説明

質量分析装置用リザーバ

【課題】原油中の高沸点成分を400℃程度で分析可能な質量分析装置用リザーバを提供する。
【解決手段】ガラス製リザーバを小型化し、リザーバ内に攪拌機構を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置によるオイル分析等で用いられるリザーバに関する。
【背景技術】
【0002】
石油会社などで原油等のオイルの成分分析を行なう際には、標準的容積が1×10-3〜2×10-33(1〜2リットル)程度の真空容器(リザーバ)に試料を入れて300℃程度に加熱し、試料を容器内で揮発させて、質量分析装置のイオン源に導入することが行なわれている。リザーバとイオン源との間を隔てるオリフィスの直径は、標準的には0.1mmφ程度であり、そのコンダクタンスの標準値は、1×10-63/sec(1×10-3リットル/sec)程度に設定されている。リザーバ内で気化した試料は、オリフィスを介して徐々にイオン源に吸引されて消費されるため、リザーバ内の圧力は、当初の標準値10〜100Paから徐々に低下し、1時間で50%程度にまで減衰する。そのため、質量分析の測定は、ある程度の時間内に完了させる必要があった。
【0003】
また、原油中の高沸点成分をリザーバ内で揮発させようとすると、リザーバの温度は、300℃程度の加熱温度では不十分な場合が多い。場合によっては、リザーバの温度を400℃程度まで上昇させることが求められる。しかも、高温領域では、オイルは金属と反応するため、金属製のリザーバは使用することができず、オイルに対して不活性なガラス製のリザーバを使用することが一般的であった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−126658号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガラスの機械的な強度は、温度に反比例するため、容積が1〜2リットルの大きさを持ったガラス製リザーバを400℃程度まで温度上昇させることは、これまで非常に困難であった。従来のガラス製リザーバでは、300℃までが加熱の限界であった。
【0006】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、原油中の高沸点成分を400℃程度で分析可能な質量分析装置用リザーバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、本発明にかかる質量分析装置用リザーバは、
液体試料の成分分析に用いる質量分析装置用リザーバであって、リザーバ内に攪拌機構を設けたことを特徴としている。
【0008】
また、前記攪拌機構は、リザーバ外部から磁力で遠隔回転される回転子であることを特徴としている。
【0009】
また、前記リザーバは、ガラス製であることを特徴としている。
【0010】
また、前記液体試料は、オイルであることを特徴としている。
【0011】
また、前記リザーバは、
(1)標準的容積の1/nの容積を有し、
(2)リザーバとイオン源との間のコンダクタンスが標準値の1/nの値を有し、
(3)リザーバの内圧が標準値のn倍の値を有する
ことを特徴としている。
【0012】
また、前記標準的容積の値は、1×10-3〜2×10-33(1〜2リットル)であることを特徴としている。
【0013】
また、前記コンダクタンスの標準値は、1×10-63/sec(1×10-3リットル/sec)であることを特徴としている。
【0014】
また、前記内圧の標準値は、10〜100Paであることを特徴としている。
【0015】
また、前記nの値は、2≦n≦100の範囲であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の質量分析装置用リザーバによれば、
液体試料の成分分析に用いる質量分析装置用リザーバであって、リザーバ内に攪拌機構を設けたことを特徴としているので、
原油中の高沸点成分を400℃程度で分析可能な質量分析装置用リザーバを提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明に係る質量分析装置用リザーバである。図中、3がリザーバである。このリザーバは、オイル成分に対して不活性なガラス製であり、(1)標準的容積(1〜2リットル)の1/nの容積を有し、(2)リザーバとイオン源との間のコンダクタンスが標準値(1×10-3リットル/sec)の1/nの値を有し、(3)リザーバの内圧が標準値(10〜100Pa)のn倍の値を有する。ここで、nの値は、2≦n≦100の範囲であり、最も好適には、n≒10である。例えば、リザーバ3は容積約0.1〜0.2リットルのガラス製リザーバであって、リザーバとイオン源との間のコンダクタンスは約1×10-4リットル/sec、リザーバの内圧は約100〜1000Paに設定される。これにより、リザーバの容積が1/10になったことで、機械的強度が増すと共に、リザーバの内圧は10倍になり、リザーバとイオン源との間のコンダクタンスは1/10になったので、リザーバの内圧を1時間で50%程度までの減衰に留めるという時間的制約についても、従来の条件を維持することができるようになった。
【0018】
