説明

赤外線放射融雪方法及びその装置

【課題】赤外線ヒータから放射される赤外線は融雪部位に向けて照射され、融雪部位の雪の融雪が行われることになり、この際、赤外線ヒータの発熱体の表面温度は700℃〜1200℃の温度領域であるから、ステファン・ボルツマンの法則から明らかなように、赤外線ヒータからなるヒータユニットを小型軽量化することができ、小型軽量で融雪効率の高いヒータユニットを製作することができる。
【解決手段】赤外線ヒータ2から放射される赤外線Lを融雪部位Mに照射し、赤外線のもつ熱エネルギにより融雪するに際し、赤外線ヒータの発熱体2aの表面温度は700℃〜1200℃の温度領域である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば降雪地域の横断歩道の信号待ち付近やバス停の周辺、地下道の入り口付近、点字ブロック、トンネルの出入口付近の積雪を赤外線放射により融雪、融氷する際に用いられる赤外線放射融雪方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の赤外線融雪装置として、赤外線ヒータから放射される赤外線を融雪部位に照射し、該赤外線のもつ熱エネルギにより融雪する構造のものが知られている。
【特許文献1】特開昭63−86289号公報
【特許文献2】実開昭63−27538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これら従来構造の場合、上記赤外線ヒータの発熱体の表面温度が400℃〜700℃未満の温度領域、その殆どが550℃の表面温度に設定されている。
【0004】
この赤外線は電磁波の一種であり、熱エネルギをもつ光の波であり、一般的に、0.8〜5μmの波長で、温度では約400℃〜2500℃の範囲の赤外線が工業用として用いられている。
【0005】
ここに、最大エネルギ波長(λmax)と光源絶対温度(T)とは、λ=2897/T(ウインの変位則)の関係にあることが知られ、統一されてはいないが、最大エネルギー波長(μm)が3.5μm〜5.0μm、400℃〜700℃の「長波長赤外線(低温領域)」(遠赤外線ともいう。)、最大エネルギー波長(μm)が2.0μm〜3.5μm、700℃〜1200℃の「中波長赤外線(高温領域)」、最大エネルギー波長(μm)が1.0μm〜2.0μm、1200℃〜2500℃の「短波長赤外線(高々温領域)」(近赤外線ともいう。)の三つに分類されているから、従来構造のものは、「長波長赤外線(低温領域)」に属する赤外線を用いていたということになる。
【0006】
この「長波長赤外線(低温領域)」に属する赤外線に限って用いていた理由であるが、赤外線放射加熱融雪にあっては、目的物質(雪)に赤外線を大気中を介して照射し、目的物質の中でエネルギが共振吸収され、吸収されたエネルギは分子又は原子を振動させ、振動させられた分子間で摩擦熱が発生するという加熱原理となっていることから、大気中の主組成分に対する赤外線の吸収状態を考慮しなければならないからである。これら大気に対する赤外線の吸収状態を考慮すると、赤外線の透過帯域として最良の波長域は3.75μm〜4μmの間と、8.7μmと、11μmの三つの波長域(いわゆる窓と称されている。)とされているが、8.7μm及び11μmの波長域では赤外線ヒータの発熱体が大型となり、使用の融通性が低く、この結果、上記「長波長赤外線(低温領域)」の分類に属する3.75μm〜4μmの間の長波長赤外線(低温領域)が技術常識として用いられていたのである。
【0007】
しかしながら、上記「長波長赤外線(低温領域)」の分類に属する赤外線を用いる場合、赤外線の透過帯域として最良の波長域ではあるが、使用目的上、屋外で使用されることから、寒風が赤外線ヒータの表面に吹き付けられ、赤外線ヒータの表面温度の急速な温度降下が生じ、有効エネルギは発熱体の表面絶対温度の4乗と対象物の絶対温度の4乗の差に比例するというステファン・ボルツマンの法則から明らかなとおり、「長波長赤外線(低温領域)」であることから、赤外線ヒータの表面温度の降下はヒーター効率に大きく影響し、融雪効率を急速に低下させるということを数回に亘る実験結果により確証するに至ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこれらの不都合を解決することを目的とするもので、本発明のうちで、請求項1記載の方法の発明は、赤外線ヒータから放射される赤外線を融雪部位に照射し、該赤外線のもつ熱エネルギにより融雪するに際し、上記赤外線ヒータの発熱体の表面温度は700℃〜1200℃の温度領域であることを特徴とする赤外線放射融雪方法にある。
【0009】
又、請求項2記載の方法の発明は、上記赤外線ヒータの発熱体は透明石英ガラス管内に配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
又、請求項3記載の装置の発明は、赤外線ヒータから放射される赤外線を融雪部位に照射し、該赤外線のもつ熱エネルギにより融雪する赤外線放射融雪装置において、上記赤外線ヒータの発熱体の表面温度は700℃〜1200℃の温度領域であることを特徴とする赤外線放射融雪装置にある。
