説明

赤外線吸収グリーンガラス組成物

【課題】 着色剤として酸化鉄と好ましくはCeO2を含む赤外線吸収ガラスにおいて、可視光域の透過率を維持しながら、赤外線域の吸収をより増大させた赤外線吸収ガラスを提供する。
【解決手段】 ソーダライムガラスにおいて、アルカリ酸化物あるいはアルカリ土類酸化物をイオン半径の大きいものに置換して、ガラスの塩基度を上げ、FeOの吸収域を長波長側にシフトさせた赤外線吸収グリーンガラス組成物である。アルカリ酸化物であるNa2Oの一部をK2Oに置換し、アルカリ土類酸化物であるMgOの一部あるいは全部をCaOに置換し、さらにその一部をSrO,BaOに置換する。この赤外線吸収グリーンガラス組成物は、550〜1700nmにおいて透過率の極小値をとる波長が1065nm以上であり、かつ1650nmにおける透過率が730nmにおける透過率以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過率を高く維持しながらも、特に赤外線の吸収に優れた赤外線吸収グリーンガラス組成物に関し、当該組成物による赤外線吸収グリーンガラス板、さらにそれを用いた合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用や建築用のガラス板の多くは、フロート法によって製造されている。その基本的組成は、ソーダライムシリカガラスである。さて、この車両や建物における窓開口には、省エネルギーの観点から、赤外線吸収ガラス板が求められている。
【0003】
また、乗用車などの車両用のガラス板において、その部位によっては視界確保の観点から可視光透過率に規制がなされており、所定の可視光透過率を満足しなければならない。例えば、日本においてウインドシールドガラスは、70%以上の可視光透過率としなければならない。
【0004】
ところで、ソーダライムシリカガラスにおいて、赤外線吸収機能を向上させるために、還元鉄(FeO)の吸収を利用することが、数多く提案されている。例えば、特開昭64−18938号公報、特開平3−187946号公報などを参照されたい。ガラス中に含有される酸化鉄のうち、FeOは550〜1600nmに強い吸収域を有し、これがガラスにおける赤外線吸収の基になっている。この吸収のピークは通常1050nm付近にある。
【0005】
なお、特開昭64−18938号公報の表1に記載された組成番号4は、従来法による組成として、以下のガラス組成と透過率が示されている。
すなわち、ガラス組成が、
SiO2:71.56%、Na2O:14.19%、K2O:0.05%、CaO:12.85%、MgO:0.16%、Al23:0.25%、SO3:0.17%、Fe23:0.606%、FeO:0.270%、FeO/全Fe23:0.446、であり、
透過率(5mm厚)が、LTA:68.8%、TSIR:10.8%、TSET:37.7%、TSUV:43.8%、である。
【0006】
ところで、ガラスを通して太陽光が当たったときに、人間が皮膚で感じる暑熱感を低減させるためには、このFeOの長波長側(1100nm以上)の波長における吸収をより増大させるとよい。
【0007】
このために、通常行われるようにガラス中のFeOの含有量を増加させると、同時に可視光域における吸収も増加する。その結果、このガラスの可視光透過率が低下する。このガラスを車両用のガラス板に適用しようとすると、可視光透過率の観点からウインドシールドガラスには適さないことになる。
【0008】
そこで、ガラス中のFeOの含有量を増加させずに、赤外線吸収機能を向上させるためには、FeOの吸収域を長波長側にシフトさせればよいことになる。例えば、特開平4−187539号公報では、カリライムシリカガラス組成を用いることにより、還元鉄(FeO)の吸収域を長波長側にシフトさせる技術が開示されている。
【0009】
また、特開平3−187946号公報には、「約0.51〜0.96重量%のFe23と、約0.15〜0.33重量%のFeOと、約0.2〜1.4重量%のCeO2と主要な成分として含む赤外線及び紫外線吸収ソーダ石灰ガラス」が開示されている。
【0010】
本出願人は、特開昭60−215546号公報にて、「BaOを加えるとFeOの吸収ピークを長波長側にずらせ得ることを」利用して、可視光透過率を高く維持しながら、赤外吸収に優れた赤外吸収ガラスを提案した。
【0011】
