説明

赤外線反射方法

【課題】着色組成物を用いて黒色または濃彩色の外観と赤外線の反射とを両立させた赤外線反射方法を提供する。
【解決手段】赤外線反射方法は、被塗物を準備する工程と、該被塗物に対して、赤外線反射顔料を含む着色組成物を塗布することにより黒色塗布物を得る工程と、を含み、該赤外線反射顔料は、金属基材と、該金属基材の表面を被覆する金属酸化物干渉層と、該金属酸化物干渉層の表面を部分的に被覆する金属粒子と、を含む構造を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物に対して赤外線反射顔料を含む着色組成物を塗布することにより赤外線を反射する作用を有した黒色塗布物を得る赤外線反射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、遮熱塗料は道路や石油等の貯蔵タンクの温度上昇の防止を目的として使用されている。また近年、地球温暖化防止のため、建築物、自動車等の内部温度の上昇を防止し、冷房に必要なエネルギーを節約する目的で塗料の太陽熱反射特性を改善しようとする試みが成されている。太陽熱を反射するためには、被塗物の外観塗装を白色やシルバーあるいは淡色にすることにより太陽熱を反射し、熱反射効果を高める方法が有効である。
【0003】
しかし、建築物や自動車等の被塗物に黒あるいは濃彩色の外観を付与する場合には、カーボンブラックや鉄黒などの熱を多く吸収する顔料を用いる必要が有り、十分な熱反射特性を得る事は困難であった。
【0004】
そこで、カーボンブラックや鉄黒に代わる、太陽熱反射特性に優れた黒あるいは濃彩色の顔料が強く望まれている。このような熱反射特性に優れた顔料としては、可視光を吸収しかつ赤外線反射特性に優れた顔料が検討されている。具体的には、酸化クロム系複合酸化物顔料(特許文献1、2)、アゾメチン系顔料(特許文献3、4)、ペリレンブラック、アゾ系染料(特許文献4)、あるいは黒色度に優れたストロンチウム鉄酸化物ペロブスカイトが知られている(特許文献5)。また、FeとCoとAlを含有し、更に、Li、Mg、Ca、Ti、Mn、Zn、Sn、Zr、SiおよびCuから選ばれる一種以上の金属元素を含有する黒色系複合酸化物ペロブスカイトも提案されている(特許文献6)。
【0005】
しかしながら、酸化クロム系複合酸化物顔料は有害な元素Crを含むため、クロムフリーが強く要求される用途には使用できない。アゾメチン系顔料、ペリレンブラック、アゾ系染料等の有機顔料は、黒色度と着色力が劣り、耐候性も不十分である。このため、特許文献4に記載されているように、黒あるいは濃彩色を得るために複雑な塗装工程を必要とする。クロムを含まないペロブスカイト系顔料も、着色力に乏しく、赤外線反射能も不十分である。
【0006】
一方、アルミニウム等の金属顔料に酸化アルミニウム、酸化珪素等の干渉層を被覆しその外側に金属粒子層を被覆した意匠性顔料は公知である(特許文献7)。しかしながら、当該文献には、干渉作用により発色する旨が記載されているだけであり、赤外線反射作用を有した黒色顔料を提供するとの課題およびその解決手段を示唆する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−072990号公報
【特許文献2】特開2001−311049号公報
【特許文献3】特開2004−027241号公報
【特許文献4】特開2004−174469号公報
【特許文献5】特開2000−264639号公報
【特許文献6】特開2008−044805号公報
【特許文献7】国際公開第2007/094253号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、着色組成物を用いて黒色または濃彩色の外観と赤外線の反射とを両立させた赤外線反射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の赤外線反射方法は、被塗物を準備する工程と、該被塗物に対して、赤外線反射顔料を含む着色組成物を塗布することにより黒色塗布物を得る工程と、を含み、該赤外線反射顔料は、金属基材と、該金属基材の表面を被覆する金属酸化物干渉層と、該金属酸化物干渉層の表面を部分的に被覆する金属粒子と、を含む構造を有することを特徴とする。
【0010】
ここで、当該赤外線反射顔料は、上記金属酸化物干渉層の光学的厚みが30〜110nmの範囲内であり、かつ上記金属粒子の平均粒子径が10〜50nmの範囲内であることが好ましく、上記金属基材がアルミニウムであることが好ましい。
【0011】
また、上記赤外線反射顔料は、上記金属酸化物干渉層が酸化珪素で構成されることが好ましく、また上記金属酸化物干渉層上に金属中間層が形成され、該金属中間層の表面を部分的に上記金属粒子が被覆することが好ましい。
【0012】
また、上記赤外線反射顔料は、少なくとも上記金属粒子上に最外被覆層を有することが好ましく、また、黒色を呈することが好ましい。また、上記赤外線反射顔料は、互いに補色の関係にある2種以上の顔料からなるものとすることができる。
【0013】
一方、上記着色組成物が、上記赤外線反射顔料10質量部と樹脂バインダー100質量部とを含み、上記被塗物に対して50μmの厚みで塗布された場合、該被塗物に対して上記着色組成物を塗布して得られる黒色塗布物は、色差計による明度(L*値)が20以下であり、彩度(C*値)が5以下であり、かつ波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率が2.5以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記の赤外線反射方法に用いられる赤外線反射顔料にも係り、上記の黒色塗布物を得る工程により得られた黒色塗布物にも係る。
【発明の効果】
【0015】
本発明の赤外線反射方法は、黒色または濃彩色の外観と赤外線の反射とを両立させたという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】光の波長に対する反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<赤外線反射方法>
本発明の赤外線反射方法は、被塗物を準備する工程と、該被塗物に対して、赤外線反射顔料を含む着色組成物を塗布することにより黒色塗布物を得る工程と、を含む。本発明の赤外線反射方法は、これらの工程を含む限り、他の任意の工程を含むことができる。
【0018】
このように本発明の赤外線反射方法は、後に詳述する赤外線反射顔料を含む着色組成物を被塗物に対して塗布することにより、そのようにして得られた黒色塗布物において、黒色または濃彩色の外観と赤外線の反射とを高度に両立させることに成功したものである。以下、各工程ごとに説明する。
【0019】
<被塗物を準備する工程>
本発明の赤外線反射方法は、被塗物を準備する工程を含む。被塗物が準備される限り、その準備方法は特に限定されない。
【0020】
かかる被塗物は、黒色または濃彩色の外観を呈することおよび赤外線を反射することが所望されるものであって、本発明の赤外線反射方法を実行する対象となるものである。このような被塗物としては、たとえば、建築物、自動車、屋外タンク、船舶、屋根材、鉄道車両等を挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。また、これらの例示からも明らかなように、被塗物を構成する素材も特に限定されず、たとえば、金属、コンクリート、プラスチック、ゴム、木材、紙等、極めて広範囲の素材に対して有効である。
【0021】
<黒色塗布物を得る工程>
本発明の赤外線反射方法は、上記の被塗物に対して、赤外線反射顔料を含む着色組成物を塗布することにより黒色塗布物を得る工程を含む。ここで、本発明における黒色塗布物とは、本発明の目的からも明らかなように、その色彩が黒色を呈するもののみに限られず、濃彩色を呈するものを広く包含するものである。すなわち、かかる黒色塗布物は、黒色または濃彩色の外観を呈するとともに赤外線を反射する作用を有するものとなる。したがって、本発明の赤外線反射方法は、この黒色塗布物により具現化されるものであると言える。このため、本発明は、赤外線反射方法に係るものであるとともに、この黒色塗布物に係るものでもある。
【0022】
ここで、かかる着色組成物を被塗物に対して塗布する方法としては、各種塗装方法、各種印刷方法、その他の各種塗布方法等が特に限定なく含まれる。したがって、本発明の着色組成物は、塗料組成物であってもよいし、インキ組成物であってもよい。
