説明

貼付剤用粘着剤組成物及びその用途

【課題】高い凝集力と皮膚接着性とを高水準で両立し得る貼付剤用粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の貼付剤用粘着剤組成物は、ゴム系エラストマーと、重量平均分子量が1200〜2500である粘着付与剤とを含有することを特徴とする。これにより、高い凝集力と皮膚接着性とが高水準で両立される。したがって、本発明の貼付剤用粘着剤組成物を貼付剤や貼付製剤の粘着剤層の形成に用いれば、皮膚への接着性が高く、皮膚からの剥離時に皮膚面への糊残りが低減され、製造時又は使用時の粘着剤層からの離型フィルムへの糊残りや、離型フィルムの浮き上がりが抑制されるとともに、皮膚への再貼付が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貼付剤用粘着剤組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の貼付剤及び貼付製剤が開発されている。これらの貼付剤及び貼付製剤は、傷口の保護及び薬物の連続した経皮投与という観点からは非常に優れたものである。このような貼付剤及び貼付製剤は、布帛やプラスチックフィルムなどからなる支持体上に粘着剤層を積層し、更に粘着剤層上に離型フィルム(剥離ライナー)が積層された構造を有している。
【0003】
このような貼付剤の粘着剤層は、生体の皮膚に貼付することから、適度な親水性/疎水性バランス、低皮膚刺激性など、通常の工業用テープとは異なる様々な特性を満たす必要がある。このような貼付剤において、良好な皮膚密着性、剥離時の物理的な皮膚刺激の低減を目的として、粘着剤層に有機液状成分を含有させることがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、粘度平均分子量400,000〜1,800,000のポリイソブチレン及びポリブテンを含む粘着剤層を備える貼付製剤が開示され、粘着剤層に脂肪酸エステルなどの有機液状成分を0〜15%配合することができることが記載されている。しかし、このような貼付製剤においては、粘着剤層に有機液状成分を多量に添加すると、粘着剤層が可塑化してその凝集力が低下し、貼付剤及び貼付製剤の剥離時に皮膚面に粘着剤層の一部が残る(いわゆる糊残り)などの可能性がある。また、粘着剤層の凝集力が低下すると、例えば、貼付剤から離型フィルムを取り除く際に、当該粘着剤の一部が離型フィルムの剥離面に残留(糊残り)し、その結果製剤中の薬物量が減少して治療効果が低下する可能性がある。
【0005】
さらに、このような有機液状成分を含有する貼付剤は、有機液状成分が低分子量であればあるほど拡散移動しやすく、そのために有機液状成分が粘着剤層表面へ滲出して離型フィルムにまで達することがある。このような現象が起こると、粘着剤層と離型フィルムとの間の接着力が低下して、貼付剤の製造時又は使用時に、離型フィルムへの糊残り、あるいは離型フィルムの粘着剤層からの浮き上がりなどが発生する可能性がある。
【0006】
上記した被着体や離型フィルムに粘着剤が残存(移行)する、所謂、糊残りの問題を解決する方法としては、一般に、粘着剤層中に架橋剤を添加して粘着剤層中の粘着剤(ポリマー成分)を架橋したり、充填剤を添加して粘着剤層の凝集力を高める方法がある(特許文献2)。しかしながら、ポリマー成分を架橋する方法では、添加する薬物や経皮吸収促進剤によって架橋阻害を起こして架橋ができない場合があり、他方充填剤を添加する方法ではその効果を十分得難い場合がある。
【特許文献1】特開平06−145052号公報
【特許文献2】特開平06−65066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような実情に鑑みなされたものであり、その解決しようとする課題は高い凝集力と皮膚接着性とを高水準で両立し得る貼付剤用粘着剤組成物を提供することにある。本発明はまた、かかる貼付剤用粘着剤組成物を含む粘着剤層を備える貼付剤及び貼付製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、貼付剤用粘着剤組成物を構成すべきゴム系エラストマーに特定分子量の粘着付与剤を組み合わせることで上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)ゴム系エラストマーと、重量平均分子量が1200〜2500である粘着付与剤とを含有する、貼付剤用粘着剤組成物。
