説明

赤外線通信装置

【課題】見える距離(見通し距離)内にいるが、相手が自分を認識していない場合でも、相手に通信を望む者がいることを認識させて、通信を開始することができる赤外線通信装置に提供する。
【解決手段】全方向性赤外線信号受信部11と呼び出し伝達部13とを備える。全方向性赤外線信号受信部11は、使用者を中心にして全方向から送信されてくる赤外線信号を受信する。そして呼び出し伝達部13は、全方向性赤外線信号受信部11が赤外線信号を受信すると、使用者に呼び出しがあることを振動及び音響によって伝達する伝達動作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、見える距離(見通し距離)内にいるが、直接会話ができない距離にいる人との間で相手の姿を見ながら通信をすることを可能にする赤外線通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
J.Watanabe,H.Nii,Y.Hashimoto及びM.Inamiが“Visualresonator:interfaceforinteractivecock−tailpartyphenomenon”の題名で「Ext.Abstracts CHI2006」の1505−1510頁に発表した論文(非特許文献1)のFig.2及びその説明文には、使用者の頭部に装着するヘッドフォン型のアダプタに、赤外線送信部、赤外線信号受信部及びマイクロフォンを装備し、このアダプタを装着した複数人が互いに相手を確認している状態で、赤外線を利用して通信するシステムが開示されている。
【非特許文献1】J.Watanabe,H.Nii,Y.Hashimoto及びM.Inamiが“Visualresonator:interfaceforinteractivecock−tailpartyphenomenon”の題名で「Ext.Abstracts CHI2006」の1505−1510頁に発表した論文;Fig.2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来提案されているシステムでは、赤外線通信を行う者同士が相手を確認(認識)している状態であれば、赤外線の送受信を行うことができるため、通信を行うことが可能である。しかしながら相手が自分を認識していない状態では、相手の赤外線信号受信部に赤外線を当てることができず、通信を開始することができない問題がある。
【0004】
本発明の目的は、見える距離(見通し距離)内にいるが、相手が自分を認識していない場合でも、相手に通信を望む者がいることを認識させて、通信を開始することができる赤外線通信装置に提供することにある。
【0005】
上記目的に加えて、本発明の他の目的は、必要以上に呼び出し伝達動作が実行されることのない赤外線通信装置を提供することにある。
【0006】
また本発明の更に他の目的は、送受信範囲を広げることができる赤外線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が改良の対称とする赤外線通信装置は、選択性赤外線信号受信部と、選択性赤外線信号送信部と、音響発生部と、音声変換部とを備えて、使用者によって携帯可能に構成されている。選択性赤外線信号受信部は、所定の角度範囲内からの赤外線信号を受信する。また選択性赤外線信号送信部は、所定の角度範囲に向かって赤外線信号を送信する。音響発生部は、選択性赤外線信号受信部が受信した赤外線信号に基づいて音響を発生する。音声変換部は、使用者の音声を電気信号に変換して選択性赤外線送信部に出力する。選択性赤外線送信部は、受け取った電気信号を赤外線信号に変換して送信する。
【0008】
本発明では、全方向性赤外線信号受信部と呼び出し伝達部とを更に備える。全方向性赤外線信号受信部は、使用者を中心にして全方向から送信されてくる赤外線信号を受信する。そして呼び出し伝達部は、全方向性赤外線信号受信部が赤外線信号を受信すると、使用者に呼び出しがあることを振動、音響及び発光の少なくとも一つによって伝達する伝達動作を行う。本発明では、全方向性赤外線信号受信部を設けたので、通信相手の選択性赤外線信号受信部に対して赤外線信号を当てることができない場合でも、通信相手の全方向性赤外線信号受信部に赤外線信号を当てることは十分に可能である。そして通信相手の全方向性赤外線信号受信部が赤外線信号を受信したときには、呼び出し伝達部が、相手(使用者)に呼び出しがあることを振動、音響及び発光の少なくとも一つによって伝達する伝達動作を行う。したがって通信相手は、誰かが自分と通信を望んでいることを認識し、周囲を見渡しながら通信相手を探すことになる。