【0023】
また、当該黒色塗布物は、被塗物に対して赤外線反射顔料を含む着色組成物を塗布することにより得られるものであるが、当該塗布後に、乾燥、焼付け、定着等の各種処理が施されるものであってもよい。
【0024】
このように本発明の黒色塗布物は、被塗布物に対して、赤外線反射顔料を含む着色組成物を塗布した構成を有するものであるが、被塗布物上に塗布される着色組成物の厚み(乾燥後(固定後)の厚み)としては、5〜100μm程度とすることが好ましい。
【0025】
そして、当該着色組成物が、赤外線反射顔料10質量部と樹脂バインダー100質量部とを含み、上記被塗物に対して50μmの厚み(乾燥後(固定後)の厚み)で塗布された場合、当該黒色塗布物は、色差計による明度(L*値)が20以下であり、彩度(C*値)が5以下であり、かつ波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率が2.5以上であることが好ましい。これらの特性の詳細は後述する。
【0026】
<着色組成物>
本発明の着色組成物は、油性(有機溶剤型)のものであってもよいし、水性のものであってもよいし、粉体塗料のように粉体状のものであってもよい。すなわち、本発明の着色組成物は、赤外線反射顔料を含む限りその組成は何等限定されない。通常、樹脂バインダーの質量に対し0.1〜30%の赤外線反射顔料を含むことが好適である。赤外線反射顔料の上記配合量が少量過ぎる場合は、黒色または濃彩色を呈する塗膜(印刷物を含む。以下同じ)が得られず、またその配合量が多量過ぎる場合は樹脂バインダーの物性(耐候性、耐食性、機械強度など)に悪影響を及ぼす場合がある。
【0027】
本発明の着色組成物は、カーボンブラック含む従来の組成物の代替として、ソリッド塗膜やメタリック塗膜の明度調整剤としても用いることができ、そのような従来の組成物に比べ高い遮熱効果を有する塗膜が得られる。
【0028】
本発明の着色組成物は、より具体的には、次のような成分から構成されることができる。
【0029】
1)樹脂バインダー:アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ニトロセルロース樹脂、フッ素樹脂等。
【0030】
2)顔料等:本発明の赤外線反射顔料の他に次のような着色顔料、体質顔料、または染料を併用しても良い。すなわち、これらの顔料等としては、たとえば、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ペリレン、アゾレーキ等の有機顔料、酸化鉄、酸化チタン、アルミニウム顔料、パールマイカ等の無機顔料等を挙げることができる。
【0031】
3)添加剤:水、有機溶剤、界面活性剤、硬化剤、紫外線吸収剤、静電気除去剤、増粘剤等。これらの添加剤の配合量は特に限定されず、従来公知の範囲内で任意に選択可能である。
【0032】
本発明の着色組成物による塗膜は、電着塗装等による下塗り層や中塗り層の上に形成されていてもよく、また、当該塗膜の上にトップコート層が形成されていてもよい。このように、被塗物に対して下塗り層や中塗り層が形成されている場合であっても、「被塗物に対して着色組成物を塗布する」と表現するものとする。
【0033】
<赤外線反射顔料>
上記の着色組成物に含まれる本発明の赤外線反射顔料は、金属基材と、該金属基材の表面を被覆する金属酸化物干渉層と、該金属酸化物干渉層の表面を部分的に被覆する金属粒子と、を含む構造を有することを特徴とする。すなわち、本発明の赤外線反射方法は、被塗物に塗布される着色組成物に含まれる赤外線反射顔料がこのような構造を有することにより、黒色または濃彩色の外観と赤外線の反射とを両立させるという優れた効果を発揮するものである。また、本発明の赤外線反射顔料は、メタリック感も有するため、立体感のある黒色塗膜が得られるとともに、紫外線領域での反射特性も高く、紫外線遮断効果が要求される化粧品用途等にも好適に使用される。
【0034】
本発明は、赤外線反射方法に係るとともに、このような優れた特性を有する赤外線反射顔料にも係るものである。以下、このような赤外線反射顔料の構造について詳述する。
【0035】
<金属基材>
本発明の赤外線反射顔料を構成する金属基材としては、たとえばアルミニウム、銀、銅、亜鉛、チタン、鉄、ニッケル、およびそれらの合金を挙げることができる。これらの中でも、アルミニウムまたは銀は、特に赤外線反射能が高いことから好ましい。このように顔料の基材として金属基材を用いることにより、赤外線反射による遮熱効果が大きくなり、かつ高い隠蔽性を得ることができる。このような効果は、金属酸化物を基材として用いた場合には決して得ることができない効果である。
【0036】
このような金属基材は、アトマイズ法により粉末として製造する方法や、金属薄片を湿式ボールミル法(ホール法)や乾式ボールミル法で粉砕することにより製造することができる。また、フィルム等に金属薄膜を蒸着した後、これを剥離後粉砕することによっても得ることができる。
【0037】
このような金属基材は、その平均粒径が2〜300μm、好ましくは5〜100μm程度のものが好適である。その平均粒径が2μm未満では、赤外線反射率が不十分となる場合があり、300μmを超えると被塗物の外観が損なわれる結果となる場合がある。このような平均粒径は、レーザー回折法により求めることができる。
【0038】
また、このような金属基材は、その平均厚みが0.01〜5μm、好ましくは0.02〜1μm程度のものが好適である。その平均厚みが0.01μm未満では、黒色や濃彩色を得ることが困難となる場合があり、5μmを超えると被塗物の外観が損なわれる結果となる場合がある。このような平均厚みは、塗膜の断面を観察することによりその平均値(サンプル数は100以上)として求めることができる。
【0039】
そして、本発明の金属基材の形状は、フレーク状であって、特に平均粒径と平均厚みとの比である平均粒径/平均厚みが5〜1000、好ましくは15〜500であることが好適であり、表面が平滑で丸みを帯びた形状であることが好ましい。
【0040】
<金属酸化物干渉層>
上記の金属基材の表面を被覆する本発明の金属酸化物干渉層は、Al、Si、Ti、Zr、Sn、Ca、Mg、Ceなどの金属酸化物により構成されることが好ましい。これらの中でも、Al、Si、Tiなどの透明性の高い金属酸化物が、赤外線反射能を高める効果に優れるため好ましい。特に、Siの酸化物(酸化珪素)は緻密な干渉層が得られやすく最も好ましい。このような金属酸化物干渉層は、外部からこの層に入射した光が金属基材表面で反射する反射光と、この層の表面で反射される反射光とが干渉することにより、色彩の干渉作用を発現する層であるとともに、赤外線を反射する作用をも有する層である。そして、当該金属酸化物干渉層と後述の金属粒子との相互作用により、黒色または濃彩色を呈するものとなる。
【0041】
このような金属酸化物干渉層で金属基材の表面を被覆する方法は、特に限定されないが、たとえば金属アルコキシドを加水分解させて金属基材を被覆するゾルゲル法、気化させた金属化合物を金属基材を含む流動層の中で酸化析出させるCVD法、金属基材を分散させた金属塩溶液に中和剤を加えて金属基材上に金属酸化物を析出させる湿式法等を挙げることができる。
【0042】
また、このような金属酸化物干渉層は、金属基材に直接被覆されていてもよいし、下地中間層を介して被覆されていてもよい。このように金属基材上に下地中間層が形成される場合であっても、本発明においては「金属酸化物干渉層が金属基材の表面を被覆する」と表現するものとする。
【0043】
好ましい下地中間層としては、たとえば酸化アルミニウム、酸化モリブデン、燐酸塩、またはそれらの複合物等を挙げることができ、これらの下地中間層を予め金属基材上に形成することにより、金属酸化物干渉層を安定して形成することができる。したがって、このような下地中間層が形成されていたとしても、本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0044】
当該下地中間層を形成することにより、その上に形成される金属酸化物干渉層をより均一に析出させることができる。これにより、金属酸化物干渉層の厚みが均一となり、より良好な黒色または濃彩色の外観と赤外線の反射性能が付与された赤外線反射顔料が得られる。またモリブデンおよび/またはリンを含む下地中間層は耐食性が良好であるため、当該下地中間層を形成することにより、金属酸化物干渉層を形成する工程における処理溶液と金属基材との異常反応を防止するという効果も得られる。
