粒子径を測定した。複合微粒子を形成する金粒子の粒度を求めた。
結果を図8に示す。図中、横軸は粒子径(nm)を示し、縦軸は粒子の頻度([個数/200]×100%)を示す。
図8に示される結果から、測定された金粒子は全て10nm以下の粒度であり、その平均粒子径は約5.5nmと算出された。また、測定した200個の金粒子の標準偏差(S.D.)は約1.2nmと比較的小さいことが明らかとなった。即ち、この方法により得られる複合微粒子を形成する金粒子は、微細で粒どの比較的揃っているものであることが明らかとなった。
【実施例6】
実施例1の(2)において、原料とする磁性ナノ粒子(平均粒子径23nm)の使用量を49.2mgから4.9mgに変化させ、γ線照射時間を3時間から6時間に変化させる以外は同様にして、本発明微粒子(貴金属・金属酸化物複合微粒子)を分散させた液を得た。得られた分散液から、実施例1の(3)と同様にして本発明微粒子を単離し、実施例1の(4−3)と同様にしてTEMによる写真撮影を行った。
結果を図9に示す。
図9に示される結果を、図3および図4に示される結果と対比すると、この例で得られた本発明微粒子は、実施例1で得られたそれと同様に、Feナノ粒子表面に微小なAu粒子が多数担持されており、その担持量は、実施例1で得られたそれと対比して更に増加していることが明らかである。
【実施例7】
実施例1の(2)において、原料とする磁性ナノ粒子(γ−Fe、平均粒子径23nm)を、同様にして調製したFeナノ粒子(平均粒子径100nm)に代え、また、γ線照射時間を3時間から6時間に変化させる以外は同様にして、本発明微粒子(貴金属・金属酸化物複合微粒子)を分散させた液を得た。
この分散液から、実施例1の(3)と同様にして本発明微粒子の再分散液(磁性成分)を調製し、この再分散液および磁気分離後に回収した上澄み液(非磁性成分)について、それぞれ水で10倍希釈後に実施例1の(4−1)と同様にして吸光度分析を行った。
磁性成分について得られた結果を図1と同様にして図10に示す(図10中、右上の図は吸光度0.75〜0.9における一部拡大図である)。
図10に示される結果から明らかなとおり、この例で調製された本発明微粒子の場合も、実施例1で調製したそれと同様に、金ナノ粒子の表面プラズモン吸収が確認でき、このことから本発明微粒子の生成が確認できた。一方、非磁性成分は透明であった。
【実施例8】
(1)実施例7で調製した本発明複合微粒子の再分散液から実施例1の(3)と同様にして粉末試料を調製し、このもののTEMによる写真を撮影した。得られた写真を図11に示す。
(2)また、上記粉末試料について、実施例5と同様にして求めた複合微粒子を構成する金ナノ粒子の粒度分布を求めた。得られた結果を図8と同様にして図12に示す。
この例で得られた本発明微粒子は、図11および12に示されるように、微小な金ナノ粒子がFe粒子表面に多数担持されたものであり、その金ナノ粒子は大部分5−10nmの粒度を有するが、約20nmの粒度を有するものも存在しており、平均粒子径は約7.7nmで、粒度の標準偏差(S.D.)は約3.2nmであることが判る。
(3)更に、上記粉末試料について、実施例1の(4−2)に従って、X線回折測定(XRD)を行った。
得られた結果を図2と同様にして図13に示す(図中、Au/Feとして表示)。尚、図13には、実施例1で調製した本発明複合微粒子のXRD測定結果(図2に記載したもの)をAu/γ−Feとして併記する。
図13に示される結果からも、図2と同様に、本発明微粒子は金を担持するものであることが確認できる。
【実施例9】
(1)本発明微粒子の調製のための磁性金属酸化物ナノ粒子の調製
磁性金属酸化物ナノ粒子として、実施例1の(1)に記載のFeナノ粒子(商品名:NanoTek(登録商標)Iron Oxide,Nanophase Technologies Corporation製、安達新産業株式会社より入手、平均粒子径23nm)を利用した。
(2)本発明微粒子の調製
1重量%PVA水溶液50mL中に、上記(1)の磁性金属酸化物ナノ粒子(平均粒子径23nm)16mg、KPtCl10.4mg(Ptとして4.9mg)またはPdCl・2NaCl7.4mg(Pdとして2.7mg)、および2−プロパノール0.472mLを加えて原料ナノ粒子分散液を調製した。上記分散液をガラス製バイアルビン(容量70mL)に入れ、バイアル瓶内をアルゴンガス置換後、密封し、次いで、これに線量率約3kGy/hで、撹拌しながら6時間γ線を照射した(室温)。γ線照射条件は実施例1と同一条件とした。
かくして、本発明微粒子(Pt/γ−FeおよびPd/γ−Fe複合微粒子)を分散させた液を得た。
(3)本発明微粒子(粉末)の単離
