説明

赤外線式ガス検知器

【課題】 赤外線センサよりのセンサ出力信号に対して所定の信号処理を行うための新規な構成の信号処理回路を有し、信頼性の高いガス濃度測定を行うことのできる赤外線式ガス検知器を提供すること。
【解決手段】 この赤外線式ガス検知器は、赤外線センサと、当該赤外線センサよりの、交流成分に直流成分が重畳されたセンサ出力信号に対して所定の信号処理を行う信号処理回路とを具えてなり、前記信号処理回路は、各々、前記赤外線センサよりのセンサ出力信号の信号レベルを上昇させる信号レベル変換機能を有する前段回路および後段回路により構成されており、当該後段回路は、前段回路よりの出力信号を所定の増幅率で増幅する信号振幅増幅機能をさらに有しており、前段回路が赤外線センサに対して交流結合されていると共に後段回路が前段回路に対して交流結合された構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線式ガス検知器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、例えばメタンなどのHC系可燃性ガスや、毒性ガスなどを検知対象ガスとするガス検知器の一として、例えば、一定の光路長を有する、被検査ガスが導入されるガスセルを備え、このガスセルの一端側に赤外線光源が配置されると共に他端側に例えば焦電型赤外線センサよりなる赤外線検出器が配置されて構成されてなり、被検査ガス中の検知対象ガスによって赤外線が吸収されることによる赤外線光量の減衰の程度に応じて当該検知対象ガスの濃度を測定する、非分散型赤外線吸収法を利用した赤外線式ガス検知器が用いられている。
【0003】
焦電型赤外線センサよりのセンサ出力信号は、直流成分にこの直流成分に比して微弱な交流成分が重畳されたものであり、例えば、赤外線光源を点滅駆動させる構成のものにおいては、交流成分の周波数は例えば0.3〜2Hzであり、振幅は例えば数mV〜数百mV程度である。
非分散型赤外線吸収法を利用したガス濃度測定においては、センサ出力信号の交流成分(交流波形)の振幅が検知対象ガスの存在により小さくなることを利用するものであるが、赤外線センサよりのセンサ出力信号をこの状態のまま出力するのであれば、ガス応答に係る信号成分である交流成分を十分に高い信頼性をもって検出することができないことから、センサ出力信号を適正な大きさの信号レベルに変換すること、および、適正な大きさの信号振幅に増幅することが必要とされる。具体的な一例を示すと、例えば、信号レベルについては、センサ出力信号が、波形の中点出力が0.7V程度、信号振幅が30mVppであるものである場合には、信頼性の高いガス濃度測定を行うためには、波形の中点出力を例えば2.5V程度に変換し、信号振幅を例えば3000mVpp程度にまで増幅することが必要とされる。
【0004】
一般に、交流信号を増幅する手段として、例えばコンデンサを用いた交流結合回路(ACカップリング回路)を利用することが知られており、このような信号処理回路を具えた焦電型赤外線ガス検知器が提案されている(特許文献1参照)。
図4は、従来の焦電型赤外線式ガス検知器における信号処理回路の一例を示すブロック図である。
この焦電型赤外線式ガス検知器においては、焦電型赤外線センサ60よりのセンサ出力信号をその信号レベルを上昇させると共に所定の増幅率で増幅させて出力する増幅手段70を具えている。図4において、符号61は焦電素子(センサ素子)、65は電界効果型トランジスタ(FET)、55は赤外線光源、Rgは内部抵抗、Rsは受信抵抗である。 増幅手段70は、コンデンサC0 と抵抗器R0 とにより構成された交流結合回路71と、この交流結合回路71を介して焦電型赤外線センサ60に接続された、オペアンプ72Aによる増幅回路72と、交流結合回路71を構成する抵抗器R0 に接続された基準電圧電源73Aとを具えており、焦電型赤外線センサ60よりのセンサ出力信号における直流成分が交流結合回路71によって除去されると共に、基準電圧電源73A,73Bによって直流バイアスが印加されることにより所定の信号レベルに上昇され、その後、増幅回路72によって、信号振幅が設定されたゲイン(増幅率)で増幅される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−337067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