特表平8−500811号公報では、以下のことを開示している。すなわち、「所与の条件下において、K2Oの存在は赤外におけるガラスの吸収を増加させることができる」ことに言及し、さらに「アルカリ土類酸化物は、本発明のガラスの特性を得るにおいて決定的な作用を有する。事実として、MgOの割合を2%までに制限し、好ましくは本発明のガラス中で意図的な添加物の形態において省略することは、赤外における吸収能力の増加を可能にする」としている。
【0012】
また本出願人は、WO 99/25660 A1パンフレットにおいて、「5〜15重量%のCaOを含み、着色剤として酸化鉄とCeO2を含む赤外線吸収ガラス」を開示している。このガラスにおいては、「CaOはガラスの耐久性を向上させるとともに、成形時の失透温度、粘度を調整するのに用いられる」とあり、また、「全酸化鉄(T−Fe23)は0.35〜0.55%、FeOは0.08〜0.15%、FeO/T−Fe23の比は0.20以上0.27未満の範囲にあることが必要である」としている。
【0013】
さらに、本出願人は、特開2003−119048号公報では、「5〜15重量%のCaOを含み、着色剤として酸化鉄とCeO2を含む赤外線吸収ガラス」を開示している。さらに、「本発明のガラス組成物が、高い可視光透過率と低い赤外線透過率とを併せ持つ場合、0.4〜1%のT−Fe23および0.01〜0.40%のTiO2を含むことが好ましい。これにより、1〜6mmのいずれかのガラス厚みにおいて、A光源を用いて測定した可視光透過率が70%以上のガラスが得られる」としている。
【0014】
一方、ガラスによる赤外線吸収ではなく、合わせガラスの中間膜に、機能性微粒子を分散させて、断熱性能と透視性を確保した技術が提案されている。すなわち、特開平8−259279号公報には、実施例3において、粒径が粒径0.1μm以下のITO(導電性錫含有インジウム酸化物)超微粒子を分散させた中間膜層を用いた合わせガラスが開示されている。この合わせガラスの可視光透過率Tvは76.3%であり、日射透過率Tsは51.5%である。
【特許文献1】特開昭64−18938号公報
【特許文献2】特開平4−187539号公報
【特許文献3】特開平3−187946号公報
【特許文献4】特開昭60−215546号公報
【特許文献5】特表平8−500811号公報
【特許文献6】WO 99/25660 A1パンフレット
【特許文献7】特開2003−119048号公報
【特許文献8】特開平8−259279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述した特開平4−187539号公報のように、カリライムシリカガラス組成を用いると、原料コストがかさむために実用的でなかった。
【0016】
上述したように、還元鉄(FeO)の吸収を利用し、さらにその吸収域を長波長側にシフトさせる技術では、太陽光がガラスを通して照射したときに、人の皮膚における温度上昇の抑制効果が十分ではなかった。
【0017】
また、特開平8−259279号公報に記載されたITO微粒子を分散させた中間膜層を用いた合わせガラスでは、高価なITO微粒子を必要とするので、コストに問題があった。
【0018】
そこで本発明は、着色剤として酸化鉄を含む赤外線吸収ガラスにおいて、可視光域の透過率を維持しながら、赤外線域の吸収をより増大させた赤外線吸収ガラスを提供する。さらには、これを用いた合わせガラスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
ガラスにおけるFeOの吸収域を長波長側にシフトさせるには、アルカリあるいはアルカリ土類酸化物をイオン半径の大きいものに置換することによってガラスの塩基度を上げればよい。
【0020】
本発明は、ソーダライムガラスにおいて、アルカリ酸化物あるいはアルカリ土類酸化物をイオン半径の大きいものに置換して、ガラスの塩基度を上げ、FeOの吸収域を長波長側にシフトさせた赤外線吸収グリーンガラス組成物である。
すなわち、アルカリ酸化物では、ソーダライムガラスに通常含まれるNa2Oの一部をK2Oに置換する。また、アルカリ土類酸化物では、MgOの一部あるいは全部をCaOに置換し、さらにその一部をSrO,BaOに置換するとよい。
【0021】
具体的には、本出願人が先に提案した特開2003−119048号公報に記載のガラス組成を基本として、さらなる改良を行った。
【0022】
本発明は請求項1に記載の発明として、