(2)上記粘着付与剤が石油系樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂、クマロンインデン樹脂及びスチレン系樹脂から選ばれる少なくとも一種である、上記(1)記載の貼付剤用粘着剤組成物。
(3)上記石油系樹脂が下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する脂環族飽和炭化水素樹脂である、上記(2)記載の貼付剤用粘着剤組成物。
【0010】
【化1】



【0011】
(4)上記ゴム系エラストマーが第一のゴム系エラストマー及び第二のゴム系エラストマーを含み、該第一のゴム系エラストマー及び第二のゴム系エラストマーがそれぞれ独立にポリイソブチレン、ポリイソプレン、ブチルゴム及びスチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも一種である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の貼付剤用粘着剤組成物。
(5)上記第一のゴム系エラストマーの重量平均分子量が1,600,000〜5,400,000であり、上記第二のゴム系エラストマーの重量平均分子量が36,000〜75,000である、上記(4)記載の粘着剤組成物。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の貼付剤用粘着剤組成物を含む粘着剤層を支持体の少なくとも片面に備える、貼付剤。
(7)上記(6)記載の貼付剤の粘着剤層が経皮吸収性薬物(ビソプロロールを除く)を含む、貼付製剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の貼付剤用粘着剤組成物は、重量平均分子量が1200〜2500である粘着付与剤を粘着剤組成物に含有することで、ゴム系エラストマーが有する凝集力を維持しつつ、皮膚接着性の低下を抑制することが可能になる。ゆえに、上記粘着付与剤に比較的高分子量のゴム系エラストマーを組み合わせれば、より一層高度の凝集力が実現され、皮膚接着性が低下し難い貼付剤用粘着剤組成物を得ることができる。したがって、本発明によれば、高い凝集力と皮膚接着性とを高水準で両立し得る貼付剤用粘着剤組成物が提供される。
また、粘着剤組成物に多量の有機液状成分を含有させた場合、粘着剤組成物の凝集力が低下する傾向があるが、本発明にしたがって重量平均分子量が1200〜2500である粘着付与剤を粘着剤組成物に含ませることで、粘着剤組成物に、凝集力の高い比較的高分子量のゴム系エラストマーを用いた場合であっても、粘着剤組成物の皮膚接着性が低下し難くなる。すなわち、本発明の貼付剤用粘着剤組成物によれば、多量の有機液状成分を含有することが可能となり、その場合でも、高い凝集力と皮膚接着性とを両立する良好な粘着物性が可能な粘着剤組成物が得られる。その結果、本発明の粘着剤組成物は、粘着剤組成物に有機液状成分を多量に含有することが可能であり、その結果、皮膚からの剥離時の刺激が小さい。
このようにして、本発明の貼付剤用粘着剤組成物は、前述の良好な粘着特性を具備することができるので、これを貼付剤の粘着剤層に用いた場合、皮膚への接着性が高く、皮膚からの剥離時に皮膚面への糊残りが低減され、製造時又は使用時の粘着剤層からの離型フィルムへの糊残りや、離型フィルムの浮き上がりが抑制されるとともに、皮膚への再貼付が可能になる。
更に、粘着剤層に経皮吸収性薬物を含む本発明の貼付製剤によれば、薬物の経皮吸収性が高く、また多量の薬物を粘着剤層に溶解、保持することが可能になるので治療効果が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0014】
(貼付剤用粘着剤組成物)
先ず、本発明の貼付剤用粘着剤組成物について説明する。
本発明の貼付剤用粘着剤組成物(以下、単に「粘着剤組成物」と称する場合がある)は、ゴム系エラストマーと、重量平均分子量が1200〜2500である粘着付与剤とを含有することを特徴とする。
【0015】
ゴム系エラストマーとしては、貼付剤の粘着剤に用いられ得るゴム系エラストマーであれば特に制限はないが、価格や取り扱い性などの観点から、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ブチルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー(例えば、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー等のスチレン−ジエン−スチレンブロックコポリマー等)が好ましく、ポリイソブチレンがより好ましい。これらは一種単独で又は二種以上混合して用いることができる。