上記(2)で得られた分散液に、これを収容しているガラス製バイアル瓶の外部から直径30mm、高さ10mmの円柱型磁石(表面磁束密度:445mT)により磁場をかけ、1−24時間静置した。その後、バイアル瓶を開封し上澄み液を回収し、残部は再度これに水50mLを加えて分散液を調製した。この残部の再分散液を乾燥することにより粉末形態の本発明微粒子を得た。
(4)本発明微粒子の性状試験
(4−1)TEM写真
上記(3)で磁気分離後の磁性成分の粉末試料について、実施例1の(4−3)と同様にしてTEM観察を行い、更に、実施例5と同様にして、複数のTEM写真から複合微粒子を構成するPtナノ粒子またはPdナノ粒子部分のうちの100個の粒子について、ノギスでその粒子径を測定し、各Pt粒子およびPd粒子の粒度分布を調べた。
TEM写真の結果を図14(Pt/γ−Fe複合微粒子の場合)および図15(Pd/γ−Fe複合微粒子の場合)に示す。
また粒度分布を調べた結果を図8と同様にして図16(Pt/γ−Fe複合微粒子の場合)および図17(Pd/γ−Fe複合微粒子の場合)に示す。
これらの各図に示される結果から、この方法によって得られた本発明微粒子は、平均粒子径が約2nmの貴金属ナノ粒子(PtまたはPd)が酸化鉄ナノ粒子表面に多数担持された複合微粒子であり、その担持されている貴金属ナノ粒子は、Pt粒子もPd粒子もいずれも粒度分布の狭いものであることが明らかとなった。
(4−2)X線回折測定(XRD)
上記(3)で磁気分離後の磁性成分の粉末試料について、実施例1の(4−2)と同様にして、XRD測定を行った。
結果を図2と同様にして図18に示す。
図18の上段はPt/γ−Fe複合微粒子の結果であり、下段はPd/γ−Fe複合微粒子の結果である。
図18に示される結果から、磁気分離した本発明複合微粒子は、PtおよびPdに由来するピークが2θ=40付近に確認された(図中、矢印を付して表示した)。このことから、この例で得られた本発明微粒子は、PtおよびPdをそれぞれ担持するものであることが確認された。
【実施例10】
実施例1の(2)において、原料とする磁性ナノ粒子(平均粒子径23nm)の使用量を49.2mgから4.9mgに変化させ、γ線照射時間を3時間から6時間に変化させる以外は同様にして、本発明微粒子(貴金属・金属酸化物複合微粒子)を分散させた液を得た。得られた分散液から、実施例1の(3)と同様にして複合微粒子の再分散液50mLを調製した。
次いで、この分散液にKCOおよびHAuCl各0.5mMを含む水溶液50mLを加え、得られる水溶液に更にNaBH水溶液(2mM)50mLを撹拌下に加え、得られた水溶液から上記と同様にして複合微粒子を磁気分離し、これを水50mLに再分散させた。
更に得られた複合微粒子の再分散液にNaBH水溶液(2mM)50mLを撹拌下に加え、同様にして複合微粒子を磁気分離して回収した。このものの乾燥物について、実施例1の(4−3)と同様にしてTEMによる写真撮影を行った。
結果を図19に示す。
図19に示される結果から、本例においてもFeナノ粒子表面に微小なAu粒子が多数担持されて本発明微粒子が得られることが判る。より詳しくは、ほぼ均一な粒子サイズの各Feナノ粒子表面が、微小なAu粒子によってほぼ全面的に被覆された状態を呈していることが判る。尚、Au粒子の平均粒子径は約10.2nmである。
【実施例11】
実施例2において、用いたHAuCl量を8.5mg(0.5mM)から1.7mg(0.1mM)に代える以外は同様にして、超音波照射によって本発明微粒子の分散液および粉末を製造した。
得られた本発明微粒子粉末は、XRDおよびTEMによって、Fe微粒子表面に微小なAuナノ粒子が多数担持されており、該Auナノ粒子の平均粒子径は約20nmであることが確認された。
この例と実施例2とから、本発明方法によれば用いるAuイオン濃度を変化させることによって、得られる本発明微粒子を構成するAuナノ粒子の大きさを容易に制御できることが明らかである。
【実施例12】
実施例11と同様にして、本発明微粒子を分散させた液を得た。この分散液を実施例1の(3)と同様にして磁気分離後、得られる本発明微粒子の再分散液(磁性成分)および回収した上澄み液(非磁性成分)について、実施例1の(4−1)と同様にして吸光度分析を行った(但しいずれも水で20倍希釈した)。
結果を図1と同様にして図20に示す。
該図から、磁性成分については微粒子に担持された金に起因する表面プラズモン吸収が観察され、非磁性成分ではそのようなプラズモン吸収は観察されなかった。このことから、この例の場合も、磁気分離によって、本発明微粒子を分離できることが確認された。
【実施例13】
