説明

赤外線反射性フィルムの製造方法、および赤外線反射性フィルム

【課題】塗布法によって形成された高屈折率層と低屈折率層との界面が明確な赤外線反射性フィルムの製造方法を得る。赤外線反射性と可視光線透過性が良好で耐久性が優れた赤外線反射性フィルムを得る。
【解決手段】赤外線反射性フィルムの製造方法で、無機化合物粒子を両方に含有させ、高分子化合物をいずれか一方または両方に含有させた高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキを準備して、それらから形成された高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねて基体に同時に塗布し、乾燥する。赤外線反射性フィルムで、基体と、基体に形成され、複数の無機化合物粒子を有する高屈折率層および複数の無機化合物粒子を有する低屈折率層が積み重ねられた積層構造とを有し、該高屈折率層および該低屈折率層のいずれか一方または両方が、該無機化合物粒子どうしを結合させる高分子化合物を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線反射性フィルムの製造方法、および赤外線反射性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線を反射する赤外線反射性フィルムは、例えば、建物や乗り物の壁や窓などに貼り付けることで、建物内や乗り物内に入射する赤外線を遮蔽することができるので、建物内や乗り物内の温度上昇を防ぎ、夏場の冷房に費やすエネルギーを削減することが可能になる。特に、窓などの透明な箇所に用いるときは、赤外線は反射するが可視光線は透過する波長選択性を備えた赤外線反射性フィルムが望まれる。
【0003】
これまでに、高屈折率の無機化合物と低屈折率の無機化合物を交互に蒸着した蒸着法による赤外線反射性フィルムの製造方法が知られている(特許文献1)。また、酸化チタンの粒子を分散したスラリーを塗布した後に乾燥して高屈折率層を形成し、その高屈折率層上にシリカゾルスラリーを塗布した後に乾燥して低屈折率層を形成する順次の塗布法による赤外線反射性フィルムの製造方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−65232号公報
【特許文献2】特開2003−266578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の蒸着法による赤外線反射性フィルムの製造方法は、連続的に製造をしようとすると大規模な真空装置が必要であり、また層数が増えれば増えるほど工程数が増えてコストアップになる。
【0006】
特許文献2には、酸化チタンやシリカゾルのスラリーを利用し、塗布工程と乾燥工程を順次繰り返すことが記載されているが、コストがかかりすぎて量産に適した方法ではない。また、インキを塗布し乾燥した後でその上にインキを塗布し乾燥することを交互に繰返す方法は、インキを塗り重ねたときに下地の層を溶かすおそれがあり、一方の層の材料と他方の層の材料とが混ざってしまい、層どうしの界面が明確に形成されにくい。
【0007】
さらに、特許文献1や特許文献2の赤外線反射性フィルムの高屈折率層および低屈折率層は、無機化合物や金属酸化物だけを用いて形成されている。蒸着法では、結着物質を用いることは一般的でなく、また、塗布法であっても、ナノサイズの微粒子の凝集力を利用して粒子どうしを結合させる場合には、他の化合物は、凝集力による結合を阻害するので、可能な限り含有させないようにすることが一般的である。さらに、順次の塗布法では、インキを塗り重ねたときに下地の層を溶かすおそれがあるので、塗り重ねるインキ対して可溶な他の化合物を下地の層に含有させることはできない。また、無機化合物や金属酸化物だけで形成された層は脆性で耐久性が劣ることが懸念される。
【0008】
本発明では、塗布法によって形成された高屈折率層と低屈折率層との界面が明確な赤外線反射性フィルムの製造方法を得ることを課題とする。また、本発明では、赤外線反射性と可視光線透過性が良好で耐久性が優れた赤外線反射性フィルムを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、無機化合物粒子を両方に含有させ、高分子化合物をいずれか一方または両方に含有させた高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキを準備して、その高屈折率層形成用インキから高屈折率層形成用インキ液層を形成し、その低屈折率層形成用インキから低屈折率層形成用インキ液層を形成して、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねて、積み重ねられたその高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層を基体に同時に塗布し、乾燥することを特徴とする赤外線反射性フィルムの製造方法である。
【0010】
第2の発明は、第1の発明にて、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、その高屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分とその低屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分とを反応させて、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層の間に反応生成物を形成させることを特徴とする赤外線反射性フィルムの製造方法である。
【0011】
第3の発明は、第1の発明にて、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方に含有させた析出成分を析出させて、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層の間に析出物を形成させることを特徴とする赤外線反射性フィルムの製造方法である。
【0012】
第4の発明は、第1の発明にて、反応生成物形成用インキを準備して、その反応生成物形成用インキから反応生成物形成用インキ液層を形成して、その高屈折率層形成用インキ液層とその反応生成物形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、その高屈折率層形成用インキ液層またはその低屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分とその反応生成物形成用インキ液層に含有させた反応成分とを反応させて、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層の間に反応生成物を形成させることを特徴とする赤外線反射性フィルムの製造方法である。
【0013】
第5の発明は、第1の発明にて、析出物形成用インキを準備して、その析出物形成用インキから析出物形成用インキ液層を形成して、その高屈折率層形成用インキ液層とその析出物形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、その析出物形成用インキ液層に含有させた析出成分を析出させて、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層の間に析出物を形成させることを特徴とする赤外線反射性フィルムの製造方法である。
【0014】
第6の発明は、第1の発明にて、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた後で乾燥前に、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方または両方に含有させたゲル化成分を冷却して、そのゲル化成分を含有させたその高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方または両方の粘度を低下させることを特徴とする赤外線反射性フィルムの製造方法である。
【0015】
第7の発明は、基体と、その基体に形成され、複数の無機化合物粒子を有する高屈折率層および複数の無機化合物粒子を有する低屈折率層が積み重ねられた積層構造とを有する赤外線反射性フィルムであって、その高屈折率層およびその低屈折率層のいずれか一方または両方が、その無機化合物粒子どうしを結合させる高分子化合物を有することを特徴とする赤外線反射性フィルムである。
【0016】
