説明

貴金属回収方法および貴金属回収システム

【課題】
Ru含有固形部材からRuを選択的に回収する方法および回収システムを提供する。
【解決手段】
Ruを含む固形部材を、下記水溶液A乃至水溶液Eから構成される水溶液の群から選択される少なくとも1種の水溶液に接触させてRu化合物を形成する工程と、前記Ru化合物を選択的に前記水溶液中に溶出する工程と、を有することを特徴とする貴金属回収方法。
(水溶液の群)
水溶液A:酸と、蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を有する化合物とを含有する水溶液
水溶液B:酸と、この酸と共存することで蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を生成する化合物とを含有する水溶液
水溶液C:酸と糖類とを含有する水溶液
水溶液D:蟻酸を含有する水溶液
水溶液E:蓚酸を含有する水溶液

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ruを含む固形部材から選択的にRu化合物を回収する方法および回収するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ru(ルテニウム)は、食塩電解工業における不溶性電極として大量に使用されてきたが、最近、燃料電池用触媒のアノード触媒PtRuやハードディスク部材として使用量が急増しており、今後もさらなるRuの需要が増大すると予想される。特に、現在、携帯機器用の燃料電池として盛んに研究されている直接メタノール型燃料電池(DMFC)のアノード触媒として、Ruは必須な金属元素であることも知られている。ここで、Ruの埋蔵量はPtより少ないものの、回収コストがかさむため、現状ではRuの回収は行なわれていない。今後、Ruの回収の要求が高くなると予想される。
【0003】
従来の固形部材に含まれている貴金属の回収としては、王水など酸化性酸による溶出方法が知られている。この方法では、燃料電池アノード触媒のようにRu以外の貴金属も同時存在する場合は、貴金属のすべてが溶出するため、選択的にRuを回収することができないので、さらにRuの分離回収工程が必要となる。一方、貴金属回収の燃焼酸化方法では、非揮発性の白金酸化物と揮発性の高いRuOやOsOなどをガス化して蒸留分離している。しかし、RuOの回収率が低いなどの課題がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、使用済みの燃料電池の膜−電極接合体(MEA)から貴金属触媒及び電解質ポリマーの回収方法として王水による溶出させ、分離回収することが記載されている。この回収方法は、王水による溶出及び燃焼酸化により回収を行なっており、上述の課題を克服することが必要である。
【特許文献1】特開2005−289001公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来の固形部材からのRu回収方法は、王水を使うため、他の貴金属との分離回収が困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は係る問題点を解決するためになされたものであり、Ruを含む固形部材から化学的な手法により簡便にRuを選択的に回収する貴金属回収方法および貴金属回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る貴金属回収方法は、Ruを含む固形部材を、下記水溶液A乃至水溶液Eから構成される水溶液の群から選択される少なくとも1種の水溶液に接触させてRu化合物を形成する工程と、前記Ru化合物を選択的に前記水溶液中に溶出する工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る貴金属回収システムは、Ruを含む固形部材と、この固形部材に接触してRuを溶出させる水溶液とを収容するタンクを有する貴金属回収システムにおいて、前記水溶液が下記水溶液A乃至水溶液Eから構成される水溶液の群から選択される少なくとも1種の水溶液であって、前記固形部材を前記水溶液に接触させてRu化合物を形成する第1のステップと、前記Ru化合物を選択的に前記水溶液中に溶出する第2のステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
ここで、前記水溶液の群は以下の通りである。
【0010】
(水溶液の群)
水溶液A:酸と、蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を有する化合物とを含有する水溶液
水溶液B:酸と、この酸と共存することで蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を生成する化合物とを含有する水溶液
水溶液C:酸と糖類とを含有する水溶液
水溶液D:蟻酸を含有する水溶液
水溶液E:蓚酸を含有する水溶液
【発明の効果】
【0011】
本発明により、Ruを含む固形部材から化学的な手法により簡便にRuを選択的に回収する貴金属回収方法および貴金属回収システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る貴金属回収方法について図を用いながら説明する。
【0013】
〔Ruを含む固形部材〕
図1は本発明の実施の形態に係るプロセスフローを示した概念図である。
【0014】
本発明の実施の形態に係るRuを含む固形部材1として、前述の通り、PtRu合金を主成分とする燃料電池用触媒(アノード触媒)をはじめとする触媒用部材、情報記録媒体などのハードディスクなどの記録媒体用部材が例示されるが、Ruが含まれている固形部材であればこれらに限定されるものではない。
【0015】