ゴム系エラストマーの分子量としては、粘着剤として使用し得る接着性及び凝集力が粘着剤に付与されている限り特に制限はないが、より一層高い凝集力を得るためには、比較的高分子量の第一のゴム系エラストマーを用いることが好ましく、またより一層良好な皮膚接着性を得るためには比較的低分子量の第二のゴム系エラストマーを用いることが好ましい。これらの特性を両立するためには、これら二種を少なくとも含むゴム系エラストマーの混合物で構成することが好ましい。
【0016】
第一のゴム系エラストマーの分子量は、重量平均分子量(Mw)で好ましくは1,600,000〜5,400,000、より好ましくは1,800,000〜4,800,000、最も好ましくは3,000,000〜4,500,000である。Mwが1,600,000未満であると、粘着剤の内部凝集力を得難くなる傾向にある。他方、Mwが5,400,000を超えると、粘着剤の皮膚接着性やタックが低下する傾向にある。
第二のゴム系エラストマーの分子量は、Mwで好ましくは36,000〜75,000、より好ましくは40,000〜60,000、最も好ましくは45,000〜55,000である。Mwが36,000未満であると、粘着剤にベトツキ感が発生し、貼付中から貼付後にわたって皮膚面を汚染する恐れが生ずる。他方、75,000を超えると、粘着剤の皮膚接着性やタックが低下する傾向にある。なお、ここでいうMwとは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定されるポリスチレン換算のMwを意味する。測定条件は下記の通りである。
【0017】
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、
試料濃度(THF溶液):0.1%(W/V)、
カラム:G4000HXL+G2000HXL+G1000HXL(東ソー(株)製、各7.8mmφ×300cm)、
カラム温度:40℃、
検出器:示差屈折計(RI)
【0018】
ゴム系エラストマーの配合量は、粘着剤組成物の全重量に対して、好ましくは15〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%である。ゴム系エラストマーの合計配合量が15重量%未満であると、粘着剤組成物に必要な内部凝集力を付与し難くなる虞があり、他方、60重量%を超えると粘着剤組成物の皮膚接着性やタックが低下する虞がある。なお、粘着剤組成物が分子量の異なる二種以上のゴム系エラストマーで構成される場合においても、ゴム系エラストマーの合計配合量は上記と同様である。本発明においては、ゴム系エラストマーが当該技術分野で通常使用される量よりも少ない配合量(例えば、30重量%程度以下、好ましくは27重量%以下)であっても、高い凝集力と皮膚接着性とが高水準で両立される。
第一のゴム系エラストマーと第二のゴム系エラストマーとの配合割合は、重量比(前者:後者)で、好ましくは1:0.1〜1:3、より好ましくは1:0.1〜2.5である。1:0.1未満であると皮膚接着性が不十分となる可能性があり、1:3を超えると凝集力が不十分となる可能性がある。
上記のとおり、ゴム系エラストマーは二種以上の混合物とすることができるが、二種以上の混合物である場合、各エラストマーは同種でも異種であってよいが、両者の相溶性の観点から、同種であることが望ましい。
【0019】
本発明に用いる粘着付与剤は、そのMwが1200〜2500である限り当該技術分野で公知のものを適宜選択して用いることができるが、例えば、石油系樹脂(例えば、流動パラフィン、脂環族飽和炭化水素樹脂)、テルペン樹脂、ロジン樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂(例えば、スチレン樹脂、α−メチルスチレン)などが好適である。中でも、良好なタックが得られることから、石油系樹脂、とりわけ脂環族飽和炭化水素樹脂がより好ましい。粘着付与剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
脂環族飽和炭化水素樹脂としては特に限定されないが、皮膚への良好な接着性及びタックが得られることから、ナフサを熱分解して得られた不飽和炭化水素を重合して得られる熱可塑性樹脂に、水素を付加して脂環構造とした水素化樹脂が好適に用いられ、中でも下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する脂環族飽和炭化水素樹脂(以下、「樹脂(1)」という)が特に好適である。
