説明

赤外線吸収ガラス組成物

【課題】 主たる着色剤として酸化鉄を用いる、青色系ないし青緑色系の青色調を有するガラス組成物を提供する。
【解決手段】 ソーダ石灰ガラスを基礎ガラス組成とし、着色成分として、
Fe23に換算した全酸化鉄(T−Fe23)を0.45〜0.65%含み、このうち2価の鉄(FeO)として0.23〜0.28%含み、前記全酸化鉄(T−Fe23)に対する2価の鉄(FeO)の比(FeO/T−Fe23)が0.35〜0.55であり、
CoOを0〜0.001%含むガラス組成物であって、
該ガラス組成物を2.1mm厚みに換算したときの、A光源を用いて測定した可視光透過率が80%以上で、全太陽エネルギー透過率が60%以下であり、C光源を用いて測定した透過光の主波長が485〜495nmであることを特徴とする赤外線吸収ガラス組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色系ないし青緑色系の青色調を有し、高い可視光透過率と低い全太陽エネルギー透過率を有する赤外線吸収ガラス組成物に関し、車両用とりわけ乗用車の窓ガラスとして用いるのに好適な、赤外線吸収ガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車における冷房負荷の低減と搭乗者の快適性の観点から、自動車用窓ガラスとして赤外線の吸収機能を賦与した様々なガラスが提案されている。そのうち自動車前部窓ガラスには、視認性確保のため、比較的、可視光透過率の高いガラスが用いられる。
【0003】
従来より、ソーダライムシリカ系ガラスに酸化鉄を加えることにより緑色のガラスが得られ、このとき、2価の鉄(FeO)による吸収によって、赤外線の吸収機能をガラスに賦与できることが知られていた。
【0004】
一方、最近では、緑色に比べ青色の方が、より涼しげな外観を得られることから、青色調のガラスも利用されるようになってきた。このようなガラスのいくつかについて、以下に示す。
【0005】
特許第3296996号公報には、その請求項1に、
「青色に着色されている赤外線及び紫外線吸収性ガラス組成物であって、ベースガラス部分が一般的なソーダライムシリカ系ガラスであって、
太陽放射線吸収性の着色剤部分が、本質的に、全鉄 0.53〜1.1%、CoO 5〜40ppm、Cr23 100ppmまでから成り、ガラスが0.25〜0.35のレドックスと、少なくとも55%の視感透過率と、485〜491nmの主波長及び3〜18%の刺激純度を特徴とする色とを有する、ガラス組成物」が開示されている。
【0006】
特開平10−101367号公報には、その請求項1に、
「基本ガラス組成物及び着色剤部分を有する熱吸収青色ガラス組成物において、
着色剤部分が本質的にFe23として表す鉄合計:0.4〜1.1重量%
Co34:10〜75ppm
から成り、第一鉄状態での鉄の比率が20〜40%の範囲内であり、ガラスの厚さが1〜6mmであり、ガラスの直射日光熱透過率が可視光線透過率よりも少なくとも16%ポイント低く、主波長が480〜490nmの範囲内であり、色純度が少なくとも6%であることを特徴とする熱吸収青色ガラス組成物」が開示されている。
【0007】
特表2001−520167号公報には、その請求項1に、
「青色に着色された、赤外線及び紫外線吸収性ガラス組成物において、
SiO2 約66〜75重量%
Na2O 約10〜20重量%
CaO 約5〜15重量%
MgO 0〜約5重量%
Al23 0〜約5重量%
2O 0〜約5重量%
から成る基礎ガラス部分と、
全鉄 約0.40〜1.0重量%
CoO 約4〜40ppm
Cr23 0〜約100ppm
から本質的に成る太陽放射線吸収性部分及び着色剤部分とを含有し;しかも、該ガラスが、0.35〜約0.60のレドックスと;少なくとも55%の視感透過率と;485〜489nmの主波長と、約3〜18%の刺激純度とによって特徴付けられる色と;を有する上記組成物」が開示されている。
【0008】
特開2003−212593号公報には、その請求項1に、