基本ガラス組成が、質量%で表して、
65 < SiO2 ≦ 75、
0 ≦ B23 ≦ 5、
0 ≦ Al23 ≦ 5、
0 ≦ MgO < 2、
10 < CaO ≦ 15、
0 ≦ SrO ≦ 10、
0 ≦ BaO ≦ 10、
(ただし、10 < MgO+CaO+SrO+BaO ≦ 20 である)
0 ≦ Li2O ≦ 5、
10 ≦ Na2O ≦ 15、
0 ≦ K2O ≦ 5、
(ただし、10 ≦ Na2O+K2O ≦ 17.5 である)
0 ≦ TiO2 ≦ 0.5、
300ppm以下のMnOを含んでなり、
着色成分として、質量%で表して、
0.4 ≦ T−Fe23 ≦ 1.0、
(ただし、T−Fe23は、Fe23に換算した全酸化鉄である)
0 ≦ CeO2 ≦ 2.0、
を含み、Fe23に換算したFeOの割合が、T−Fe23の20〜45%であり、
550〜1700nmにおいて透過率の極小値をとる波長が1065nm以上であり、かつ1650nmにおける透過率が730nmにおける透過率以下であることを特徴とする赤外線吸収グリーンガラス組成物である。
【0023】
請求項2に記載の発明として、
前記SiO2は、66.5 ≦ SiO2 < 69 である請求項1に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物である。
【0024】
請求項3に記載の発明として、
前記Na2Oは、10 ≦ Na2O < 14.5(ただし、11.5 ≦ Na2O+K2O ≦ 15)である請求項1または2に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物である。
【0025】
請求項4に記載の発明として、
前記MgOは、0 ≦ MgO ≦ 0.75 である請求項1〜3いずれか1項に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物である。
【0026】
請求項5に記載の発明として、
前記T−Fe23が、 0.65 < T−Fe23 ≦ 1.0であり、かつ、前記CeO2が、 0.1 ≦ CeO2 ≦ 1.0 である請求項1〜4いずれか1項に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物である。
【0027】
請求項6に記載の発明として、
請求項1〜5いずれか1項に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物によるガラス板であって、
1.3mm以上2.5mm未満のいずれかの厚みにおいて、A光源での可視光透過率が少なくとも80%であり、全太陽光エネルギー透過率が62%以下であることを特徴とする赤外線吸収グリーンガラス板である。
【0028】
請求項7に記載の発明として、
請求項1〜5いずれか1項に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物によるガラス板であって、
2.5mm以上6mm以下のいずれかの厚みにおいて、A光源を用いて測定した可視光透過率が70%以上、全太陽光エネルギー透過率が55%以下、かつISOに規定される紫外線透過率が15%以下であることを特徴とする赤外線吸収グリーンガラス板である。
【0029】
請求項8に記載の発明として、
請求項6に記載の赤外線吸収グリーンガラス板を少なくとも1枚含む少なくとも2枚のガラス板を、熱可塑性樹脂層を介して接着した合わせガラスであって、
A光源を用いて測定した可視光透過率が70%以上、全太陽光エネルギー透過率が45%以下であることを特徴とする合わせガラスである。
【発明の効果】
【0030】
本発明による赤外線吸収グリーンガラス組成物は、着色剤として酸化鉄を含み、FeOの吸収域を長波長側にシフトさせているので、可視光域の透過率を維持しながら、赤外線域の吸収をより増大させることができる。ガラス板を通して太陽光が照射したとき、このグリーンガラス板を用いると、人が皮膚で感じる熱暑感を低減することができる。
【0031】
さらに、この赤外線吸収グリーンガラス組成物において、CeO2を含ませた場合は、紫外線域の吸収にも優れた赤外線吸収グリーンガラス板を得ることができる。
【0032】