【0021】
【化2】



【0022】
良好なタックの獲得の点から、粘着付与剤のMwは1200〜2500であることが必要であるが、好ましくは1300〜2500、より好ましくは1500〜2400、最も好ましくは1700〜2300である。粘着付与剤のMwが1200未満であると、ベトツキ感が発生し、貼付中から貼付後にわたって皮膚面を汚染する虞が生ずる。他方、2500を超えると、粘着付与剤としての効果を発現し難く、タックが低下する傾向を示す。なお、ここでいうMwも、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定されるポリスチレン換算のMwであるが、その測定条件は上記と同じである。
【0023】
粘着剤組成物に高い凝集力を付与すべく、前述の第一のゴム系エラストマーを使用する場合、それ自体では皮膚タックを有しないため粘着付与剤を配合する必要がある。本発明者らの知見によれば、Mwが1100程度の粘着付与剤を添加しても皮膚タックは発現しない。このような場合、タック付与力のより強い粘着付与剤として、上記よりも低分子量の粘着付与剤を添加すればよいと予測された。しかしながら、このような予測に反して、意外にも、上記よりも高分子量の粘着付与剤を添加して初めて所望の皮膚タックが発現できることが判明した。この現象のメカニズムは必ずしも明らかではないが、比較的高分子の第一のゴム系エラストマーは長い高分子鎖を有することに起因して、その分子間間隙も比較的大きいため、比較的高分子量の粘着付与剤がその間隙を埋めることで、粘着剤組成物の皮膚タックが効率的に発現するものと本発明者らは推測している。
【0024】
粘着付与剤の配合量は、粘着剤組成物の全重量に対して、好ましくは15〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%、最も好ましくは25〜50重量%である。粘着付与剤の配合量が15重量%未満であるとタックが乏しい場合があり、他方、55重量%を超えると粘着剤内凝集力が著しく低下し、破壊傾向を示す場合がある。
【0025】
本発明の粘着剤組成物は、有機液状成分を含有することができる。有機液状成分としては、粘着剤組成物が薬剤を含有する場合に、薬物の溶解性や拡散性を高める機能を有し、かつ薬物の経皮吸収を改善し得る液状の化合物が好適に用いられる。このような経皮吸収促進剤として、具体的には次のような化合物を挙げることができる。例えば、主に薬物溶解性を高める化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類が挙げられ、また主に薬物拡散性を高める化合物として、オリーブ油、ヒマシ油、スクアラン、ラノリン等の油脂類等が挙げられる。その他、流動パラフィン等の炭化水素類;各種界面活性剤;エトキシ化ステアリルアルコール;オレイン酸モノグリセリド、カプリル酸モノグリセリド、ラウリル酸モノグリセリド等のグリセリンモノエステル類;グリセリンジエステル、グリセリントリエステル又はそれらの混合物;ラウリル酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸エチル、アジピン酸ジイソプロピル等の高級脂肪酸エステル;オレイン酸、カプリル酸等の高級脂肪酸;N−メチルピロリドン;1,3−ブタンジオール等を挙げることができる。
【0026】
有機液状成分の配合量は、粘着剤組成物の全重量に対して、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは30〜40重量%である。20重量%未満であると、皮膚刺激が強くなる傾向にある。他方、50重量%を超えると、充分にコールドフローを抑制できない場合があるばかりでなく、凝集力が大きく低下し凝集破壊が生じやすくなる傾向がある。
【0027】
さらに、本発明の粘着剤組成物には、一般的な添加剤、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、老化防止剤、界面活性剤等を配合してもよい。なお、このような成分の配合量は、使用目的、粘着剤組成物の種類や組成などによって適宜設定することができる。
【0028】
(貼付剤)
図1は、本発明の貼付剤の好適な一実施形態を示す断面図である。
貼付剤10は、支持体1と、該支持体1の片面に積層された粘着剤層2と、該粘着剤層2に積層された離型フィルム3とを備えるものである。粘着剤層2は、前述の貼付剤用粘着剤組成物を含むことを特徴とする。
【0029】