「基本組成及び着色剤を有する自動車に使用する着色ガラスであって、該着色剤が着色ガラスの質量で以下から成る組成を有するもの:Fe23としての0.3〜0.8wt.%の酸化鉄、ここでFeOとFe23としての全鉄の酸化還元比率が0.34〜0.62の範囲にある;MnO2としての0.05〜0.50wt.%の酸化マンガン;TiO2としての0.0〜0.3wt.%の酸化チタン;CeO2としての0.8wt.%までの酸化セリウム、ここで、4mmの対照厚さにおける着色ガラスは、光源Aを使用した光透過率が65.0%〜81.0%であり、かつ光源Cを使用した主波長が488〜494ナノメートルである」が開示されている。
【0009】
特表2005−528311号公報には、その請求項1に、
「特にウインドウを製造するためのソーダ石灰ケイ酸塩タイプのガラス組成物であって、
下記の成分を以下に記載の重量限度内:
SiO2 64〜75%
Al23 0〜 5%
23 0〜 5%
CaO 5〜15%
MgO 0〜 5%
Na2O 10〜18%
2O 0〜 5%
で、かつ下記の着色剤を以下に記載の重量限度内:
Fe23(鉄の全量) 0.2〜0.45%
Se 2〜 8ppm
CоO 0〜20ppm
NiO 0〜80ppm
で含み、前記着色剤が、次の関係:
0.7 < (200 × NiO) + (5000 × Se) + (6 × Fe3+) / (875 × CoO) + (24 × Fe2+) < 1.6
を満たし、式中、
NiO、Se、Fe3+、CоO及びFe2+の含有量は、ppmで表され、
Fe3+は、Fe23の形で表される第2鉄イオンの含有量であり、
Fe2+は、FeOの形で表される第1鉄イオンの含有量であり、
前記組成物が、3.85mmの厚さで測定した時、0.28〜0.5の間で変動するレドックス値、65%よりも大きな光源Aにおける全光透過率(TLA)及び1.25よりも大きな選択性(SE)を有していることを特徴とするガラス組成物」が開示されている。
【0010】
特表2005−533740号公報には、その請求項1に、
「SiO2 65〜75重量%、
Na2O 10〜20重量%、
CaO 5〜15重量%、
MgO 0〜 5重量%、
Al23 0〜 5重量%、
2O 0〜 5重量%
を含有する基礎部分と、
Fe23(全鉄) 0.7〜0.9重量%、
FeO 0.2〜0.3重量%、及び
CoO 0〜5ppm
を含有する主要着色剤とを含有する青緑色ガラス組成物であって、
ガラスが、490nm〜495nmの範囲の主波長と、3%〜11%の範囲の刺激純度とによって特徴付けられている、上記ガラス組成物」が開示されている。
【特許文献1】特許第3296996号公報
【特許文献2】特開平10−101367号公報
【特許文献3】特表2001−520167号公報
【特許文献4】特開2003−212593号公報
【特許文献5】特表2005−528311号公報
【特許文献6】特表2005−533740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した先行文献では、着色剤として、酸化鉄のほかに、CoOやCo34、Cr23、Se、酸化マンガン、NiOを含むことが示されている。
【0012】
そこで本発明は、青色系ないし青緑色系の青色調を有するガラス組成物において、ソーダ石灰ガラスを基礎ガラス組成とし、主たる着色剤として酸化鉄を用い、その酸化鉄の酸化還元を制御することによって、高い可視光透過率と低い全太陽エネルギー透過率を有するガラス組成物の提供を目的とする。
【0013】
さらに、本発明は、従来より広く窓ガラス用途に用いられている淡い緑色系色調を有するガラス組成物に極めて近いガラス組成物で、高い可視光透過率と低い全太陽エネルギー透過率を有するガラス組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、
質量%で表示して、
SiO2 65〜80%、
Al23 0〜 5%、
MgO 0〜10%、
CaO 5〜15%、
MgO+CaO 5〜15%、
Na2O 10〜18%、