通信相手が周囲を見渡しているときに、通信相手の選択性赤外線信号受信部に対して赤外線信号を当てることができれば、その時点から通信を開始することができる。よって本発明によれば、電話や、無線通信と同様に、通信相手を呼び出して赤外線通信を開始することができるようになる。赤外線通信装置の携帯を可能にするために、例えば、選択性赤外線信号受信部と、選択性赤外線信号送信部と、音響発生部と、音声変換部と、全方向性赤外線信号受信部と呼び出し伝達部とを、使用者の頭部に装着されるヘッドフォン型アダプタに実装するのが好ましい。なおこれら複数の構成要素を幾つかのグループに分けて分散した状態で、使用者が携帯できるようにしてもよいのは勿論である。ヘッドフォン型アダプタを用いる場合において、呼び出し伝達部が振動を用いて呼び出しがあることを使用者に伝達する場合には、振動発生素子をヘッドフォンの一部に使用者の頭部と接触するように配置すればよい。呼び出し伝達部が音響により呼び出しがあることを使用者に伝達する場合には、ヘッドフォンのスピーカを利用すればよい。さらに呼び出し伝達部が発光により呼び出しがあることを使用者に伝達する場合には、例えばヘッドフォンに装着した音響変換部として用いるマイクロフォン部分に発光ダイオードを配置して、この発光ダイオードを点滅させるようにすればよい。
【0009】
なお呼び出し伝達部は、選択性赤外線信号受信部と全方向性赤外線信号受信部とが同時に赤外線信号を受信しているときには、伝達動作を停止するように構成するのが好ましい。このようにすれば、選択性赤外線信号受信部による受信が全方向性赤外線信号受信部による受信に優先することになるため、通信相手を認識している状態または容易に認識することが可能な状態において、伝達動作が頻繁に行われるのを防ぐことができる。
【0010】
また呼び出し伝達部は、全方向性赤外線信号受信部の出力に基づいて赤外線信号が送信されてきた方向を検出する呼び出し方向検出部を含んでいるのが好ましい。そしてこのような呼び出し方向検出部を呼び出し伝達部が含んでいる場合には、呼び出し方向検出部が検出した呼び出し方向を使用者に伝えるように、呼び出し伝達部が伝達動作を行えばよい。このようにすると呼び出し方向を認識できるため、短い時間で、通信を望む相手を探すことができる。呼び出し方向検出部による呼び出し方向の検出は、受信した赤外線信号のベクトルから特定することが可能である。
【0011】
例えば、全方向性赤外線信号受信部における赤外線センサとしては、種々のものを用いることができる。しかしながら赤外線センサの感度は、全方向性にわたって等しいものは実際上存在しない。そこで全方向性における感度をできるだけ均一化するためには、複数種類の赤外線センサを配置するのが好ましい。携帯という観点から重量が軽くしかも感度が高いものとなると、高感度のフォトダイオードが現時点では適していると言える。そこで例えば、X方向(仮想で定める一方向)の反応感度よりも該X方向と直交するY方向の反応感度が悪い第1及び第2のフォトダイオードを用いて全方向性赤外線信号受信部を構成する場合には、第1のフォトダイオードと第2のフォトダイオードとを、それぞれX方向が一致しないように、ヘッドフォン型アダプタに配置する。このようにすると第1のフォトダイオードと第2のフォトダイオードの感度が低い方向を互いに補って、総合的に全方向性の感度を均等化することが可能である。なお2種類のフォトダイオードを用いて全方向性赤外線信号受信部を構成する場合には、前述の呼び出し方向検出手段は、第1及び第2のフォトダイオードの出力の大きさの差に基づいて呼び出し方向を検出するように構成するのが好ましい。すなわち一方のフォトダイオードの出力が他方のフォトダイオードの出力よりも大きい場合には、一方のフォトダイオードが配置されている側が呼び出し方向であると推測することができる。また2つのフォトダイオードの出力が殆ど同じである場合には、2つのフォトダイオードの中央部を通って水平方向に延びる仮想線の延長方向を呼び出し方向と推測することができる。
【0012】
なお各赤外線通信装置で使用する赤外線信号の波長は、同じであっても異なっていてもよい。赤外線信号の波長が同じであっても、自分で送信した赤外線信号を自分で受信できないようにする遮蔽構造を用いれば、特に、問題はない。各赤外線通信装置で使用する赤外線信号の波長を異ならせれば、通信相手が誰であるのかを識別することも可能になる。
【0013】
また通信用に用いる赤外線信号と呼び出し用いる赤外線信号も周波数は同じであっても、また異なっていてもよい。通信用に用いる赤外線信号と呼び出しに用いる赤外線信号の周波数を同じにすれば、選択性赤外線信号送信部から呼び出し用の赤外線信号を送信すれば良いので、部品点数が少なくても済む。
【0014】