第8の発明は、第7の発明にて、その高分子化合物が、その高分子化合物を有する層のその無機化合物粒子よりも可視光線透過率が高いことを特徴とする赤外線反射性フィルムである。
【0017】
第9の発明は、第7の発明または第8の発明にて、その高分子化合物が、無機化合物で変性された高分子化合物であることを特徴とする赤外線反射性フィルムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、塗布法によって形成された高屈折率層と低屈折率層の界面が明確な赤外線反射性フィルムが得られる赤外線反射性フィルムの製造方法である。また、本発明は、赤外線反射性と可視光線透過性が良好で耐久性が優れた赤外線反射性フィルムである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明における赤外線反射性フィルムの製造方法で用いることができる同時多 層塗布法とその塗布装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明における赤外線反射性フィルムの断面の一例を示す模式図である。
【図3】実施例1および実施例2で得られた赤外線反射性フィルムの反射スペクトル、 及び太陽光の放射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<<赤外線反射性フィルムの製造方法>>
本発明における赤外線反射性フィルムの製造方法は、無機化合物粒子を両方に含有させ、高分子化合物をいずれか一方または両方に含有させた高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキを準備して、その高屈折率層形成用インキから高屈折率層形成用インキ液層を形成し、その低屈折率層形成用インキから低屈折率層形成用インキ液層を形成して、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねて、積み重ねられたその高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層を基体に同時に塗布し、乾燥するもので、いわゆる同時多層塗布法と呼ばれる方法である。
【0021】
同時多層塗布法では、積み重ねられたインキ液層を同時に基体に塗布した後で乾燥するので、乾燥後の層にインキを塗布したときにインキが層を溶かしてしまう問題が起こらない。そのため、層どうしの界面が明確に形成されるので、同時多層塗布法が赤外線反射性フィルムの製造方法として好適であることを見出したものである。また、インキに高分子化合物を含有させることで、無機化合物粒子の分散性が向上し、インキの粘度等の調整が容易になるので、インキの積層適性や塗布適性が向上し、屈折率の値のばらつきが少ない層を得ることができる。
【0022】
また、本発明における赤外線反射性フィルムの製造方法では、安定的に層どうしの界面を明確に形成させるために、積み重ねられたインキ液層どうしの混合を妨げる手段を採用することが望ましい。積み重ねられたインキ液層どうしの混合を妨げる手段としては、例えば、インキ液層の粘度、表面張力、成分含有量を調節する方法、成分を分散物としてインキ液層に含有させる方法、および反応成分、析出成分、ゲル化成分を利用した方法などが挙げられる。インキ液層の粘度、表面張力、成分含有量を調節する方法では、一般に、インキ液層の粘度を高く、表面張力を高く、成分含有量を多くすると、インキ液層どうしが混合しにくくなるが、インキ液層どうしの密着性が低下する傾向があるので、適宜調節することが望ましい。また、成分を分散物としてインキ液層に含有させる方法では、分散物の方が溶解物よりも拡散しにくいのでインキ液層どうしの混合が妨げられるが、分散物の分散が悪いと成分が偏在して、層の特性が劣化したりばらついたりするので、分散物の分散性を向上させることが望ましい。なお、反応成分、析出成分、ゲル化成分を利用する方法については、下記で説明する。
【0023】
なお、インキ液層どうしの混合が妨げられるとは、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とが積み重ねられたインキ液層の積層構造が形成されることを意味しており、インキ液層に含まれる成分がインキ液層間の境界付近で混合しないことを意味してはいない。また、層の界面が明確に形成しているかどうかは、例えば、赤外線反射性フィルムの断面を電子顕微鏡で観察したときに層の積層構造を識別できるかどうかで確認することができる。
【0024】
下記に、本発明における赤外線反射性フィルムの製造方法で、反応成分、析出成分、ゲル化成分を利用して積み重ねられたインキ液層どうしの混合を妨げる方法を採用した実施態様を説明する。
【0025】
<第1の実施態様>
第1の実施態様による赤外線反射性フィルムの製造方法は、反応成分を含有させた高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキを調整して、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、その高屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分とその低屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分とを反応させて、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層の間に反応生成物を形成させるものである。反応成分は、高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキのいずれか一方または両方に含有される必須の高分子化合物と異なる化合物であってもよいし、その高分子化合物自身を反応成分として用いてもよい。
【0026】
本実施態様による製造方法では、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、層間に反応生成物が形成することで、インキ液層どうしの混合を速やかに妨げて、層どうしの界面を明確に形成させ、良好な赤外線反射性の赤外線反射性フィルムを得ることができる。
【0027】
(同時多層塗布)
図1は、本発明における赤外線反射性フィルムの製造方法で用いることができる同時多層塗布法と塗布装置の一例を示す模式図である。コーティングダイユニット11は、インキを押し出すスリット1、2、3を有している。もちろんスリットの数は3に限定されることなく任意の数が可能である
【0028】
例えば、図1では、スライド斜面上に設けた複数のスリットを持つコーティングダイユニット11のスリット1、2、3からインキを押し出してインキ液層1s、2s、3sを形成させ、これらのインキ液層がスライド斜面に沿って落ちる際に上方のインキ液層が下方のインキ液層に乗り上げることにより、次々に積み重ねることができる。または、スライド斜面の上方に設置した複数のスリットノズルからインキを層状に流して形成させた複数のインキ液層を積み重ねることもでき、図1の塗布方法だけに限定されない。スライド斜面は、必ずしも斜面が直線状に限定される必要はなく、インキ液層が重力で落ちるような構造であればよく、真横から見たスライド斜面が曲線状であってもよい。
【0029】
インキは、高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキを少なくとも1種類ずつ準備して用いる。2種類以上の高屈折率層形成用インキおよび/または低屈折率層形成用インキ、あるいは後述する密着層や保護層などを形成するためのインキを併用してもよい。高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキには、無機化合物粒子をそれぞれ含有させて、高分子化合物をいずれか一方または両方に含有させる。無機化合物粒子や高分子化合物は、水や有機溶剤に溶解または分散させて、インキに含有させことができる。
【0030】
また、高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキには、接触したときに反応して反応生成物が生じるような反応性を有する反応成分をそれぞれ第1の反応成分および第2の反応成分として含有させる。
【0031】
インキには、必要に応じて、粘度調整用などとして、水や有機溶剤を含有させることができる。また、インキには、さらに必要に応じて、各種添加剤として、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤、充填剤などを含有させることができる。