【0011】
又、請求項4記載の装置の発明は、上記赤外線ヒータをケース体内に配置し、該ケース体の該赤外線ヒータからの赤外線をケース体の開口空間を介して融雪部位に向けて照射可能に設け、該開口空間を複数個の小空間に形成可能な仕切構造部を設けてなることを特徴とするものであり、又、請求項5記載の装置の発明は、上記仕切構造部は上記開口空間を複数個の短冊状やハニカム状、格子状等の小空間に形成可能に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述の如く、請求項1又は3記載の発明にあっては、赤外線ヒータから放射される赤外線は融雪部位に向けて照射され、融雪部位の雪の融雪が行われることになり、この際、上記赤外線ヒータの発熱体の表面温度は700℃〜1200℃の温度領域であるから、ステファン・ボルツマンの法則から明らかなように、赤外線ヒータからなるヒータユニットを小型軽量化することができ、小型軽量で融雪効率の高いヒータユニットを製作することができ、赤外線ヒータを小型化することによりヒーターユニットの設置の融通性が高まって用途の拡大を図ることができ、かつ、照射角度を容易に可変設定することができ、融雪部位を集中的に照射することができ、照射効率を向上することができ、更に、雪風による発熱体の表面温度の降下防止対策を容易に行うことができ、ヒーターユニットの軽量化により一層使用の融通性を高めることができる。
【0013】
又、請求項2記載の発明にあっては、上記赤外線ヒータの発熱体は透明石英ガラス管内に配置されているから、赤外線の透過率が高く、発熱体を外気などの対流熱損失から保護することができ、それだけ、赤外線照射効率を良好に維持することができ、一層融雪効率を高めることができる。
【0014】
又、請求項4記載の発明にあっては、上記赤外線ヒータをケース体内に配置し、ケース体の該赤外線ヒータからの赤外線をケース体の開口空間を介して融雪部位に向けて照射可能に設け、該開口空間を複数個の小空間に形成可能な仕切構造部を設けてなるから、上記開口空間は仕切構造部により複数個の小空間に形成され、赤外線ヒータからの赤外線は複数個の小空間を介して融雪部位に向けて照射されることになると共に、ケース体内に寒風が開口空間を介して吹き込もうとしても、開口空間は複数個の小空間に形成されているので、この寒風の吹き込みが抑制され、寒風がケース体の奥側に配置された赤外線ヒータの表面に吹き付けられたり、赤外線ヒータ近くの暖かい空気を外に逃がすことを防ぐことができ、赤外線ヒータの表面温度の降下を抑制することができ、融雪効率を向上することができる。
【0015】
又、請求項5記載の発明にあっては、上記仕切構造部として、上記開口空間を複数個の短冊状やハニカム状、格子状等の小空間に形成可能に設けられているから、ケース体の剛性及び機械的強度を高めることができ、耐久性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1乃至図7は本発明の実施の形態例を示し、1はケース体であって、ケース体1内に棒状の赤外線ヒータ2・2を二個並列状に配置してヒーターユニットを構成し、赤外線ヒータ2・2に図外の給電部から電力を供給し、赤外線ヒータ2・2からの赤外線Lをケース体1の開口空間Rを介して融雪部位Mに向けて照射可能に設けられている。
【0017】
この場合、赤外線ヒータ2は、コイル状の発熱体2aを保護用の透明石英ガラス管2b内に挿通配置してなり、赤外線ヒータ2は発熱体2aの表面温度が700℃〜1200℃の温度領域内で使用されるに適した構造のものが用いられ、発熱体2aへの給電により、上記最大エネルギー波長(μm)が2.0μm〜3.5μm、700℃〜1200℃の「中波長赤外線(高温領域)」の分類に属する、発熱体2aの表面温度が700℃〜1200℃の温度領域(最大エネルギー波長(μm)が2.0μm〜3.5μm)内に入るようにして使用される。
【0018】
この発熱体2aの表面温度が700℃〜1200℃の温度領域にしているのは、700℃以下になると実用面から希望する大きさよりも大型化した装置となり、実用上、装置の大型化は使用の融通性等の不都合を生じ、1200℃以上になると耐熱構造により構造が複雑化し易く、雪面での反射を考慮すると融雪効率が低下するからである。
【0019】
3は仕切構造部であって、この場合、上記ケース体内に断面コ状の二個の反射板4・4を内装し、各反射板4・4内に複数個の仕切板5・5・5・・・を配置固定し、反射板4及び仕切板5により複数個の短冊状の小空間R1・R1・R1・・・を形成するようにしている。
【0020】
尚、この仕切構造部3として、上記ケース体内に反射機能を兼ねた格子状の仕切部材を配置し、仕切部材により複数個の格子状の小空間R1・R1・R1・・・を形成したり、平面六角形状の複数個の小空間R1・R1・R1・・・からなるハニカム構造のものも適用することができる。
【0021】
この実施の形態例は上記構成であるから、図1の如く、例えば、路肩に支柱Fを立設し、支柱Fにケース体1を吊下状に取り付け、積雪があると自動的に赤外線ヒータ2・2に図外の給電部から電力が供給され、赤外線ヒータ2・2からの赤外線Lはケース体1の開口空間Rを介して融雪部位Mに向けて照射され、融雪部位Mの雪Sの融雪が行われることになる。