而して、上記のコンデンサC0 を含む交流結合回路71を利用した信号処理回路(交流増幅回路)においては、上述したように、センサ出力信号の信号振幅が例えば数mV〜数百mV程度と小さいことから、増幅回路72の増幅率を大きく設定することが必要とされると共に、交流成分の周波数が例えば0.3〜2Hz程度と小さいことから、交流結合回路71における時定数τ0 (=C0 ×R0 )を大きく設定することが必要とされる。
しかしながら、コンデンサを含む交流結合回路を利用した信号処理回路においては、コンデンサの絶縁性が悪い場合、換言すれば、コンデンサの漏れ電流が大きい場合には、センサ出力信号における直流成分まで増幅されることとなるため、波形の信号レベル(中点出力)の変動の程度が大きくなって増幅手段の設定された出力範囲を超えてしまうことがあり、その結果、センサ出力信号に対して適正な増幅処理を行うことが困難となり、ガス濃度測定を高い信頼性をもって行うことができない、という問題がある。
そして、センサ出力信号の増幅処理において、このような波形の信号レベル(中点出力)に変動が生ずるその程度は、増幅回路72の増幅率と、交流結合回路71の時定数の大きさ(コンデンサC0 の静電容量および抵抗器R0 の抵抗値)に比例しており、増幅回路72の増幅率が大きく設定されると共に交流結合回路71の時定数が大きく設定される上記の信号処理回路においては、上記の問題が生じやすくなる。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、赤外線センサよりのセンサ出力信号に対して所定の信号処理を行うための新規な構成の信号処理回路を有し、信頼性の高いガス濃度測定を行うことのできる赤外線式ガス検知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の赤外線式ガス検知器は、赤外線センサと、当該赤外線センサよりの、交流成分に直流成分が重畳されたセンサ出力信号に対して所定の信号処理を行う信号処理回路とを具えてなり、
前記信号処理回路は、各々、前記赤外線センサよりのセンサ出力信号の信号レベルを上昇させる信号レベル変換機能を有する前段回路および後段回路により構成されており、当該後段回路は、前記前段回路よりの出力信号を所定の増幅率で増幅する信号振幅増幅機能をさらに有しており、
前記前段回路が前記赤外線センサに対して交流結合されていると共に前記後段回路が前記前段回路に対して交流結合されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の赤外線式ガス検知器においては、前記前段回路は、コンデンサを含む交流結合回路および当該交流結合回路を介して前記赤外線センサに接続された、増幅率が1倍であるバッファ回路を有し、
前記後段回路は、コンデンサを含む交流結合回路および当該交流結合回路を介して前記前段回路に接続された増幅回路を有する構成とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の赤外線式ガス検知器によれば、赤外線センサに対して交流結合された前段回路と、この前段回路に対して交流結合された後段回路とを有する信号処理回路によって、赤外線センサよりのセンサ出力信号に対する信号処理が行われる構成とされていることにより、赤外線センサよりのセンサ出力信号に対して適正な増幅処理を行うことができ、従って、交流結合回路を構成するコンデンサの絶縁抵抗値が低下した場合であっても、ガス濃度測定を高い信頼性をもって行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の赤外線式ガス検知器の一例における構成の概略を示すブロック図である。
【図2】図1に示す赤外線式ガス検知器における信号処理回路の一例における構成の概略を示すブロック図である。
【図3−A】図1に示す赤外線式ガス検知器における信号処理回路の信号レベル変換機能を説明するための図であって、(α)が赤外線センサよりのセンサ出力信号、(β)がセンサ出力信号の信号レベルが上昇された出力信号を模式的に示す図である。
【図3−B】図1に示す赤外線式ガス検知器における信号処理回路の信号振幅増幅機能を説明するための図であって、センサ出力信号の信号振幅が所定の増幅率で増幅された出力信号を模式的に示す図。
【図4】従来における焦電型赤外線式ガス検知器における信号処理回路の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の赤外線式ガス検知器の一例における構成の概略を示すブロック図、図2は、図1に示す赤外線式ガス検知器における信号処理回路の一例における構成の概略を示すブロック図である。