【0032】
次に、例えば、準備した高屈折率層形成用インキを図1のタンク1tとタンク3tに貯蔵し、準備した低屈折率層形成用インキをタンク2tに貯蔵する。図示していないが、タンク、インキ供給ポンプ、スリットは3つに限定されず、必要な数だけ設置できる。
【0033】
高屈折率層形成用インキと低屈折率層形成用インキは、インキ供給ポンプ1p、インキ供給ポンプ2p、インキ供給ポンプ3pにより押し出されて各スリット1、2、3からから流れ出ると、コーティングダイユニット11のスライド斜面を流れ落ちる。この時スリット1から流れ出た高屈折率層形成用インキは、コーティングダイユニット11の上で広がってインキ液層1sを形成する。
【0034】
スリット2から流れ出た低屈折率層形成用インキも同様にインキ液層2sを形成して流れ落ちる。そして、インキ液層1sの上に乗り上げる形でインキ液層2sが接触すると、高屈折率層形成用インキ液層中に含まれる第1の反応成分と低屈折率層形成用インキ液層中に含まれる第2の反応成分とが反応して、両インキ液層に対して不溶性または難溶性である反応生成物が形成する。反応生成物が形成すると、反応生成物の上方領域および下方領域にはまだ高屈折率層形成用インキと低屈折率層形成用インキが存在するが、反応生成物によってそれ以上の両インキ液層どうしの混合は防げられる。
【0035】
積み重ねられたその高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層がコーティングロール4で搬送される基体5に同時に塗布され、その後、乾燥ゾーン6で乾燥されることで、高屈折率層および低屈折率層が積み重ねられた積層構造を基体に有する赤外線反射性フィルムが製造される。各層の厚みは、スリットからの各インキの押し出し量や基体の搬送速度で調節することができる。
【0036】
本実施態様で用いられる無機化合物粒子、高分子化合物、基体は、後述する赤外線反射性フィルムで用いるものを好適に用いることができる。また、無機化合物粒子、高分子化合物、反応成分のインキ中の含有量は、後述する赤外線反射性フィルムで所望の含有量になるように適宜調整することができる。
【0037】
(反応成分)
高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とが接触して、高屈折率層形成用インキ液層の第1の反応成分と低屈折率層形成用インキ液層の第2の反応成分とが反応して、反応生成物を形成させる反応には、様々な反応が利用できる。例えば、(A)架橋反応、(B)錯体形成反応、(C)酸と塩基の中和反応などの反応が利用できるが、特に限定されるものではない。
【0038】
高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキのいずれか一方または両方に含有される必須の高分子化合物自身を少なくとも一方の反応成分として用いることで、反応生成物と高屈折率層および/または低屈折率層に含有される高分子化合物とが密接して層間の剥離を防ぎ、赤外線反射性フィルムの耐久性を向上させることができる。また、高屈折率層や低屈折率層に含有する無機化合物粒子とそれらを結合させる高分子化合物以外の成分を減らして、その成分が層の屈折率に与える影響を減らすことができる。
【0039】
反応によって形成した反応生成物は、インキ液層どうしの混合を現実に妨げているので、高屈折率層と低屈折率層の間に層状あるいは島状に存在しているものと推察されるが、電子顕微鏡などで観察することは困難であることが多い。高屈折率層と低屈折率層の間に反応生成物が存在することは、グロー放電発光分光分析法による厚み方向の元素分布測定で確認することができる。
【0040】
(A)架橋反応
架橋反応の例としては、架橋性の高分子化合物と架橋剤との架橋反応が挙げられる。一方のインキに含有させる成分βとして架橋性の高分子化合物を用い、他方のインキに含有させる成分αとして架橋剤を用いることにより、2つのインキ液層が接触する領域で、架橋反応が起こる。架橋反応の反応生成物である架橋体は、一般に両インキ液層に不溶性または難溶性であり、インキ液層どうしの混合を妨げることができる。
【0041】
反応成分βの架橋性の高分子化合物としては、特に制限されるものではないが、水酸基やカルボキシル基等を有する高分子化合物、例えば、ポリビニルアルコール、ポリフェノール、ポリカルボン酸等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。架橋性の高分子化合物は、溶剤への溶解性の観点から、質量平均分子量が5千〜30万のものが好ましく、3万〜20万のものがより好ましく、5万〜15万のものがさらに好ましい。
【0042】
反応成分αの架橋剤としては、例えば、ホウ酸、水酸化チタン、有機チタンキレート化合物等の架橋性チタン化合物、架橋性ジルコニウム化合物、尿素樹脂、メラニン樹脂等のアミノ樹脂、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のポリイソシアネート化合物、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチルプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、2,2−ビス−(4’−グリシジルオキシフェニル)プロパン、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物、カルボジイミド化合物、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−[2−(ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
(B)錯体形成反応
錯体形成反応の例としては、金属イオンと配位子を持つ高分子化合物または低分子との錯体形成反応が挙げられる。成分γとして配位子を用い、成分δとして金属イオンを用いることにより、2つのインキ液層が接触する領域で、錯体形成反応が起こる。錯体形成反応の反応生成物である高分子錯体は、一般に両インキ液層に不溶性または難溶性であり、インキ液層どうしの混合を妨げることができる。
【0044】
成分γの配位子としては、例えば亜リン酸、リン酸、ポリリン酸等のリン含有配位子;酢酸等のカルボン酸含有配位子等のほか、水酸基、チオール基、アミノ基、アミド基、ピリジン基等を含有する配位子等が挙げられる。またそれらの配位子を持つ有機合成高分子化合物、ポリビニルアルコール樹脂、ウレタンアクリレート樹脂などを利用することができる。
【0045】
成分δの金属イオンとしては、例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、銅イオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ホウ素イオン、アルミニウムイオン等のイオン源となる物質であれば特に制限はなく、例えば硫酸アルミニウム、硫酸コバルト、酢酸コバルト、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0046】
(C)酸と塩基の中和反応
酸と塩基の中和反応の例としては、塩基性高分子化合物と酸性高分子化合物との中和反応、塩基性高分子化合物と酸との中和反応、酸性高分子化合物と塩基との中和反応が挙げられる。成分εとして酸を用い、成分ζとして塩基を用いることにより、2つのインキ液層が接触する領域で、酸と塩基との中和反応が起こる。中和反応の生成物である塩は、一般に両インキ液層に不溶性または難溶性となり、インキ液層どうしの混合を妨げることができる。
【0047】
成分εの酸としては、例えば酢酸、ギ酸、炭酸等の弱酸や、塩酸、ポリカルボン酸、ポリスルホン酸、あるいは、カチオン性ポリビニルアルコールなどのその酸性基を持つ有機合成高分子化合物などが挙げられる。
成分ζの塩基としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、ベンジジン、アニリン、キノリン等の、有機アミンや含窒素複素環式芳香族化合物に代表される弱塩基や、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物などのその塩基を持つ有機合成高分子化合物、ケイ酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0048】
<第2の実施態様>