支持体としては特に制限されず、取り扱い性、柔軟性、投錨性の点からポリエステル、ポリアミド(例えば、ナイロン(商標))、ポリ塩化ビニリデン(例えば、サラン(商標))、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、アイオノマー樹脂(例えば、サーリン(商標))、金属箔等の単独フィルム又はこれらの積層フィルムなどを用いることができる。投錨性をより良好にするために、上記材質からなる単層フィルムに多孔質フィルムを積層させた支持体がより好ましい。この場合、多孔質フィルム側に粘着剤層を積層するのが望ましい。支持体の厚さは特に限定はないが、好ましくは10〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。
【0030】
また、支持体と粘着剤層との間の投錨性を向上させるために、支持体に不織布や織布を積層してもよい。不織布や織布の材料は特に制限されず、貼付剤の分野で通常用いられている材料から適宜選択することができる。このような材料としては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド等が挙げられる。当該不織布又は織布の坪量は、通常1〜100g/m、好ましくは6〜50g/mであるが、柔軟性や貼付時の皮膚面への密着感が良好であるという理由から6〜30g/mが特に好ましい。
【0031】
また、本発明の貼付剤は、使用時まで粘着剤層の粘着面を保護するために、離型フィルムを積層するのが好ましい。離型フィルムとしては特に制限されず、公知の剥離フィルムを使用することができる。例えば、粘着剤層との接触面にシリコーン樹脂、フッ素樹脂等を塗布することによって剥離処理が施された、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム類、上質紙、グラシン紙等の紙類、あるいは上質紙又はグラシン紙等と、ポリオレフィンとのラミネートフィルム等が用いられる。剥離フィルムの厚みは、通常10〜200μm、好ましくは25〜100μmである。
また、離型フィルムの粘着剤層からの剥離力は10〜400mN/cmであることが好ましい。10mN/cmより剥離力が小さいと、貼付剤を包装袋から取り出す時に、貼付剤が離型フィルムから剥がれて捲れたり、製造中に貼付剤が捲れたりする問題が生じやすい。他方、400mN/cmを超えると、粘着剤組成物が薬物を含有する場合に離型フィルム上に残るために薬物含有量が減少し、治療効果が低くなる。剥離力のより更に好ましい範囲は、20〜300mN/cmである。
【0032】
本発明の貼付剤の製造方法は特に制限されず、例えば、上記した粘着剤組成物をトルエン、ヘキサンなどの適当な溶媒に溶解し、得られた溶液を支持体上に塗布し、乾燥させることにより、製造することができる。また、上記溶液を離型フィルム上に塗布、乾燥して離型フィルム上に粘着剤層を形成し、その後支持体を粘着剤層に接着させることによっても製造できる。粘着剤層の厚みは、凝集力維持及び糊残り防止の観点から、好ましくは20〜300μm、より好ましくは50〜250μmである。また、貼付剤の形状としては特に限定されず、例えば、テープ状、シート状であってもよい。
このようにして得られた貼付剤は、皮膚への接着性が高く、皮膚面へ糊残りせず刺激なく剥離することが可能であり、しかも再貼付が可能であることから、救急絆創膏、長尺の巻絆創膏、パット付大型絆創膏、ドレッシング材等として有用である。
【0033】
(貼付製剤)
本発明の貼付製剤は、上記した貼付剤10と同様の積層構造を有するが、粘着剤層2が経皮吸収性薬物(ビソプロロールを除く)を含有する点で貼付剤10と相違する。このように、本発明の貼付製剤は、粘着剤層が経皮吸収性薬物を含有するため、経皮吸収製剤として使用することができる。
経皮吸収薬物としては、ヒトなどの哺乳動物の皮膚を通して投与し得る性質、すなわち経皮吸収性を有するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、全身性麻酔薬、催眠・鎮静薬、抗癲癇薬、解熱鎮痛消炎薬、鎮暈薬、精神神経用薬、局所麻酔薬、骨格筋弛緩薬、自律神経用薬、鎮痙薬、抗パーキンソン薬、抗ヒスタミン薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、動脈硬化用薬、循環器用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、ホルモン薬、化膿性疾患用外用薬、鎮痛・鎮痒・収斂・消炎用薬、寄生性皮膚疾患用薬、止血用薬、痛風治療用薬、糖尿病用薬、抗悪性腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、麻薬、抗統合失調症薬、抗うつ薬、禁煙補助薬などが例示できる。