この赤外線式ガス検知器は、導入される被検査ガスに含まれる検知対象ガスの濃度に応じたガス検知信号を出力するガス検知部10と、赤外線式ガス検知器における各構成部に適宜の動作指令信号を発する機能を有すると共に、ガス検知部10よりのセンサ出力信号Saに対して所定の信号処理を行い、被検査ガス中の検知対象ガスの濃度を算出する機能を有する制御部30とを備えている。
【0013】
ガス検知部10は、被検査ガスが導入される例えば筒状のガスセル11と、このガスセル11の一端側(図1において左端側)に設けられた赤外線光源15と、ガスセル11の他端側(図1において右端側)に赤外線光源15と対向するよう設けられた、例えば焦電型赤外線センサ(以下、単に「赤外線センサ」という。)20とを有する。図1において、符号11Aは被検査ガスが導入されるガス流入口、11Bはガス排出口、18は光学フィルタであって、検知対象ガスのガス分子固有の吸収波長域の赤外線に対してのみ高い透過率を有するものである。
【0014】
赤外線光源15は、制御部30によって、例えば、輝度が一定の周期で方形波状に変化するように変調する状態で、点滅駆動される。
【0015】
赤外線センサ20は、焦電素子(センサ素子)21と、この焦電素子21がゲートに接続された電界効果型トランジスタ(FET)25と、焦電素子21に並列に接続された内部抵抗Rgと、電界効果型トランジスタ25のソースとグラウンドとの間に介設された受信抵抗Rsとを具えており、電界効果型トランジスタ25に起因する直流成分にこの直流成分に比して微弱な焦電素子21からの交流成分が重畳された電圧信号がセンサ出力信号Saとして出力される。
【0016】
制御部30は、赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saに対して後述する増幅処理を行う信号処理回路40と、この信号処理回路40よりの出力信号(以下、「ガス濃度算出用出力信号」という。)Scをデジタル信号(A/D値)に変換するA/D変換回路34と、このA/D変換回路34によって得られたデジタル信号に対して特定の信号処理を施して、例えば表示用の指示出力値を算出するマイコン33とを有する。図1における符号31は、マイコン33からの信号を光源駆動用の動作指令信号に変換するデジタル変換回路である。
【0017】
信号処理回路40は、赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saの信号レベルを上昇させると共に信号振幅を設定された増幅率で増幅してガス濃度算出用出力信号Scを出力する機能を有し、赤外線センサ20に接続される前段回路41とこの前段回路41に接続される後段回路45とを具えている。
【0018】
前段回路41は、所定の静電容量を有するコンデンサC1 およびこのコンデンサC1 の出力側に接続された抵抗器R1 により構成された交流結合回路42と、この交流結合回路42を介して赤外線センサ20に接続された、回路間の緩衝を防止するためのバッファ回路43と、交流結合回路42を構成する抵抗器R1 に接続された、直流バイアスをセンサ出力信号に印加する定電圧電源よりなる基準電圧電源44Aとにより構成されており、主として、赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saの信号レベルを上昇させる機能を有するものである。
バッファ回路43は、オペアンプ43Aによるボルテージフォロワ回路により構成されており、交流結合回路42によって直流成分が除去されると共に基準電圧電源44Aよりの直流バイアスが印加された赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Sa、すなわち、赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saにおける交流成分を1倍の利得で増幅する(電圧増幅率が1倍である)。
【0019】
後段回路45は、所定の静電容量を有するコンデンサC2 およびこのコンデンサC2 の出力側に接続された抵抗器R2 により構成された交流結合回路46と、この交流結合回路46を介して前段回路41に接続されたオペアンプ47Aによる増幅回路47と、交流結合回路46を構成する抵抗器R2 に接続された、定電圧電源よりなる基準電圧電源44Bとにより構成されている。
この後段回路45は、例えば、前段回路41が正常に動作している場合においては、前段回路41より出力される信号レベル変換センサ出力信号Sbの信号振幅を設定された増幅率で増幅してガス濃度算出用出力信号Scを出力する機能を有し、前段回路41が正常に動作していない場合においては、前段回路41よりの出力信号の信号レベルを上昇させると共に信号振幅を設定された増幅率で増幅してガス濃度算出用出力信号Scを出力する機能を有するものである。