Ruを含む固形部材1としては、Ruの他にAu(金)、Ag(銀)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)、Ru(ルテニウム)、Os(オスミウム)など、水素よりも酸化還元電位の高い貴金属が含まれていて、主として王水を用いて処理されている固形部材であることが好ましい。これらのうち、PtなどRuよりも酸化還元電位が高い貴金属が含有されていることが好ましい。
【0016】
これらRuを含む固形部材1はアノード触媒やハードディスクのみ、あるいはこれらに酸に不溶な組成、例えば炭素やテフロン(商標)などの固形部材との組み合わせなど、できるだけ貴金属を主体として構成されていることが本発明の効果の観点から好ましいが、もちろん、これらに限定されることなく、他の卑金属を含んだ固形部材を含んでいてもよい。
【0017】
〔溶出用水溶液〕
本発明の実施の形態に係る溶出用水溶液は、以下に示す水溶液の群から選択される少なくとも1種の水溶液を用いることができる。
【0018】
(水溶液の群)
水溶液A:酸と、蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を有する化合物とを含有する水溶液
水溶液B:酸と、この酸と共存することで蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を生成する化合物とを含有する水溶液
水溶液C:酸と糖類とを含有する水溶液
水溶液D:蟻酸を含有する水溶液
水溶液E:蓚酸を含有する水溶液
具体的には、本発明の実施の形態に係る貴金属回収方法に用いることができる水溶液2として、溶液中に酸(酸性物質)と還元性物質を含む水溶液を用いることができる。更に具体的には、本発明の実施の形態に係る貴金属回収方法に用いることができる水溶液2として、酸性物質として、硫酸、塩酸、硝酸、カルボン酸、有機酸などが挙げられる。還元性物質としては、蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を有する化合物などが挙げられる。これらの中から酸性物質と還元性物質を任意に選んで水溶液2として用いることができる(水溶液A)。
【0019】
また、蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を有する化合物の代わりに還元性を有する糖類を用いることができる。これらの中から酸性物質と糖類を選んで水溶液2として用いることができる(水溶液C)。
【0020】
ここで還元性物質としては、広義には酸と共存することで還元性物質に変化する物質、例えばアルコールや、糖類などのヘミアセタール構造もしくはアセタール構造を有する物質も含むことができる。これらの中から酸性物質と還元性物質を任意に選んで水溶液2として用いることができる(水溶液B)。
【0021】
この中でも蟻酸及び蓚酸は単独で用いても酸性物質及び還元性物質の両方の機能を有するため、単独で水溶液2として使用することができる(水溶液D、水溶液E)。
【0022】
以下、上記のような酸性物質と還元性物質を含む水溶液、または蟻酸もしくは蓚酸を含む水溶液、すなわち前記水溶液の群から選択される少なくとも1種の水溶液を、「Ru溶出用水溶液」という。
【0023】
アルコールとしては、アルデヒド基を酸性環境下で生じる1級アルコールが望ましく、メタノール等を用いることができる。その他、水への溶解性があるものであれば特に限定されない。具体的には、エタノール、エチレングリコール、グリセリン、1−プロパノールなどが挙げられる。
【0024】
アルデヒド類では、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドを用いることができる。その他、ヒドロキシアルデヒド、グリオキサール、オキソ酢酸などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0025】
酸性物質としては、具体的に硫酸、塩酸、カルボン酸、有機酸が挙げられる。カルボン酸類は、蟻酸、蓚酸、酢酸を用いることができる。その他のカルボン酸としては特に水に溶解するものに限定されない。具体的には、プロピオン酸、酪酸、2−メトキシ酢酸、2−エトキシ酢酸などが挙げられる。代表的な有機酸としてはカルボン酸以外に、スルホン酸基、ヒドロキシ酸基、チオール酸基、エノール酸基を有する酸が挙げられる。燃料電池では一般的に用いられるスルホン酸基を有する代表的なNafion(商標)も酸として使用可能である。特にPt−Ru合金のRu回収の場合は、塩酸(塩化白金酸を生じるため白金の溶出が大きくなる。)以外のRuの選択溶出性が高い酸を用いる方が望ましい。
【0026】
ヘミアセタール、アセタール構造を有する化合物としては、具体的には糖類などが挙げられ、その中でもアルデヒド基を有するアルドースが望ましい。この場合、単糖でも良いし、多糖でも良い。Ru回収効率(Ru回収量/添加量)の観点からは分子量が小さい単糖が望ましい。単糖としては、3炭糖乃至7炭糖が挙げられる。6炭糖では代表的なグルコース、ガラクトース、フルクトースなどが挙げられる。その他としては、例えば2糖類としマルトース、スクロースなどが挙げられる。これらの中でショ糖はそれ自体では還元性を有していないが、酸の水溶液中(たとえば硫酸水溶液中)でグルコースとフルクトースに分解して、還元性を有する。すなわち、ショ糖は酸と共存することで蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造もしくはアセタール構造を生成する化合物としてRu溶出用水溶液2に適用することが出来る。
【0027】
Ruを選択的に溶出するRu溶出用水溶液2について、蟻酸または蓚酸以外の酸水溶液中の酸濃度としては1wt%以上90wt%以下がよい。1wt%に満たないと溶出速度が遅く、90wt%を超えると、含有水分が少なくなり、電離効果が小さくなり、結果としてRuの溶出効果が低減する。また酸水溶液中で還元性物質に分解反応を起こすような添加物、例えば1級アルコールやショ糖などは酸濃度が小さいと還元性物質が十分生成できない。従って、酸水溶液の酸濃度は10wt%以上、望ましくは30wt%以上が好ましい。