実施例11において、超音波照射時間を20分から1分、3分、6分および10分に変化させて、同様にして本発明微粒子を分散させた液を得た。この液から本発明微粒子をフィルターにより除去した後、濾液について残存する金イオン濃度を測定した。この測定はYoshiteru Mizukoshi,Kenji Okitsu,Hiroshi Bandow,Yoshio Nagata,Yasuaki Maeda,“Bunseki Kagaku”(Analytical Chemistry),Vol.45,No.4,pp.327−331(1996)により行った。
得られた結果を図21に示す(実線)。図21において縦軸は残存する金イオン濃度(単位:mmol/L)であり、横軸は超音波照射時間(分)である。また、該図には、比較のため上記において、Au単独ナノ粒子を製造した場合(磁性金属酸化物ナノ粒子を用いなかった場合)の結果を波線にて併記する。
図21に示される結果から、本発明方法によれば、超音波照射時間約3−4分で、所望の本発明微粒子の形成反応は終了していることが明らかである。
【実施例14】
水50mL中にHAuCl1.7mg及び2−プロパノール0.472mLを加えて分散液を調製し、この液をガラスバイアルビン(容量150mL)に封入し、内部空気をアルゴンガスで置換後、実施例2と同様にして、超音波照射してAuナノ粒子を分散させた液を得た。次いで、この分散液に実施例1の(1)に記載の磁性ナノ粒子(平均粒子径23nm)49.2mgを投入、混合した。その後、実施例(3)と同様にして磁気分離後、得られる微粒子の粉末について、実施例1の(4−3)と同様にしてTEM写真を撮影した。
得られたTEM写真を図22に示す。
該図から、この方法に従ってAu単独のナノ粒子を合成後、この系内に磁性ナノ粒子を混合することよっても微小な金ナノ粒子が磁性金属ナノ粒子表面に担持された本発明微粒子が得られることが確認できた。
比較例1
特公平5−34284号公報に記載第2方法(例えば実施例3参照)に従って、HAuCl水溶液5×10−3モル/L(Au1g/L)およびFeナノ粒子(実施例1に利用したものと同一)10g/Lを含む溶液250mLにKCOを加えてpHを約9.7に調整後、この溶液に撹拌下に還元剤としてのヒドラジン水溶液をNが2.5×10−2モル/Lとなる濃度で、1mL/分の速度で50分間を要して滴下して還元反応を行わせた。
還元反応終了後の懸濁液について、実施例1の(4−1)と同様にして紫外−可視光吸光度分析を行った結果、金のプラズモン吸収は観察できなかった。
また、実施例1の(3)と同様にして磁気分離を行ったところ、非磁性成分は透明であり、金単独粒子および金イオンの存在は確認できなかった。
更に、実施例1の(4−2)および(4−3)と同様にして、得られた微粒子をXRD測定およびTEM写真観察した。撮影されたTEM写真は図23に示すとおりである。この図においてコントラストの強い部分が金であることをXRD測定より確認した。該金粒子の平均粒子径は100nmを越えるものであった。
また上記において金の担持量を増大させるために、原料とするFeナノ粒子の使用量を0.6g/Lに、HAuClの濃度を5×10−4モル/L(Au0.1g/L)に変更(出発溶液の全容積は50mLとした)して、同一操作を実施して、懸濁液を調製した。
得られた懸濁液から微粒子粉末を単離し、同様にしてTEM写真撮影を行った結果を図24に示す。
該図から、この例では平均粒子径が100nmを越える比較的大きな金粒子しか析出しないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
本発明方法によって提供される貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子は、例えば代表的には、医療・診断分野において、医薬品(DDSにおける薬剤など);診断剤;各種物質(医薬品有効成分化合物、抗原、抗体、レセプター、ハプテン、酵素、蛋白質、ペプチド、核酸、ホルモン、病原体、毒素など)の分析試薬;細胞などの分離・精製剤(細胞標識剤、酵素固定剤、蛋白質精製剤など)などとして有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に磁性金属酸化物微粒子を分散させるか、または該磁性金属酸化物を与える金属イオンを該液に添加し、次いで得られる液に超音波または電離放射線を照射することを特徴とする貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子の製造法。
【請求項2】
貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に磁性金属酸化物微粒子を分散させ、次いで得られる液に超音波または電離放射線を照射することを特徴とする貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子の製造法。
【請求項3】
貴金属イオンまたは貴金属錯体を構成する貴金属が、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウムおよびレニウムからなる群から選ばれる金属である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液が、水溶液、含水アルコール溶液またはアルコール溶液である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
貴金属イオンまたは金属錯体を含有する液が、更に水溶性高分子化合物、界面活性剤および有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
磁性金属酸化物微粒子が、γ−FeおよびFeからなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液中の貴金属イオンまたは貴金属錯体の濃度が、1μM−1Mであり、磁性金属酸化物微粒子または該磁性金属酸化物を与える金属イオンが、上記液に対して0.001−50重量%となる量で分散または添加される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
超音波の照射が、周波数10kHz−10MHz、出力1W以上の条件で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項9】
電離放射線の照射が、吸収線量1J/kg以上の条件で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
貴金属イオンまたは貴金属錯体を含有する液に超音波または電離放射線を照射し、次いで該液に磁性金属酸化物微粒子を添加混合することを特徴とする貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子の製造法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法によって得られる貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子。
【請求項12】
平均粒子径1nm−1μmの磁性金属酸化物微粒子と該微粒子表面に接合された平均粒子径1−500nmの貴金属ナノ粒子とからなり、磁性を有することを特徴とする請求項11に記載の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子。
【請求項13】
液媒に分散可能であり、着色していることを特徴とする請求項11に記載の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子。
【請求項14】
請求項11に記載の貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子とリンカー分子との結合物であって、該リンカー分子は上記微粒子を構成する貴金属と結合しており且つ被検物質と化学結合可能な官能基を有している、貴金属・磁性金属酸化物複合微粒子とリンカー分子との結合物。
【請求項15】
医薬品、抗原、抗体、レセプター、ハプテン、酵素、蛋白質、ペプチド、核酸、ホルモン、病原体および毒素からなる群から選ばれる物質の分析試薬である請求項14に記載の結合物。
【請求項16】
医薬品、診断剤、細胞標識剤、酵素固定剤または蛋白質精製剤である請求項14に記載の結合物。
【請求項17】
クロマトグラフィーに利用される請求項14に記載の結合物。
【請求項18】
土壌改質または水質もしくは大気の浄化に利用される請求項14に記載の結合物。
【請求項19】
触媒、吸着剤またはセンサーに利用される請求項14に記載の結合物。

【国際公開番号】WO2004/083124
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504295(P2005−504295)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003137
【国際出願日】平成16年3月10日(2004.3.10)
【出願人】(899000046)関西ティー・エル・オー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】