通信用に用いる赤外線信号と呼び出しに用いる赤外線信号の周波数とを別にする場合には、呼び出しが必要なときにだけ、呼び出し用の赤外線信号を送信するので、受信側で必要以上に呼び出し伝達動作が実行されるのを防止することができる。このように通信用に用いる赤外線信号と呼び出しに用いる赤外線信号の周波数とを別にする場合には、全方向性赤外線信号受信部を、通信用の赤外線信号とは周波数が異なる呼び出し用赤外線信号を受信するように構成する。そして特定の操作がされた場合にのみ動作して呼び出し用赤外線信号を送信する呼び出し用赤外線信号送信部を設ければよい。このようにすれば、全方向性赤外線信号受信部が、呼び出しが不要なときに、通信用の赤外線信号を受信して、呼び出されたと勘違いする回数を減らすことできる。なおこの場合には、呼び出し用赤外線信号送信部も使用者の頭部に装着されるヘッドフォン型アダプタに実装するのが好ましい。
【0015】
選択性赤外線信号受信部の構成は任意である。例えば、赤外線信号を受信すると出力を出す複数のフォトダイオードから選択性赤外線信号受信部を構成することができる。この場合には、使用者がヘッドフォン型アダプタを装着した状態で定まる上下方向または横方向に並ぶように複数のフォトダイオードを配置するのが好ましい。複数のフォトダイオードの受信範囲を重ねることにより、選択性(指向性)を維持して受信感度を高めることができる。
【0016】
また選択性赤外線送信部は、赤外線信号を発生する複数の赤外線発光ダイオードを備えているのが好ましい。そしてこの場合には、使用者がヘッドフォン型アダプタを装着した状態で定まる上下方向に間隔をあけて、複数の赤外線発光ダイオードを配置するのが好ましい。このようにすると上下方向の送信範囲を広げて、通信範囲を広げることが可能になる。
【0017】
なお各赤外線通信装置ごとに、赤外線信号の周波数を変える場合には、選択性赤外線信号受信部は、最も信号強度の強い赤外線信号を受信する自動チューニング部と、受信した赤外線信号の周波数から送信者を識別して識別結果を音響発生部から出力する送信者識別部とを更に備えているのが好ましい。このような構成を採用すると、誰が通信をしてきたかを確認できるので、目視により通信相手を探す時間を短縮することができたる。また通信開始の可否の決定判断をすることができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、見える距離(見通し距離)内にいるが、相手が自分を認識していない場合でも、相手に通信を望む者がいることを認識させて、通信を開始することができる赤外線通信を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面を参照して本発明の赤外線通信装置の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態の赤外線通信装置1は、後述するヘッドフォン型アダプタに各構成要素が実装された形態を有している。まず本実施の形態の赤外線通信装置を利用する前提について説明する。本実施の形態の赤外線通信装置1は、図1に示すように、特に人間A及びB同士の距離による知覚の変化に着目した、新たなコミュニケーションインタフェースとして利用される。人間のコミュニケーションの質は対人距離によって著しく変化するが、特に、知覚レベルの変化は大きなものである。コミュニケーションに大きな役割を果たす視聴覚に着目して対人距離を分類すると、下記に示した表のように大きく3つに分けられる。
【表1】

【0020】
第一に、1〜2m以内の距離(“接触距離”と言う)では、手の届く範囲で、お互いの顔をつきあわせてコミュニケーションが行われ、相手の姿・声ともに生々しく知覚可能であり、非常に高い臨場感がある。第二に、5mから十数m程度の距離(“見通し距離”)では、相手の姿は見えるが、声は、はっきりと聞こえない。大声をあげる、ジェスチャを交える等によって意思を伝えることはできるが、コミュニケーションの精度、臨場感は大きく落ちてしまう。第三に、数十m以上の距離(“遠隔距離”)では、お互いの姿・声ともに知覚することができず、何らかの道具を介することなくコミュニケーションを成立させることはできない。この距離の分類の中で、遠隔距離でのコミュニケーションについては、携帯電話、テレビ電話、無線機をはじめ、これまでも各種の通信装置が提案されている。しかし図1に示すように、ある人Aが、交差点の向こうにいる友人Bに声を掛けたり、レストランでウェイターを呼ぶ時のような、見通し距離のコミュニケーションに使用可能な通信装置は数少ない。本実施の形態の赤外線通信装置は、この見通し距離におけるコミュニケーションの質を向上させる。
【0021】