2O 0〜 5%、
Na2O+K2O 10〜20%、および
23 0〜 5%
からなる基礎ガラス組成と、
着色成分として、
Fe23に換算した全酸化鉄(T−Fe23)を0.45〜0.65%含み、このうち2価の鉄(FeO)として0.23〜0.28%含み、前記全酸化鉄(T−Fe23)に対する2価の鉄(FeO)の比(FeO/T−Fe23)が0.35〜0.55であり、
CoOを0〜0.001%含むガラス組成物であって、
該ガラス組成物を2.1mm厚みに換算したときにおける、A光源を用いて測定した可視光透過率が80%以上で、全太陽エネルギー透過率が60%以下であり、C光源を用いて測定した透過光の主波長が485〜495nmであることを特徴とする赤外線吸収ガラス組成物である。
【0015】
次に、本発明による赤外線吸収ガラス組成物において、まず基礎ガラス組成の限定理由について説明する。ただし、以下の組成は、質量%で表示したものである。
【0016】
(SiO2
SiO2はガラスの骨格を形成する主成分である。SiO2の含有率が65%未満ではガラスの耐久性が低下し、80%を超えるとガラスの熔解が困難になる。
【0017】
(Al23
Al23はガラスの耐久性を向上させる成分であるが、その含有率が5%を超えるとガラスの熔解が困難になる。好ましくは0.1〜2%の範囲であり、さらに好ましくは1.0〜1.8%の範囲である。
【0018】
(MgOとCaO)
MgOとCaOはガラスの耐久性を向上させるとともに、成形時の失透温度、粘度を調整するのに用いられる。
MgOの含有率が10%を超えると失透温度が上昇する。MgOは2%を超えて10%以下が好ましく、2.5〜5.5%がさらに好ましい。
CaOの含有率が5%未満または15%を超えると、失透温度が上昇する。
MgOとCaOの合計含有率が5%未満では、ガラスの耐久性が低下し、15%を超えると失透温度が上昇する。
【0019】
(Na2OとK2O)
Na2OとK2Oはガラスの熔解を促進させる。
Na2Oの含有率が10%未満あるいはNa2OとK2Oとの合計含有率が10%未満では熔解促進の効果が乏しく、Na2Oが18%を超えるか、またはNa2OとK2Oとの合計含有率が20%を超えると、ガラスの耐久性が低下する。
2Oの含有率が多いとコストが高くなるため、K2Oは5%以下に留めることが望ましい。
【0020】
(B23
23はガラスの耐久性向上のため、あるいは熔解助剤としても使用される成分であるが、紫外線の吸収を強める働きもある。その含有率が5%を超えると紫外域の透過率の低下が可視域まで及ぶようになり、色調が黄色味を帯び易くなる。さらに、B23の揮発等による成形時の不都合が生じるので、5%を上限とする。
【0021】
(酸化鉄)
酸化鉄は、ガラス中ではFe23とFeOの状態で存在する。Fe23は紫外線吸収能を高める成分であり、FeOは赤外線吸収能を高める成分である。また、FeOはガラスに青色系色調を賦与する主要成分でもある。
【0022】
本発明において、Fe23含有率、FeO含有率およびFeO/T−Fe23比は、高い可視光透過率と低い全太陽エネルギー透過率を有するガラス組成物を得るために、それぞれの値のバランスをとって、ごく狭い特定の範囲内に収める必要がある。
【0023】
(T−Fe23含有率)
T−Fe23含有率が0.65%を超えると、可視光透過率が下がりすぎるか、または、主波長が大きくなって色調が緑色を帯びる。このため、所望の光学特性が得られない。
T−Fe23含有率が0.45%未満では、低い全太陽エネルギー透過率を得るためにFeO含有率を多くする必要があり、FeO/T−Fe23比が高くなりすぎる。この場合、たとえ所望の光学特性が得られたとしても、バッチのレドックスが還元側に傾きすぎるため、熔解性が悪化し、安定してガラス組成物を生産することが難しくなる。
【0024】
また、従来技術である緑色系色調を有するガラス組成物と比較した場合、T−Fe23を0.5〜0.6%含む組成は、従来のガラス組成との乖離が小さく、一つの熔解窯で連続的にガラス組成の切替えを行う場合、生産ロスを小さくできるため、より好ましい。