加えて、この赤外線吸収グリーンガラス組成物によるガラス板を用いて、合わせガラスを構成すると、可視光透過率が70%以上、全太陽光エネルギー透過率が45%以下である合わせガラスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明のガラス組成物の限定理由について説明する。ただし、以下の組成は質量%で表示したものである。
【0034】
(SiO2
SiO2はガラスの骨格を形成する主成分である。SiO2が65%以下ではガラスの耐久性が低下し、75%を超えるとガラスの熔解が困難になる。SiO2は、66.5≦SiO2<69であることが好ましい。
【0035】
(B23
23は必須成分ではないが、ガラスの耐久性向上のため、あるいは熔解助剤としても使用される成分である。また、B23は紫外線の吸収を強める働きもある。B23が5%を超えると、紫外域の透過率の低下が可視域まで及ぶようになり、色調が黄色味を帯びやすくなる。さらに、B23の揮発等による成形時の不都合が生じるので、B23は5%を上限とする。好ましくは0〜2%未満の範囲である。
【0036】
(Al23
Al23は、必須成分ではないが、ガラスの耐久性を向上させる成分である。Al23が5%を超えると、ガラスの熔解が困難になりやすい。また、平均線膨張係数を低下させて強化性を損なうため、Al23は2.5%以下であることが好ましい。
【0037】
(MgO)
MgOは、必須成分ではないが、ガラスの耐久性を向上させるとともに、成形時の失透温度、粘度を調整するのに用いられる。しかし、本発明の特徴であるガラスの塩基度を上げるためには、極力含まないことが好ましい。本発明においては、MgOを2%未満とする。さらに、MgOは、0≦MgO≦0.75であることが好ましい。
【0038】
(CaO)
CaOは、ガラスの塩基度を上げるのに必須の成分である。さらに、ガラスの耐久性を向上させるとともに、成形時の失透温度、粘度を調整するのに用いられる。CaOが10%以下では、ガラスの塩基度を上げる効果に乏しく、15%を超えると失透温度が上昇する。
【0039】
(SrO、BaO)
SrOとBaOは、必須成分ではないが、ガラスの耐久性を向上させるとともに、成形時の失透温度や粘度を調整するのに用いられる。SrOとBaOは、高価な原料であるので、それぞれ10%を超えるのは好ましくない。
【0040】
また、アルカリ土類酸化物(MgO+CaO+SrO+BaO)の合計が、10%以下では、CaOの必要量を確保することができない。さらに、成形時の失透温度や粘度を維持するために、アルカリ酸化物を添加しなければならないため、ガラスの耐久性が低下する。アルカリ土類酸化物の合計が20%を超えると、失透温度が上昇し、密度が大きくなるので、ガラスの製造上好ましくない。より好ましくは15%未満である。
【0041】
(Li2O、Na2O、K2O)
アルカリ酸化物であるLi2O、Na2O、K2Oは、ガラスの熔解促進剤として用いられる。
Na2Oが10%未満、あるいはNa2OとK2Oの合計が10.0%未満では熔解促進効果が乏しく、Na2Oが15%を超えるか、またはNa2OとK2Oの合計が17.5%を超えるとガラスの耐久性が低下する。
さらに、Na2Oが、10≦Na2O<14.5であることが好ましい。このとき、Na2OとK2Oの合計は、11.5≦Na2O+K2O≦15である。
【0042】
ガラスの塩基度を上げるには、Na2Oの一部をK2Oで置換するとよい。しかし、K2Oは、Na2Oに比して高価な原料であるため、5%を超えるのは好ましくない。また、同様にLi2Oも、Na2Oに比して高価な原料であるため、5%を超えるのは好ましくない。しかし、本発明の特徴であるガラスの塩基度を上げるためには、極力含まないことが好ましい。
【0043】
(TiO2
TiO2は、ガラスの失透温度を下げるために、少量加えることができる。また、TiO2は、紫外線を吸収する成分でもある。TiO2の量が多くなると、ガラスが黄色味を帯びやすくなるので、その上限量は0.5%とする。
【0044】
(MnO)
MnOは、必須成分ではないが、少量添加することができる。このガラス組成物には、Fe23,FeOおよびCeO2が同時に含まれているので、MnOはその透過色調を調整したり、FeO/T−Fe23の比を調整するのに有効な成分である。MnO量が多くなると、それ自身の着色の影響が現われるので、MnO含有量は300ppmを上限とする。
【0045】
(酸化鉄)
酸化鉄は、ガラス中ではFe23とFeOの形で存在し、Fe23は紫外線を吸収し、FeOは赤外線を吸収する。