図2は、本発明赤外線通信装置の一実施の形態の構成の一例を示すブロック図である。また図3は、この実施の形態をヘッドフォン型アダプタに実装した場合の構成の一例を示す斜視図である。本実施の形態の赤外線通信装置1は、選択性赤外線信号受信部3と、選択性赤外線信号送信部5と、音響発生部7と、音声変換部9と、全方向性赤外線信号受信部11と呼び出し伝達部13とを備えている。選択性赤外線信号受信部3は、所定の角度範囲内からの赤外線信号を受信する。選択性赤外線受信部3は、ヘッドフォン型アダプタ2のアーム部2Aに間隔あけて取り付けられた2つの選択性赤外線センサ3A及び3Bによって構成されている。これらの選択性赤外線センサ3A及び3Bで用いる赤外線センサとしては、例えば、感度の高い10mm×10mmの大型フォトダイオード(浜松フォトニクス製S3590−01)を使用することができる。本実施の形態では、図3に示すように方向選択性を付加するために、金属の筒4でフォトダイオードへの導光路の周囲を覆った。筒4の長さを変えることにより、方向選択の範囲を変化させることが可能である。試作機では方向選択の範囲は、30度程度となるように設計した。本実施の形態では、2つの選択性赤外線センサ3A及び3Bを横に並べて配置したが、更に多くの選択性赤外線センサを使用者がヘッドフォン型アダプタ2を装着した状態で定まる上下方向または横方向に並べてもよい。複数のフォトダイオードの受信範囲を重ねることにより、選択性(指向性)を維持して受信感度を高めることができる。
【0022】
また選択性赤外線信号送信部5は、所定の角度範囲に向かって赤外線信号を送信する。図3に示すように、本実施の形態では、選択性赤外線送信部5は、赤外線信号を発生する3つの赤外線発光ダイオード5A乃至5Cを備えている。これら3つの赤外線発光ダイオード5A乃至5Cは、使用者がヘッドフォン型アダプタ2を装着した状態で定まる上下方向に間隔をあけて配置されている。このようにすると上下方向の送信範囲を広げて、通信範囲を広げることが可能になる。
【0023】
音響発生部7は、ヘッドフォン型アダプタ2の左右のスピーカ部7A及び7Bによって構成されている。音響発生部7は、選択性赤外線信号受信部3が受信した赤外線信号に基づいて音響を発生する。この場合、通常の音響は、通信相手の音声である。
【0024】
また音声変換部9は、使用者の音声を電気信号に変換して選択性赤外線送信部5に出力する。音声変換部9は、マイクロフォンである。なお音声変換部9からの電気信号を赤外線信号に変換するための処理回路は、図3の例では、各発光ダイオード5A乃至5Cの後方のボックス部内に配置されている。
【0025】
全方向性赤外線信号受信部11は、使用者を中心にして全方向から送信されてくる赤外線信号を受信する。本実施の形態では、全方向性赤外線信号受信部11は第1及び第2の赤外線センサ11A及び11Bによって構成されている。第1及び第2の赤外線センサ11A及び11Bについても、前述のフォトダイオードと同様に、感度の高い10mm×10mmの大型フォトダイオード(浜松フォトニクス製S3590−01)を使用することができる。なおこの場合には、選択性赤外線信号受信部3を構成する赤外線センサ3A及び3Bのように、筒体4を設けていないので、全方向性からの赤外線信号を受信できる。
【0026】
浜松フォトニクス製S3590−01のフォトダイオードを全方向性赤外線信号受信部11の赤外線センサ(図4では全方向性センサと略称)として用いる場合と、選択性赤外線信号受信部3の赤外線センサ(図4では選択性センサと略称)として用いる場合の、両者の反応範囲を測定したデータを図4に示す。この測定データは、中心にセンサを設置し、発信機を徐々に近づけながら受信部が動作し始める距離及び角度を計測した。この図より、実際に全方向性に反応する全方向性センサは指向性が無く、一方、選択性センサは前方の方向にみに指向性を持っていることが分かる。図4から判るように、全方向性の赤外線センサであっても、全方向性にわたって感度が等しいわけではない。そこで本実施の形態では、全方向における感度を均一化するために、第1及び第2のフォトダイオード11A及び11Bを次のように組み合わせている。すなわちX方向(図4に示す仮想で定めた一方向)の反応感度よりも該X方向と直交するY方向の反応感度が悪い第1及び第2のフォトダイオード11A及び11Bを用いて全方向性赤外線信号受信部11を構成する場合に、第1のフォトダイオード11Aと第2のフォトダイオード11Bとを、それぞれX方向が一致しないように(具体的には、それぞれのフォトダイオードのX方向が直交するように)、ヘッドフォン型アダプタ2に配置している。このようにすることにより第1のフォトダイオード11Aと第2のフォトダイオード11Bの感度が低い方向を互いに補って、総合的に全方向性の感度を均等化している。本実施の形態のように、全方向性赤外線信号受信部11を設ければ、通信相手の選択性赤外線信号受信部3に対して赤外線信号を当てることができない場合でも、通信相手の全方向性赤外線信号受信部11に赤外線信号を当てることは十分に可能になる。