【0045】
金属基材表面にモリブデンおよび/またはリンを含む下地中間層を形成する方法は特に限定されないが、好ましい方法としては、金属基材とモリブデン化合物および/またはリン化合物を含む溶液とを、スラリー状態またはペースト状態で撹拌または混練することにより、金属基材表面にモリブデンおよび/またはリンを含む水和膜を形成し、その後加熱により酸化膜とする方法が例示される。下地中間層の形成方法の詳細については、たとえば特開平09−328629号公報、特開昭63−054475号公報等に開示されている従来公知の方法が採用され得る。
【0046】
下地中間層の形成に用いられるモリブデン化合物としては、組成式Moxy・mH22・nH2O(ただし、xは1または2、yは2〜5の整数、m,nは任意の正数を示す)で示される過酸化ポリモリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸等が例示される。過酸化ポリモリブデン酸は過酸化水素水溶液(濃度5〜40質量%)に金属モリブデン粉末や酸化モリブデン等を溶解することにより調製することができる。これらの化合物を、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトン等の親水性溶媒に溶解して処理溶液とする。処理溶液には水が含まれていてもよい。
【0047】
下地中間層の形成に用いられるリン化合物としては、正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等が例示される。これらの化合物を、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトン等の親水性溶媒に溶解して処理溶液とする。処理溶液には水が含まれていても良い。
【0048】
下地中間層中のモリブデンおよび/またはリンの量は、金属基材100質量部に対し、0.01〜3.0質量部、さらに0.05〜2.0質量部が好適である。モリブデンおよび/またはリンの量は、処理される金属基材の比表面積に応じて変化させることが望ましい。比表面積の大きい金属基材に対してはモリブデンおよび/またはリンの量を多くし、比表面積が小さい場合にはその量を少なくすることが好ましい。モリブデンおよび/またはリンの量が金属基材100質量部に対し0.01質量部以上である場合、金属酸化物干渉層の厚みの均一性や金属酸化物干渉層を形成する際の金属基材の化学的安定性が良好であり、3.0質量部以下である場合、たとえば金属光沢感等の金属基材の色調の低下や金属基材の凝集が防止されるとともに、耐湿性、密着性、耐候性等の塗膜物性が良好に維持される。
【0049】
下地中間層の厚みは、0.5〜10nmの範囲内とされることが好ましい。当該下地中間層の厚みが0.5nm以上である場合、金属酸化物干渉層の厚みの均一性や金属酸化物干渉層を形成する際の金属基材の化学的安定性が良好であり、10nm以下である場合、たとえば金属光沢感等の金属基材の色調の低下や金属基材の凝集が防止されるとともに、耐湿性、密着性、耐候性等の塗膜物性が良好に維持される。
【0050】
ここで、酸化珪素で構成される金属酸化物干渉層をゾルゲル法で形成する具体的な方法を以下に例示する。
【0051】
まず、金属基材を以下の1)に例示するような水溶性溶剤に分散させ、モリブデン酸、燐酸、またはそれらの縮合物や塩、あるいは過酸化水素水を添加して撹拌混合することにより金属基材上に下地中間層を形成する。その後、以下の2)に例示するような珪素化合物を含む溶液と、水および以下の3)に示すような塩基性または酸性触媒を加え、さらに撹拌混合すると、金属基材を被覆するようにして酸化珪素からなる金属酸化物干渉層を形成することができる。
【0052】
1)水溶性溶剤の例
メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトン等。
【0053】
2)珪素化合物の例
メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等、およびそれらの縮合物、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等。
【0054】
3)触媒の例
アンモニア水、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、ピペラジン、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒、または燐酸、塩酸、硫酸、硝酸、ホスホン酸、オクタンホスホン酸等の酸性触媒。
【0055】
そして、このような金属酸化物干渉層は、30〜110nmの範囲内の光学的厚みを有していることが好ましい。ここで、「光学的厚み」とは、「幾何学的厚み」と「当該金属酸化物干渉層の屈折率」との積(すなわち「幾何学的厚み」×「当該金属酸化物干渉層の屈折率」)を示す。このような光学的厚みは、より好ましくは70〜100nmである。
【0056】
金属酸化物干渉層の光学的厚みが30nm未満の場合、可視光域での光の吸収が不十分となり、また110nmを超えても可視光域での光の吸収が不十分となり、いずれの場合も黒色または濃彩色を呈することが困難となる。このような金属酸化物干渉層の幾何学的厚みは、酸化珪素からなる層の場合、酸化珪素の屈折率は1.45であるため、48−69nmが好ましい範囲となる。
【0057】
なお、金属酸化物干渉層の幾何学的厚みは、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡での断面観察により求めることができる。
【0058】
<金属粒子>
本発明の赤外線反射顔料は、上記の金属酸化物干渉層の表面が部分的に金属粒子により被覆されている。ここで重要なことは、当該金属粒子は、当該金属酸化物干渉層の表面を部分的に被覆すること(換言すれば当該金属酸化物干渉層の表面の一部分のみを被覆すること)であり、当該金属酸化物干渉層の表面の全面が金属粒子により被覆されると、本発明の効果が達成されなくなることである。これは、本発明の赤外線反射顔料に入射した光が金属酸化物干渉層の表面で反射する反射光と、金属粒子表面で反射する反射光とが干渉することにより、はじめて黒色または濃彩色の視覚効果を発現するためであると考えられる。これに対し、当該金属酸化物干渉層の全面を金属粒子で被覆すると、金属粒子による赤外線の反射作用のみが得られ、黒色または濃彩色の視覚効果を発現することはできなくなる。
【0059】
このような金属粒子を構成する元素としては、たとえばAl、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Pt、Au等が例示される。その中でも、Ag、Cu、Ni、Snが好適であり、特にAgは赤外線反射能が高いため最も好ましい。
【0060】
このような金属粒子で被覆する方法としては、その表面を金属酸化物干渉層で被覆した金属基材を金属塩溶液に分散し、還元剤を加えて金属粒子を金属酸化物干渉層の表面に析出させる無電解めっき法を好適な方法として挙げることができるが、真空蒸着のようなPVD法によってこのような金属粒子を形成してもよい。
【0061】
ここで、無電解めっき法に用いる具体的な薬品の例としては、下記に例示するような化合物を挙げることができる。
【0062】
1)金属塩溶液
たとえばAl、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Pt、Auのいずれかを含む水溶性金属塩。この場合の水溶性金属塩としては、たとえば硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩、塩化物、酢酸塩、乳酸塩、スルファミン酸塩、フッ化物、ヨウ化物、シアン化物等。
【0063】
2)還元剤
次亜リン酸、ホルムアルデヒド、水素化ボロン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ヒドラジン、ブドウ糖、酒石酸およびそのアルカリ金属塩等。
【0064】
3)錯化剤
コハク酸等のカルボン酸、クエン酸、酒石酸等のオキシカルボン酸、グリシン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、アミノ酢酸等の有機酸およびこれらの酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩等。