【0028】
これらの酸に還元性物質を共存させてRu溶出用水溶液2を用いる場合において、還元性物質もしくは還元性物質を生じる添加物、例えば、(I)アルコール類、(II)アルデヒド類、(III)ヘミアセタール構造を有する物質、(IV)アセタール構造を有する物質、の少なくとも1群(以上(I)乃至(IV)を合わせてX群とする)x(wt%)(総量)と酸y(wt%)と水z(wt%)からなる。xの範囲は、0.5≦x≦40、yの範囲は、1≦y≦50である。xとyについては、各々下限に満たないとRu溶出速度が遅く、各々上限を超えるとRu溶出効果が低減してするおそれがある。また、zについてはxおよびyとは逆に、下限に満たないとRu溶出効果が低減し、上限を超えるとRu溶出速度が遅くなるおそれがある。zはx+yの残部であればよく、その範囲は10≦z≦98.5である。すなわち酸の種類、電離度等に応じて、適宜zを選択することが好ましい。
【0029】
Ruを選択的に溶出するRu溶出用水溶液2として、蟻酸または蓚酸を用いる場合、これら蟻酸または蓚酸は単独で酸性および還元性を有しているので、添加物を特に加える必要がない。蟻酸もしくは蓚酸の添加量は、0.1wt%以上90wt%以下が望ましく、0.1wt%以下ではRuの回収率が低いために非効率であり、90wt%を超えると、含有水分が少なくなって、電離効果が小さくなってしまい、Ruの溶出効果が低減してしまうため好ましくない。特に蟻酸は蓚酸に比べて分子量が小さいので、同じ添加量に対するRu回収量を比較すると蟻酸の方が効率的である。なお、上記の還元性物質もしくは還元性物質を生じる添加物、例えば、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造を有する物質、アセタール構造を有する物質を加えても構わない。
【0030】
これらは高純度試薬を用いることもできるし、一般的試薬あるいは工業的な薬品を用いることができる。
【0031】
なお、Ru溶出用水溶液に硫酸を用いた水溶液は卑な金属を溶出する割合が少ないだけでなく、後述するRu回収を電気化学的に行う場合において、塩酸、硝酸など他の無機酸に比較し、電解時に電気化学的に分解して気体として水溶液中から揮発する成分が少ないため、水溶液の管理が容易であるという好ましい効果を有する。
【0032】
〔接触工程:S1〕
Ruを含む固形部材1にRu溶出用水溶液2を接触させる方法には、Ru溶出用水溶液2を容器に溜め、これにRuを含む固形部材1を浸漬する方法を用いることができる。
【0033】
Ru溶出用水溶液2を効率よく接触させるためには、予めRuを含む固形部材1の裁断や粉砕を行なうとよい。また、溶出速度を高めるために、加熱及び/あるいは加圧下での溶出を行なってもよい。加熱方法としてはヒータを用いて加熱する方法を用いることができる。また、加熱と加圧を併用する場合にはオートクレーブを用いて行うことも溶出時間を短縮できるので有効である。また、これらに攪拌操作を併用することも効果的である。
【0034】
また、接触を加速する方法として、Ruを含む固形部材1に電位をかけられるようにしておき、時々Ptの表面酸化が起こる電位を印加することで、Ru化合物の溶出を促進することができる。特に、燃料電池のような膜電極接合体(MEA)からのRuとPtの回収する場合は、アルコールとMEAをオートクレーブ中に入れ200℃以上に加熱して、触媒層を溶解したのち、Ru溶出用水溶液を加えて、Ru化合物を溶出する方法を用いることもできる。
【0035】
〔溶出工程:S2〕
燃料電池用アノード触媒に含まれるRuは当初Ptと合金状態であるが、使用と共にその一部は合金状態からRu金属、Pt金属に分離することもある。また、ある一部はRu酸化物となっている可能性もあると考えられる。
【0036】
このような様々な状態のRuを含む固形部材1にRu溶出用水溶液2を接触させると、Ruは、Ru溶出用水溶液2に溶出しやすいRu化合物3となると推測される。これらRu化合物3の形態は明らかではないが、Ruを含む固形部材1の履歴や処理条件等により異なるものと推測されている。例えば、その一部はRu錯イオンになっているものと考えられる。
【0037】
このようにして形成されるRu化合物3はRu溶出用水溶液2中に選択的に溶出される。他のPt等もその一部は化合物になっているものと考えられるが、本発明の実施の形態に係るRu溶出用水溶液2に対しては溶出量は微量であり、Ru化合物3が選択的に、かつ多量に溶出することが観察される。
【0038】
〔回収工程:S4〕
このようにして得られたRu化合物3が選択的に溶出したRu溶出用水溶液2に対し、以下の方法により、Ruを固形物の形態で回収することができる。
【0039】
高純度かつ選択的に回収可能な方法として、電解還元法でRuの還元電位付近で還元する方法が例示される。この方法によれば卑金属がRu溶出用水溶液2中に混在していても、これら卑金属は電位的に還元されないため、高純度のRuを回収することができる。Ruを回収した後のRu溶出用溶液2は、溶出のために消費されたX群の薬品を消費量分だけ適宜追加すれば、再利用することができるため、廃液の排出量を削減することができる。
【0040】
また、Ruを選択的に溶出した水溶液をEDTA(Ethylene Diamine Tetraacetic Acid)などのキレートを担持した吸着材に接触させることによりRuを選択的に回収することができる。
【0041】
また、Ruを選択的に溶出したRu溶出用水溶液2を不溶固形部材4(残渣)と濾別して濾液5を回収し、この濾液5の液体成分を蒸発させて回収すると共に、固形物を乾固して回収する方法なども用いることができる(図1のS4に相当)。また、濾液5の液体成分のpHを調整して7以上に上げてRu化合物を再度沈殿させたものを蒸発乾燥し回収してもよい。また、この蒸発乾固して得られる有機物とRu化合物の混合物を還元雰囲気で熱処理するによりRu金属を回収しても良い。このように、有機物の除去によりRuを金属として析出させる事もできる。