【0027】
本実施の形態では、さらに呼び出し伝達部13を設けている。呼び出し伝達部13は、全方向性赤外線信号受信部11が赤外線信号を受信すると、アダプタ2を装着した使用者に呼び出しがあることを、振動発生素子17による振動と及び音響発生部7からの音響によって伝達する伝達動作を行う。図3に示すように、本実施の形態では、振動発生素子17をスピーカ部7Aに設けている。本実施の形態では、さらに呼び出し方向検出部15を設けているので、振動発生素子17で振動を発生して使用者に呼び出しがあったことを伝達した後に、音響発生部7から呼び出しがあった方向を音声で知らせる。本実施の形態では、第1及び第2のフォトダイオード11A及び11Bを用いて全方向性赤外線信号受信部11を構成しているので、呼び出し方向検出手段15は、第1及び第2のフォトダイオード11A及び11Bの出力の大きさの差に基づいて呼び出し方向を検出するように構成されている。すなわち一方のフォトダイオード11Aまたは11Bの出力が他方のフォトダイオードの出力よりも大きい場合には、一方のフォトダイオードが配置されている側が呼び出し方向であると推測することができる。また2つのフォトダイオード11A及び11Bの出力が殆ど同じである場合には、2つのフォトダイオードの中央部を通って水平方向に延びる仮想線の延長方向(アダプタを付けた使用者の前後方向)を呼び出し方向と推測することができる。なお呼び出し方向の検出には、その他の手段または技術を用いて、呼び出し方向を検出してもよい。
【0028】
本実施の形態によれば、全方向性赤外線信号受信部11が赤外線信号を受信したときには、呼び出し伝達部13が、使用者に呼び出しがあることを振動によって伝達し、音響によって呼び出し方向を伝達する伝達動作を行う。したがって使用者は、誰かが自分と通信を望んでいることを認識し、周囲を見渡しながら通信相手を探すことになる。通信相手(使用者)が周囲を見渡しているときに、通信相手の選択性赤外線信号受信部3に対して赤外線信号を当てることができれば、その時点から通信を開始することができる。よって本実施の形態によれば、電話や、無線通信と同様に、通信相手を呼び出して赤外線通信を開始することができる。
【0029】
なお本実施の形態では、呼び出し伝達部13は、選択性赤外線信号受信部3と全方向性赤外線信号受信部11とが同時に赤外線信号を受信しているときには、伝達動作を停止するように構成してある。このようにすれば、選択性赤外線信号受信部3による受信が全方向性赤外線信号受信部11による受信に優先することになる。そのため、通信相手を認識している状態または容易に認識することが可能な状態において、選択性赤外線信号受信部3及び全方向性赤外線信号受信部11の両方が、赤外線信号を受信した場合であって、選択性赤外線信号受信部3の受信が優先されるため、振動発生素子17が振動することがなく、伝達動作が頻繁に行われるのを防ぐことができる。
【0030】
本実施の形態では、各赤外線通信装置で使用する赤外線信号の波長は、同じである。使用する赤外線信号の波長が同じであっても、自分で送信した赤外線信号を自分で受信できないようにする遮蔽構造(図3の筒体4等)を用いれば、特に、問題はない。なお各赤外線通信装置で使用する赤外線信号の波長を異ならせれば、通信相手が誰であるのかを識別することも可能になる。
【0031】
図3に示した実際の実施の形態では、FM変調型コードレスヘッドフォン(オーディオテクニカATH−CL33)に赤外線センサやマイクアンプを加えた。具体的には、図5に示すように大きく3つの部分から構成される。第一に図5(A)に示す、全方向性に反応するフォトダイオード(11A,11B)を通じて、赤外線信号が到着した瞬間に振動発生素子17を振動を発生させ、着信を知らせる(着信振動は例えば、2秒程度で停止するようにしている)。フォトダイオード(11A,11B)の出力は、信号検出器(signal detector)で検出された後に着信制御器(ringtone control)を介して圧電振動素子または携帯電話の着信表示用に使用されている振動モータ等を利用した振動発生素子17を振動させる。第二に図5(B)に示すように、特定方向からの赤外線信号をFM復調器(FM demodulator)により音声信号に変換し、装着者のヘッドフォンへ送る。第三に図5(C)に示すように、音声を音声変換部9としてのマイクロフォンで電気信号に変換し、この電気信号を発光ダイオードで赤外線信号に変換して、発光ダイオードの出力により特定方向に送信する。マイクロフォンより集音されたオーディオ信号は、FM変調器(FM modulater)によりFM変調をかけられ、赤外線送信部5の赤外線発光用の発光ダイオード5A〜5Cから装着者の前方にのみ送信される。FM変調及び復調を用いると、お互いの距離に関係なく同一音量で通話が可能となる。なお送信部5の発光ダイオード5A〜5Cは縦方向に並べられているので、縦方向の指向性は広くとられている。