増幅回路47は、その出力端子が抵抗器R3 を介して反転入力端子に接続されており、また、非反転入力端子に抵抗器R4 を介して定電圧電源よりなる基準電圧電源44Cが接続されており、これにより、前段回路41よりの出力信号である、例えばレベル変換センサ出力信号Sbの信号振幅を設定された増幅率で増幅する。
【0020】
前段回路41における交流結合回路42の時定数τ1 (=C1 ×R1 )および後段回路45における交流結合回路46の時定数τ2 (=C2 ×R2 )は、いずれも、例えば1〜20secの範囲内で設定されており、前段回路41における交流結合回路42の時定数τ1 および後段回路45における交流結合回路46の時定数τ2 は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0021】
上記構成の赤外線式ガス検知器において、信号処理回路40の具体的な一構成例を示すと、前段回路41における交流結合回路42を構成するコンデンサC1 の静電容量が22μF、抵抗器R1 の抵抗値が200kΩ、後段回路45における交流結合回路46を構成するコンデンサC2 の静電容量が22μF、抵抗器R2 の抵抗値が200kΩ、抵抗器R3 の抵抗値が390kΩ、抵抗器R4 の抵抗値が10kΩであり、前段回路41における交流結合回路42の時定数τ1 が44sec、後段回路45における交流結合回路46の時定数τ2 が44secである。
【0022】
上記の赤外線ガス検知器は、次のように動作する。赤外線光源15が所定の周期、例えば1secに制御された状態で光源駆動回路(図示せず)によって点滅駆動されると、この赤外線光源15より放射される赤外線が周期的(断続的)に焦電素子21に供給されることにより持続的な電流信号が得られる。
この焦電素子21から出力される電流信号は、内部抵抗Rgにより電圧信号に変換されて、電界効果型トランジスタ25のゲートに印加されることにより、電界効果型トランジスタ25のソースからドレインに向けてドレイン電流が流れ、これにより、ソース電圧が受信抵抗Rsに発生し、このソース電圧がセンサ出力信号Saとして出力される。ここに、赤外線センサ20から出力されるセンサ出力信号Saは、上述したように、ガスセル11に導入されている被検査ガス中の検知対象ガスのガス濃度に応じた波高値を有する、直流成分に交流成分が重畳されたものである。
【0023】
この赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saは、信号処理回路40によって、その直流成分が除去された状態で所定の信号レベルに上昇されると共に信号振幅が設定された増幅率(ゲイン)で増幅される。
すなわち、赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saは、図3−Aにおいて曲線(α)で示すように、信号レベル(中点出力)V1 が例えば0.7V程度のものであるが、前段回路41における交流結合回路42によって、その直流成分が除去されると共に、基準電圧電源44Aによって交流成分に直流バイアスが印加され、図3−Aにおいて曲線(β)で示すように、信号レベル(中点出力)V2 が例えば2.5V程度に上昇(信号レベル変換)された状態で、電圧増幅率が1倍であるバッファ回路43を介して信号レベル変換センサ出力信号Sbとして出力される。
次いで、前段回路41よりの信号レベル変換センサ出力信号Sbが、後段回路45における交流結合回路46を介して増幅回路47に入力されることにより、図3−Bにおいて実線の曲線(γ)で示すように、増幅回路47によって、信号振幅A1 が例えば40倍程度の増幅率で増幅されて信号振幅A2 のガス濃度算出用出力信号Scとして出力される。
【0024】
その後、信号処理回路40よりのガス濃度算出用出力信号Scは、A/D変換回路34によってデジタル信号(A/D値)に変換され、これにより得られたデジタル信号に対して所定の信号処理がマイコン33によって施され、例えば表示用の指示出力値が算出される。
【0025】
而して、上記の赤外線式ガス検知器によれば、赤外線センサ20に対してコンデンサC1 を含む交流結合回路42を介して接続された、増幅率が1倍であるバッファ回路43を具えた前段回路41と、この前段回路41に対してコンデンサC2 を含む交流結合回路42を介して接続された、前段回路41よりの信号レベル変換センサ出力信号Sbを所定の増幅率で増幅する増幅回路47を具えた後段回路45とを有する信号処理回路40を具えていることにより、前段回路41を構成する交流結合回路42および後段回路45を構成する交流結合回路46のいずれか一方または両方の交流結合回路におけるコンデンサC1 ,C2 の漏れ電流が増大した場合であっても、センサ出力信号Saにおける直流成分が増幅されるその程度を小さく抑制することができる。