【0034】
また、経皮吸収薬物が固体薬物である場合、粘着剤層中で結晶析出の可能性があるが、本発明ではこれを有利に抑制できる点で、経皮吸収薬物として固体薬物が好適に使用される。ここにいう固体薬物とは、室温(25℃)で固体である薬物、すなわち、融点が25℃以上である薬物を意味する。
また、経皮吸収薬物が液体薬物である場合、粘着剤層からブリードする可能性があるが、本発明ではこれを有利に抑制できる点で、経皮吸収薬物として液体薬物も好適に使用される。ここにいう液体薬物とは、室温(25℃)で液体である薬物、すなわち、融点が25℃未満である薬物を意味する。なお、ここにいう融点とは、JIS K7121に準拠してDSC(型番DSC6220、セイコーインスツルーメンツ(SII)製)により測定された値を意味する。
【0035】
経皮吸収薬物の配合量は、薬物の種類、投与目的等により適宜設定されるが、通常、粘着剤層中に薬物を好ましくは0.5〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%の範囲で含有させる。配合量が0.5重量%未満の場合には、薬理効果を発揮するのに十分な薬物量を吸収させることが困難であり、他方、40重量%を越えると皮膚接着性が低下する傾向にある。
【0036】
なお、本発明の貼付製剤は、上記した粘着剤組成物に経皮吸収性薬物を含有せしめ、これを溶媒に溶解した溶液を用いて、前述した貼付剤と同様の方法により製造することが可能である。
また、本発明の貼付製剤は、薬物の種類、患者の年齢、体重、症状等により異なるが、1〜2日で1回程度皮膚面に貼付して使用される。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。なお、実施例等で使用する材料は以下のとおりである。
【0038】
ポリイソブチレンA:Mw4,000,000
ポリイソブチレンB:Mw51,000
粘着付与剤T1:脂環族飽和炭化水素樹脂[樹脂(1)]、Mw2,140
粘着付与剤T2:脂環族飽和炭化水素樹脂[樹脂(1)]、Mw1,530
粘着付与剤T3:脂環族飽和炭化水素樹脂[樹脂(1)]、Mw1,130
有機液状成分:ミリスチン酸イソプロピル(IPM)
【0039】
(実施例1〜5及び比較例1〜2)
表1に記載の割合にしたがって配合した貼付剤用粘着剤組成物の粘稠トルエン溶液を調製し、得られた溶液をシリコーン剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレート(PET)製離型フィルム上に、乾燥後の厚みが80μmとなるように塗布し、これを熱風循環式乾燥機中にて100℃で5分間乾燥して粘着剤層を得た。この粘着剤層を2μm厚のPETフィルムと12g/mのPET不織布との積層フィルムの不織布側に貼り合わせてシート状の貼付剤を得た。なお、表1に記載の各成分の配合量は、粘着剤組成物の全重量基準の割合(重量%)である。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例及び比較例にて作製した貼付剤について、以下に示す試験を行い、その結果を表2に示した。
【0042】
<皮膚接着性>
実施例及び比較例で作製した貼付剤をボランティアの上腕側部に貼付し、24時間経過後の貼付状態を目視にて判定した。判定基準は以下の通りである。
○:全く剥がれていない。
△:端末剥がれを生じている者がいる。
×:脱落している者がいる。
【0043】
<皮膚糊残り>
上記皮膚接着性試験終了後に上腕側部から貼付剤を剥離除去した際の粘着剤層及び皮膚面の状態を目視にて観察し、粘着剤層の皮膚への糊残りを判定した。判定基準は以下の通りである。
○:剥離時に皮膚面に粘着剤が残留しない。
△:剥離時に皮膚面に粘着剤がわずかに残留する。
×:剥離時に皮膚面に粘着剤が残留する。
【0044】
<再貼付性>
上記皮膚接着性試験終了後に上腕側部から剥離除去した貼付剤を、再度上腕側部に貼付し、貼付可能か否かを判定した。判定基準は以下の通りである。
○:再貼付可能。
△:再貼付可能であるが皮膚接着性がかなり弱い。
×:再貼付不可能。
【0045】
<離型フィルムへの糊残り>
実施例及び比較例で作製した貼付剤について、貼付剤から離型フィルムを引き剥がし、離型フィルムに付着した粘着剤の量を目視にて観察して、離型フィルムへの粘着剤層の糊残りを判定した。判定基準は以下の通りである。
○:目視では粘着剤が確認できない。