このリザーバは、次のようにして使用される。まず、プローブ10の先端に取り付けられたサンプルチューブ8を取り出して、試料を装填することから始める。そのためには、まず回転ポンプ(R.P.)に連通する真空バルブ11を閉じ、リーク弁14を開いて、空間15を大気圧に戻す。次に、ハッチングで示したプローブ10とサンプルチューブ8と蓋部16を一体のものとして取り外す。このとき、リザーバ3内もまた、大気圧となる。リザーバ3と導入パイプ12との間は、オリフィス13により連通されているが、そのコンダクタンスは約1×10-4リットル/secなので、空気がわずかずつイオン源2に流入する状態が維持される。尚、このとき、空間15の中途に隔離弁を設けておき、サンプルチューブ8を取り出す際に、リザーバ3を外界から隔離して、リザーバ3の真空を維持するように構成しても良い。
【0019】
サンプルチューブ8に試料を注入後、ハッチングで示したプローブ10とサンプルチューブ8と蓋部16を一体のものとして空間15にはめ込む。続いてリーク弁14を閉じ、回転ポンプ(R.P.)に連通する真空バルブ11を開いて、空間15とリザーバ3内を真空引きする。尚、サンプルチューブ8とリザーバ3の間は、図示しない開口によって連通されているが、これは、セプタムと注入針によって連通されるようにしても良い。
【0020】
サンプルチューブ8内の試料は、ヒータ4によって400℃程度に加熱された加熱ブロック9の熱により揮発し、図示しない開口を介してリザーバ3内に拡がる。このとき、リザーバ3の温度を約400℃、リザーバ内の圧力を従来の10倍の約100〜1000Paに設定したことで、試料ガスは完全な粘性流領域の状態となり、軽い分子はリザーバの上部に、重い分子はリザーバの下部に分離する。リザーバ3と導入パイプ12を連通するオリフィス13は、リザーバ3の側壁中央部にあるので、軽い分子や重い分子を均等にイオン源2に取り出すためには、リザーバ3内を樹脂またはガラスで被覆した鉄芯入り回転子7で攪拌し、試料ガスを均一化させる必要がある。この回転子7は、リザーバ3の外部において、磁石6をモータ5で回転させることにより、遠隔操作で回転させるようにする。
【0021】
リザーバ3の側壁中央部にあるオリフィス13から取り出された試料ガスは、保温用ヒータ1で加熱された導入パイプ12を通って、イオン源2に導入される。イオン源がFI(Field Ionization)イオン源である場合は、導入パイプ12の出口は、イオン源2の直近で開口し、試料ガスはイオン源2に吹き付けられ、高電圧によってイオン化される。また、イオン源がEI(Electron Impact)イオン源である場合は、導入パイプ12の出口は、イオン源2の内部で開口し、試料ガスは、イオン源2の内部で行なわれる電子ビームの放電によってイオン化される。
【産業上の利用可能性】
【0022】
質量分析装置によるオイル等の分析に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる質量分析装置用リザーバの一実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1:保温用ヒータ、2:イオン源、3:リザーバ、4:ヒータ、5:モータ、6:磁石、7:鉄芯入り回転子、8:サンプルチューブ、9:加熱ブロック、10:プローブ、11:真空バルブ、12:導入パイプ、13:オリフィス、14:リーク弁、15:空間、16:蓋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料の成分分析に用いる質量分析装置用リザーバであって、リザーバ内に攪拌機構を設けたことを特徴とする質量分析装置用リザーバ。
【請求項2】
前記攪拌機構は、リザーバ外部から磁力で遠隔回転される回転子であることを特徴とする請求項1記載の質量分析装置用リザーバ。
【請求項3】
前記リザーバは、ガラス製であることを特徴とする請求項1記載の質量分析装置用リザーバ。
【請求項4】
前記液体試料は、オイルであることを特徴とする請求項1記載の質量分析装置用リザーバ。
【請求項5】
前記リザーバは、
(1)標準的容積の1/nの容積を有し、
(2)リザーバとイオン源との間のコンダクタンスが標準値の1/nの値を有し、
(3)リザーバの内圧が標準値のn倍の値を有する
ことを特徴とする請求項1記載の質量分析装置用リザーバ。
【請求項6】
前記標準的容積の値は、1×10-3〜2×10-33(1〜2リットル)であることを特徴とする請求項5記載の質量分析装置用リザーバ。
【請求項7】
前記コンダクタンスの標準値は、1×10-63/sec(1×10-3リットル/sec)であることを特徴とする請求項5記載の質量分析装置用リザーバ。
【請求項8】
前記内圧の標準値は、10〜100Paであることを特徴とする請求項5記載の質量分析装置用リザーバ。
【請求項9】
前記nの値は、2≦n≦100の範囲であることを特徴とする請求項5記載の質量分析装置用リザーバ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−308314(P2006−308314A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128157(P2005−128157)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】