【0022】
この際、上記赤外線ヒータ2の発熱体2aの表面温度は700℃〜1200℃の温度領域であるから、ステファン・ボルツマンの法則から明らかなように、赤外線ヒータ2からなるヒータユニットを小型軽量化することができ、小型軽量で融雪効率の高いヒータユニットを製作することができ、赤外線ヒータ2を小型化することによりヒーターユニットの設置の融通性が高まって用途の拡大を図ることができ、かつ、照射角度を容易に可変設定することができ、融雪部位を集中的に照射することができ、照射効率を向上することができ、更に、雪風による発熱体2aの表面温度の降下防止対策を容易に行うことができ、ヒーターユニットの軽量化により一層使用の融通性を高めることができる。
【0023】
又、この場合、上記赤外線ヒータ2の発熱体2aは透明石英ガラス管2b内に配置されているから、赤外線の透過率が高く、発熱体を外気などの対流熱損失から保護することができ、それだけ、赤外線照射効率を良好に維持することができ、一層融雪効率を高めることができる。
【0024】
又、この場合、上記開口空間Rは仕切構造部3により複数個の小空間R1・R1・R1・・・に形成され、赤外線ヒータ2・2からの赤外線Lは複数個の小空間R1・R1・R1・・・を介して融雪部位Mに向けて照射されることになると共に、ケース体1内に寒風が開口空間Rを介して吹き込もうとしても、開口空間Rは複数個の短冊状の小空間R1・R1・R1・・・に形成されているので、この寒風Kの吹き込みが抑制され、寒風Kがケース体の奥側に配置された赤外線ヒータ2の表面に吹き付けられたり、赤外線ヒータ2近くの暖かい空気を外に逃がすことを防ぐことができ、赤外線ヒータ2・2の表面温度の降下を抑制することができ、融雪効率を向上することができる。
【0025】
又、この場合、上記仕切構造部3として、上記開口空間Rを複数個の短冊状やハニカム状、格子状等の小空間に形成可能に設けられているから、ケース体1の剛性及び機械的強度を高めることができ、耐久性を高めることができる。
【0026】
尚、本発明は上記実施の形態例に限られるものではなく、ケース体1の構造、赤外線ヒータ2の構造や材質、数、仕切構造部3の構造等は適宜変更して設計される。
【0027】
以上、所期の目的を充分達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態例の使用状態図である。
【図2】本発明の実施の形態例のヒーターユニットの断面図である。
【図3】本発明の実施の形態例のヒーターユニットの平面図である。
【図4】本発明の実施の形態例の赤外線ヒータの横断面図である。
【図5】本発明の実施の形態例の部分分解斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態例のヒーターユニットの横断面図である。
【図7】本発明の実施の形態例のヒーターユニットの縦断面図である。
【符号の説明】
【0029】
L 赤外線
M 融雪部位
R 開口空間
1 小空間
1 ケース体
2 赤外線ヒータ
2a 発熱体
2b 透明石英ガラス管
3 仕切構造部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線ヒータから放射される赤外線を融雪部位に照射し、該赤外線のもつ熱エネルギにより融雪するに際し、上記赤外線ヒータの発熱体の表面温度は700℃〜1200℃の温度領域であることを特徴とする赤外線放射融雪方法。
【請求項2】
上記赤外線ヒータの発熱体は透明石英ガラス管内に配置されていることを特徴とする請求項1記載の赤外線放射融雪方法。
【請求項3】
赤外線ヒータから放射される赤外線を融雪部位に照射し、該赤外線のもつ熱エネルギにより融雪する赤外線放射融雪装置において、上記赤外線ヒータの発熱体の表面温度は700℃〜1200℃の温度領域であることを特徴とする赤外線放射融雪装置。
【請求項4】
上記赤外線ヒータをケース体内に配置し、該ケース体の該赤外線ヒータからの赤外線をケース体の開口空間を介して融雪部位に向けて照射可能に設け、該開口空間を複数個の小空間に形成可能な仕切構造部を設けてなることを特徴とする請求項3記載の赤外線放射融雪装置。
【請求項5】
上記仕切構造部は上記開口空間を複数個の短冊状やハニカム状、格子状等の小空間に形成可能に設けられていることを特徴とする請求項4記載の赤外線放射融雪装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−138141(P2006−138141A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329680(P2004−329680)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年11月5日 日本雪工学会発行の「第21回 日本雪工学会大会論文報告集」に発表
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(302072930)株式会社トーテック (3)
【Fターム(参考)】