【0042】
さらに、上記接触工程(S1)、溶出工程(S2)、濾過工程(S3)を繰り返し行い、前記Ruを含む固形部材1にRuがほとんど含まれていない状態までRuを繰り返し溶出した後の不溶固形部材4がPtなどの貴金属を含んでいる場合には以下の工程をさらに行うことにより、これら貴金属を回収することができる。
【0043】
〔酸化剤接触工程:S5〕
Ruを繰り返し溶出する場合、Ruを含む固形部材1の残渣(不溶固形部材4)を酸化剤に接触させることが好ましい(S5)。酸化剤としては、空気、酸素、オゾン、過酸化水素を用いることができる。これら酸化剤に接触させ、Ruを含む固形部材1から液体(Ru溶出用水溶液)を除去することにより、一回のRu化合物を選択的に溶出する工程で溶出しきれなかった固形部材1に含まれるRuを更に溶出させることが可能となる。この理由は定かではないが、Ruを含む固形部材の表面に吸着した有機物を酸化剤によって除去することにより、再びRuを溶解を促進することができるようになるものと推測される。
【0044】
〔Pt回収工程:S11〜S14〕
このようにRuを含む固形部材1にRuがほとんど含まれていない状態までRuを繰り返し溶出した後の不溶固形部材4がPtなどの貴金属を含んでいる場合には、例えば、一般的な手法として不溶固形部材4を焼却して有機物を除去した後、王水などの水溶液12に接触させてPtをPt化合物13とし(S11)、この水溶液にPt化合物13を溶出させる(S12)。このPt化合物を含んだPt化合物13を含む溶出液を濾過し(S13)、不溶固形部材14(残渣)と濾別して濾液15を回収し、この濾液についてPtを固形物として回収するために、Ru回収で例示した前記電解還元法を適用することができる(S14)。この場合、Ruや他の卑金属が微量含まれたとしてもPtの還元電位が高いため、高純度のPtを回収することが可能となる。その他、不溶固形部材4を焼却して有機物を除去した後、電炉で溶融して電解回収する方法など公知の方法も適用することができる。
【0045】
〔回収システム〕
本発明の実施の形態に係る貴金属回収システムについて説明する。
【0046】
本発明の実施の形態に係る貴金属回収システムは、Ruを含む固形部材1と、この固形部材1に接触してRuを溶出させる水溶液2とを収容するタンクを有する貴金属回収システムにおいて、前記水溶液が前記水溶液の群から選択される少なくとも1種を含む水溶液であって、前記固形部材を前記水溶液に接触させてRu化合物3を形成する第1のステップ(接触工程:S1)と、前記Ru化合物3を選択的に前記水溶液中2に溶出する第2のステップ(溶出工程:S2)と、を有することを特徴とする。
【0047】
この第1のステップ(S1)は前述の通り、Ruを含む固形部材1に前記水溶液2を接触させることにより、Ru化合物3を形成する。次に、第2のステップ(S2)は前記第1のステップ(S1)で形成されたRu化合物3を選択的に水溶液2中に溶出することを特徴とする。これらを組み合わせたシステムはRuを含む固形部材1からRuを選択的に溶出することができる点で従来にない優れた効果を有するものである。
【0048】
また、前記第2のステップ(S2)の後にRuを固形物として回収する第3のステップ(回収工程:S4)を有する貴金属回収システムとすることもできる。このように第3のステップを有する貴金属回収システムは2つの装置によって別々にステップが行われてもよいし、1つの装置によって2つのステップが順次行われてもよい。
【0049】
2つの装置によって行われる例としては、一の装置によりRuの選択的溶出が行われた後、この上澄み液を他の装置に移送してRuを回収するシステムが例示される。1つの装置によって2つの工程が順次行われる例としては、一の装置によりRuの選択的溶出が行いつつ、電解還元法でRu還元電位付近で還元することにより選択的に還元させてRuを回収するシステムが例示される。もちろん、これらシステムの構成はこれら例示に限定されるものではない。例えば、これまで述べたように、水溶液をアルカリ性にするpH調整の操作、添加したアルコール類を除去する有機物除去の操作によりRuを金属として析出させることも可能である。
【0050】
図2は本発明の実施の形態に係る貴金属回収システムを示した概念図である。以下、本発明の実施の形態について図2に従って説明する。
【0051】
T1、T2は薬液タンク、T3は混合タンク、T4はRu溶出タンク、T5はRu回収タンク、L1乃至L6は配管、M1乃至M5はモニタリング装置、E1乃至E14は信号線、P1乃至P3はポンプ、F1はフィルタ、S1はRuを含む固形部材、V1はバルブ、C1は制御部、A1及びA2は電極板を示している。
【0052】
〔薬液の準備〕
本発明の実施の形態に係る貴金属回収システムには、蟻酸を含む水溶液を用いることができる。ここで薬液タンクT1に高濃度の蟻酸を含む水溶液を入れることができる。薬液タンクT1からはポンプP1により配管L1及びL3を通じて混合タンクT3に高濃度の蟻酸を含む水溶液が供給される。
【0053】
薬液タンクT2には純水を入れることができる。薬液タンクT2からはポンプP2により配管L2及びL3を通じて混合タンクT3に純水が供給される。
【0054】
モニタリング装置M3により混合タンクT3の蟻酸を含む水溶液の濃度および液量を管理する。具体的にはモニタリング装置M3により混合タンクT3のpH、温度、液量の情報を取得する。pHの測定にはpH計、温度の測定には熱電対、液量には液位計を用いることができる。これらの情報は信号線E5を通じて制御部C1に送られる。制御部C1の内部では、これらの情報と、事前に格納されたデータベースとの値とを比較し、所定の濃度および液量に達していれば、信号線E2を通じてポンプP1、信号線E4を通じてポンプP2をそれぞれ停止する。所定の濃度および液量に達していない場合には、所定の濃度および液量に達するまで、信号線E2を通じてポンプP1、信号線E4を通じてポンプP2をそれぞれ稼動させるフィードバック制御を行う。