【0025】
(FeO含有率)
FeO含有率が0.23%未満では、十分な赤外線の吸収性能を得ることができない。
FeO含有率が0.28%を超えると、可視光透過率が下がりすぎるか、または、FeO/T−Fe23比が高くなりすぎるため、好ましくない。
【0026】
(FeO/T−Fe23比)
FeO/T−Fe23比が0.35未満となるのは、Fe23含有率が過剰か、またはFeO含有率が不足している場合であり、いずれも所望の光学特性が得られない。
FeO/T−Fe23比が0.65以上となるのは、Fe23含有率が過少か、またはFeO含有率が過剰な場合であり、この場合も所望の光学特性が得られない。また、バッチのレドックスが還元側に傾きすぎるため、熔解性が悪化し、安定してガラス組成物を生産することが難しくなる。
FeO/T−Fe23比は、0.40〜0.65の範囲がより好ましい。
【0027】
(CoO)
CoOは、本発明のガラス組成物に青色系の色調を賦与するための、補助的な着色成分である。CoOを添加することによって、ガラス組成物の可視光透過率は下がり、主波長は短くなり、L***表色系のb*値は小さく(マイナスの値の絶対値が大きく)なって、青みが増す。本発明の目的である、高い可視光透過率と低い全太陽エネルギー透過率とを有するガラス組成物を得るためには、CoOは少ないほうが好ましい。
【0028】
また、従来技術である緑色系色調を有するガラス組成物と比較した場合、CoOを添加することは、ガラス組成の乖離を大きくし、一つの熔解窯で連続的にガラス組成の切替えを行う場合、生産ロスを大きくするため、好ましくない。したがって、CoOを質量百万分率で表して、0〜3ppm含むことがより好ましく、実質的にCoOを含まないことが、さらに好ましい。
【0029】
(CeO2
CeO2は、紫外域に吸収を持ち、着色成分として機能する。本発明のガラス組成物において、補助的な着色剤としてCeO2を含ませることは可能である。しかし、上述したCoOと同様の理由で、CeO2を添加することは、好ましくない。したがって、実質的にCeO2を含まないことが、好ましい。
【0030】
本発明のガラス組成物は、高い可視光透過率と低い全太陽エネルギー透過率とをバランスよく実現させるために、CoO以外に補助的な着色剤を含むことは好ましくない。例えば、本発明のガラス組成物は、実質的にセレンや酸化マンガンを含まない。
【0031】
さらに、原料中の不純物として、V25、MoO3、CuO、Cr23等が混入する場合も、その含有率は可視光透過率や色調に影響を与えない範囲に抑制されることが好ましい。
【0032】
本発明の赤外線吸収ガラス組成物は、高い可視光透過率と低い全太陽エネルギー透過率とを有することが特徴である。具体的に、このガラス組成物は、2.1mm厚みに換算したときの、A光源を用いて測定した可視光透過率が80%以上、全太陽エネルギー透過率が60%以下であることと定められる。
【0033】
また、本発明の赤外線吸収ガラス組成物は、青色系ないし青緑色系の色調を有するのが特徴である。具体的に、このガラス組成物は、2.1mm厚みに換算したときの、C光源を用いて測定した透過光の主波長が485〜495nm、刺激純度が2〜5%の範囲内として定められる。
【0034】
さらに、本発明の赤外線吸収ガラス組成物は、2.1mm厚みに換算したときの、C光源を用いて測定した透過色調をL***表色系で表して、a*が−6〜−3、b*が−4〜−1の範囲内として定められる。
【発明の効果】
【0035】
とりわけ、本発明の赤外線吸収ガラス組成物は、乗用車に用いられる窓ガラスとして用いることで、高い視認性を維持しながら、自動車の冷房負荷を低減し、かつ涼しげな外観を得ることができるガラス組成物である。
【0036】
従来技術に開示された青色系色調を有するガラス組成物は、いずれも従来技術である緑色系色調を有するガラス組成物と比較して、ガラス組成の乖離が大きく、例えば工業的には、一つの熔解窯で連続的にガラス組成の切替えを行う場合、時間的、エネルギー的に、少なからぬロスを発生させることが予想される。