【0065】
そして、当該無電解めっきの具体的な方法としては、まず金属酸化物干渉層で表面を被覆した金属基材を、水またはアルコール、グリコールエーテル等の水溶性溶剤に分散し、硝酸銀、硫酸ニッケル等の金属塩(上記1))とクエン酸等の錯化剤(上記3))とを含む水溶液を加え、温度を20℃〜90℃に保ちながら分散状態を維持し、ホルムアルデヒド等の還元剤(上記2))を加えて、金属酸化物干渉層の表面上に部分的に金属粒子を析出させることにより、本発明の赤外線反射顔料を得ることができる。
【0066】
本発明の金属粒子は、上述の通り、金属酸化物干渉層の表面の一部を覆うように形成されている。すなわち、金属粒子によって被覆されていない部位を有する。
【0067】
このような金属粒子の平均粒子径は、10〜50nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは20〜40nmの範囲内である。金属粒子の平均粒子径がこの範囲よりも小さくても大きくても、可視光領域の光の吸収が不十分となり黒色または濃彩色を呈することができなくなる。金属酸化物干渉層表面の個々の金属粒子の間隔は、10nm以下である事が好ましい。間隔がこれよりも広くなると、可視光領域での光吸収が不十分となり、黒色または濃彩色を呈することができなくなる。
【0068】
なお、このような金属粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた断面観察により確認することができる。断面観察は、赤外線反射顔料の断面をFIB(Focused Ion Beam)加工することにより行なうことが好ましく、複数のものを観察してその平均(サンプル数は100以上)を求めることが好ましい。
【0069】
本発明の赤外線反射顔料の最も好ましい態様としては、金属酸化物干渉層の光学的厚みが30〜110nmの範囲内であり、かつ金属粒子の平均粒子径が10〜50nmの範囲内であるものを挙げることができる。このような構成を有することにより、最も好適に黒色または濃彩色の外観と赤外線の反射とを両立させることができる。
【0070】
なお、このような金属粒子の含有量は、金属基材100質量部当り、5〜50質量部の範囲内であることが好適である。5質量部未満では黒色や濃彩色を得ることが困難となる場合があり、50質量部を超えても黒色や濃彩色を得ることが困難となる場合がある。その含有量は、より好ましくは7〜20質量部である。
【0071】
<金属中間層>
本発明の赤外線反射顔料は、上記金属酸化物干渉層上に金属中間層が形成され、該金属中間層の表面を部分的に上記金属粒子が被覆する構造とすることもできる。すなわち、金属酸化物干渉層と金属粒子との間に金属中間層を形成することができ、このような金属中間層が形成されていたとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0072】
このような金属中間層を形成すると、金属粒子を無電解めっきにより形成する場合において、金属粒子の粒径や分布状態を容易に制御することができるという優れた作用が示される。当該金属中間層としては、Sn、Pd、Pt、Au等の金属またはそれらの化合物を挙げることができる。
【0073】
このような金属中間層は、たとえば金属アルコキシドをゾルゲル法により加水分解して析出させる方法や、金属塩溶液にアルカリを加えて中和析出する方法等によって形成することができるが、形成方法はこれらのみに限定されるものではない。ゾルゲル法を採用する場合は、上記の金属酸化物干渉層の項において説明したのと同様の条件を採用することができる。
【0074】
なお、金属粒子を無電解めっきにて形成する場合には、金属中間層とされるための金属を含む水溶性金属塩を使用することにより金属中間層を形成することが好ましい。
【0075】
また、加水分解析出させる方法において使用される金属アルコキシドとしては、テトラエトキシ錫などが例示でき、該金属アルコキシドを分散させたコロイド溶液が好ましく使用され得る。また金属アルコキシドの加水分解触媒としては、アンモニア水、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ヒドラジン、尿素などが例示できる。
【0076】
また、中和析出させる方法において使用される金属塩としては、塩化錫、フッ化錫等が例示できる。また金属塩の中和剤としては、アンモニア水、水酸化ナトリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンなどが例示できる。また反応溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルプロピレングリコール、ブチルセロソルブなどが例示できる。
【0077】
本発明における金属粒子が、水溶性金属塩を使用して無電解めっきにより形成される場合、金属中間層は、当該無電解めっきの前処理として用いられる方法を用いて形成されることができる。無電解めっきの前処理としては、一般的にキャタリスト(キャタライジングとも称する)−アクセレータ(アクセレーティングとも称する)法と、センシタイジング−アクチベーティング法があり、どちらの方法を用いてもよい。また、キャタリストのみまたはセンシタイジングのみを行なってもよい。
【0078】
キャタリスト−アクセレータ法とは、Snと、Pd、Pt、Auのいずれかとを含む混合溶液をキャタリストとし、金属酸化物干渉層を形成した金属顔料を当該キャタリストに浸漬して、当該金属顔料の表面にPd、Pt、AuのいずれかとSnとの錯体化合物等を吸着させた後、硫酸、塩酸等の酸溶液または水酸化ナトリウム、アンモニア等のアルカリ溶液をアクセレータとし、当該アクセレータに上記の金属顔料を浸漬し、Snを除去してPd、Pt、Auのいずれかを活性化する方法である。
【0079】
センシタイジング−アクチベーティング法とは、Sn溶液をセンシタイジング液とし、金属酸化物干渉層を形成した金属基材を当該センシタイジング液に浸漬して、当該金属基材の表面にSnを吸着させた後、Pd、Pt、Auのいずれかを含む溶液をアクチベーティング液とし、Pd、Pt、Auのいずれかを上記の金属基材の表面に担持させる方法である。
【0080】
センシタイジング法とは、Sn溶液をセンシタイジング液とし、金属酸化物干渉層を形成した金属顔料を該センシタイジング液に浸漬して、当該金属基材の表面にSnを吸着させることによりSnを当該金属基材の表面に担持させる方法である。
【0081】
無電解めっきの前処理として用いられる方法で形成される金属中間層の金属源としては、Sn、Pd、Pt、Auのいずれかを含む水溶性金属塩を使用することができる。具体的な金属塩としては、塩化錫、シュウ酸錫、硫酸錫、臭化錫、酢酸錫、ほう弗化錫、弗化錫、錫酸ナトリウム、錫酸カリウム、メタンスルホン酸錫、硫化錫、ケイ弗化錫、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、臭化パラジウム、水酸化パラジウム、硝酸パラジウム、酸化パラジウム、硫酸パラジウム、臭化金、塩化金、塩化白金、酸化白金等が例示できる。
【0082】
上記のような方法により、Sn、Pd、Pt、Au等の触媒層が本発明における金属中間層として担持される。この後、当該金属中間層の表面に無電解めっきによって金属粒子を形成することができる。金属中間層が形成された金属基材を無電解めっき溶液に浸漬すると、金属中間層の触媒活性により、めっき液中の還元剤が当該金属中間層の表面で酸化される。このとき放出される電子によって無電解めっき溶液中の金属イオンが還元され、金属中間層の表面に金属が析出し、金属粒子が生成する。
【0083】
本発明において、金属中間層の厚みは30nm以下とされることが好ましい。この場合、得られる赤外線反射顔料により良好な黒色または濃彩色の外観と赤外線の反射性能が付与される。金属中間層の厚みは、さらに0.1〜10nmの範囲内とされることが好ましい。金属中間層の厚みは、たとえば透過型電子顕微鏡(TEM)における300万倍程度の高倍率観察において、金属酸化物干渉層と金属粒子との間に形成される金属の層として確認することができる。また、局部EDS(エネルギー分散型X線分光:Energy−dispersive X−ray spectroscopy)により元素の存在を確認することも可能である。金属中間層は、典型的には粒子の集合体が連続した層をなすことにより形成される。