【0055】
なお、薬液タンクT1、T2にもそれぞれモニタリング装置M1、M2が設置されている。液量が不足している場合などにはモニタリング装置M1、M2から信号線E1、E3を通じて制御部C1に信号を送り、警告を発するようにすることもできる。
【0056】
また、前記水溶液の群のうち、水溶液A乃至水溶液Cから選択される少なくとも1種を含む水溶液を用いる場合には、薬液タンクT2に硫酸などの酸を含む溶液を、薬液タンクT1にはその余の化合物を含む水溶液または固形物をそれぞれ収容してもよい。この場合、混合タンクT3における水溶液の濃度および液量の調整は上述と同様の方法で制御することができる。また、第3の薬液タンク(図示せず)を用意して純水を混合タンクT3に供給することにより、水溶液の濃度および液量を制御するようにしても良い。
【0057】
〔接触工程(第1のステップ):S1〕
Ruを含む固形部材B1に接触してRuを溶出させる水溶液を収容するタンク、すなわちRu溶出タンクT4にはRuを含む固形部材B1を予め収容しておく。次にRu溶出タンクT4に上記混合タンクT3に用意した蟻酸を含む水溶液をポンプP3を用いて配管L4を通じて供給する。これにより、Ruを含む固形部材B1に蟻酸を含む水溶液が接触し、Ru化合物が形成する。
【0058】
〔溶出工程(第2のステップ):S2〕
このRu化合物は蟻酸を含む水溶液の中に選択的に溶出する。溶出を促進させるためにヒーターH1で蟻酸を含む水溶液を加熱してもよい。また図示はしてはいないが、撹拌装置を適用することも効果的である。
【0059】
Ru溶出タンクT4はモニタリング装置M4により、pH、温度、電気伝導度、水溶液液の組成、液量などの情報を取得する。取得された情報は信号線E8を通じて制御部C1に送られる。制御部C1の内部では、これらの情報と、事前に格納されたデータベースとの値とを比較し、フィードバック制御を行う。具体的には、温度の制御についてはヒーターH1のオンオフ制御を行うことにより制御することができる。pH、電気伝導度、水溶液の組成などは必要に応じて適宜選択すればよい。例えば、Ruを含む固形部材B1からRuが溶出するに従い、電気伝導度が変化するが、この情報を取得することで、電気伝導度の変化がほとんど観測されなくなった時点を第2のステップの終了時点と制御部C1に判断させることができる。
【0060】
〔濾過工程:S3〕
このように、所定の時間、蟻酸を含む水溶液とRuを含む固形部材B1を接触させ、第2のステップの終了時点が判断された後、制御部C1から信号線E9を通じてバルブV1、V2を開き、Ruが選択的に溶出した蟻酸を含む水溶液を配管L5を通じてRu回収タンクT5に回収する。Ruを含む固形部材B1はフィルタF1の上に不溶固形部材4として残る。フィルタとしては、例えば複数の孔があいた塩化ビニル板の上にメッシュ状のフッ素樹脂シートを敷いた構成を有するフィルタをフィルタ1として適用することができる。
【0061】
〔酸化剤接触工程:S5〕
不溶固形部材4として残ったRuを含む固形部材B1に対し、一度酸化剤に接触させる。例えば、制御部C1から信号線E14を通じてバルブV2を閉じ、制御部C1から信号線E13を通じてバルブV1を開いて酸化剤を含有した酸素ガスをガス供給源T6から配管L7を通じて供給することにより行うことができる。
【0062】
これらの不溶固形部材B1から有機物を含んだ液体(Ru溶出用水溶液)を除去することにより、一回のRu化合物を選択的に溶出する工程で溶出しきれなかったRuを更に溶出できる状態とすることができる。この後、再度接触工程S1を行うことでRuを溶出することができる。
【0063】
このように、接触工程S1、溶出工程S2、濾過工程S3、酸化剤接触工程S5の操作を繰り返すことでRuを含む固形部材B1に含まれているRuのほとんどを回収できる。
【0064】
この不溶固形部材4が白金等の貴金属を含んでいる場合には、別途、白金を回収してもよい。
【0065】
〔Ruを固形物として回収する工程(第3のステップ):S4〕
Ru回収タンクT5には電極板としてA1、A2を設置してもよい。制御部C1から信号線E11、E12を通じて電極板A1、A2の電位を調整することにより、蟻酸を含む水溶液中のRuを電極A1あるいはA2のいずれかにRuを固形物として回収することができる。この場合、制御部C1はポテンシオスタットの機能を具備することが好ましい。
【0066】
モニタリング装置M5により、蟻酸を含む水溶液中の組成を観察し、これを信号線E12を通じて制御部C1に送ることができる。これにより、Ruが回収できたことを制御部C1が判断し、電極板A1およびA2への電圧の印加をフィードバック制御し、Ruを固形物として回収する第4のステップの終了時点を判断することができる。組成の観察には、例えば電気伝導度を用いることができる。
【0067】
Ruを固形物として回収した後の蟻酸を含む水溶液は配管L6を通じて後処理工程に送られる。
【0068】
なお、図2は本発明の実施の形態に係る実施の形態の一つを示したものであり、この記載に限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0070】
(実施例1)
Ruを含む固形部材1として直接メタノール型燃料電池用アノード触媒(田中貴金属工業社製TEC81E81)1.0gを用いた。これにRu溶出用水溶液2として50wt%蟻酸を含む水溶液100mLを加え、70℃で2時間加熱した。そのRu溶出用水溶液2を室温に冷却しのち、不溶固形部材4を濾別した。濾液5の濃度を高周波誘導結合プラズマ(Radiofrequency Inductively Coupled Plasma;以下、ICPとする)発光分光分析で求めた。その濃度からPt及びRuの溶出量を算出した。
【0071】
(実施例2)