【0037】
これに対して、本発明のガラス組成物は、従来から広く窓ガラスに用いられている淡い緑色系色調を有するガラス組成物に組成が極めて近いため、一つの熔解窯で連続的にガラス組成の切替えを行う場合、生産ロスを最小限に抑えて、スムーズに切替えを行うことが可能なガラス組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明の基礎ガラス組成を表1に示した。表1の組成は、ごく一般的なソーダ石灰シリカガラス組成を表したものであり、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の主旨は、着色成分組成の種類とその限定範囲にあり、さらに所定の光学特性にある。本発明における基礎ガラス組成は、目的とする光学特性を損なわない限り、通常のガラス生産設備で製造可能な、ソーダ石灰ガラス組成であればよい。
【0039】
(表1)
基礎ガラス組成
---------------------------
成 分 質量部
---------------------------
SiO2 71.8
Al23 1.6
MgO 3.7
CaO 7.8
Na2O 14.2
2O 0.9
---------------------------
【0040】
(実施例1〜10)
各実施例において、原料バッチ中のT−Fe23含有率やCoO含有率が、表2に示したようになるように、表1に示した基礎ガラス組成に、適宜、酸化第二鉄、酸化コバルトを混合した。さらに、酸化鉄の酸化還元状態を調整するために、炭素系還元剤を混合し、バッチとした。
【0041】
【表2】

【0042】
表2には、FeO含有率やFeO/T−Fe23比も併せて示した。なお、表中の着色成分は質量%表示であるが、CoO含有率はppm表示である。
【0043】
このバッチを電気炉中で1500℃に加熱、熔融した。4時間熔融した後、ステンレス板上にガラス素地を流し出し、室温まで徐冷して厚さ約6mmのガラス板を得た。次いで、このガラス板を厚さが2.1mmになるように研磨して、各実施例における光学特性測定用のサンプルとした。
【0044】
得られた各サンプルの光学特性として、A光源を用いて測定した可視光透過率(YA)、全太陽光エネルギー透過率(TG)、ISOに規定した紫外線透過率(TUV)、C光源を用いて測定した透過光における、L*,a*,b*値、主波長(Dw)、刺激純度(Pe)をそれぞれ測定した。その結果は、表2に併せて示した。
【0045】
(比較例1〜7)
比較例1〜7も、上述の実施例と同様に、表1に示した基礎ガラス組成に、表3に示した各比較例のT−Fe23含有率、FeO含有率、FeO/T−Fe23比、CoO含有率、CeO2含有率となるように、適宜、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化セリウムを混合した。さらに、酸化鉄の酸化還元状態を調整するために、炭素系還元剤を混合し、バッチとした。
【0046】
実施例と同様にして、光学特性測定用のサンプルを作製し、さらに各種光学特性を測定した。その結果は、表3に併せて示した。
【0047】
【表3】

【0048】
実施例1〜10のガラス組成物は、いずれもソーダ石灰ガラスを基礎ガラス組成とし、主たる着色剤として酸化鉄を用いている。その酸化鉄の酸化還元を制御することによって、本発明の特徴である、高い可視光透過率と低い全太陽エネルギー透過率とを有するガラス組成物である。
【0049】
実施例1〜10のガラス組成物はまた、いずれも実質的にセレンや酸化マンガン、酸化セリウムを含まないガラス組成物である。さらに、その光学特性が、本発明の特徴である、青色系ないし青緑色系の青色調を有するガラス組成物である。
【0050】
実施例1〜4および6〜10のガラス組成物はいずれも、さらに全酸化鉄の含有率が制限されたガラス組成物である。これらのガラス組成は、比較例7に記載の一般的な緑色ガラス組成と極めて近いガラス組成を有する。このため、一つの熔解窯で連続的に組成の切替えを行う場合、生産ロスを最小限に抑えてスムーズに切替えを行うことが可能なガラス組成である。