【0084】
なお、金属中間層は金属酸化物干渉層の表面に均一に析出していても不均一に析出していても良い。また、たとえばTEMで観察できない程度に金属中間層の厚さが薄い場合であっても、金属中間層が析出している場合には金属粒子を緻密かつ均一に析出させることが可能である。
【0085】
<最外被覆層>
本発明の赤外線反射顔料は、少なくとも上記金属粒子上に最外被覆層を有する構成とすることができる。ここで、「少なくとも上記金属粒子上」との表現は、この最外被覆層が上記金属粒子を被覆するとともに金属酸化物干渉層(金属中間層が形成される場合は金属中間層)をも被覆し得ることを意味するものである。したがって、本発明の赤外線反射顔料は、この最外被覆層が形成される場合は、当該最外被覆層が赤外線反射顔料の全表面を被覆する態様とすることもできる。
【0086】
このような最外被覆層は、樹脂で構成されていてもよいし、金属酸化物で構成されていてもよい。また、カップリング剤で構成されていてもよい。以下、順に説明する。
【0087】
1)最外被覆層が樹脂で構成される場合
最外被覆層を樹脂で構成する場合、当該赤外線反射顔料を配合した塗膜の耐湿性、耐水性、耐候性等が改善され、より高性能の塗膜を得ることができる。また、このような最外被覆層を形成したことにより、金属酸化物干渉層上に析出させた金属粒子が固定され、撹拌や混練等の際に金属粒子が剥がれ、黒色または濃彩色の外観を提供する性能が低減するという問題を防止することができる。
【0088】
このような樹脂による最外被覆層の形成方法は特に限定されるものではないが、たとえば金属粒子をその表面に既に有する赤外線反射顔料(1〜30質量部)を非極性溶媒(100質量部)に分散し、モノマーと重合開始剤を加えて60〜150℃程度の温度で1時間以上加熱下に撹拌することにより、モノマーが重合した樹脂を最外被覆層として当該赤外線反射顔料の表面に析出させることができる。
【0089】
赤外線反射顔料を被覆する樹脂の量は、赤外線反射顔料(金属粒子を担持した状態のもの)100質量部に対して、1〜30質量部、好ましくは3〜20質量部とすることが好適である。樹脂の被覆量が少な過ぎると金属粒子がうまく固定できず、多過ぎると塗膜の外観や艶が悪化する傾向を示す場合がある。
【0090】
以下に、この最外被覆層の形成に用いられる各種材料を例示する。
(非極性溶媒の例)
ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、パラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等。
【0091】
(モノマーの例)
モノマーとしては重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定なく使用できるが、重合性二重結合を二個以上有する化合物や、官能基と重合性二重結合の両方を有する化合物、アルキル基やベンゼン核を有する重合性化合物等を併用し、樹脂の密着性や硬さ、架橋密度等を、所望に応じて調整することができる。
【0092】
(重合性二重結合を2個以上有する化合物の例)
トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート等。
【0093】
(官能基を有する重合性化合物の例)
アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル、アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジルスチレン、ジ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ラウリル、ジアリルジブチルホスホノサクシネート、エポキシ化大豆油、エポキシ化ポリブタジエン等。
【0094】
(アルキル基、ベンゼン核等を有する重合性化合物の例)
アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−メトキシエチル、フェニルビニルケトン、フェニルビニルエーテル、ジビニルベンゼンモノオキサイドフェノキシエチルアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、アクリルニトリル、メタクリルニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ポリブタジエン、アマニ油、大豆油、シクロヘキセンビニルモノオキサイド等。
【0095】
(重合開始剤の例)
ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、などのパーオキサイド類、およびアゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ化合物等。
【0096】
2)最外被覆層が金属酸化物で構成される場合
本発明の赤外線反射顔料の金属粒子の上に、アルミニウム、珪素、セリウム等から選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属酸化物を最外被覆層として形成することにより、本発明の赤外線反射顔料を配合した塗膜の耐湿性、耐水性、耐候性等が改善され、より高性能の塗膜を得ることができる。また、このように金属酸化物で被覆することにより、金属粒子が固定され、撹拌や混練等の際に金属粒子が剥がれ、黒色または濃彩色の外観を提供する性能が低減するという問題を防止することができる。
【0097】
このような金属酸化物による最外被覆層の形成方法は特に限定されるものではないが、たとえば金属粒子をその表面に既に有する赤外線反射顔料(1〜30質量部)を親水性溶剤(100質量部)に分散し、アルミニウム、珪素、セリウム等を含む金属アルコキシド、加水分解触媒および水を加えて、金属アルコキシドを加水分解し、さらに縮合させて酸化物粒子を生成させ、これを赤外線反射顔料表面(すなわち金属粒子上)に析出させ成膜するゾルゲル法が好適である。
【0098】
また、別の方法としては、硝酸アルミニウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム等を溶解した溶液中に、金属粒子をその表面に既に有する赤外線反射顔料を加え、アンモニア、トリエタノールアミン等の中和剤を加えて加熱下に撹拌または混練する方法が好ましい。
【0099】
このような金属酸化物による最外被覆層の厚みは1〜50nm、好ましくは5〜20nmとすることが好適である。この厚みが薄過ぎると金属粒子が十分に固定できず、多過ぎると塗膜外観や艶が悪化する傾向を示す場合がある。
【0100】
以下に、この最外被覆層の形成に用いられる各種材料を例示する。
(親水性溶剤の例)
メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトン等。
【0101】
(金属アルコキシドの例)
テトラエトキシシランおよびその縮合物、テトライソプロポキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウム、テトラエトキシセリウム等。
【0102】
(加水分解触媒の例)
アンモニア、トリエチルアミン、ピペラジン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、エチレンジアミン、燐酸、硝酸、酢酸等。
【0103】
3)最外被覆層がカップリング剤で構成される場合
本発明の赤外線反射顔料の金属粒子の上に、珪素および/またはチタンを含むカップリング剤を最外被覆層として形成することにより、当該赤外線反射顔料を配合した塗膜の塗膜性能(密着性、耐湿性、耐水性、耐候性等)を改善することができる。このようなカップリング剤による最外被覆層の形成方法は特に限定されるものではないが、たとえば金属粒子をその表面に既に有する赤外線反射顔料を親水性溶媒に分散し、カップリング剤と水を加える方法や、当該赤外線反射顔料に溶剤、水、カップリング剤を加え混練撹拌する方法などを例示することができる。
【0104】
このようなカップリング剤の添加量は、赤外線反射顔料(金属粒子を担持した状態のもの)100質量部に対し、0.1〜5質量部、好ましくは0.3〜2質量部とすることが好適である。その添加量が少な過ぎる場合は十分な塗膜性能改善効果が得られず、多過ぎると赤外線反射顔料が経時で凝集したり、塗膜外観や艶が悪化する傾向を示す場合がある。