第2の実施態様による赤外線反射性フィルムの製造方法は、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方に含有させた析出成分を析出させて、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層の間に析出物を形成させるものである。析出成分は、高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキのいずれか一方または両方に含有される必須の高分子化合物と異なる化合物であってもよいし、その高分子化合物自身を析出成分として用いてもよい。
【0049】
本実施態様による製造方法では、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、層間に析出物が形成することで、インキ液層どうしの混合を速やかに妨げて、層どうしの界面を明確に形成させ、良好な赤外線反射性の赤外線反射性フィルムを得ることができる。
【0050】
本実施態様は、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に層間に析出物を形成させるための析出成分を、高屈折率層形成用インキまたは低屈折率層形成用インキに含有させれば、反応成分をインキに含有させる必要がないことを除いて、上記の第1の実施態様の同様の操作・材料を用いて赤外線反射性フィルムを製造することができる。
【0051】
(析出成分)
高屈折率層形成用インキ液層または低屈折率層形成用インキ液層とその他のインキ液層が接触して、析出物を形成させるための析出成分には、種々の化合物を利用することができるが、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層の混合を妨げやすい観点から、低分子化合物よりも高分子化合物の方が好ましい。高分子化合物は、有機合成高分子化合物でも天然高分子化合物でもよい。有機合成高分子化合物の例として、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、メタクリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエーテル、ポリアセタール、セルロース、これらの共重合体が挙げられる。また、天然高分子化合物の例として、ゼラチン、寒天、カラギナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアガムが挙げられる。
【0052】
析出成分を析出させる方法としては、例えば、一方のインキ液層の主溶剤に対しては可溶であるが、他方のインキ液層に対して不溶性または難溶性である析出成分を選択し、一方のインキ液層にその析出成分をその析出成分が可溶な主溶剤に溶解させて含有させる。そして、析出成分を含有したインキ液層とその析出成分が不溶性または難溶性の主溶剤のインキ液層とを積み重ねた時に、析出成分をインキ液層どうしの間に析出させる方法が挙げられる。析出成分が難溶性または不溶性の溶剤と析出成分が可溶性の溶剤との組み合わせとしては、例えば、極性が異なる溶剤どうしの組み合わせを挙げることができ、具体的には、水やアルコールやケトンなどの親水性有機溶剤と芳香族化合物や脂肪族化合物などの疎水性有機溶剤の組み合わせ、水とアルコールやケトンなどの有機溶剤との組み合わせ、芳香族化合物の有機溶剤と脂肪族化合物の有機溶剤との組み合わせ、などを挙げることができる。
【0053】
析出成分を析出させる方法の他の例としては、一方のインキ液層に水溶性高分子化合物を析出成分として含有させ、他方のインキ液層に塩類を含有させる。そして、析出成分を含有させたインキ液層と多量の塩を含有させたインキ液層とを積み重ねた時に、析出成分をインキ液層どうしの間に塩析により析出させる方法が挙げられる。水溶性高分子化合物としては、たんぱく質、天然高分子化合物、水酸基やカルボキシル基などの親水性官能基を有する合成高分子化合物を挙げることができる。塩類としては、例えば、ナトリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウムのハロゲン化物、水酸化物などが挙げられる。
【0054】
析出によって形成した析出物は、インキ液層どうしの混合を現実に妨げているので、高屈折率層と低屈折率層の間に層状あるいは島状に存在しているものと推察されるが、電子顕微鏡などで観察することは困難であることが多い。高屈折率層と低屈折率層の間に析出物が存在することは、グロー放電発光分光分析法による厚み方向の元素分布測定で確認することができる。
【0055】
<第3の実施態様>
第3の実施態様による赤外線反射性フィルムの製造方法は、高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキに加えて、反応生成物形成用インキを準備して、その反応生成物形成用インキから反応生成物形成用インキ液層を形成して、その高屈折率層形成用インキ液層とその反応生成物形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、その高屈折率層形成用インキ液層またはその低屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分とその反応生成物形成用インキ液層に含有させた反応成分とを反応させて、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層の間に反応生成物を形成させるものである。
【0056】
本実施態様による製造方法では、高屈折率層形成用インキ液層と反応生成物形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、層間に反応生成物が形成することで、インキ液層どうしの混合を速やかに妨げて、層どうしの界面を明確に形成させ、良好な赤外線反射性の赤外線反射性フィルムを得ることができる。
【0057】
本実施態様は、高屈折率層形成用インキまたは低屈折率層形成用インキのいずれか一方に反応成分を含有させ、かつ高屈折率層形成用インキまたは低屈折率層形成用インキのいずれか一方に含有させた反応成分と反応する反応成分を反応生成物形成用インキに含有させれば、上記の第1の実施態様の同様の操作・材料を用いて赤外線反射性フィルムを製造することができる。
【0058】
反応生成物形成用インキに含有する反応成分は、赤外線反射性や可視光線透過性に与える影響を減らすため、層間に形成される反応生成物がインキ液層どうしの混合を妨げることができるのであれば、少ない方が好ましい。また、反応生成物形成用インキに無機化合物粒子を含有させると高屈折率層と低屈折率層との間に無機化合物粒子が偏在して赤外線反射性や可視光線透過性に影響を与えるおそれがあるので、反応生成物形成用インキには、無機化合物粒子を含有させないことが好ましい。
【0059】
<第4の実施態様>
第4の実施態様による赤外線反射性フィルムの製造方法は、高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキに加えて、析出物形成用インキを準備して、その析出物形成用インキから析出物形成用インキ液層を形成して、その高屈折率層形成用インキ液層とその析出物形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、その析出物形成用インキ液層に含有させた析出成分を析出させて、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層の間に析出物を形成させるものである。
【0060】
本実施態様による製造方法では、高屈折率層形成用インキ液層と析出物形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、層間に析出物が形成することで、インキ液層どうしの混合を速やかに妨げて、層どうしの界面を明確に形成させ、良好な赤外線反射性の赤外線反射性フィルムを得ることができる。
【0061】
本実施態様は、高屈折率層形成用インキ液層と析出物形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に析出する析出成分を反応生成物形成用インキに含有させれば、上記の第2の実施態様の同様の操作・材料を用いて赤外線反射性フィルムを製造することができる。
【0062】