本発明のガラス組成物は、Fe23に換算した全酸化鉄(以下、T−Fe23)で表して、0.4〜1.0%含んでいる。さらに、Fe23に換算したFeOの割合が、T−Fe23の20〜45%である。
【0046】
T−Fe23が0.4%未満では、紫外線および赤外線の吸収効果が小さく、1.0%より多いと、ガラス原料を熔融する際に炎の輻射熱が熔融ガラス上面部で著しく吸収される。このため、ガラス熔融時に、熔融窯底部付近まで十分に加熱することが困難になり、また、ガラスの比重が大きくなりすぎるため、好ましくない。また、Fe23に換算したFeOの割合が高すぎると、シリカリッチの筋やシリカスカムを生じやすくなるので、45%以下とすることが好ましい。
【0047】
本発明のガラス組成物は、酸化鉄に加え、その他の着色成分を好ましい範囲で含むことにより、ガラスが使用される部位・目的に応じた様々なソーラーコントロール性能を付与することができる。紫外線透過率は、主に酸化鉄,TiO2,CeO2によって決定され、全太陽光エネルギー透過率や可視光透過率は、主に酸化鉄によって決定される。
【0048】
(CeO2
CeO2は、本発明において、必須ではないが含まれることが好ましい成分である。CeO2は紫外線をよく吸収する成分である。また、着色剤としても働くので、ガラスの色調の調整に用いられる。
CeO2は、0.1%以上含まれることが好ましい。一方、CeO2が2.0%を超えると、可視光線の短波長側の吸収が大きくなり過ぎ、所望の可視光透過率や色調が得られなくなるので、2.0%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0049】
本発明のガラス組成物は、上述した構成により、高い可視光透過率と低い赤外線透過率とを併せ持っている。これにより、1.3mm以上2.5mm未満のいずれかの厚みにおいて、A光源での可視光透過率が少なくとも80%であり、全太陽光エネルギー透過率が62%以下のガラス板が得られる。
【0050】
また、本発明によるガラス組成物によると、550〜1700nmにおいて透過率の極小値をとる波長が1065nm以上であり、かつ1650nmにおける透過率が730nmにおける透過率以下であることを特徴とする赤外線吸収グリーンガラス板が得られる。このガラス板は、車両用合わせガラス素板として好適である。
【0051】
さらに、この赤外線吸収グリーンガラス板を少なくとも1枚含み、少なくとも2枚のガラス板を熱可塑性樹脂層を介して接着して合わせガラスとすると、A光源を用いて測定した可視光透過率が70%以上であり、全太陽光エネルギー透過率が45%以下である合わせガラスが得られる。
【0052】
また、このガラス組成物を2.5mm以上6mm以下のいずれかの厚みのガラス板とすると、A光源を用いて測定したときの可視光透過率が70%以上であり、全太陽光エネルギー透過率が55%以下であり、かつISOに規定される紫外線透過率が15%以下である赤外線吸収グリーンガラス板が得られる。このガラス板は、車両用強化ガラス素板として好適である。
【0053】
以下、本発明について図表を参照しながら詳細に説明する。
表1、表2および表3に、本発明による実施例と比較例の各ガラス組成、および各物性値を示す。表1は単板ガラスの実施例であり、表2は単板ガラスの比較例である。表3は合わせガラスの実施例と比較例である。
【0054】
表において、YAはCIE標準のA光源を用いて測定した可視光透過率、TGは全太陽光エネルギー透過率、TuvはISO9050に規定される紫外線透過率を示す。さらに、得られた分光透過率曲線から、550〜1700nmにおいて透過率の極小値をとる波長を求めた。また、波長1650nmと730nmおける透過率も測定した。なお、表中の成分に関する数値は、すべて質量%である。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
ガラスの製造にあたっては、珪砂、苦灰石、石灰石、ソーダ灰、芒硝、炭酸カリウム、カーボン、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウム、高炉スラグを、表に示す割合になるように調合、混合したバッチを電気炉中で1450℃に加熱、熔融し、その後ステンレス板上にガラス素地を流し出し、室温まで徐冷した。これらは、各物性を測定するために適当な大きさに成形、研磨した。
【0059】