【0105】
以下に、この最外被覆層の形成に用いられる各種カップリング剤を例示する。
(チタンカップリング剤の例)
テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタンおよびそれらの縮合物、テトラステアロキシチタン、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、ジブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジヒドロキシビス(ラクタト)チタン、イソプロピルトリ(N−アミノエチルアミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート等。
【0106】
(シランカップリング剤の例)
メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ノニルフェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセタミド、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等。
【0107】
<赤外線反射顔料の特性等>
本発明の赤外線反射顔料および黒色塗布物は、下記のような特性を有する。
【0108】
すなわち、まず本発明の赤外線反射顔料は、当該顔料自体の構造に由来する光干渉効果および/または干渉色を有し、当該顔料粒子自体で黒色または濃彩色を発することにより当該顔料を含む塗膜が黒色または濃彩色の外観を呈する、あるいは、当該顔料粒子が複数集合することによりその補色効果によって当該顔料を含む塗膜が黒色または濃彩色の外観を呈する。
【0109】
そして、本発明の黒色塗布物は、上記のような赤外線反射顔料を含む塗膜を表面に有することにより、以下のような条件下に、以下のような特性を有するものとすることができる。すなわち、当該赤外線反射顔料10質量部と樹脂バインダー100質量部とを含む着色組成物を、被塗物に対して50μmの厚みで塗布した当該黒色塗布物は、色差計による明度(L*値)が20以下であり、彩度(C*値)が5以下であり、かつ波長1600nmの赤外線反射率と波長600nmの可視光線反射率との比である波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率が2.5以上であるという特性を示す。
【0110】
一般に、干渉膜(本発明の金属酸化物干渉層に相当)の膜厚(幾何学的厚み、dnm)および屈折率(n)と干渉色の波長(λnm)の関係は次式で表される。
【0111】
2nd=(2m+1)λ/2
この式において、mはゼロ以上の整数を示し、m=0かつ350≦λ≦380となるような範囲、すなわち87.5≦nd≦95とすること(「nd」は光学的厚みを示す)により、本発明の赤外線反射顔料は光干渉効果により黒に発色する。この範囲は金属酸化物干渉層の0次干渉色の発色波長範囲と1次干渉色の発色波長範囲の隙間に相当し、次数の異なる干渉光の重なりが無いため黒色になると考えられる。
【0112】
また、87.5≦nd≦95の範囲外であっても、干渉色を有する個々の赤外線反射顔料粒子の補色効果により彩度(C*値)が10以下の黒色または濃彩色を呈する赤外線反射顔料が得られる。
【0113】
したがって、本発明の赤外線反射顔料は、それ自体で黒色を呈することが好ましいが、互いに補色の関係にある2種以上の赤外線反射顔料を用いても、黒色の外観を呈することが可能となる。たとえば、本発明の構成を有する赤外線反射顔料であって、茶色に発色する顔料粒子と紺色に発色する顔料粒子とを混合することにより、彩度(C*値)が5以下の黒色を呈する一群の顔料を得ることができる。ただし、顔料の明度(L*値)を20以下にするためには、金属酸化物干渉層の光学的厚み(nd)を70−100nmとすることが望ましい。
【0114】
本発明による赤外線反射顔料(すなわち黒色塗布物)の色差計による明度(L*値)は20以下、かつ彩度(C*値)は5以下であることが望ましい。明度(L*値)あるいは彩度(C*値)がこの範囲を超える顔料は黒色の外観を呈することができず、目的とする黒色塗布物を得ることができなくなる。なお、明度および彩度の下限は特に限定されないが、測定装置の検出精度の観点から明度の下限は0.1以上であり、測定装置の検出精度の観点から彩度の下限は0.1以上である。勿論、上記の各条件を調整することにより、濃彩色の色彩を得ることも可能である。
【0115】
ここで、上記の色差計とは、拡散照明垂直受光方式による色彩色差計を指し、具体的にはコニカミノルタセンシング株式会社製の色彩色差計「CR400」または「CR300」を例示することができる。また、明度(L*値)とは1976年に国際照明委員会(CIE)により規格化され、JIS Z8729でも規格化されているL*a*b*表色系における明度を指す。また、彩度(C*値)とはL*a*b*表色系における色度a*値およびb*値より、次式によって計算された彩度の指標である。
【0116】
C*=(a*2+b*21/2
なお、このような明度および彩度を測定する際の着色組成物の組成等の詳細な条件は、以下の反射率の比を測定する条件の説明において詳述する。
【0117】
本発明の赤外線反射顔料(すなわち黒色塗布物)は、波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率(の比)が2.5以上となることが好ましい。ここで、波長1600nmの赤外線反射率および波長600nmの可視光線反射率は、マルチパーパス分光光度計によって測定することができる。上記の比が2.5未満の場合は、十分な遮熱特性が得られない場合がある。また、この比の上限は特に限定されないが、測定装置の検出精度の観点からその上限は20以下である。
【0118】
マルチパーパス分光光度計による、波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率の比は下記の方法により測定することができる。
【0119】
1)着色組成物の作製
本発明の赤外線反射顔料10質量部に対し、樹脂バインダーとして常乾型アクリル樹脂バインダー(日本ペイント株式会社製、商品名:「ニッペアクリルオートクリヤー」)100質量部を加え、均一になるまで撹拌混合することにより着色組成物を作製する。
【0120】
2)黒色塗布物(塗膜)の作製
上記1)で得られた着色組成物を、被塗物であるアート紙上に225μm(9mil)ドクターブレードを用いて塗布することにより黒色塗布物(塗膜)を作製する(この場合、下地(アート紙)が十分に隠蔽されていない場合は、上記1)における赤外線反射顔料の配合量を増加し、完全に下地が隠蔽された状態の黒色塗布物を作製する)。
【0121】
3)分光光度分布の測定
上記2)で得られた黒色塗布物(塗膜)からの反射光の分光光度分布を、日本分光製紫外可視近赤外分光光度計「V−570」により、反射測定モードで測定する。得られた分光光度曲線の波長600nmおよび1600nmにおける反射率を読み取り、波長1600nmの赤外線反射率と波長600nmの可視光線反射率との比である波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率を算出する。
【実施例】
【0122】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0123】
<実施例1>
過酸化水素30質量%を含む過酸化水素水3gに金属モリブデン粉末0.3gを少しずつ加え、反応させて得られた溶液をイソプロピルアルコール(以下「IPA」と記す)500gに溶解した。
【0124】
続いて、このIPA溶液に、金属基材として市販のペースト状のアルミニウム顔料(東洋アルミニウム(株)製、商品名:「5422NS」−固形分(アルミニウムフレーク)75質量%、平均粒径:19μm、平均厚み:1μm)を40g(すなわちアルミニウムフレークとして30g)加え、75℃で1時間撹拌混合してスラリーを得た。これにより、金属基材としてのアルミニウムフレークの表面に酸化モリブデンからなる下地中間層を形成した。
【0125】