【0032】
また通信用に用いる赤外線信号と呼び出し用いる赤外線信号も周波数は同じであっても、また異なっていてもよい。本実施の形態では、通信用に用いる赤外線信号と呼び出しに用いる赤外線信号の周波数を同じにしている。そのため、選択性赤外線信号送信部5から呼び出し用の赤外線信号を送信すれば良いので、部品点数が少なくなっている。
【0033】
本実施の形態の赤外線通信装置1を用いると、装置1の装着者同士は、お互い直接声が届かない距離にいても、自分がコミュニケーションをとりたい相手の方向を向き、話しかけることで、相手に呼びかけることができる。お互いが向かい合っていない場合、呼びかけられた側は、着信振動から呼びかけに気付き、発信者を探す。そして、お互い向かい合うことで会話を開始する。本実施の形態の赤外線通信装置1の装着者は、見通し距離にいても、「向かい合って声を掛ける」という接触距離でのプロトコルで、会話を行うことができる。
【0034】
本実施の形態の赤外線通信装置を用いる以外の方法で、見通し距離のコミュニケーションの質を向上させる方法としては、ジェスチャで視覚情報を増大させる方法や、トランシーバや携帯電話を使用して聴覚情報を送信する方法が考えられる。そこでトランシーバ、携帯電話を用いる場合と、本実施の形態の赤外線通信装置(本システム)を用いる場合とを比較した結果を図6に示す。図6に示すように、通話相手の選択について考えると、トランシーバは全員に同じ情報が送信されるため、相手を選択して会話することはできず、関係のない会話も聞こえてくる。携帯電話は、あらかじめ相手の電話番号を知っていれば、選択的に発信することができる。また、受信側も通話ボタンを押さない限り会話は開始されず、発信者・受信者に明確な選択が存在する。一方、本実施の形態の赤外線通信装置を用いるシステムでは、お互いが相手の方向を向くという直感的な選択方式で、排他的な会話を行うことができる。ただし、通話を続けるには相手の方向を向き続けなければならない、というデメリットもある。次に、通話発信トリガについて考えると、トランシーバにおいては送話ボタンを、携帯電話においては電話番号を押す必要がある。そのため、会話をしようとする度にボタンを押す必要があり、見える位置にいる相手であっても簡単に連絡が取れない場合がある。本実施の形態の赤外線通信装置を用いるシステムでは、声を出して話しかけることが通話発信のトリガとなるので、公知の2つのシステムとは異なり、ハンズフリーでコミュニケーションを行うことが可能である。
【0035】
本実施の形態の赤外線通信装置を用いたシステムの既存システムに対する大きな特徴は、頭部方向によって直感的に通話相手を選択して排他的に会話が可能であること、そしてハンズフリーで簡単に会話を開始できることである。このシステムの具体的な応用として、「お互い視認できる距離で会話する」、「相手を選んで会話する」、「手を使わず会話する」という要素を持った環境が考えられる。具体的には、工事現場での意志伝達や、警護業務における警備員間の通信、コンサート会場での連絡等が考えられる。また、レストランでの注文や、ボートの上で釣りをしながら、スキー場、多人数でのゲーム等の普段の生活、エンタテインメントでの応用も考えられる。
【0036】
図7は、本発明の他の実施の形態の構成を示している。この実施の形態では、通信用に用いる赤外線信号と呼び出しに用いる赤外線信号の周波数とを別にする。そのため呼び出しが必要なときだけ、呼び出し用の赤外線信号を送信するので、受信側で必要以上に呼び出し伝達動作が実行されるのを防止することができる。図7に示した実施の形態では、図2に示した実施の形態と同じ部分には、図2示した符号と同じ符号を付して説明を省略する。本実施の形態では、全方向性赤外線信号受信部11を、通信用の赤外線信号とは周波数が異なる呼び出し用赤外線信号を受信するように構成する。そして操作スイッチ20が操作された場合にのみ動作して呼び出し用赤外線信号を送信する呼び出し用赤外線信号送信部21を設けている。操作スイッチ20は、図3に示したヘッドフォンのスピーカ部の外面に設ければよい。また呼び出し用赤外線信号送信部21は、図3に示した発光ダイオード5A乃至5Cを設けた位置に、周波数の異なる赤外線信号を出力する別の呼び出しに用いる発光ダイオードを設ければよい。音声変換部9′は、呼び出しスイッチ20が操作されているときにだけ、音声信号を呼び出し用赤外線信号送信部21に出力し、それ以外のときには音声信号を選択性赤外線信号送信部に音声信号を出力するように構成されている。このようにすれば、全方向性赤外線信号受信部11が、呼び出しが不要なときに、通信用の赤外線信号を受信して、呼び出されたと勘違いする回数を減らすことできる。