すなわち、例えば、クラックの発生等により、前段回路41におけるコンデンサC1 の漏れ電流が増大した場合には、バッファ回路43の増幅率が1倍であることから、赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saは、直流成分が増幅されることなく、前段回路41より出力され、この出力信号は、センサ出力信号Saの信号レベル(中点出力)が所定の信号レベルまで上昇されていない状態(例えばセンサ出力信号Saの信号レベルと同程度の信号レベルのままである場合もある)であるため、後段回路45を構成する交流結合回路46によって、前段回路41よりの出力信号における直流成分が除去された後、基準電圧電源44Bによって直流バイアスが印加されて信号レベル(中点出力)が所定の信号レベルまで上昇されると共に、信号振幅が増幅回路47によって所定の増幅率で増幅される。
また、例えば、後段回路45を構成するコンデンサC2 の漏れ電流が増大した場合には、前段回路41を構成する交流結合回路42によって、赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saは、その直流成分が除去された状態とされているので、前段回路41よりの信号レベル変換センサ出力信号Sbの信号振幅が増幅回路47によって所定の増幅率で増幅される。
さらにまた、例えば、前段回路41を構成する交流結合回路42におけるコンデンサC1 および後段回路45を構成する交流結合回路46におけるコンデンサC2 の両方の漏れ電流が増大した場合には、増幅回路47による所定の増幅率での信号振幅増幅処理が行われる前に、前段回路41を構成する交流結合回路42および後段回路45を構成する交流結合回路46の各々によって、赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saの直流成分がいわば段階的に除去されることになるので、直流成分が増幅回路47によって増幅されるその程度を小さく抑制することができる。
従って、赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saに対して適正な増幅処理を行うことができるので、赤外線センサ20よりのセンサ出力信号の増幅処理における、波形のレベル(中点出力)の変動量を小さく抑制することができてガス濃度測定を高い信頼性をもって行うことができる。
【0026】
また、上記の赤外線式ガス検知器によれば、(A)赤外線センサ20よりのセンサ出力信号Saに対する信号処理が、それぞれ、センサ出力信号Saの信号レベルを上昇させる機能を有し、後段側の回路がセンサ出力信号Saの信号振幅を所定の増幅率で増幅させる信号振幅増幅機能をさらに有する前段回路41および後段回路45の2つの回路により、行われる構成、(B)前段回路41および後段回路45に対する信号入力がコンデンサC1 ,C2 を含む交流結合回路42,46を介して行われる構成、(C)赤外線センサ20に接続される前段回路41が増幅率が1倍であるバッファ回路を有する構成、とされるといったシンプルな回路構成で、上記効果を確実に得ることができる。
【0027】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0028】
<実験例1>
図2に示す信号処理回路(40)において、前段回路(41)におけるコンデンサ(C1 )に1MΩの抵抗器を並列に接続したところ、後段回路(45)より所望の出力信号が得られること(抵抗器を接続したことによる影響がない)ことが確認された。この結果より、前段回路(41)を構成する交流結合回路(42)におけるコンデンサ(C1 )の漏れ電流が増大した場合であっても、赤外線センサ(20)よりのセンサ出力信号を適正に増幅することができることが確認された。
【0029】
<実験例2>
図2に示す信号処理回路(40)において、後段回路(45)におけるコンデンサ(C2 )に1MΩの抵抗器を並列に接続したところ、後段回路(45)より所望の出力信号が得られること(抵抗器を接続したことによる影響がない)ことが確認された。この結果より、後段回路(45)を構成する交流結合回路(46)におけるコンデンサ(C2 )の漏れ電流が増大した場合であっても、赤外線センサ(20)よりのセンサ出力信号を適正に増幅することができることが確認された。
【0030】
<実験例3>