次いで、上記スラリーに対して、アンモニア水と水80gとを加え該スラリーのpH値を10.0に調整した。そして、pH調整後の該スラリーに対して、テトラエトキシシラン16gを40gのIPAに溶解したものを徐々に滴下し、さらに75℃で2時間撹拌混合した。その後、該スラリーをフィルターで固液分離することにより、金属基材(下地中間層)の表面に金属酸化物干渉層として非晶質酸化珪素からなる層を形成した(以下、これを便宜的に「酸化珪素被覆金属基材」という)。
【0126】
引き続き、このようにして得られた酸化珪素被覆金属基材10gを、塩化錫40gおよび塩酸2gを含む水溶液300g中に添加し、30℃で1時間分散した後、再度固液分離するとともに水洗することにより、酸化珪素被覆金属基材の表面を錫からなる金属中間層で被覆した(以下、これを便宜的に「金属中間層被覆金属基材」という)。
【0127】
続いて、このようにして得られた金属中間層被覆金属基材を、硝酸銀3g、ホルムアルデヒド2g、アンモニア水10gを含む無電解銀めっき液800gに分散し、30℃で1時間保持することにより、金属中間層の表面を部分的に被覆する銀からなる金属粒子を形成した(以下、これを便宜的に「金属粒子被覆金属基材」という)。
【0128】
次いで、このようにして得られた金属粒子被覆金属基材を固液分離し、乾燥することにより、本発明の赤外線反射顔料を得た。この赤外線反射顔料の金属酸化物干渉層と金属粒子とを透過電子顕微鏡で観察した。その結果、金属酸化物干渉層の幾何学的厚みdは64nmであった。酸化珪素の屈折率は1.45であることから、金属酸化物干渉層の光学的厚みを算出すると93nmとなった。一方、金属粒子の平均粒子径は20nmであり、金属酸化物干渉層(正確には金属中間層)の表面を部分的に被覆していることを確認した。
【0129】
そして、被塗物としてアート紙を準備し、この被塗物に対して上記で得られた赤外線反射顔料を含む着色組成物を塗布することにより黒色塗布物を得、本発明の赤外線反射方法を実行した。
【0130】
上記着色組成物は、上記赤外線反射顔料10質量部に対して、樹脂バインダーとして常乾型アクリル樹脂バインダー(日本ペイント株式会社製、商品名:「ニッペアクリルオートクリヤー」)100質量部を含む組成を有し、被塗物に対して50μmの厚みで塗布した。
【0131】
このようにして得られた黒色塗布物について、明度(L*値)、彩度(C*値)および反射光の分光光度曲線(図1)における波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率の比を、それぞれ前述の方法を用いて求めたところ、結果は以下の通りであった。なお、図1は縦軸が反射率(%R)、横軸が波長(nm)であり、本実施例1が後述の比較例2に比し、赤外線領域(波長が1000nm以上)において反射率が飛躍的に高くなっていることを示している。
【0132】
明度(L*値):16
彩度(C*値):4.2
波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率:3.4
上記の結果からも明らかなように、この黒色塗布物は、黒色の外観を呈するとともに、赤外線を効率的に反射するものであった。
【0133】
<実施例2>
実施例1と同様の条件において、テトラエトキシシランの添加量を17gとすることを除き、他は全て実施例1と同様にして本発明の赤外線反射顔料を得た。この赤外線反射顔料を「赤外線反射顔料A」とする。
【0134】
一方、実施例1と同様の条件において、テトラエトキシシランの添加量を14gとすることを除き、他は全て実施例1と同様にして本発明の赤外線反射顔料を得た。この赤外線反射顔料を「赤外線反射顔料B」とする。
【0135】
そして、この赤外線反射顔料Aと赤外線反射顔料Bとを1:1の質量比で混合したものを用いることを除き、他は全て実施例1と同様にして黒色塗布物を得、明度(L*値)、彩度(C*値)および波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率の比を求めた。結果は以下の通りであった。
【0136】
明度(L*値):17
彩度(C*値):4.5
波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率:3.3
上記の結果からも明らかなように、この黒色塗布物は、実施例1の黒色塗布物と同様に、黒色の外観を呈するとともに、赤外線を効率的に反射するものであった。
【0137】
なお、「赤外線反射顔料A」と「赤外線反射顔料B」の金属酸化物干渉層の厚みと金属粒子の平均粒子径を透過電子顕微鏡観察により測定した結果、下記のような結果となった。
【0138】
(赤外線反射顔料A)
金属酸化物干渉層の幾何学的厚み:68nm(光学的厚み:99nm)
金属粒子の平均粒子径:20nm
(赤外線反射顔料B)
金属酸化物干渉層の幾何学的厚み:56nm(光学的厚み:81nm)
金属粒子の平均粒子径:20nm
<実施例3>
過酸化水素30質量%を含む過酸化水素水3gに金属モリブデン粉末0.3gを少しずつ加え、反応させて得られた溶液をIPA500gに溶解した。
【0139】
続いて、このIPA溶液に、金属基材として実施例1で用いたのと同じ市販のペースト状のアルミニウム顔料を40g(すなわちアルミニウムフレークとして30g)加え、75℃で1時間撹拌混合してスラリーを得た。これにより、金属基材としてのアルミニウムフレークの表面に酸化モリブデンからなる下地中間層を形成した。
【0140】
次いで、上記スラリーに対して、ジブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン3gと水10gを加え50℃で30分間撹拌した。その後、該スラリーに、テトライソプロポキシチタン21gを40gのIPAに溶解したものを徐々に滴下し、さらに75℃で2時間撹拌混合した。その後、該スラリーをフィルターで固液分離することにより、金属基材(下地中間層)の表面に金属酸化物干渉層として非晶質酸化チタンからなる層を形成した(以下、これを便宜的に「酸化チタン被覆金属基材」という)。
【0141】
引き続き、このようにして得られた酸化チタン被覆金属基材10gを、塩化錫40gおよび塩酸2gを含む水溶液300g中に添加し、30℃で1時間分散した後、再度固液分離するとともに水洗することにより、酸化チタン被覆金属基材の表面を錫からなる金属中間層で被覆した(以下、これを便宜的に「金属中間層被覆金属基材」という)。
【0142】
続いて、このようにして得られた金属中間層被覆金属基材を、硝酸銀3g、ホルムアルデヒド2g、アンモニア水10gを含む無電解銀めっき液800gに分散し、30℃で1時間保持することにより、金属中間層の表面を部分的に被覆する銀からなる金属粒子を形成した(以下、これを便宜的に「金属粒子被覆金属基材」という)。
【0143】
次いで、このようにして得られた金属粒子被覆金属基材を固液分離し、乾燥することにより、本発明の赤外線反射顔料を得た。この赤外線反射顔料の金属酸化物干渉層と金属粒子とを透過電子顕微鏡で観察した。その結果、金属酸化物干渉層の幾何学的厚みdは35nmであった。酸化チタン(アナターゼ)の屈折率は2.52であることから、金属酸化物干渉層の光学的厚みを算出すると88nmとなった。一方、金属粒子の平均粒子径は30nmであり、金属酸化物干渉層(正確には金属中間層)の表面を部分的に被覆していることを確認した。
【0144】
そして、被塗物としてアート紙を準備し、この被塗物に対して上記で得られた赤外線反射顔料を含む着色組成物を塗布することにより黒色塗布物を得、本発明の赤外線反射方法を実行した。
【0145】
上記着色組成物は、上記赤外線反射顔料10質量部に対して、樹脂バインダーとして常乾型アクリル樹脂バインダー(日本ペイント株式会社製 ニッペアクリルオートクリヤー)100質量部を含む組成を有し、被塗物に対して50μmの厚みで塗布した。
【0146】
このようにして得られた黒色塗布物について、明度(L*値)、彩度(C*値)および反射光の分光光度曲線における波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率の比を、それぞれ前述の方法を用いて求めたところ、結果は以下の通りであった。
【0147】
明度(L*値):15
彩度(C*値):3.5
波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率:2.9
上記の結果からも明らかなように、この黒色塗布物は、黒色の外観を呈するとともに、赤外線を効率的に反射するものであった。
【0148】
<比較例1>