【0051】
実施例4〜10のガラス組成物はいずれも、さらにCoOの含有率が制限されたガラス組成物である。これらのガラス組成は、高い可視光透過率と低い全太陽エネルギー透過率とを有するガラス組成物である。例えば、可視光透過率YAと全太陽エネルギー透過率TGとの差を、比較的大きくできるガラス組成物である。
【0052】
実施例7〜10はいずれも、CoOを含まないガラス組成物である。これらの組成は従来技術である緑色系色調を有するガラス組成物(比較例7)と本質的にほぼ同じガラス組成である。したがって、一つの熔解窯で連続的に組成の切替えを行う場合、生産ロスを最小限に抑えて、スムーズに切替えを行うことが可能なガラス組成である。
【0053】
比較例1はCoOが多すぎるために、FeO含有率を低くして可視光透過率を所望の範囲内とした。しかし、全太陽エネルギー透過率が高すぎる結果となった。比較例2,4,5も同様に、FeO含有率が本発明の範囲外であり、したがって所望の光学特性が得られなかった。
【0054】
比較例4,5,6は、T−Fe23含有率が本発明の範囲外である。比較例4,5の主波長は本発明の範囲外であり、色調が緑であった。比較例6の主波長は本発明の範囲内だが、FeO含有率を増やして、FeO/T−Fe23比を高くしたために、可視光透過率が本発明の範囲外であった。
【0055】
比較例3はFeO含有率が、本発明の範囲外であるため、可視光透過率が低すぎる結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で表示して、
SiO2 65〜80%、
Al23 0〜 5%、
MgO 0〜10%、
CaO 5〜15%、
MgO+CaO 5〜15%、
Na2O 10〜18%、
2O 0〜 5%、
Na2O+K2O 10〜20%、および
23 0〜 5%
からなる基礎ガラス組成と、
着色成分として、
Fe23に換算した全酸化鉄(T−Fe23)を0.45〜0.65%含み、このうち2価の鉄(FeO)として0.23〜0.28%含み、前記全酸化鉄(T−Fe23)に対する2価の鉄(FeO)の比(FeO/T−Fe23)が0.35〜0.55であり、
CoOを0〜0.001%含むガラス組成物であって、
該ガラス組成物を2.1mm厚みに換算したときの、A光源を用いて測定した可視光透過率が80%以上で、全太陽エネルギー透過率が60%以下であり、C光源を用いて測定した透過光の主波長が485〜495nmであることを特徴とする赤外線吸収ガラス組成物。
【請求項2】
前記着色成分として、実質的にセレンを含まない請求項1に記載の赤外線吸収ガラス組成物。
【請求項3】
前記着色成分として、実質的に酸化マンガンを含まない請求項1または2に記載の赤外線吸収ガラス組成物。
【請求項4】
前記T−Fe23を0.5〜0.6%含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の赤外線吸収ガラス組成物。
【請求項5】
前記CoOを質量百万分率で表して、0〜3ppm含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の赤外線吸収ガラス組成物。
【請求項6】
前記着色成分として、前記CoOを含まない請求項5に記載の赤外線吸収ガラス組成物。
【請求項7】
前記ガラス組成物を2.1mm厚みに換算したときの、C光源を用いて測定した透過色調をL***表色系で表して、a*が−6〜−3、b*が−4〜−1の範囲内である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の赤外線吸収ガラス組成物。

【公開番号】特開2009−167018(P2009−167018A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121424(P2006−121424)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】