Ruを含む固形部材1として燃料電池用アノード触媒(田中貴金属工業社製TEC81E81)1.0gに、Ru溶出用水溶液2として32wt%硫酸99mLにメタノール1mLを加え、70℃で2時間加熱した。そのRu溶出用水溶液2を室温に冷却し、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。
【0072】
(実施例3)
Ruを含む固形部材1として燃料電池用アノード触媒(田中貴金属工業社製TEC81E81)1.0gに、Ru溶出用水溶液2として32wt%硫酸95mLに1−プロパノール5mLを加え、70℃で2時間加熱した。そのRu溶出用水溶液2を室温に冷却し、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。
【0073】
(比較例1)
Ruを含む固形部材1として燃料電池用アノード触媒(田中貴金属工業社製TEC81E81)20.0mgに、Ru溶出用水溶液2の代わりに王水20mLを加え、160℃で2時間加熱した。この王水を室温に冷却しのち、純水で薄めて、不溶固形部材を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求め、PtおよびRuの溶出量を算出した。結果を表1に示す。このように王水では、溶出速度は大きいがRuよりPtが溶出しやすく、Ru溶出の選択性は認められなかった。
【0074】
(比較例2)
王水の代わりに32wt%硫酸を用いた以外は比較例1と同様の方法でRuを含む固形部材1を処理した。結果を表1に示す。このように硫酸では、Pt及びRuもほとんど溶出せず、Ruを選択的に溶出させることはできなかった。
【0075】
(実施例4)
実施例2で溶液を、電極にPtを使用して、電解還元を行いRuの回収を行なった。還元電位0.1V(vs RHE)で、2時間還元処理を行なった。Ruの回収率は約95%であった。表1においてRu回収率、Pt回収率はそれぞれ溶出用水溶液中に含有されているRu、Ptのうち、何wt%が固形物として回収されたか、を示したパラメータである。
【0076】
(実施例5)
Ruを含む固形部材1として電極面積が12cm2の使用済みMEA(アノード電極PtRuローディング量3.5mg、ナフィオン(登録商標)のローディング2.0mg、カソード電極PtRuローディング量2.0mg、ナフィオン(登録商標)のローディング0.5mg、電解質膜(ナフィオン117(登録商標)))を用いた。これを還流冷却管と攪拌装置を取り付けたセイパラブルフラスコ中に入れ、Ru溶出用水溶液として32wt%硫酸溶液80mLとメタノール20mLを加え、還流温度まで加熱したのち、還流温度で8時間反応させ、室温冷却した後、濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。
【0077】
さらに濾液5を実施例4と同様の方法で電解還元し、Ruが回収できることを確認した。回収率は約95%であった。
【0078】
(実施例6)
Ruを含む固形部材1として直接メタノール型燃料電池用アノード触媒(田中貴金属工業社製TEC81E81)1.0gに、Ru回収用水溶液として50%蟻酸を含む水溶液100mLを加え、70℃で24時間加熱し、反応液を室温に冷却しのち、不溶固形部材4を濾別した。
【0079】
濾別された不溶固形部材4について同じ操作をもう1回繰り返した。各濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。その結果を表1に示す。この濾液に対し、処理時間を24時間とした以外は実施例4と同様の方法で電解還元し、Ruが回収できることを確認した。回収率は約95%であった。
【0080】
その後、不溶固形部材4に対し、Pt回収用水溶液として王水約100mL(硝酸(70wt%)25mLに塩酸(36wt%)75mL)を加え、160℃で4時間加熱し、その後、室温放冷させ、不溶固形部材14を濾過した。濾液15の濃度をICP発光分光分析で求め、Pt溶出量を算出したところ、溶出率は99wt%以上であった。
【0081】
この溶液15を、電極にPt、対極にカーボンを使用して、電解還元を行いPtの回収を行なった。回収率は約95%であった。
【0082】
(実施例7)
70℃で2時間加熱した工程を、25℃で24時間室温(25℃)とする以外は実施例1と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPt及びRuの溶出量を算出した。
【0083】
(実施例8)
1−プロパノールをエタノールとした以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。
【0084】
上記実施例1、実施例3、実施例8によれば、Ru溶出用水溶液としてアルコール類と硫酸とを含む水溶液を用いた場合において、Ruを選択的に溶出することが確認された。このことからもアルコール類一般についても同様の効果が得られると推測される。
【0085】
(実施例9)
1−プロパノールをアセトアルデヒドとした以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPt及びRuの溶出量を算出した。
【0086】
(実施例10)
1−プロパノールをヒドロキシアルデヒドとした以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPt及びRuの溶出量を算出した。
【0087】
(実施例11)
1−プロパノールをグリオキサールとした以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材を濾過した。濾液の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPt及びRuの溶出量を算出した。
【0088】
上記実施例9乃至実施例11によれば、Ru溶出用水溶液としてアルデヒド類と硫酸とを含む水溶液を用いた場合において、Ruを選択的に溶出することが確認された。このことからもアルデヒド類一般についても同様の効果が得られると推測される。