析出物形成用インキに含有する反応成分は、赤外線反射性や可視光線透過性に与える影響を減らすため、層間に形成される析出物がインキ液層どうしの混合を妨げることができるのであれば、少ない方が好ましい。また、析出物形成用インキに無機化合物粒子を含有させると高屈折率層と低屈折率層との間に無機化合物粒子が偏在して赤外線反射性や可視光線透過性に影響を与えるおそれがあるので、析出物形成用インキには、無機化合物粒子を含有させないことが好ましい。
【0063】
<第5の実施態様>
第5の実施態様による赤外線反射性フィルムの製造方法は、ゲル化成分を含有させた高屈折率層形成用インキおよび/または低屈折率層形成用インキを調整して、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた後で乾燥前に、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方または両方に含有させたゲル化成分を冷却して、そのゲル化成分を含有させたその高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方または両方の粘度を低下させるものである。ゲル化成分は、高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキのいずれか一方または両方に含有される必須の高分子化合物と異なる化合物であってもよいし、その高分子化合物自身をゲル化成分として用いてもよい。
【0064】
本実施態様による製造方法では、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた後で乾燥前に、ゲル化成分を冷却してゲル化成分を含有させたインキ液層の粘度を低下させることで、インキ液層どうしの混合を妨げて、層間の界面を明確に形成させ、良好な赤外線反射性の赤外線反射性フィルムを得ることができる。また、インキ液層の粘度が低下するので、インキ液層が塗布や乾燥の過程で流動することを防ぐことができる。
【0065】
本実施態様は、冷却したときにゲル化してインキ液層の粘度を低下させるためのゲル化成分を高屈折率層形成用インキおよび/または低屈折率層形成用インキに含有させて、高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた後で乾燥前に冷却する操作をおこなえば、反応成分をインキに含有させる必要がないことを除いて、上記の第1の実施態様の同様の操作・材料を用いて赤外線反射性フィルムを製造することができる。なお、本実施態様で、反応成分または/および析出成分も含有させておけば、第1の実施態様または第2の実施態様と同様の効果を得ることもできる。また、本実施態様で、反応性生物形成用インキまたは析出物形成用インキを用いれば、第3の実施態様または/および第4の実施態様と同様の効果を得ることもできる。
【0066】
インキは、必要に応じてゲル化成分のゲル化温度以上の温度になるように加温されることが望ましい。また、冷却は、ゲル化成分のゲル化温度以下の温度でおこなうことが望ましい。また、高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキのいずれか一方または両方に含有される必須の高分子化合物自身を少なくとも一方のゲル化成分として用いることで、高屈折率層や低屈折率層に含有する無機化合物粒子とそれらを結合させる高分子化合物以外の成分を減らして、その成分が層の屈折率に与える影響を減らすことができる。
【0067】
(ゲル化成分)
冷却したときにゲル化してインキ液層の粘度を低下させるためのゲル化成分としては、天然高分子化合物を好適に用いることができる。天然高分子化合物は、例えば印画紙や食品のゲル化剤として汎用されており、入手が容易だからである。例えば、ゼラチン、寒天、カラギナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアガムを挙げることができる。ゼラチンは、ゲル化温度が15℃〜20℃付近であり、加温によるゾル化と冷却によるゲル化を制御しやすいため、特に好ましく用いることができる。
【0068】
<<赤外線反射性フィルム>>
本発明における赤外線反射性フィルムは、基体と、その基体に形成され、無機化合物粒子を有する高屈折率層および無機化合物粒子を有する低屈折率層が積み重ねられた積層構造とを有するものであって、その高屈折率層およびその低屈折率層のいずれか一方または両方が、その無機化合物粒子どうしを結合させる高分子化合物を有するものである。
【0069】
無機化合物や金属酸化物だけで形成された層は脆性で耐久性が劣るので、高分子化合物を結着剤として層に含有させて層の可とう性を向上させることは一般的になされている。しかし、無機化合物粒子を屈折率調整用材料として用いた赤外線反射性フィルムで、無機化合物粒子の結着剤として高分子化合物を用いたものはこれまで存在していなかった。上記した製法上の制約に加えて、高分子化合物を含有させると、層の屈折率に影響を与えて赤外線反射性が劣化し、また、層の厚みが増して可視光線透過性が低下すると考えられていたものと推察される。本発明者は、高分子化合物を含有させても赤外線反射性および可視光線透過性は良好で、かつ高分子化合物の含有が耐久性の向上に寄与することを見出して、本発明を完成させた。なお、本明細書では、特に断らない限り、赤外線反射率は波長1000nmで測定した値とし、可視光線透過率は波長550nmで測定した値とする。
【0070】
(基体)
基体は、それに形成された積層構造を支持することができるものであれば、特に限定されない。例えば、ガラス、金属、高分子化合物のフィルムを好適に用いることができる。基体は、可視光線透過性が高いことが好ましい。高分子化合物としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンテレナフタレート(PEN)などのポリエステルやトリアセチルセルロース(TAC)などのセルロースが比較的入手しやすいため好ましいが、特にこれに限定されない。基体の表面には、例えば密着性を向上させるために公知の処理を適宜施してもよい。基体の厚みは、特に限定されないが、10μm〜300μmの範囲が好ましい。なお、本明細書では、フィルム、シート、ボード、箔、板などの名称は区別しない。
【0071】
(積層構造)
積層構造は、少なくとも1組の高屈折率層および低屈折率層が基体に積み重ねられたものである。赤外線反射性は、高屈折率層から低屈折率層に向かって赤外線が入射されるときに高屈折率層と低屈折率層の界面で得られる。赤外線反射性を示すのであれば、高屈折率層と低屈折率層の間に他の化合物が存在していてもよい。他の化合物の厚さは、赤外線反射性に与える影響を小さくするために、0.01μmにすることが好ましく、電子顕微鏡で観察されない範囲にすることがより好ましい。高屈折率層および低屈折率層が少なくとも1組あれば、その界面で赤外線反射性が得られるので、十分である。もっとも、高屈折率層と低屈折率層の界面が複数得られるように、高屈折率層および/または低屈折率層を積み重ねることによって、赤外線反射性を向上させることもできる。例えば、図2は、4つの高屈折率層22と3つの低屈折率層23を基体6に高屈折率層、低屈折率層の順番で交互に積み重ねた赤外線反射性フィルムの例である。
【0072】
積層構造は、基体に高屈折率層、低屈折率層の順番で並んでいてもよいし、基体に低屈折率層、高屈折率層の順番で並んでいてもよい。前者では、基体側から赤外線を入光すれば赤外線反射性が得られ、後者では、基体の反対側である高屈折率層側から赤外線を入光すれば赤外線反射性が得られる。また、積層構造は、高屈折率層や低屈折率層の他に他の層を有していてもよい。基体と高屈折率層や低屈折率層との接着性を向上させるためにそれらの間に接着層を形成したり、耐擦過性や耐汚染性を付与するために基体の反対側に保護層を形成することができる。
【0073】
(高屈折率層、低屈折率層)
高屈折率層および低屈折率層は、屈折率調整用に無機化合物粒子を有するものである。また、高屈折率層および低屈折率層のいずれか一方または両方は、無機化合物粒子どうしを結合させる高分子化合物を有する。
【0074】
高屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率よりも高くなるように調整される。屈折率は、無機化合物粒子の種類や含有量を適宜選択することで主に調整することができるが、高分子化合物やその他の任意成分が含有するときはそれらの影響を受けることがあり、また、塗布や乾燥の速度や温度などの影響を受けることがある。本明細書では、屈折率は波長589nmの光で測定した値とする。
【0075】