【0037】
またこの別の実施の形態では、赤外線通信装置ごとに、赤外線信号の周波数を変えている。そこで選択性赤外線信号受信部3′は、最も信号強度の強い赤外線信号を受信する自動チューニング部18と、受信した赤外線信号の周波数から送信者を識別して識別結果を音響発生部から出力する送信者識別部19とを更に備えている。このような構成を採用すると、誰が通信をしてきたかを確認できるので、目視により通信相手を探す時間を短縮することができる。また通信開始の可否の決定判断をすることができるようになる。
【0038】
なお上記実施の形態において、複数の構成要素を幾つかのグループに分けて分散した状態で、使用者が携帯できるようにしてもよいのは勿論である。ヘッドフォン型アダプタを用いる場合において、呼び出し伝達部が音響により呼び出しがあることを使用者に伝達する場合には、ヘッドフォンのスピーカを利用すればよい。さらに呼び出し伝達部が発光により呼び出しがあることを使用者に伝達する場合には、例えばヘッドフォンに装着した音響変換部9として用いるマイクロフォン部分に発光ダイオードを配置して、この発光ダイオードを点滅させるようにすればよい。いずれにしても、振動、音響及び発光の少なくとも一つを用いて呼び出しの有無を伝達すればよい。
【0039】
図3に示した実施の形態の赤外線通信装置は、通信距離約15mで使用可能であり、その重さはヘッドフォン部510g、外部バッテリも合計して約1.5kgであった。外部バッテリは、ズボンのベルトに装着しても、またシャツの胸ポケットに入れてもよい。実際に本実施の形態の赤外線通信装置を、20歳代の被験者6人に使用してもらった。2人の被験者が試作インタフェースを装着し、5mあるいは10m離れて背中合わせに立ち、片方の被験者が振り返り、声を掛けるという方法で会話を開始した。その後、短い会話を行ってもらい、その体験に関するコメントを得た。まず、相手の呼び出しについては、「相手の方向を向いて呼び出しを開始すると、相手がすぐに気がつき会話を開始することができた。」というコメントが全ての被験者から得られ、本実施の形態の赤外線通信装置が、通信インターフェースとして十分機能していたと考えられる。また「相手を覗き込み話しかける動作によって、相手がすぐに振り向くと、自分の視線が強化されるような感覚を覚えた。」というコメントが得られた。さらに、通信を受信する側の感覚として、「自分が見られていることを強く意識する」というコメントがあった。例えば、後ろから覗き込み話しかけると、背中の方向からであっても、自分が見られたこと(正確には話しかけられたこと)がすぐにわかるというのは非常に新しい感覚である。このようなコメントから本実施の形態の赤外線通信装置は十分に実用が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の赤外線通信装置の使用状況を説明するための図である。
【図2】本発明の赤外線通信装置の一実施の形態の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】図2の実施の形態をヘッドフォン型アダプタに実装した場合の構成の一例を示す斜視図である。
【図4】赤外線センサの反応範囲を測定した結果を示す図である。
【図5】(A)乃至(C)は各部の具体例を示す図である。
【図6】他の通信システムとの対比を示す図である。
【図7】本発明の赤外線通信装置の一実施の形態の構成の一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0041】
1 赤外線通信装置
2 ヘッドフォン型アダプタ
3,3′ 選択性赤外線信号受信部
5 選択性赤外線信号送信部
7 音響発生部
9,9′ 音声変換部
11 全方向性赤外線信号受信部
13 呼び出し伝達部
17 振動発生素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の角度範囲内からの赤外線信号を受信する選択性赤外線信号受信部と、所定の角度範囲に向かって赤外線信号を送信する選択性赤外線信号送信部と、前記選択性赤外線信号受信部が受信した前記赤外線信号に基づいて音響を発生する音響発生部と、使用者の音声を前記電気信号に変換して前記選択性赤外線送信部に出力する音声変換部とが、前記使用者によって携帯可能に構成されている赤外線通信装置であって、