【0089】
(実施例12)
1−プロパノール5.0mLを1−プロパノール2.5mL、蟻酸2.5mLとした以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPt及びRuの溶出量を算出した。
【0090】
(実施例13)
硫酸を酢酸とした以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPt及びRuの溶出量を算出した。
【0091】
(実施例14)
硫酸をプロピオン酸とした以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。
【0092】
(実施例15)
1−プロパノール5.0mLの代わりに1−プロパノール2.5mL、32wt%硫酸水溶液の代わりに10wt%Nafion(商標)溶液10mLとした以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。
【0093】
(実施例16)
1−プロパノール5.0mLの代わりに45%ショ糖10mLを加えた以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。
【0094】
(実施例17)
1−プロパノール5.0mLの代わりに45%マルトース10mLを加えた以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。
【0095】
(実施例18)
1−プロパノール5.0mLの代わりにラクトース5gを加えた以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。
【0096】
(比較例3)
1−プロパノール5.0mLの代わりに45%トレハロース10mLを加えた以外は実施例3と同様の方法で処理を行った。その後、不溶固形部材4を濾過した。濾液5の濃度をICP発光分光分析で求めた。その濃度からPtおよびRuの溶出量を算出した。
【0097】
以上、実施例及び比較例の結果を表1に示す。表1においてRu溶出率、Pt溶出率はそれぞれアノード触媒中に含有されているRu、Ptのうち、何wt%が濾液中に溶出したか、を示したパラメータである。
【表1】

【0098】
表1の結果から、酸性物質と還元性物質(ショ糖、マルトース、ラクトース)もしくは酸と共存下で還元性物質を生じるもの(1級アルコール等)を添加した際にはRuが選択的に溶出することが確認された。しかしながら、還元性物質を添加していない系や非還元性物質(トレハロース)を加えた系ではRuの選択的な溶出は起こらなかった。これらのことから、酸性物質と還元性物質(ショ糖、マルトース、ラクトース)もしくは酸と共存下で還元性物質を生じるもの(1級アルコール等)を添加した際にはRuが選択的に溶出するという効果が一般的に確認された。
【0099】
(実施例19)
Ruを含む固形部材1として直接メタノール型燃料電池用アノード触媒(Johnson Mathhey社製 HiSPEC6000 無担持触媒)0.5gを用いた。これにRu溶出用水溶液として約3Mの硫酸と0.2Mの1−プロパノールを含む水溶液を合わせて50mLを加え、70℃で2時間加熱した。その結果、Ruの溶出率は15wt%となった。
【0100】
(実施例20)
Ruを含む固形部材1として直接メタノール型燃料電池用アノード触媒(Johnson Mathhey社製 HiSPEC6000 無担持触媒)0.5gを用いた。これに硫酸が約3M、1−プロパノールが約0.2Mに調整したRu溶出用水溶液50mL加え、70℃で2時間加熱した。その結果、Ruの溶出率は15wt%となった。
その後、この触媒を濾過して不溶固形部材4として回収し、室温で1秒以上酸化剤(空気)に曝した後、上記のRu溶出用溶液中で再度加熱した。この操作を9回繰り返した結果、Ruの溶出率は29wt%に上昇した。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明のプロセスフローを示す概念図。
【図2】本発明の貴金属回収システムの実施の形態を示す概念図。
【符号の説明】
【0102】
1 Ruを含む固形部材
2 水溶液A(酸と、蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造もしくはアセタール構造を有する化合物とを含有する水溶液)、水溶液B(酸と、この酸と共存することで蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造もしくはアセタール構造を生成する化合物とを含有する水溶液)、水溶液C(酸と糖類とを含有する水溶液)、水溶液D(蟻酸を含有する水溶液)、及び水溶液E(蓚酸を含有する水溶液)の群から選択される少なくとも1種の水溶液(Ru溶出用水溶液)
3 Ru化合物
4、4a、14、14a 不溶固形部材
5、15 濾液
12 水溶液(王水)
13 Pt化合物
S1、S11 接触工程
S2、S12 溶出工程
S3、S13 濾過工程
S4 Ru回収工程
S5 酸化剤接触工程
S14 Pt回収工程
T1、T2 薬液タンク
T3 混合タンク
T4 Ru溶出タンク
T5 Ru回収タンク
T6 酸化剤供給源
L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7 配管
M1、M2、M3、M4、M5 モニタリング装置
E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、E8、E9、E10、E11、E12、E13、E14 信号線
P1、P2、P3 ポンプ
F1 フィルタ
B1 Ruを含む固形部材
H1 ヒーター
V1、V2、V3 バルブ
C1 制御部