高屈折率層の屈折率と低屈折率層の屈折率の差は、特に限定されないが、0.1〜0.4の範囲であることが好ましい。屈折率差が0.1よりも小さいときは赤外線反射性が十分に得られないおそれがあり、0.4よりも大きいときは干渉縞が発生するおそれがあるからである。また、高屈折率層と低屈折率層の厚みは、特に限定されないが、10nm〜5μmの範囲であることが好ましい。厚みが10nmよりも小さいと赤外線反射性が十分に得られないおそれがあり、5μmよりも大きいと赤外線反射性や可視光線透過性が十分に得られないおそれがあるからである。本発明における赤外線反射性フィルムは、高屈折率層の厚みや低屈折率層の厚みを大きくしても赤外線反射性や可視光線透過性が低下しにくい傾向が見られた。その理由は明らかではないが、高屈折率層や低屈折率層に高分子化合物を含有させることで、赤外線反射性や可視光線透過性の低下が抑制されるものと推察される。高屈折率層と低屈折率層の厚みを大きくしても赤外線反射性や可視光線透過性が低下しにくいことで、製造適性が向上し、赤外線反射性フィルムの低コスト化を図ることができる。もっとも、可視光線透過性に与える影響を小さくするために、高屈折率層と低屈折率層のそれぞれの各層の厚みは0.4μm以下とすることがより好ましい。
【0076】
(無機化合物粒子)
無機化合物粒子は、高屈折率層および低屈折率層の屈折率の調整に用いるもので、高屈折率層および低屈折率層に複数個含有されるものある。無機化合物の屈折率は、特に限定されないが、1.3〜7.0の範囲であることが好ましい。無機化合物の種類は、金属や半金属の酸化物、リン酸化物、窒化物、炭化物、ハロゲン化物などを挙げることができる。高屈折率層の無機化合物粒子に用いる無機化合物として、例えば、酸化チタン、酸化鉛、酸化鉄、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、これらの複合化合物、これらに他の元素がドープされた化合物が挙げられ、酸化チタン、酸化スズが特に好ましい。また、低屈折率層の無機化合物粒子に用いる無機化合物として、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、これらの複合化合物、これらに他の元素がドープされた化合物が挙げられ、酸化ケイ素、酸化アルミニウムが特に好ましい。
【0077】
無機化合物粒子の粒子径は、1nm〜1μmの範囲であることが好ましい。さらに5nm〜50nmの範囲であることが好ましい。無機化合物粒子の層中の含有量は、高分子化合物を100質量部とした場合、80質量部〜150質量部であることが好ましい。特に100質量部以上であることが好ましい。
【0078】
(高分子化合物)
高分子化合物は、高屈折率層および/または低屈折率層に含有する無機化合物粒子どうしを結合させるために用いるものである。高分子化合物が無機化合物粒子どうしを結合させているかどうかは、赤外線反射性フィルムをその高分子化合物を溶解させる溶剤に浸したときに、その高分子化合物および無機化合物粒子を含有する層が破壊されるかどうかで確認することができる。高分子化合物は、有機合成高分子化合物でも天然高分子化合物でもよい。有機合成高分子化合物の例として、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、メタクリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエーテル、ポリアセタール、セルロース、これらの共重合体が挙げられ、アクリル、メタクリルは可視光線透過性が比較的高いので特に好ましい。また、天然高分子化合物の例として、ゼラチン、寒天、カラギナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアガムが挙げられる。
【0079】
高分子化合物は、無機化合物で変性された高分子化合物であることが好ましい。高分子化合物が無機化合物で変性された部位を有することで、無機化合物粒子と高分子化合物の親和性が向上して、無機化合物粒子どうしを良好に結合させることができるからである。無機化合物の変性の例としては、シリコーン変性などのケイ素化合物変性、スズ化合物変性、チタン化合物変性、アルミニウム化合物変性などが挙げられる。無機化合物で変性された高分子化合物は、無機化合物と高分子化合物とのグラフト重合体でもよいし、無機化合物と高分子化合物との共重合体でもよい。特にシリコーン・アクリル共重合体が無機化合物との親和性と透明性の観点から好ましく用いられる。無機化合物粒子の無機化合物の主な元素の種類と無機化合物で変性された高分子化合物の無機化合物の主な元素の種類とを同じにすると、無機化合物粒子と高分子化合物の親和性がより高くなり、また、無機化合物で変性された高分子化合物が層の屈折率に与える影響が小さくなる可能性があるからである。例えば、無機化合物粒子が酸化ケイ素で、無機化合物で変性された高分子化合物がシリコーン変性高分子化合物である場合や、無機化合物粒子が酸化チタンで、無機化合物で変性された高分子化合物がチタニア変性高分子化合物である場合が挙げられる。
【0080】
高分子化合物の可視光線透過率は、その高分子化合物を有する層に含有された無機化合物粒子よりも高いことが好ましい。層の可視光線透過率を向上させることができるからである。高分子化合物の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の値で5,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。高分子化合物の層中の含有量は、無機化合物粒子を100質量部とした場合、67質量部〜125質量部であることが好ましい。特に100質量部以下であることが好ましい。
【0081】
(その他)
高屈折率層や低屈折率層には、さらに必要に応じて、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの各種添加剤を含有させることができる。また、製造方法によって上記の反応成分やゲル化成分などが含有される場合もある。これらの各種添加剤や成分は、層の屈折率に与える影響を小さくするためには、できる限り少ない方が好ましく、これらの各種添加剤や成分の層中の含有量は、高分子化合物を100質量部とした場合、10質量部未満とすることが好ましい。
【実施例】
【0082】
下記に、本発明における赤外線反射フィルムの製造方法および赤外線反射フィルムの実施例を説明する。
【0083】
(測定方法)
実施例で得られた赤外線反射性フィルムは、下記の測定方法で評価した。
【0084】
可視光線透過率、赤外線反射率は、紫外可視近赤外分光光度計「V−670」(日本分光株式会社製)を用いて測定した。赤外線の反射率と可視光の透過率はいずれも基体側から光を入射して測定した。
【0085】
層どうしの密着性は、旧JIS K5400の碁盤目試験方法に準拠して、次の手順で評価した。赤外線反射性フィルムの基体の反対側の面に碁盤目の切れ込みを100マス(1マス=1mm×1mm)入れた後、密着試験用テープを碁盤目へ貼り付け、そして剥がし、残留したマスの数を確認した。100マス中の95マス以上が残留していれば、層どうしの密着性が優れていると判断した。
【0086】
(実施例1)
下記の組成物から高屈折率層形成用インキAを得た。なお、実施例の全ての組成物は、40℃の恒温水槽中メカニカルスターラーにて加温攪拌し、温度を下げないよう注意しながら、5μmメッシュのフィルター「ミニザルト 17594K」(株式会社ハイテック製)に通して異物を除去した。
酸化チタン水分散液
「AERODISP(登録商標)−W740」 :60質量部
(日本アエロジル株式会社製、固形分40%)
シリコーン・アクリルエマルジョン
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」 :240質量部
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
水酸化チタン
「オルガチックス(登録商標)ТC−310」 :3質量部
(マツモトファインケミカル株式会社製、固形分42%)
イオン交換水(粘度、固形分調整用) :485質量部
【0087】
なお、高屈折率層形成用インキAを厚さ100μmのポリエステルフィルムにワイヤーバーを用いて塗布した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させて厚さ3μmの層を形成し、この層の屈折率を屈折率計「DVA−36L型」(株式会社溝尻光学工業所製)を用いて測定したところ、屈折率は1.6であった。
【0088】
下記の組成物から低屈折率層形成用インキBを得た。
酸化ケイ素水分散液