前記使用者を中心にして全方向から送信されてくる赤外線信号を受信する全方向性赤外線信号受信部と、
前記全方向性赤外線信号受信部が前記赤外線信号を受信すると、前記使用者に呼び出しがあることを振動、音響及び発光の少なくとも一つによって伝達する伝達動作を行う呼び出し伝達部をさらに備えていることを特徴とする赤外線通信装置。
【請求項2】
前記呼び出し伝達部は、前記選択性赤外線信号受信部と前記全方向性赤外線信号受信部とが同時に前記赤外線信号を受信しているときには、前記伝達動作を停止するように構成されている請求項1に記載の赤外線通信装置。
【請求項3】
前記呼び出し伝達部は、前記全方向性赤外線信号受信部の出力に基づいて前記赤外線信号が送信されてきた方向を検出する呼び出し方向検出部を含んでおり、前記呼び出し方向検出部が検出した前記呼び出し方向を前記使用者に伝えるように前記伝達動作を行うように構成されている請求項1に記載の赤外線通知装置。
【請求項4】
前記選択性赤外線信号受信部と、前記選択性赤外線信号送信部と、前記音響発生部と、前記音声変換部と、前記全方向性赤外線信号受信部と前記呼び出し伝達部とが、前記使用者の頭部に装着されるヘッドフォン型アダプタに実装されている請求項1に記載の赤外線通信装置。
【請求項5】
所定の角度範囲内からの赤外線信号を受信する選択性赤外線信号受信部と、所定の角度範囲に向かって赤外線信号を送信する選択性赤外線信号送信部と、前記選択性赤外線信号受信部が受信した前記赤外線信号に基づいて音響を発生する音響発生部と、使用者の音声を前記電気信号に変換して前選択性赤外線送信部に出力する音声変換部とが、前記使用者によって携帯可能に構成されている赤外線通信装置であって、
前記使用者を中心にして全方向から送信されてくる、前記赤外線信号とは周波数が異なる呼び出し用赤外線信号を受信する全方向性赤外線信号受信部と、
前記全方向性赤外線信号受信部が前記呼び出し用赤外線信号を受信すると、前記使用者に呼び出しがあることを振動、音響及び発光の少なくとも一つによって伝達する伝達動作を行う呼び出し伝達部と、
特定の操作がされた場合にのみ動作して前記呼び出し用赤外線信号を送信する呼び出し用赤外線信号送信部とを備えていることを特徴とする赤外線通信装置。
【請求項6】
前記選択性赤外線信号受信部と、前記選択性赤外線信号送信部と、前記音響発生部と、前記音声変換部と、前記全方向性赤外線信号受信部、前記呼び出し伝達部と、前記呼び出し用赤外線信号送信部とが、前記使用者の頭部に装着されるヘッドフォン型アダプタに実装されている請求項5に記載の赤外線通信装置。
【請求項7】
前記選択性赤外線信号受信部は、前記赤外線信号を受信すると出力を出す複数のフォトダイオードからなり、前記複数のフォトダイオードは前記使用者が前記ヘッドフォン型アダプタを装着した状態で定まる上下方向または横方向に並ぶように配置されている請求項4または6に記載の赤外線通信装置。
【請求項8】
前記選択性赤外線送信部は、前記赤外線信号を発生する複数の赤外線発光ダイオードを備えており、前記複数の赤外線発光ダイオードは前記使用者が前記ヘッドフォン型アダプタを装着した状態で定まる上下方向に間隔をあけて配置されている請求項4または6に記載の赤外線通信装置。
【請求項9】
前記全方向性赤外線信号受信部は、X方向の反応感度よりも該X方向と直交するY方向の反応感度が悪い第1及び第2のフォトダイオードを備えており、前記第1のフォトダイオードと前記第2のフォトダイオードとは、それぞれ前記X方向が一致しないように、前記ヘッドフォン型アダプタに配置されている請求項1または5に記載の赤外線通信装置。
【請求項10】
前記呼び出し方向検出手段は、前記第1及び第2のフォトダイオードの出力の大きさの差に基づいて前記呼び出し方向を検出するように構成されている請求項9に記載の赤外線通信装置。
【請求項11】
前記選択性赤外線信号受信部が受信する前記赤外線信号の周波数と前記選択性赤外線信号送信部が送信する前記赤外線信号の周波数とが異なる請求項1または5に記載の赤外線通信装置。
【請求項12】
前記選択性赤外線信号受信部は、最も信号強度の強い赤外線信号を受信する自動チューニング部と、受信した前記赤外線信号の周波数から送信者を識別して識別結果を前記音響発生部から出力する送信者識別部とを更に備えている請求項8に記載の赤外線通信装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−88803(P2009−88803A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253806(P2007−253806)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】