過酸化水素30質量%を含む過酸化水素水3gに金属モリブデン粉末0.3gを少しずつ加え、反応させて得られた溶液をIPA500gに溶解した。
【0149】
続いて、実施例1の金属基材に代えて基材として市販のアルミナフレーク(キンセイマテック(株)製、商品名:「YF10050」−固形分100質量%、平均粒径:10μm、平均厚み:1μm)30gを上記のIPA溶液に加え、75℃で1時間撹拌混合してスラリーを得た。これにより、アルミナフレーク上に酸化モリブデン層を形成した。
【0150】
次いで、上記スラリーに対して、アンモニア水と水80gとを加え該スラリーのpH値を10.0に調整した。そして、pH調整後の該スラリーに対して、テトラエトキシシラン16gを40gのIPAに溶解したものを徐々に滴下し、さらに75℃で2時間撹拌混合した。その後、該スラリーをフィルターで固液分離することにより、アルミナフレーク(酸化モリブデン層)の表面に本発明の金属酸化物干渉層に相当する非晶質酸化珪素干渉層を形成した(以下、これを便宜的に「酸化珪素被覆アルミナフレーク」という)。
【0151】
引き続き、このようにして得られた得られた酸化珪素被覆アルミナフレーク10gを、塩化錫40gおよび塩酸2gを含む水溶液300g中に添加し、30℃で1時間分散した後、再度固液分離するとともに水洗することにより、酸化珪素被覆アルミナフレークの表面を、錫からなる本発明の金属中間層に相当する層で被覆した(以下、これを便宜的に「金属中間層被覆アルミナフレーク」という)。
【0152】
続いて、このようにして得られた金属中間層被覆アルミナフレークを、硝酸銀3g、ホルムアルデヒド2g、アンモニア水10gを含む無電解銀めっき液800gに分散し、30℃で1時間保持することにより、金属中間層の表面を部分的に被覆する銀からなる金属粒子を形成した(以下、これを便宜的に「金属粒子被覆アルミナフレーク」という)。
【0153】
次いで、このようにして得られた金属粒子被覆アルミナフレークを固液分離し、乾燥することにより、基材をアルミナフレークとする比較例の顔料を得た。
【0154】
そして、この顔料を用いることを除き、他は実施例1と全て同様にして塗布物を得、その明度(L*値)、彩度(C*値)および反射光の分光光度曲線における波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率の比を求めたところ、結果は以下の通りであった。
【0155】
明度(L*値):19
彩度(C*値):1.9
波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率:1.2
上記の結果からも明らかなように、この塗布物は、十分な黒色の外観を呈さず、赤外線の反射も十分ではなかった。したがって、本発明の構成を有する赤外線反射顔料を用いなければ黒色の外観と赤外線の反射とを両立させることが困難であることが確認できた。
【0156】
<比較例2>
下記の配合により着色組成物(塗料)を作製し、この着色組成物を用いることを除き、他は全て実施例1と同様にして黒色塗布物を得、その明度(L*値)、彩度(C*値)および反射光の分光光度曲線(図1)における波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率の比を求めたところ、結果は以下の通りであった。
【0157】
(着色組成物)
アルミニウム顔料(実施例1において金属基材として用いた東洋アルミニウム(株)製「5422NS」):10質量部
カーボンブラック(三菱化学(株)製、「HCF #2650」):1.5質量部
樹脂バインダー(日本ペイント(株)製、「ニッペアクリルオートクリヤー」):100質量部
(物性値)
明度(L*値):16
彩度(C*値):2.1
波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率:1.8
上記の結果からも明らかなように、この黒色塗布物は、黒色の外観を呈するものの、赤外線を反射することができなかった。したがって、本発明の構成を有する赤外線反射顔料を用いなければ黒色の外観と赤外線の反射とを両立させることが困難であることが確認できた。
【0158】
<比較例3>
下記の配合により着色組成物(塗料)を作製し、この着色組成物を用いることを除き、他は全て実施例1と同様にして黒色塗布物を得、その明度(L*値)、彩度(C*値)および反射光の分光光度曲線における波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率の比を求めたところ、結果は以下の通りであった。
【0159】
(着色組成物)
アルミニウム顔料(実施例1において金属基材として用いた東洋アルミニウム(株)製「5422NS」):10質量部
ペリレンブラック(BASFジャパン(株)製、「Paliogen Black S 0084」):1.5重量部
樹脂バインダー(日本ペイント(株)製、「ニッペアクリルオートクリヤー」):100質量部
(物性値)
明度(L*値):25
彩度(C*値):8.9
波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率:1.7
上記の結果からも明らかなように、この黒色塗布物は、黒色の外観を呈するものの、赤外線を反射することができなかった。したがって、本発明の構成を有する赤外線反射顔料を用いなければ黒色の外観と赤外線の反射とを両立させることが困難であることが確認できた。
【0160】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0161】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物を準備する工程と、
前記被塗物に対して、赤外線反射顔料を含む着色組成物を塗布することにより黒色塗布物を得る工程と、
を含む赤外線反射方法であって、
前記赤外線反射顔料は、金属基材と、該金属基材の表面を被覆する金属酸化物干渉層と、該金属酸化物干渉層の表面を部分的に被覆する金属粒子と、を含む構造を有する、赤外線反射方法。
【請求項2】
前記赤外線反射顔料は、前記金属酸化物干渉層の光学的厚みが30〜110nmの範囲内であり、かつ前記金属粒子の平均粒子径が10〜50nmの範囲内である、請求項1に記載の赤外線反射方法。
【請求項3】
前記赤外線反射顔料は、前記金属基材がアルミニウムである、請求項1または2に記載の赤外線反射方法。
【請求項4】
前記赤外線反射顔料は、前記金属酸化物干渉層が酸化珪素で構成される、請求項1〜3のいずれかに記載の赤外線反射方法。
【請求項5】
前記赤外線反射顔料は、前記金属酸化物干渉層上に金属中間層が形成され、該金属中間層の表面を部分的に前記金属粒子が被覆する、請求項1〜4のいずれかに記載の赤外線反射方法。
【請求項6】
前記赤外線反射顔料は、黒色を呈する、請求項1〜5のいずれかに記載の赤外線反射方法。
【請求項7】
前記赤外線反射顔料は、互いに補色の関係にある2種以上の顔料からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の赤外線反射方法。
【請求項8】
前記着色組成物が、前記赤外線反射顔料10質量部と樹脂バインダー100質量部とを含み、前記被塗物に対して50μmの厚みで塗布された場合、
前記被塗物に対して前記着色組成物を塗布して得られる黒色塗布物は、色差計による明度(L*値)が20以下であり、彩度(C*値)が5以下であり、かつ波長1600nmの赤外線反射率/波長600nmの可視光線反射率が2.5以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の赤外線反射方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の赤外線反射方法に用いられる赤外線反射顔料。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の前記黒色塗布物を得る工程により得られた黒色塗布物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−214292(P2010−214292A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64042(P2009−64042)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】