上述のようにして製造したガラス板の厚みを2.1mmとし、このガラス板を2枚準備し、これらを合わせガラスの周知の製法にしたがって、中間膜(PVB)で貼り合わせて、合わせガラスを作製した。
【0060】
(単板ガラスの特性)
表1には単板ガラスの実施例を、表2には単板ガラスの比較例を、それぞれ示した。
実施例1−1〜1−7は、いずれもCaOを12%以上含み、FeO/T−Fe23が27%以上である。また、透過率の極小値をとる波長が、いずれも1065nm以上であり、かつ1650nmにおける透過率が730nmにおける透過率より小さくなっていることが分かった。
【0061】
一方、比較例1−1〜1−5は、約8.8%のCaOを含んでいる。また、透過率の極小値をとる波長が、いずれも1050nmであった。さらに、1650nmにおける透過率が、730nmにおける透過率より、いずれも大きくなっていることが分かった。
【0062】
比較例1−6は、上述した特開2003−119048号公報に記載の赤外線吸収ガラスにおける代表例である。このガラス組成物は、9.2%のCaOを含んでいる。また、透過率の極小値をとる波長が、1060nmとわずかにシフトしていた。また、1650nmにおける透過率が、730nmにおける透過率より小さく、本発明とは異なっていた。
【0063】
比較例1−6では、透過率の極小値をとる波長が、比較例1−1〜1−5と比べて長波長側に、わずかにシフトしていた。しかし、そのシフト量は本発明に比べて小さいため、1650nmにおける透過率が、730nmにおける透過率より大きくなるまでには、なっていなかった。
【0064】
図1に、実施例1−3および比較例1−2の単板ガラス(厚み4mm)における、それぞれの分光透過率曲線を示した。
【0065】
図2に、実施例1−5および比較例1−4の単板ガラス(厚み2.1mm)における、それぞれの分光透過率曲線を示した。
【0066】
(合わせガラスの特性)
本発明のガラス組成物を用いて構成した合わせガラスを、自動車用のウインドシールドに適用したときの、直接日射による遮熱感の低減効果について述べる。
【0067】
まず、入射する太陽光による人の皮膚温度の上昇幅と、人の皮膚で感じる熱暑感との関係を評価した。その手順は以下のとおりである。キセノンランプ(セリック社XC−500E)から発する光束にフィルターを取り付け、太陽光のエネルギー分布と同等の光源を得た。その光源から416mmの地点に、直径50mmの穴を開けたパネルを設けた。その穴の光源の反対側に被験者の手の甲を配置し、被験者の手の甲の温度を3秒ごとにサーモビュア−で測定した。
【0068】
被験者は熱暑感を、(1)少し暖かい、(2)暖かい、(3)少し暑い、(4)暑い、(5)かなり暑い、の5段階で申告した。人の感じる熱暑感は、81名の被験者に対して行った実験の結果を総合した。
【0069】
その結果、皮膚温度の上昇と熱暑感は比例関係にあり、皮膚温度上昇0.5℃で熱暑感が一段階上昇した。また、皮膚温度の上昇幅を、3.2℃以下とした場合、人は「かなり暑い」とは感じないことが確認された。
【0070】
表3に、合わせガラスの実施例および比較例を示した。
実施例2−1〜2−3では、いずれも70%以上の可視光透過率が得られており、自動車用ウインドシールドガラスの可視光透過率の基準を満足していることが分かった。
【0071】
一方、比較例2−1〜2−3では、透過率の極小値をとる波長が、いずれも1050nmであった。さらに、1650nmにおける透過率が、730nmにおける透過率より、いずれも大きくなっていることが分かった。
【0072】
図3に、実施例2−1および比較例2−1の合わせガラス(厚み2.1+2.1mm)における、それぞれの分光透過率曲線を示した。
【0073】
実施例2−1および比較例2−1の合わせガラスを、上述した方法により入射する太陽光による人の皮膚温度の上昇と人の皮膚で感じる熱暑感を評価した。その結果、5分後の皮膚温度の上昇は実施例2−1の合わせガラスの場合には約3.2℃であり、人が「かなり暑い」とは感じない範囲であった。これに対し、比較例2−1の合わせガラスの場合には5分後の皮膚温度の上昇は約3.6℃で、人が「かなり暑い」とは感じない範囲を超えていた。
【0074】