△:付着物がわずかに存在する。
×:付着物が明らかに存在する。
【0046】
<離型フィルムの浮き上がり>
実施例及び比較例で作製した貼付剤を、支持体側を内側にして折り曲げた時の、離型フィルムと粘着剤層との層間強度を目視にて判定した。判定基準は以下の通りである。
○:離型フィルムと粘着剤層との浮き上がりが全く認められない。
△:離型フィルムと粘着剤の浮き上がりがわずかに認められる。
×:離型フィルムと粘着剤層との浮き上がりが明らかに認められる。
【0047】
【表2】

【0048】
(実施例6〜10及び比較例3〜4)
表1に記載の配合成分100重量部に、インドメタシン(消炎鎮痛剤、固体薬物)を1重量部加えて経皮吸収性粘着剤組成物を調製したこと以外は、上記実施例と同様の方法により貼付製剤を得た。
【0049】
表2から明らかなように、実施例2の貼付剤は皮膚接着性が若干低下する傾向があったが、実施例1及び3〜5の貼付剤は、皮膚接着性が良好であった。すなわち、T1とT2は皮膚接着性が良好であり、とりわけT1が良好であることがわかった。また、実施例の貼付剤は、比較例の貼付剤と比べて下記の点で優れることが確認された。
(i)皮膚への接着性が高いこと、
(ii)皮膚からの剥離時に皮膚面への糊残りがなく、しかも皮膚からの剥離時の刺激が小さいこと、
(iii)製造時又は使用時の粘着剤層からの離型フィルムへの糊残りがなく、離型フィルムの浮き上がりが抑制されていること、
(iv)皮膚への再貼付が可能であること。
また、実施例6〜10の貼付製剤においても上記(i)〜(iv)の特性を具備しており、また消炎鎮痛効果を有することが確認された。これに対し、比較例3〜4の貼付製剤においては比較例1〜2と同様の結果が得られ、実施例6〜10の貼付製剤よりも性能的に劣ることが確認された。
したがって、本実施例に係る貼付剤及び貼付製剤は、高い凝集性及び皮膚接着性が高水準で両立されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る貼付剤の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…支持体、2…粘着剤層、3…離型フィルム、10…貼付剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム系エラストマーと、重量平均分子量が1200〜2500である粘着付与剤とを含有する、貼付剤用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記粘着付与剤が石油系樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂、クマロンインデン樹脂及びスチレン系樹脂から選ばれる少なくとも一種である、請求項1記載の貼付剤用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記石油系樹脂が下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する脂環族飽和炭化水素樹脂である、請求項2記載の貼付剤用粘着剤組成物。
【化1】



【請求項4】
前記ゴム系エラストマーが第一のゴム系エラストマー及び第二のゴム系エラストマーを含み、
該第一のゴム系エラストマー及び第二のゴム系エラストマーがそれぞれ独立にポリイソブチレン、ポリイソプレン、ブチルゴム及びスチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の貼付剤用粘着剤組成物。
【請求項5】
前記第一のゴム系エラストマーの重量平均分子量が1,600,000〜5,400,000であり、
前記第二のゴム系エラストマーの重量平均分子量が36,000〜75,000である、請求項4記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の貼付剤用粘着剤組成物を含む粘着剤層を支持体の少なくとも片面に備える、貼付剤。
【請求項7】
請求項6記載の貼付剤の粘着剤層が経皮吸収性薬物(ビソプロロールを除く)を含む、貼付製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−220437(P2008−220437A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59242(P2007−59242)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】