「ルドックス(登録商標)HS―40」 :60質量部
(デュポン社製、固形分40%)
シリコーン・アクリルエマルジョン
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」 :120質量部
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
ポリビニルアルコール
「ゴーセノール(登録商標)KL−03」 :12質量部
(日本合成化学株式会社製、固形分100%)
イオン交換水(粘度、固形分調整用) :596質量部
【0089】
なお、低屈折率層形成用インキBから形成される層の屈折率を高屈折率層形成用インキAから形成される層の屈折率と同様の手順で測定したところ、屈折率は1.4であった。
【0090】
図1の塗布装置(ただし、タンク4t、インキ供給ポンプ4p、スリット4以降は図示されていない。)を用いて、高屈折率層形成用インキAをタンク1t、3t、5t、7tに充填し、低屈折率層用形成用インキBをタンク2t、4t、6tに充填した後、インキ供給ポンプ1p〜7pを稼動してコーティングダイユニット11のスリット1〜7からインキを押し出した。
コーティングダイユニット11を流れ落ちる積み重ねられたインキ液層1s〜7sを、コーティングロール4で搬送される基体5(厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡績株式会社製、「コスモシャイン(登録商標)、A4100」))の易接着処理面に塗布した後、80℃の乾燥ゾーン6を通過させた。これによって、PETフィルムの基体に高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層の7層の積層構造が形成された実施例1の赤外線反射性フィルムを得た。赤外線反射性フィルムの厚さから基体の厚みを差し引くことで求めた7層の積層構造の厚みは、約2.1μmだった。
【0091】
実施例1では、高屈折率層形成用インキAに含有させた水酸化チタンと低屈折率層形成用インキBに含有させたポリビニルアルコールとが架橋反応して、ポリビニルアルコール−チタン架橋体が形成する。なお、低屈折率層形成用インキBに含有させたポリビニルアルコールは、酸化ケイ素粒子どうしを結合させる機能も備えている。得られた赤外線反射性フィルムの断面を電子顕微鏡で観察したところ、層の積層構造が識別できることを確認し、各高屈折率層の厚さは約0.3μm、各低屈折率層の厚さは約0.3μmであった。高屈折率層と低屈折率層の間のポリビニルアルコール−チタン架橋体の存在は、電子顕微鏡では確認できなかった。
【0092】
図3は、太陽光の放射スペクトル33、実施例1で得られた赤外線反射性フィルムの反射スペクトル、および下記の実施例2で得られた赤外線反射性フィルムの反射スペクトルを示す。図3より、実施例1および実施例2で得られた赤外線反射性フィルムは、赤外線反射率が高くて赤外線反射率が低いので、赤外線反射性および可視光線透過性が良好であることがわかる。
実施例1で得られた赤外線反射性フィルムは、波長1000nmの赤外線反射率が55%、780nm〜2100nmの範囲の全赤外線反射率が19%、波長350nm〜780nmの範囲の全可視光線透過率が87%であり、層どうしの密着性が100マス中100マス残存し良好であった。
【0093】
(実施例2)
赤外線反射性フィルムの積層構造を、高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層の3層の積層構造としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の赤外線反射性フィルムを製造した。実施例2の赤外線反射性フィルムの3層の積層構造の厚みは約1.0μmであり、また、各高屈折率層の厚さは約0.33μm、低屈折率層の厚さは約0.33μmであった。高屈折率層と低屈折率層の間のポリビニルアルコール−チタン架橋体の存在は、電子顕微鏡では確認できなかった。
【0094】
実施例2で得られた赤外線反射性フィルムは、波長1000nmの赤外線反射率が50%、780nm〜2100nmの範囲の全赤外線反射率が16%、波長350nm〜780nmの範囲の全可視光線透過率が89%であり、層どうしの密着性が100マス中100マス残存し良好であった。
【0095】
(実施例3)
下記の組成物から高屈折率層形成用インキCを得た。
酸化チタン水分散液
「AERODISP(登録商標)−W740」 :60質量部
(日本アエロジル株式会社製、固形分40%)
シリコーン・アクリルエマルジョン
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」 :120質量部
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
ゼラチン
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」 :12質量部
(新田ゼラチン株式会社製、固形分100%)
イオン交換水(粘度、固形分調整用) :485質量部
【0096】
なお、高屈折率層用形成用インキCを、高屈折率層形成用インキAから形成される層の屈折率と同様の手順で測定したところ、屈折率は1.6であった。
【0097】
下記の組成物から低屈折率層形成用インキDを得た。
酸化ケイ素水分散液
「ルドックス(登録商標)HS―40」 :60質量部
(デュポン社製、固形分40%)
シリコーン・アクリルエマルジョン
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」 :120質量部
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
ゼラチン
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」 :12質量部
(新田ゼラチン株式会社製、固形分100%)
イオン交換水(粘度、固形分調整用) :596質量部
【0098】
なお、低屈折率層用形成用インキDから形成される層の屈折率を高屈折率層形成用インキAから形成される層の屈折率と同様の手順で測定したところ、屈折率は1.4であった。
【0099】
図1の塗布装置を用いて、約40℃に加温した高屈折率層形成用インキCをタンク1t、3tに充填し、約40℃に加温した低屈折率層用形成用インキDをタンク2tに充填した後、インキ供給ポンプ1p〜3pを稼動して約40℃に加温したコーティングダイユニット11のスリット1〜3からインキを押し出した。
コーティングダイユニット11を流れ落ちる積み重ねられたインキ液層1s〜3sを、コーティングロール4で搬送される基体5(厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡績株式会社製、「コスモシャイン(登録商標)、A4100」))の易接着処理面上に塗布した後、5℃の冷却ゾーン(図示されていない。)を通過させ、さらに80℃の乾燥ゾーン6を通過させた。これによって、PETフィルムの基体に高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層の3層の積層構造が形成された実施例3の赤外線反射性フィルムを得た。赤外線反射性フィルムの厚さから基体の厚みを差し引くことで求めた3層の積層構造の厚みは、約0.9μmだった。
【0100】
実施例3では、高屈折率層形成用インキCおよび低屈折率層形成用インキDに含有させたゼラチンが塗布後に冷却することによりゲル化する。なお、ゼラチンは、酸化チタン粒子や酸化ケイ素粒子どうしを結合させる機能も備えている。得られた赤外線反射性フィルムの断面を電子顕微鏡で観察したところ、層の積層構造が識別できることを確認し、各高屈折率層の厚さは約0.3μm、各低屈折率層の厚さは約0.3μmであった。
【0101】
実施例3で得られた赤外線反射性フィルムは、波長1000nmの赤外線反射率が49%、780nm〜2100nmの範囲の全赤外線反射率が14%、波長350nm〜780nmの範囲の全可視光線透過率が85%であり、層どうしの密着性が100マス中100マス残存し良好であった。
【0102】
(実施例4)
下記の組成物から高屈折率層形成用インキEを得た。
酸化チタン水分散液
「NanoTek TiO2」 :24質量部
(シーアイ化成株式会社製)
シリコーン・アクリルエマルジョン
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」 :240質量部