また、実施例2−1の合わせガラスの場合との5分後の皮膚温度上昇の差は約0.4℃で、熱暑感が一段階上昇する差であった。さらに、実施例2−1の合わせガラスを、上述の特開平8−259279号公報に開示されたITO超微粒子を分散させた中間膜層を用いた合わせガラスと比較しても、5分後の皮膚温度の上昇で実施例2−1の合わせガラスの場合の方が約0.2℃低く、ITO超微粒子を分散させた中間膜層を用いた合わせガラス以上の熱暑感低減効果があった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】分光透過率曲線のグラフである(4mm単板ガラス板)。
【図2】分光透過率曲線のグラフである(2.1mm単板ガラス板)。
【図3】分光透過率曲線のグラフである(2.1+2.1mm合わせガラス)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本ガラス組成が、質量%で表して、
65 < SiO2 ≦ 75、
0 ≦ B23 ≦ 5、
0 ≦ Al23 ≦ 5、
0 ≦ MgO < 2、
10 < CaO ≦ 15、
0 ≦ SrO ≦ 10、
0 ≦ BaO ≦ 10、
(ただし、10 < MgO+CaO+SrO+BaO ≦ 20 である)
0 ≦ Li2O ≦ 5、
10 ≦ Na2O ≦ 15、
0 ≦ K2O ≦ 5、
(ただし、10 ≦ Na2O+K2O ≦ 17.5 である)
0 ≦ TiO2 ≦ 0.5、
300ppm以下のMnOを含んでなり、
着色成分として、質量%で表して、
0.4 ≦ T−Fe23 ≦ 1.0、
(ただし、T−Fe23は、Fe23に換算した全酸化鉄である)
0 ≦ CeO2 ≦ 2.0、
を含み、Fe23に換算したFeOの割合が、T−Fe23の20〜45%であり、
550〜1700nmにおいて透過率の極小値をとる波長が1065nm以上であり、かつ1650nmにおける透過率が730nmにおける透過率以下であることを特徴とする赤外線吸収グリーンガラス組成物。
【請求項2】
前記SiO2は、
66.5 ≦ SiO2 < 69
である請求項1に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物。
【請求項3】
前記Na2Oは、
10 ≦ Na2O < 14.5
(ただし、11.5 ≦ Na2O+K2O ≦ 15)
である請求項1または2に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物。
【請求項4】
前記MgOは、
0 ≦ MgO ≦ 0.75
である請求項1〜3いずれか1項に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物。
【請求項5】
前記T−Fe23が、
0.65 < T−Fe23 ≦ 1.0 であり、かつ、
前記CeO2が、 0.1 ≦ CeO2 ≦ 1.0
である請求項1〜4いずれか1項に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物によるガラス板であって、
1.3mm以上2.5mm未満のいずれかの厚みにおいて、A光源での可視光透過率が少なくとも80%であり、全太陽光エネルギー透過率が62%以下であることを特徴とする赤外線吸収グリーンガラス板。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか1項に記載の赤外線吸収グリーンガラス組成物によるガラス板であって、
2.5mm以上6mm以下のいずれかの厚みにおいて、A光源を用いて測定した可視光透過率が70%以上、全太陽光エネルギー透過率が55%以下、かつISOに規定される紫外線透過率が15%以下であることを特徴とする赤外線吸収グリーンガラス板。
【請求項8】
請求項6に記載の赤外線吸収グリーンガラス板を少なくとも1枚含む少なくとも2枚のガラス板を、熱可塑性樹脂層を介して接着した合わせガラスであって、
A光源を用いて測定した可視光透過率が70%以上、全太陽光エネルギー透過率が45%以下であることを特徴とする合わせガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−264994(P2006−264994A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81238(P2005−81238)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】