A1、A2 電極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ruを含む固形部材を、下記水溶液A乃至水溶液Eから構成される水溶液の群から選択される少なくとも1種の水溶液に接触させてRu化合物を形成する工程と、前記Ru化合物を選択的に前記水溶液中に溶出する工程と、を有することを特徴とする貴金属回収方法。
(水溶液の群)
水溶液A:酸と、蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を有する化合物とを含有する水溶液
水溶液B:酸と、この酸と共存することで蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を生成する化合物とを含有する水溶液
水溶液C:酸と糖類とを含有する水溶液
水溶液D:蟻酸を含有する水溶液
水溶液E:蓚酸を含有する水溶液
【請求項2】
前記固形部材がPtを含むことを特徴とする請求項1に記載の貴金属回収方法。
【請求項3】
前記Ru化合物を選択的に溶出した後に前記水溶液からRu化合物を固形物として回収する工程を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の貴金属回収方法。
【請求項4】
前記Ru化合物を選択的に溶出させた後にPtを回収する工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項5】
前記Ru化合物を選択的に溶出する工程は、前記水溶液を加熱することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項6】
前記酸が、硫酸、塩酸、蟻酸、カルボン酸、有機酸の少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1または請求項5に記載の貴金属回収方法。
【請求項7】
前記Ru化合物を選択的に前記水溶液中に溶出する工程の後に、
前記溶出工程の後のRuを含む固形部材を酸化剤に接触させる工程と、
前記酸化剤接触工程後のRuを含む固形部材をRuを含む固形部材を、下記水溶液A乃至水溶液Eから構成される水溶液の群から選択される少なくとも1種の水溶液に接触させてRu化合物を形成する工程と、
前記Ru化合物を選択的に前記水溶液中に溶出する工程と、
を更に有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
(水溶液の群)
水溶液A:酸と、蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を有する化合物とを含有する水溶液
水溶液B:酸と、この酸と共存することで蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を生成する化合物とを含有する水溶液
水溶液C:酸と糖類とを含有する水溶液
水溶液D:蟻酸を含有する水溶液
水溶液E:蓚酸を含有する水溶液
【請求項8】
前記酸化剤接触工程乃至前記Ru化合物選択溶出工程とを繰り返すことを特徴とする請求項7に記載の貴金属回収方法。
【請求項9】
前記酸化剤は酸素、空気、オゾン、過酸化水素の群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の貴金属回収方法。
【請求項10】
前記酸化剤接触工程は、この酸化剤接触工程の前あるいは後に前記Ruを含む固形部材から液体を除去する工程を含むことを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項11】
前記Ru化合物選択的溶出工程の後に、Ruが溶出した水溶液のpHを調整する工程と、前記Ruが溶出した水溶液の中の有機物を除去する工程とを有することを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項12】
Ruを含む固形部材と、この固形部材に接触してRuを溶出させる水溶液とを収容するタンクを有する貴金属回収システムにおいて、
前記水溶液が下記水溶液A乃至水溶液Eから構成される水溶液の群から選択される少なくとも1種の水溶液であって、
前記固形部材を前記水溶液に接触させてRu化合物を形成する第1のステップと、
前記Ru化合物を選択的に前記水溶液中に溶出する第2のステップと、
を有することを特徴とする貴金属回収システム。
(水溶液の群)
水溶液A:酸と、蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を有する化合物とを含有する水溶液
水溶液B:酸と、この酸と共存することで蟻酸、アルコール類、アルデヒド類、ヘミアセタール構造またはアセタール構造を生成する化合物とを含有する水溶液
水溶液C:酸と糖類とを含有する水溶液
水溶液D:蟻酸を含有する水溶液
水溶液E:蓚酸を含有する水溶液
【請求項13】
前記Ru化合物を選択的に溶出する第2のステップの後に前記水溶液からRu化合物を固形物として回収する第3のステップを有することを特徴とする請求項12に記載の貴金属回収システム。
【請求項14】
前記酸が、硫酸、塩酸、蟻酸、カルボン酸、有機酸の少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項12または請求項13に記載の貴金属回収システム。
【請求項15】
前記Ru化合物を選択的に溶出する第2のステップの後に前記Ru化合物を固形物に酸化剤を接触させるステップを有することを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の貴金属回収システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−197321(P2009−197321A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298624(P2008−298624)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】