図2に示す信号処理回路(40)において、前段回路(41)におけるコンデンサ(C1 )に1MΩの抵抗器を並列に接続すると共に、後段回路(45)におけるコンデンサ(C2 )に1MΩの抵抗器を並列に接続したところ、後段回路(45)より所望の出力信号が得られること(抵抗器を接続したことによる影響がない)ことが確認された。この結果より、前段回路(41)を構成する交流結合回路(42)におけるコンデンサ(C1 )の漏れ電流、および、後段回路(45)を構成する交流結合回路(46)におけるコンデンサ(C2 )の漏れ電流が共に増大した場合であっても、赤外線センサ(20)よりのセンサ出力信号を適正に増幅することができることが確認された。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、前段回路を構成する交流結合回路および後段回路を構成する交流結合回路における時定数(コンデンサの静電容量、抵抗器の抵抗値)、並びに、後段回路を構成する増幅回路の増幅率は、目的に応じて適宜に設定することができる。
また、後段回路は、コンデンサを含む交流結合回路および増幅器(オペアンプ)よりなる「交流結合型増幅器」が多段に接続されて構成されていてもよく、このような構成の場合には、センサ出力信号(信号振幅)の増幅率を目的に応じて適宜に調整することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 ガス検知部
11 ガスセル
11A ガス流入口
11B ガス排出口
15 赤外線光源
18 光学フィルタ
20 焦電型赤外線センサ(赤外線センサ)
21 焦電素子(センサ素子)
25 電界効果型トランジスタ(FET)
Rg 内部抵抗
Rs 受信抵抗
30 制御部
31 デジタル変換回路
33 マイコン
34 A/D変換回路
40 信号処理回路
41 前段回路
42 交流結合回路
43 バッファ回路
43A オペアンプ
44A,44B,44C 基準電圧電源
45 後段回路
46 交流結合回路
47 増幅回路
47A オペアンプ
1 ,C2 コンデンサ
1 ,R2 ,R3 ,R4 抵抗器
Sa 赤外線センサよりのセンサ出力信号
Sb 信号レベル変換センサ出力信号(前段回路よりの出力信号)
Sc ガス濃度算出用出力信号(後段回路よりの出力信号)
55 赤外線光源
60 焦電型赤外線センサ
61 焦電素子(センサ素子)
65 電界効果型トランジスタ(FET)
70 増幅手段
71 交流結合回路
72 増幅回路
72A オペアンプ
73A,73B 基準電圧電源
0 コンデンサ
0 ,R5 ,R6 抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線センサと、当該赤外線センサよりの、交流成分に直流成分が重畳されたセンサ出力信号に対して所定の信号処理を行う信号処理回路とを具えてなり、
前記信号処理回路は、各々、前記赤外線センサよりのセンサ出力信号の信号レベルを上昇させる信号レベル変換機能を有する前段回路および後段回路により構成されており、当該後段回路は、前記前段回路よりの出力信号を所定の増幅率で増幅する信号振幅増幅機能をさらに有しており、
前記前段回路が前記赤外線センサに対して交流結合されていると共に前記後段回路が前記前段回路に対して交流結合されていることを特徴とする赤外線式ガス検知器。
【請求項2】
前記前段回路は、コンデンサを含む交流結合回路および当該交流結合回路を介して前記赤外線センサに接続された、増幅率が1倍であるバッファ回路を有し、
前記後段回路は、コンデンサを含む交流結合回路および当該交流結合回路を介して前記前段回路に接続された増幅回路を有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線式ガス検知器。


【図1】
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【図2】
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【図3−A】
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【図3−B】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−103231(P2012−103231A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254561(P2010−254561)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】