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
イオン交換水(粘度、固形分調整用) :485質量部
【0103】
下記の組成物から低屈折率層形成用インキFを得た。
酸化ケイ素エタノール分散液
「ルドックス(登録商標)HS―40」 :60質量部
(デュポン社製、固形分40%)
シリコーン・アクリルエマルジョン
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」 :240質量部
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
イオン交換水(粘度、固形分調整用) :596質量部
【0104】
下記の組成物から析出物形成用インキGを得た。
エチルセルロース「エトセル(登録商標)グレード45」 :2質量部
(日進化成株式会社製)
メチルエチルケトン :98質量部
【0105】
図1の塗布装置(ただし、タンク4t、インキ供給ポンプ4p、スリット4以降は図示されていない。)を用いて、高屈折率層形成用インキEをタンク1t、5tに充填し、低屈折率層形成用インキFをタンク3tに充填し、析出物形成用インキGを2t、4tに充填した後、インキ供給ポンプ1p〜5pを稼動してコーティングダイユニット11のスリット1〜5からインキを押し出した。
コーティングダイユニット11を流れ落ちる積み重ねられたインキ液層1s〜5sを、コーティングロール4で搬送される基体5(厚さ150μmのТACフィルム)の易接着処理面に塗布した後、80℃の乾燥ゾーン6を通過させた。これによって、ТACフィルムの基体に高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層の3層の積層構造が形成された実施例4の赤外線反射性フィルムを得た。赤外線反射性フィルムの厚さから基体の厚みを差し引くことで求めた7層の積層構造の厚みは、約0.9μmだった。
【0106】
実施例4では、析出物形成用インキGに含有させたエチルセルロースが、水を主溶剤とする高屈折率層形成用インキEおよび低屈折率層形成用インキFに溶解せずに析出する。得られた赤外線反射性フィルムの断面を電子顕微鏡で観察したところ、層の積層構造が識別できることを確認し、各高屈折率層の厚さは約0.3μm、各低屈折率層の厚さは約0.3μmであった。高屈折率層と低屈折率層の間のエチルセルロースの存在は、電子顕微鏡では確認できなかった。
【0107】
実施例4で得られた赤外線反射性フィルムは、波長1000nmの赤外線反射率が50%、780nm〜2100nmの範囲の全赤外線反射率が15%、波長350nm〜780nmの範囲の全可視光線透過率が87%であり、層どうしの密着性が100マス中100マス残存し良好であった。
【符号の説明】
【0108】
1t:タンク
2t:タンク
3t:タンク
1p:インキ供給ポンプ
2p:インキ供給ポンプ
3p:インキ供給ポンプ
1:スリット
2:スリット
3:スリット
1s:インキ液層
2s:インキ液層
3s:インキ液層
4:コーティングロール
5:基体
6:乾燥ゾーン
11:コーティングダイユニット
22:高屈折率層
23:低屈折率層
31:実施例1の赤外線反射性フィルムの反射スペクトル
32:実施例2の赤外線反射性フィルムの反射スペクトル
33:太陽光の放射スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物粒子を両方に含有させ、高分子化合物をいずれか一方または両方に含有させた高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキを準備して、
該高屈折率層形成用インキから高屈折率層形成用インキ液層を形成し、該低屈折率層形成用インキから低屈折率層形成用インキ液層を形成して、
該高屈折率層形成用インキ液層と該低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねて、
積み重ねられた該高屈折率層形成用インキ液層および該低屈折率層形成用インキ液層を基体に同時に塗布し、乾燥することを特徴とする赤外線反射性フィルムの製造方法。
【請求項2】
該高屈折率層形成用インキ液層と該低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、該高屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分と該低屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分とを反応させて、該高屈折率層形成用インキ液層および該低屈折率層形成用インキ液層の間に反応生成物を形成させることを特徴とする請求項1に記載の赤外線反射性フィルムの製造方法。
【請求項3】
該高屈折率層形成用インキ液層と該低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、該高屈折率層形成用インキ液層および該低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方に含有させた析出成分を析出させて、該高屈折率層形成用インキ液層および該低屈折率層形成用インキ液層の間に析出物を形成させることを特徴とする請求項1に記載の赤外線反射性フィルムの製造方法。
【請求項4】
反応生成物形成用インキを準備して、該反応生成物形成用インキから反応生成物形成用インキ液層を形成して、
該高屈折率層形成用インキ液層と該反応生成物形成用インキ液層と該低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、該高屈折率層形成用インキ液層または該低屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分と該反応生成物形成用インキ液層に含有させた反応成分とを反応させて、該高屈折率層形成用インキ液層および該低屈折率層形成用インキ液層の間に反応生成物を形成させることを特徴とする請求項1に記載の赤外線反射性フィルムの製造方法。
【請求項5】
析出物形成用インキを準備して、該析出物形成用インキから析出物形成用インキ液層を形成して、
該高屈折率層形成用インキ液層と該析出物形成用インキ液層と該低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、該析出物形成用インキ液層に含有させた析出成分を析出させて、該高屈折率層形成用インキ液層および該低屈折率層形成用インキ液層の間に析出物を形成させることを特徴とする請求項1に記載の赤外線反射性フィルムの製造方法。
【請求項6】
該高屈折率層形成用インキ液層と該低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた後で乾燥前に、該高屈折率層形成用インキ液層および該低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方または両方に含有させたゲル化成分を冷却して、該ゲル化成分を含有させた該高屈折率層形成用インキ液層および該低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方または両方の粘度を低下させることを特徴とする請求項1に記載の赤外線反射性フィルムの製造方法。
【請求項7】
基体と、該基体に形成され、複数の無機化合物粒子を有する高屈折率層および複数の無機化合物粒子を有する低屈折率層が積み重ねられた積層構造とを有する赤外線反射性フィルムであって、
該高屈折率層および該低屈折率層のいずれか一方または両方が、該無機化合物粒子どうしを結合させる高分子化合物を有することを特徴とする赤外線反射性フィルム。
【請求項8】
該高分子化合物が、該高分子化合物を有する層の該無機化合物粒子よりも可視光線透過率が高いことを特徴とする請求項7に記載の赤外線反射性フィルム。
【請求項9】
該高分子化合物が、無機化合物で変性された高分子化合物であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の赤外線反射性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−57831(P2013−57831A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196550(P2011−196550)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】